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民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配

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(1)民間土地取引および公共用地取得に おける土壌汚染リスクの分配. 松尾. ■弘. 1はじめに一土壌汚染問題への法制度的対応2. 民間土地取引における土壌汚染リスクの分配ルール. 3. 公共用地取得における土壌汚染リスクの分配ルール. 4. 土壌汚染リスクの公平な分配と法解釈-むすびに代えて. 1はじめに一土壌汚染問題への法制度的対応 土壌汚染1)への対策が本格的な法政策課題になって以来2),数多くの法令の. 制定・改正,法解釈論の展開,そして法実務の村応が蓄積されてきた3)。土壌 汚染問題4)の特色の一つは,それに対処するための個人的・社会的コストが膨 大なものに上ることである。実際,所有者から土地を購入してマンション建築. などを始めた者が,土壌汚染が発覚したために,その調査,浄化・その他の村 策のために予期せぬ莫大な費用負担を迫られる例も少なくない5)。土壌汚染の 可能性がある土地がなお相当数あると想定される状況下では,こうした例はさ らに続出することも予想される6)。しかし,土壌汚染問題に対処するために, (a). ≪すべての土地について土壌汚染の有無・内容を完壁に調査し,土壌汚 71.

(2) ■横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 染が存在する場合には完全に浄化をしたうえで,資産として保有し,または商. 品として取引を行うシステムへのラディカルな制度改革≫を目指すことは,現 実的選択とはいえない。むしろ,. (b). ≪土壌汚染リスク7)を軽視することも,. 過剰か)スク回避をすることもなく,適切なリスク管理8)とルールに基づく公. 平か)スク分配9)を行いながら,徐々に,しかし着実に,調査・浄化を進展さ せるインセンティブを当事者に与えるシステムへの漸進的な制度改革≫が望ま しいといえる。. 本稿は,. (b)タイプの漸進的制度改革を具体化するための法解釈論の一環. として,民間土地取引および公共用地の取得の両場面に焦点を当て,両者間の 異同にも注意しながら,包括的な土地取引法理論の構築の観点から,. ■どのよう. な内容の土壌汚染リスクの分配ルールが形成されつつあるか,そこにはどのよ. うな問題点があるかを確認し,今後の法制度改革に向けた指針を探ろうとする ものである10)。その際には,とりわけ,土壌汚染問題を解決するための既存の 中心的制度として,蝦庇担保責任を主軸とする従来のリス・ク分配ルールにどの. ような限界があるかを確認することにより,新たなリスク分配ルールにどのよ うな要素が求められているかを模索することに主眼を置いて検討を進めること にしたい。. なお,本稿では,個々の法令名は文末の【関連法令】リスト記載のゴチック 部分で引用する。. 2. 民間土地取引における土壌汚染リスクの分配ルール. (1)売買契約の場合 (ア)売買契約締結前における土壌汚染リスクの分配ルール. ( i)・土壌汚染の段階的な調査・村策のガイドライン. 「民間土地取引に. 係る土壌汚染地の取扱実態に関する調査」によれば,デイベロパー,不動産鑑 72.

(3) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. 定士,不動産仲介業者,金融機関などが取り扱う土地取引事例の約1割で土壌 汚染の可能性が存在するとのヒアリング調査結果も示されており11),土壌汚染 は一般の土地取引においでもけっして珍しくない,現実的問題となっているこ とが伺われる。民間の土地取引としては,売買・贈与・交換などの所有権移転 型契約によって土地所有権が移転する場合,賃貸借・使用貸借・地上権設定・ 地役権設定などの利用型契約によって土地利用権が設定される場合,抵当権設 定契約・質権設定契約などの担保型契約によって担保権が設定される場合など がある。以下では,典型的な土地取引形態として,まず売買契約を,ついで担 保権設定(後述(2))を取り上げる。 土地の売買契約の締結に先立ち,契約交渉当事者間では,土壌汚染リスクの 衡平な分配を想定した契約交渉が行われる必要がある。目的物の土壌汚染状態 がどd)程度明らかになっているかは事例によって様々であるが,調査コストを 節約し,リスクに見合った情報収集を可能にするために,宅地・公共用地に関 する土壌汚染対策研究会『土地取引における土壌汚染問題-の対応のあり方に 関する報告書』 (平成15年6月30日。以下『報告書』と略称)により,段階的 ①履歴調査,. な調査・対策手法がガイドライン化されている12)、。すなわち, 土壌汚染確認調査,. ②. (丑詳細調査, ④汚染対策の4段階である。. ①履歴調査は,土村法施行規則3条の「汚染のおそれの把握」の手続に相当 し,原則として当事者による各種資料の収集を基本とし,必要に応じて聞き取 り調査,現地踏査等を行うことを中心とする第1段階と,原則として専門家に. 依頼して行う第2環階とに区分されている。この調査により,. 「土壌汚染が存. 在するおそれがあるため,■土壌汚染確認調査を行うべきである」等と評価され た場合は, ②土壌汚染確認調査に進むことになる。これは,土村法3条・ の「土壌汚染状況調査」に概ね該当するもので,専門家に依頼し, よび試料採取を行うことを原則とする。この調査により, る」と評価された場合は,. 4条 現地踏査お. 「土壌汚染が存在す. ③詳細調査に進むことになる。これは,土村法7条. の「汚染の除去等の措置」の初期段階に行われる「詳卿調査」に概ね該当し, 73.

(4) 横浜国際経済法学第14巻第■3号(2006年3月). 汚染土壌が存在する平面範囲と深さ・. (三次元的分布)を把握するため,専門家. に依頼し,平面および垂直方向の試料採取を行うものである。それによって把 撞された汚染内容に従い,. ④汚染対策の措置がとられることになる13)0. こうした段階的な調査・■対策手法のガイドラインは,強制力をもつものでは. ないが,土壌汚染リスク(取引リスク)の度合に応じた調査コストの効率化と コスト・パフォーマンスの最大化を図ろうとするものである14)。さらにコス ト・パフォーマンスを向上させるためには,各段階の調査の結果判明した土壌 汚染の場所・範囲.」内容の特色,そのリスクについての評価事例に関するデー タを収集・整理・蓄積し,類似事例における統計的な利用をできるだけ可能な 形にすることにより,評価コストの節約に通じるシステムの構築が望まれる15)。. (ii)売主・買主間の注意義務の分配とリスク・コミュニケーションの促進 これらの調査・対策を買主側または売主側の一方的な判断・行為で実施す ることは不可能であり,両当事者間の積極郎招協力行動と情報交換が必要にな る。例えば,買主側からの土地の使用目的や事業計画の明示,これに対する売 主側からの既知の情報提供,調査協力などであり,そのプロセスにおいて予め 費用分担の合意をしておくことが望まれる。 従来,民法上の原則としては,売買目的物の暇庇リスL9は,どちらかといえ ば買主により多くの負担を課す形で分配されてきた。それを象徴するのが「買 主をして注意させよ」. (Caveatemptor)の原則である16)。たしかに,買主側は,. 自己の購入日的に照らして目的物の品質・性能を最も正確に判断できるし,そ のためのインセンティブも最も高い。また,この原則と密接に関連し,この原 則を暗黙の前提にしているとも解される,澱庇担保責任に関する法定責任説に 立てば,特定物の売主はその物を買主に引き渡し,買主がこれを給付として受 領すれば債務を履行したことになり,それ以上「蝦庇なき物」の給付義務を負 うことはない。しかし,この原則が成り立つ前提として,買主が目的物の品 質・性能について確認・調査をしようとすれば容易に(コストをかけずに)行 えることが必要である。だとすれば,目的物の‡臣庇が買主はもちろん売主にと 74.

