タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究
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(2) 76. (388). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). ク都の平均賃金である1万バーツよりも高い.. 市場におけるミスマッチに焦点を当てた研究で あった. Watananukitetal. [1989]は,タイに. 教育水準別の平均所商では,大卒者平均約2万. おける大卒者が労働市場の需要にミスマッチで. バーツであった.実は都市インフォーマルセク. あり,理工系学生数の過小が今後経済成長のボ. ターといわれる露天商においてでさえ大卒者の 積極的な就業選択という側面が観察できる.. トルネックとなることを指摘していた.同様に Sussangkarn [1990] [1991]は高等教育水準,. タイにおける大学生の職業選択は,公務員・. とりわけ理工系学生の供給不足が労働需要とミ. 万5千バーツであり,これは2002年度のバンコ. ,. 公営企業,大企業への就職といった画一的な就. スマッチを起こしていることを懸念していた.. 業形態から蔀離してきていると指摘できる.露. ホングラダロム・糸賀[1992]でも同様に未熟. 天商という職業を選択することは極端なケース. 練(低学歴)労働者の過剰供給に対して,技師,. かもしれないが,就業形態の面では,自営業と. 技術者,科学者,経営者の供給が不足しており. いう選択肢も有力になってきている. 以上のように現在タイでは,大学生は急増し,. 高等教育水準に対する需要過剰を指摘してい た.. これらの研究は本質的には大卒労働市場及. その職業選択が多様化してきている.しかし従 来のタイの労働市場に関する先行研究では大卒. び,大学生の職業選択の具体的な実像は何も反. 労働市場は軽視されてきた.確かに大卒者の比. 映されていない.第1に,大卒労働者を均質な. 率は低かったので,その研究の比重が低いのも. ものとして理解している.大学生の属性や性質. 当然であった.労働市場研究の多くは農村都市 間の労働力移動や農繁期一農閑期による季節性. の違いには注意が払われていない.所詮,哩 系・文系の学生を別の性質として把握すること. を扱った地域格差に焦点が当たっていた4).そ. はあっても,その数量が産業側の経済成長にむ. れというのは農村と都市の地域間格差こそが賃. けての労働需要とマッチしているのかという検. 金格差・教育格差,産業格差を代表する主要な. 討に過ぎない.第2に,大卒者はアプリオリに. 問題であったからだ.この時期のタイにおける. 企業や公務員に就業するものと想定されてい. 労働市場研究は教育水準による都市労働市場の. る.しかし,就職の選択は単純ではなく,自営. 分断であり,未熟練労働者の都市インフォーマ. 業者や家族労働者として就業するケースも存在. ルセクター(Infbrmal-Sector)就業論であった5). そこでは義務教育水準・未熟練の農業労働者が. する.どのような就業形態であるのかは考慮さ. 都市下層の職種に参入するという開発経済学的 な二重経済論を基礎としていた.. ILO. や国家経済社会開発局(National. Economic. Social. れていない.. 末虜[1997]はタイの高学歴化に伴う新しい. [1988]. 労働市場間題を指摘している.多くの民間企業. and. にとって新たに格上げされた私立大学,新設し. Development. Board,以下略NESDB) [1988]は無教育・低教育水準の未熟練労働者. が都市インフォーマルセクターでの就業を通じ. た国立大学,公開大学の卒業生を従来どおりの 大卒者のように処遇してしまうと,賃金・ポス. て,教育・訓練されていくことを高く評価し,. トが枯渇する恐れがあり,有名大学や難易度の 高い大学の卒業生を優遇する方針となった.そ. 経済成長の原動力と解釈していた.当面は圧倒. のため大卒者とはいえ公平な処遇を受けなくな. 的多数のインフォーマルな労働者の生産性を高. ったと主張する.つまり大学別の格差が生じて. めることが政策課題であった.. きているのである.. 大学生は(入学難易度といった)ランクや理. 80年代後半から90年代前半にかけて,タイの 急激な経済成長を背景として高等教育が労働市. 系・文系といった性質によって労働市場におけ. 場研究の中で重要さを増してきた.それは労働. る処遇は異なっている.その処遇の違いによる.
(3) (389). タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). 不公平が大卒者の非ホワイトカラー型職種の増. 77. あったが,. 加,公務員離れ,自営業の選択といった職業選. 2002年の新教育法の制定によって, 現在は,中等教育前期(日本の中学校) 3年間. 択の多様化と相関しているのだろうか.もしく. のモーサム(M3)までの9年間になっている.. は職業選択の多様化は大学生の性質に関わりな. しかし,東北部の農村では義務教育制度は小学 校までは徹底してきているものの,未だ中学校. く共通した現象であるのだろうか.そこで本稿 では,大学生の職業選択の多様化がいかなる特 色を持っているのかを検討していく. 本稿の分析方法は,筆者が独自に行ったバン. 水準では職業に従事することが多い6).. M3修了 後には通常(日本でいうところの高等学校にあ たる)後期中等教育のモーホック(M6)に進. コク都における9校の大学生の職業選択に関す る調査結果から,大学生の職業選択の意識を抽 出する.タイにおいては大学生の詳細な就職先. 学するが工業,商業,農業等の後期中等職業教. に関するミクロデータは入手することが難し く,大学のランクや専攻が,如何に職業選択に. 呼ばれる.このP-W-C修了者が引き続きラチ. 育に進学する場合もある.この中等職業教育を 修了すると,ポーウオーチョ-. (P-W-C)と. 影響を与えているのか窺い知ることはできな. Institute ャモンコン技術大学(Rjamangala Technology)の2年制の高等職業教育課程に進. い.まして自営業者として就職する者も存在す. 学する場合,ポーウオーソ(P-W-S)となる7).. るため,企業を対象としたアンケート調査にも. 通常の大学に進学する場合には,日本の大学検. 限界がある.そのため代替的な分析方法として. 定試験に相当するティアップタオに合格しなく. 大学生の「意識」に焦点を当てる.まず第1に. てはならない.. 対象の学生を理系・文系別に集計し,その共通. 修了者は2年制の短大もしくは4年制大学に進学. 点と相違点に着目する.タイにおいては従来の. することになる.. 研究からも理系不足・文系過剰が指摘されてお. M6. of. (もしくはティアップタオ). 4年制大学修了者は修士課程 や博士課程に進学する老もいる.. り,その両者によって就業選択が大きく異なっ ている可能性があるからだ.次に,大学別に調 査結果を再集計し,その大学ごとの入学の難易 度等に基づくランクが,大学生の職業選択にど のように対応しているのか,もしくはランクに 関わりなく共通しているのかを検討する. 本稿の構成は,まず第1節でタイの教育制度. (2)大学生数の推移 この30年程の間にタイの大学生は急増した (図1).この大学生の増加にはいくつかの段階 がある.歴史的には1961年の「第1次国家経済 社会開発計画」に基づき,地方にも国立大学B) が設置されるようになったことから始まる9).. と大学生数の推移を概観し,第2節では,筆者. その後69年には「私立大学法」の制定に伴い,. による大学生の調査とその結果の概要を説明. 私立大学が誕生した.ただ当時はカレッジのみ. し,一般的な大学生の職業選択の傾向を把握す. で私立大学学生数合計も1万人にも満たなかっ. る.第3節ではそのデータを理系・文系別,及 び大学ごとに再集計し,そこから大学生の職業. た.. 選択の多様化の特質を明らかにする.. ームカムへン大学(Ramkhamhaeng 及び79年のスコータイ・タマテイ. 1.タイの教育制度の概要と大学生数の推移. (Sukhothai 学(Open. (1)タイの教育制度 まず,タイにおける教育制度を概観する.塞 本的な教育制度は,. 大学生数増加の画期となったのは,. 6-3-3-4制である.従来義. 務教育は小学校6年のポーホック(P6)までで. ′mammathirat. 71年のラ University) ラ大学. University)の公開大. University)開設である.両大学は入. 学試験がない単位制大学として,高等教育への アクセスを広げることになった.ラームカムへ ン大学開設以前である70年のタイの大学在籍者.
