【個人研究】
生涯学習社会における家庭教育
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佐 藤 啓 子 *Home E
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Hiroko
This study is the second report to be continued from the last study of which title is “Home Education in Lifelong Learning Society (1)". In the previous study, 1 began to make clear the idea of the Lifelong Education focussing on home Education as starting point of Lifelong Education and made clear the characteristics and subjects of it. Furthermore 1 founded the connection between Home Education and Lifelong Education. Lastly,
1 considered the characteristics and subjects of Home Education in Lifelong Education searching for possibilities of Lifelong Learning soclety.In this study, 1 would like to mention concretely the contents and function of Home Education from the viewpoint of Lifelong Education. In order to make clear it, firstly 1 survey the historical outline of the characteristics and contents of traditional Japanese Home Education from the references. Then 1 would like to consider the characteristics and contents of Home Education from the science of relationships which is my standpoint. は じ め に 本稿は、「生涯学習社会における家庭教育 (1)J(1) と題しての研究に継続する第
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報で ある.研究(1)においては、生涯教育理念の歴 史的発生と,その後の発展的経緯について概 観し,その理念が日本における行政的アプロー チとして,家庭教育の位置づけと施策がどう 為されてきたかを跡づけた.その上で,I
生 涯教育」と「家庭教育」の関連性を見い出し つつ,生涯教育の視点に立つ家庭教育の特色 *さとう ひろこ 文教大学人間科学部生涯教育専修 と意義について考察した. 本稿では,以上の経過を踏まえつつ,生涯 教育の視点に立つ家庭教育の具体的な内容 (領域)と機能について明らかにすることが 目的である. そのためには,まず生涯教育の理念が導入 された1
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年前後からの,伝統的な日本の家 庭教育の内容や機能を文献により概観し,次 いで生涯教育的視点を取り入れた家庭教育の 内容(領域)やそのとらえ方を紹介し最後 に生涯教育の視点に立脚した家庭教育の内容 と機能を筆者なりに明確にしその特色と意義 について考察したい.生涯学習社会における家庭教育(2) 家庭教育の内容へのアプローチ 一口に家庭教育の内容といっても多岐にわ たっている.誰にとって必要とされる内容な のか,専門家にとってか,殺にとってか,特 定の課題解決に迫られている特定の個人や集 団や機関にとってなのかによって,また子供 の側からみるのか,親の側からみるのか,子 供と親を含めた日本社会の平均的・標準的な 家庭教育の内容を求めるのかによっても,そ の表し方が異なってこよう.家庭教育を主題 とした著書も多様であり,例えば「叱り方, ほめかたj,
