植物の化学工場 : 二次代謝の研究とその利用の可
能性
著者名(日)
清水 文一
雑誌名
工業技術 : 東洋大学工業技術研究所報告
号
32
ページ
16-17
発行年
2010
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002051/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止
http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja
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植物の化学工場∼二次代謝の研究とその利用の可能性
清水文一*
1.はじめに
植物は、糸状菌、細菌、ウイルス、昆虫による侵入、食
害を始めとするさまざまなストレスに常にさらされている。
このようなストレスを受けると植物は種々の抵抗反応を誘
導することが知られている。その一つに抗菌活性や抗酸化
活性を持つ二次代謝産物の蓄積がある。誘導・蓄積パター
ンやその生理活性から、二次代謝産物の多くは植物のスト
レス耐性に深く関わっていると考えられる。また、われわ
れ人間が果物や花を、いい香りに感じる香気物質もこのよ
うな二次代謝産物で、烏龍茶や紅茶の製法ではこれら香気
成分をより高めるために、あえて原料のチャにストレスを
あたえる丁夫がなされている例がある。このように人間と
植物二次代謝産物の関わりは意外に深い。本講演では、稚
拙ながら演者がこれまでに行ってきたクマリン化合物の生
合成研究について概説させていただいた。
2.クマリン化合物の生合成経路の解明
クマリン化合物は2H−1−benzopyran−2−oneを基本構造
にもつ植物二次代謝産物で、植物界に広く存在し、抗酸化
作用と抗菌活性を有する(図D。クマリン化合物の生合成
研究は植物生化学の黎明期・1950年代から行われてきた。
その結果、桂皮酸のオルト位水酸化、側鎖のシスートラン
ス異性化、そしてラクトン化を経てクマリン骨格が形成さ
れていると考えられている(図2)。特にその鍵段階を触媒
する桂皮酸オルト位水酸化酵素については生化学的知見の
蓄積がなされたが、近年まで単離同定されていなかった。
演者らは病原菌など侵入者との相互作用によってソライ
ロアサガオやサツマイモにクマリン骨格をもつscopoletin
(7−hydroxy−6−methoxycoumarin)がグルコース配糖体
1)
scopohnとして誘導、蓄積されることを見いだした。しか
し、scopoletin/scopolinが植物体内でどのような機能を果
たしているのかは不明である。では、scopoletin生合成能
を欠損したソライロアサガオの病害抵抗性は
どのように変化するのだろうか?この疑問がきっかけで
scopoletin/scopolin生合成に興味を持った。
そこでクマリン化合物生合成に関わる酵素の同定を目的
として、シロイヌナズナを用いたクマリン化合物生合成の
◎㌫。H。◎no。
Coumarin Umbelliferone
mu。 。。
PSO「aren
Esculetin
人く人く。
H°l〔)〔江。H3::)〔)〉()“。
O O O
Bergamotin
図1.植物のクマリン化合物
Scopoletin
罐:〕⑳。
Scopojin
COOH COOH
R R R
図2.クマリン骨格の形成
1200
1000
ξ
§800
⊆
三600
8
8 400
の
200
“氾
。
Soopo§n
O
Root Shoot
Bar SE(n=3}
wr
図3.シロイヌナズナにおけるscopolinの蓄積
研究を行った。シロイヌナズナは分子生物学的なデータベー
スや実験手法の多くが既に確立されており、生合成酵素遺伝
子の探索には好都合な植物材料である。シロイヌナズナ根を
分析したところ、scopoletinが配糖体scopolinとして大量
に蓄積していた(図3)。また2,4−dichlorophenoxyacetic
acid処理によって地上部でもscopolinの誘導蓄積が認めら
れたz)。シロイヌナズナにおける部位別scopolin蓄積パター
ンと類似した発現パターンを示す酸化酵素遺伝子をゲノムか
ら選び出し、候補遺伝子とした。これら候補遺伝子の
T−DNA挿入欠損変異株を逆相HPLCにて分析したところ、
候補遺伝子の一一つである2−oxOglutarate依存性ジオキシゲ
ナービ(20GD)遺伝子の欠損株で著しくscopolin内生撮
*東洋大学生命科学部
一16一
東洋大学工業技術研究所報告
清水文一
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MeO
OH
P・COumarate Ferutate
↓ ・
SCoA SCoA SCoA
F61Hl
CCeAOMTI
−一一一→レ、6・一≒芦)
HO MeO Me◎
OH OH
Caffeoyl・CoA Feniloy|・CoA
H
oo
OH
ρ一Coumaroyl−CoA
↓
Shikimate
OH
CYP98A3
−
HO
→
OH
…
,6
Shikimat●
OH
SCoA
OH→
一摩
OH
SCO oletin
一1
..e°
OGIC
Scopolin
図4.スコポレチン生合成経路
が減少した。この20GDタンパク質を大腸菌にて組み換え
酵素として発現させたところ、ferulateは基質としない一方
でferuloyl−CoAに対してオルト(6’)位水酸化活性を示した。
これらの結果からこの20GDをferuloyl−CoA 6’一水酸化酵
素(F6’H1)と同定した㌔これと同様の手法にて、
scopoletin/scopolin生合成に関わるメチル化酵素、配糖化
酵素の同定を行った(図4)。さらにF61H1の触媒反応の後
に生ずるラクトン環形成反応についても検討し、非酵素的に
反応が進行することを見いだした。現在、演者らは最初の疑
問に立ち返るため、サツマイモにおける桂皮酸オルト位水酸
化酵素のクローニングを進めている。また、これらの知見を
利用して、クマリン化合物が植物の病害抵抗反応にどのよう
に寄与しているのか、化学的、生化学的、そして分子生物学
的側面から解明してゆきたいと考えている。
D
2)
3)
参考文献
Shimizu, B,et aL,Z Naturforsch 60c,83−90(2005)
Kai, K,et a1,Phyrochemistry 67,379−386(2006)
Kai, K,et a1,Plant J 55,989−999(2008)
工業技術No.32(2010)
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