(4) 78. 横浜国際社会科学研究. (390). 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). 出所) StatisiticalYear BookTbailand各年度版より筆者算出 注) 78181年の国立大学学生数は公開大学学生数データが 欠損のため削除 ラチャパッド(旧教員養成大学)とラチャモンコン技術大学(旧高等 専門学校)の学生は除く. 出所). Statisitical Year. BookTnailand各年度版及びタイ教育省HP b仕p://www.moe.go.也/English/nu/stat.btmより筆者算出 注)ラチャパッド及びラチャモンコンの学生数は学士課程のみで はなく短期コースや大学院の学生も含まれている. 図1大学生数の推移. 数が,約5万5千人程度であったのが,. 88年時点. University). 86年にランシット大学(Rangsit. では両公開大学の在籍者数のみで約52万3千人 (国立大学在学生総数の約80%)にまで達する. Technical. ようになった.. にシリバトゥム大学(Sripatum University),カセ. 80年代には私立大学カレッジの総合大学化と 新設が進展した. 84年には,商工会議所大学. ム・バンデイツド大学(Kasem. (universityof¶1ai. Chamber. of. Commerce). ンコク大学(BangkokUniversity),トウラキッ ト・バンデイツド大学(Dburakijpundit. University),サイナム工科大学(Siam. ,バ. University,現Siam. University),87年 Bundit. University),. 89年聖ジョーンズ大学(Saint John's university) が誕生した.その結果70年には1万人未満であ った私立大学総学生数は89年で8万人近くにま で達した..
(5) タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). (391). 79. 90年代以降に至っても地方の国立大学新設に 拍車がかかり,ブラパー大学(Burapha. エリートではなく,大学生といって同列に論じ ることは難しく各大学によってその水準も大き. University),ナレスワン大学(Naresuan. く異なるようになった.そのため大卒労働市場. University),マハ-サラカム大学(. の状沢,大卒者の能力,及び大学生の職業選択 も変化せぎるを得ない.大学生数の増加の段階. Mahasarakbam Takshin. 学(. University),タクシン大学(. University),ウボンラチャッタニー大. UbonRachathani. は70年代の公開大学の創設,. University),スラナリー. 工科大学(suranaree. university. ワライラック大学(Walailak ファールアン大学(Mae. Fab. ofTechnology) University),メ-. hlang. ,. University). が設立されている.. 80年代の私立大学. の総合大学化, 90年代のラチャパッドの地域総 合大学化を画期としている.そこで次節ではそ れぞれ性質の異なる大学別での大学生の職業選 択に注目することによって大学生の職業選択の 多様化の特質を探っていく.. 他方で95年には,教育省管轄で従来2年制中 心の教員養成大学だったラジャバッド (Rajabhat lnstitute)が4年制プログラムを中心 とした地域総合大学に移行した影響も多い10). 2.大学生の職業選択に関する調査結果の概要 (1)調査の概要 本調査は2004年8月に筆者自身が独自に行っ. 95年時点でラチャパッド大学全校の学生数11)は. た大学生の職業選択に関する調査である.対象. 約12万人だったのが,. はバンコク都に位置する9ケ所の国公立・私立 大学生であり,標本は242人である13).校門付. 2002年には約27万人にま. で達している.同様にラジャモンコン技術大学 (Rajamangala Institute of Technology)も4年制. 近において筆者自身がタイ語・日本語併記によ. の学士課程を設置するようになった影響により. る質問表を元に質問しながら大学生に記入して. 95年時点で7万人の学生数が, まで増加している12).. もらっている14).回答形式は選択式,記述式を. 2002年で9万人に. あわせた形式になっている.面接・記入に要し. 2005年現在,教育省の高等教育委員会 (Higher Education Commission)管轄下の大学. た時間は一人当たり10分程度であった.. 数は,. ン大学15),カセサート大学16),ラームカムへ-. (旧大学庁の)国立大学26校,私立大学. 対象の大学は国公立大学では,チエラロンコ. 54校(含むcollege),ラチャパッド地域総合大 学41校,ラチャモンコン技術大学35校である.. ン大学17),ラジャパッド大学スワンドゥシット 校18),シーナカリンウイロート大学19)である.. 1970年から比較すれば国立大学だけでも3倍近 く新設されたことになる.学士課程(及び準学. 私立大学ではシーパトゥム大学20),バンコク大. 士課程)大学生数に関しても,大学の新設,ち. 工会議所大学23)である.. しくは総合大学化による定員増の流れの結果,. 学21),トウラキット・バンデイツド大学22),商 標本の収集にあたっては以下の点に留意し. 70年時点から比較すると2002年時点で約20倍,. た.第1に,私立と国公立の大学生になるべく. 120万人を突破するまで増加している.. 偏りがないようにすること.第2に,理系,文. この高等教育の大衆化ともいうべき増加の結 栄,大卒労働者数も急増した.大卒労働者は,. 系に偏りがないようにすること.第3に,大学. 68年で5万人程度だったのが, 2003年には200万 人を超えている.高等職業課程修了者(準学士. とであった24).. 相当)をも含めた高等教育修了労働者では10万. (2)調査結果の全体像. 人程度だったのが,. 450万人ほどになった.. 大学生の位置づけも,もはや一握りの希少な. のランクがなるべく分散するように心がけるこ. 調査結果の集計を以下の図2にまとめてある. 標本の構成は,男女比率が,男性103人,女性.
