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Family System Test (FAST) による家族構造認知の研究 : 日本での妥当性の研究

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Academic year: 2021

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Family System Test (FAST) による家族構造認知の

研究 : 日本での妥当性の研究

著者

中見 仁美

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− 10 −

論 文 内 容 の 要 旨

 本論文は、欧米で開発された家族関係測定具である Family System Test(FAST) の日本における妥当性 を詳細に検討し、更にその FAST によって表わされる日本の家族関係についての一連の実証研究をまとめ たものである。FAST はスイスの心理学者である Gehring(1986) によって考案され、チェスのようなボー ド上に男性、女性を示す2種類の木製の人形を使って家族を配置させるシンボル配置技法のひとつである。 FAST では、家族の「親密さ(cohesion)」と「力関係(hierarchy)」が表現される。「親密さ」は「家族メ ンバー間の情緒的な結びつきあるいは愛情」と定義され、「力関係」は明確な一つの定義はないが、「権威」、 「決定力」「他の家族メンバーへの影響力」と関係しているとされ、家族内の世代間境界を表すと考えられて いる。「親密さ」はボード上の人形間の距離で、「力関係」は人形の下に積まれたブロックの高さのよって測 定される。この「親密さ」と「力関係」の両方の組み合わせから家族関係の構造タイプ(「調和型(balanced)」)、 「中間型(labile-balanced)」、「非調和型(unbalanced)」)を決定する。通常 FAST は、日常場面、理想場面、 葛藤場面と3つの場面を設定し、それぞれの場面の家族の様子を表現してもらう。さらに人形配置後に半構 造化面接を行うことになっている。  これまでも FAST を用いて日本の家族関係を査定する研究はなされているが、それらの先行研究では、 Gehring のオリジナルの評価基準に従うと、日本のほとんどの家族は非調和型となり、日本の家族関係を査 定するには適さないとされてきた。また、そうした非調和型の家族が日本の家族の特徴であるとされて来た。 しかし、オリジナルの評価基準がどのように日本の家族に適さないのかについてはほとんど検討されてきて いない。本論文では、そうしたこれまで放置されてきた、日本の家族を対象とした FAST の評価基準につ いて詳細に検討し、最終的に FAST の改定版を考案して、日本での有用性を示唆している。  本論文は全6章で構成されている。第1章では、FAST の理論的背景となっている家族構造理論、家族発 達理論、家族円環モデルを概観し、それらの家族理論を基に開発された様々なシンボル配置技法を紹介して いる。その中で、親密さのみに焦点が当てられている他の測定具に比べ、力関係を3次元で表現させ、親密 さとの組み合わせで家族関係を捉える FAST の優位性を指摘している。さらにこの章では、欧米で FAST の評価基準が設定された一連の研究、日本での FAST に関するこれまでの研究を概観し、FAST の問題点 を明確にしている。特に日本の家族においては、家族の世代間境界の明確さを表す「力関係」の評価基準が 適合しないことを指摘している。

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− 11 −  以上の問題点を踏まえ、第2章では、これまで全く考慮されてこなかった人形配置後の半構造化面接の回 答と、FAST の評価基準との関連を検討する目的で、大学生を対象に FAST を実施し、その日常場面につ いての分析を行っている。その結果、「親密さ」は顕在的であるが、「力関係」は潜在的であるという特徴が 明らかになった。この特徴を基に「バランス型」と「アンバランス型」から成る FAST の新たな評価基準 が提案された。この2分類による家族関係構造は精神的健康度や家族機能との有意な関連が見られ、その妥 当性が示された。更に、この章においては、Gehring のオリジナルの評価基準では全く触れられていない三 世代家族の評価基準について検討している。この研究では、祖父母と両親の力関係、両親と子どもの力関係 を個別に分析し、その組み合わせから三世代家族の「力関係」を評定した。その結果、顕在的な「親密さ」、 潜在的な「力関係」という日本の家族の特徴が三世代家族において一層顕著であることが明らかとなり、こ の特徴を考慮した三世代家族の評価基準を提案した。  第3章では、FAST の理想場面、葛藤場面について、日常場面からの変化という視点で分析している。そ して、精神的健康度、家族機能、面接の回答との関連の検討から、一般の大学生の家族関係の査定において 葛藤場面はあまり意味をなさない事を明らかにしている。第4章では摂食障害と診断された中学生3名に対 し FAST を実施し、臨床現場での応用を試みている。この3事例の比較から、FAST を用いて患者が自分 の家族を客観的に表現できることは患者の治癒の程度を表す一指標になる可能性が見出された。  第5章では、これまでの研究で明らかになった潜在的な「力関係」という日本における FAST の問題点 を克服するために、力関係を表現するブロック1個の大きさ(長さ)を小さくするという独自の変更を行い、 一般大学生に FAST を実施した。そして、精神的健康度との関連を見た結果、これまで日本の家族に適さ ないとされてきた Gehring の FAST の評価基準がそのまま適用できる可能性が示唆された。  第6章は総合議論であり、本研究で得られた新たな知見と課題を論議し、FAST 研究の今後の展望で論 文を結んでいる。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 本論文で取り扱われている Family System Test ( 以下 FAST と称す ) はチェスのようなボード上に木 製の人形を使って家族を配置させ、家族関係を査定する測定具の一つである。FAST はスイスの心理学 者 Gehring によって開発され、日本に紹介されたのは1997年である。それ以降、日本の家族心理学分野で FAST を用いた研究が始まったが、我が国においては、Gehring の示す欧米の研究結果とは異なった研究結 果が次々と報告された。そして、欧米で開発された FAST の評価基準は日本には通用できない、欧米の一 般的な家族像と日本の一般的な家族像とは異なるのだとされてきた。しかし、何がどのように異なるのかと いう具体的な提議や主張はほとんどなされることなく、またいかなる研究者も我が国における FAST の基 準作りに着手しようとする動向もないままに、長年の間放置されている状況が続いていた。本論文の著者で ある中見仁美氏は FAST が日本に導入された初期の頃より FAST の研究に取り組んでいるが、このような 状況に疑問を呈し、本論文における一連の研究に着手している。  中見氏はまず、これまでの我が国の FAST の研究結果を統合し、家族の世代間境界の明確さを表す「力 関係」の表出に問題点があることを指摘している。そして、これまで全く検討されることのなかった、人形 配置後に実施される半構造化面接の回答を分析し、FAST の評定結果との関連を検討している。また、個 人の精神健康度と FAST で評定される家族関係構造の詳細な検討から、日本人大学生の家族では、「親密さ」 は顕在的であるが、「力関係」は潜在的であるという特徴を見出し、新しい評価方法を提案している。つまり、 中見氏は Gehring の FAST の評価基準のどこがどのように日本の家族に合わないのかを明確にしただけで なく、日本人の家族認知の特徴に合った評価基準を作成した。こうした、今までどの研究者も手をつけず放