(5) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. ってすら容易に発見できず,その確認・調査のために特別のコストを要する場 合は,その前提自体が充足されていないとみるべきである。したがって,目的 物の哨痕に対する買主の確認・■調査が困難になる分だけ,売主の注意義務と責 任を強化することが,当事者間の衡平なリスク分配を可能にする。 土地売買においても,買主側は,購入後における土壌汚染の発覚のリスク, 土壌汚染対策法上の所有者の責任とリスク負担,売主に対する事後的責任追及 の限界,買主の確認・調査の要求に対して売主側は売買契約成立前の方が売買 契約成立後(さらには売買代金を取得して目的を達成した後)よりも積極的に 協力に応じるであろうことなどから,土壌汚染の可能性について積極的に確 認・調査すること-のインセンティブが働くであろう。しかしなお,土地は一. 般にきわめて個性的であるがゆえに売主・買主間の情報の非対称性が大きいこ とに加え,土壌汚染の有無・内容の確認・調査を買主側のみでコストをかけず. に実施することが困難であることからすれば,売主側にも情報提僕・調査など -のより積極的な協力義務が課されるべきである。実際,土地の売主に対して・ は,信義則(民法1条2項)上の情報開示義務,説明義務などの情報提供義務17) のほか,特別法上の情報提供義務も課されているが18),それはこの協力義務が. 具体化されたものとして捉えることができよう。また,土地に関する情報を開 示すること19)は,買主に利益を与えるだけでなく,売主にとっても,. ①買主と. の良好な信頼関係の構築(それは,リスク顕在化後の問題処理におけるコスト 削減に通じうる),. ②潜在的買主ないし市場からの信頼獲得(それは,リスク. -の過剰反応の回避による土地の適正な財産価値の維持)などのメリットをも たらすであろう。 (イ)売買契約におけるリスク分配 ( i)売買代金額の決定(土地評価). 売買契約締結前の確認・調査の結. 莱,土壌汚染が発覚した場合は,なお購入意欲のある買主側は,売主側に汚染 の除去など,コストに見合■った適切な措置を求め,それとの相関関係において 売買価格を決定しうる。そうでない場合は,土壌汚染リスクを組み込んだ価格 75.

(6) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 決定が行われるべきである。その手掛かり.となるのが,平成14年7月3日に全 部改正された「不動産鑑定評価基準」 鑑定評価基準運用上の留意事項・」. (以下「基準」と略称)および「不動産 (以下「留意事項」と略称). 年1月1日施行)・20)である。この新「基準」では, 因」のうち,. 「地域要因」. (ともに平成15. 「不動産の価格を形成する要. (「宅地地域」のうち「住宅地域」における「騒音,. 大気の汚染,土壌汚染等の公害の発生の琴度」)および「個別的要因」 (住宅 地・商業地・工業地における「土壌汚染の有無及びその状態」)として二 汚染の要素が追加された(基準・総論3章2節Il ⑬・. (10), 3節Il. (3) ⑬)。なぜなら,土壌汚染が存在する場合,. 去等の費用の発生」およ.び(b). (1) ⑮・. 土壌 (2). (a) 「汚染物質に係る除. 「土地利用上の制約」により,価格形成に重大. な影響が与えられる可能性があるからである21)。 そして,土壌汚染の存在が判明した場合は,. 「原則として汚染の分布状況,. 除去等に要する費用等を他の専門家が行った調査結果等を活用して把握し鑑定 評価を行う」ものとされる(留意事項Ⅶ1て4)) は調査命令(土村法3条,. 22)。その際,. 4条)の村象不動産は,当該調査の結果を踏まえ,. 汚染の存在が判明すればそれを前提に鑑定評価を行う。 条)内の対象不動産は,. ①調査義務また. (参指定区域(土対法5. 「汚染が存することを前提に」鑑定評価を行う。. 置命令(土村法7条)が下された対象不動産は,. ③措. 「何らかの措置が行わ■れた後. であっても指定区域の指定が解除されない限りは汚染が存することを前提に」 鑑定評価を行う。しかし,. ④法定調査(土村法3条,. 4条)の結果土壌汚染の. 存在が判明しなかっi:F場合,指定区域(土村法5条)の指定が解除されて指定. 区域台帳から削除された場合,および使用の廃止を伴わない有害物質使用特定 施設であって都道府県知事から調査命令や措置命令が下されていない場合は, 「土壌汚染が存しないとして鑑定評価を行うことができる」とされる(留意事 項Ⅶ1. (4))。. 以上の中でとくに問題になるのは,. ④のうち,. ≪土壌汚染が存在したが,完. 全に浄化された土地につき23),かつて土壌汚染が存在したことのみを理由とす 76.

(7) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. る心理的嫌悪感/ステイクマ(stigma). ≫を土地価格の減価要因とみるべきかど. うかである。 (a)肯定説. か?て土壌汚染地だったことに対するマイナス・イメージ. は,完全浄化の終了と同時にただちに回復されるものではなく,むしろ徐々に 回復されるのが一般的であるから,その間におけるステイグマの存在は客観的 にも否定できないとの立場24),とりわけ住宅系用途不動産で構成される市場で 「市場. は,同額の無汚染地と浄化完了地とではつねに前者が選好されるから,. の代弁者の理論」としての不動産鑑定評価理論においては.ステイグマの存在を 否定しえないとの見解がある2ラ)。実際,不動産鑑定士,不動産仲介業者,金融. 機関などの間には,たとえ完全浄化措置を講じてもなおステイグマを考慮すべ きであるとの≪感覚≫が存在する26)。宅地・公共用地に関する土壌汚染村策研. 究会『報告書』 (前述(ア). (i))も「汚染村策後の土地においても影響を及. ぼすとされている心理的嫌悪感(Stigma)による減価要因に留意する必要があ る」とする27)。そして,. 「留意事項」でも,. 「汚染の除去等の措置が行なわれた. 後でも,心理的嫌悪感等による価格形成への影響を考慮しなければならない場 合があることに留意する」. (留意事項Ⅶ1. (4) ④)とされていることが注目さ. れる。これを積極的肯定説とみうるか否かは解釈の余地があるが,少なくとも 否定説は採られていないとみてよいであろう。さらに,担保不動産の評価およ び競売不動産の評価(後述(2). (ア), (ウ), (エ))においても,. 「心理的嫌悪. 感が発生する可能性を考慮した減価」が行われるものとされている。 (b)否定説. これに対し,土壌汚染が元来存在しない土地と浄化措置. (土村法上,指定区域解除の要件を満たす措置)を講じた土地の価格評価は同 じであると解し,ステイグマを考慮すべきでないとの見解が,デイベロパーに も存在することが注目_に値する28)。ちなみに,公共用地取得に関しては,. 「〔土. 壌汚染対策〕法7条の措置等が講じられたことにより,既に通常の利用が可能 な状態にある土壌汚染のある土地については,減価の必要がないことに留意す る必要がある」とされている29)。そして,公共用地に関する土壌汚染村策研究 77.

(8) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 会『公共用地取得における土壌汚染への対応に関する基本的考え方(最終報告)』 (平成16年3月10日。以下『最終報告』と略称)は,民間土地取引に関しても, 「土壌汚染に係る心理的嫌悪感等(ステイグマ)の影響による減価については, 実態調査を踏まえると,私人同士の通常の取引においても,その有無を含めて, 定型的に減価できるほど一般化普遍化されているとは言い難い状況であるこ と」などを理由に,. 「当面,土地の補償額の減価要因としては扱わないことと. すべきである」として,消極的見解をとっている30)。. (c)私見. ステイグマの影響力は,村象不動産の立地,取得者の立場な. どによって流動的である。例えば,好立地の工業用土地ではステイグマの比重 は低くなるかも知れない。また,土地を購入して実際に開発・利用しようとす る買主に比べ,土地の担保価値にのみ着目する金融機関,第三者的立場にある 鑑定士,仲介業者など,対象不動産に間接的に関与するに過ぎない者の方が, かえってステイグマに神経質になる場合もありうる。この意味で,ステイグマ はすべての土地取得のケースに妥当する画一的な減価要因とみることは国難で ある一方,それが比較的一般的に影響を与えうる事例とそうでない事例をいく つかの類型に整理して議論することは可能かも知れない。 しかしなお,それを価格形成要因として承認する前に,ステイグマの発生原 因を十分に吟味する必要がある。というのも,ステイグマの発生原因には,. (丑. 「完全浄化」後であるにもかかわらず,汚染が最早残存していないという事実 に確信がもてないこと-の不安感(とくに,現在の技術水準では発見または除 去されえず,なお残存する汚染が存在しているのではないかという不安感)と, ②(丑のような直接的不安感はないが,かつて土壌汚染地だったこと自体を地価 の減価要因とするような一般的な見方があるのではないか,という観測に基づ く間接的不安感(いわば他人の目を通した不安感)とがあると考えられる。こ のうち, ①はそれなりに合理的理解が可能であるが,. ②はいわば《皆があると. いえばあるし,をいといえばない≫類のマイナス・イメージを原因とするもの であり,不安が不安を呼ぶ構造にある。この意味で, 78. (訂は必ずしも合理的根拠.

