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田中正平の日本製の「純正調」オルガン――「廣義の純正調」の具現化――

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田中正平の日本製の「純正調」オルガン

1)

─「廣義の純正調」の具現化─

Shohei Tanaka’s Japanese “Just Intonation” Reed Organs:

Realization of “Broad Just Intonation”

篠 原 盛 慶

Shinohara Moriyoshi

In 1932, Japanese physicist, Shohei Tanaka (1862-1945) invented a Japanese just intonation

reed organ (hereafter J-JIRO) which improved upon his German JIRO (i.e. Enharmonium) designs.

In his main work, The Foundations of Japanese Harmony (1940), Tanaka classified JI into “JI”,

“authentic-JI”, and “broad-JI”. It is unclear, however, which of these he had in mind for his J-JIRO design.

From this work, I have inferred that the Enharmonium does not produce enough harmonic sev-enths because of its “authentic-JI” design. And thus, Tanaka designed a J-JIRO which does produce enough harmonic sevenths. Primarily by examining this inference, I will clarify which JI type he had in mind for his J-JIRO design.

First, I outlined how 53-JI and its close approximation, 53 equal temperament, form the basis

for Tanaka’s tuning theory. Then I showed that the J-JIRO is not tuned to JI, but to 1/8 schisma

tem-perament, which goes against conventional thinking. Next, I analyzed 31 tones, from 21 Japanese “JI” reed organ keys. This analysis confirmed that the J-“JI”RO produces 5 more “harmonic

sev-enths” than the Enharmonium. These 5 are an approximation of the harmonic seventh’s (7:4)

sub-stitute interval (225:128). Lastly, my research strongly suggests that he had “authentic-JI” (5-limit

JI) in mind for the Enharmonium—to which, I theorized in an earlier paper, 53-ET was

ap-plied—and “broad-JI” (7-limit JI) for the J-“JI”RO.

Tanaka had a type of JI in mind for the J-“JI”RO, which was different from the Enharmonium JI. A significant reason for this difference could be that he, through his study of traditional Japanese music, along with musicologist Hisao Tanabe and others, cultivated an ear for intervals which do not fit into the framework of Western harmonic theory. The concrete verification of this is a subject for future research.

序論

 物理学者の田中正平(1862~1945)が残した功績に,エンハルモニウムの名で知られるドイツ製の 純正調オルガン2)(第 1 号器は 1889 年)を改良した,日本製の純正調オルガン(第 1 号器は 1932 年) 1)本論文は,九州大学に提出された,筆者の博士論文(篠原 2018)に基づくものである。 2)西洋においてオルガンと言えば一般的にパイプオルガンを指すが,日本においてオルガンと言えば一般的にリードオルガ ンを指す(菊川 1971,11-12)。

(2)