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思いやりのある子に育てるには」 のような特定の課題や目標に対応して著され ている実用書の数は移しいし,r
親と子のか かわりj,r
家庭における父親の役割,母親の 役割」のように,古今東西において求められ てきた,そして今後も求められるであろう一 般的,普遍的な課題に対応して著されている もの, また「子供の発達と家庭教育j,r
子供 の生活と家庭」のように,研究者が長年の研 究や調査等を積み重ねて得られた結果と知見 を基に,学術的・専門的に著されているもの 等多種多様で、ある.これらのどれもが正しく 家庭教育の書であり,従って取り上げられて いる家庭教育の内容もまた多様である. 本稿では, 1965年前後から比較的全体的・ 総合的・標準的な立場から著されているとと らえられるいくつかの文献類を手掛かりとし て,論述を進めることとしたい. (1) 1965年,山下俊郎は『家庭教育J
(2)に おいてI.家庭教育の意義n
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家庭の形 成作用m
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家庭教育における意図的形成作 用の原理と論を進め,I
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家庭教育の実際と して具体的な家庭教育の内容・課題について, ①基本的生活習慣(食事,睡眠,排便,着衣, 清潔他),②安全教育(生命を守るしつけ), ③子どもの遊びとおもちゃ,④絵本,読み物, テレビ,⑤子どもと社会生活(友人関係,大 人との関係他),⑥知的指導と家庭学習,⑦ 金銭教育・家事の手伝い,⑧道徳教育,⑨性 教育,⑩少年非行等,1
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の側面から明らかに している. 子どもをとりまく身近な物的・人的生活環 境を明らかにしつつ,子どもの人格形成にか かわる家庭の教育内容が明らかにされている. (2) 1969年,村上俊亮・小山隆・沢田慶輔・ 藤原英夫によって編集された『家庭教育指導 事典J
(3)では, A.家族, B.家庭教育, と 総合的・体系的に論述が進められ,次いでC
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家庭教育の諸領域と諸内容として,以下が上 げられている. ①文化的伝統の伝承,②身体の健康教育, ③精神の健康教育,④人間関係の学習,⑤基 本的生活習慣のしつけ,⑥公衆道徳に関する しつけ,⑦安全教育,⑧家庭学習,⑨勤労尊 重教育,⑩金銭教育・消費教育,⑪マスコミ 対策とマスコミ教育,⑫進路指導,⑬宗教教 育,⑭美的情操教育,⑬道徳、教育,⑩性教育一 純潔教育ー,⑪非行対策,⑬親子の会話・対 話・相談,⑬季節の行事の教育的機能,⑫家 庭の環境整備,である. ここでは,先の山下による文献が随所に引 用されていることからも,それが基盤にあっ ての体系化ともみなされるが,山下による家 庭教育の内容を含みつつ,新たに文化や伝統 行事,季節行事など,家庭を包んでいる基盤 的生活環境をも加え, さらに子どもの内面性, 未来性に関与する宗教,情操,進路などの, 内容も加えられ,幅広く位置付けがなされて いる.(
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文部省は,r
家庭教育シリーズ』とし て, 1984年には「乳幼児期編j(4)を, 1987年 には「小学校低・中学年期編j(5)を, 1989年 には,r
小学校高学年・中学校期編j(6)を発 行している.子どもの発達年齢に応じて細か くその年代期別の発達的特色や,家庭教育上 の課題を上げている.r
乳幼児編」では,特 に家庭教育の内容や課題は示されていないが, 「小学校低・中学年教育期編J
