人的資源財務会計―プロスポーツ組織における事例から―
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(2) 16. (432). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). (出所)Ocean Tomo LLC, 2016, Annual Study of Intangible Asset Market Value-IAMV に. (出所)Ocean もとづいて筆者加筆修正. Tomo LLC, 2016, Annual Study of Intangible Asset Market Value-IAMV に もとづいて筆者加筆修正.. 図 1 S&P 500 の市場価値の構成要素. 図 0-1. S&P 500 の市場価値の構成要素.. 部管理目的のためにも人的資源会計情報が役立. の貨幣的測定とその伝達利用を通じて人を管理. つことを目標としている.ここでは,人的資源. し,企業の経営効率の上昇だけを意図するもの. 会計を,財務会計と管理会計両面で利用可能な. ではない.むしろ人間資産会計の真の目的は,. ものとして定義づけている.. 人間資産会計を通じて,企業の経営者にたいし. 1. 1. 2 人的資源会計の社会的意義. ては組織のあり方や人事政策の核心にふれた重. 人的資源情報の開示は,経営者による「ヒト」. 要性を示し,また利害関係者にたいしては,人. という内部環境における資源価値の再認識を通. 間資産の情況や経営者の人間資産に対する取り. して,より有能な人材の安定的な確保をもたら. 扱い方を正しく評価せしめることによって社会. すという観点から,経営者にとって重要な意味. 的プレッシャーとして,経営者に間接的に人間. を持つことになる(野口,2003,p. 534) .人的. 資産に対する正しい取り扱い方を促すことによ. (出所)筆者, り,結果において企業内の人々にやる気をよび Miller, 1996, pp.66-68 にもとづいて筆者作成.. 資源情報を現在の社会情勢に適った企業戦略要 素として,企業組織の内部管理統制面からアプ. 起し,生き甲斐をもたせ,その結果として企. ローチすることも,企業発展には大いに有用な 業の経営効率の向上を期待しようとする点にあ 図 1-1. Miller の描く人的資源会計による経済への効果. も の で あ る と い え よ う(若杉,1979,p. 21) .. る.」(若杉,1979,p. 21).. またここからは,企業外部においては,組織の. 1. 1. 3 OECD からのシグナリング. 「知識」を見極めるうえでの優れたツールとな り,ステークホルダーとしての意思決定にも役 立つものであることが示唆される.. 1996 年,OECD は カ ナ ダ 人経済学者 で あ る Riel Miller 博士(以下,Miller)による著書, 実際の取得原価を資産計上.. 支出原価法. 人的資産の測定時点における,取替にか. かわる費用を資産計上. 源は会計学を含む経営学全般において,最も一般 化された呼称である.人的資本は主にマクロ経済 個人が平均残存期間に取得するであろう ての考え方を紹介したい. 給与還元法 給与の総額を現在価値に置き換えて資産 学の分野における呼称である.人的資産は会計上 1) 計上. 「人間資産会計 は 決 し て た ん な る 人間資産 の勘定科目としての呼称であり,より具体的なス 特定の個人が,別の部署から異動の勧誘 キーム を 論 じ を受けた際に,その部署が支払うことが妥 る 際 に 使用 す る.人間資産 は 若杉 せり価格法 当と判断する金額を資産計上. (1979)により使用された呼称である.それぞれの 文脈により,または引用により適宜使用している. 1)本稿 で は,人的資源,人的資本,人的資産, 同業他社の平均を上回る利益について, 人間資産の四通りの表現を使用している.人的資 暖簾評価法 その人的要因による比率を乗じた金額を. ここで,若杉(1979)の人的資源会計につい. 取替原価法. コスト・アプローチ. 資産計上.. インカム・アプローチ 経済価値法. 利益について,その人的要因による比率 を乗じた金額を資産計上.. 一重線は右側でその分類を示す. 二重線は右側でその詳細を示す.. (出所) 筆者,若杉, 1979, pp.90-109 を参照のうえ,筆者作成..
(3) (出所)Ocean Tomo LLC, 2016, Annual Study of Intangible Asset Market Value-IAMV に もとづいて筆者加筆修正. 図 0-1. S&P 500 の市場価値の構成要素. 人的資源財務会計(池田). (433). 17. (出所)筆者, Miller, 1996, pp.66-68 にもとづいて筆者作成.. (出所)Miller, 1996, pp. 66─68 にもとづいて筆者作成.. 図 2 Miller の描く人的資源会計による経済への効果. 図 1-1. Miller の描く人的資源会計による経済への効果.. Measuring What People Know: Human Capital Accounting for the Knowledge Economy を出版 し た.これは,現在の不確実な経済状況に対応で きる能力の向上を,OECD 加盟国国民にもたら すことをコミットするべきである(Miller, 1996,. 競争優位が,経済全体の活性化をもたらすとし, 経済の活性化と変革は人的資本への更なる投資. 支出原価法. 実際の取得原価を資産計上.. と活用へとつながる(Miller, 1996, p. 66)との 人的資産の測定時点における,取替にか 意見を表明している. かわる費用を資産計上.. 取替原価法. コスト・アプローチ. p. 7)との主張のもと,知識経済における知識 の経済的役割の重要性を示唆した論文であり, 経済学の観点から人的資本の重要性が強調され ている. 「現行の財務諸表は,科学と技術によ り高付加価値を生む知識ベースの企業財務を妨 インカム・アプローチ. げている.知識ベースの企業が有する資本の公 的な認知がなされていないためであり,よって, それら企業の本当の価値がわからないのであ る」 (Miller,1996,p. 16,筆者和訳)と の 著者. 個人が平均残存期間に取得するであろう. 給与の総額を現在価値に置き換えて資産 1. 2 リ サーチ・クエスチョンとリサーチ・デ 計上.. 給与還元法. せり価格法. ザイン. 特定の個人が,別の部署から異動の勧誘 を受けた際に,その部署が支払うことが妥. 当と判断する金額を資産計上. 人的資源は重要な経営資源であるにも関わら. ず,なぜオンバランスされていないのか.人的 同業他社の平均を上回る利益について, 資源会計は長い歴史をもつ研究領域である.会 資産計上.. 暖簾評価法. その人的要因による比率を乗じた金額を. 計学のみではなく,経済学など多くの分野で 利益について,その人的要因による比率. 経済価値法. を乗じた金額を資産計上. の英知を集めた領域ともいえる.にもかかわら. ず,なぜ未だに財務会計上での採択がなされ 一重線は右側でその分類を示す.. 二重線は右側でその詳細を示す. ていないのだろうか.この疑問が本研究の根底. を参照のうえ,筆者作成. の危機感が示されている.(出所) 筆者,若杉, 1979, pp.90-109 にあるリサーチ・クエスチョンである.この疑 四角枠は左から分類,方法とその詳細を表し,線によってマッピングされている. Miller は「個人に属した知識の所有権がどこ 問に答えるためには,まずは人的資源会計の企. にあるのか」というアプローチをとり,企業は. 業内外における有用性を検証する必要がある.. 図 2-1. 人的資源の初期資産計上 - コスト・アプローチとインカム・アプローチ. 従業員を支配するのではなく,契約にもとづき そして,現行の財務会計の枠組みの中で,人的. 「個人に帰属するナレッジを賃借(rent)する」. 資源のオンバランス化が理論的に否定されてい. (Miller,1996,p. 50,筆者和訳)と の 考 え 方. ないことを会計基準の研究とケーススタディに. を示している.この見解は,財務会計上のファ イナンスリース会計に通じるものであり,本稿. より検証する.. -1-. 第 3 節の「会計基準との適合性」において議論. 1. 3 見解の提示. を深めたい.. 経営者として組織管理,人的資源管理,企業. Miller は人的資源会計におけるイノベーショ. 戦略の遂行および企業価値の向上を目指すうえ. ンを期待し,人的資源会計による生産性向上と. で,また外部のステークホルダーとして,企業.
