• 検索結果がありません。

〈論説〉電磁的記録媒体の差押え

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈論説〉電磁的記録媒体の差押え"

Copied!
26
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

目 次 1 はじめに 2 差押許可状の発付に関する問題  犯罪の嫌疑  「証拠物と思料するもの」が存在する蓋然性  差押えの必要性 3 差押許可状の執行に関する問題  犯罪の嫌疑  差押対象物該当性  差押えの必要性  「必要な処分」 4 差押許可状執行後の問題  準抗告・還付  別罪の証拠としての使用 5 おわりに

1 はじめに

コンピュータや情報機器の普及・高性能化に伴い,電磁的記録が捜査の対象 となることが増えている。そして,刑事訴訟法は差押えの対象を有体物として

電磁的記録媒体の差押え

江 里 人

(2)

いる1)ので,電磁的記録媒体が差押えの対象となることも多い。 差押えに関して, 憲法35条は,「何人も, その住居,書類及び所持品につい て,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利は,第33条の場合を除いては, 正当な理由に基いて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令 状がなければ,侵されない」(1項),「捜索又は押収は,権限を有する司法官 憲が発する各別の令状により,これを行ふ」(2項),と規定している。 した がって, 令状による差押えについては,「正当な理由」の存在と,裁判官が発 した対象物を明示する令状によることが,憲法上,必要である。そして,刑事 訴訟法は,これを具体化して,捜査機関が,犯罪の捜査をするについて必要が あるときに,裁判官の発する令状により,差押えをすることができる(218条 1項)としたうえ,差押許可状には,被疑者の氏名,罪名,差し押さえるべき 物等を記載しなければならないとしている(219条1項)。刑事訴訟規則は,差 押許可状の請求書に,差し押さえるべき物,罪名及び被疑事実の要旨等を記載 しなければならないとし(規則155条1項),被疑者が罪を犯したと思料される べき資料等を提供しなければならないとしている(規則156条)。 これらの規定に従い,差押許可状の請求を受けた裁判官は,①請求書に記載 された被疑事実の嫌疑があることを,疎明資料によって確認した上で,差押許 可状に「罪名」(219条1項)を記載するとともに,②請求書に記載された「差 し押さえるべき物」が,被疑事実の証拠物2)と思料され(22条1項,99条1 項), かつ, 存在するであろうことを, 請求書の記載及び疎明資料によって確 認した上で,差押許可状に「差し押さえるべき物」を記載し,さらに,③当該 1) ただし,電磁的記録(無体情報)を差押えの対象と解すべき(そう解することが現行憲法・刑訴 法の解釈として可能)だという主張もある(安富潔『刑事手続とコンピュータ犯罪』(慶応大学法 学研究会,1992年)149~150頁,山下幸夫「コンピュータ・システムと捜査―弁護の立場から」三 井誠ほか編『刑事手続Ⅰ』(悠々社,2002年)400頁)。 2) 99条1項は「没収すべき物」をも掲げているが, 捜査段階においては,「没収すべき物」はすべ て「証拠物」にあたると考えられる。

(3)

物について差押えの「必要がある」(218条1項)ことを,請求書の記載及び疎 明資料によって確認したうえで,差押許可状を発する。つまり,差押許可状発 付の要件は,①犯罪の嫌疑,②被疑事実に関する証拠物と思料するものが存在 する蓋然性,③差押えの必要性,である。 差押許可状の発付を受けた捜査機関は,①犯罪の嫌疑が継続している場合に, ②当該被疑事実の「証拠物と思料するもの」にあたり,かつ,差押許可状に記 載された「差し押さえるべき物」に該当するものを,③差押えの必要性がある ときに,当該差押許可状に基づいて差し押さえることができる。つまり,差押 許可状執行の要件は,①犯罪の嫌疑,②差押対象物該当性,③差押えの必要性, である。 電磁的記録媒体には,①記録内容の可視性・可読性がないため,被疑事実と の関連性を判断するのが難しい場合がある,②大量の情報を記録することがで きるため,記録媒体の差押えによって被疑事実と無関係な情報も取得される, ③記録された情報の消去や改変が容易である,といった特徴がある。そのため, 差押えの各要件との関係で問題が生じ,①差押許可状の記載方法,②被疑事実 との「関連性」,③差押えの必要性に関して, 判例・裁判例及び議論が蓄積さ れている。しかし,②については近時議論に動きがみられるなど,なお整理・ 検討を要すると考えられる。そして,その際には,要件・論点相互の関係に着 目することが,有益だと考えられる。そこで,本稿では,差押許可状による電 磁的記録媒体の差押えに関して,近時動きがみられる点を中心に,差押許可状 の発付に関する問題,差押許可状の執行に関する問題の順に,要件に即して, 相互関係を意識しつつ検討し,それらをふまえて,差押許可状執行後の問題に ついても言及する。

(4)

2 差押許可状の発付に関する問題

 犯罪の嫌疑―要件① 令状主義の趣旨が,一般的・探索的差押え(何らかの犯罪の証拠があるかも しれないという一般的な疑いや憶測に基づく渉猟的な差押え)を防止しようと するものであることから,差押えの要件としての犯罪の嫌疑は,具体的な犯罪 についての一定の嫌疑でなければならない。しかし,その嫌疑の程度は,逮捕 の要件である「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(199条1項)より も低いもので足りると解されている3)。その根拠としては,①差押えは対物的 強制処分であり対人的強制処分よりも権利侵害性が低いこと,②逮捕を先行さ せて物的証拠の収集を行う方法よりも物的証拠の収集を先行させて逮捕を後行 させる方が妥当であること,③逮捕状の請求には「罪を犯したことを疑うに足 りる相当な理由」がある「ことを認めるべき資料」を提供しなければならない (規則143条)のに対して,差押許可状の請求には「罪を犯したと思料されるべ き資料」を提供しなければならない(規則156条1項)にとどまり, また, 逮 捕状については罪名及び被疑事実の要旨が必要的記載事項である(200条1項) のに対して,差押許可状については罪名は必要的記載事項だが被疑事実の要旨 は必要的記載事項でない(219条1項)4)こと,があげられている。 3) 法曹会編『刑事訴訟規則逐条説明 第2編 第1章・第2章 捜査・公訴』(法曹会,1993年) 63頁,伊藤栄樹ほか編『注釈刑事訴訟法(新版)第3巻』(立花書房,1996年)201頁〔伊藤=河上 和雄〕,河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法(第2版)第4巻』(青林書院,2012年)550 頁〔池上政幸=河村博〕,京都地決昭和47年12月27日(刑月4巻12号2040頁),横浜地判平成8年5 月8日(判時1606号68頁)など。 4) ただし,「正当な理由」(憲法35条1項)は,理由となっている犯罪を具体的に令状に記載するこ とを要求している,との主張(芦部信喜編『憲法Ⅲ人権』(有斐閣,1981年)165頁〔杉原泰雄〕) もある。 しかし,一般的には,「憲法35条は,・・・令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示するこ とまでは要求していない・・・〔ので,〕・・・差押許可状に被疑事件の罪名を,適用法条を示して記載す

(5)