がある。しかし,日本製の純正調オルガンがどのような純正律による調律法,すなわち,純正調3) 念頭に置いて設計されたのかについては,明らかにされていない。田中は「純正調」(あるいは「狭 き意味に於ける純正調」)・「本格の純正調」・「廣義の純正調」(田中 1940, 108-109, 114)の 3 種を類 別しているが,これらのどれを念頭に置いて設計したのかについて,明らかにしていないのである。  田中の主著『日本和聲の基礎』(1940)には,日本製の純正調オルガンが「十分に自然七度を出し 得るやうに改案して」(田中 1940, 129)作製されたことが記されている。また,同著からは,ドイ ツ製の純正調オルガンについて,「本格的純正調に依り設計せられたから,自然七度の發聲に缺くる ところが多かつた」(田中 1940, 129)可能性が読み取れる。このように,日本製の純正調オルガン は,ドイツ製の純正調オルガンとは異なる種の純正調を念頭に置いて設計されたと推測され,そうで あれば,その理由の解明が必要と考えられる。本論文の主な目的は,こうした問題意識を持って,日 本製の純正調オルガンがどの純正調を念頭に置いて設計されたのかを明らかにすることである。  一方,今日では,純正調オルガンから奏出される自然七度(以下,純正 7 度)について,正しく捉え られていない場合がほとんどである。そして,真っ先に考えられる理由は,純正調オルガンには純正 律が適用されたと広く認識されていることである。詳しくは後述するが,純正調オルガンは,ドイツ 製と日本製を問わず,純正 5 度と純正長 3 度からなる純正律(以下,5 リミット4)の純正律)に極僅か な誤差で近似するテンペラメントに基づいている(Tanaka 1892, 5-6; 須永 1932, 26; 田中 1940, 121, 135; 田辺 1951, 210; 伊藤 1988)5)。このため,純正調オルガン,厳密には,「純正調」オルガンの音 律デザインでは,純正 7 度(7:4)よりも,この 7 リミットの音程に近似する 5 リミットの音程が重 視され(田中 1940, 122),さらに実際の調律では,その 5 リミットの音程は整律(temper)される。  本論文では,日本製の「純正調」オルガン(以下,日本製オルガン)に適用された音律を明確に示 した上で,同楽器が「純正調」・「本格の純正調」・「廣義の純正調」のどれを念頭に置いて設計された のかを明らかにする。また,そのなかで,既発表論文6)において 53 平均律が適用されたとする見解 を示したドイツ製の「純正調」オルガン(以下,エンハルモニウム)についても,それらのどれを念 頭に置いて設計されたのかを述べる。本研究によって,日本製オルガンにおける田中の音律思考の発 展を適切に理解することが可能となる。  日本製オルガンについては,作製された 6 台のうちの 4 台の現存が確認されている。筆者の研究 では,浜松市楽器博物館が所有する同楽器の第 5 号器(1938)の実物を調査した。この調査結果を 踏まえた上で,本論文では,主に田中本人と彼の弟子でオルガン奏者の伊藤完夫(1906~2005)ら の記述,および,田中の音律理論やオルガンについての資料を綿密に読み込むことによって,日本製 オルガンが,上記 3 種の純正調のどれを念頭に置いて設計されたのかを明らかにする。 3)本論文では,純正律は音律として捉え,純正調は調律法として捉える。したがって,純正律は純正音程の集合であり,純 正調は純正音程と純正律を導く調律法である。ただし,本論文で取り上げるドイツ製と日本製の純正調オルガンに施され た調律法は,純正5度(3:2)と純正長3度(5:4)からなる純正律に極僅かな誤差で近似するテンペラメントによる調律 法である(Tanaka 1892, 5-6; 須永 1932, 26; 田中 1940, 121, 135; 田辺 1951, 210; 伊藤 1988)。この所謂「純正調」は,英 語で言うところのpractically just intonationやnearly just intonationなどに相当する。なお,(伊藤 1988)は動画である。 4)リミット,厳密には,素数リミットとは,素数Nより大きな素因数を含まない比率からなる純正音程,このような純正音 程の集合からなる純正律,あるいは,そのような純正音程と純正律を導く純正調を示す場合に用いられる音律の専門用語 である。例えば,3/2や9/8は3リミットの純正音程であり,5/4や25/16や15/8は5リミットの純正音程である。また, これらの純正音程(3/2,9/8,5/4,25/16,15/8)の集合は5リミットの純正律であり,5リミットの純正音程と純正律を 導く調律法は5リミットの純正調である。 5)この(伊藤 1988)については,44分37秒辺りから47分27秒辺りを参照されたい。 6)筆者の論文(篠原 2013)である。

(3)

ラティスについて

 ここでは,音程相互の関係性を体系的に分かりやすい形で示す際に用いられる,ラティス(田中の 呼称では純正音係網)と呼ばれる格子図を簡潔に説明する。 図1 ラティス  図 1 は,筆者が書いた,5 リミットの純正律の一部の領域を示したラティスである。図 1 では,純 正 5 度(あるいは,純正 4 度〈4:3〉)の連続と,純正長 3 度(あるいは,純正短 6 度〈8:5〉)の連 続が格子状に示されている。例えば,C0(1/1)の純正 5 度上は G0(3/2)7)であり,この純正 5 度上 は D0(9/8,すなわち,3/2 × 3/2 × 1/2)8)である。また,C0の純正長 3 度上は E-1(5/4)であり, この純正長 3 度上は G