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− 12 − 置してきた点を明らかにし、新しい知見を発表したことは高く評価できる。  次に中見氏は、日本にはまだ多数存在する三世代家族に注目し、FAST の評価基準を作成している。三 世代家族形態のほとんど見られない欧米において開発された FAST では、三世代家族の評価基準は存在し ない。先行研究としては中国の小学生を対象とした研究があるのみである。この中国の研究では、祖父母世 代と親世代を一つの世代とみなし、小学生である子どもとの「力関係」を測定している。しかし、子どもが 大学生の場合、この方法は適用できないことが明らかとなり、中見氏は世代間境界の明確さという家族理論 に基づき、それぞれの世代間に明確な境界があるか否かで三世代家族の「力関係」を測定するという方法に より新しい評価基準を提案し、その妥当性も示している。このことは、FAST 研究において大いなる貢献 であると言える。  更に中見氏は、自らのそれまでの研究で明らかにされた潜在的な「力関係」という日本人の家族認知の特 徴から、また、自分で実際に数多くの FAST を実施した経験から、「力関係」を表すために人形の下に積む ブロックの1個の長さを短くすることを考え出し、その新しい方法でデータを収集した。そのデータ分析の 結果、「調和型」の家族関係に分類される者は精神的に健康であり、人形配置後の面接においても家族を肯 定的に捉えられていることが示され、Gehring の評価基準がそのまま適用できることが示唆された。この研 究でのサンプル数はまだ十分とは言えないが、今後データを増やすことによって、この新たな方法の信頼性、 妥当性が強固なものとなり、他の研究者によっても広く使われていくことが期待される。  このように、中見氏の FAST 研究における多大な貢献は高く評価できるが、本論文には課題が無いわけ ではない。まず、本論文の研究対象者はほとんどが健常の大学生であり、発達的視点に欠けている。また、 摂食障害者を対象とした研究も含んではいるが、臨床群のデータ数はまだまだ数が少なく、健常群との比較 はなされていない。今後これらの課題に向かって更なる研究の発展が望まれる。しかし、FAST は投影法 に基づく心理テストであるため、一つのデータを得るのに30分以上要する面倒なものであることを考慮する と、本論文で扱われた総データ数から、これまでの中見氏の地道な努力と研究意欲をむしろ評価すべきであ るかもしれない。いずれにしろ、中見氏自身最終章で述べているように、FAST 研究においてまだ手がつ けられていない別の課題もあり、今後上述の課題とともに積極的に取り組んでいくことと思われる。  中見氏は2007年10月から京都文教大学臨床心理学部の専任講師として活躍している。また、本論文の研究 の多くは家族心理学会等の学会で発表されたものであり、そのうち3本は「家族心理学研究」に掲載されて いる(1本は印刷中)。  以上、本論文審査委員3名は、論文を慎重に審査し、また、2010年1月28日に実施した口頭試問の結果や 学会などにおける諸活動から判断し、中見仁美氏が博士(教育心理学)の学位を受けるのにふさわしいとの 結論に達したのでここに報告する。

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