(6) 80. (392). 横浜国際社会科学研究. 図2. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). 調査結果の概要.
(7) (393). タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). 139人(42.6%対57.4%)である25).タイ全国の 学士課程の男女比率は45対54であり,実態に近. い.就職した兄弟・姉妹の主な職種は,法律 家・管理職14人(ll.3%),専門職31人(25.0%),. 159人 い構成である.理系,文系比率が, (65.7%)対73人(34.3%),国立132人(54.5%),. 技術者19人(15.3%),サービス・販売16人. 私立110人(45.5%)である.タイ全国では国. タイ全体の職種構成は法律家・管理職6.8%, 専門職3.5%,技術者3.6%,サービス・販売. 立と私立の比率は78対22であるため,調査結果 にある程度のバイアスがかかっていることは注 意されたい.. (12.9%),初歩的な作業27人(21.8%)であった.. 12.9%,初歩的な作業10.3%で農業者41.2%で あることを考慮すると,ホワイトカラー型の法. 出身地の構成は,バンコク114人(47.7%),. 律家・管理職,専門職,技術者の比重が高い.. バンコクを除いた中部45人(18.8%),東北部20. 親の主な職種は,法律家・管理職29人 (12.9%),専門職45人(20.1%),サービス・販. 人(8.4%),北部23人(9.6%)】南部30人 (12.6%),東部7人(2.9%)である.タイ全体の. 売12人(5.4%),初歩的な作業94人(42.0%),. 人口構成はバンコク10.4%,バンコクを除いた. 農林業25人(ll.2%)であった.親世代に関し. 中部23.3%. ても,タイの職種構成全体からみれば農業者比. ,東北部34.2%,北部18.8%,南部 13.3%である.バンコクに位置する大学での調 査であり,当然ながらバンコク出身者の比率が 高くなっている. 出身高校の構成は,公立普通科180人 (74.4%),公立職業科12人(5.0%),私立普通科. 率は少なくホワイトカラー型の比率が高い.た だし兄弟・姉妹の職種よりは,初歩的な作業な どの雑業的職種の比率が高い構成となってい る.. 大学生の職業選択に関する項目では,まず就. 34人(14.0%),私立職業科7人(2.9%),国立大 学付属26)9人(3.7%)であった.タイ全国の後. 職に期待するものが,収入97人(41.1%),学業. 期中等教育水準の学生数は普通科65対職業科35. (ll.9%)である.. であることから,大学生は普通科出身者が多い. を活かせる72人(30.5%),雇用条件28人 希望する初任給額が平均で約1万5千バーツ, [2002]. といえる.予備校通学経験の有無は,あり154. 最頻値では1万バーツであった.. 人(64.7%),なし84人・(35.3%)である.大学. によると,. が多く新設され,大学生数が増加したといって. 調査時点で1万バーツ以上を得ているものが,. ち,未だに受験競争は厳しいことを示している.. 全体の31.6%に過ぎず,残りの68.4%は1万バー. 大学進学の理由は将来性102人(42.7%),進 学したい学部がある72人(30.1%),親の期待24 人(10.0%)であった. 兄弟姉妹の平均人数は2.6人であった.既に 就職した兄弟・姉妹がいる者は,. NSO. 2000年新卒大学生の収入は2002年の. ツ未満である.つまり本調査の希望額約1万5千 バーツは達成不可能な老が多いことになる27). 就職希望先は独立・自営が93人(39.9%),公 務員・公営企業50人(21.5%),外資系企業65人 (27.9%),タイ企業25人(10.7%)であった.独. 222人中151人 (68.0%)おり,その教育水準は大卒100人. 立・自営の希望が最も多い.外資系・タイ企業. (66.2%),短大・職業学校卒26人(17.2%),高. を合わせて企業への就職として考えると38.6%. 校卒16人(10.6%),義務教育以下9人(6.0%). であり独立・自営の希望と同程度の水準であ. であった.タイ全国の就業者全体の教育水準は, 高等教育水準修了者全体で12.2%,後期中等教. る.独立・自営という選択は企業,公務員・公 営企業への就職希望を上回っている.タイ全体. 育水準修了者10.4%. の就業形態は,使用者3.3%,政府部門被用者. 半数以上が大卒者であり教育水準は極めて高. 7.5%,民間被用者33.1%,自営業者31.5%,衣 族労働者24.6%であり,タイ全体として自営業. ,前期中等教育水準以下で 73.6%である.大学生の兄弟・姉妹に関しては. 81.