-2(25/16,すなわち,5/4 × 5/4)である。さらに,G0の純正長 3 度上は B-1 (15/8,すなわち,3/2 × 5/4)であり,E-1の純正 5 度上も B-1(15/8,すなわち,5/4 × 3/2)であ る。  本論文で用いる表記法では,マイナスあるいはプラスの指数が,シントニック・コンマ9)と呼ば れる 81:80(約 21. 506 セント)の増減を表す。例えば,F0(4/3)から見て,プトレマイオスの長 3 度上(× 5/4)に位置する A-1(5/3,すなわち,4/3 × 5/4)は,ピタゴラスの長 3 度上(× 81/64) に位置する A0(27/16,すなわち,4/3 × 81/64)よりも,シントニック・コンマ 1 つ分低い(すな わち,27/16 × 80/81 = 5/3)。つまり,ピタゴラス音律(指数 0 を持つ音列)上に形成される,同じ 音名の音との差を示している。ただし,田中の表記法においては,プラスとマイナスの指数がそれぞ れ,上線と下線によって示される。

1

章 「純正調」オルガンの歴史

 本章では,田中の「純正調」オルガンの歴史について,エンハルモニウムと日本製オルガンを概観 する。主に伊藤と菊川の先行研究を参考に概観する。 7)純正律では,比率が特定の音程あるいは音高を示す。本論文では,今日の音律研究における慣習にしたがって,特定の音 程と音高のいずれもスラッシュを用いて表す。しかし,音高を特定せずに音程のみを示す際は,コロンを用いて表す。例 えば,3:2は,単純に純正5度を表す。一方,3/2は,1/1の純正5度上の特定の音程あるいは音高を表す。したがって, C01/1に設定した場合,3/2は,C0の純正5度上のG0を表す(Doty 2002, 25)。 8)純正律では,オクターヴ等価性が考慮されるため,全ての比率は1/1から2/1の間,すなわち,1オクターヴ内に収められ る。 9)シントニック・コンマとは,ピタゴラスの長3度の81:64とプトレマイオスの長3度(純正長3度)の5:4の差(81/64 ×4/5=81/80)として表される微小な音程であり,その音程は81:80(約21. 506セント)である。

(4)

 1862 年 5 月 15 日,田中は淡路国三原郡に生まれた。1882 年,田中は東京大学理学部を卒業し,

1884年 8 月,文部省代表としてドイツへと渡った。ベルリン大学に在籍した田中は,ドイツの物理

学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ Hermann von Helmholtz(1821~1894)の指導のもとで音響 学と電磁気学の研究を行った。

 1889 年,田中はドイツのフィリップ・イー・トライザー社に依頼し,自身設計の最初の「純正 調」オルガンであるエンハルモニウムを製作した。また,翌 1890 年には,同楽器に関連した博士論 文『純正調の領域の研究 Studien im Gebiet der reinen Stimmung』を発表した。

