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公共の利益と私人の権利保護-大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に

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(1)法科大学院論集. 第 4号. 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港 訴訟最高裁判決を素材に 浅. 野. 有. 高 己. ーはじめに 二. 大阪国際空港訴訟最高裁判決. l 差止否認の理論構成. 2 中村裁判官の反対意見一公定力一 3 公定力の理論の転換 三. アメリカにおける l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの理論. 四検討. 1 違法段階説との関係. 2 所有権的構成と人格権的構成の比較 3 検討による示唆. ーはじめに. 大阪国際空港訴訟については,そこにおける原告団の打ち出した人格権や環 境権の思想と主張,それに肯定的な判断を下した一審・ 二審判決,それを差止 請求に関して覆した最高裁判決とその理論構成など,多岐にわたる興味をそそ られる論点があり,学界での議論も既に多くなされている l。本稿では,最高 裁判決における差止めの否認にみられる法理論の意義を,これまでなされてき た議論からは若干異なった観点から再考することによって,公共の利益と私人. - 19-.

(2) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に の権利保護のあり方を考察する一助とした L、 。 次のこでは,最高裁判決における差止に関する理論を確認した後,中村治朗 裁判官の反対意見の中にみられる,多数意見の解釈をとりあげる o 中村裁判官 は最高裁の理論を,仮に正当化できるとしたら公定力の理論を用いることにな るであろうと述べ,結果的にはその理論が本件の場合には妥当しないとして, 多数意見を斥ける o しかし,本稿では,この公定力の理論をより詳しく検討す ることとした L、 。なぜなら,大阪国際空港訴訟における問題の実質は,空港の 運営が公共的重要性を有しているために,私人の権利保護の必要性が認識され ながらも,それを単純に優先できないという点にあるが,公定力の理論は,公 共性を持つ加害行為と私人の権利保護の関係を,公権力の行使の場合に調整す るための,一つの受容された理論となる可能性を有すると思われるからである O 即ち,特に中村裁判官の解釈による場合には,公定力の理論は,本稿の主題で ある公共の利益と私人の権利保護の調整の基準を考える手懸りのーっとして検 討され得る。そこで,検討の材料として,三において,大阪国際空港判決にお ける,この公定力の理論と類似するかつてのアメリカの l e g i s l a t i v ea u t h o r i t y の理論をとりあげる O この l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの理論は,法律の裏っ・ けのあ る行政や私企業による公共事業に伴う加害行為に対して,差止めのみならず損 害賠償も認めないというものであり,わが国の公定力の理論をより理論的に一 貫した考え方であると思われる。しかし,本稿ではこの法理の可能性と限界を 論じるために, 1 9世紀末のニューヨークの高架鉄道に対する一連の訴えの事例 をとりあげて,その形骸化の過程を説明する 。 四では. 1において,このような過程から導き出すことのできる示唆として,. アメリカと日本で共通する点として,損害賠償は認めつつ差止めを限定するこ との妥当性を論じる o 2では公定力および l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの理論への対 抗策としての権利論が,アメリカと日本では異なった内容を持つことを確認し, その意味を論じた ~' o. - 20-.

(3) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 本稿における結論のーっとして,大阪国際空港訴訟最高裁判決の理論構成に 対する大方の批判にも関わらず,公定力の意義理解の転換を図り,かっそのよ うな公定力が認められる場合であれば,民事上の損害賠償請求は認めつつも, 差止請求は認めないという理論には正当化の余地があることを主張した L、 。. ニ大阪国際空港訴訟最高裁判決 1 差止否認の理論構成 大阪国際空港訴訟は,よく知られている通り,設置以来,ジェット機の就航 や新たな滑走路の建設などにより拡大をとげてきていた大阪国際空港周辺に居 住する住民 3 0 2名が,本件空港における航空機の発する騒音等により身体的・ 精神的被害,生活妨害等の損害を被っているとし,人格権・環境権に基づき, 国に対して, 一定時間帯における航空機の離着陸の差止めと,過去と将来の損 害賠償請求を求めたものである O 第一審は,差止めと過去の損害賠償を認め, 将来の損害賠償は却下した。第二審では,第一審で認められた差止めと過去の 損害賠償に加えて,一定の将来の損害賠償も認められた。最高裁判決は,差止 請求の容認を破棄・取り消しし,過去の損害賠償は認めたが,将来の損害賠償 もまた破棄・取り消した。 最高裁における差止否認の理論構成は,まず,本件のような国営の公共用飛 行場においては 「その設置,管理のあり方がわが国の政治,外交,経済,文化 等と深いかかわりを持ち,国民生活に及ぼす影響も大きく,. したがって,どの. 地域にどのような規模でこれを設置し,どのように管理するかについては航空 行政の全般にわたる政策的判断を不可欠とするからにほかならないものと考え られる. 20. Jという,空港の公共的重要性,政策的重要性を前提とするもので. あった。 その上で,そのような 「 空港国営化の趣旨,すなわち国営空港の特質 を参酌して考えると,本件空港の管理に関する事項のうち,少なくとも航空機. -2 1-.

(4) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. の離着陸の規制そのもの等,本件空港の本来の機能の達成実現に直接に関わる 事項自体については,空港管理権に基づく管理と航空行政権に基づく規制とが, …いわば両者が不即不離,不可分一体的に行使実現されているものと解する のが相当である」とされ,そうすると航空機の離着陸の差止請求は「事理の当 然として,不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請 求を包含することとなるものといわなければならな L、。したがって右被上告人 らが行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともか くとして,上告人に対し,いわゆる通常の民事上の請求として前記のような私 法上の給付請求権を有するとの主張の成立すべきいわれはないというほかはな い 30Jと結論された。 従って,最高裁判決の理論は,国営空港の運営の公共的・政策的な重要性を 実質的理由として,だからこそ,そこにおける航空機の離着陸の規制は行政権 の行使にあたるのであるとし,そのような行政権の行使に対する差止めを民事 訴訟上で行うことはできない,という形で,請求を斥けるものであった。ここ では,実質的な対立は,高度の政策的・公共的利益の確保の要請と,私人の権 利保護の要求の間にあるものということができ,このような場合には,前者を 優先させるために,従来受忍限度論や違法段階説などの手法も用いられていた ものの,原審が「現代において航空が輸送手段として重要な地位を占め,これ に対する重要度も逐年高まっており,その聞において本件空港が京阪神地域に おける唯一の第一種空港として重要な役割を果たしていることは否定しえない が,航空機騒音等による広範かっ深刻な被害が周辺住民に生じていること等前 期の諸事実に照らし,公共的必要性を主張するには限界があることを指摘し て4 Jいるような状況では,このような従来の手法では差止めを回避するには 不十分であるために,一段と高い公共性の防御壁として「航空行政権」なる概 念を持ち出したものと理解される。. - 22-.