ただし,個別特定の犯罪の嫌疑は必要であるから,差押許可状の請求書に記 載される「犯罪事実の要旨」は,特定の犯罪類型に該当することが示され,か つ,他の犯罪事実と区別できるものであること,が必要である。 また,被疑事実の内容や嫌疑の程度は,差押対象物の範囲及びその特定の程 度や,差押えの必要性の判断に,影響する。すなわち,被疑事実が軽微である ほど,また,嫌疑の程度が低いほど,差押対象物の範囲は限定すべきであり, 「差し押さえるべき物」の記載はより具体的にすべきであり, 差押えの必要性 (捜査機関が取得する必要性, 差押えという強制処分による必要性, 処分対象 者等が被る不利益との合理的均衡)は否定されやすい。また,被疑事実の内容 (と差押対象物との関係)によって, 差押対象物の特定が容易な場合とそうで ない場合とがある。例えば,わいせつ DVD 所持事案における「わいせつ画像 データが記録された DVD」は特定が容易だが,覚せい剤密売事案における「顧 客や仕入・売却に関する記録のあるパソコン,ハードディスク, DVD 等の電 磁的記録媒体」は,特定が難しい。 差押許可状の請求を受けた裁判官は,被疑事実の特定,嫌疑の程度(差押許 可状発付に必要な最低限の特定がなされており,嫌疑が認められるか)を確認 するだけではなく,被疑事実の内容・嫌疑の程度と差押対象物の範囲・特定の 程度,差押えの必要性との相関関係にも,十分に意を払うべきである。  「証拠物と思料するもの」が存在する蓋然性―要件② ア 「被疑事実に関する証拠物」の範囲 「被疑事実に関する証拠物」に関しては, まず,その範囲が問題である。 こ の点については,被疑事実自体を立証する証拠だけでなく情状事実を立証する ることは憲法の要求するところでな・・・い」(最大決昭和33年7月29日(刑集12巻12号2776頁)。捜索 差押許可状に罪名として「地方公務員法違反」と記載されていた事案)と解されている。

(6)

証拠も含み,また,それらの直接証拠のみならず間接証拠や補助証拠も含むと いわれている5)。たしかに,ここでの「証拠」は,犯罪と犯人を明らかにし公 訴を提起するかどうかを決めるための資料であるから,公判段階で必要な証拠 (99条1項による差押えの対象)よりは広いと解される6)。しかし, その範囲 は,被疑事実の内容・嫌疑の程度との相関関係で決すべきである。すなわち, 単純かつ軽微な事案において,背景事情や一般情状に関する証拠まで「被疑事 実に関する証拠」にあたるとするのは,疑問である7)。被疑事実との関連性が 希薄な場合は,差押えの必要性が否定されやすくなる(例えば,罪責の軽重に さほどの影響がない情状事実の立証にのみ役立つものなどは,被疑事実との関 連性が希薄であるがゆえに,これを差し押さえる捜査の必要性が乏しく,差押 えは認められない)といわれる8)が,関連性が希薄な場合はそもそも「被疑事 実に関する証拠」に該当しないというべきである9)。また,虚偽の証拠物の作 成を未然に防止するために確保すべきものも含まれ得るとの主張10)もあるが, 一般論としては広すぎる。重大な事案で,相当な嫌疑があり,虚偽の証拠物が 作出される具体的かつ現実的なおそれがある場合に限るべきである。 イ 「思料するもの」の意義 次に「思料するもの」の意義が問題である。差押許可状の請求も発付も,予 5) 近時の裁判実務家によるものとして,秋葉康弘「差押の対象物と被疑事実との関連性の程度」 麗邦彦=芦澤政治編『令状に関する理論と実務Ⅱ』(判例タイムズ社,2013年)80頁,前田巌「捜 索差押許可状執行時における『差し押さえるべき物』に当たるか否かの判断」麗邦彦=芦澤政治 編『令状に関する理論と実務Ⅱ』(判例タイムズ社,2013年)98頁。 6) 法が,公訴提起後の差押えの規定(99条1項等)を捜査段階の差押えに準用していることには, 批判がある(河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法(第2版)第2巻』(青林書院,2010 年)249頁〔渡辺咲子〕)。 7) 背景事情に関する証拠についての消極説として,光藤景皎『刑事訴訟法Ⅰ』(成文堂,2007年) 148頁, 情状証拠についての消極説として,田口守一『刑事訴訟法〔第7版〕』(弘文堂,2017年) 88頁がある。 8)秋葉・前掲注5)80頁。 9)前田・前掲注5)98頁。 10)前田・前掲注5)98頁。

(7)

測的な判断である(実際にどのような物が存在するのかは差押えをするまで分 からない)から,資料価値を確定的に判断することはできない場合が多いだろ う。しかし,裁判官が差押許可状を発付する際には,請求書に記載された(差 押許可状に記載しようとする)「差し押さえるべき物」が,被疑事実との関係 でどのような証拠として意味を持ち得るかを,具体的に想定できなければなら ない。電磁的記録媒体の場合は,その記録内容が資料価値を有するのが通常で ある11)から,どのような記録内容によって何が明らかとなり,それが被疑事実 の解明にどうつながるのかを,具体的に想定できなければならない。たとえば, 「強姦被疑事件において, 被疑者が犯行状況を撮影したデータが記録されてい る DVD は,被疑事実の直接証拠となる」12)とか,「贈賄被疑事件において,被 疑者の会計ソフトのデータが記録されたハードディスクは,贈賄の金銭支出そ のものが記録されている可能性は低いとしても,その原資となった裏金の捻出 方法(売上げの除外や経費の水増しなどの操作)を解明する資料となり得る」13) といったように。ここで,前の例は,被疑事実の解明に役立つことが確実であ るが,後の例は,記録内容を分析し,他の証拠と突き合わせることによって, 有用性が認められるかもしれないという,可能性があるにとどまる。事案及び 資料の内容によっては,このような有用性の可能性をもって「証拠物と思料す るもの」の該当性を肯定すべき場合もあろう14)。しかし,その判断は,厳格に 11) 先に例示したわいせつ DVD などのように,媒体自体にも資料価値が認められるケースも,もち ろんある。 12)太田茂『実践刑事証拠法』(成文堂,2017年)178頁の設例。 13) 石山宏樹「捜査段階における差押えの関連性について」東大ロー9号(2014年)128頁に挙げら れている例(ただし,「会計帳簿類」を「会計ソフトのデータが記録されたハードディスク」に変 更した)。 14) 差押えの時点では対象物が被疑事実の証明に役立つかどうか明確には判断できなかったが,その 後の捜査によって当該物と被疑事実との関連性が明らかになった実例の,検察実務家による紹介と して,石山・前掲注13)126~127頁,太田茂「いわゆる『包括的差押え』をめぐる諸問題について」 高橋則夫ほか編『曽根威彦先生・田口守一先生古稀祝賀論文集〔下巻〕』(成文堂,2014年)457~ 458頁,同・前掲注12)190頁。

(8)