(9) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. に基づくものではなく,これを減価要因として考慮に入れる慣行の成立自体が, ステイグマを定型化・一般化する原因となる。したがって,. (参の意味のステイ. ①は汚染 グマはあえて積極的に存在すると定式化すべきではあるまい。他方, 除去技術の進歩とその実施の確認により,極小化することが可能である。そう であれば,一定水準の技術力をもった業者によって完全浄化された土地の価格 が,他の点では同条件の土壌汚染不明地の価格を下回る合理的根拠はなく,ス テイグマは価格形成要因として顧慮すべきではないであろう31)。 この場合に重要になってくるのは,どのような状態の土壌汚染地を,誰が, どのような方法で浄化したかに関する具体的で正確な情報の記録と伝達であ る。しかし,. 「留意事項」が提示する留意点(留意事項Ⅱ1. (2) (∋-④)の中. には,汚染除去措置が誰により,どのように行われたかという点は挙げられて いない。そこで,今後は「土壌汚染の有無及びその状熊」. (基準・総論3章3節。. 下線は引用者)に該当するものとして,浄化措置の具体的内容に関する情報を 精微化すべきである。それによってステイグマの発生を回避する人為的努力は, 土壌汚染地の着実な浄化・有効活用・浄化の社会的コストの軽減および公平な リスク分配を目指す≪漸進的制度改革≫へという基本視点(前述■1)からも, 無意味ではない。この観点から,残存ステイグマ否定説が妥当と考えるー。. (ii)損害担保特約. 他方,契約締結に先立つ事前調査で汚染が確認され. なかった場合でも,万一売買契約締結後に土壌汚染が発覚したときに,できる. だけ迅速かつ低コストで処理するために,予め対処方法を売買契約で約定して おくべきである32)。例えば,. ①調査費用の負担者ないし分担割合,. ②暇痕担保. 特約(哨痕の定義,損害賠償の範囲,賠償額の算定方法,契約解除の要件,売 主による完全履行義務の有無と内容,職庇担保期間,免責特約など),. ③土壌. 汚染を含む一定の塀庇の存在を売買契約の解除条件とする付款(いわゆる地中 障害条項など), ④土地所有権の移転時期33)などである。このうち,土壌汚染 リスクの分配の観点から重要なのは,. ①, ②である。とりわけ, ②のうちの損. 害賠償の範囲をどこまで認めるかが,リスク分配の内実を決定する。なぜなら, 79.

(10) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). この点の特約がない場合は,買主が売主に張庇担保責任■(民法570条)に基づ く損害賠償を請求したとしても,賠償範囲がどこまで及ぶかについては,裁判 例でも争われており,不明確で不確実な部分が少なくか、からJである。例えば, 買主が購入した土地上にマンションを建築し,その売却代金から借入金の返済 などを計画していた場合において,建築工事の開始後に土壌汚染が発覚したと きは, 1)汚染の調査費用,除去費用,汚染土の処分費用のほ■か,. 2)建築工事. が中断したことによる工事管理費の増大分,建築工事用に借り入れていた機械 の損料の増大分,. 3)マンシーヨンの売却が遅れたことによる得べかりし代金運. 用益損失分,借入金の返済が遅延した期間の利息負担分, を取り戻すための突貫工事費用,. 4)建築工事の遅延. 5)土壌汚染の事実が広まったことによるマ. ンションのイメージ低下による価格の下落分などが損害賠償の範囲に入るかど うかが間道になる。これらのうち,. 1)は別として,. 2)-5)を請求すること. は,暇庇担保責任そのものの効果としては困難である34)。梶痕担保責任の限界 というべきである(後述(ウ))。 (ウ)契約締結後の対応 売買契約締結後は,. (i)当事者間に(イ). (ii)に述べた損害負担に関する. 合意(損害担保特約)があればそれによるが,それもない場合は, 汚染に対して売主に帰責性があるときは,民法415条・ 過失ある売主が賠償責任を負い(過失責任主義),. (ii)土壌. 709条に従い,故意・ (iii) 当事者間に損害負担な. どの特約がなく,売主に帰貴幸由もないときは,まさにこのような場面に妥当 する固有の意味におけるリスク「分配」ルールの一つと.して35),売主の塀庇担 保責任(民法570条)が問題になる36)。売買目的物たる土地の土壌汚染に塀痕 担保規定を適用する場合の要件・効果の解釈についてはすでに再検討したが37), 本稿との関係でとくに問題になるのは,. ‡臣庇担保責任に基づく損害賠償の範囲. である。. (力まず,汚染土壊を含む地中障害物の調査費用,撤去費用,処分費用(撤去 作業のための機械の搬入・搬出費用,使用料,廃棄物の搬出費用,処分費用な 80.

(11) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. どを含む)については,これを肯定する裁判例が一般的である38)。 ②しかし,地中障害物の撤去・処分のために,地上の建物建設の工事が停止 したことによる工事管理費の増大分,地上建物の建設工事のために借り入れた. 機械の損料の増大分については,肯定例39)と否定例40)とがある。 ③また,地中障害物の撤去・処分めために,地上建物(マンションなど)の 建設工事が遅延した分を取り戻す7:{めの突貫工事費用, ④地中障害物の撤去て処分のために,地上建物(マンションなど)の完成が 遅延し,売買代金の取得が遅延した期間の代金運用益損失分,借入金の返済が 遅延した期間の利息負担分, ⑤そして,汚染土壌を除去したものの,かつて土壌汚染があった事実が広ま ったことから,当該土地の価格が下落したり,地上建物(マンションなど)の. 販売価格が下落するなど,いわゆる心理的嫌恵感(stigma)による財産価値の 下落を原因とする損害については,何れも認められていない41)。 こうしてみると,契約成立前における売主の義務が強化されていること(前 逮(ア). (ii)).に比べ,契約成立後のリスク分配ルールとしては,なお買主が. 主たる負担者となっていることが伺われる。このことは,土壌汚染リスクを学 んだ土地の円滑な取引を促進する観点からみると,暇痕担保責任制度だけでは 最早限界に達していることを示唆している。. (2)担保権設定の場合 (ア)担保取引における土壌汚染リスクの組入れの契機 土地に抵当権,その他の担保物権が設定される場合に,土壌汚染リスクがど のように分担されるべきかは,土地の売買契約の場合と比べ,それほど多く議 論されてこなかった。しかし,今や企業のリストラを推進するために,減損会 計の導入とも相侯って4■2),企業が保有する資産の再評価が求められており,そ の一環として,金融機関がもつ債権の担保不動産の的確な再評価が求められて いる。この局面では,.土壌汚染対策法の施行に伴∨、,同法上の指定区域内の担 81.