(5) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 2 中村裁判官の反対意見一公定力一 中村治朗裁判官は,まず,多数意見の前提とする民事救済と行政救済の区別 公 について,行政の公権力行使に与えられる公定力の意義に 言及している o I 権力の行使にあたる行為とは,一般的には,平等な権利主体間の水平的関係と は区別される権力一服従の垂直的関係において,権力行使の権能を有する者が 優越的な意思の主体として相手方の意思のいかんにかかわらず一方的に意思決 定をし,その結果につき相手方の受忍を強制しうるという効果をもっ行為を意 味するが,行政庁によるこのような権力の行使は,法治行政の原理の要求する ところに従い,法律による特別の授権に基つ き,そこで定められた要件を充足 e. してなされなければならないとの拘束を受けるとともに,他面,右の権限を与 えられた行政庁が法律の規定に適合すると判断して一定の行為をした場合には, 行政庁の右判断は一種の優越的妥当力をもち,私人がその適法性を争い,右行 為の効果を否定するためには,あたかも裁判に対する上訴と同じように,専ら それを目的とする特別の不服手続によらなければならないとされている O この 最後の特殊の手続的効力ともいうべきものが公定力と呼ばれるものであって, 行政事件訴訟法が行政庁の公権力の行使にあたる行為に対する不服訴訟として 抗告訴訟という特殊の訴訟手続を定めているのは,かかる行為につき右の公定 力が認められるべきであるとの原理を前提とするものである. 5 J。. つまり,公定力とは,公権力の行使に際しては,法律の授権に基づいて行為 する行政庁は,行為の適法性について判断の優越性が認められ,その優越性の 確保のために,私人はその適法性を通常の民事訴訟では争うことができないと いう手続的意味を有する,とされている O しかし,飛行場を航空機の離着陸のために供用する行為には,私営空港でも それが行われることにみられるように,それ自体の性質としては公権力行使性 をもつものは含まれていな L、。にもかかわらず,多数意見が,国営空港であれ ばそこに公権力行使性が生じるとして民事上の救済を否定する理由を中村裁判 qd.

(6) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. 官は問い, I 私は,強いていえば,次のように説明する以外にその理由付けは困 難ではな L、かと思う. 6 Jとし,次のように述べる。「すなわち,航空運輸は高度. の公共的必要性を有する事業であるが,その具体的内容をなす航空機の飛行活 動,なかんずく本件で問題とされている飛行場での離着陸は,その際に発する 騒音や排気ガス等によって飛行場周辺の住民等の第三者に特別の不利益を生ぜ しめる可能性をもっ行為で・ある O それ故,このような航空機の飛行活動を可能 ならしめるためには,できる限り後者の被害を減少させる措置を講ずるととも に,具体的にどの程度の飛行を実現させるかについては,具体的な条件のもと で右の公共の必要性と第三者の被るべき不利益とを相互に比較考量してこれを 決定しなければならな L、 。 この決定は,事柄の性質上,航空行政についての権 限と責任を有する行政機関,すなわち運輸大臣に第一次的に委ねられるべきも のであり,現行航空法等も,そのような建前をとっていると解すべきである O すなわち,運輸大臣は,……航空機の離着陸に必要な公共用飛行場の供用につ いては,私営又は公営のそれに関しては当該飛行場の設置及び管理に対する航 空法所定の各種の許認可権,例えば供用の休止ないし廃止に対する許可(同法 四四条),管理規程の制定,変更に関する認可(同法五四条の二)の権限の行 使に際して右の判断を行い,間接的にこれに従った供用をなさしめるとともに, 国営空港についてはみずからがその管理機関として同様の判断のもとに直接供 用の範囲及び内容を決定すべきものとしていると解すべきである。そして,こ のような判断ないし決定は,いずれの場合にもひとしく公定力をもっ行政判断 ないし決定たる性質をもつものというべく,. したがって,国営空港である本件. 空港の供用行為には,少なくとも航空機の離着陸の規制に関する限り,公権力 の行使たる性質が含まれているというべきである,との議論である. 70J. つまり,ここでは中村裁判官は,多数意見の正当化可能性を,本件飛行場に おける航空機離着陸の決定が, I 公共の必要性と周辺住民の被る不利益の調整」 を旨として運輸大臣によって特になされたものであり,それがために公定力を. - 24-.

(7) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 有していると考えることには「一応もっともな点が含まれている J ,というこ とに求めている O このように論じた上で, I 公企業の遂行が一般第三者に被害を生ぜしめる可 能性がある場合に,両者の調整をはかるためには,その聞に行政的な判断とこ れに基づく措置を介在せしめるのが合理的であり,できる限りそのような線に 沿った具体的な立法上の手当てがなされることが望ましい」が,航空法には, そのような行政判断の基準や具体的措置,必要な調査や決定手続の規定が含ま れておらず,利益調整の趣旨を読み取ることはできないとして,多数意見の上 のような解釈可能性を斥けている O. 3 公定力の理論の転換 結論としては,多数意見を斥けたものの,この中村裁判官の意見の中には, 公定力の意義についての新しい解釈の可能性が示唆されている 。即 弘 法 律 の 授権による公権力の行使に対してのみ与えられるべき,行政庁の適法判断の優 越性としての公定力の理解から,公共の必要性と私人の利益保護の調整に対す る公的な判断があった場合には,その優越性を認めることができる場合がある という意味の公定力の理解への転換である 。前者の理解では公定力は行政行為 の権力性のゆえに与えられるものであるが,後者の理解では,公共的利益の追 求可能範囲を定めた判断であるがゆえに与えられていると言うことになり,公 権力の行使という要件は,問題となる加害行為が公共性を有する典型的な例と してあげられていることになるであろう O だからこそ,仮に立法に基づいた行 政の何らかの利益衝突の調整手続等が存在するとした場合には,それ自体とし ては公権力性のない航空機離着陸の決定に公定力が付与されるべき可能性があ ることが示唆されている,と読むことができる 8。 このことはさらに,公定力 の付与される行為の主体が必ずしも行政に限らず,立法と行政の利益調整決定 の下で重要な公共の利益に関わる事業などの行為を行う主体をも含む理論的可. -2 5-.

(8) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. 能性を示唆する o 公定力の生じる理由が,行政か私人かという主体の形式的分 類によるものではなく,社会における利益調整の公的判断に基づく行為として の実質によるものと考えられるのだからである O もちろん,公的利益調整判断 に基つ く場合であっても,さらに直接行政によるものと私企業などによるもの e. とを区別するという理論はあり得ょう 。 しかし,公権力の行使であるから,と いう理由で公定力が与えられる場合と較べ,. r 公企業の遂行が一般第三者に被. 害を生ぜしめる可能性がある場合に,両者の調整をはかるためには,その聞に 行政的な判断とこれに基づく措置を介在せしめる」ことの意義として公定力が 認められる場合には,そのような理論的必然性は少ないのである O むしろ,行 政行為であるか否かが本質的な問題ではないことを率直に認めることの方が, 理論の明確化に資するのではなかろうか。勿論このような転換によって,公定 力は行政府よりも,より背後の立法府の権限に正当性の根拠を多く見出すもの であることになる 。 あるいは,現代積極国家における国民の福祉の実現には, 議会による国民の公共的利益の判断を背景に,それを実行するための機関が不 可欠であって,その典型的機関である行政に公定力といわれる特殊な力が与え られていると考えられるのではないだろうか 9。法律による行政の原理の下で は,むしろこのような公定力の理解の方が制度適合的で,現実的であるのでは ないだろうか。 具体的には本件でのこのような公定力は否定されているので,このような解 釈の可能性を中村裁判官がどこまで積極的に提唱しようとしたのかは分からな L、 。 しかし,文意からは,このような公権力行使の保護から公共の利益の優先. 範囲の公権的決定へ,という公定力の実質的な理由付けの転換を見て取ること ができるであろう loo ところで,中村裁判官によれば,公定力が与えられる場合には「当該事業計 画に沿う飛行活動や飛行場の供用行為は,一般第三者である飛行場周辺の住民 に対する関係でも,それらの者の被る被害の~,かんにかかわらず一応適法化さ. - 26-.