 1899 年 4 月,田中は小型エンハルモニウムを携えて日本に帰国した。しかし,当時の日本の音楽 界や学術界によって,同楽器が適切に評価されることはなかった(伊藤 1968, 59)。このため,田中 の後輩で物理学者の田丸卓郎(1872~1932)は,同楽器を田中から預かり,東京帝国大学理学部物 理学研究室に長い間にわたって保管した。これにより,田中の純正調の研究は中断した。以降,田中 の関心は邦楽全般へと向けられていった(菊川 1971, 15)。  1908 年,田中は月島に邸宅を建て,そこを事実上の邦楽研究所とした。この研究所へは,多くの 邦楽関係者が毎日のように訪れた。その常連は,40 年間側近して田中に教えを受けた音楽学者の田 辺尚雄(1883~1984)をはじめ,田中の内弟子となっていた長唄の吉住小十郎(山田舜平),一中節 の西山吟平,箏曲山田流の落合三東里,富本節の富本豊志太夫,踊りの花柳輔三郎などであった。同 研究所では,邦楽全般を,赤と黒の二色で書き分けたり特別な符号を用いたりしながら,五線譜化す る作業が組織的に行われた(菊川 1971, 16; 田村 2012, 12)。  明治の終わり頃から大正の初めにかけて,田中に代わり純正調の研究に取り組んだのは田辺であっ た。田辺は,著述や講義などを通じて,田中によるものをはじめとする純正調の研究の重要性を訴え ていった。その結果,大正の終わり頃から昭和の初めにかけて,純正調の研究に取り組む音楽家が現 れるようになった(伊藤 1968, 104)。  1930 年,田中は東京帝国大学に保管していた小型エンハルモニウムを修理し,純正調の研究を再 開した。そして,エンハルモニウムの構造を一部改良したオルガンの製作に取り掛かり,その製作を 日本楽器製造株式会社の横浜分工場に依頼した。これを機に,1932 年から 1938 年にかけて 5 台の オルガンが作製され,1942 年には,浜松楽器工業株式会社によって 1 台のオルガンが作製された (田村 2012, 14)。  例えば,1932 年 5 月に試作として完成した第 1 号器については,音楽学者の徳川頼貞(1892~ 1954)が研究発表の機会を設けた。しかし,楽器の製作技術が不十分であったことや伊藤をはじめ とする出演者の演奏技術が未熟であったことから,この発表は不成功に終わった(伊藤 1968, 61)。  また,1935 年に完成した第 2 号器については(黒沢 1972, 268),同年 5 月,仏教音楽協会主催に よる披露演奏会が開かれた。以降,若い世代の音楽家たちの協力を得て,純正調の研究は主に合奏や 合唱といった演奏面に向けられていった(伊藤 1968, 61)。  さらに,1936 年に相次いで 2 台が作製されたうちの 1 台である第 4 号器については,同年 11 月, NHKの第二放送を通じて,伊藤による伴奏が田辺の純正調に関する話と併せて放送された。また, 1937年 6 月には,NHK の第一放送を通じて,伊藤による独奏が放送された。こうして,純正調の研 究は,ようやく日本の音楽界や学術界でも注目をされるようになり,若い音楽家たちによる演奏会や 研究会が度々行われた(伊藤 1968, 61)。  1945 年 10 月 16 日,田中は純正調の研究者としての生涯を閉じた。享年 84 歳であった。

(5)

2

章 田中正平の音律理論の基礎に据えられた

53

純正律と

53

平均律

 本章では,田中の音律理論の基礎に据えられた,無限に広がる純正音程の代用物としての 53 個の 純正音程と,この 53 純正律の代替物としての 53 平均律を概説する。本章で述べる田中の音律理論 は,西洋の和声理論の土台にある 5 リミットの純正律に基づくものである。 図2 スキスマとクライスマ  理論上,純正 5 度と純正長 3 度は限りなく積み上げていくことができる。無限に広がる純正音程 において,聴覚上の識別が容易ではない極めて微小な音程として,スキスマ10)と呼ばれる 32805: 32768(約 1. 954 セント)とクライスマ11)と呼ばれる 15625:15552(約 8. 107 セント)がある。 筆者作成の図 2 において,前者は E

 

✚2(256/225)と D✚1(729/640)の間の音程などであり,後者 は E

 

✚2と D

-4(2500/2187)の間の音程などである。なお,図 2 では,E

 

✚2と D✚1と D

-4を網 掛けで示している。 図3 53個の純正音程  田中の音律理論,厳密には純正調理論では,スキスマ等価性とクライスマ等価性を考慮して,スキ スマとクライスマの関係にある音が同音と見なされる。その結果,無限に広がる純正音程は 54 個に 減少される。また,この 54 個の純正音程において 1600000:1594323(約 6. 154 セント)の微小な 音程関係にある B