においては, ①生活習慣の形成,②食事,③生活時間,③ 礼儀,⑤家庭内の役割分担,⑥金銭教育,⑦ 安全教育,⑧性教育,⑨子供部屋,⑬学習塾・ けいこごと,⑪家庭学習,⑫テレビ,⑬読書 22-『人間科学研究』文教大学入間科学部第18号 1996年 佐 藤 啓 子 指導,⑬コンピューターゲ、?ム(テレビゲー ム),⑬子供の社会参加,⑬友達,⑪子供の 問題行動の傾向とそのサイン,⑬登校拒否, ⑬万引き,⑫いじめ;@かん黙,⑫家庭内暴 力,⑫虚言,⑫子供の問題行動と家庭教育を, 「小学校高学年・中学校期編
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においては, ①子供の生活,②子供の関心事,③子供の持 ち物,④子供の文化,⑤子供の意識,⑥性, ⑦消費者教育,⑧役割分担,⑨友人との交流, ⑮マンガ,⑪子供部屋,⑫学習塾,⑬校則・ きまり,⑬教師との信頼関係,⑬授業,⑬部 活動,⑪転校,⑬進路選択,⑬高校進学,⑫ 子供の問題行動の傾向とサイン,②ストレス と心の:やまい,⑫進路選択にかかわる思春期 問題,⑫性の逸脱行動,⑫登校拒否,⑫いじ め,⑫校内暴力,@盗み,⑧喫煙・飲酒等, ⑫思春期の挫折の意義等が上げられており, 子どもの発達年齢により,具体的な課題も家 庭教育内容も異なってくることが示されてい る.(
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畠中徳子・大戸美也子編による『今日 の家庭教育J
(7)(1983年)では,今日の家庭 教育の課題として,子どもの生活からとらえ られる課題と,親の生活からとらえられる課 題を示している.子どもの生活からとらえら れる課題とL
ては,①変化する家庭環境と子 どもの生活上の課題(家族構成/家族間コミュ ニケーション/母親の就業に伴う課題/母子 家庭・父子家庭/家庭の住居状況等),②学 校教育と子どもの生活からとらえられる課題, ③地域社会における子どもの生活からとらえ られる課題,④文化・社会の影響を受ける子 どもの生活からとらえられる課題(テレビ/ 絵本・マンガ/玩具等)を,親の生活からと らえられる課題とL
て,①所得水準の向上, ②高齢化社会と婦人のライフスタイル,離婚 の増加,を示している. ここでは,家庭教育の課題や内容をとらえ るにあたり,子どもの意識や行動の変化・向 上のみを焦点化するに留まらず,生活者とし ての親自身にも目を向け,親自身の課題をも 明らかにしているところに特色を見いだすこ とができる.2
生 涯 教 育 の 視 点 に 立 脚 す る 家 庭 教 育の内容〈領域) ・課題と機能
以上は, 1965年前後から著されている家庭 教育関係の文献類の中から,総合的・全体的 観点から著されていて, しかも特に生涯教育 的視点を前面には出していない文献類から, 特に家庭教育の内容を焦点化し,その特色を みようとしたものである. 次に,生涯教育的視点からの家庭教育の内 容について明らかにするのであるが,かといっ て一線を画してすべてが変わるわけではなく, 古来変わらずに維持し続けている部分もある はずである.けれども,同じ内容ではあって も生涯教育・学習的視点からとらえれば,そ の意味や方向づけが異なってくる場合もあろ うし,生涯教育・学習の総合的・複合的性格 からすれば,新たな内容が添加される必要も 出てくるであろう.そこで,以上を踏まえつ つ,以下に生涯教育・学習の視点に立つ家庭 教育の内容を紹介し,その特色と意義を探っ てみたい. (1) 赤木恒雄によれば,r
家庭教育には二 つの意味が含まれており,一つは親が子ども に行う教育であり,一つは子どもを育てる親 に対する教育である。j(8)とし,生涯教育に おける家庭教育の役割は,r
成人になってか らも絶えず新たな課題に向けて学習を継続で きるような子どもに育てることj,T
そのため には,子どもに何事にも自主的に取り組み, 他人に頼らず解決していこうという意欲,意 志を育てることである.すなわち,自主性, 独立性,向上心を培うこと」であり,従って, 「家庭教育の役割は,生涯学習を可能にする ための自発的学習意志の基礎である基本的態 度を形成することである。」としている. (2) 坂崎一男は,論文「生涯教育の視点に 立つ家庭教育j(9)において,家庭でだけしか 行えない,親でだけしか行えない教育の6領 域主して①無意図的教育,②宗教的情操の 教育(道徳的情操),③愛情教育(大間性関生涯学習社会における家庭教育(2) 発),④しつけ(基本的生活習慣の形成),⑤ 自立・立志・勤労の教育,⑥健康・安全の教 育を上げている.