(8) 82. (394). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第3. I. 4号(2005年12月). 者の比率は民間被用者数と大差がない.公務員. 36.2%,公務員・公営企業20.3%,外資系企業,. を希望する比率は全体からみれば多いものの,. 29.0%,タイ企業14.5%,文系で独立・自営. 大学生の就職希望先はタイ就業者全体の構成と. 40.5%,公務員・公営企業22.2%,外資系企業. 一致している.大学生は公務員や公営企業,氏 間企業へ就職することが当然のように考えられ. 27.8%,タイ企業9.5%であった.両者の構成は 文系で独立・自営,理系でタイ企業の比率が若. てきたが,実際はタイ就業者全体同様に自営業. 干高くなっているが,同様の傾向である.独立. への志向を有していることがわかる.大学生は 就職に収入を最も期待するが希望する初任給額. 自営への興味がある比率でも,理系90.1%,文 系89.9%であり,やはり両者は同様の傾向を示. の多くは達成不可能である.そのことが自営業. す.独立・自営に興味がある理由でも理系で自. への希望と関わっているように思われる28). 希望する主な職種は法律家・管理職55人. 由だから57.7%,経営したい・成長させたい. (24.3%). 55.8%,. ,専門職70人(31.0%) ,技術者39人 (17.3%),サービス・販売28人(12.4%)であ. 19.2%,収入が良い15.4%,文系でそれぞれ 25.0%,. 12.5%であり同様の傾向を示. している.. 希望する職種は,理系で法律家・管理職. った.. 独立・自営への興味は209人(89.7%)が持. 17.1%,専門職,. 22.9%,技術者44.3%である. っている.先の就職希望先として独立・自営を 選択した者が39.9%であったことを考慮する. のに対して,文系では法律家・管理職27.8%, 専門職35.8%,技術者4.6%,サービス・販売. と,当初は企業や公務員として就職することを. 17.2%であった.理系で技術者,文系で法律 家・管理職,専門職,サービス・販売を希望す. 希望するとしても,長期的には独立すること願 っている者が多いことを示している.独立・自 営への興味がある理由は,自由だから85人 (54.4%),経営してみたい・成長させたい41人. る比率が高い.文系の学生の方が若干雑多な選 択といえる. 就職に期待するものは,理系で収入45.8%,. (26.3%),収入が良い21人(13.5%)であった.. 学業を活かせる34.7%に対し,文系で収入. これは裏返せば就職によって滴たされない願望. 39.0%,学業を活かせる27.7%であった.. をあらわしているだろう.. 以上みてきたように,大学生の職業選択は独. 希望する初任給額は明確な差が現れている. 理系の希望額は平均約1万8千バーツであるのに. 立・自営の比率が高い.しかし希望する職種で. 対して,文系では1万3千バーツに過ぎない.料. はホワイトカラー型の職種の比率が高い.つま り,職種の面では従来通りホワイトカラー指向. 1.4倍の開きがある.これは従来の研究で指摘 されたように,理系不足,文系過剰という大卒. が残るものの,就業形態としては自営を望むも. 労働市場の需要に対応している. 理系・文系別の再集計の結果,. のが多い. 3.調査結果の比較. (1)理系・文系別の職業選択. ①独立・自営. ②希望す への指向という点では共通している. る職種,希望する初任給額においては,理系・ 文系による分化がみられた29).. 先述したように,調査結果の全体では自営業 希望という点で職業選択の多様化が観察された が,理系・文系別に再集計するとどうなるのだ. (2)調査対象大学のランク 大学別の集計結果を分析するにあたって,こ. ろうか.選択の分化傾向がみえるのであろうか. こで調査対象の大学をランクに分類する30).タ. (図3).. イにおける大学入試制度は国立大学においては. まず,就職希望先は,理系で,独立自営. 共通試験に,私立大学は各学校の判断に基づき.
(9) (395). タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). 83. 戟 職希望先 100%憂 I/.. Ill. き77.冒_1'/弓1.. 葦■日夕イ企業. 杜群II灘. ち,.,'r,. 7∋■]17!i. 鮮60%童 描. 葱 :L!.7′P+. 萱口外資系企業 務員.公営企業 虫立.自営. (ll,-;. ・さ!雷/1 ≡. 鞘. 文系理系. 堤. EEEl. E3そのノ他. i,-pl,. 啓1pip-1!:. 己J,7,:'1,1Z?_. 7JtJ.plppF. 1,-.■7JJ7J壷p1,-1. :A;J7i,t-穿≡≡7'7盛. □収入が良い. 宅.蛋:-2L,至.,. -,:A_m!ぎJL7ir.′. 美7-I,-I7. 掛60% 当o. I_-17L′ガ17∫.. 卓-■f.;:J■r,EJJ. JJ1!17-ぎ7!-7J!.L7HILf,. -;守.-;:,_5. 班 班. ≡ _?,I 7′-//-′′々′三.Jr.. 毒霊. ,.I,l三-I:-I:言.l.;,L. 留経営したい. 成長させたい 圏自由だから. 7,LL!L塾≡f.I,1 :,-:pJ:L7j,1_!i,-A. ,-.7_i,:-L奉 蛋/L′l.,1!-7.,:l.i.l1 rJIJ,ミ7:!J7J 査.Jpミp-I:,--lJJ)i):(. 丑. tL′:7P-p7 ≡.,1[-I,]J7L7,. r.Lp!喜7j,.(, Jl!∫,■.-.V-'7.′1J塾L墨. 文系理系 筆者調査結果より1作成 図3. 調査結果の理系・文系別再集計. 選抜される.そのため大学のランクを分類する. にタイで最も歴史のある大学である.チュラロ. にあたって国立大学と私立大学を同列に扱うこ. ンコン大学はタイの近代化を担う官僚養成大学. とには困難が伴う.大学のランクを特定するに. として設立され,カセサート大学は農業技術者 を養成する目的で設置され,シーナカリンウイ. あたって大学の設立時期が有効である.そこで 以下の3つのグループに分類してみた. チュラロンコン大学,カセサート大学はとも. ロット大学は教育大学として,これらは狭き門 の国立大学として開設されている.そこで国立.
(10) 84. (396). 第10巻第3. 横浜国際社会科学研究. 4号(2005年12月). ・. 大学別大学進学理由. 1;; I:/ ::-i-; I,⊥;..'T・.シ': ,::;. ,. 匿その他 固持になし ■まだ働きたくない 田社会的ステータス ロ親の期待 tEg進学したい 学部がある 国将来性. 筆者聞き取り調査結果より作成 大学生の属性. 図4. 上位グループとする.. のチエラロンコン大学,カセサート大学,シー. 対して,ラームカムへン大学は無試験入学の. ナカリン大学は,ともに普通科のみの出身者で. 公開大学であり,国立といえ性質が異なる.同. 構成されている.またその内訳は少数であるが. 様にラチャパッド大学スワンドゥシット校は,. 国立大学付属を含む.私東大学では,各校共通. その前身の教員養成短大に由来し,新しい地域. して相対的に私立高校出身者が多い.ただ私立. 総合大学であり,この両校を国立下位グループ. 大学の中でもシリバトウム大学と,トウラキッ. とする.. ト・バンデイツド大学では職業科出身者の比率 が若干高く,他の2校と比べても入学の難易度. バンコク大学はその前身のカレッジが62年に 創立され,. 80年代に総合大学に昇格した.トウ. が低いことを示している.国立下位では,スワ. ラキット・バンデイツド大学,商工会議所大学 はその前身のカレッジが60年代に設立され, 年代に総合大学化している.シリバトゥム大学. 80. ンドゥシット校は公立普通科が100%であった が,ラームカムへン大学ではやや公立職業科出 身の比率が高い.. は70年にカレッジが設立され,同様に80年代に. 予備校通学経験の有無は,国立上位では,. 総合大学化しているため,やや新しい大学とい える.これらは,その前身のカレッジの設立時. -100%であるのに対して,下位では,スワン ドゥシット校で50%近く,ラームカムへン大学. 期は異なるが,同様に80年代に総合大学化して. では40%以下となっている.私立大学ではバン. いるため私立大学グループとする. 図4では,各大学別の大学生の属性を示して. コク大学,商工会議所大学,トウラキット・バ. いる.まず大学生の出身高校であるが,ここで は国立と私立の違いが明確であった.国立上位. シリパトウム大学は30%程度である. 大学進学の理由は,チュラロンコン大学とバ. ンデイツド大学で40-60%であるのに対して,. 90.