(9) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. れることとなる……(そうでなければ右の判断ないし決定に公定力を付与する 意味はない。)l1Jと述べられている O このように,公定力を,法律の授権に基 づく行政庁の行為判断に一応の適法性を与え,その優越性を保障するために通 常の民事手続では違法性を争えないものとするならば,差止のみならず,損害 賠償についても争うことはできないのではないか,とも考えられるであろう O 当該行政行為が一応適法であり,違法でないのであれば不法行為が成立せず, 損害賠償請求も認められないことになりそうであるからである o しかし,この 点については,中村裁判官自身「行政庁の公権力の行使にあたる行為について は,一般に,これによって権利ないし法律上の利益を害されたとする者は,行 政事件訴訟法に定める抗告訴訟の方法によってのみ救済(損害賠償の請求は別 である。)を求めることができ」と述べており,損害賠償請求には公定力の影 響は及ばないものとされており,多数意見弘前述のように差止めは否定する が,損害賠償については特にこの点に言及もなく認めている。 なぜ,損害賠償については公定力の影響は及ばないのであろうか。かつて天 皇主権に基づいた明治憲法下では,公定力は,超越的主権の行使としての行政 行為に本来的に備わった,いわば超実定法的で絶対的な効力であると理解され, 行政行為の執行を妨害した者等は,刑事裁判においても当該行政行為が取り消 されない限りその違法を主張できないと考えられていた 120 このような超法規 的通用性を認められた自律的な行政行為に対しては,行政手続でそれが取り消 されない限り民事訴訟法上でその違法を主張できないことは当然であって,損 害賠償請求もまた認められないこととなる 130 しかし,国民主権を採用した現 行憲法の下では,国民の権利保護という目的に拘束されない超越的な国家権力 の正当性を観念することは不可能であって,公定力はただ統治権の主体として の行政がその責務を実効的に果たすための手続的原理であると理解されなけれ ばならない,とされる。つまり「行政行為に不服がある者は,当該行為の無効 ないしは無効を前提とした法律関係の存在を主張しえず,裁判で行為そのもの. - 27-.

(10) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. の取消しを求めなくてはならな L、。ということは,最終的に裁判で当該行為が 取り消されるまでは,当該行為を前提にして行動しなければならないというこ とを意味する。その限りで行政行為は,その適法・違法にかかわらず,取消し の判決がなされるまで通用することになる O この暫定的な通用力が公定力の内 容である 14J ということである。このような説明だけでは,暫定的であれ通用 力を有しているのであれば,やはりそれが違法であることを前提にした損害賠 償請求はできないのではな L、かという疑問をなお払拭できないが,実際には判 例は「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについて は,あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならな いものではない 1 5Jとしており,これが通説となっている。 ここで,公定力が行政行為の差止めに対してのみ及び,損害賠償請求には及 ばない理由を改めて考えるに,行政処分の実効性を確保するためには当座の処 分が行われれば足りるため,事後の救済である損害賠償請求まで排除する必要 がないという実際上の判断があり得,またその背後には,権利保護という近代 市民法の原理の例外たる公定力の理論の及ぶ範囲を限定的に解するべきである という価値判断が存在していると思われる O 公定力の及ぶ範囲を以上のように解するとしても,ここで上に述べた通説的 な公定力の理解と,中村裁判官の示す公定力の理解にはニュアンスの差が感じ られることに注意すべきであろう o 中村裁判官は公定力を行政行為に「一応の 適法性」を与えるものと述べているが,通説的には「適法・違法にかかわらず 有する通用力」として理解している O この差異は,前述の中村裁判官の意見中 に示唆される公定力の理解の転換可能性と関連するものと思われるのである O 即ち,行政行為の優越性,つまり行政行為の実効性保障としての公定力の形式 的理解から,法律の授権による行政庁の利益調整判断の尊重としての公定力の 実質的理解への転換可能性を見ることができるとするならば,前者の形式的理 解においては,行政行為の範曙であればその「適法・違法にかかわらず」一律 9白. nO.

(11) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. に公定力が認められることになるが,後者の実質的な理解においては,公共と 私人の利益調整に対する公的判断であるために「適法性」が推定されるとの考 えがとられることになるであろうからである 。 また,差止めと損害賠償との関 係についていえば,前者の行政行為の実効性確保という観点から見れば,事前 の差止めさえ排除できれば緊急の処分は行えるので損害賠償は認めてもよく, また,公定力があるからといって適法であるとは限らないのであれば,実質的 に違法である場合には損害賠償を認めることに理論的にも矛盾はないが 1 6,中 村裁判官が可能性として示唆するように,利害調整判断として適法性の基準を 打ち立てたものという観点から見れば,差止めのみならず損害賠償請求も却下 されることとなる方が理論的には一貫すると思われる O 本章での議論を整理すると,以下の通りである o まず,大阪国際空港訴訟に おける中村裁判官の意見には,公定力の理解について興味深い転換の可能性が 示唆されている o それは,①行政行為の実効性の確保という形式的理解から, 公共の利益と私人の利益の調整における公的判断の必要性とその尊重という実 質的理解への転換であり,このような転換の結果,②直接の行政行為ではなく ても,立法と行政の決定とコントロールの下で行われる公共事業などにおいて は公定力が認められる可能性を理論的に考えることができる,ということであ るo. 本稿では,以降において,このような転換された理解が,現代の行政国家に おける利害対立状況を調整する方法として役立つところがな L、かを検討してみ たいと考えるわけである。そして,このような実質的理解は,公定力のある場 合には,差止めのみならず損害賠償も排除する一見,より権威主義的な処置と 理論的にはつながるものであるが,それが必然的であるかどうかも検討しなけ ればならな L、。次の章では,これらの目的のために,中村裁判官の意見から 読み取ることのできる実質的公定力の理論と類似する,かつてのアメリカの. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの 法 理 の 用 い ら れ 方 と そ の 形 骸 化 の 過 程 を み る o. - 29-.