(4) 18. (434). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). 価値を正当に評価するうえで,人的資源の会計. 人的資源投資額としてそのまま ROI 算定式の. 上の可視化は有用であることを一つめの見解と. 分母に加えられ,またオンバランス金額に対応. する.. する利益の増加分は分子の利益にプラスされ. また,財務会計上,IFRS などの一般に認め. る.このような ROI の修正は,企業の収益力の. られた会計原則(GAAP)では,人的資源の財. 測定,評価に影響を及ぼす可能性があると考え. 務諸表計上は否定されていないことを二つめの. られる(若杉,1979,pp. 244─246).さらにそ. 見解とし,議論をすすめたい.. れにより,どの時点の経営者に責任が問われる. 2.人的資源の会計上可視化の有用性について. かが明確化され,記録として残るのである.こ れらの点からも,人的資源の財務諸表への計上. 本節では,半世紀以上に及ぶ,人的資源会計. が,利害関係者にとって有用であることがわか. の先行研究において主張された人的資源会計の. る(若杉,1973,pp. 22─23).また,財務諸表を. 有用性の論点をまとめ,併せてオンバランス化. 中心とした各種財務分析や,アカウンタビリ. のアプローチや方法論も整理する.後半では先. ティの観点からも,人的資源のオンバランス化. 行研究により提示されたアプローチを用い,実. には多くの有用性がここに示唆されている.. 際の 企業 の 財務諸表上に人的資産の計上をシ. ある資産に形がないからという理由から,そ. ミュレーションする.そこから,有用性につい. れが無価値だということにはならない(Hea-ly. ての議論を深めたい.. et al,2000,斎藤監訳,p. 94).それどころか, 知識による企業間での競争が激しくなっている. 2. 1 先行研究 レ ビュ-― 人的資源 の オ ン バ ランス化の有用性とアプローチ. 今日においては,多くの企業にとってこの種の 資産は,もっとも高い価値を持っているのでは. 2. 1. 1 経営者にとっての有用性. ないだろうか.会計専門家が,それら無形資産. 経営者 が 経営計画の策定を行うにあたって. の評価や財務諸表計上を怠っているとしても,. は,有形資産に関する会計情報だけではなく,. 投資家にとっても経営者にとっても,それら形. 人的資源などの無形資産の情報を利用すること. のない資産の重要性が減るわけではない.財務. により,いっそう合理的な意思決定を行うこと. 諸表に計上されていない現状において,投資家. ができる(照屋,1993,p. 43) .また,若杉(1973). はそれらの資産についての情報源を他に求めな. では,利益計画に基づいた予算編成を行うにあ. くてはならない(Healy et al,2000,斎藤監訳,. たっても,人的資源への投資額のオンバランス. p. 94)のが現状である.. 化は,管理者 や 従業員の追加採用,後任補充,. 2. 1. 3 オンバランス化のメリットとデメリット. 訓練開発の効果もしくは償却や減損にともな. 若杉(1973,1979),菅原(2001),内山(2011). う,投資額ベースにおける人的資源の簿価の増. の先行研究を参考にしながら,人的資源のオン. 減が期間計画の中に取り入れられるなど,より. バランス化によるメリット・デメリットを洗い. 精度の高い投資管理を可能にするとの主張がな. 出してみたい.. されている.. まずメリットとしては,(1)人的資産がオン. 2. 1. 2 外部の利害関係者にとっての有用性. バランスされることで,財務諸表が人的資産の. 従来,財務報告上限定的であったヒトに関す. 分だけ膨らみ,経営者の責任が拡大する(若杉,. る会計情報を,意思決定のための財務情報に加. 1973,pp. 23─24).(2)ヒトの活躍により業績. えることによって,従来とは異なる意思決定の. が変動する企業,例えば IT 関連企業などの知. 結果が,特に投資家へもたらされることが考え. 識に頼る企業とそうでない企業を,より近い条. られる.一例として,人的資源の資産計上額は,. 件で評価することが可能になる.(3)将来の支.
(5) (出所)筆者, Miller, 1996, pp.66-68 にもとづいて筆者作成. 図 1-1. Miller の描く人的資源会計による経済への効果. 人的資源財務会計(池田). 支出原価法. 実際の取得原価を資産計上.. 取替原価法. 人的資産の測定時点における,取替にか かわる費用を資産計上.. 給与還元法. 個人が平均残存期間に取得するであろう 給与の総額を現在価値に置き換えて資産 計上.. せり価格法. 特定の個人が,別の部署から異動の勧誘 を受けた際に,その部署が支払うことが妥 当と判断する金額を資産計上.. (435). 19. コスト・アプローチ. 暖簾評価法. 同業他社の平均を上回る利益について, その人的要因による比率を乗じた金額を 資産計上.. 経済価値法. 利益について,その人的要因による比率 を乗じた金額を資産計上.. インカム・アプローチ. 一重線は右側でその分類を示す. 二重線は右側でその詳細を示す.. (出所)若杉,1979, pp. 90─109 を参照のうえ,筆者作成. (出所) 筆者,若杉, 1979, pp.90-109 を参照のうえ,筆者作成. 四角枠は左から分類,方法とその詳細を表し,線によってマッピングされている.. 四角枠は左から分類,方法とその詳細を表し,線によってマッピングされている.. 図 3 人的資源の初期資産計上―コスト・アプローチとインカム・アプローチ 図 2-1. 人的資源の初期資産計上 - コスト・アプローチとインカム・アプローチ.. 払いが想定される支出をもとに計上される場合. チとインカム・アプローチにわかれる.その後. には,投資家が経営陣の経営判断を評価する基 -1準となりうる.このようにしてまた,それによ. の研究においても,両アプローチが人的資源会. り的確な給与水準が求められ,人的資源をはじ. チは有形固定資産に近い考え方である.特に支. め各種資源の適正配分が行われると考えられる. 出原価法と取替原価法は,収益・費用を対応さ. (若杉,1973, p. 24) .. 計の前提と捉えられている.コスト・アプロー. せることを目指しているため,会計原則との親. 以上のメリットに対して,デメリットを以下. 和性も高いと考えられている.. に列挙する. (1)計算の煩雑さがあるために企. インカム・アプローチは,将来の利益の流れ. 業に実務的な負担を強いることになる. (2)ヒ. を年度毎に予想し,それを現在価値に割り引く. トを正規社員として雇用することで,自己資本. ことにより算定するものである.そして,総投. 比率や負債比率の増加につながり,採用を差し. 資額に占める人的資源投資比率を現在価値額に. 控える傾向が高まることが予想できる. (3)制. 乗じて,人的資源の評価額とする方法である. 度会計として成立させるためには,会社法や税. (若杉,1979,pp. 100─101).つ ま り 将来 の 便. 法との関係で配当規制や課税範囲を改める必要. 益が測定の基礎となっている.また,インカム・. 性が考慮される.. ア プ ローチ で は,コ ス ト・ア プ ローチ の 欠点. 以上のように,運用面でのメリットが多く見. であった「人的資源の価値評価」を克服するた. 込まれ,その有用性が強調された.一方,実務. め,人的資源の本質的な価値を初期計上の段階. 面におけるデメリットが考えられ,実行段階で. から算定することを目指すことができるとされ. の課題が多々あることがわかった.. ている.市場との比較と企業固有の成果という. 2. 1. 4 人的資源の初期資産計上. 観点からは,上記に示したようなインカム・ア. 若杉(1973,1979)では,人的資源の基本的. プローチは,価値評価として意味のあるものだ. なオンバランス化は,大きくコスト・アプロー. と示唆される.しかし,インカム・アプローチ.