(12) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 保不動産の評価額を浄化が完了するまではゼロ円に引き下げるといった金融機 関の反応も現れた43)。これはややラディカルな反応としても,金融機関が抱え る不良債権処理の場面では,土壌汚染地を担保不動産とする債権の買取価額の 算定において浄化費用を差し引くといった対応がとられている44)。また,金融 機関が新規融資を行う際にも,新「基準」. (前述(1). (イ) (iL)参照)に則り,. 土壌汚染リスクを考慮に入れた厳格な担保不動産評価が求められている45)。さ らに,担保権の実行に際しても,土壌汚染リスクを組み込んだ競売不動産の評 価がガイドライン化されている(後述(エ)参照)。こうして, 新規融資をする際の担保不動産の評価,. ①金融機関が. ②既存の担保不動産の再評価,および. ③担保権の実行段階における目的物の評価という,担保取引の何れの側面でも, 土壌汚染リスクは無視できない存在となっている。 (イ)新規融資における担保権設定 金融機関は新規融資に際し,新「基準」に則った担保不動産評価を行うこと により,特定有害物質の使用実態,その管理・処理施設の状況を考慮に入れて, 担保不動産としての適格性の承認を行う46)。その場合の算定式は,. 〔土壌汚染がなかった場合の土地の評価額〕-. -. 〔調査費用+浄化費用〕. 〔ステイグマのコスト〕 になると解されている47)。. (ウ)既存の担保不動産の再評価 融資がいったん実行された後も,土壌汚染が事後的に発覚した場合はもちろ ん,そのリズクが疑われるにとどまる段階でも,金融機関のリストラの一環と して自己の資産価値を再評価するために,また,不良債権処理の一環として貸 出先の担保不動産の価値を再評価するために,既存の担保不動産の再評価が行 われる。その際には,担保不動産の再評価は■, 〔当初の評価額〕 -. 〔調査費用+浄化費用〕. -. -. 〔ステイグマのコスト〕■. という定式によると解されている点が注目される48)。もっとも,新規融資の場 合と異なり,いったん融資が実行された後は,担保提供者にとっては新規融資 82. -.

(13) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. 時ほど担保権者への協力のインセンティブが高まらないであろう。また,返済 状況が思わしくない借主企業ほど,調査・村策費用の捻出はままならず,金融 機関との接触を絶_つ企業もあることから,土壌汚染の有無・内容の調査や村策 を担保不動産提供者に行わせ,あるいはそうした土地再生コスト(環境コスト) を差し引いて処分可能見込額を算出し,必要な追加担保の要求を行うことは, 一般的により困難であるといえる。. そこで,担保権者(債権者)は,土壌汚染の調査・対策のコストが設走者 (所有者)の企業経営に影響を及ぼすと予想されるときは,企業経営のサポー トや,行政と連携した支援方法を積極的に探ることにより,担保不動産所有者 の協力行動を促し,よりコストを節約した形での土壌汚染リスクの分配に向け た好循環を生み出すよう努力する姿勢をもつべきである。また,金融機関は, 担保不動産の(再)評価に際し,債務者の現状がどうであるかだけでなく, 「将来どうなるか」という視点から,債務者企業の将来の事業構想,環境問題 への意識の高さや取組みの積極性,設備の安定性なども考慮に入れ,柔軟かつ 動態的な担保(再)評価をする必要があると思われる。このことは,土壌汚染 に関して,担保不動産所有者のみならず,それを担保にして融資した企業自身 も社会的責任を負うことを示唆するものである49)。 このほか,担保権の設定をはじめとする担保取引においても,売買の場合と. 同棲,予め土壌汚染リスク(土壌汚染の由査・対策の費用,土地の利用制限な どによる逸失利益に起因する返済支障リスク)の分配方法を取り決めておくこ とが,事後のリスク分配におけるコスト軽減に通じるであろう。さらに,既存 担保不動産の再評価事例のデータを収集・整理・蓄積し,土壌汚染リスクに関 する統計的判断を一定程度可能にすることにより,調査コストを節約する方法 も考えられる50)。 (エ)担保権の実行における競売不動産の評価. (i■)強制競売の場合. 強制競売では,目的物に隠れた環庇があっても売. 主への担保責任の追及が認められず,買受人の負担となる(民法570条但書). 51)。. 83.

(14) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 「土壌汚染等に関する競売評価の運用指針」によれば,競売評価における土壌 汚染リスクは,評価人が,. ①住宅地図・閉鎖登記簿などを用いた過去の履歴調. 餐,不動産登記簿謄本・商業登記簿謄本などを用いた現在の利用実態調査,所 有者・占有者へのヒアリング,官公署での有害物質使用の届出調査,現地での. 目視調査などを通じて行う。そして, ②土壌汚染の可能性が疑われる場合に限 り52),より詳細な資料調査,専門家等による調査53)が行われる54)。その結果,. かかる土壌汚粂調査は汚染の有無や程度の調査ではなく,汚染の可能性(リス ク)の調査にとどまる55)0 しかし,この場合の評価の特色として,つぎの2点が注目に催する。 に,土壌汚染の可能性がある不動産については, のほかに,. ①第一. 〔村策費用(調査費用を含む)〕. ■〔心理的嫌悪感が発生する可能性〕を考慮した減価が行われるべき. ものとされていることである。これを評価に取り込むための修正項目は,. 「市. 場性修正(物件固有に内在する要因に基づく市場性の制約)」による対応であ. るとされるが,この点に関する疑問は,すでに述べたとおりである(前述(1) (イ) (c))。 ②第二に,土壌汚染の存在が判明した結果,従来どおりの利用制 限のない不動産として用いるためには,不動産価格に比して「対策費用」があ まりに高額になる場合でも,用途を限定した使用(駐車場,_資材置場,倉庫な. i.-の暫定的使用)をすれば「対策費用」が低額で済むためにトタルとしての 不動産価額が高くなるときは,暫定的・低度利用への用途転換を前提とした価 檎(保守的価格)を算出すべきものとされている56)。. (ii)担保権の実行としての競売・任意売却の場合. 担保権の実行として. の競売に際しても,民法570条但書が準用されると解されるから,担保不動産 の評価にも前述(i)が妥当するであろう。もっとも,担保権者および設定者 (所有者)がより効率的な競売を実現するために,土壌汚染に関する情報を積 極的に提示することも考えられる。さらに,これらの者が担保不動産の任意売 却を試みて,一般の売買と同様に,売主の張庇担保責任の存在を前提とした土 壌汚染の調査・村策が当事者間で合意されることも考えられる。 84.

(15) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. 3. 公共用地取得における土壌汚染リスクの分配ルール. (1)用地取得前における土壌汚染リスクの分配ルール 以上に概観した民間土地取引における土壌汚染リスクの分配ルールを,公共 用地取得におけるそれと比較した場合,.どのような異同が見出されるであろう か。公共用地取得のプロセスでは,起業者が公共事業の実施場所(例えば,追 路,鉄道のルートなど)の決定に至るまでの計画の初期段階において,土壌汚 染リスクを的確に考慮に入れることが,民間土地取引における以上に重要であ る。なぜなら,土壌汚染の存在は,. ①損失補償額の適正な評価,および②取得. した土地を利用した適切な社会資本の整備に影響を与えうるからである。つま り,民間土地取引ではもっぱら取得者の利用目的に照らした満足が決定的であ るが,公共用地取得の場合には事業者の利益は公共の利益を代表している。こ の観点から,公共用地に関する土壌汚染対策研究会『最終報告』 (イ) (i). (前述2. (1). (b)参照)も「計画立案段階において可能な限り土壌汚染の状況に. ついて必要な調査を行う」ことを求めている57)。 もっとも,公共用地取得においてもできるかぎりリスクに見合ったコストで 土壌汚染の有無・内容の調査・対策を実施すべきであるから,民間土地取引の. 場合と同様に,段階的な調査・対策のガイドラインが提示されている58,。すな わち,起業者は,用地測量・調査の段階において,. (i)土壌汚染対策法上何. らかの措置が講じられている場合は,その実施状況を確認し59),そうでない場 合は,. (ii)土地登記簿,住宅地図等の各種資料60),関係者への聞取り61),覗. 況確認などによる,土地の利用履歴,土壌汚染の調査履歴および現状に関する 調査(有害物質使用特定施設の存否の確認を含む)が行われる。. (ii)におい. て「土壌汚奥のおそれがか-と認められなかった」場合は, (iii)土壌汚染対 策法に基づく調査に準じた調査が行われるべきとされ,民間土地取引における. よりも,やや慎重な(したがってコストを要する)調査を求めている62)去その 際, 「取扱指針」は,取得対象地について独自の類型別整理をし ている。すな 85.