(12) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. L e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理は,現在のアメリカでは立法委任の憲法的許容範 囲の問題として論じられることが多いが 1 7,今日の繁栄の礎となった第一次世 界大戦前のアメリカの未曾有の経済成長の時代には,むしろ法律に基づく行政 行為やそのコントロールの下での私企業による公共事業の司法的免責の問題に 焦点が 当てられていた。現代産業社会における公共の利益と個人の利益の衝突 と調整という問題について考察する際に,このような原点への回帰には基本的 な問題の再確認という意義が存在すると考える O. アメリカにおける l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの理論. 三. 一八八O年から九O年にかけて,ニューヨーク州の裁判所における訴訟提起 が未曾有の数に達していた。 その間,常時約二千件が裁判所において継続中で あったといわれるのは, 当時続々と建設途中であった高架鉄道の経営会社に対 する,その沿線の住民や庖舗所有者からの差止・損害賠償請求であった 180 ニューヨークでは,一八三二年に初めて馬の牽引による路面鉄道が開通した。 その後,蒸気が使用された時期もあったが,車両のデザインの改良により 二O 年後には再び馬車鉄道が復活し, 一八六四年には一二の路線が市中を走ってい. f こ1 90 しかし,その当時から路面鉄道は密度過剰な状態となっており,新聞は乗客 が「汗をオイル代わりにしたサーディンの缶詰」のようになっていると 書 くに 至っていた。 また,歩行者や乗合馬車や私用馬車や商業荷馬車などでごったが えす大通りにさしかかると,鉄道馬車の速度は著しく遅くなり,当時拡大しつ つあった郊外に居住しながらマンハッタンに通勤する多数の人々からの,より 便利で高速の公共交通手段の確立の要請が高まっていた。 一八六四年,ロンドンの地下鉄開通に触発された会社が,ニューヨークの地. 。 円. 下鉄建設に名乗りを上げた。 しかし,その年,地下鉄建設を許可する法案は路.

(13) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 面鉄道や乗合馬車の経営者側からの反対で議会を通過しなかった。翌年,世論 の支持を集めて議会は地下鉄建設法案を採択したが,知事の拒否権行使にあっ た。 その後は度重なる地下鉄建設要請の声にもかかわらず,その実現は実に四. O年後のことであった。 計画の挫折した地下鉄に変わって,実現可能な新たな高速交通手段として注 目されたのが,道の下の代わりにその上を走る高架鉄道であった。一八六六年. h a r l e sT .Harveyに推進 に,議会は一八五 O年の一般鉄道法を修正して, C ロープかケーブルによる高架鉄道を建設するための会社を設立する許可を与え,. Harveyは WestS i d eandYonkersP a t e n tRailwayCompanyを 設 立 し た。 議会はこの会社に 1・5マイルの試験鉄道を建設するように命じ,特別に任命 された委員会の審査により,その試験鉄道が適当であると判断されることを条 件として,建設続行の権限を与えることとした。試験鉄道は成功し,その後,. WestS i d eCompanyが資金難に陥り,別の会社に買収され事業が引き継がれ たり,技術の進展に伴い動力が蒸気に代わったり,議会が特別法によって更に 別会社に鉄道建設免許を付与したり,様々な経過を経つつ高架鉄道の建設は進 んだ。一八七五年には新たに高速公共運送法 ( R a p i dT r a n s i tA c t ) が制定さ れ,これによりニューヨーク市長が任命する五つの委員会が新たな鉄道の建設 の必要性やその路線を判断・決定し,新しい会社との契約条項の作成に携わる 体制が整えられ,ニューヨーク市の監督や補助の下でいくつかの鉄道会社が高 架鉄道を全市に拡大的に建設していくこととなったのである 20。 これが, /¥0 年代からの訴訟の爆発の前史である O このようにして市の体制的パック・アップの下で建設されつつあった高架鉄 道は,通勤者や企業や政府には歓迎されたものの,計画された路線の沿線の土 地や建物所有者を,騒音や振動や煙や光の遮断による,想定される不快や財産 価値の減少について懸念させることとなった。建設の開始前から既に,所有者 たちは建設の差止めや予想される損失の補償を求める法的な手段を探していた。. - 31-.

(14) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. しかし,当時の法では救済の可能性は低いと考えられていた。 所有者たちの救済を阻むであろう法理として当時通用していたのが,. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理である 210 鉄道により近隣不動産所有者が被る類の悪影響は,本来は,土地の使用が近 隣への間接的損害を生じさせる,いわゆるニューサンスとみなされるべきもの である O 伝統的には,ニューサンスに対しては,. ドイツにおける物権侵害に対. してと同様,故意過失を必要としない厳格責任での差止めが認められていた 220 しかし,このような厳格なニューサンス法は,一九世紀初めの工業化や開発要 求の高まりに対する足かせとなったため,アメリカでは鉄道を含む重要な開発 プロジェクトについてはニューサンス法の適用を限定する法理を編み出した 230 立法府は公共による使用のために市民の財産に対して無補償で損害を与えるこ とを認める権限を有している,という l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理は,その主 要なものであった 240 議会が法的根拠を与えた公共の事業に対しては,その事業の範囲を超えない 限りは個人の財産侵害は正当化されるとして,同様の趣旨を表すイギリスの判. e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理が幅広 例を参照しつつ,一九世紀前半には,この l く通用するに至っていた。州法に根拠を有する運河の建設により,浸水や水利 の妨げを被った土地所有者や,道路の建設により土地の陥没を被った所有者な どの賠償請求の訴えが認められず,. r 問題とされている行為は公共の利益のた. めに,また立法府が付与できる範囲内で十分な権限の下でなされている 25Jと してそれは正当化された。このような免責は,行政が直接公共事業等を行う場 合だけでなく,法律の根拠の下に私企業が公共事業を行う場合にも広く認めら れていた。アメリカ国内における開発事業は大部分,諸州によって免許や特許 を受けた株式会社によって行われていたからである O そしてこれらの私企業に よる事業遂行は,前述のように,法によって設けられた委員会等の指揮・監督 を何らかの形で受ける体制で行われていた。. - 32-.

(15) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. このように,アメリカの l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの理論は,立法とそれに基つ. e. いた行政や委員会のコントロールの下で,公共事業における第三者の権利侵害 を免責するものであり,前述の,①行政行為の実効性の確保ではなく,公共の 利益と私人の利益の調整における公的判断の必要性とその尊重を理由とし, ②直接の行政行為ではなくても,立法と行政の決定とコントロールの下で行わ れる公共事業などにおいては特別の権限を認める,という転換された公定力の 理解と合致するものである O ところで,鉄道等の公共事業により悪影響を被る沿線土地所有者等が,その 法的救済を争うためには,ニューサンスの他にもう一つ,公的収用に対する補 償を求めるという方法があり得た。ニューヨーク州憲法では無補償の公的収用 の禁止が定められていたからである O 所有者は公共事業の開始に際して,補償 を支払わない限りは続行は違憲であるとして,差止めを訴えた。しかし判例は, 土地の収用と使用妨害との区別を行い,後者は直接的な収用とは異なり,間接 的で結果的な損害に過ぎないものとし,また地役権の侵害は憲法にいうところ のプロパティー保護の対象とはならないとし,やはり公共の利益の促進のため にはやむを得ない損害として甘受すべきであるという結論を支持していた 260 このような,法的根拠のある公共事業に対するニューサンスにおける. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの 法 理 の 採 用 と , 公 的 収 用 の 禁 止 の 制 限 的 適 用 が , ニューヨークの高架鉄道の訴訟において転換される契機となったのが,一八八 二年の S t o r yv .NewYorkE l e v a t e dR a i l r o a dC o .であった。. S t o r yにおいては,高架鉄道の架かる道路の利用関係について,多少の特殊 な事情が存在していた。. RufusS t o r yは,フロント・ストリートに沿った 2区画に庖とオフィスの 入った四階建ての建物を所有していた。この地区は,. しかし,百年前にはイー. スト・リバーの下にあった場所であった。一七七三年に市が土地とウォーター フロントの開発と拡大のために, 二人の個人に一帯の所有権を与える契約をし,. - 33-.