(6) 20. (436). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). ( ー. サ. ビ ス ・ グ ル. ー ). 地 位 ・ 職 位. プ. サービス・グループ (業績). (出所)若杉 , 1973,若杉, p. 195 図 10─3 を筆者加筆修正. (出所) 1973, p.195 図 10-3 を筆者加筆修正. 個人の人的価値を地位・職位,業績,時間の経過という三次元において測定する試み.図内の矢印は低い(少ない)から 個人の人的価値を地位・職位,業績,時間の経過という三次元において測定する試み.図内の矢印は低い(少ない)から高 高い(多い)へ移動する.なお,黒丸は個人を指し,その位置が各人の人的資源価値を表す. い(多い)へ移動する.なお,黒丸は個人を指し,その位置が各人の人的資源価値を表す.. 図 4 Flamholtz のサービス・報酬に関する確率過程の 3 次元モデル. 図 2-2. Flamholtz のサービス・報酬に関する確率過程の 3 次元モデル.. による当初の測定は,経営者の期待を測定に織. ケーションの質,協働的チームワークの構築力. り込むことになり客観性担保についての問題が. などの組織特性の違いによるものであると指摘. ある(野口,2003,p. 524) .. する.個人の技量や能力は,自由意思にしたがっ. 2. 1. 5 人的資源の事後測定. 原因変数 原因変数. 初期の計上と償却に関しては,財務会計上の シ. ス 有形固定資産と同様の方法が考えられるが,償 支持関係の原理 テ. て主体的に発揮されるものではなく,個人が企 媒介変数. 結果変数. 業に所属する限り,個人そのものが持つ技量・ 上司に対する好意的な態度. 能力も組織の性格や質の如何によって左右され 高い相互影響 低い欠勤及び転職 高い信用と信頼. すぐれたコミュニケーション(上下左右) 同僚集団に対する高い帰属意識. 却期間とその方法については深い議論が必要に 4. るために,組織そのものが個人の企業への貢献. なる.また人的資産特有の価値評価である自然 多元的重複集団構造におけ. 高い生産性 の度合いや業績を決定する(若杉,1973,pp. 少ないスクラップ. ム. 発生的な増価と減損の概念についても考慮する る集団的意思決定. 50─51)という認識である.. 低い原価 高い収益. 各階層における同僚の高い業績 目標(生産性,品質,スクラップに関して). 必要がある(若杉,1973,pp. 103─107) .. Likert(1967)が提唱する「行動科学的変数. 人的資源の測定の対象については,Flamholtz. 短期間での高い生産性 法」とは,経営方針や経営者のリーダーシップ 恐怖にもとづく服従 長期間での低い生産性及び. 高い業績目標. (1972)の個人価値説と Likert(1967)の人的組織 シ ス テ ム 1 ま た は 2. 収益性 など,企業における発展方向と企業が達成する 非好意的態度(例えば、信用や信頼がほ. 価値説の 2 つの主張がある.Flamholtz(1972) 強い圧力:厳格な作業基準,. 成果 と を 決定 す る 独立変数 た る「原因変数」, まずいコミュニケーション. は,研究の基礎単位(basic unit)に個人を選択. 従業員の企業に対する忠誠度や態度,動機づけ. した理由として,次の 2 点をあげている.第 1 に,. といった原因と結果を関連づける「媒介変数」 , 高い欠勤及び転職. 選抜や訓練,配置,職務,昇進,報酬といった これらの変数の存在が. そして生産性,製品・サービスの質,収入,利 これらの変数をもたらし これらの変数を導く. 人員制限,厳格な予算(いず れも課せられたもの). とんどない). 低い水準の影響力 低い水準の協働的動機づけ 同僚の低い業務目標 生産高の制限. 益といった,人的資産による成果を表す「結果 (出所) Likert, 1967,,三隈訳,p.172 図 8-1 を筆者加筆修正. 変数」の 3 つの変数により,組織の価値測定を 第 2 に,個人価値の総計による人的組織の価値 意思決定の焦点が個人を中心としていること.. 太枠は原因,媒介,結果それぞれの変数であり,内部にある枠内に主な原因,媒介とそれらによりもたらされる結果を記した. 測定が概ね可能であることである.Flamholtz. 試みるものである(図 5).. 図 6 は,内山(2010)をもとに,管理会計の (1972)では,企業内での個人の評価は図 4 で示 図 2-3. Likert の 3 つの変数による人的資源の測定・評価. すように,地位・職位,業績,時の経過の 3 次. 観点からコスト・アプローチを用いた場合の人. 元での計測が提案されている.. 的資源会計の流れを記したものである.矢印は. たいして Likert(1967)は,企業価値を,①. コスト投入からの流れを示す.個人も人的組織. 組織の有する生産能力の価値および,②顧客信. もコストを成果に変えるべき人的資源の構成に. 用の価値とした上で,企業間での人的資産の経. インタンジブルズとしての人的資源 おいては一体である.違いは,インプットであ. 済的価値 の 差異 は リーダーシップ や コ ミュニ コスト. るコストの発生に直接的に影響を受けるのは個. 個人の知識・ 能力・動機づけ. コスト(犠牲価値) に基づく測定. 人的組織の知識・ 能力・動機づけ. 成果(効益価値) に基づく測定. 成果.
(7) 図 2-2. Flamholtz のサービス・報酬に関する確率過程の 3 次元モデル.. 原因変数 原因変数 シ ス テ ム 4. 媒介変数. 支持関係の原理. 原因変数 原因変数 シ ス テ ム 4. 結果変数. 上司に対する好意的な態度 人的資源財務会計(池田) 高い信用と信頼 高い相互影響 すぐれたコミュニケーション(上下左右) 同僚集団に対する高い帰属意識 媒介変数. 多元的重複集団構造におけ る集団的意思決定 支持関係の原理. (437). 21. 低い欠勤及び転職. 結果変数 高い生産性 少ないスクラップ 低い原価 高い収益 低い欠勤及び転職. 上司に対する好意的な態度 高い信用と信頼 高い相互影響 各階層における同僚の高い業績 すぐれたコミュニケーション(上下左右) 目標(生産性,品質,スクラップに関して) 同僚集団に対する高い帰属意識. 高い業績目標 短期間での高い生産性 高い生産性 長期間での低い生産性及び 少ないスクラップ 低い原価収益性 高い収益. 恐怖にもとづく服従. 多元的重複集団構造におけ る集団的意思決定 シ ス 強い圧力:厳格な作業基準, テ 人員制限,厳格な予算(いず 高い業績目標 ム れも課せられたもの) 1 ま た は 2 これらの変数の存在が 強い圧力:厳格な作業基準, 人員制限,厳格な予算(いず れも課せられたもの). 非好意的態度(例えば、信用や信頼がほ とんどない) 各階層における同僚の高い業績 まずいコミュニケーション 目標(生産性,品質,スクラップに関して) 低い水準の影響力 低い水準の協働的動機づけ 恐怖にもとづく服従 同僚の低い業務目標 生産高の制限 非好意的態度(例えば、信用や信頼がほ とんどない) これらの変数をもたらし まずいコミュニケーション 低い水準の影響力 低い水準の協働的動機づけ 同僚の低い業務目標 を筆者加筆修正. 生産高の制限. 短期間での高い生産性 長期間での低い生産性及び 収益性 高い欠勤及び転職. シ ス これらの変数を導く テ ム 1 ま (出所) Likert, 1967,,三隈訳,p.172 図 8-1 た 高い欠勤及び転職 は 太枠は原因,媒介,結果それぞれの変数であり,内部にある枠内に主な原因,媒介とそれらによりもたらされる結果を記した. 2 これらの変数の存在が これらの変数をもたらし これらの変数を導く. (出所)Likert, 1967,三隈訳,p. 8─1 を筆者加筆修正. 図172 2-3.図Likert の 3 つの変数による人的資源の測定・評価. (出所) Likert, 1967,,三隈訳,p.172 図 8-1 を筆者加筆修正. 太枠は原因,媒介,結果それぞれの変数であり,内部にある枠内に主な原因,媒介とそれらによりもたらされる結果を記した. 太枠は原因,媒介,結果それぞれの変数であり,内部にある枠内に主な原因,媒介とそれらによりもたらされる結果を記した.. 図 5 Likert の 3 つの変数による人的資源の測定・評価. 図 2-3. Likert の 3 つの変数による人的資源の測定・評価. インタンジブルズとしての人的資源. コスト. 個人の知識・ 能力・動機づけ. 人的組織の知識・ 能力・動機づけ. 成果. インタンジブルズとしての人的資源. コスト. 個人の知識・. コスト(犠牲価値) 能力・動機づけ に基づく測定. 人的組織の知識・ 成果(効益価値) 成果 能力・動機づけ. に基づく測定. (出所)内山,2010, p. 312 図表 5 を筆者加筆修正.. (出所) 内山, 2010, p.312 図表5.を 筆者加筆修正. コスト(犠牲価値) 成果(効益価値) に基づく測定 に基づく測定 図 6 犠牲価値と効益価値 図 2-4. 犠牲価値と効益価値.. (出所) 内山, 2010, p.312 図表5.を 筆者加筆修正.. 人の側であるのに対し,アウトプットである成. 2. 2. 1 概 要. 果は人的組織から発せされるという点である. - 2 - 若杉(1979)により提示されたオンバランス 図 2-4. 犠牲価値と効益価値. ここでは,コストをもとに人的資源価値を測定. 化のアプローチのうち,今回はコスト・アプ. する試みが犠牲価値であり,成果に基づいて測. ローチ を 採用 し シ ミュレーション を し て み た. 定する人的資源価値が効益価値とされている. -2-. い.コスト・アプローチのなかでも,個人支出. 2. 2 シミュレーション. 人支出である利用費としての給与還元法,以上. 先行研究により提示された手法を用いてシ. 2 つの方法を用いたシミュレーションを行う.. ミュレーションを行い,実務面での人的資源会. 2. 2. 2 対象企業の選定基準. 計の有用性と,財務諸表に与えるインパクトを. 本シミュレーションにおいては,東証一部上. 確認してみたい.. 場企業よりある 1 社を選択し,同社が一般に開. である開発費としての支出原価法と,同じく個.