(16) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). わち, ① 「指定区域地」, ② 「未指定土壌汚染地」. (指定区域には指定されてい. ないが,任意調査によって土壌汚染が発見された土地),. ③ 「土壌汚染不明地」,. ④ 「非土壌汚染地」. ・(土地の履歴調査・任意調査・浄化措置の実施状況等によ り,_土壌汚染のないことが確認できる土地,または土壌汚染を価格形成要因から. 除外できる土地一汚染除去措置(土対法7条)が行われたことによって指定区. 域の指定の解除が確認できる土地,過去にヰ対法上の基準を満たす調査が行われ た結果,土壌汚染のないことが確認できる土地,過去に「土壌が汚染される可能. 性が高い用途」で用いられたことがないことが確認できる土地-)である63)。 このうち, ④類型に該当すると判断された土地に関しては土壌汚染による減 価をしない一方, (丑・(丑に関しては何らかの減価が必要になる(後述(2). (ア)。. また, ③については,地権者一起業者間の契約において,特約によるリスク分. 配が行われることになる(後述(2). (イ))。. (2)売買契約におけるリスク分配 (ア)土地補償額の算定(土地評価) (i)公共用地取得と民間土地取引との異同. 「取扱指針」は,前述(1). の4類型の各土地につき,土地補償額の算定方法,土地売買契約の締結の仕方, 契約条項に盛り込むべき内容について指針を提示する(「取扱指針」. Ⅲ)。まず,. 損失補償額の算定方法から検証してみよう。公共用地取得と民間土地取引との 相違としては,つぎの2点を指摘することができる64)。 まず, (a)事業者側の計画に基づく公共用地取得の場合,土地所有者等の 側には「土地等を売りたいという事情」があるとは限らない。また,土地収用 権等の公権力を背景とした公共用地取得においては,たとえ任意買収の場合で あっても,土地所有者等が土地等を売る・売らないの自由(民間土地取引にお ける契約の自由の一つ)は事実上制限されている。したがって,いわば≪売り. たくないのに売らされて,土壌汚染があったから減価する夢と小うのでは,そ のまま売らずに使っていれば何の問題もコストないし損失もなかった場合と比 86.

(17) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. べ,不満が残るという事情がある。これは,土壌汚染を理由とする売却価格の 減価を縮小する方向に作用する。 他方,. (b)過大補償を抑制し,補償額の適正さを求める財政支出等の観点. からは,土地所有者等の前記事情を考慮して土壌汚染分の減価を縮小する方向 に対し,反対の制約を課す方向に作用する。また,土地所有者等の間において ち,補償額の算定方法と内容は公平でなければならない。これらの事情から, 土壌汚染地に対する損失補償額の算定方法と内容は,合理的かつ統一的なルー ルに基づき,国民一般に対しても他の土地所有者等に対しても,十分に説明可 能なものでなければならない。. 問題は,相反する方向に作用する(a)と(b)の要因を,どのように調和 させるかである。. (ii)取得する土地の対価 一般基準として,任意買収の場合,. 「正当な補償」. (憲法.29条3項)を具体化する. 「土地の取得に係る補償」は「正常な取引 を基準. 価格」によるものとされ(要綱7条1項),それは「 とし,これらの土地及び取得する土地の位置,形状,環境,収益性その他一般. の取引における価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するもの」と されている(要綱8条1項。下線は引用者) 所有権等の対価も,. 65)。また,由利収用の場合,土地. 「収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に. 対する補償金の額は,近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の 告示の時における相当な価格に,権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる 修正率を乗じて得た額とする」 ( a)土壌汚染減価分控除説. (土地収用法71条。下線は引用者)とされる66)。 以上の一般基準を土壌汚染地に当てはめた. 場合,取得対象地の「正常な取引価格」を算定するための「標準地の評価」に 「原則として別に不動産鑑定業者に当該標準地の鑑定評価を求め. 当たっては,. るものとする」とされているが(細則別記1・15条),既述のように,新「基 準」では,. 「不動産の価格を形成する要因」のうち,. 「地域要因」として「Ⅰ. 宅地地域」 「1.住宅地域」における「土壌汚染等の公害の発生の程度」. (第3 87.

(18) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 章・第2節Il. (10))が,また,. 「個別的要因」として「Ⅰ. 土地に関する個. 別的要因」 「1.宅地」において住宅地・商業地・工業地における「土壌汚染の. 有無及びその状態」 (第3章・第3節Il 加えられた(前述2. (1) ⑮, (2) ⑬・, (3) ⑬)が新たに. (1) (イ) (i))。その結果,損失補償額の算定にあたっ (要綱8. ても,土壌汚染の存在は,先の一般基準における「正常な取引価格」 条1項)または「相当な価格」. (土地収用法・71条)を構成する減価要因として. 考慮しなければならず,土壌汚染が存在しない土地の評価額から土壌汚染を理 由とする減価分を控除する必要があると解される67)。この立場をひとまず, ≪土壌汚染減価分控除説≫ と呼ぶことにする。 問題は,減価額の算定方法である。. 「留意事項」では,. 「土壌汚染が存するこ. とが判明した不動産については,原則として汚染の分布状況.除去等に要する. 畳屋豊を他の専門家が行った調査結果等を活用して把握し,鑑定評価を行う」68) とされるが,宅地・公共用地に関する土壌汚染対策研究会『報告書』では, 「汚染が存することが判明している土地の鑑定評価を行う場合,土壌汚染対策 が講じられた後の土地利用と当該対策に係る管用.時間等の相互関連を考慮し, 土壌汚染村策も前提としたその土地の最有効利用を判定した上で,鑑定評価手 法を適用することとなる」とする。そして,そうした土壌汚染対策のコスト等 を加味する際の具体的方法として,. ① 「汚染がなかったとした場合の土地価格. から,汚染対策の費用等を控除する手法(原価法の一種と考えられる。)」,. ②. 「土壌汚染地に係る取引事例から地域要因,個別的要因等の比較,補修正によ り求める方法(取引事例比較法)」,. ③ 「その土地が将来生むであろう純収益の. 現在価値を求める方法(収益還元法)」を原則的に提示する。さらに, 後の土地利用が分譲マンション等に適する場合には,. ④対策. ①-③の手法に加え,. 「販売総額から建築費,造成費等を控除して求める開発法の適用も考えられる」 とする69)o. これに対し,公共用地に関する土壌汚染村策研究会『最終報告』では, つき, 88. 「通常の土地利用に関して土壌汚染対策法7条の措置命令により求めら. ①に.

(19) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. れる措置(例えば,汚染土壌の直接摂取によるリスクに係る措置としては盛土. (覆土)が原則とされている。)に要する費用相当分を減価することが考えられ る」とされている70)。さらに,別途,. 「具体的な事例によっては,土地所有者. 等の生活再建-の配慮を検討すべき場合があること」も付記されている71)。 また, 「取扱指針」でも,. 「土壌汚染による具体的な減価粛は,土地の補償額. は当該土地の財産価値に基づき判断すべきことを踏まえると,当該土地の属す る用途的地域における通常の利用方法を可能とするために最低限必要となる. 想宕上の土壌汚染対策管用とすることとする」 る。ここで注意すべきは,. 72). (下線は引用者)とされてい. 「当該土地の属する用途的地域における通常の利用. 方法を可能とするために最低限必要となる,想定上の土壌汚染対策費用」の例 として,一戸建専用住宅が標準的な住宅地城に存在するクリーニング工場敷地 の場合は, 「当該土地を一戸建住宅に用いる・ことを想定した場合に,最低限必 要な十壊汚染対策を盛土(覆土)と判断」し,この盛土(覆土)費用を減価す べきものとされていることである(下線は引用者)。これは,民間土地取引に おいて住宅地の買主が一般的に期待する暇庇除去費用よりも,かなり制限され た「想定上の土壌汚染対策費用」であるといえる。 (b)土壌汚染減価分非控除説. これに対し,土壌汚染地であっても,. ①. 公共事業が鉄道・線路など,土地を収用してまでも取得する必要のある,いわ ゆる線事業の場合であり,かつ②買収または収用の対象となる土地が生活必需 財産(いわゆる「/トさい財産」)である場合には,土壌汚染の浄化費用等の控 除を否定すべきとの見解がある73)。 (c)私見. (b)説が提示する(∋の理由(売却の非任意性)は,先に述. べた公共用地取得の特色のうち,土壌汚染分の減価を縮小する方向の要素(前 逮(i). (a))に相通じるものが見出されるように思われる。これに村し,. ②. は取得土地の対価補償とは別個の,生活補償的色彩をもつ要素である74)。これ らは何れも実質的に考慮に値する要因であるが,土壌汚染分の減価を否定する 論拠として異質な要因を結合している点,および減価を完全に否定する点に, 89.