(16) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. 船着場や道路を建設させることとした。 その譲渡契約書には次のように書かれ ていた。「諸道路は以後永遠に維持されることとし,自由な 一般の往来のため に,また本市の住民その他の往来のための公共の道路として……,現在の本市 の他の道路が現在または将来適法にそうであるのと同様のあり方で」存続する, とO. 一八七七年に,被告である NewYorkCompanyは,フロント・ストリート を含むこれらの道路に沿って高架鉄道を建設する計画を進めだした。 S t o r yは 一七七三年の契約書を引き合いに出して,沿道の不動産所有者は道路の路盤の 所有者であると主張し,あるいは道路の地役権を有していると主張し, 二万五 千ドルの補償金の支払 L、か差止めを請求した。第一審では所有権の主張は認め られず, l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理により, I 高架鉄道の建設が法によって権 限を与えられている限り」としてニューサンスも認められなかった。 しかし控 訴裁判所は, S t o r yの主張を認めた。その理由は,彼がフロント・ストリート の相続による所有者でないとしても,道路における日照,大気,アクセスに対 する地役権を有しており,それが鉄道によって収奪されるのであるから補償が なされなければならない,というものであった。これに対しては,このような 地役権は虚構であり,先例は明らかに被告に有利であるとする強い反対意見が 付されていた 270 道路における日照と大気に対する地役権という概念は一体何を根拠として採 用されたのであろうか。 イギリスには近隣の土地所有者に対して日照や大気を 妨げられない慣習法上の権利を主張することができるという法理が存在してい たが, D anforth判事は,この事例における権利は,慣習ではなく,市と元の 所有者との契約の文言から生じるものと論じた。 この契約においては,前述の ように,一帯の道路が自由で一般的な公共道路として存続するべきことが約さ れており,土地の元所有者は,このような道路の公共性の維持を条件として, 区画を高い値段で譲り受けているのであって,現在の所有者にも,契約により. - 34-.

(17) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 道路が公共的に開放されていることが保障されているというのであった。 そし. c o r p o r e a lh e r e d i t a m e n t )Jとして,コモ てこのような権利は「無体財産権Cin ン・ローの古い権利に根拠付けられつつ,不動産の従物として一体化したもの とされ,したがって,州憲法にいう p r o p e r t yに含まれ,収用補償の対象となる。 従来の沿線の土地所有者に対する否定的判決は,このような一体となった無体 財産権あるいは地役権が存在しない場合であるので,先例との矛盾はな L、 。更 に,高架鉄道は元の道路開発契約により約束された通常の道路使用とは異なり, 道路をまたがる一連の鉄柱を支えとした高架の建設により光を遮るもので,こ のような建設による建物の価値の低下は収用の場合と同程度に至ることが補償 を認める実質的な理由として付け加えられていた。 以上のように, S tory判決は,百年前に市と個人の間で交わされた道路開発 契約に基づいて,道路の公共性と開放性により光や空気やアクセスへの「地役 権」を認め,その収用に対する補償を認めたものである。その特殊事情を強調 することによって先例との矛盾は文面上は回避されているが,この歴史的事例 を研究した E l i z a b e t hArensによれば,高架鉄道が道路の公共的利用を妨げる という,このような判決の合意が,高架鉄道を道路や公共の建物の利用と両立 するものと規定するニューヨーク法と矛盾することは明らかである o I した がって裁判所は暗に何が公共的道路使用であり,なにがそうではないかを判断 する権利が自己にあるものと主張したことになる O この宣言は, l e g i s l a t i v e. a u t h o r i z a t i o nのルールに含まれた法理からの,隠されてはいるとしても,陛 目すべき転換である。つまり,立法府がニューサンス法の範囲をコントロール できる,という法理からの 280 Jという評価がなされている o したがって, S t o r y判決は先例変更には当たらないという外面にもかかわら. e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理の否定,あるいはその適用範囲を狭 ず,実際には l めたものであり,その論理構成としては,光や空気に対する古いコモン・ロー 上の権利になぞらえた地役権を認め,本件ではこれが道路開発契約に由来する. - 35-.

(18) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に ものとし,これが収用されたとして,補償を認めるものであった。ニューサン ス法との関係では,公共の使用に当たるか否かが立法府の判断に委ねられると する従来の l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理を転換して,それが裁判所の判断によ るものとされたのであり,公用収用法との関係では,地役権の妨害が従来は単 なる使用妨害 とされていたのに, p r o p e r t yに含まれるものとして補償の対象 とみなされるようになったという 二点に,この判決の画期的意義が認められる ことになるであろう。 そして S t o r y以降,この判決に示された救済範囲は拡大の一途を辿った。. S t o r y以降,以前から予想されており, l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理の堅持 の一 因ともなっていた恐れ,すなわち公共事業に対する私的所有者の訴えの急 激な増大という 事態が現実となった。 その中で裁判所が広げていった救済の方 法は, 二つに整理することができるであろう o 第ー には,地役権の発生根拠である o S t o r yにおいては,前述のように,沿 線の所有者の地役権が,土地開発の際の市との土地譲渡契約を根拠として認め られていたが,一八八七年の Lahrv .MetroE l e v a t e dR a i l r o a dCompany2 9に おいては,地役権がこのようなウォーターフロントの開発地区だけでなく,そ れを含んだより広い地区における道路整備計画であった一八一七年法の文言 を 根拠とするものとして認められるに至った。一八一七年法は,この法によって 公共の 整備される道路が市の他の道路と同じように永久に「信託において JI 道路の一部として聞かれている」べきことを定めていた。契約から法の文言 に 地役権の発生根拠を一般化するこのような判断と,あらゆる公共の道路沿いの 不動産所有者が道路に対する地役権を有していることはアメリカ法における明 確なルールであるという, A bendr 叫 hv .ManhattanR a i l r o a dCompany3 0を 布石とした Kanev .NewYorkE l e v a t e dR a i l r o a dCompany3 1における判断ま での距離はもはや近いものであった。 そのような所有者の権利は「状態と,立 法の経過と,法によって創設された信託と,全状況に含まれているCim p l i e d. -3 6-.

(19) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. froma l lt h ec i r c u m s t a n c e s ),公共への保証に対する信義に基づいた,かっ公 共と所有権者の契約に基づいた行為から,道路は公共の道路として開放されて. 2 J という「印象的なほどの暖昧さ 3 3Jを根拠として認 いなければならな L、…… 3 められることとなった。 第二に,地役権ある L、はより一般的にプロパティの認められる対象範囲の拡. t o r yにおいては,イギリスの慣習法上の地役権を引用する形で 大である。 S 「光,空気,アクセス」への権利が認められていたが,前述の Lahrv .Metro. E l e v a t e dR a i l r o a dCompany判決ではそれが「ガス,煙,蒸気」などによる 妨 害 を 排 除 す る 権 利 に 広 が り , さ ら に 前 述 の Kanev .NewYorkE l e v a t e d. R a i l r o a dCompanyにおいてはそれが「騒音」にも広げられ, Moorev .New YorkE l e v a t e dR a i l r o a dCompany34においては鉄道車両から乗客が建物の中 を見ることによる「プライヴァシー」の侵害までも認められるに至った。 このように, S t o r y以降の判例においては,そこで認められた地役権の収用 に対する補償という方法での救済は,その地理的範囲と権利内容の範囲という 二点において拡大され,今や全ての公共の道路沿いの所有者が,幅広い範囲の 不利益について損害賠償請求を認められることとなったのである。この判例の 展開に応じて,その理解のために,理論的には二つの点を整理しておかなけれ ばならないであろう。 第一は,プロパティに基つ いた収用法の適用と,ニューサンス法の関係であ e. る。結局 はこの二つはどのように関連させられているのか。高架鉄道における 所有者の被る損害は,特にそれが,騒音やプライヴァシー侵害の認定に拡大さ れていくときには,所有権侵害よりむしろニューサンスとみるのが自然であろ うし,判例は収用法を適用しているように見える場合でも,常にニューサンス 的文言を用いている O 前述の A bendr 叫 hにおいては,下級審において所有権者は道路に対するプ ロパティを示す必要はなく,単に自分の所有物において損害があることを示せ. ο q.