(8) 22. (438). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). 示している IR 情報と,各研究機関が公開して. いる.以上の情報から,費用が発生する off-JT. いるデータをもとにシミュレーションを実施し. 教育訓練 の 標準的 な 受講間隔 を,簡便的 に 標. た.今回選んだ企業は,東証一部上場の化学素. 準的な必要滞留年数の半分である 3.5 年と見積. 材メーカー K 社である.選定理由として,創業. もった.なお,償却方法は教育訓練の効果が均. 92 年(2016 年度末現在)という比較的長い社歴 があること,比較可能性の観点から,有形固定. 等に顕在化すると仮定し,定額法を採用した (詳細は表 1 を参照されたい).. 資産も有している製造業であること,比較的継. 2. 2. 4 シミュレーション②―給与還元法. 続的に利益を上げている企業であること,また. もう一つのシミュレーションとして,給与還. 規模的に大き過ぎず,しかし海外進出など現在. 元法を行ってみたい.これも若杉(1979)が提. 必要とされているグローバル化をなし得ている. 唱するもので,コスト・アプローチの中で,個. 企業であることを考慮した.2016 年 12 月期決. 人単位の利用費に該当するものである.若杉. 算数値をもとに,その有価証券報告書として公. (1979)によると,全従業員の生涯報酬の現在価. 開されている財務諸表を用いて,以下 2 点のシ. 値を資産計上することは,理論的には企業価値. ミュレーションを加え,比較検討を行いたい.. を計測する合理的な方法の一つであると示唆さ. 2. 2. 3 シミュレーション① ―支出原価法. れている.「人間がその持てる資源性を十分に. 本シミュレーションでは,支出原価法の対象. 顕在化できるには,どのような条件が整備され. として,教育訓練費用を取り上げた.教育訓. ねばならないのか」という観点から,賃金の制. 練費用は,人的資源価値の増加に大きな影響を. 度と水準の適切な管理を第一義的に考えるもの. 与える要因である.人の持っている可能性を潜. で あ る(二神,2000,p. 198)と と ら え,従業. 在能力というが,潜在能力は,開発されなけれ. 員への報酬は,基本的には各従業員個々の企業. ば,何かを実行する際に役立つ能力(顕在能力). 内での価値を示しているものとの考えからである.. に は な ら な い(佐藤他,2015,p. 152) .こ こ. 給与水準は,基本的に労働力の需要と供給の. に教育訓練そのものと,その管理の重要性が示. バランスで決まる.多くの企業が必要とする能. 唆される.本シミュレーションでは,人的資源. 力をもっている人材の賃金は,通常,需要量が. の価値向上に直接的影響を与える教育訓練費の. 供給量を上回るので高くなる.逆に,企業に. みを考慮に入れた.. とって 魅力的 で は な く なった 能力 を もって い. 教育訓練額は,産労総合研究所による調査結. る人の賃金は低下していく(佐藤他,2015,p.. 果である一人当たり年間平均額 35,662 円とい. 103).報酬そのものが,個々人の企業内におけ. う額を今回のシミュレーションに使用すること. る価値評価の結果算出されたものとなり,人的. とする.また,償却期間は教育訓練の本来の目. 資源の価値を表しているとの主張である.給与. 的に添って,それを達成すべき期間をその償却. 還元法は,次節で考察するリース会計にみる使. 期間とした.費用が発生する off-JT の特色をま. 用権モデルの概念を援用するため,財務会計と. とめると,ある役職に昇進したときや入社後一. の親和性も高まる可能性を考慮した.シミュ. 定年数が経過したときに,共通の要素をもち,. レーションの元になる数値一覧は,表 1 を参照. これからの飛躍が期待される従業員を集めて教. されたい.なお,割引率に付いては,通常企業. 育を行うものが,off-JT の主要な部分を占める. が投資判断に用いる WACC を採用した.これ. 階層別教育である(佐藤他,2015,p. 168) .. は資産の有形無形にかかわらず,より適切な資. また,2009 年, (財)労務行政研究所によって. 源配分を並列に判断できるようにと,考慮して. 行われた調査で,標準的な昇進年齢は係長 32.7. のことである.. 歳・課長 39.4 歳・部長 47.0 歳 と の 統計 が 出 て.