(20) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 理論的な難点があるように思われる。むしろ, 調整を通じて,. (参については生活再建措置として,それぞれ別個に顧慮すべき. であろう。したがって, ・では,. ①については実質的な控除額の. (a)土壌汚染減価分控除説が妥当であろう。. (a)説に立った場合,当該基準の実際の適用状況はどうであろうか。. 「公共用地に係る土壌汚染地の取得実態に関する調査」. 75)をみると,公共用地. 取得に際して土壌汚染が問題にな?た場合における実務上の対応として,以下 の特色を見出すことができる。まず,. (丑公共用地取得に際しても,土壌汚染が. 少なからず問題になっており,土壌汚染地の買収例も見られる。その中には,. 買収前に土壌汚染が判明したケースだけでなく,買収後かつ工事施工後に判明 したケースもある。(参土壌汚染が判明した場合の対応方法は二態様に分かれる。 一つは,土壌汚染の判明が買収の前か後かを問わず,売主(被補償者,代替地 提供者)が自ら土壌汚染対策(土壌の入替え,掘削除去なと)を実施した代わ りに,土壌汚染を理由とする減価を行わなかった事例である。もう一つの方法 は,何らかの減価を行ったものであるが,完全浄化費用(土壌汚染対策法上,. 指定区域解除の要件を満たすような除去措置の費用)を減価した例はない。こ ・れに村し,当該土地の属する用途的地域における通常の利用方法を可能とする ために最低限必要となる,想定上の土壌汚染対策費用(例えば, に基づき,. 「取扱指針」. 5cmのアスファルト舗装に要する費用)のみを減価した例がある。. また,ステイグマを考慮して減価したと解される例もあるが,その算定の詳細 は明らかでない(この点については,後述(iii)参照)。. (iii)汚染状況の調査費用. 土壌汚染リスクの分配の観点からは,土壌汚. 染の有無・内容に関する調査費用を地権者が負担すべきか,起業者が負担すべ きかが問題になる。例えば,現に有害物質使用特定施設が存在する土地を公共 用地として取得する場合,当該施設の廃止に伴って義務付けられる土壌汚染状. 況調査(土村法3条)に要する費用を,. 「通常生ずる損失」. (要綱43条,土地収. 用法88条)として補償すべきであろうか。 (a)非補償説 90. 公共用地に関する土壌汚染対策研究会『最終報告』は,.

(21) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. 「当該土地については,現に有害物質使用特定施設が存在する以上,当該調査 義務は潜在的な義務として土壌汚染対策法の施行により生じているものであ り,当該調査に要する費用は当該土地の財産権に内在する負担であると考えら れることから,当該費用自体を損失補償の対象とすることは適当でない」. (下. 線は引用者)との立場をとっている。ただし,調査義務の履行が早められたこ とによる不利益が存在することから,. 「公共用地の取得に伴い調査費用の支出. が早められることによる当該管用に係る得べかりし運用益の損失(運用益損失. 金」については,. 『通常生ずる損失』として補償する必要がある」. (下線は引用. 者)ことを認めている76)。. (b)補償説. これに対し,土壌汚染地が生活または営業の必需財産であ. り,かつ買収の契機が強制的である場合は,汚染状況調査費用も調査義務を発 生させた起業者が負担すべきとの見解がある。もっとも,その実質的論拠は 「生活再建に支障となる」点,. ■および運用益損共分の算定基準となる調査義務. の到来時点が不明である点に求められている77)。 (c)私見. 土壌汚染対策法は,.土壌汚染は放置すべき.ものではなく,コ. ストを分担しながら徐々に対策を施してゆくべきことを原則にしていると解さ れること,現在の営業を継続する限り永久に調査義務が到来しないと解すべき ではなく,例えば,当該地権者の営業継続可能期間を基準に考えうること,公 共用地取得と民間土地取引との異同を踏まえて相対立する二つの要請(前述 (i). (a)と(b))を調和させる必要があることから,. (a)非補償説が支持. されるべきであろう。そのうえで,具体的事情に応じ,生活再建措置の必要性 を別途個別的に検討すべきであろう。 (iv)ステイグマの取扱い. ステイグマの取扱いについては,すでに民間. 土地取引の場合に関して肯定説・否定説を検討し,否定説を支持したが(前述 2. (1) (イ) (i). (c)),公共用地の取得においては起業者がステイグマを顧慮. すべき理由は,民間土地取引における取得者以上に存在しなし、というべきであ る。公共用地に関する土壌汚染対策研究会が『最終報告』において否定説的な 91.

(22) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 立場をとるのも,このことを示すものといえよう。 (イ)任意買収における特約 公共用地取得における事業者も,売買契約において蝦庇担保特約を付してお くことが,紛争の予防および問題が生じた場合の解決コストめ削減に通じる。 (1) (イ) (ii))。. このことは,民間の土地取引におけると同様である(前述2. (前述(1)・(彰類型)につき,売. この観点から.は,. _とりわけ「土壌汚染不明地」 買契約書に盛り込むべき特約として,つぎの二つのパターンが示されている78)。 ( i)まず,. 「現に有害物質使用特定施設が存在する場合」は,.. ①土地売買契. 約後,土地所有者等は,有害物質使用特定施設の廃止日から起算して120日以 内に,土壌汚染状況調査(土村法3条)を行わなければならない, 渡しは,当該調査の結果を確認した後に行う,. (多士地の引. ③当該調査において土壌汚染が. 発見された場合は,当該契約金額を減額した変更契約を締結する,. ④当該特約. に係る事項を履行しないことを売買契約の解除条件とする,という趣旨の特約 である。. (ii)他方,土地の履歴調査から,過去に「土壌が汚染される可能性が高い 用途」 (有害物質使用特定施設(土対法3条),産業廃棄物最終処分場,特定有 害物質を取り扱う研究施設など)に用いられたことがある土地について任意調 査を実施できなかった場合,または土地の履歴が不明である土地について任意 調査を実施できなかった場合は,. (丑売買契約後に起業者が当該土地の任意調査. を行い,土地所有者等はこれに異議を唱えないものとする, 当該調査の結果を確認した後に行う,. ②土地の引渡しは. ③当該調査において土壌汚染が発見され. た場合は当該契約金額を減額した変更契約を締結する,. ④当該特約に係る事項. を履行しないことを売買契約の解除条件とする,という趣旨の特約である。. (2)用地取得後における土壌汚染リスクの分配 事業者は,とくに取得前の調査において土地所有者等の協力が得られずに, 「土壌汚染のおそれがない」と認めるに至らなかったときは,土地等の取得後 92.

(23) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. において,土壌汚染の有無を引き続き調査する必要がある。その結果,土壌汚 染が判明したときは,民間土地取引の場合と同様,暇庇担保責任または不法行 為責任の追及が可能であると考えられる。しかし,紛争の長期化・複雑化を回 避するために,この場合には売買契約において‡臣庇担保特約など(前述(1) (イ))を付しでおく必要性がとりわけ高いといえよう79)。. 4. 土壌汚染リスクの公平な分配と法解釈-むすびに代えて. 土壌汚染問題に対応可能な土地取引ルールを構築するためには,まずは既存 の実定法枠組みの中で可能なかぎり公平な土壌汚染リスクの分酉己を可能にする ような法解釈を試み,その可能性と限界を検証することから出発する必要があ る。本稿はそのための試論の域を出ないが,今後の制度改革に向けて,ひとま ず得られた結論を以下の4点に整理し,むすびに代えることにしたい。. (1)畷痕担保責任制度の限界. 良問土地取引(売買)においては,既存の暇痕担保責任に依拠して土壌汚染 リスク分配することは,損害賠償の範囲の限定性(前述2 尾,. (1) (イ) (ii)莱. (ウ))ゆえに買主に相対的に重い負担を課す結果となり-,潜在的に土壌汚. 染リスクを帯びた土地の円滑な取引を促進するという観点からみると,'蝦痕担 保責任制度の限界が示されている。、そこで,売買契約成立前の取引交渉の段階 から,当事者間のリスク・コミュ・ニケ-ションを促進することむ子より,買主の 土地利用目的を当事者間で共有し,-それへの適合性を基準にして必要な調査を 協力して行うシステムをルール化してゆくことが必要かつ有益であるoそして, 調査の結果,土壌汚染が発見された場合は,その対策と費用分担を売買価格と. の関係で鎮定すべきであるし,汚染が発見されなかった場合も,'なお引渡し・ 所有権移転後に汚染が発見されるかも知れない場合に備え,買主による損害賠 償請求の要件,その範囲(調査費用・汚染除去費用・得べかりし利益の喪失分 93.