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藤原英夫による次のような見解もある (0) まず,生涯教育における家庭教育の位置づけ として,r
生涯教育が問題にする<全教育構 造>は,<組織的な教育活動>の全体が問題 にされるのであって,組織的な活動とはいえ ない家庭教育は,必ずしもその領域に含まれ ない」と述べ, しかし「子どもの家庭でのさ まざまな領域での学習も,子どもの生涯にわ たる学習のはたらきの一環であり, しかも子 どもとしての家庭生活が長期にわたることを 思えば,家庭教育もまた生涯教育の原理に合 致し,生涯教育の文脈の中のものになること は,子どもにとって望ましいことだ.けれど も,そのような方向での家庭教育の改善といっ たことは,これまた組織的な教育活動の場合 と全く異なった条件下にあるjと述べ,さら に「親権者の教育方針は,世論も公権力も容 易に介入し得ないものになっている。J
(0)こ のことは「教育の原点ともいうべき家庭教育 の外でさまざまの組織的活動が構造をなして 発展したところで,その構造に関して提出さ れた教育の原理を,家庭教育活動にも浸透さ せて,家庭教育をもその構造の一環として機 能するJ
(10)ような親の態度にかかっている. 換言すれば,r
家庭教育が学校教育・社会教 育と調整させること,家庭が教育上分担すべ き役割を明確にすること,子どもに学ぶ仕方 をまなばせること等の諸原則を,親たちが自 ら自分の教育方針として取り入れるというこ とがなければ,家庭教育そのものとはならな いだろうJ
(10)と指摘している.そして,家庭 教育もまた生涯教育の文脈の中のものとなる ただひとつの方途が「両親教育」ではないか としている. 引用が長くなったが,要は家庭教育を進め る親の方針にはどんな世論も公権力も介入す ることのできない「親権の壁」ともいえるも のがあり,家庭外に用意された両親教育用の 組織活動に親が参加しない限り,家庭教育は 生涯教育に位置づきにくい,ということでは なかろうか.そして,仮に親が家庭外の組織 活動との接点をもったならば,生涯教育的に 機能する家庭教育の内容とは,①家庭を学校 教育・社会教育と連携させ急こと,②学校教 育・社会教育との連携において,家庭が教育 上分担すべき役割を実行すること,③さらに, 子どもに学び方を学習させること,であると している. (4) 瀬沼克彰は,家庭教育こそが生涯学習 の根底であるとし,望ましい家庭教育が学習 社会の到来に不可欠の条件であるとし,次の ように述べている. 「文明の進歩とは,家庭のもっさまざまな 機能が社会的分業化の進展と共に,外へ外へ と出ていって,それぞれ専門機関にゆだねら れるというフ。ロセスであった. しかし成熟社 会の到来は,やがて新しい家庭のあり方を模 索する時代となってきた。J
(11)とし,従来, 家庭における教育の中心は“しつけ"であっ たが,r
これからは, しつけと共に幅広く生 活を学ぶこと,生涯にわたる人生への準備を することが,親子のきずなの中でなされてい くこと」仰になろうし,r
この中で中心的な 課題となるのは,これからますます増加する 余暇時間を含めて,生活時間の使い方を主体 的に設計する能力を養うこと」であり,r
学 び方を学ぶ教育というものが,最も重視され る必要がある。J
(11)r
学力や知力は再生では なく,少数の核となることを学んで,それを 発展させていくという能力が大切になる。J
(11) さらに「これからの家庭が夫と妻の親密な愛 情を中心として,新たな機能を付加されると したら,何にも増して,どう余暇をデザイン するかの能力を養う場でありたい。」として いる. ここでは,生涯学習社会と相即的に展開す る家庭教育の位置づけがなされており, しつ けはもとより,新たに付加される家庭教育の 内容・機能として,①幅広く生活を学習する こと,②生涯にわたる人生への準備をするこ と,③自らの学習計画を主体的に設計する能-24-『人間科学研究』文教大学人間科学部第18号 1996年 佐 藤 啓 子 力を培うこと,を上げている.