(9) 人的資源財務会計(池田). (439). 23. 表1 シミュレーションの元になる数値,条件一覧 2-1. シミュレーションの元になる数値,条件一覧. 表. (出所)筆者. (出所) 筆者.. 2. 3 人的資源の会計上可視化の有用性につい 2016年12月期 教育訓練資産追加 給与還元法追加 貸借対照表 (UNIT:百万円) てのまとめ 資産の部 324,971 325,171 325,171 流動資産 表 2 は,人的資源会計を加えた K 社貸借対照 51,437 51,437 51,437 現預金 表および財務数値の比較表である. まず, シミュ 105,010 105,010 105,010 売掛 39,064 39,064 39,064 有価証券 レーション①の支出原価法による教育訓練費の 111,268 111,268 111,268 在庫 5,974 6,174 6,174 繰延税金資産 資産計上である.これは財務諸表において,相 12,669 12,669 12,669 その他 -451 -451 -451 貸倒引当 対的には大きなインパクトを与えるものではな 351,363 351,888 681,036 固定資産 いことが見て取れる.教育訓練費は一般管理費 271,826 271,826 271,826 有形固定資産 54,343 54,343 54,343 建物,構造物 のうちの少額部分であり,金額的規模の小さな 162,963 162,963 162,963 機械,運搬具 19,526 19,526 19,526 土地 ものだからである.今回は,同じ額の教育訓練 29,904 29,904 29,904 建設仮勘定 費が,仮定として 4 年前より既に資産計上して 5,090 5,090 5,090 その他 79,537 80,062 406,735 無形固定資産 いるとの前提でオンバランスした.したがっ 26,256 26,256 26,256 のれん 28,880 28,880 28,880 顧客関係資産 て,減価償却費は 1 年分の教育訓練費と同額と 24,401 24,401 24,401 その他 なり,収支への影響はない. 1,225 1,225 教育訓練資産 -700 -700 教育訓練資産償却費累計 教育訓練資産のオンバランス化は,企業の教 328,421 給与還元法人的資産 49,093 49,093 49,093 投資その他育訓練に対するフィロソフィーを資産という結 725,427 726,152 1,054,573 資産合計. 果として可視化することに他ならず,企業の人. 損益計算書 売上 売上原価 売上利益 営業・一般管理費 営業利益 営業外損失 経常利益 特別損失 税引き前当期純利益. 485,192 317748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512. 485,192 617748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512. 485,192 317,748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512. 事面での方針を知るうえで有用であると考えら 2016年12月期 教育訓練資産追加 給与還元法追加 れる.また,経営管理面では,若杉(1979, pp.. 負債の部 96,134 96,134 96,134 流動負債 213─225)が指摘する費用対効果検証の観点か 36,424 36,424 36,424 買掛 らも,収益の過年度との比較に教育訓練資産の 7,626 7,626 7,626 短期借入 18,354 18,354 18,354 未払費用・法人税 増減を加味することにより,実施した教育訓練 33,730 33,730 33,730 その他 108,315 108,315 437,463 固定負債 の合理性や改善点などの発見にも役立つもので 10,000 10,000 10,000 社債 42,172 42,172 42,172 長期借入 あることが示唆された. 25,442 25,442 25,442 繰延税金負債 次 に,シ ミュレーション で 19,523 19,523② の 給与還元法 19,523 各種引当金 11,178 11,178 11,178 その他 は,今回は単純に資産と負債,同額を計上した 328,421 給与還元法人的負債 204,449 204,449 533,597 負債合計 ものであるが,減損,増価などの事後測定のス 純資産の部 キームを開発することにより,資産と負債の間 476,438 477,163 477,163 株主資本 88,955 88,955 88,955 資本金 にバランスが発生することになる.給与還元法 87,178 87,178 87,178 資本剰余金 304,277 305,002 305,002 利益剰余金 では,金額的には貸借対照表に大きなインパク -3,972 -3,972 -3,972 自己株式 トが発生した.総資産回転率は低下するものの, 36,521 36,521 36,521 その他包括利益累計額 719 719 719 新株予約権 財務レバレッジがその分上昇することにより, 7,300 7,300 7,300 非支配株主持分 520,978 521,703 521,703 純資産合計 結果として ROE には影響を及ぼさない.しか 725,427 726,152 1,054,573 負債・純資産合計. し有形固定資産総額を上回る人的資産計上によ. 財務分析 流動比率 当座比率 自己資本比率 D/E ratio ROA ROE. 純利益率 総資産回転率 財務レバレッジ. 338.04% 162.74% 91.45% 10.45% 9.50% 8.00% 8.33% 0.67 1.44. 338.25% 162.74% 91.46% 10.44% 9.49% 7.97% 8.33% 0.67 1.43. 338.25% 162.74% 91.46% 10.44% 6.66% 7.97% 8.33% 0.46 2.08.
(10) 24. (440). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). (出所) 筆者.. 表 2 人的資源会計を加えた K 社貸借対照表および財務数値の比較 貸借対照表 (UNIT:百万円) 資産の部 流動資産 現預金 売掛 有価証券 在庫 繰延税金資産 その他 貸倒引当 固定資産 有形固定資産 建物,構造物 機械,運搬具 土地 建設仮勘定 その他 無形固定資産 のれん 顧客関係資産 その他 教育訓練資産 教育訓練資産償却費累計 給与還元法人的資産 投資その他 資産合計 損益計算書 売上 売上原価 売上利益 営業・一般管理費 営業利益 営業外損失 経常利益 特別損失 税引き前当期純利益 純利益 親会社株主に帰属する純利益. 2016年12月期. 教育訓練資産追加. 324,971 51,437 105,010 39,064 111,268 5,974 12,669 -451 351,363 271,826 54,343 162,963 19,526 29,904 5,090 79,537 26,256 28,880 24,401. 325,171 51,437 105,010 39,064 111,268 6,174 12,669 -451 351,888 271,826 54,343 162,963 19,526 29,904 5,090 80,062 26,256 28,880 24,401 1,225 -700. 49,093 725,427. 49,093 726,152. 485,192 317748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512 41,204 40,400. 485,192 617748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512 41,204 40,400. 2016年12月期. 給与還元法追加. 負債の部 325,171 流動負債 51,437 買掛 105,010 短期借入 39,064 未払費用・法人税 111,268 その他 6,174 固定負債 12,669 社債 -451 長期借入 681,036 繰延税金負債 271,826 各種引当金 54,343 その他 162,963 給与還元法人的負債 19,526 負債合計 29,904 純資産の部 5,090 株主資本 406,735 資本金 26,256 資本剰余金 28,880 利益剰余金 24,401 自己株式 1,225 その他包括利益累計額 -700 新株予約権 328,421 非支配株主持分 49,093 純資産合計 1,054,573 負債・純資産合計 485,192 317,748 167,440 99,616 67,827 1,646 66,181 5,669 60,512 41,204 40,400. 財務分析 流動比率 当座比率 自己資本比率 D/E ratio ROA ROE 純利益率 総資産回転率 財務レバレッジ EBIT NOPAT. 教育訓練資産追加 給与還元法追加. 96,134 36,424 7,626 18,354 33,730 108,315 10,000 42,172 25,442 19,523 11,178. 96,134 36,424 7,626 18,354 33,730 108,315 10,000 42,172 25,442 19,523 11,178. 204,449. 204,449. 96,134 36,424 7,626 18,354 33,730 437,463 10,000 42,172 25,442 19,523 11,178 328,421 533,597. 476,438 88,955 87,178 304,277 -3,972 36,521 719 7,300 520,978 725,427. 477,163 88,955 87,178 305,002 -3,972 36,521 719 7,300 521,703 726,152. 477,163 88,955 87,178 305,002 -3,972 36,521 719 7,300 521,703 1,054,573. 338.04% 162.74% 91.45% 10.45% 9.50% 8.00% 8.33% 0.67 1.44 58,385 40,884. 338.25% 162.74% 91.46% 10.44% 9.49% 7.97% 8.33% 0.67 1.43 58,385 40,884. 338.25% 162.74% 91.46% 10.44% 6.66% 7.97% 8.33% 0.46 2.08 58,385 40,884. (出所)筆者.点線で囲んだ部分が,人的資源会計によって影響を受けた部分.. - 3 - の財務諸表計上を否定していないという二つめ の見解について解明する.人的資源をオンバ 人的資産がすなわち企業の人的資源の現在価 ランスすることの可能性を,IFRS 会計基準と 値を示すことになる(若杉,1979,pp. 101─103) という観点から,企業の本業によるアウトプッ 照合しながら議論する.ケーススタディでは, ト で あ る 営業利益,EBIT ま た は EBITDA を ヨーロッパのプロスポーツ組織の人的資源会計 の事例を分析し,財務諸表の構成要素の基礎概 人的資産で除した指標 ROHR(Return on Human 念上の適合性を解明する. Resources)を新たな財務指標モデルとして提 案する.これは,年度または企業間での比較可 3. 1 会計原則の研究 能性を高める財務指標となるのではないかと考 3. 1. 1 IAS38 号 お よ び IASB 概念 フ レーム える. 今回のシミュレーションを考察する限り, ワーク 何点かのメリットを見出すことができた. IFRS の IAS38 号 に よ れ ば,無形資産 と は 3.会計基準との適合性について 「商品やサービスの生産または提供に使用する ため,第三者への貸与のため,または管理目的 本節では,財務会計上,IFRS などの一般に のために保有する物的実態を有さない(しか 認められた会計原則(GAAP)では,人的資源 り,ROA は希薄化する..