(11) タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). (397). 85. 大学別希望する職種の比率 ■事務員 団農林業 国熟練工 圏初歩的な作業 ■サービス・販売 E3オペレーター --. :. ロ技術者. I:_二,:'-ゝこ_∴: 田専門職 国法律家・管理職. 筆者調査結果より作成 図5. ンコク大学で「将来性」が70%,. 大学別の職業選択. 60%でやや高. 位に位置していて,国立下位でも,スワンドゥ. いが,シーナカリン大学,カセサート大学では 「進学したい学部がある」が「将来性」をやや. シット校とラームカムへン大学では入試の有無. 上回る.他の大学でも「将来性」と「進学した. い.. い学部」が主要な回答であるが,トウラキッ ト・バンデイツド大学とスワンドゥシット校で. (3)大学別の職業選択. は「親の期待」が相対的に高い. 出身高校の種別と予備校通学経験の有無は, 各大学の入試難易度ランクを表す指標であり, 上記の結果は,国立上位,私立大学,国立下位 の共通点を示している.ただ,私立大学グルー プでも,その中でシリバトゥム大学は,やや下. に関わって構成が異なっていた点は注意された. 大学別の職業選択の内訳を以下の図5に記し てある.就職希望先は,各大学で「独立・自営」 の比率は高く30%-50%となっている.ただ, 相対的に,ラームカムへン大は「公務員・公営 企業」,バンコク大学,シーナカリン大学では 「外資系企業」の比率が高めである.独立・自.
(12) 86. (398). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). 営への志向は若干の違いはあるものの,各大学. チュラロンコン大学と国立大学下位では約2倍. で共通してみられる傾向となっていて,独立・. の希望額の差が現れている.. 自営という選択に大学のランクは反映していな かった.. 同様に独立・自営への興味も,各大学共通し て「興味がある」が約80-100%となっている.. 希望する職種では,各学校で「法律家・管理 職」, 「専門職」. 「技術者」を希望する比率が高. いものの,シーナカリン大学では「サービス・ 販売」が突出している.また私立では,シリパ. ただ,国立下位のラームカムへン大学とスワン. トウム大学,商工会議所大学,国立大学ではカ. ドゥシット校は共通して80%弱となっており,. セサート大学,ラチャパッド大学スワンドゥシ. 相対的に雇用されることを希望する者の比率が. ット校,ラームカムヘン大学が30-40%程度で その他の雑業的な職種を希望している.. 高いといえる.. 独立・自営に興味がある理由では,チエラロ. 就職に期待するものは,チエラロンコン大学,. ンコン大学,シリバトウム大学,商工会議所大. シーナカリン大学で「収入」が60%で突出して. 学,スワンドゥシット,トウラキット・バンデ. いるのに対して,カセサート大学,シリバトゥ ム大学,商工会議所大学,スワンドゥシット,. イツド大学で「自由だから」が60%強であるの に対して,シーナカリン大学とバンコク大学で は20-30%程度となっている.シーナカリン大 学とカセサート大学では「収入が良い」を理由. ラームカムへン大学で約20-40%と低い比率と なっている.中でも,スワンドゥシットと,ラ. トとバンコク大学では「経営したい・成長させ. 「学業を活かせる」が約 ームカムへン大学は, 50%で突出している. 国立上位の中ではチュラロンコン大学は,希. たい」が若干多かった.独立・自営への興味は. 望初任給額,希望する職種,就職に期待するも. 大学のランクとは全く対応していない.. のも,全体平均から蔀離している.残りの国立 上位のカセサート大学,シーナカリン大学は,. に挙げるものが相対的に高く,スワンドゥシッ. 以上の結果から,或る程度の差異は存在する ちのの,独立・自営への指向は各学校で共通し. むしろ私立大学一般と類似した傾向を示してい. ており,また独立・自営への理由も大学ランク を反映させた特徴を有していないことから独. る.私立大学では,バンコク大学,トゥラキッ. 立・自営という職業選択の多様化は大学のラン. トウム大学全てにほぼ共通した傾向がみられる. クを原因とはしていないといえる31).. が,シリバトウム大学に関しては若干,雑業的. しかし,他の項目では,大学生の職業選択が. トバンディット大学,商工会議所大学,シリバ. 職業選択の比率が高く,希望初任給額も低かっ. ランクを反映させている部分がある.各大学生. た.国立大学下位のラームカムへン大学とスワ. の希望初任給額に注目してみると,大きく異な. ンドゥシット校は,ともに希望初任給額はチエ. っている.国立上位のチュラロンコン大学は相 対的に高く2万1千バーツで,その他の国立上位. ラロンコン大学の約半分であり,希望する職種 もやや雑業的であり,就職に希望するものの. では,カセサート大学1万3千バーツ,シーナカ. 「学業を活かせる」が半数を占めるという特徴を. リン大学1万5千バーツであった.私立大学は商 工会議所大学が1万7千バーツでやや高く,バン. 有していた.大学のランクと大学生の職業選択. コク大学,トウラキット・バンデイツド大学が. 意識は部分的に対応しているといえるだろう. むすびにかえて. 1万4千バーツ,シリパトウム大学がやや低めの 1万2千バーツであった.そして,国立下位のス ワンドゥシトで1万千バーツ,ラームカムへン 大学では1万バーツであった.国立の最上位の. 以上の調査結果の分析から,タイにおける大 学生の職業選択は,理系・文系,及び各学校に おいて共通で,一定程度の割合で自営業者への.