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遠藤克弥は,著書『いま家庭教育を考 えるj(12)において,従来の家庭教育論には, 「しつけ教育」が即ち「家庭教育」とみなし てきた問題点があり,それは「親が子どもを 自分の思うようにさせるための方法やアイディ アを提供した点である。」そのため, こうし た方法論には「やらせる」という言葉が多く 使われ.I
みずからする」という発想を見落 としてきている. と指摘している.遠藤は, 教育学者,村井実の「人間は善さを求めて生 きる存在である」という人間観を継承し, こ の善くなろう,善くしたいという人間たちの 聞に展開する交わりや,はたらきかけがまさ に「教育」なのであるーとして,この見方に よれば,従来の家庭教育は「子どもをしつけ る教育」や.I
子どもの知育中心の家庭教育J
が主となっており,学習者は常に子どもであっ た.I
いかにして教えるかJ
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いかにしてや らせるかJ
が家庭教育の中心課題となってい て,子どもは常に受け身の立場になっていた. 生涯学習の視点、に立つならば,親も家庭の中 の一学習者であり,学習者として子どもと同 等なところに位置することとなり,親も子も <共に学ぶ学習仲間>となるはずである.そ こでは,親も子も<共に育て><共に育つ> そして<共に学びあう>家族の姿が白標にさ れるであろう,と指摘している.とりわけ, 親自身が善さを追及する存在として,自分を も養育しつづける自己教育・自己学習の必要 性を強調している.以上を踏まえるならば, 家庭教育で大切にされねばならない内容(課 題)は,以下に要約されるのではないかとと らえられる. ① 子ども自身が善さへ向かう働きを援助 するような家庭の全体的な在り方をつく ること ② 子どもが家庭で学ぶ学習を,親は手伝 いはfこらきかけること ③ 家庭が学習環境の場となるような家庭 の在り方をつくること ④ それには,子どもも学ぷと同時に親も 学ぷというように,家族全員が学習者で あるようにし,学びあうことを基本的な 理念とすること ⑤ 家庭の中に家族全員で学ぼうとする家 風(家庭の雰囲気や在り方)をつくるこ と 遠藤によれば,家庭における教育的営みは, 親から子どもへの勾配関係を固定化した一方 向的なはたらきかけではなく,親と子どもと がかかわりあう過程で,それぞれが一人の人 間として向上するための学習を伴う必要性を 指摘している.この「共に育ちあうJ
という 理念を,生涯教育・学習的な視点として位置 づけていることは,家庭教育内容をとらえる 上での特色である, と考察される.3
家庭教育の内容(課題)と機能につ
いての生涯教育(学習)的考察
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生涯教育(学習)J における「家庭 教育J
の位置づけ これまでの論述からもわかるとおり,家庭 教育の内容を明らかにしようとするならば, その前に生涯教育における家庭教育の位置づ けを明確にしておくことが必須であろう. 先に藤原が指摘したように,家庭は世論も 公権力も介入が許されない私的な空間であり, 法による親権の下に家庭外の教育構造がどの ようなものであれ,親がそれを受け入れ,家 庭に取り入れようとしない限り,外部からは 干渉も介入もし得ないのである.確かにこう した限界はあるものの, この境界や限界をあ まりにも強調し過ぎるならば,家庭と地域や 社会とのかかわりはそれ以上には発展しえな いものとなろう.昨今,社会的な問題となっ ている“いじめ"の現象は,学校という場に おいて生起しているものの,家庭や地域も無 関係ではなく,子どもの在り方に家庭も学校 も地域も関与しながら,長い時間をかけて顕 現化した事象とみるのが妥当である.とすれ ば,家庭外からの個々の家庭へ向かつての強 制的な指図や直接的な介入は控えるべきでは あっても,親と子が共に参加できる地域イベ生涯学習社会における家庭教育(2) ントや,相談,ふれあいの窓口を開設したり 積極的な誘いかけをするのは,多いに活性化 してよいしむしろするべきである,と考える. 