すべきである。 次に,記録内容を確認できない段階(一定の内容が記録されている可能性が あるという状況)で,その記録媒体が証拠物と「思料するもの」にあたり得る かという問題がある。これについては,否定説も有力である15)が,捜査機関が 記録内容を確認せずに電磁的記録媒体を(包括的に)差し押さえた処分を適法 とした裁判例・判例16)の出現後,肯定説17)が有力化している。一定の記録内 容(例えば,会計ソフトのデータ)の資料としての有用性(例えば,裏金作り の資料となり得る)は,蓋然的な予測判断と解さざるを得ないのであるから, 有用性は確実だが(たとえば,犯行状況を録画したデータが記録された DVD) 記録内容が蓋然的な予測判断しかできないという場合にも,証拠物と「思料す るもの」にあたり得ると考えられる。 「(証拠物と)思料するもの」とは,比喩的に言えば,「『一定の内容が記録さ れている可能性』と『当該記録内容の資料としての有用性の可能性』の積が一 定以上(この限界は,事案の内容や嫌疑の程度,(予想される)記録内容等に よって異なると考えられる)である場合」だと解される。令状裁判官は,差押 許可状請求書に「差し押さえるべき物」として記載された電磁的記録媒体につ いて,記録内容を確認できない段階で,この意味での「証拠物と思料するもの」 15) 酒巻匡「捜索・押収とそれに伴う処分」刑雑36巻3号(1997年)94頁,笹倉宏紀「判批」ジュリ 1191号(2000年)82頁,宇藤崇「判批」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選〔第10版〕』(有斐閣, 2017年)49頁など。これらの見解は,99条1項の「思料するもの」という文言を,記録内容の資料 価値についての蓋然性を意味し,記録内容の存在についての蓋然性は含まない,と解することにな ろう。 16)3参照。 17) 記録内容を確認しない段階で差押対象物該当性が認められ得るとする見解として,廣畑史朗「コ ンピュータ犯罪と捜索・差押え」警論41巻3号(1988年)73頁,井上弘通「フロッピーディスクに 入力された情報の収集と令状の発付」新関雅夫ほか『増補令状基本問題下』(1997年,一粒社)336 頁, 甲斐幸夫「判批」研修605号(1998年)20頁, 村瀬均「判批」井上正仁編『刑事訴訟法判例百 選〔第8版〕』(有斐閣,2005年)55頁,佐々木正輝=猪俣尚人『捜査法演習』(立花書房,2008年) 366~367頁〔佐々木〕,石山・前掲注13)127~128頁,太田・前掲注14)460頁。

(9)

に該当すると判断し(さらに差押えの必要性の要件も充足すると判断し)たと きは,記録内容を確認できない段階で当該媒体を差し押さえることを許容する 旨の差押許可状を発付することができる。 ウ 「明示」 裁判官は, 請求書に記載された「差し押さえるべき物」が上記の意味での 「証拠物と思料するもの」にあたると判断したときは, それらを差押許可状に 「差し押さえるべき物」として「明示」(憲法35条1項)しなければならない。 「明示」といえるためには,令状を執行する捜査機関が対象物該当性を判断で き(捜査機関による恣意的判断を防止し得), 被処分者が受忍範囲を判断でき る程度に,具体的に記載しなければならない。記録内容が証拠価値を有する電 磁的記録媒体の場合,「ハードディスク」や「USB メモリ」といった形式を記 載しても,その要請を満たし得ない。「顧客や取引関係が記録されたハードディ スク」などと,記録内容を示すことによって特定する必要がある18)。また,被 疑事実が「特定の情報(例えばわいせつ画像データなど)を記録媒体に記録さ せて蔵置した」というものである場合は,「本件に関する情報が記録されたハー ドディスク」という記載で明示されているといえる(ただし,このような特定 の場合は,令状に「本件」の内容が記載されている必要がある)19)が,被疑事 実が上記のようなものでない場合は, 単に「本件に関する情報が記録された 18) 検察実務家による指摘として,小川新二「磁気のディスクと捜索差押え」平野龍一=松尾浩也編 『新実例刑事訴訟法Ⅰ』(青林書院,1998年)256頁。 19) 東京地判平成10年2月27日(判時1637号152頁)は,「インターネット接続会社のサーバーコンピュー タのディスクアレイ内に,わいせつ画像のデータを記憶,蔵置させた」という(わいせつ図画公然 陳列の)被疑事実に関して発せられた差押許可状の「差し押さえるべき物」欄の「・・・本件に関する データが記録されたフロッピーディスク・マグネットオプチカルディスク等電磁的記録媒体,本件 に関するデータをプリントアウトした書面・・・」という記載について,「本件捜索差押許可状の差し 押さえるべき物は,前記のとおり包括的であるところ,その記載の適否はともかく」と判示して, 記載を違法とはしていない。これについては,被疑事実が「特定のデータの記録媒体への記録・蔵 置」であるから,「本件に関するデータが記録された記録媒体」という記載で, 特定ありと考えら れる。

(10)

ハードディスク」と記載することは,「本件に関する事項が記載された文書」 という記載が明示を欠き許されないのと同じ理由で,許されない。具体的な記 録内容を十分に列挙したうえで,それらに類するものを示すことが明らかな場 合に限り「その他本件に関する情報が記録された」という記載が許される20) (この場合も,「本件」の内容が令状に記載される必要がある21) 20) 最大決昭和33年7月29日(前掲注4))は,「本件許可状に記載された『本件に関係ありと思料せ られる一切の文書及び物件』とは,『会議議事録,斗争日誌,指令,通達類,連絡文書,報告書, メモ』と記載された具体的な例示に附加されたものであつて,同許可状に記載された地方公務員法 違反被疑事件に関係があり,且つ右例示の物件に準じられるような闘争関係の文書,物件を指すこ とが明らかであるから,同許可状が物の明示に欠くるところがあるということもできない。」とし ている(「本件」に関する令状の記載は「地方公務員法違反被疑事件」のみであり,罰条や被疑事 実の要旨は記載されていない)。 この判例以降の, 明示を欠くとした裁判例として, 東京高判昭和 47年10月13日(刑月4巻10号1651頁)(「本件犯行に関係を有する文書,図画,メモ類等一切」(「本 件」に関する令状の記載は「公職選挙法違反被疑事件」のみ)),名古屋地決昭和54年3月30日(判 タ389号157頁)(爆発物取締罰則第3条違反被疑事件についての捜索差押許可状の差し押さえるべ き物「第8項の『本件の思想的背景に関係ありと認められる書籍』なる記載は,他の第1ないし第 7項の記載及び被疑事実の記載を併わせて考慮しても,なお無限定,概括的にすぎ・・・捜索差押の目 的物を特定する表示として不十分のそしりを免れない」)がある。 電磁的記録媒体に関する判例として, 最決平成10年5月1日(刑集52巻4号275頁)がある。 自 動車登録ファイルに自動車の使用の本拠地について不実の記録をさせ,これを備え付けさせたとい う電磁的公正証書原本不実記録,同供用被疑事実に関して発付された,差し押さえるべき物を「組 織的犯行であることを明らかにするための,1  オウム真理教からの指示,命令,通達,連絡及び これらに関する報告書等の文書,図画, テープの類,1 磁気記録テープ, 光磁気ディスク, フ ロッピーディスク, パソコン一式」等(池田修「判解」『最高裁判所判例解説刑事篇平成10年度』 (法曹会,2001年)79頁による。 下線は引用者)とする捜索差押許可状について, 抗告人が「本件 捜索差押許可状は『押収する物を明示』していない違憲なものである」旨も主張したのに対して, 「本件抗告の趣意は,憲法違反をいうが,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗 告理由に当たらない」と判示した。なお,原審(浦和地決平成10年2月27日(刑集52巻4号293頁)) は,「本件捜索差押の各目的物は,いずれも明示特定に欠けるところはな〔い〕」と判示している。 しかし, 下線部をつなげるのでは,「組織的犯行であることを明らかにするための文書」と同じ であり,明示を欠く。下線部の間に「オウム真理教からの指示,命令,通達,連絡及びこれらに関 する報告書等のデータが記録された」を挿入して読むべきである。 21) 現在,このような包括的な記載をする場合は,令状に(請求書に記載された)被疑事実の要旨を 添付する例が多いといわれている(近時の裁判実務家による指摘として,大野勝則「捜索差押許可 状における『差し押さえるべき物』の特定方法」麗邦彦=芦澤政治編『令状に関する理論と実務 Ⅱ』(判例タイムズ社,2013年)96頁, 榊原敬「特別法違反の捜索差押許可状への罰条, 被疑事実 の記載方法」麗邦彦=芦澤政治編『令状に関する理論と実務Ⅱ』(判例タイムズ社,2013年)100 頁)。