(11) 人的資源財務会計(池田). (441). 25. し)識別可能な非貨幣性資産である」 (IAS, 38. 員が仕事にもたらす,多くの場合専門化した知. 号抜粋のうえ筆者和訳)と定義されている.ま. 識および経験)を表すものではない.集合的な. た,IASB の概念フレームワーク(2018)で規. 人的資源はのれんと区別して認識される識別可. 定する資産の定義は「企業が過去の事象の結果. 能な資産ではないため,それに帰属する価値は. として支配している現在の経済的資源」 (IASB. すべてのれんに包括される. 」 (IFRS 第 3 号適用. 概念フレームワーク,2018:デロイトトーマツ. 指 針 B37;角 田,2010,pp. 51─52).し か し,. HP,2018)とされている.2018 年の改定として,. ここには同じ人的資源であっても,保有してい. 経済的資源の独立の定義を導入し,経済的便益. るものはオンバランス化されず,企業結合にお. の将来フローへの参照を,資産および負債の定. いて買収したものはオンバランスされるという. 義の外に移動したことがあげられる.単に「資. 矛盾が残る.識別可能性は次項で議論する支配. 源」でなく「経済的便益」という表現は,IASB. の要件と密接な関連性を有している可能性もあ. はもはや資産を物理的実体としてではなく権利. る た め,前述 の IAS 第 38 号 12 項 の 条文 お よ. のセットとして考えていることを強調している. び,2018 年の IASB 概念フレームワークを参照. (デロイトトーマツ,2018) .. しながら,次項の「支配」の要件と併せて,さ. 3. 1. 2 「将来の経済的便益」について. らに議論を深めたい.. たとえば,企業が教育訓練を従業員に施す目. 3. 1. 4 「支配」について. 的は,従業員の能力を向上させ,人的資源価値. 最後に「支配」の概念について検討したい.. を向上させることで,企業にとっての将来の経. 「支配」は,前述したように将来の経済的便益. 済的便益を期待してのことである.つまり,教. を獲得する能力を有し,かつ,他者による便益. 育訓練という資産への投資と解釈できる.給与. の利用を制限する能力であるため,人的資源が. は,労働の対償という性格と,企業側にとって. これを満たしているかが論点となる.企業の従. は従業員価値の水準,つまり人的資源の価値評. 業員は,特別な契約を結んでいない限り自由意. 価の結果という性格も持ち合わせている.企業. 思で退職ないし転職することが可能であるた. は当然にして,将来の経済的便益が見込めない. め,支配という点において資産としては当ては. 案件には投資は行わない.有形資産と何らかわ. まらないおそれが示唆される.. りなく,人的資源を将来キャッシュフロー創出. 人的資源の支配について,IFRS では次のよ. の源泉と捉えるならば,オンバランス化におけ. うに示されている.「熟練した職員のチームお. る「将来の経済的便益」の要件は必然的に満た. よび訓練から生ずると期待される将来の経済的. していることが示唆される.. 便益に対する企業の支配力は,通常,これらの. 3. 1. 3 「識別可能性」について. 事項が無形資産の定義を満たすと考えるのには. 次に「識別可能性」について検討したい.人. 十分ではない.ただし,その使用およびそれか. 的資源に関して IFRS では,識別可能ではない. ら予想される将来の経済的便益の入手が法的. との見解を,以下のように示している. 「取得. 権利により保護されており,またそれが定義の. 企業は,取得時点で識別できない,取得された. ほかの部分も満たす場合は,その限りではない. 無形資産の価値をのれんに包括する.例えば取. ( IAS 第 38 号 15 項).」(角 田,2010,p. 52 ).. 得企業は,集合的な人的資源,すなわち取得企. この記述では,IFRS において人的資源は,「法. 業が取得した事業を取得日から継続して運営で. 的権利による保護」の要件を満たしていない可. きるようにする既存の従業員の集合体に,価値. 能性が示されている.. を帰属させることがある. 集合的な人的資源は,. 若 杉( 1973, pp. 51─53;1979, pp. 272─275). 熟練した労働力の知的資本(被取得企業の従業. の見解は,個人の企業に対する帰属意識がそれ.
(12) 26. 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). (442). 契約金 (Signing-on Fee). 移籍 移籍元クラブ. 移籍先クラブ. 選手登録料=移籍金 (Registration Fee) (出所)筆者.. 人のイラストは選手を表す. (出所)筆者. 縞線は選手の動き,他の曲線は,移籍によって発生する金員の支払元と支払先を示す. 人のイラストは選手を表す. 縞線は選手の動き,他の曲線は,移籍によって発生する金員の支払元と支払先を示す.. 図 7 選手の移籍により発生する金員の流れ―選手登録料と契約金 図 3-1. 選手の移籍により発生する金員の流れ - 選手登録料と契約金.. に代替されるものと考えている.そして帰属意 識を高めることこそ,組織としての人的資源の. 3. 2 ケーススタディ・プロスポーツ組織にお ける事例. 価値を向上させ,更には企業価値を上げる大き. 本項では,プロスポーツ組織の事例を分析し. な要因であるとしている.. てみたい,前節で議論した給与還元法とは異な. るアプローチによる人的資源の価値評価の実例 3. 1. 5 無形資産の定義の充足に関するまとめ 表 3-1. MU の無形固定資産調整表. 以上,人的資源 が 無形資産 の 定義 を 充足 す. を参照し,オンバランス化について別の角度か. るかという問題にたいして,IFRS を規定する. ら会計基準との適合性を検討したい.. IASB の 見解 の 検討 を 行った. 「支配」と「識. 3. 2. 1 ケーススタディ①―マンチェスターユ. 別可能性」という要件についてはさらに深く考. ナイテッドの事例. 察を加える必要がある.人的資源に対する企業. プロサッカー選手とプロサッカークラブとの. 主体の投資は,タンジブルズに対する投資とは. 関係は,選手がクラブと契約して報酬を受け取. 異なり,多くの無形資産に対する投資とも異な. る見返りとして,サッカーをプレーするという. る.なぜならば,従業員はいつでも会社から退. サービスをクラブに提供し,その結果としてク. 出することができ,個々の能力として,知識と. ラブは観客の入場料やテレビ放映権料,スポ. スキルを持ち出すことができるからである.し. ンサー契約料などの収益を得るというもので. かしながら,このことは企業がインタンジブル. ある.ここでサッカーをプレーするというプロ. ズの開発,維持,そして活用に関して何ら影響. サッカー選手のサービスを,プロサッカークラ. 力を及ぼし得ないことを意味している訳ではな. ブが契約期間内は独占して受けられるという法. い.事実,企業の人事政策,経営管理政策,そ. 的 な 権利 が 選手登録権(registration)で あ る. して 研修方針 な どは企業の生産性,イノベー. (角田,2006,p. 84).図 7 が,以上 の 内容 を. ション力,そして収益性にきわめて大きな影. まとめたものである.. 響を及ぼし得る(Blair and Wallman, 2002, pp.. 以 下,英 国 プ レ ミ ア リーグ・Manchester. 94─95)からである.. United(以下,MU)の年次報告書をもとに選 手登録権の会計処理方法を検証する.. (出所)MU 2018 年 6 月期 Annual Report P11,p.148 F-31 からの抜粋.点線の枠は筆者が 追記したもので,本文中で指摘している部分を指す..