麻生誠は,生涯教育の理念について,人の 一生という時間軸と個人および社会の生活全 体にわたる空間軸との統合において,図1の ように示している(13) この図の中に示される自己は,子どもであっ 図1 統合的生涯教育(麻生誠, 1985) 空間軸 青 年 期 高 齢 期 一 一一 時間軸 ても大人であっても,どの個人においてもあ てはまるものであり,また, この自己をとり まきながら示されている空間的統合としての 学習諸機関には,具体的な地域の学習諸機関 はもちろんのこと,家庭や学校も含まれてい 図2 生涯教育における家庭教育・ 学校教育・社会教育の関係 家庭教育・学校教育・社会教育が対等の立 場で相互に機能しあってこそ,よりよい教育 志向ができるとみなすならば,それらが時間 成 人 期 るとみなされる.もしこの解釈が妥当である ならば,家庭教育も学校教育も社会教育もそ れぞれが独自の領域と機能をもちながら,全 体として機能する教育が生涯教育であると考 えられ,図
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のように示されよう. 図3 生涯教育体系の構造類型 (真野宮雄, 1990) │乳幼児期i
青少年期 成 人 期 ① 品 社4th事 ル継続教育~ ? 怯 凱 同 区または社会教育ラ ② 防 グ/ m m /
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生涯教育に相当する 的統合としての人間の一生(人間発達)とど う関係するのか, このことについて真野宮雄 は,図3のように示している(14) ρ o n , ム『人間科学研究』文教大学人間科学部第18号 1996年 佐 藤 啓 子 この図示に従えば, ①は,学校教育終了後の,従来の社会教育 を生涯教育と同義とみなしているもので, こ の類型では生涯教育から家庭教育・学校教育 は除外されているとらえ方となっているし, 生まれてから学校教育在学中までの期間は生 涯教育には含まれないこととなっている. ②は,人間の一生涯という時間軸は含まれ ているものの,乳幼児期には家庭教育が,青 少年期には学校教育が,成人期には社会教育 がと,それぞれ
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対1
に対応している.この 場合には,家庭教育も学校教育も社会教育も それぞれ相互に独立しでかかわりあわずに機 能し,閉じた体系として機能する関係の仕方 となっている.③は,家庭教育・学校教育・ 社会教育が栢互に連携しながら機能するとみ なされるが,乳幼児期には家庭教育と学校教 育が,青少年期には家庭教育と学校教育と社 会教育が,成人期には学校教育と社会教育が 連携しあう関係の仕方となっている. この図 示によれば,乳幼児期における社会教育との, 成人期における家庭教育との連携が見えては こない.人生のそれぞれの期に,家庭教育, 学校教育,社会教育が関係する生涯教育論が 別の類型として示されてもよいと考える(後 述). 同じく真野は,教育における意図性と組織 性の度合いから,家庭教育,学校教育・社会 教育の関係を図4
のように示している(14) 図4 教育形態と教育領域(真野宮雄, 1990) この図示によれば,家庭教育においては無 意図的無組織性の度合いが強く,学校教育に おいては意図的組織性の度合いが強いこと, 社会教育はそれらの中間的度合いであること がわかる. このように,教育領域における意 図性や組織性の度合いから,それぞれの領域 的特色や,関係の仕方を見いだすことも可能 なのである. (2) 家庭教育の基礎となる人間観について 生涯学習社会における家庭教育の内容や機 能を明らかにしようとすれば,生涯教育にお ける家庭教育をどう位置づけるかによって, その内容や機能のとらえ方も異なってくるこ とについては前述したとおりであるが,さら にはその基本となる人間観,即ち人間存在を どのようにとらえるかによっても異なってく る.