(13) タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). (399). 87. 指向を有している層が存在することが明らかに. 数の増加として説明しているが,当然ながら複. なった.つまりある特定層のみが独立・自営へ. 雑な要因があるだろう.とりわけタイのマクロ. の志向を持つわけではなく,全般的に共通して. 経済的な側面といかなる関係であったのかは今. いる現象である32).それならば,タイにおいて 大卒者が企業や公務員・公営企業へ就職したと. 後の課題である.. しても,その内面は独立・自営を指向している わけであり,離職の可能性を含んでいるといえ る.. また他方で,大学生の職業選択の中に部分的 ながら相違点を確認することができた.理系・ 文系別の集計では,希望する初任給額,希望す る職種にはそれぞれ異なった傾向がみられた. 大学別の集計でも初任給の希望額,希望する職. 注 *横浜国立大学大学院国際社会科学研究科国際開 発専攻博士課程後期/日本学術振興会特別研究 員(DC2) e-mail : [email protected] 1)本稿は2005年第110回社会政策学会での発表に 加筆・修正したものである. 2) Labor Force Survey Roundlより筆者が算出し た.ただし1970年と2003年では集計方法が異な る. 70年時点ではVocationalが前期中等教育水 準と高等教育水準が分割されていないため排除 してある.仮に全てのVocationalを算入すると. 種には大学別の傾向が存在し,それは,大学の ランクとある程度対応している. タイにおける大学生数の増加は,大学生の職. 業選択を多嘩化させた一方で,大卒労働市場の 格差をも同時にもたらしているという仮説を導 く結果となった.. 2.3%になる.. 3). Labor. Force. SuⅣey. Roundlより筆者が算出し 1971年と2003年では職種の区分が若干異な るため多少誤差が生じている可能性がある. Hongladarom 4)田坂[1985]や,渡辺[1992], & KnlnSuanSOmbat [1983] Panipiemras [1986] Sussangkharn [1987]などを参照のこと. 5)都市インフォーマルセクターの定義は様々な 見解があり難しい.詳しくは鳥居・横田[1981] を参照のこと.なお,タイにおけるインフォー [1994]によると, マルセクターの定義はNSO 「小規模かつ組織化のレベルが低い経営形態や 低賃金もしくは不確実な賃金,社会厚生の不適 用などに規定される企業体」とあり,実際の集 計上の基準は従業員数10人未満とされる.その 為,個人事業主,家族労働,小規模零細企業, また多くの農業労働者がインフォーマルと判定 た.. ,. 本稿では3点の残された課題がある.第1に, 自営業者への指向が共通した現象ということは 確認できたが,それがどの程度の比率で実際に 独立や自営業を選択するのかは解明できていな い.各大学別の詳細な就職先のデータの人手が 必要である.また自営業者といっても,その選 択は様々であり,露天商のようなインフォーマ ル性の高い職種から,法律事務所や会計事務所, 設計事務所といったよりホワイトカラーに近い ものまで幅広く選択肢がある.第2に,自営業 を一つのグループとして扱ってしまったこと で,その自営業の性質自体には深く踏み込むこ とができなかった.実際に大卒者が自営業を選 択するとして,どのような自営業者になるのか, それが低教育水準者の自営業とどのように異な るのかは不明である.今後は大学生の職業選択 の意識ではなく,大卒者が実際にどのような就 職,転職,独立といったライフコースを辿って いくのかを明らかにしたい.. 第3に,本研究では労働力の供給側である大 学生の職業選択の多様化の原因を単純に大学生. される.. ,. [2003] 6)児童労働と教育についてはTzannatos を参照のこと.これによれば,緊急の必要によ って児童労働に従事するのではなく,家計が教 育の費用を負担していくことが困難なためとさ れる. 7)ただし現在はラチャモンコンにおいても4年制 の学士課程が設置されている.この場合の学歴 は学士となる.ラチャモンコンについては大学 か職業教育の高専として扱うべきなのかは判断 が難しい. 4年制学士課程を設置しているラチ ャモンコンはⅢigber. Education. Commissionの. 管轄となる. 8)国立大学は通常,旧大学庁管轄の国立大学を Training 示す.当時は教育省管轄のTeacher College (現ラチャパッド地域総合大学), Vocational (現ラチャモンコン技術大学) school.
(14) 横浜国際社会科学研究. (400). 88. 第10巻第3. は大学との扱いを受けていなかった. 9)この時期(64-67年)に開設されたのが, Khon Kaen Mai University (][#) Chaing prince University, (東北部) of Songkla University (南部)である.その後通常の教育 省管轄の国立大学としては, 71-75年の間に, ,. Srinakharinwirot lnstitute. University,King. of Technology,. Mongkut's University. Maejo ,が カレッジからの昇格や統合によって大学となっ た.. 10)厳密にはラチャパッドが高等教育機関として 制度的に確立したのは75年の「教育大学法 (Teachers College Act)」によって4年制課程修 了者に対する学士号授与が認められたことによ る.その後85年の法改正によって,教育学部以 外に人文・社会学部,理工学部,経営学部(一 部は農工学部,工業教育学部もある)に再編成 されることになった.そして95年の「ラチャパ ッド法」によって正式名称が教育大学からラチ ャパッド大学に変更となった.この95年の法改 正の結果,学部,大学院の新増設が各校の判断 「地域総合大学」の名 によって可能となった. 称は堀内[2000]に倣っている. ll)ラチャパッド及びラチャモンコンの学生数は 統計の集計上の問題から大学院や短期の職業教 育課程の学生をも含んでしまっている. bttp://www.moe.go.th/ 12)タイ教育省ⅢP Englisb/nu/stat.htmより. 13)バンコク都において調査を実施した理由は, 旧来の国立大学, 70年代の公開大学, 80年代の 総合大学化した私立大学, 90年代の地域総合大 学という性質のことなる大学を同時に対象とす ることができるためである.ただし,バンコク. 都においてのみの調査であるため,国立大学で も地方国立大学の比較は諦めざるを得なかっ た.. 14)大学生かどうかの判別法は,非常に単純であ る.タイにおける大学生の大半は,男性は白い ワイシャツに黒いズボン,女性は白いブラウス に黒のスカートという制服(もしくはそれに準 ずる服装を着ているため)を着用しているため 判断がつきやすい.制服姿の場合には男女とも に校章のついたバックル等をしているため,校 舎から出てきた人間がその学校の生徒であるか の判断ができる.対象者のなかには一部,私服 姿の学生もいたが,その場合は持ち物や,グル ープの中に制服姿の人間がいるため見当がっ く.当然質問時には念のため所属大学を確認し ている.それでもラチャパッド大学スワンドゥ Dusit Rajaphad Universityの場 シット校(Suan 合は, 2年制の学生や,同じくラジャバッド大 学で隣接するスワンスナンタ校(Suan sunandba)の学生が含まれていたことは否定. I. 4号(2005年12月). できない.