(24) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). など),解除の要件などを合意しておくことが,最もコストを節約したリスク 分配に資する(前述2. (1))。. (2)担保取引における土壌汚染リスクの分配ルールの必要性 民間土地取引としては,売買のみならず,抵当権・その他の担保権の設定に 際しても,契約交渉の段階から土壌汚染リスクを念頭に置いた担保不動産評価 が必要かつ有益である。担保権設定後に土壌汚染が発覚した場合も,担保権 者一設走者間/a)リスク・コミュニケーションを碓持し,設定者の利用目的-の. 適合性,その事業活動への影響,将来の展望などを総合的かつ動態的に顧慮し て,担保不動産の適切な再評価が行われるべきである。また,担保不動産の競 売の場面でも,売主が梶庇担保責任を負わないこと,調査費用の限度が事実上 厳しくなることなどの制度的制約の下で,可能なかぎり正確かつ有用訓育報が 買受希望者に提供されるようにすべきである(前述2. (2))。. (3)ステイクマの発生を回避する努力の有用性 土壌汚染が発見され,浄化措置が完了した土地については,汚染がかつて存 在したことのみを理由とする心理的嫌悪感/ステイグマを土地評価における一 般的・定型的な減価要因とみる合理的根拠は稀薄である。また,土壌汚染リス クの効率的な分配の観点からも,価格決定要因としてのステイグマの承認は土 壌汚染リスクの分配コストを上げるし,潜在的な買主の不安を惹起して取引の 円滑性を妨げうる。したがって,土壌汚染状況および浄化措置の内容に関する 具体的で正確な情報の伝達・共有古土より,ステイグマの発生を回避する努力が. 有用である(前述2. (1) (イ) (i). (c))。. この観点からは,売買目的物の価格決定の場面だけでなく,担保権設定時に おける担保不動産の評価,担保権設定後における担保不動産の再評価,および 担保不動産の競売の何れの場面でも,ステイグマによる減価が考慮に入れられ ている現状は,再考の余地がある(前述2 94. (2) (イ), (ウ), (エ))。.

(25) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配. (4)民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分 配ルールの共通性と独自性 公共用地取得においては,土地の.売却の非任意性ゆえに,土壌汚染リスクの. 分配における売主(地権者)の利益保護の観点から,土壌汚染(リスク)を理 由とする減価の幅を制限的に捉えるべきとの要請と,適正な損失補償額の算定 ①その点の特殊性を考慮に. の要請との調和を図ることが問題になる。しかし,. 入れながらも,出発点としては,民間土地取引の場合と同様に,土壌汚染によ る減価の必要性を承認しつつ,その減価幅を土地の最低限の利用を可能にする ための対策費用分に制限することによって限定するなどの柔軟な対応が模索さ れるべきである。また,. ②土壌汚染の有無や内容の調査費用についても,それ. 自体を補償の対象とすることは困難である一方,具体的事情に応じて地権者の 生活再建措置.の必要性が個別的に別途判断されるべきである。さらに,. ③土地. 価格の減価要因としてステイグマを考慮すべきではないという,公共用地取得 においてより認められやすいと考えられる実務慣行を一つの契機にして,これ を一般の民間土地取引にも推し及ぼすべきである。 このようにして,民間土地取引および公共用地取得の領域を別個の領域とし てではなく,できるかぎり民間土地取引ルールとの共通枠組に則って包括的に. 捉え,全体としてバランスの取れた土壌汚染リスクの分配ルールを明確化する ことにより,良好な宅地開発,効率的な土地利用および着実な社会資本整備を 推進することが可能になるというべきであろう。. 1)・本稿では,. 「土壌汚染」を「土壌の特定有害物質による汚染」. 2条)に限定せず,より広く定義する。すなわち,. (後掲【関連法令】土対韓1条,. ≪地中に有害物質が存在し,その調査ま. たは除去のために,公法上の規制,私法上の損害賠償請求権など,何らかの法的効果を発生 させる原因になる土地の状態≫. とひとまず定義する。土壌汚染の定義は,環境リスクを問題. にする場合,取引リスクを問題にする場合など,コンテクストによって多様であ.る(もっと も,環境リスクの問題は取引リスクにも影響を与えるから,両者は相互に関連している)0 また,取引リスクが問題になるときでも,何を土壌汚染とみるかは取引目的に影響される。 ちなみに,公共用地取得においては,土壌汚染対策法よりも土壌汚染が広義に捉えられてい. 95.

(26) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月) 「土壌汚染があ. る。■例えば,後掲【関連法令】「取扱指針」では,土壌汚染対策法に依拠し,. る状態」とは「土壌汚染対策法2条1項に規定する『特定有害物質』が,法5条1項の環境省 (「取扱指針」 令に定める基準に適合しない状態をいう」-. 壌汚染に関する土地利用履歴等調査要領(莱)」 局国土環境・調整課調整官事務連絡)では,. Ⅰ.. 1)とされる。これに対し,. 「土. (平成15年7月7日付け国土交通省総合政策. 「土壌汚染のある土地」とは,. 「土壌汚染対策法. 2条1項に規定する特定有害物質,ダイオキシン類対策特別措置法2条1項に規定するダイオ キシン類,農用地の土壌0).汚染防止に関する法律2条3項に規定する特定有害物質,その他 地方公共団体が定める条例において規定する有害物質が基準値を超過して存在する土地をい. う」とされている(「調査要領(秦)」第2・. 1項。なお,. 「土壌汚染のおそれがある土地」. 〔同2項〕参照)。民間土地取引では,土壌汚染は地中障害(物).の一環として,民法上の 「塀庇」. (民法570条)の一類型として捉えられる。. 2)土壌汚染問題は,すでにイタイイタイ病などの公害問題に遡.るが, めてそれが顕在化した背景として,. 1990年代後半からあらた. (丑企業のリストラ,都市再生などを契機に,土地の利用. 転換が進められたという経済的事情がある■。とくに工場跡地等の再開発や売却などに際し, 汚染状況調査を行う事例が増加した。また,. ②諸外国における土壌汚染に対する法整備状況. からも影響を受けつつ,市民一般の環境意識が顕著に向上したことも,背景事情に挙げられ よう。他方,. ③これを受けて, ■企業の側でも, ISO■14001などに基づく,環境管理の一環とし. て,自主的に土壌汚染調査を行うなど,環境管理への関心や責任意識が高まってきた。さら ④政府および地方公共団体の政策にお. に,こうした経済的・社会的事情の変化に呼応して,. ける土壌汚染村策の比重も高まり,都道府県等による地下水モニタリングの拡充なども行わ. れるようになった(後掲【参考文献】公共用地に関する土壌汚染対策研究会『最終報告』.参 考資料3)。もっとも,これらの背景事情においては,土壌汚染によってもたらされるであろ う環境問題への関心と,土壌汚染地の有効利用による経済問題への対処という;複数の問題 《持続可能な発展≫という観点からは,両. 関心が混在していることが分かる。しかしなお, 者は相互に密接に関連し,両立が求められる課題である。. 3)環境リスクヘの対応に関しては,旧公害村策基本法上の公害類型として「土壌汚染」が追加 されて以来(昭和45年。なお,環境基本法2条3項「土壌の汚染」参照),農用地の土壌の 汚染防止等に関する法律(昭和45年法律139号),土壌環境基準の設定(平成3年環境庁告 示46号),ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律105号),地方公共団体の条例・ 要綱・指導指針による対応などを経て,土壌汚染対策法(平成14年法律53号)が制定・施 行された。これにより,人体への健康被害の予防の観点から,汚染状況調査義務の付加,拷. 染除去措置の命令,指定区域の指定などが行われるようになった(環境リスクの定義に関し ては,金融機関の環境戦略研究会2005:. 56-57頁参月F.)。そこで,今後は,取引リスクヘの本. 格的な対応策がルール化され,制度化されなければならない段階にある。そのためには,氏 間土地取引のみならず,公共用地取得をも無視することができない。そして,これら双方の 場面を視野に入れた給合的な土地取引における土壌汚染リスク-の対応に関するスタンダー ドとなるルール作りが求められているといえる。民間土地取引においてのみならず,公共用 地取得に際しても,土壌汚染問題が顕在化し,深刻化している状況に鑑みても,こうした視 96.