(20) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. ばよいと論じられた。しかし,上級審では,パブリック・ニューサンスにより 請求が認められた事例は,実質的には沿線の所有者に請求を可能にするプロパ ティを認めているのであるとして,ニューサンス法から,ニューサンス上の権 利ではないプロパティ上の権利を導き出して,それを根拠とする方法が採用さ れた。このような. ‘ mindb e n d i n g 'な推論を余儀なくしたのは,前述のように. ニューサンスに基づけば l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理が適用されてしまうとい. t o r yからつながる, うことを避けるためであった。しかし,後の判例では, S この所有権に基づく収用法の適用はみせかけのもので,事例の性質上はより自 然なニューサンス法の代替手段に過ぎなかったことが明らかとされている 350 結局,判例の経過は,ニューサンス法が l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理によって 制限されることを避けるために収用法を偽装的に用いたが,徐々にニューサン ス法を前面に押し出すことによって,最終的にはニューサンス法を l e g i s l a t i v e. a u t h o r i t yに実質的に優位させるに至り,後者を形骸化してしまったものであ ると理解される o 第二に,特に本稿の関心との関係で,差止めと損害賠償請求の関係を確認し ておくことが必要である o 収用法の擬制的適用においては,実質としては (ニューサンス上の)損害賠償としての補償を行わない限り差止めを認めると いう形で両者は関連付けられていた。 S t o r yにおいては,裁判所は差止請求を 認めたが,鉄道会社が,当事者間での合意であるいは収用手続の実施において 補償を行うのに合理的な時間が経過するまでは差止命令は発効しないとした。 このような「条件付差止め C c o n d i t i o n a li n j u n c t i o n )Jは ,. しかし,損害賠償. このような状況におかれてい が拡大的にかつ実効的に認められていく中で, I る会社について,差止めに服するものとし,道路を横切る部分は運行を一日停 止するなどと論じることは無駄なことである 36J とされるに至り, S t o r yにお けるように当事者の合意に委ねる手間も省いて,裁判所が「買い上げ」価格を 決定することにより,損害賠償請求の中に解消されていくこととなった。しか. - 38-.

(21) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. し,通常の損害賠償とは区別される差止めの役割が全く果たされなくなったわ けではな~ , 。判例は,従来は,損害賠償としては過去の損害賠償のみを認めて. おり,将来の損害賠償はこれを不確定であるとして認めなかったのであるが, 裁判所は「買い上げ」価格の決定において 「 高架鉄道の継続的な維持と運営を 通じて区画所有者の財産における利益の価値の減少に基づいた補償」が支払わ れるべきであるとして,所有者が一度の訴訟で過去の損害のみならず将来の損 害も「永久的損害 ( permanentdamage)Jとして賠償請求をすることが可能と なるように判例を改めた。つまり,本来のニューサンス法における差止めは, 収用法における「条件的差止め」となり,結果的には損害賠償請求の中に解消 されることになったが,裁判所は通常の損害賠償請求では認められにくい将来 の損害賠償を認めるという形で, I 差止めの実行不可能性にあたって,原告の損 害に対して,完全補償という新しい救済方法を生み出したのである 370J. 四検討. 本章では,ニューヨーク州での高架鉄道訴訟での意義とその形骸化における. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理を,大阪国際空港訴訟における公定力の理論と比 。 、 較検討することとした L. 1 違法段階説との関係 大阪国際空港訴訟において中村裁判官の反対意見に示唆されている,伝統的 な行政行為の実効性の確保という公定力の形式的理解から,公共の利益と私人 の利益の調整における公的判断の必要性とその尊重という公定力の実質的理解 への転換の可能性を考えるとき,アメリカの l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理は, 後者の理解との共通性を有していることがまず確認されなければならな L、 。. L e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理は,国や地方公共団体がその制定する法により,.

(22) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. 多くの場合はその法によって設置された監督委員会などの指導や決定の下で, 行政や私企業に公共事業を行う権限を与えた場合には,そこから生じる私人の 利益の侵害に対しては法的責任が生じないとするものである O なぜなら,議会 は公共の利益を促進する自らの義務を果たすために,必要な範囲で私人の権利 の範囲を限定することができ,公共の利益が優先すると議会が判断した場合に はその判断に基づく行為は適法なものとされるからである。したがって,この ような適法行為に対しては,当然,差止めのみならず損害賠償請求も認められ ないことになる o この法理は,中村裁判官のいう公共の利益と私人の利益の聞 の調整に公的判断が介入する措置を立法的に図る必要があることの指摘と,そ の考え方に沿った公定力の理解に類似している o これは,行政行為の円滑な遂 行の必要性は L、かなる国においても否定されることはないとしても,行政主体 に帰属させられた国家主権の理論が隆盛であった一九世紀において,アメリカ にあってはこのような行政行為の優越性が,民主主義における公共の利益の促 進という実質的な根拠付けに基づいていたことを示すものであろう 380 その意 味で,公定力を単に行政権の実効性確保として形式的に基礎付けるのではなく, 公共の利益と私人の利益調整の公的判断の必要性という中村裁判官の理解に 沿って,この l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理の理念を例として,実質的に基礎付 けることは,現代の民主主義社会における重要な意義を有すると考えられる O しかしながら,先に見たとおり,ニューヨークの高架鉄道訴訟における. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理は,一八八 0年代以降衰退の道を辿った。だが, この法理は,損害賠償請求の拡大的容認に関しては形骸化されたものの,実際 上差止請求が認められな L¥点に関しては,実質的に残存しているものというこ とができるであろう。既に行われている鉄道運営のような公共的利益と直結す る行為の場合には,差止めは実行不可能なものとして認められないとする判例 が確立したのである O このような,損害賠償請求と差止請求の区別は,わが国における受忍限度論. - 40-.