✚2(729/400)と B-3(4000/2187)も同音と見なされ,ここでは B-3が除かれる。 10)スキスマとは,ピタゴラス・コンマ(531441:524288)とシントニック・コンマ(81:80)の差(531441/524288× 80/81=32805/32768)として表される微小な音程で,その音程は32805:32768(約1.954セント)である。 11)クライスマとは,田中によって音律研究に導入された用語で(Tanaka 1995, 118),純正短3度(6:5)を6回下げ,純 正5度を1回上げて,さらに1オクターヴ上げて得られる音程である。ただし,今日では,しばしば,純正長3度を6回 上げ,純正5度を5回下げ,さらに1オクターヴ上げて((5/4)6×(2/35×2)得られる音程として表される。その音程 は15625:15552(約8. 107セント)である。

(6)

こうして,無限に広がる純正音程は最終的に 53 個へと減少される(筆者作成の図 3)。田中の純正調 理論では,この 53 個の純正音程が,無限に広がる純正音程の代用物として捉えられる(Tanaka 1890, 8-10)。なお,図 2 では,B

✚2と B-3を四角で囲って示している。  上記の 53 個の純正音程は,均質な音程へと変換,すなわち,平均律化されたとしても,本来の純 正音程に極僅かな誤差で近似する(Tanaka 1890, 17-18)。実際,この 53 個の純正音程からなる 53 純正律と 53 平均律の誤差は,最小では約 0. 068 セントであり,最大でも約 4. 292 セントである。  田中の音律理論,厳密には「純正調」理論では,53 平均律を用いることによって「無制限の転調 移動」が可能となる(Tanaka 1892, 5-6)。補足すると,上記の 53 純正律による音階と同等の音階 の「無制限の転調」が可能となる(Helmholtz 1885, 328-329)。ここで言う「無制限の転調移動」 (以下「無制限の転調」)は,田中が博士論文のなかで論じた「極端な転調」に相当すると解釈できる (Tanaka 1890, 12-13)。 図4 ラティスの再現図  図 4 は,田中の博士論文に掲載された「極端な転調」の概念図とも言えるラティス(Tanaka 1890, 13)を筆者が再現したものである。図 4 では,無限に広がる純正音程が中心の平行四辺形(図 3)と 同じように区分けされており,これらの区分けされた平行四辺形はスキスマあるいはクライスマに よって関係づけられている。例えば,中心の平行四辺形の右下に位置する平行四辺形には「-K+S」 と記されており,これは,この平行四辺形が中心の平行四辺形から 1 つのクライスマ低い位置かつ 1つのスキスマ高い位置にあることを示している(Tanaka 1890, 12)。  田中は,無限に広がる純正音程が全て使用可能な場合,中心の平行四辺形内に見られる 53 純正律 を 1 つ以上のスキスマあるいはクライスマの単位で他の平行四辺形内へと移行できることを指摘し ている。そして,この種の移行を「極端な転調」と表現している(Tanaka 1890, 12)。  53 平均律による「無制限の転調」は,こうした無限に広がる純正音程の全てを必要とする「極端 な転調」と同等の効果をもたらす。なぜなら,53 平均律は,上記の 53 純正律と同等の協和性を有し ており(Tanaka 1890, 17),さらに,スキスマ等価性とクライスマ等価性の考慮を必要としない (Tanaka 1890, 18),スキスマとクライスマを解消(temper out)した音律だからである。このよう

に,田中の「純正調」理論では,53 平均律が,この 53 純正律の代替物として捉えられる。

 本章の最後に,以下の点を補足する。エンハルモニウムと日本製オルガンの音律デザインでは,ス キスマの関係にある音は扱われるが,クライスマの関係にある音は扱われない。このため,これらの 楽器に適用される音律として,スキスマを解消したテンペラメントは必要であるが,クライスマを解 消したテンペラメントは必ずしも必要ではない。

(7)