(11)

裁判官が,記録内容を確認できない段階(一定の内容が記録されている一定 の可能性があるという状態)での差押えを許容する場合,「差し押さえるべき 物」の記載は,「◯◯が記録されている電磁的記録媒体」ではなく,「◯◯が記 録されている蓋然性のある     電磁的記録媒体」としなければならない22)。この点 に関しては,「関連性」=「関連する蓋然性」であり,裁判官もそれを前提に 令状を発付するのだから,断定型の記載であっても「蓋然性のある」と解すべ きだ(「蓋然性のある」という記載は不要である)という主張もある23)。 しか し,記録内容を確認することの難易や,確認すべき程度は,事案の内容や差押 処分の対象者の属性などによって様々であるから,(単純な事案で, 電磁的記 録媒体の保有者が第三者であり,記録内容の確認が容易と考えられる場合など に)「記録内容を確認しない限り差押えは許さない」という裁判官の判断の余 地を残すべきである。 エ 存在の蓋然性 裁判官が差押許可状を発付するためには,そのような「差し押さえるべき物」 (一定の内容が記録された(蓋然性のある)電磁的記録媒体)が存在する蓋然 性が,認められなければならない。  差押えの必要性―要件③ 差押えの必要性とは,①当該対象物を捜査機関が取得する必要性,②差押え という手段による必要性,③①と処分対象者等の受ける不利益が合理的均衡を 保っていること,と解されている。そして,令状裁判官にはこの審査権があり, 22)川出敏裕「判批」『平成10年度重要判例解説』(ジュリ1157号,1999年)183頁。 これに対して,寺崎嘉博「電磁的記録に対する包括的差押え」廣瀬健二=多田辰也編『田宮裕博 士追悼論文集下巻』(信山社,2003年)252~253頁は, 情報が損壊される危険性がある場合は,令 状執行時における関連性の判断基準が緩和され(「蓋然性」があれば足りる),現実的に可能な確認 手段を尽くしてもなお関連性のないことが確認できない場合には,関連性のあるものとして差し押 さえることができるとしつつ,令状に「蓋然性のある」という記載をすべきではないと主張する。 23)佐々木=猪俣・前掲注17)362~363頁〔佐々木〕,石山・前掲注13)128頁。

(12)

その内容は,「明らかに必要性がない場合に請求を却下できる」というものだ とされている24)。差押えは捜査の初期段階で行われることが多く,裁判官が証 拠価値や重要性を判断するのは難しいこと,差押えより権利制約の程度が大き い逮捕について,法が「明らかに必要がないと認めるとき」にかぎり逮捕状を 発しないこととしている(199条2項但書)こととの均衡が,その理由とされ ている。 したがって,たとえば,記録命令付差押えで足りる(ことが明らかな)場 合25)には,電磁的記録媒体の差押えは,(②及び③の意味での)必要性がない。 また,記録内容を確認しない段階で記録媒体の「証拠物と思料するもの」該 当性が肯定できる場合でも,記録内容の確認が(令状発付時の蓋然的予測とし て)可能なときには,記録内容の確認なしの差押えは,(①及び③の意味での) 必要性がない。したがって,そのような場合は,裁判官は,差押許可状の「差 し押さえるべき物」欄に「〇〇が記録されている蓋然性のある」と記載するこ とはできない。 24) 最決昭和44年3月18日(刑集23巻3号153頁)は,「刑訴法218条1項によると, 検察官もしくは 検察事務官または司法警察職員は『犯罪の搜査をするについて必要があるとき』に差押をすること ができるのであるから, 検察官等のした差押に関する処分に対して, 同法430条の規定により不服 の申立を受けた裁判所は,差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが 相当である。そして,差押は『証拠物または没収すべき物と思料するもの』について行なわれるこ とは,刑訴法222条1項により準用される同法99条1項に規定するところであり, 差押物が証拠物 または没収すべき物と思料されるものである場合においては,差押の必要性が認められることが多 いであろう。しかし,差押物が右のようなものである場合であつても,犯罪の態様,軽重,差押物 の証拠としての価値,重要性,差押物が隠滅毀損されるおそれの有無,差押によつて受ける被差押 者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで, 差押を是認しなければならない理由はない。」と判示したが, この理は,令状裁判官にも妥当する と解されている。 ただし,「明らかに」(必要がないとき)という限定を付すべきでないという主張(芦部編・前掲 注4)165頁〔杉原〕)もある。 25) 記録媒体自体の資料価値の有無・程度や,処分対象者の属性・協力見込み,原記録を対象者のも とに残すことの当否などを勘案して判断することになる(北村篤「デジタル情報と捜査―検察の立 場から」三井誠ほか編『刑事手続の新展開 上巻』(成文堂,2017年)418~419頁)。

(13)

3 差押許可状の執行に関する問題

 犯罪の嫌疑―要件① 差押許可状に記載された犯罪の嫌疑は,令状の執行の時点においても,存在 (継続)していなければならない。  差押対象物該当性―要件② 対象物が,①被疑事実の「証拠物と思料するもの」(222条1項,99条1項) にあたり,かつ,②差押許可状に記載された「差し押さえるべき物」にあたる ことが,必要である。 ①は,上述のとおり,「被疑事実の解明(起訴不起訴の決定)に役立ち得る」 という蓋然的予測判断であり,記録内容が資料価値を有する電磁的記録媒体の 場合は,一定の情報が記録されている可能性と,当該情報の有用性の可能性と の積が,一定以上であることである。 ②も,前述のとおり,「〇〇が記録され ている電磁的記録媒体」と記載されている場合は,文字どおり「〇〇が記録さ れている」ことの確認を要する26)。「〇〇が記録されている蓋然性のある電磁 的記録媒体」という記載の場合は,「〇〇が記録されている」ことを確認でき なくても, 記録されている蓋然性が認められれば,「差し押さえるべき物」に あたる。①②とも,内容は令状発付の要件と同じだが,判断の基準時と基礎資 料が異なる。 記録内容を確認しない段階で電磁的記録媒体の差押対象物該当性を肯定した 26) 記録内容を直接確認せずとも,記録媒体の外観・保管状況, 関係者の言動等から,「〇〇が記録 されている」と判断できる場合は, 差押えが許される。 例えば,「〇〇が記録された電磁的記録媒 体」が現場に存在すると認められる事案で,現場に電磁的記録媒体が1個しかないときなどが,こ れにあたる。

(14)