(23) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. と結びついた違法段階説の果たす役割と類似したものと考えることができるで あろう。違法段階説を,このように公共の利益の保護のために差止めを制限す るものであると考えるならば,これを批判する説に対する反論が一定程度可能 になると思われる。すなわち,損害賠償請求に比べて加害行為の違法性が著し い場合にのみ差止請求が認められるとする違法段階説は,権利論の原則を転倒 したものであるという批判に対する反論である 。 この批判においては,絶対権 侵害の場合には,まず相手方の故意過失を問うことなく差止めを認め,差止め が不可能な場合には,故意過失がある場合に限って損害賠償が認められるのが 権利論の原則であると主張されるのに対して, l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理を 援用しつつ主張される公定力の理論からは,損害賠償請求を認めつつ差止請求 を認めないのは,伝統的権利論の原則に基づくのではなく,現代産業社会にお ける公共の利益と私的利益の公的な相互調整のために生み出された別の思考法 に基づくのであると率直に反論できることになる。 とはいえ,大阪国際空港訴訟においては,差止めは違法段階説によってでは なく,行政権の行使であるとの理由で否定されていた。それは,当該訴訟にお ける被害が通常の受忍限度を超えるものとされたため,違法段階説を採用する 場合でさえも差止めを認めざるを得ない状況であったからである o したがって, どうしても差止めを認めることができないとするならば,ますます率直に,公 共の利益の保持という正当化理由を挙げるのでなければ説得力を持たなかった のではなかろうか。その是非はともかくとして,仮に差止めに消極的な判断を 下す場合に,それを正当化するためには,中村裁判官が論じるように,率直に 公共の利益と私人の利益の調整の観点から必要であることを主張し(その主張 が不十分であればやはり公定力は認められないものとせざるを得ないであろ う),したがってその調整のあり方についての議論を以降,当事者や国民におい て可能とするような理由付けがなされるべきである O 本稿で紹介してきた. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理に例をみることができる,新たな公定力の理論に. - 41-.

(24) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に. よってそれが可能となるのではないかと思われる o また,以上のような新たな公定力の捉え方によって,それを行政権の行使に 対してのみ特別に与えられるものと考えるのと異なり,公共的利益と私人の利 益の調整という問題を,公共的利益の実現が企業やその他の社会集団によって 担われている場合と,国家によって担われている場合とで理論的に連続的に考 察することのできる利点があるものと思われる 390. 2 所有権的構成と人格権的構成の比較 次に, l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの衰退過程を確認することにより,公共の利益 に基づく行政行為に対抗する私人の利益や権利の捉えられ方が,アメリカと日 本においては異なっていることを指摘しておきたい。 大阪国際空港訴訟においてもそうであるが,生命や身体の健康などの人格的 利益の侵害,あるいは環境汚染や騒音や振動などの生活利益の侵害 に対する訴 訟において被害者が主張してきた権利は,わが国においては,環境権あるいは 人格権といういわゆる 一九七0年代から 議論されだした 「 新しい権利」であっ た。環境権と人格権のうちで,より射程が広くかっ従来の法理論との連続性が 大きいと思われる後者を取り上げて論じると,これは明文上の規定は無いが, 名誉 やプライヴァシーなどの精神的損害や上記の生活妨害 の事例において判例 により創造されてきた権利である o 人格権侵害 においては,判例では 当初,物 権からの類推によって, 差止めや損害賠償を認めてきたが, 学説上ではこれを 物権及び財産権とは異なる独自の権利であって,その救済においても独自の方 法論を要求するものとして理解する見解が有力である 。すなわち,人格権は, 近代市民法の原理とされた私的所有権とその派生原理である契約の自由によっ て構成される財産的秩序とは異なり,その財産権の帰属主体である人格そのも のの保護に関わるものであって,その意味でより基底的な権利である O また, このような人格権の周辺保護領域には快適な環境などの生活上の利益を保護す. -4 2一.

(25) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. るべき生活秩序が存在しているとされる。そして,生命や身体などの直接の人 格権侵害の場合は,差止めや損害賠償請求が伝統的な権利論の論法に従って認 められるが,生活秩序の侵害の場合には,加害行為の公共性などを考慮するこ とによって,侵害が受忍限度を超える場合には救済が認められ,またこの場合 には差止めのような影響の大きい救済手段は損害賠償に較べて控えられること になりがちである 400 救済方法としては,侵害される権利ないし利益が人格的なものであって財産 的なものではないことから,損害賠償の算定は財産的損害に較べて困難であり, 慰謝料などの形で認められることが多く,裁判所の裁量の範囲も大きいものと なる o 注意するべきは,公害などの生活利益秩序の侵害の事例において,そこで行 われる訴訟は,伝統的な私的利益や権利のための個人的救済を求めるものでは ないとされていることである。公共的秩序の維持は,本来は,公共団体が市民 社会の公共的利益の代表者として行うべきであって,市民の訴訟提起による秩 序維持や秩序の創造は,それが不十分な場合の代替的手段であるとされている のである 4 1。つまり,訴訟における人格権および人格的利益の主張は,市民が, 本来地方公共団体 4 2などの公的機関が行うべき公共的利益の保護のあり方の決 定に補助的に参加する手段としてなされているということである。これは,公 害訴訟などにおける問題が,単に個人の権利保護の問題ではなく,公共の利益 と私人の利益の調整の公的な決定の方法を探求しなければならないという,意 思決定への参加の問題であることを意味している o これに対して,時代が異なることは忘れられてはならないが, l e g i s l a t i v e. a u t h o r i t yの画一的な適用に対する抵抗の基礎となったのは,前述の通り,最 初は契約から生じたとされた地役権であり,後にはより一般的なプロパティで あった。 土地に対する利用権の源泉が土地開拓時の州や市との開発許可契約やそこか. - 43-.

(26) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に ら受け継がれた権利に求められるというのは,土地開拓の歴史的記憶が比較的 新しいアメリカという国の特殊性に由来する面もあるかと思われる O また,少 なくとも当初はニューサンス法を明示的には用いることができなかったために, 収用法に直結する所有権の論法が用いられたのでもある。しかし,光や空気や 汚染や騒音やプライヴァシーなどの多種多様な利益をプロパティに由来するも のとして説明し,大阪国際空港訴訟では否定された将来の損害賠償請求をも所 有権収用に仮託して認め,結論としては原告に手厚い保護を与えた判例の推移 は,個人主義的所有権の重要性に対する信念の強さを表すものといえるであろ. つ. O. このような財産権としての所有権の重視は,その救済方法にも現れていると いえる。すなわち,損害は過去の損害賠償については土地の利用権の侵害とし て,将来的損害賠償については所有物の財産的価値の低下として算定されてい るのである。これを日本における人格権的構成と比較してみた場合には,損害 がそもそも経済的なものとして観念されやすいために,認定も算定もより容易 であるといえるのではないだろうか。特に将来的損害の算定については,アメ リカにおける所有権的構成が有利であることを指摘できると思われる O 整理してみれば,公定力への対抗理念としての人格権的構成は,伝統的な権 利とは異なる生活上の利益やそれを保護する公共的秩序の存在を重視するもの であるため,公共的利益と私人の権利・利益の調整という観点を打ち出しやす いが,その反面,権利・利益保護の範囲や損害額が暖昧になりやすい幣がある O これに対して l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yへの対抗理念としての所有権的構成は,公 共的利益との調整という観点は正面に現れにくくなるが,損害が観念しやすく, したがってまた算定も比較的容易であり,だからこそ,大阪国際空港訴訟では 認められなかった将来の損害賠償も認められたということができる。. - 44-.