(13) 人的資源財務会計(池田). (443). 27. MU は 2012 年 8 月,米国 ニューヨーク 証券. (価値創出)可能性が高まった場合,他クラブと. 取引所 へ の 上場 を し て お り,IFRS を 会計基. の契約に基づいて移籍元クラブにたいして追加. 準とした財務諸表を開示している(MU 2018. の支払いをするものである.MU 経営陣が簿外に. Annual Report, p. 101, 2. 1) .MU の 2018 年 度. 見積もる金額は,2018 年 6 月期決算時において. 6 月期アニュアル・レポートによれば,選手移. 66.4 百万英ポンドと多額になっている.追加受取. 籍に関する会計方針として,選手登録権の獲得. り(additional receivable)は上記と逆の立場で,. に関連して支出したコストは無形固定資産と. 放出した選手が他クラブにおいて FMV で算出. して計上されると記載されている(MU 2018. した transfer fee 以上の価値が期待できる可能. Annual Report, p. 111, 2. 15, 3. 1. c) .選手登録. 性が高まった場合に,移籍先クラブから受取. 権の対象には選手のみでなく,代理人費用など. ることができる金額であり,2018 年 6 月期決. 一切の直接費用が含まれる.これらの支出金額. 算時において 2.4 百万英ポンドが見積もられる. は定額法で,それぞれの選手の契約期間に渡っ. と開示されている.このように,MU は人的資. て全額償却される (MU Annual Report, p. 58; p.. 源価値を定期的に測定し,人的資産の増価に関. 112, 2. 16) .選手登録権 は,帳簿価額 が 使用 ま. しても,高度で緻密な人的資源管理会計を行っ. たは売却を通じて回収可能な額を超過している. ていることが確認できた.. 場合には,減損分について評価減されると説明. 3. 2. 2 ケーススタディ②―アーセナル FC の. されている (MU Annual Report, p. 112, 2. 15. e;. 事例. p. 115, 3. 1. c) .以上 を ま と め る と,選手登録. 同じく英国プレミアリーグに属するアーセ. 権の獲得の際に支出した金額は無形固定資産と. ナ ル FC(正式名称 Arsenal Holding, plc. 以下. して計上され,残存価額ゼロとして償却が行わ. アーセナルと略)の 2017 年 5 月末日付の年次. れ,場合によっては減損処理が行われているこ. 決算報告 を 検証 す る.適用会計基準 は,MU. とが表 3 の調整表および,その説明欄において. とは違い英国基準である(アーセナル 2017. 確認できた.. Annual Report, p. 42,( B)Basis of preparation. 一方,契約金(signing-on fee)についての会. of Group financial statements).. 計方針は,営業費用の一部として,当該選手の. まず,選手登録権に関する重要な会計方針に. 契約期間 に 渡 り 損益計算書 に 均等 に 分割計上. おいて「選手登録権の獲得に関連するコストは. (installment)さ れ る(MU 2018 Annual Report,. 資産化 さ れ,当該選手 の 契約期間 に 渡って 定. p. 111, 2. 15) .すなわち期間均等分割費用計上. 額法で償却される.」(アーセナル 2017 Annual. 方法であり,選手登録権の売買とは異なる会計. Report, p. 44,(K)Players’ cost, 筆者和訳)とさ. 処理がなされており,契約金は費用として捉え. れ て い て,MU と 同様 の 会計処理 が 確認 で き. られていることが確認できた.. た.またクラブは,オンバランスされた選手登. 一 つ の 発見事項 と し て,“off balance sheet. 録権の評価額は会計基準に従った結果,取得原. arrangements”(簿外扱い)がある.選手登録権の. 価により計上されているが,それは単に会計基. 売買に関する選手登録権料(transfer fee)の事. 準にしたがった評価額であり,選手全体の実際. 後の追加受取り,支払い(MU 2018 Annual Report,. の価値ではない.クラブとしては簿価以上の. p. 68, E. Off Balance Sheet Arrangements)があ. 価値を見出している(アーセナル 2017 Annual. る.追加支払い(additional payable)については,. Report, p. 54, 12 Intangible Fixed Assets)と. 他クラブから選手登録権料を支払って獲得した. いう明確な意思を示している.. 選手が,その fee の算出基準である市場公正価値. アーセナルの年次報告書では,MU の事例で. (fair market value, 以下 FMV)を 上回った 活躍. みられた “off balance sheet arrangements”(簿.
(14) 28. (444). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). 表 3-1. MU の無形固定資産調整表.. 表 3 MU の無形固定資産調整表. (出所)MU 2018 年 6 月期 Annual Report P11,p. 148 F-31 からの抜粋.点線の枠は筆者が追記した もので,本文中で指摘している部分を指す. (出所)MU 2018 年 6 月期 Annual Report P11,p.148 F-31 からの抜粋.点線の枠は筆者が. 追記したもので,本文中で指摘している部分を指す.. 外扱い)に関する情報は見当たらない.アーセ. 生した場合,さらなる移転料金がベンダー(移. ナルの説明によると,それらは off balance では. 籍元)に支払われる.当グループの譲渡手数料. なく on balance で処理をしているとのことで,. に関する会計方針に従って,これらの契約に基. 年次報告書上の対象部分の照会を得られた.財. づいて支払われる追加手数料は,その要件が達. 務諸表 の 追記 21 として, 「 (選手登録権の)譲. 成される可能性が高くなるか,または特定の将. 渡に関する見込み額は,主に当該選手が指定さ れた出場回数を満たしたかどうかにより,可能. -4-. 来の事象が発生する可能性が高い年に会計処 理される.」(アーセナル 2017 Annual Report,. 性の高い追加譲渡料の支払いに関係するもので. pp. 64─65, 28. Commitments and Contingent. ある. 」 (アーセナル 2017 Annual Report, p. 63,. Liabilities より抜粋のうえ筆者和訳)とある.. 21. Provision for Liabilities and Chargesより. このように,MU では off balance として取. 抜粋 の う え 筆者和訳)と あ る.ま た,追記 28. り 扱って い た 選手登録権料 の 追加支払 い を,. には,「獲得したプレーヤーに関する特定の譲. アーセ ナ ル に お い て は contingent liabilities. 渡契約の条件の下で,特定数のファーストチー. (偶発債務)として可能性が probable(ほぼ確. ムの出場を予定しているプレーヤーまたは譲渡. 実)なものに関しては,表 4 で示された通りオ. (契約)で特定された他の将来のイベントが発. ンバランスしていることが確認できた..
(15) 人的資源財務会計(池田) 表 3-2. アーセナル Provision for Liabilities and Charges.. (445). 29. 表 4 アーセナル Provision for Liabilities and Charges. (出所)アーセナル 2017 Annual Report, p. 62. 点線の枠は筆者が追記したもので,本文中で指摘している部分を指す.. (出所) アーセナル 2017 Annual Report, p.62. 点線の枠は筆者が追記したもので,本文中で指摘している部分を指す.. 3. 2. 3 ケーススタディ③―イタリア・セリエ A ユヴェントス FC の事例 イタリア・セリエ A に属するユヴェントス. 示されている. 3. 2. 4 ケーススタディ事例における会計基準 との適合性 . FC(正 式 名 称 Juventus Football Club, s. p. A,. 欧州 3 チームの実務においては,選手との契. 以下ユヴェントスと略)の財務報告書を分析し. 約金(signing-on fee)は 費用的 な 認識 が 行 わ. てみたい.ユヴェントスはイタリア証券取引. れ る の に 対 し,移籍金,す な わ ち 選手登録権. 所に上場する企業である(ユヴェントス 2017─. (registration)獲得の際に相手クラブにたいし. 2018 Half-Yearly Financial Report, p. 3) .財務諸. て支出した金額は,無形固定資産として貸借対. 表は IFRS に準拠している(ユヴェントス 2017─. 照表上の資産として計上されており,人的資源. 2018 Half-Yearly Financial Report, p. 21 Note. 会計の事例として確認できた.契約金と選手登. 2.) .. 録権との明白な違いは,契約金は選手との契約. 選手登録権 は,貸借対照表上 の 非流動性無形. が交わされた時点で,その金額が最終確定する. 資産の欄に,他の無形資産とは区別して個別に. のに対し,選手登録権は選手との契約期間内で. 掲載されている.2018 年 6 月 30 日現在のその. ある限りその効果は持続し,かつ売却可能な権. 金額は 338 百万ユーロである.ちなみに総資産. 利であるということである.この違いにより,. 831 百万ユーロ, 純資産が 137 百万ユーロである.. 欧州プロサッカークラブは無形固定資産として. この比較からもわかる通り,選手登録権は財務. 認識できるか否かを判断し,その結果として会. 諸表に莫大なインパクトを与えるものである.. 計処理に違いが生じていることが確認できた.. MU,アーセナルとの比較において,ユヴェ. また,選手とクラブの間のプロフェッショナル. ントスの年次報告書には MU と同じく,選手. 雇用契約には,ペナルティ条項などの強制力が. 登録権の獲得金額が大きい対象者 3 名の名前と. 存在することも確認できた.これは一般企業で. 具体的な金額を示した詳細が記されているとと. の雇用契約とは違い,雇用に関して高度な強制. も に,disposal(廃棄)と なった 選手登録権 の. 力を持つものであり,よって「支配」の要件を. 金額と対象者 2 名の詳細も明記されている.こ. 充足するものであると考えられる.. のように,ユヴェントスの年次報告書では,選. では,このような人的資源の会計的認識を一. 手登録料のより詳細な内容が財務情報として開. 般的に他の企業へ適用することは可能だろう.