しかし,その場合もラジャバッドの 学生であることに変わりなく本質的に調査結果 の性質に歪みを与えるものではないと考えられ る.. 15)チュラロンコン大学(Cbulalongkhorn University)はバンコクの商業中心地である MBKデパート,及びサイアムスクウェアーの 近くに位置している.ここでの調査はMBKシ ョッピングセンター付近(パヤタイ通り沿い) とサイアムスクウェアー側のチュラロンコン大 学ブックセンター付近,及びアンリドゥナン通 りの3地点で実施した.チュラロンコン大学は タイにおける近代化の中心となった最も設立が 古い大学である. http://www.chula.ac.th/ University)は, 16)カセサート大学(Kasetsart バンコク都郊外に位置しており,パホンヨ-チ ィン通り,ヴイファアディ-・ランジット通り の中間に位置する広大なキャンパスである. 「カセサート」とは農学を意味しており,農業 大学として設立されているが,現在は理工系・ 農業系を中心としながら社会学部・経済学部も 有する総合大学である.またナコンパトム県に も広大なキャンパスを有している.ここでの調 査はパホンヨ-ティン通り例の校門付近の歩道 にて実施した. http://ww.ku.ac.th/ 17)ラームカムへン大学はラームカムへン通りの ファマーク・スタジアムの横に位置している. 入学試験無しの全人学制度となっている.希望 すれば誰でも入学でき,社会人学生が多く在学 している.このような特徴的な制度のため,タ イで最も在学生数が多い.ここでの調査はラー ムカムへン通り沿いに校舎の外壁の歩道を歩き ながら実施した. http://www.ru.ac.th/ 18)ラジャバット大学スワンドゥシット校はラジ ャウイティー通りに位置する小さな校舎の大学 である.この大学はタイにおける世論調査「ド ゥシット・ポール」で有名である.ラジャパッ ド大学の中では異色ともいえる3つの修士課程 を持っている.ここでの調査はラチャウイティ ー通りの校舎正門前で実施した.. http://www.. dusit.ac.th. 19)シーナカリンウイロット大学は日本大使館近 く,プラサミットに位置する.バンコクの大学 の中では比較的都市の中J山部である.元々は教 育大学として設立され,付属学校も有する.こ この校舎以外には,ナコンナヨック県にも広大 な校舎がある.現在は社会学部や芸術学部等も 有する文系の総合大学となっている.ここでの 調査はスムビット通りのソイ23の校門付近,及 び校舎内で実施した. http://swu.ac.th/ 20)シーパトウム大学(Sripatum University)は カセサート大学に近いパホンヨ-ティン通りに 位置する.経営学部,経済学部といった文系だ.
(15) タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上) けでなく,工学部や情報学部といった理系学部 も有する.ここでの調査はパホンヨ-ティン通 http://www.spu. り側の校門付近で実施した. ac.th/ University)はラマ4 21)バンコク大学(Bangkok 世通りのクロントイ地区にある比較的小規模な 校舎である.他のキャンパスはランジットに位 置している.法学部,経済学部,人文学部だけ でなく,理工学部なども有する総合大学である. ここでの調査はラマ4世通り側に位置する正門 付近で実施した. h仕p://www.bu.ac.th/ 22)トウラキットバンディット(DhurakijPundit University)は,会計学や経営学,経済学,法 学といった文系学科を中心とした大学である. バンコク郊外のプラチャーチュ-ン通りに位置 する.調査はこのプラチャーチュ-ン通り側に http://www.dpu.ac. ある正門付近で実施した. 也/ (University of The Thai 23)商工会議所大学′ chamberofCommerce)はヴイファワディーラ ンジット通りに位置する.タイの商工会議所に よって設立された経営学,会計学といった文系 を中心とした大学である.ここでの調査は大学 の正門近くのコンビニエンスストア-付近で実 施した. http://utcc2.utcc.ac.也/www/ 24)当然ながらサンプルはバンコクの大学生を対 象としているため,本調査によってタイの大学 生全体の職業選択意識を示すことはできない. またタイ全体における大学生の実際の国立・私 立の割合と比べると,私立の比率が高くなって いる.さらに複雑な問題はタイの国立大学生の 大多数はラームカムへン大学やスコータイタマ テイラ大学,ラチャパッド大学等の新設大学に 集中しているにも関わらず,本調査においては 旧来の国立大学の学生の標本数が多い.以上の バイアスがかかっている.しかし本調査の目的 は理系・文系別,及び大学ごとの違いを明らか にすることであるので,標本におけるバイアス が本稿の正当性を損なうことはない. 25)本稿においては3節以降で理系・文系別,大 学別のクロス集計を行っているが,男女別のク ロス集計は記載していない.筆者が予備的に男 女別集計をすると,有意な差が観察されなかっ た.男女差が生じなかった理由としては,タイ においては公務員・公営企業,民間企業で採用 や賃金の面で女性が不利に扱われることが比較 的に少ないからではなかろうか.いずれにせよ, 男女別の相違は本稿における論旨から外れる. 26)チエラロンコン大学など教育学部を有するい くつかの国立大学では付属の中学t高校を設置 している.これらの学校は難関として知られる. 27)なお盤谷日本人商工会議所[2003]によると, 調査対象日系企業の大卒初任給の分布は製造業. (401). 事務職で8千から1万2千バーツ,技術職で1万か ら1万6千バーツに,非製造業事務職で9千から1 万3千バーツに70%が含まれる. 28)大学生が独立・自営を希望する者が多いとい う理由については不明な点が多い.初任給の希 望額は滴足でないとしても生涯所得に関しては 公務員・公営企業,民間企業への就職で満足な 状態となる可能性もある.なぜ独立・自営を希 望するのかということは経済的要因以外の要素 も重要かもしれない.この点については別稿で 論じてみたい. 29)文系・理系間の平均希望初任給額に差がある か否かを統計的に確認するためにt検定を行っ た結果, t値は-3.25889であった.これは有意 水準1%で棄却されるので統計的に有意な差が 認められた.確認のため就職希望先の回答のカ イ2乗値を測定すると0.7025であり,有意水準 5%でのカイ2乗値であるか帰無仮説が採択され る.よって,理系・文系における差がない.同 様に独立自営への興味でも,カイ2乗値o.9503で 有意であった. 30)大学はそれぞれ固有の特徴を有しているため, 大学別の比較のみには客観性の欠如する恐れが ある.とりわけ本調査における対象大学はそれ ぞれの標本数に限りがあり,何らかのバイアス を受けている可能性がある.そこで大学別比較 には客観的な基準でランクを特定する必要があ る.. 31)カイ2乗値o.ooo286であり,有意水準5%で帰 無仮説が採択される.各校での差は生じていな いことが確認された. 32)この自営業者への指向が生じる原因は現時点 では未だ解明できていない.今後の追加的調査 によって補足していきたい.現時点でその原因 と推測される事由は以下の4点である.第1に従 来,大卒者に人気のあった公務員は民間との貸 金格差が拡大した結果,以前程の魅力を失って いる.第2に,公営企業は民営化の影響によっ て公務員同様の手厚い保護が失われている.第 3に,他方で民間企業においては景気の影響に よるレイオフの可能性や,労働組合の弱体化に よる賃金抑制圧力がある.労働市場が年功序列 や終身雇用といった安定的なものでないため, 長期的な展望を期待できないという事情もあ る.第4に,本調査結果の全体でも明らかであ るが,労働における「自由」を重視する国民性 も存在する.. 89.