先の論述における遠藤が別の箇所で明ら かにしているとおり,子どもは①生まれなが らにして悪だ, という人間観に立っか,②生 まれながらにして善だ,③生まれながらにし て白紙だ,④生まれついて善さを求めて生き る, という見方に立っかによって,家庭教育 論の進め方もまた異なってくることを指摘し ている. 筆者は,遠藤によるこれらの位置づけに学 び、つつ,⑤として「人間(子ども)は,関係 的に存在し,関係の発展を志向する存在であ る」とするもうlつの人間観を付加したい. この見方は,関係学者・松村康平により創 始された「関係学」に基づく人間観であり, 人間存在の根源を自己・人・物の関係に求め, 自己と人と物とが共に生かされ合う「接在的 関係」を志向する存在である,としている(JS) 図5 関係的存在としての人間(松村康平, 1960) 関係状況生涯学習社会における家庭教育(2) この村井・遠藤による「善くなる」という 具体的な内容は定かではないが,その内容を
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接在共存」への志向と位置づけるならば, ある種の共通性を見い出すことが可能である かも知れない.筆者は「関係学J
を継承して いる一人であるが,多少の無理を承知の上で, 関係学的人間観に立脚し,先の麻生の生涯教 育の理念に対応させながら人間の生涯におけ る時空間の統合的発展を図示するならば,図 6のようになろう. 即ち,個人に焦点を当てるならば,人間が 生まれてから死ぬまでの聞に,さまざまな人 (他の個人や集団等)や物(課題や仕事や事 象など)とかかわり,接在共存体験を一つの 節目として成長していくのである. 図6
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関係的存在としての人間の統合的な発展(生涯学習) 空 間 軸 図7
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生涯学習社会における 家庭教育の内容 時間軸 ① 自己関係領域が形成される家庭教育の内容 ② 人間領域が形成される家庭教育の内容 ③ 物関係領域が形成される家庭教育の内容 ④ 自己と人との交文領域が形成される家庭教育の内容 ⑤ 自己と物との交文領域が形成される家庭教育の内容 ⑥ 人(集団)と物との交叉領域が形成される家庭教育の 内容 ⑦ 家庭の基盤的領域が形成される家庭教育の内容 ⑧ 自己と人と物との交文領域が形成される家庭教育の内 ,.... 廿 ⑨ 家庭を成立させている環境としての基盤的生活領域が 形成される家庭教育の内容 ⑩ 家庭外における自己拡張領域が形成される家庭教育の 内容 ⑪ 家庭外における人拡張領域が形成される家庭教育の内 容 ⑫ 家庭外における物拡張領域が形成される家庭教育の内 口モ, 廿 n H U q L『人間科学研究』文教大学人間科学部第18号 1996年 佐 藤 啓 子
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生涯学習社会における家庭教育の内容 と機能 以上の家庭教育の内容(課題)と機能に関 する諸理論と考察を踏まえ,ここで関係的存 在としての人間観に立脚する家庭教育の内容 を明らかにして,本論のしめくくりとしたい. 自己・人・物の関係において存在する人間 (自己)がその生涯において人間形成をして いくプロセスは,動き,変化するものである が,その動きのー断面を平面図で表すならば, その内容(領域)は図7
のように示される. ①自己関係領域が形成される家庭教育の内 容:子どもが人格を健全に発展させていくた めの子ども個人の資質形成にかかわる内容 (身体の健康教育,精神の健康教育などにつ いての学習) ②人関係領域が形成される家庭教育の内容: 子どもとは独立している人(親,きょうだい, 祖父母,友人,隣人など〉が,その人自身の 生活や学習をとおして向上・成長する内容 (父親の人間形成,母親の人間形成,祖父母・ 友人・隣人の人間形成などについての学習〉 ③物関係領域が形成される家庭教育の内容: 人間の世界とは相対的に独立している物の世 界(機械,物体,物質,課題,金銭など)が 家庭内に,あるいは家庭外からもたらされて 実在し,機能する内容(居住空間,家庭内環 境整備,金銭教育,消費者教育,家庭内規則J•