判例・裁判例として,下記の2つがある27) 27) 電磁的記録媒体の例ではないが,記載内容を確認することなく書面を包括的に差し押さえた行為 を適法とした最高裁判例として,最判平成9年3月28日(集民44巻8号1303頁)がある。 Aが国税ほ脱の手段として金融機関Xに仮名預金をしていた疑いがあったことから,国税査察官 は,Xに対する国税犯則取締法2条に基づく強制調査(捜索差押)を行い,「差押しようとする物 件」として,各犯則けん疑事件の「事実を証明するに足ると認められる営業並に経理に関する帳簿 書類,往復文書,メモ,預貯金通帳,証書,有価証券及び印鑑等の物件」と記載された捜索差押許 可状に基づいて,Aの国税ほ脱が疑われる前後数年分の帳簿書類,伝票等を,A以外の取引先に係 るものも含めて差し押さえた。Xは,当該強制調査の違法を理由とする国家賠償等を請求した。 原審(東京高判平成4年3月30日(行集43巻3号526頁))は,以下のように「証明するに足る」 の解釈を示したうえで,本件差押物の大部分には関連性が認められ,ごくわずか関連性が認められ ないものがあるが,それにはやむを得ない事情があり,全体を違法とするものではないとして,X の控訴を棄却(請求を棄却した第1審判決を維持)した。 「本件令状に差押対象物件の記載として『犯則事実を証明するに足る … 物件』とあるのは,犯則 事実を証明するに足りることが一見して明白な物件に限る趣旨ではなく,犯則事実を直接,間接に 証明するに足りる可能性があると判断される物件を含む趣旨と解するのが相当である。 右可能性の判断は単なる漠然とした見込によってするのではなく,ある程度の蓋然性があると認 められることを要するものである。 もっとも,調査の段階においてはいまだ証拠資料を収集する過程にあって,犯則事実自体合理的 疑いの程度に止まり,確定するにいたっていないのが通常であるから,収集した証拠資料を仔細に 対照,検討して取捨選択してはじめて犯則事実の存否,収集した証拠の価値について最終的判断に いたることを考えるならば,調査の段階である差押えの際において,証拠となり得るか否かを厳格 に判断して取捨選択することは,特定の証拠の存在と内容が令状請求の際に明らかになっているよ うなときでない限り困難というべきである。しかも,本件犯則事実のように,金融機関である控訴 人の協力を得て,多数の仮名預金口座を設定するなどして計画的に所得を隠蔽したという疑いのも とに行なわれた複雑,大規模な調査においては,差押えの現場において,差押対照物件の一々につ いてその内容を検討し,証拠資料としての価値を判断することは不可能というべきであるから,犯 則事実を証明するに足りる物件であるか否かの判断は,対照物件が文書であるときは,その具体的 記載内容はもとより,本来備えている内容,性質,標題,形式等により,収税官吏が同種事件の調 査等によって蓄積して有する専門的知識,経験等に基づく合理的な判断によって,犯則事実と差押 対象物件との関連性の有無を判断することによってなされるほかないものというべきであり,結局, 証明するに足りる可能性のある物件であるか否かの判断は,犯則事実との関連性を有する可能性が ある程度の蓋然性をもって存在するか否かの判断によってなされるべきものと解するのが相当であ る。」 Xの上告を受けた最高裁は,「証明するに足る」の意義については触れず, 以下のように判示し て,上告を棄却した。 「前記各犯則嫌疑者がその所得を隠ぺいするために上告人の本店及び上野支店においてしていた 疑いのある仮名預金の存在と帰属を確定するためには,右各店において保管されていた入出金伝票 や預金申込書等の綴りや預金元帳等の簿冊を精査し,これらに記載された文字の筆跡や押捺された 印影,入出金の経緯等から仮名預金の帰属を確定するための手掛りを得るなどする必要があったと ころ,上告人は,東京国税局国税査察官の行った任意調査に対して,各犯則嫌疑者に帰属すること

(15)

① 大阪高判平成3年11月6日(判タ796号264頁) 中核派の活動家が, 警察関係等の自動車を割り出してその所有者の氏名等の情報を入 手するために,偽名の自動車登録事項等証明書交付請求書を作成して, それを自動車検 査登録事務所に提出したという,有印私文書偽造・同行使被告事件において, 1 審の有 罪判決に対して被告人が控訴し,「1審が証拠としたフロッピーディスク6枚は,捜査機 関が記録内容を確認することなく捜索場所にあった271枚のフロッピーディスク全部を捜 索差押許可状28)によって差し押さえたものの一部であり,違法収集証拠である」旨主張 した。大阪高裁は,以下のように判示して,差押えは適法だとし,控訴を棄却した。 「捜査機関による差押は,そのままでは記録内容が可視性・可読性を有しないフロッ ピーディスクを対象とする場合であっても,被疑事実との関連性の有無を確認しないで 一般的探索的に広範囲にこれを行うことは,令状主義の趣旨に照らし,原則的には許さ れず, 捜索差押の現場で被疑事実との関連性がないものを選別することが被押収者側の が疑われる他人名義の預金に係る預金元帳,貸付金元帳,伝票等については,調査対象となる預金 名義が具体的に特定されていた場合ですら提出を拒否し,任意調査の実施のために右各店に臨場し た査察官に対しては,在日朝鮮人商工会の役員らが,抗議を繰り返し,調査を妨害することもあっ たというのである。査察官が右のような状況の下で右各店における強制調査に臨まざるを得なかっ たことからすると,右各犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を解明する手掛りとなり得る文書等を選別 するためには,これを含む可能性のある伝票綴り,簿冊等を精査することが不可欠であり,これに は,相当の時間を要することが明らかである。ところが,右各店における強制調査に際しては,捜 索,差押えの開始後ほとんど時をおくことなく上告人の職員や右各店に乱入した部外者によって, 調査に当たる査察官に対して暴行が加えられるなどの激しい妨害行為が繰り返され,負傷をした査 察官まであったというのであり,右のような異常な状況の下では,伝票綴り,簿冊等の精査を尽く して各犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を解明する手掛りとなり得る文書等を十分に選別することは 到底不可能であったといわざるを得ない。そして,査察官らは,東京国税局に持ち帰った本件差押 物件について,直ちに選別作業を行い,差し支えのない限り速やかに本件差押物件を上告人に還付 することとし, 現に差押えの翌日には300余点を上告人に還付するなど, 上告人側の事情に配慮を 示していることをも考慮するならば,本件差押物件の中には,原審が右各犯則嫌疑者の犯則事件と の関連性を肯定することが困難であると判断した数点の物件の外にも,相当の時間をかけて平穏な 状況の下で犯則事実との関連性ないし差押えの必要性を吟味して差押物件の選別を行うことができ たならば,右の関連性ないし必要性がないという判断をすることが可能な物件が含まれていたこと を否定することができないとしても,本件差押物件の差押えに違法があったということはできな い。」 28) 「差し押さえるべき物」の記載は判決文からは明らかでない。

(16)

協力等により容易であ るら ば,これらは差押対象から除外すべきであると解するのが相 〔ママ〕 当である。しかし,その場に存在するフロッピーディスクの一部に被疑事実に関連する 記載が含まれていると疑うに足りる合理的な理由があり, かつ,捜索差押の現場で被疑 事実との関連性がないものを選別することが容易でなく,選別に長時間を費やす間に, 被押収者側から罪証隠滅をされる虞れがあるようなときには,全部のフロッピーディス クを包括的に差し押さえることもやむを得ない措置として許容される」。 ② 最決平成10年5月1日(刑集52巻4号275頁) 自動車登録ファイルに自動車の使用の本拠地について不実の記録をさせ,これを備え 付けさせたという電磁的公正証書原本不実記録, 同供用被疑事実に関して発付された, 差し押さえるべき物を「組織的犯行であることを明らかにするための, 1  オウム真理 教からの指示,命令,通達,連絡及びこれらに関する報告書等の文書,図画,テープの 類,1  磁気記録テープ,光磁気ディスク,フロッピーディスク,パソコン一式」等と する捜索差押許可状29)に基づいて,捜査機関が記録内容を確認することなく,現場に あったパソコン1台,フロッピーディスク合計108枚を差し押さえた事案で,差押処分の 取消し及び差押許可の裁判の取消しが求められた事件(準抗告棄却決定に対する特別抗 告事件)において,最高裁は,以下のとおり判示して,差押処分を適法とした。 「令状により差し押さえようとするパソコン,フロッピーディスク等の中に被疑事実に 関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において,そのような情報が実際 に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険が あるときは, 内容を確認することなしに右パソコン,フロッピーディスク等を差し押さ えることが許される」。 ①②とも,「多数の電磁的記録媒体のうちのいずれかには『◯◯が記録さ 29)令状の記載に関しては,注20)参照。