(16) 30. (446). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 4 号(2020 年 2 月). か.プロフェッショナル集団の組織と一般の事. る資産と,従物である資産から派生する経済的. 業会社の違いをもとに,資産計上の条件である. 資源という構図となり,両者は一体化し,資産. 「支配」の観点から,次項において考察を加える.. の所有者が資産から派生する経済的資源の所有 者と一になるものである.しかし,会計の領域. 3. 3 経済的所有権と使用権モデルの援用可能 性. においては解釈が異なる.前項における,会計 基準との適合性の議論から明らかになったよ. 本項では,経済的所有権という概念とリース. うに,IAS38 号では,支配を control, power to. 会計におけるリース使用権について,人的資源. obtain benefits from the assets(資産により得. 会計での財務会計における援用可能性を探る.. られる便益を獲得する権利)と定義づけている.. 3. 3. 1 「支配」と「識別可能性」に つ い て の. ま た,2018 年 の IASB 概念 フ レーム ワーク で. 再考. 確認したように,IASB は資産を権利のセット. プロサッカー選手とプロサッカークラブとの. として考えている(デロイトトーマツ,2018).. 関係とは違い,一般事業会社と従業員との雇用. すなわち経済的所有権をもとにした判断基準が. 契約 に お い て は, 「支配」と「識別可能性」の. 認められているのである.. 要件を満たすことになるのだろうか.企業の従. 前述 の Miller(1996)で は,「企業 が 機械 に. 業員は,特別な契約を結んでいない限り,自由. 求めるものは,機械という見識可能な物体では. 意思で退職ないし転職することが可能であるた. な く,機械 の 持 つ capacity で あ る」と し,機. め,支配という点において資産の要件を満たさ. 械 で も ヒ ト で も,そ の capacity が ① create,. ない可能性がある.しかし企業の側からする. ② improve,③ maintain の 3 つ の 機能 を もっ. と,特定のポジションを満たす能力は,業務運. ていれば,資産化できるのではないかとの見解. 営上恒常的に必要なものである.企業価値を維. (Miller,1996,p. 4)が論じられている.企業. 持,向上させるためには,絶えず補完しなけれ. が求めるものは,あくまでもそこから派生する. ばならない知識,能力といえる.その考え方を. 能力である.その観点から資産を有形無形と区. すれば,人的資源を属人的なものではなく,組. 分することは概念的であり,それを理由に,適. 織におけるポジションに求められる能力であ. 用される会計原則が規定されることには,実勢. り,そのポジションを埋めるための能力への対. との乖離があると言わざるをえない.. 価と捉えることができるのではないだろうか.. 3. 3. 3 リース会計にみる「使用権モデル」と. この考えを援用すると,企業がそのポジション に求める能力を満たすに足る対価を見積り,そ. いう発想 法的所有権と経済的所有権の問題は,さまざ. れを資産計上できる可能性が見えてくる.. まな影響を会計原則にもたらしてきた(日本公. 3. 3. 2 「経済的所有権」という概念. 認会計士協会,2002,pp. 61─62).例えばリース. 経済的所有権とは,ある資産が実質的に誰に. 会計である.ここでいうリース会計とは,所有. 帰属するかを考えるために重要な概念である.. 権を移転することなく借り受けた資産を,会計. それは,法的な事実としての支配ではなく,実. 基準に規定される特定の条件(IAS,2013)の. 質的支配である(花堂,1998,p. 63) .所有する. もと認められるファイナンスリース会計を指. ものが資産自体ではなく,何かしらの派生的な. す.法的所有権 は 貸手 に 帰属 し た ま ま,借手. 経済的資源である場合,生み出される経済的資. はその経済的所有権を有するのみで,会計上資. 源の帰属問題が生じる.そこに経済的所有権と. 産として認識している例である.前述,民法第. いう概念が発生するのである.民法第 87 条に. 87 条の規定外の会計処理である.. ある主物従物の関係をあてはめると,主物であ. ここでリース使用権モデルを人的資源に適用.
(17) 人的資源財務会計(池田). (447). 31. することを前提に,議論をすすめたい.IFRS. して,人的資源会計の IFRS など会計基準およ. 第 16 号では,使用権モデルは,借手がリース. び概念フレームワークとの整合性を追求した.. 物件を使用する権利を獲得し,当該使用権に対. ケーススタディにおいては,プロフェッショナ. する支払い義務を負っているというリースの実. ル契約による支配の要件の充当を確認した.ま. 態を反映しているとしており(BC19 項) ,経. た,一般企業においては,経済的所有権および. 済的事象を忠実に表現した情報を提供しようと. 使用権モデルの援用により,人的資源の資産計. い う 姿勢 が う か が え る(秋葉,2019) .ま た,. 上の会計基準との適合性を確認した.. 第 3 節 で 議論 し た よ う に,2018 年 の IASB 概. 4.総 括. 念フレームワークでは,資産に関して単に「資 源」でなく「経済的便益」という表現を用いて. 4. 1 結 論. おり,IASB はもはや資産を物理的実体として. 本研究は,人的資源が重要な経営資源である. ではなく権利のセットとして考えていることを. にも関わらず,なぜオンバランス化されていな. 強調している(デロイトトーマツ,2018) .. いのかという疑問から始まった.はじめに,企. 企業は人的資源の借手であり,雇用契約の開. 業価値と人的資源の関連性において,先行研究. 始時点で人的資源の貸手である従業員から,人. レビューをもって人的資源情報開示の有用性を. 的資源を特定の識別されたポジションにおいて. 明らかにした.また,情報開示のみならず,組. 使用する権利を取得する.その代償として将来. 織内での管理目的についても,人的資源の定量. の報酬の支払義務を負うことになる.IASB で. 的把握が有用であることも明らかにした.. は, リース資産の認識基準として,識別可能性,. また,人的資源会計の有用性を確認するため. リース期間,資産の類,契約条件,借手の認識,. に,シミュレーションを行った.教育訓練資産. および測定可能性の充足が設定されている.人. のオンバランス化は,企業の教育訓練に対する. 的資源をリース使用権として取り扱うとした場. フィロソフィーを資産という結果として可視. 合,個人と特定のポジションを結びつけるとい. 化することに他ならず,企業の人事面での方. う考えから識別可能性,資産の分類,契約条件. 針を知るうえで有用であると結論付けた.給. および借り手の認識は,充足可能性は高い.ま. 与還元法 で は,人的資産 が す な わ ち 企業 の 人. た,年度ごとの償却期間の修正や減損処理など. 的資源 の 現在価値 を 示 す こ と に な る(若杉,. により,リース期間と測定可能性の要件も充足. 1979,pp. 101─103)という観点から,営業利益,. が可能である.給与還元法による人的価値の測. EBIT または EBITDA を人的資産で除した指. 定も可能であり,人的資源を資産計上するその. 標 ROHR( Return on Human Resources)を. スキームにおいて,人的資源が「支配」と「識. 新たな財務指標モデルとして提案した.これは,. 別可能性」の要件を満たすことを否定すべき特. 先行研究で確認した人的資源会計の有用性を明. 段の要因がないことが明らかになった.ここ. らかにするものである.すなわち(1)財務諸. に,リース会計の枠組みを人的資源会計に援用. 表が人的資産の分だけ膨らみ,経営者の責任が. できる可能が高まったことが示唆された.. 拡大する.(2)ヒトの活躍により業績が変動す る IT 関連企業などの,知識に頼る企業とそう. 3. 4 まとめ. でない企業を,より近い条件で評価することが. 本節は人的資源が財務会計上,無形資産とし. 可能になる.(3)将来の支払いが想定される支. てのオンバランスが可能であるという見解の妥. 出をもとに計上されるため,投資家が経営陣の. 当性の確認を試みたものである.そして,実. 経営判断を評価する基準となり,また内部管理. 体に即した財務情報を開示するための手段と. 面では,より的確な給与水準が明確化され,適.
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