jレールなと、についての学習〉 ③自己と人との交叉領域が形成される家庭 教育の内容:①と②が交流することで相互に 影響されあってっくり出される人格的形成, いわゆる人間関係的側面が形成される内容 (家族や身近な人々とのふれあい,親子の会 話・対話・相談,娯楽,旅行など) ⑤自己と物との交叉領域が形成される家庭 教育の内容:③が①に取り入れられることに よって人間形成がされる内容,即ち,物の世 界や人間の生活にはある種の法員iJ性・きまり・ 習慣のあることを知って,それらを取り入れ 人間形成をしていく内容(基本的生活習慣の 形成,生活の規則・リズム・ルール,労働な どについての学習) ⑥人(集団)と物との交叉領域が形成され る家庭教育の内容:②と③とが交流すること によって創り出される人間生活や文化的領域 (マスコミ,美的情操,公衆道徳,季節行事 体験などについての学習) ⑦家庭の基盤的領域が形成される家庭教育 の内容:① ⑥が混ざりあって,その家庭ら しい全体的雰囲気,家風などが受け継がれて 体験されて育つ内容(家庭の場づくり,雰囲 気,回撲などが体験されて育つ学習) ⑧自己と人と物との交叉領域が形成される 家庭教育の内容:① ⑦が統合的に体験され ることで形成される内容(① ⑦の領域を偏 りなく体験し,それらをその人らしく統合し ているならば,人は安らぎのある次へのエネ ルギーを蓄えた,はずみのある生き方をして いくはずである.もしどこかの領域が希薄化・ 欠落していたり,どこかの領域が強化され過 ぎていれば,<例えば④の人とのふれあいが 希薄化して,③の知的学習のみが強化されて いるなど>,何らかの人格的歪みとなって, 豊かな人間生活へのつまづきとなってしまう であろう. ⑨家庭を成り立たせている環境としての地 域・社会・自然界・世界などの基盤的生活領 域が形成される家庭教育の内容:家庭をとり まいている生活環境としての地域や社会, 自 然,世界,宇宙において生起している事実, それを知ったり体験して形成される内容(宇 宙開発事業の情報,大震災・自然災害,社会 的事変,国際的異変,国際交流,ニュースな どの見聞や体験などにより学習される内容) ⑩家庭外における自己拡張領域が形成され る家庭教育の内容:①と⑨との交文領域が形 成される内容.子どもにおける家庭外の地域 や自然体験により,新しい自己の可能性や自 己開発能力が育つことで新たな人間形成がさ れるような内容(地域行事への参加体験,文 化的・季節的行事の見聞・体験,居住領域の 移動体験などによる学習) ⑪家庭外における人拡張領域が形成される生涯学習社会における家庭教育(2) 家庭教育の内容:②と⑨との交叉領域が形成 される内容.子どもとは独立している身近か な人(親, き ょ う だ い , 祖 父 母 な ど ) が 家 庭 外の地域や職場や学校や外国の人々との交流 によって,その人自身の人間形成や成長がも たらされるような内容(子どもと関係のある 身近かな人の隣人・知人との交際,職場内人 間関係,地域における組織・団体・サークル のメンバーや役員体験,国際交流体験,社会 の学習諸機関における他の学習者との交流, 旅人体験などによる学習) ⑫家庭外における物拡張領域が形成される 家庭教育の内容:③と⑨との交文領域が形成 される内容.家庭外の自然事象の変化,地域 や社会の諸機関・組織・団体・集団によるイ ベントや活動内容自体.それらが家庭内にも 何らかの影響を与えているような家庭教育の 内容(旅行,自然、探索,季節の変化体験,マ スコミや視聴覚機材をとおしての情報伝達・ 交流・地域の祭り・大売り出し・催し物・諸 活動などの体験や学習) 従来,家庭教育の内容や機能としてとらえ られていた領域は,主として図刊の① ⑧で あった.生涯学習社会における家庭教育の内 容や機能は⑨ ⑫を含めた① ⑫の内容を伴 うものと考える.生涯学習社会における家庭 教育の役割のーっとして,開かれた家庭の在 り方が重要視されるのは,この① ⑧の内容 に留まらず,⑨ ⑫の内容(領域)を積極的 に体験し,学習し得る家庭教育を展開するこ とが望まれていると換言することが出来よう. また,他の役割として親も子も「共に」成 長するとか,