(16) (402). 90. 横浜国際社会科学研究. 付. 第10巻第3. I. 4号(2005年12月) [2003]. 記. vocational. in Thailand:. education. Economics study of choice and returns, Education Review, 22 pp.991107 NESDB [1992] Manpower Planning For. 本稿は平成17年度科学研究費補助金(特別研究員 奨励費)の成果の一部である.. Development. of Industrial. Service. and. a. of the. Sectors,. TDRI Panpiemras,. 参考文献. Kosit. [1986] <日本語文献> 国際協力銀行開発金融研究所[2002]. vocational overtime, Development,. times. [2003]. D.. comparing. the payoff to in Thailand credentials Educational Journal. of. 23 pp.607-625 Changing returns. of prosperity Economics. 1998,. and Employmentin. [1987]. Sussangkharn,Chalongpbob labor. A. market:. [1990] hbour. -. A Study. Labour. of. Thai. seasonality. MarketinAnEra. of Thailand,. [1991]. -. study. The. and. TDRJ. segmentation,. Thai. Market. of Adjustment:. TDRI. Economic. Growth,. Emerging. and Policy. Problems. Responses,. TDRI Education,. 一[1995]. Development. Labor. in Thailand:. Chulalongkorn pp. 201-253 Tzannatos, Za丘hs. Journal. of. [2003]. child. Economic. and. Policy. Simulations,. Economics,. 7. (2). labor and school 1990's, Economics. enrollmentinThai1andinthe Review 22 pp.523-536. ofEducation <タイ語文献>. 和一11Jl例11卯fu'(Matanusorn,Jitra [1994】). n* 討1刊1弓ylU1向1加点LaとLyl何7u7日己 ctu悶16)u別勺11tf15別ylY113JⅥ11上耶弓yI En怠Ⅵu5'mFl弓可1 q613J昇∩廿1uunl軸弓ylUl皇祖叫1刑∩与fhⅥ1弓ylUl古u2537 dltLvnJlu訂fieiLL山田1扇∩弓ごⅥうつd LY]F17tL7ai拍1ち机uy]札しaどnl絹日計1う. and crisis, Education. of. in education Thailand 1985-. to. Review,. [1983] Education,. Ⅲongladarom,Chira EmploymeⅢt. in Thailand,. Management. Development". lssues. vigyan. 23. pp.. yl.Ff.2537. in Third New. [2002hll川1uNa. nlうdl弓つ勾m弓yh寸1utLa珊1弓づ1朋1uⅦ aJfi1苗珊u弓ごnuIJnal仙aとぅ冨乱打ヾ yl.Ff.2545. (舶1向nl絹∩廿1 1J与己dldiJnl絹fl廿12543) 由ul号別≠11ヰ約弓与tyVヾ店前n51戚yN貞LLa司芸. Training. Seminor. Bhavan,. 悶1別L刊勺11瓜恥弓と1]1JLLa掘1山肌l与ごmd1弓IWlつ=m与Yh J1肌8d5珊1∩5. -. 273-286. and "Labor. Krusuansombat. (NationalStatisticalOffice [1994]). and academic International. [2004]. -. Somchai. ′nlailand, NESDB. 「教育セク ターの現状と課題一束南アジア4カ国の自立的 Paper No.17 発展に向けて」 JBICI Research 末贋昭[1997] 「タイにおける労働市場と人事労 務管理の変容」 『社会科学研究』第48巻第6号 田坂敏雄[1985] 「タイにおける農村雑業層の流 出構造」 『アジア経済』第26巻2月号 鳥居泰彦・横田和[1981] 「学会展望:経済発展 とインフォーマル・セクターの膨張」 『三田学 会雑誌』第74巻第5号 堀内牧[2000] 「タイ国地域総合大学における現 職教育大学院の整備状況と問題点一教育行政専 攻大学院に対する実態調査を通じて-」 『国際 教育協力論集』第3巻第2号 盤谷日本人商工会議所[2003] 「賃金労務実態調 査報告書」盤谷日本人商工会議所 『タイ チラ・ホングラダロム・糸賀滋編[1992] の人的資源開発一過去・現在・未来-』アジア 経済研究所 水上祐二[2004] 「バンコク都における露天商の 所得に関する社会経済的分析一間き取り調査結 果から-」アジア政経学会2004年度全国大会自 由論題報告(於 東北大学) 渡辺真知子[1992] 「タイの労働市場一季節性と 低雇用問題-」 『アジア経済』第33巻12月号 <英語文献> Hawley, Josua. &. SeasonalMigration. on. World. 怠号5iyluu5r (Watananukit, Sirikonwutiphong. &. A)ana. Suti. & WlraPhong. Niratiphan. Delhi,. [1989]) ■一. nl開1nFl弧fil煮珊u与と血山弓n)ml細1血3J軸uln弓叫廿. India. January4-7, 1983 [1988] urban Self-employment. ILO. Study. of Two. in Thailand,. Districts in Metropolitan. Bangkok,. ILO. rAWEP Moenjak, Thammarak.. &. Cbristopher. Worswick. A. 3JⅥ1弓ylUl貞′LJ5弓弓山打1如l与2532 (Taromtat, vIDd舶5弓3J紬Ltaご坤u与8向f]aJ Rodphong. Yuphin. [1992]). Tasani. &.
(17) タイにおける大学生の職業選択に関する事例研究(水上). (403). 91. 弓1U勺1um弓弓奇ut458勺Rつ1)]ぬ寸m弓fh苗勺Runplual匂っ荊∩廿1. 与1Ull1川3Jnlう吉日Llul与WvII匂1扇nl号如Lhnl弓Vh勺11拙句nうnJluL鮎勺252. 計1uL'∩勺11川flit:n門)A m絹n廿1. dluufl勺111Rfll=n門別nl与nl補則ulnl別郎5iFiq Lし司=如f13JLL山q1南. ,. LtTi勺ql肩2535. dlu∼∩寸11tRnt珊うぅ3J nl弓nl輔肌1nl別郎5如Ltaと如Rut山匂1南. (NESDB. [1988]). ゆうじ [みずかみ 横浜国立大学大学院国際社会 科学研究科博士課程後期].
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