(27) 民間土地取引および公共用地取得における土壌汚染リスクの分配 点が安当しよう.. 4)土壌汚染問題とは,環境管理に対する市民,企業および政府の意識が向上し,規制水準が強 化される中で,産業構造の再編過程における市街地の利用転換を契機にして顕在化した,堤 境リスクおよび取引リスクへの相応問題として性格づけることができる。したがって,土壌 汚染問題への村応は,環境政策の一環であるとともに,土地政策の一環でもあることが確認 される。. 5)土壌汚染をめぐる裁判例につき,松尾2004:95-114頁,針壕2003:3-6頁参照。 6)土壌環境基準が設定されてから,調査事例件数に占める土壌環境基準超過事例件数も顕著に. 増加し,平成13年には調査事例273件のうち,基準超過事例は211件に上っていろ。また, 土壌汚染をめぐる紛争事例も増加し,マスコミによって報道される事例も目につくようにな った。環境省の統計によると,土壌汚染村策法の施行から平成16. (2004)年8月15日まで約. 1年6か月の間に,同法3条に基づく土壌汚染状況調査の結果報告件数は122件(有害物質使 用特定施設の使用廃止件数は840件),同法4条に基づく調査命令発出件数は4件である。さ らに,平成16. (2004)年11月15日現在,同法5条に基づく指定区域の指定は44件に上って. いる。このうち12件で指定解除が,. 3件で一部指定解除が行われている(環境省ホームペー. ジ【http://www.env.go.jp/water/dojo/sekou/shitei.html]の掲載情報による). 0. 7)本稿で「土壌汚染リスク」とは,土地の売買契約,担保権設定契約などの契約締結過程にお いて,当初は当事者間で共通に認識されていなかった土壌汚染が,事後的に発見され,当事 者の-方または双方が当初予期しなかった損害を被る可能性を指すものとする。 8)宅地・公共用地に関する土壌汚染村策研究会2003:5頁,. 19頁o. 9)本稿で「1)ネク分配」とは,契約当事者双方がその負担について予め合意をしておらず,か つ何れの当事者の帰責事由にもよらない損害が発生したために,法律の規定に基づいてその ■負担者を決定することを指す(松尾2004:93-94頁)。 10)民間土地取引と公共用地取得の双方の場面を対象とする取引リスクへの包括的な相応策の模 索を通じ,. 「良好な宅地開発」と「社会資本整備の推進」を一層促.進するという政策目標を. 背景としている点に,. ・土壌汚染問題の本質的特徴がある。こうした≪法政策≫が民間土地取 引や公共用地取得をめぐる ≪法理論≫にどのように反映されるべきか,あるいはただちに反 映されるべきではないかを検証することも,本稿の問題関心の背景には存在する。 (前掲注2. ll) 「『民間土地取引に係る土壌汚染地の取扱実態に関する調査』結果概要」. 『最終報. 告』参考資料16)0. 12)後掲【参考文献】宅地・公共用地に関する土壌汚染対策研究会『報告書』 S章D 13)これらの対策のうち,. 「土壌の特定有害物質による汚染の除去」により,都道府県知事が指. 定区域の全部または一部について「指定の事由がなくなったと認めるとき」は,指定の解除 が行われる(土村法5条4項)0 とは,. 「汚染の除去により-指定の事由がなくなったと認めるとき」. 「土壌中の特定有害物質を取り除くことによ、り,指定区域の指定基準に適合すること. となったこと」を意味する。したがって,指定基準に適合しない土壌汚染が残るもの(原位. 置封じ込め等),土壌の改質により指定基準に適合することとなったもの(原位置不溶化等) が行われた場合などは,それに該当しない(土対法施行について・第4. ・. 1. (3))。 97.

(28) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月) 14)それは,リスクの軽視とリスクへの過剰反応(過剰なリスク回避行動)の双方を適正化し, 「適切な『リスクマネジメント』. (リスクの存在を認識した上で,リスクに見合った科学的で. 合理的な対応を行っていくこと)を確立することが必要」であるとの基本視点に立つもので ある。前掲注8参照。 15)足立2005:. 192-194頁。. 16)柚木-高木2003:. 265頁参照。. 17)この信義則上の義務は,土壌汚染対策法の施行によっても間接的に影響を受け,その内容が 強化・標準化されつつあるといえる。例えば,売主は,土地の利用履歴,周辺の土地の用途, 土壌汚染対策法の区域指定や解除の経緯,土壌汚染に関する調査の内容・手法・前提条件・ 調査結果等,契約の前提となる事実について買主に告知し,かつ告知した旨およびその内容. を明示すべきであり,調べていないことは調べていないということを明確にしておくことが 重要とされる(前掲注12 18)例えば,. 『報告書』4章・2. (1))0. ①消費者契約法3条-5条による売主の情報提供義務の強化がある。また,. ②売主. が宅建業者の場合,土壌汚染等の事実の調査および情報提供に閲し,宅地建物取引業法35 条, 47条,. 31条,. 65粂等が適用される。その際,売主として,媒介契約当事者の場合以上. に,すでに知りまたは知りうべき事実の範囲が広くなるのに応じ,信義則上の調査義務・情 報提供義務,その他の業務上の一般的注意義務(.民法1条2項,宅地建物取引業法31条), および重要な事項の告知義務(宅地建物取引業法47条1号)の範囲も広くなると解される。 それは,地中障害ないし土壌汚染が売買契約後に発覚した場合において,債務不履行責任の 契機になりうると解される。 さらに,買主が不動産仲介業者と不動産媒介契約を締結していたときは,不動産仲介業者 にも目的不動産の情報に閲し,収集・提供の義務が課され,それを通じてリスク分担者とな りうる。かつては宅建業者が負うべき善管注意義務(民法644条)の解釈に閲し,ただちに 「高度の専門的知識や鑑定能力」,. 「専門家的調査」を要求されるものではないとした裁判例. もあるが(後掲注36引用裁判例【1】),その妥当性は再検討の余地がある。とりわけ,土壌 汚染対策法の施行により,宅地建物取引業法施行令が改正され,宅地建物取引業者が行うべ き重要事項説明(宅地建物取引業法35条)の中に,土地の買主等に対し,対象地が土壌汚 染対策法の指定区域内の土地に該当する場合には,土地の形質の変更について,土壌汚染対. 策法9条1項-3項の届出をしなければならない制限がある旨の説明が加えられた (宅地建 物取引業法施行令3条1項31号)。これにより,宅地建物取引業者には,土地取引の媒介に 先立ち,対象地が土壌汚染対策法上の指定区域内にあるか否かを調査・確認する義務が課さ れたといえる。したがって,その過程で知りまたは知りえた事実に関しては,土壌汚染対策 法上の土壌汚染に限らず,規制対象外の土壌汚染,その他の地中障害についても,依頼者に 対する情報提供義務を負うものと解される。また,そのようにして知った土壌汚染,その他 の地中障害の事実に閲し,故意に告げずまたは不実のことを告げることは,禁止行為(宅地 建物取引業法.47条1号)に該当すると解されるし,それに閲し,業務上の注意義務を用いれ .ば知りえたのに,過失によって事実を告げず■または不実の事実を告げることは,信義誠実義. 務(同法31条)に反し,何年の場合も業務停止命令の対象となりうる(同法65条2項2号, 98.

参照

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