(27) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 3 検討による示唆 最後に,以上の検討がわが国の環境問題や公害訴訟に与える示唆は次の二点 にあると思われる O 第一に,わが国の行政法における公定力の理論を,アメリカの l e g i s l a t i v e けて理解する試みによって,上述のように,公共的利益と私 a u t h o r i t yに近つ。 的利益の調整問題の公的決定の必要性を強調することが可能となると思われる O 例えば,アメリカの連邦環境法の水質汚濁防止法 C C l e a nWaterA c t ) の実施 にあたって,行政庁では連邦環境保護庁 C F e d e r a lEnvironmentalP r o t e c t i o n. Agency)に適切な水質基準設定の権限を与えている O そして,その基準に基づ き環境保護庁か州の許可の下に企業に排出を認め,従わない企業には行政勧告 を行い,差止め訴訟の提起や民事上の罰金を請求し,刑法上の罰金を課す権限 もまた環境保護庁に与えられている 。立法者は,自然資源を利用して汚染物質 を排出する産業社会の必要と,人々の生命・身体・財産の安全の確保との間の 均衡を保つために,連邦環境保護庁にこのような特別の権限を与えており,そ の権限の適切な行使のために,私人のニューサンス上の差止めや損害賠償請求 が別途可能な範囲を決定することができるとされている O 判例においても,水 質汚濁防止法は,この法の下で操業を行った企業に対しては,私人は連邦のコ モン・ローに基づいて訴えることはできないと判断され,環境保護庁の専権性 が認められた。ついで,州、│が白州のコモン・ローに基づく訴えによって他州に ある汚染源を訴えることはできないと判断されたが,これについては後の判例 の見解は分かれている 43。公共の必要性から立法により規制された 一定の行. e g i s l a t i v e 為に対すみ私人の損害賠償請求等を排除・制限する現代版 l a u t h o r i ty44 というべきこのような理論は 45,私訴排除に対する立法の趣旨につ いての判例の見解の是非はここではおくとして,現代社会における公共の利益 と私人の利益の調整の方法が,立法や行政機関によって積極的に示される必要 があり,そのような制度的措置が整備されることの有益であることを明らかに. - 45-.

(28) 公共の利益と私人の権利保護一大阪国際空港訴訟最高裁判決を素材に したものであると評価できる 460 第二 に,以上のような公定力の理論の新しい可能性を認識する一方で,訴訟 の役割も改めて考察されなければならないであろう o 民事訴訟においては,利益調整の公的決定としての実質が尽くされており, 上に述べた意味での公定力が十分に認められるときには,その尊重のために差 止めは認められないと考える理論に正当化の余地があると思われる。大阪国際 空港訴訟においては,中村裁判官の論じるように,このような意味での公定力 を実際に認めることはできなかったため,差止請求の却下は正当化できないと しても,逆に認めることのできる場合であれば,通常の民事訴訟においては差 止請求は排除されるという制度構想の可能性は存在していると考える O これは,. l e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの法理がそれ自体としては形骸化し,説得力を失っても, 差止請求を認めない判例の確立においてその実質的意義が残されたのと同様の 考え方である。 他方で,損害賠償についての民事訴訟の利用は,事後的な市民の利益調整参 加の手段として重要なことであろうし,必要なことでもあろう o アメリカで問 題となっているように,立法で民事的損害賠償請求を禁じることができるか否 かには議論の余地があるかもしれないが,一般に,差止めに比べれば損害賠償 請求は公的利益調整の決定の効果に与える影響は少ないため,正当化の余地は 狭まるであろう O このような損害賠償請求においては,わが国の人格権構成は, 利益調整秩序の形成という側面を打ち出しやすい反面,損害の認定が困難であ るため,この点については,アメリカにおける所有権構成の確実性を助けとし て賠償範囲を拡大することができるかもしれな L、。特に,将来の損害賠償とし て,所有権収用の理論に仮託して,所有権の財産的価値の低下分を一度に支払 う手法は参考とされるべきではないだろうか。 最後に,大阪国際空港訴訟における伊藤裁判官の補足意見にも表れているが, 公定力により事前の公的利益調整決定を尊重するとしても,当事者に個別的な. - 46-.

(29) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 不服申し立ての手段が一切存在しないのであれば,やはりそれは被害者に対す る配慮に欠けるということになるであろう O 抗告訴訟の活用や,あるいは立法 に基づく特別の行政監督機関の設置に伴い,その機関に対して何らかの申し立 て手続が用意されていることが必要であろうし,このような手続的手当てがな されているか否かが,公定力が正当に認められるか否かという判断のー要素と なると思われる 470. l 大阪国際空港訴訟における環境権や差止理論を含む諸論点については大阪弁護士会環境権研究会 編『環境権.] (日本評論社, 一九七O年)の諸論文がある 。. 2 最高裁判所民事判例集三五巻ーO号一三七七一一三七八頁。 3 同一三七九頁。. 4 同一三九O頁。 同一四二一一一四二二頁。 同一四二六頁。. 7 同一四二七頁。 8 淡路剛久 「空港の公害 と差止請求」民法基本判例 4 3 事件一九二頁は,中村意見を,公定力を認め るためには 「国営空港の管理行為そのものが権力的性質をもっ」ことを定める特別の法律の根拠が 必要であるという趣旨と解する 。確かに中村裁判官は「空港の効用行為には……公権力の行使たる 性質が含まれているというべきである,との議論」と述べているが,その公権力の行使たる実質的 な理由は,公共の利益と私的利益の調整に関する判断であることにあるという点を本稿では強調し ている 。. 9 現代国家における環境法政策における,議会が行政に対する権限委譲については, RichardB . e n e r a t i o no fE n v i r o n m e n t a lR e g u l a t i o n?2 9CAP.U .L .REV. ( 2 0 01 )3 4 3 5 . S t e w a r t,ANewG 1 0 このように公定力の意義を転換する場合にのみ,本判決に対する「騒音の差止めがなぜ公権力の 差止めと理解されるのか,さっぱりわからない J(阿部泰隆「民事訴訟と行政訴訟一大阪国際空港 事件」民訴百選 1 ( 新法対応補正版〕八頁)というような当然の批判をかわすことが可能になると 思われる 。 1 1 同一四二八頁。. 1 2 高田敏編著『行政法一法治主義具体化法としての一 J(有斐閣) 一七一頁。 1 3 戦前の公定力の理論における適法性の推定については,原田尚彦 「行政法要論 ( 全訂・第六版)] . 五年) 一四一頁。 ( 学陽書房 , 二 00. 1 4 1 5 1 6 1 7. 高田敏編著『行政法一法治主義具体化法としての一』 一七一頁。 最判昭和三六年四月 二一 日民集一五巻四号八五O頁。 原田尚彦『行政法要論 ( 全訂・第六版 H 一四二頁。. SandraB .Z e l l m e r,TheD e v i l ,t h eD e t a i l s ,andt h eDawno ft h e2 1 s tC e n t u r yA d m i n i s t r a t i v eS t a t e :. 8e y ondt h eNewD e a l ,3 2A r i z .S t .L.J.( 2 0 0 0 )9 9 3における d e l e g a t i o no fl e g i s l a t i v ea u t h o r i t yの 説明を参照。. 1 8 鉄道の公共的性格と,フランスとイギリスにおける鉄道に対する立法的・行政的規制の歴史と現. -47-.

参照

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