(17)

れている』が,『◯◯が記録されていない』媒体もある」と考えられる状況で, 個々の媒体については『〇〇が記録されている』蓋然性が認められるという場 合30)に, 記録内容を確認して「◯◯が記録されている」媒体だけを差し押さ えるのが原則であるが,その場で記録内容を確認していたのでは記録された 情報を損壊される危険があるときは,内容を確認せず全ての媒体を差し押さ えることができる,という点で,共通している。 これについての理論的分析として,①記録内容を確認しなければ関連性を判 断することができず,関連性が認められるもの(は「◯◯が記録されている媒 体」のみ)しか差押えは許されないから,正当化し得ないという見解31),②  の事情が関連性を基礎づける間接事実になるという見解32),③「正当な理由」 (憲法35条1項)の判断は被処分者の利益と捜査の必要性との比較衡量に基づ く規範的なものであるから,それを基礎づける「関連性」の程度は具体的事情 によって変動しうるものであり, の事情があるときは肯定してよいという 見解33),④「関連性」=「関連性の蓋然性」であるから, でそれは肯定でき, 30) 個々の媒体について「◯◯が記録されている」可能性は,①では271分の1以上,②では108分の 1以上である。 なお,②の判例については,「◯◯が記録されていない媒体」の存在を前提にした判示ではない, という理解もある(古江隆『事例演習刑事訴訟法〔第2版〕』(有斐閣,2015年)116頁)。 佐々木=猪俣・前掲注17)367~368頁〔佐々木〕は,「特定の FD1枚の中のどこかに」と「FD 100枚の中のどこかに(どれかに)」は「全体の中のどこか一部に」という点で同じであり,証拠と して実質的意味を有しているのは記録内容であるから,有体物たる物理的存在形態を単位に押収の 可否を個別に論じることは合理的でない(大容量の記録媒体1個であれば押収可であるが小容量の 記録媒体複数では押収不可となるのは,形式論に過ぎて不合理だ)とする。しかし,差押対象は有 体物たる記録媒体であるから,個々の媒体ごとに要件を判断すべきである。また,大容量1個の場 合は,被疑事実との関連性は認められやすい反面,差押えの必要性は認められにくいのであり,不 合理な形式論とはいえないであろう。 31) 笹倉・前掲注15)83頁,井上正仁=池田公博「コンピュータ犯罪と捜査」松尾浩也ほか編『刑事 訴訟法の争点(第3版)』(有斐閣,2002年)90頁, 古江・前掲注30)117頁, 宇藤・前掲注15)49 頁。 32) 長沼範良=山田利行「コンピュータと捜査」法教334号(2008年)57頁〔山田〕,石山・前掲注13) 129頁。 33)川出・前掲注22)182頁(理論的説明の提示),村瀬・前掲注17)55頁。

(18)

 は最低限の関連性が肯定されたものについてさらに関連性を絞り込むことを 要請するものであり,はその要請が解除される場合を示したものだという見 解34),が提示されている。 本稿は,は差押対象物該当性に関する判示(「処分対象者が『〇〇が記録 されている蓋然性のある電磁的記録媒体』が差押対象であることを認識したう えで,ある媒体の記録内容を損壊しようとしている」という事情を含め,令状 執行時までの全事情を基礎として,当該媒体に〇〇が記録されている蓋然性が 認められれば,当該媒体は差押対象物にあたる旨の判示)として, は差押 えの必要性に関する判示として,それぞれ理解するのが適切と考える。  差押えの必要性―要件③ 差押えの必要性は,上述のとおり,①捜査機関が取得する必要性,②差押え という手段による必要性,③①と処分対象者等の被る不利益が合理的均衡を 保っていること,である。 差押対象物(証拠物と思料するもの,差し押さえるべき物)にあたる場合は, ①は認められることが多いであろう。 しかし,「複数の電磁的記録媒体のうち のいずれかには〇〇が記録されているが,〇〇が記録されていない記録媒体も あるだろう」という状況の場合に,資料の有用性との相関関係で「差し押さえ るべき物」該当性が認められ(それゆえに「〇〇が記録されている蓋然性のあ る」と記載された差押許可状が発付されてい)ても,その場で記録内容を確認 して「〇〇が記録されていない」と判明したもの35)を差押対象から除外するこ とが可能である場合は,捜査機関はそれを行わねばならず,内容を確認せずに 全部を差し押さえる処分には,①(および③)の意味での必要性が認められな い。 34)佐々木=猪俣・前掲注17)369頁〔佐々木〕。 35)その時点で「差し押さえるべき物」該当性が否定される。

(19)

また,代替的執行(222条1項,110条の2)や(記録命令付差押許可状も発 付されているケースで記録命令付差押え)で(明らかに)足りる場合は,本来 的差押えには②(および③)の意味での必要性が認められない36) さらに,電磁的記録媒体には多量の情報が記録されていることも多く,差押 えによる被処分者の不利益は大きいことが多い。したがって,特に処分を受け る者が被疑者でなく第三者である場合には,③の意味での必要性が否定される ことが考えられる。この点に関する裁判例として,東京地判平成10年2月27日 (判時1637号152頁)がある。 「氏名不詳の被疑者は,インターネット接続会社である本件会社の会員であるが,平成 9年12月16日ころから平成10年1月13日ころまでの間,東京都墨田区甲野ビル4階所在 の右会社東京支店に設置された同会社の管理するサーバーコンピュータのディスクアレ イ内に,男女の性器,性交場面等を露骨に撮影したわいせつ画像の画像データの含まれ た『あんぐらびでお』と題するホームページのデータを記憶,蔵置させて,インターネッ トに接続可能なパソコンを有する不特定多数の者が,一般電話回線を利用して右ホーム ページ中のわいせつな画像を再生,閲覧可能な状態を作り出し,もって, わいせつな図 画を公然陳列した」という被疑事実に関する,差し押さえるべき物を「サーバーコン ピュータ,ディスクアレイ,ルーター等通信機器,本件に関するデータが記録されたフ ロッピーディスク・マグネットオプチカルディスク等電磁的記録媒体,本件に関するデー タをプリントアウトした書面,ログファイル・苦情処理作業内容が記録されたフロッピー ディスク等電磁的記録媒体,パーソナルコンピュータ,ハードディスクドライブユニッ ト等記憶ソフト起動機器,プリンター,苦情処理等業務作業に関する簿冊,電子掲示板 36) 代替的執行につき,長沼範良「コンピュータ犯罪と新たな捜査手法の導入」L&T26号(2005年) 13,14頁, 福井厚『刑事訴訟法〔第5版〕』(法律文化社,2012年)150頁, 田口守一『刑事訴訟法 〔第6版〕』(弘文堂,2012年)113頁,上口裕『刑事訴訟法〔第3版〕』(成文堂,2012年)151~152 頁, 大久保隆志『法学叢書 刑事訴訟法』(新世社,2014年)70~71頁, 内藤大海「犯罪対策と新 しい捜査手法」川英明=白取祐司編『刑事訴訟法理論の探求』(日本評論社,2015年)71~72頁。