3

章 「純正調」オルガンに適用された音律

 本章では,田中の「純正調」オルガンに適用された音律について論じる。3. 1 節では,日本製オル ガンの音律を明確に示す。3. 2 節では,(篠原 2013)で示した,エンハルモニウムの音律についての 見解を記す。 3. 1「ヘルムホルツの平均法」という調律法  田中は,日本製オルガンを「純正調オルガン」と呼んだ。このため,同楽器には純正律が適用され たと広く認識されている。しかし,同楽器については,田中自身が「ヘルムホルツの平均法」(田中 1940, 121)という調律法を応用したことを記している(田中 1940, 135)。また,伊藤は主著『田中 正平と純正調』(1968)のなかで,この調律法から導かれる音律を「ヘルムホルツの平均律」(伊藤 1968, 40)と記している。  今日の音律研究では,「ヘルムホルツの平均律」に該当する外国語は確認されない。また,日本製オ ルガンに適用された音律が純正律であるならば,その音律が「平均律4 4 4」と呼ばれるのは不自然である。  本節では,日本製オルガンに応用された調律法である,田中の言う「ヘルムホルツの平均法」を解 説し,伊藤の言う「ヘルムホルツの平均律」が,今日において,1/8 スキスマ・テンペラメントと呼 ばれる音律であることを示す。  田中は「ヘルムホルツの平均法」を次のように説明している。例えば,D

✚1と F0の純正長 3 度を 厳正に保持し,F0から C

0までの 8 個の純正 5 度をそれぞれ,スキスマの 8 分の 1 だけ縮小させ,最 初の D

✚1と最後の C

0を正確に合致させる。つまり,スキスマを F0から C

0までの 8 個の純正 5 度 に一様に割り振って,両端の D

✚1と C

0を合致させる。これによって,スキスマは消滅し,「純正 調實行に必要なる音源の數が著しく減少するといふ好結果が生ずることになる」(田中 1940, 121-122)。  図 5 は,田中が D

✚1と C

0の間に形成されるスキスマをラティス上に表したものである。なお, C

0は D

✚1よりもスキスマ 1 つ分高い。 図5 D

✚1C

0の間に形成されるスキスマ(田中 1940, 121  このスキスマを 1/8 に分割する調律法は,当時の研究者の間において「ヘルムホルツの方式 (Helmholtz’s system)」(Bosanquet 1876, 57)などと呼ばれていたものであり,今日では,1/8 スキ スマ・チューニングと呼ばれているものである。そして,この 1/8 スキスマ・チューニングから導か れる音律は,1/8 スキスマ・テンペラメントと呼ばれる。  伊藤は「ヘルムホルツの平均法」から導かれる音律を「ヘルムホルツの平均律」と呼んだ。一方,

ヘルムホルツの著書『音感覚論 Die Lehre von den Tonempfindungen』(1863)の英訳12)と注釈を

担当したイギリスの数学者アレクサンダー・ジョン・エリス Alexander John Ellis(1814~1890)は, 同書の英訳書のなかで,同音律を「ヘルムホルツのテンペラメント(Helmholtzian temperament)」

(Helmholtz 1885, 435)と記している13)

12)英訳は,初版(1863)ではなく,第3版(1870)と第4版(1877)に基づく。 13)同著の英訳書に,「ヘルムホルツの平均法」に該当する外国語は確認できなかった。

(8)

 伊藤が「ヘルムホルツのテンペラメント」を「ヘルムホルツの平均律」と記した理由は,次のよう に説明される。日本では,temperament が平均律と訳されていた時期があった。具体的には,equal