(20)

広告資料,広告に関する書類,金銭出納簿,代金の支払い受領等に関する領収証書等書 類,伝票,申込書類,入会申込書,顧客名簿,通信文,電子メール控,私製電話帳,ア ドレス帳,手帳等メモ帳票類,名刺,ID 番号記録紙,預貯金通帳,印鑑」とする捜索差 押許可状37)に基づく,428人分の顧客管理データが記録されたフロッピーディスク1枚 の差押処分に対する準抗告審である。以下のように述べて,差押処分を取り消した。 「本件捜索差押許可状の差し押さえるべき物は,前記のとおり包括的であるところ,そ の記載の適否はともかく,具体的差押処分にあたっては,差押えの必要性を厳格に解す る必要がある。本件顧客管理デー夕は,本件会社とインターネットによる通信サービス の契約を結んだ会員のうち,アダルトのジャンルを選択したホームページ開設希望者428 名の氏名,住所, 電話番号等からなるデータであり,差し押さえるべき物のうち『顧客 名簿』に該当するものとして差し押さえられたものと認められる。このうち『morokin』 のアカウントを使用して本件ホームページを開設した被疑者に関するものについては, 本件被疑事実との関連性,差押えの必要性は明らかであるが,その余の会員に関するデー タについては,アダルトホームページの開設希望者に限定したところで,本件被疑事実 との関連性を認めがたく,差押えの必要性は認められない」。 この裁判例については,問題となっている(1枚の)フロッピーディスクに 被疑者に関するデータが記録されている以上,当該フロッピーディスクに関連 性があることは明らかであり,データごとに関連性を判断し,被疑者以外に関 するデータに関連性・必要性が認められないことを理由にフロッピーディスク の差押処分を取り消したのは不当である,という批判がある38)。しかし,被疑 者以外の顧客情報が差し押さえられることによるプロバイダ及び顧客の不利益 が大きく,捜査機関の入手の必要性と均衡を失しているため,差押えの必要性 37)差押許可状の記載に関しては,注19)参照。 38)梅林啓「判批」研修604号(1998年)17~18頁。

(21)

が認められない,という判示だと理解すべきである39)  必要な処分 「〇〇が記録されている記録媒体にしか関連性を肯定することはできず, 関 連性を確認しない状態で差し押さえることはできない」という理解を前提に, 「現場で記録内容を確認できない場合に, 包括的に署に持ち帰る行為は, 差押 えではなく捜索差押に『必要な処分』(222条1項,111条1項)と解すべきで ある」という見解40)がある。「身体捜索や強制採尿に関して対象者を適切な場 所まで連行することが許されるのと同じように,対象物を一時的に保全して適 切な場所まで持って行って内容を点検することで,捜索の目的を遂げることが 許されるべきだ」というのである。 これに対しては,「署に持ち帰る行為は差押えそのものではないか」,「押収 品目録の交付がなされず準抗告の申立もできないから対象者の保護に欠けるの ではないか」といった問題点が指摘されている41)。また,「確認作業に時間を 要し,一時的・暫定的な占有取得の枠内に収まらない場合もある」という指摘 もなされている42) 既述のとおり,「資料価値が認められる(という確定的判断ができた)もの しか差し押さえることが許されない」という前提を貫徹できないと考えられる ので,(事案や対象物によって)「資料価値が認められる可能性があるにとどま るものについても差し押さえることが許される」(場合がある)ことを前提に, 39)井上正仁「コンピュータネットワークと犯罪捜査」法教244号(2001年)61頁,大澤裕「コン ピュータと捜索・差押え・検証」法教244号(2001年)45頁, 川出敏裕「コンピュータ犯罪と捜査 手続」曹時53巻10号(2001年)23~24頁,長沼範良「電磁的情報に関する捜索・差押え」現刑5巻 5号(2003年)46頁,指宿信「サイバースペースにおける証拠収集とデジタル証拠の確保」法時83 巻7号(2011年)86頁。 40)酒巻・前掲注15)95頁, 笹倉・前掲15)83頁,井上=池田(公)・前掲注31)90頁, 長沼・前掲 注39)47~48頁,宇藤・前掲注15)49頁。 41)川出・前掲注22)183頁,池田(修)・前掲注20)93頁,村瀬・前掲注17)55頁など。 42)石山・前掲注13)124~125頁,太田・前掲注12)193頁。

(22)

議論すべきと考える。

4 差押許可状執行後の問題

 準抗告・還付 裁判官による令状発付(「差し押さえるべき物」の設定・記載方法, 差押え の必要性判断など),捜査機関による令状の執行(被疑事実に関する「証拠物 と思料するもの」該当性判断,「差し押さえるべき物」該当性判断,差押えの 必要性の判断など)は,すべて準抗告の対象となる。捜査機関による執行は, 準抗告審において初めて司法審査を受けることになる。 裁判官が「◯◯が記録されている蓋然性のある」という令状を発付し,捜査 機関が記録内容を確認することなく記録媒体を差し押さえた場合,まず,令状 発付時における裁判官の判断の適否(令状記載の適法性)が審査されることに なる。 被疑事実の内容・嫌疑の程度, 差押対象物の内容・有用性(予測),執 行時に記録内容を確認することの困難性(予測)処分対象者が被るであろう不 利益の内容・程度等,令状発付時に裁判官が認識していた事情を基礎として, 「蓋然性のある」という記載が許される場合だったかどうかを, 判断する。差 押許可状の記載は適法という判断がなされた場合,次に,捜査機関が記録内容 を確認せずに記録媒体を差し押さえた行為の適法性が審査される。令状記載の 適法性の考慮要素に加えて,差押え現場の具体的状況や差し押さえた物の個数 や記録内容など,令状執行時までの事情を基礎として,判断することになる。 また,捜査機関は,内容を確認せずに記録媒体を差し押さえた場合には,差 押え後速やかに記録内容を確認し,占有を継続する必要がなくなれば速やかに 還付しなければならない(222条1項,123条1項)43)。 記録内容の確認を懈怠 43) 記録内容を確認した結果,被疑事件の捜査のために有用でないことが判明した場合も,差押えが さかのぼって違法になることはない。

(23)

し還付が遅れれば,還付しない処分が違法となる。  別罪の証拠としての使用 以上のとおり,「◯◯が記録されている蓋然性のある」という令状の記載に 基づき,記録内容を確認せずに記録媒体を差し押さえることが,許される場合 がある。このこととの兼ね合いで,取得した資料を被疑事実とは別の事実44) 立証するために使用することを,規制する枠組みが必要と考えられる。上記の ような差押えが許されるケースは,有用性の可能性があるにとどまる資料(膨 大な記録を含む電磁的記録媒体)を精査することが想定されており,精査の過 程で別罪の証拠としての価値が判明するという事態は,起こり得る。このとき, 違法収集証拠排除法則で証拠能力が否定されない限り,差押物をどのように用 いるかは自由である45)ということになると,「ひとつの被疑事実があれば(当 44)被疑事実と同一性(312条1項)が認められない事実。 45) この点に関しては,いわゆる「別件捜索差押」という論点として,捜索差押の適法性という切り 口で,「捜査機関がもっぱらあるいは主として余罪の証拠を発見・収集する目的で行った場合は, 当該捜索差押は違法となる」といった議論が蓄積されている(梶田英雄「別件捜索差押について」 石松竹雄=守屋克彦編『小野慶二判事退官記念論文集刑事裁判の現代的展開』(勁草書房,1988年) 93頁,酒巻匡「いわゆる『別件捜索・差押』について」神戸法学雑誌43巻3号(1993年)615頁 以下,島伸一『捜索差押の理論』(信山社,1994年)171頁以下,平良木登規男「別件捜索・差押」 警論53巻10号(2000年)133頁など)。 リーディングケースとされている最判昭和51年11月18日(集刑202号379頁)は,「令状に明示さ れていない物の差押が禁止されるばかりでなく,捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押 許可状に明示された物を差し押えることも禁止されるものというべきである。」と判示している。 賭博開帳図利・賭博被告事件で,原審が,第一審が有罪認定の証拠としたメモ(被告人らによる常 習的な賭博場開帳の状況が克明に記載されたもの)の写しの証拠能力を否定して無罪としたのを, 破棄自判(控訴棄却)したものである。当該メモは,別人Aに関する恐喝被疑事件に関する捜索差 押許可状によって押収されたものであり, その請求書には, 被疑事実として,「暴力団O組の若頭 Aが,A及び同組と親交のあるBと共謀の上,Aにおいて,県会議員Vに対し,所携の拳銃を胸元 に突きつけるなどして脅迫し,1,000円を喝取した」旨が書かれていた。発付された許可状は,捜索 すべき場所を「O組事務所及び附属建物一切」, 差し押えるべき物を「本件に関係ある,1  暴力 団を標章する状,バッチ,メモ等,2  拳銃,ハトロン紙包みの現金,3  銃砲刀剣類等」と記載 されていた。 最高裁は,上記メモについて,「これにより被疑者であるAと同組との関係を知りう るばかりでなく、O組の組織内容と暴力団的性格を知ることができ、右被疑事件の証拠となるもの であると認められる。してみれば、右メモは前記許可状記載の差押の目的物にあたる」としたうえ,

(24)

該被疑事実について差押許可状を得れば),あらゆる犯罪の証拠物を収集する ことができる」という事態を招きかねない46) この点に関して,強制処分にはその執行後にも被疑事実による制限がかかる から,差押え後に被疑事実と無関係なデータを詳細に分析することは許されず, データ内容の認識は被疑事実に関連するものに限定される, という指摘があ る47)。また,立法論として,インカメラ手続(差し押さえた記録媒体は裁判官 が保管し,記録内容を確認して選別し,関連性が認められる記録のみを別の媒 体に保存して,その媒体を捜査機関に交付する)の導入も主張されている48) しかし,いわゆる「物読み」が必要な事案などにおいては特に,捜査機関によ る記録内容の認識範囲を限定することは,難しいと考えられる。したがって, 記録内容の認識が違法といえない場合であっても,その証拠としての利用範囲 を限定する枠組みが,必要と考えられる。 「捜査機関が専ら別罪である賭博被疑事件の証拠に利用する目的でこれを差し押えたとみるべき証 跡は、存在しない」として,メモの差押は適法だとした。 ほかに,「別件捜索差押」に関する裁判例として,札幌高判平成元年5月9日(判時1324号156頁) (軽犯罪法違反(のぞき見)の被疑事実に関して発付された被疑者宅の捜索許可状に基づく捜索に ついて,傷害被疑事実の証拠発見を主目的として行われたものであり違法だとした。ただし,その 捜索により偶然発見された覚せい剤の証拠能力は肯定した),広島高判昭和56年11月26日(判時1047 号162頁)(モーターボート競争法違反の被疑事実(競艇レースのノミ行為の相手方となった)につ いて発付された,捜索すべき場所を被疑者方,差し押さえるべき物を本件を立証するメモ,ノート 類,日記帳,通信文,預金通帳,スポーツ新聞とする捜索差押許可状に基づいて行われた捜索につ いて,「警察当局において,本件業務上横領事件の証拠を発見するため, ことさら被告人方を捜索 する必要の乏しい別件の軽微なモーターボート競争法違反事件を利用して,捜索差押令状を得て右 捜索をしたもので,違法の疑いが強い」と判示した)がある。 46) 日本弁護士連合会刑法改正対策委員会編『コンピュータ犯罪と現代刑法』(三省堂,1990年)192 頁以下〔岩田研二郎〕。 47) 川出・前掲注39)7頁。捜査機関が許される範囲を超えて記録内容を精査し,別罪の証拠として の価値を見い出し,当該記録媒体を当該別罪の証拠として使おうとした場合には,「押収物につい ての必要な処分」(222条1項,111条2項)の違法を理由とする証拠排除を検討することになろう。 48) 稲垣隆一「情報と強制捜査」多賀谷一照=松本恒雄編『情報ネットワークの法律実務』(第一法 規,1999年)5031頁。 また, 劉芳伶「『情報の差押』という制度の在り方について」法時82巻2号 (2010年)97頁は, 立法論として,差押対象を情報(データ)としたうえ,捜査機関が「適法に占 有を取得した記録媒体」は(押収物ではなく)「一時的に確保した捜索すべき場所」として, その 後の記録媒体に対する捜索(検索範囲)を令状により規制すべきだと主張する。

(25)

また,差押えの理由となった被疑事実との関係で占有を継続する必要がなく なれば,捜査機関は当該差押物を還付しなければならず,還付されれば別罪の 証拠として利用されることはなくなる49)。しかし,還付されなかった場合の規 律も必要であり,還付を怠った違法を理由とする証拠排除で十分かは疑問があ る。 差押えは,特定の被疑事実に関する証拠を収集するための強制処分であるか ら,差押物を当該被疑事実と同一性のない他の犯罪の証拠として用いるのは, 目的外利用である。目的外利用は原則として許されないという出発点から,議 論すべきではないかと考える。

5 おわりに

本稿では,令状による電磁的記録媒体の差押えに関して,差押許可状発付に 関する問題,差押許可状執行に関する問題を,近時議論に動きのある「被疑事 実との関連性」を中心に,要件に即して検討した。その骨子は,以下のとおり である。 まず,差押許可状の発付にあたっては,①犯罪の嫌疑,②被疑事実の「証拠 物と思料するもの」が存在する蓋然性,③差押の必要性,を個別に検討するだ けでなく,相関関係にも留意すべきである。そして,「証拠物と思料するもの」 とは,「『一定の情報が記録されている可能性』と『当該情報の有用性の可能性』 との積が一定以上あること」と解されるから,近時有力に主張されているよう に,「関連性の蓋然性」をもって②をみたす場合は,あると考える。しかし, その判断は,被疑事実の内容・嫌疑の程度,差押対象物の内容などに鑑み,厳 格に行うべきである。そして,裁判官がそのような判断をした場合は,差押許 49) 津村政孝「判批」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選〔第10版〕』(有斐閣,2017年)56~57頁。

参照

関連したドキュメント

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

身体主義にもとづく,主格の認知意味論 69

それゆえ、この条件下では光学的性質はもっぱら媒質の誘電率で決まる。ここではこのよ

 

C. 

耐震性及び津波対策 作業性を確保するうえで必要な耐震機能を有するとともに,津波の遡上高さを

ただし、このBGHの基準には、たとえば、 「[判例がいう : 筆者補足]事実的

と判示している︒更に︑最後に︑﹁本件が同法の範囲内にないとすれば︑