temperamentが等分平均律と訳され,unequal temperament が不等分平均律と訳されていた(平島

1983, 84-85)。今日では,こうした和訳は誤訳と見なされる。しかし,田中の学派が活躍した時代 には,temperament が平均律と訳されるのが通例であった(須永 1932, 26-27)。この慣習にならっ て,伊藤は「ヘルムホルツのテンペラメント」を「ヘルムホルツの平均律」と記したと考えられる。 3. 2「スキスマ及びクライスマを 0 と置いた所の平均律」という音律  エンハルモニウムについても「純正調オルガン」と呼ばれているため,純正律が適用されたと広く 認識されている。しかし,田中とともに当時の日本の音律研究を牽引した田辺は,主著『音楽音響 学』(1951)のなかで,同楽器について「俗に純正調オルガンと呼んでいるが,正しい純正調ではな く,純正調に極めて近い一種の淸音オルガンである」(田辺 1951, 210)と記している。また,同著 では,同楽器から奏出される音について「(但しスキスマ及びクライスマを 0 と置いた所の平均律を 用いる)」(田辺 1951, 211-212)と注書きされている。  田辺の言う「0 と置いた」とは,微小な音程が省略されたことを意味する(田辺 1951, 186-189)。例えば,田辺の著書『音樂原論Ⅰ』(1933)では,53 平均律が「スキスマ及びクライスマを 省略して作つた平均律」(田邊 1933, 57)と言い表されている。  田辺は『音楽音響学』のなかで,エンハルモニウムに 53 平均律が適用されたとする根拠を示さな かったため,その真偽については詳細な検証が必要であった。(篠原 2013)では,この検証と考察を 行った。その結果,同楽器に適用された音律は 53 平均律(約 1/29 スキスマ・テンペラメント)14) あるとの見解を示した。  一方,田中の博士論文の 24 ページの注 1 には,エンハルモニウムの調律に関連した記述がある (Tanaka 1890, 24)。しかし,この注釈から,エンハルモニウムの調律においてスキスマがどのよう に解消されたのかはもとより,それが解消されたのかどうかさえも明確に見極めることは難しい。同 注釈から明らかに読み取れることは,1)エンハルモニウムの和音は唸りを頼りに耳だけで調律され たこと,2)スキスマを除去するには各 5 度を純正なものから少しずらさなければならないこと,3) これらのずれが生む唸りはごく高いオクターヴ域でのみ聞き取られること(これについては,1/8 ス キスマ・チューニングが参照されている),そして,4)リードの正確な調律においては,それらの ずれ以上の実践上の困難があることである。  このことを踏まえた上で,同注釈から,エンハルモニウムに施された調律法として最も高い可能性 のあるものを挙げるとすれば,1/8 スキスマ・チューニングが参照されていることなどから,同調律 法であると考えられる。確かに,53 平均律による調律法に比べると,1/8 スキスマ・チューニングは 簡単なものである(伊藤 1968, 37, 40)。このため,同調律法が 53 平均律による調律法として代用さ れた可能性は十分にある。  しかし,田辺は 53 平均律による調律法が複雑かつ面倒で非常に困難なものであること(Bosanquet 1876, 56)を認識している(田邊 1933, 52)。また,田辺の『音樂原論Ⅰ』や『音楽音響学』といっ 14) 53平均律では,5度を53回積み上げた段階において両端の音が一致する(Bosanquet 1876, 56; 田邊 1933, 52)。この ため,53平均律の5度は純正5度に比べ,コンマの1/53,あるいは,スキスマの約1/29だけ狭い。なお,コンマの1/53 とは,純正5度を53回積み上げたところの音と31オクターヴ上の音の差である,約3. 615(53×約701. 955-31× 1, 200)セントの1/53(約0. 068セント)のことである(Helmholtz 1885, 432)。

(9)

た著書から,エンハルモニウムが 1/8 スキスマ・テンペラメントに基づいていることは一切読み取れ ない。さらに,前者の著書の 60 ページには,田中の博士論文の 24 ページと酷似した内容が含まれ ており,田辺が同注釈を読んでいたことは明白である。加えて,53 平均律はスキスマティック・テ ンペラメント(スキスマが解消された音律)であるため,同注釈において,53 平均律による調律法 について 1/8 スキスマ・チューニングが参照されていてもさほどおかしくはない。  主にこうした理由から,慎重を期するために,本論文では,エンハルモニウムの音律としてほぼ明 確に読み取ることができる田辺の記述を優先した。

4

章 日本製の「純正調」オルガンの

21

鍵から奏出される

31

 本章では,日本製オルガンの 21 鍵から奏出される 31 音を考察し,同楽器において純正 7 度,厳 密には,後述する純正 7 度の代用音程として機能する音の数を確認する。本章で考察する 31 音は, C0を主音とした場合に奏出されるものである。  図 6 は,田中が描いた日本製オルガンの鍵盤 図である。日本製オルガンには,1 オクターヴ内 に 21 個の鍵が配置されており,これらの 7 個が 大鍵(全て白鍵)で,14 個が小鍵(4 個は白鍵, 10個は黒鍵)となっている。  奥にある 7 個の黒鍵の 6 個は,エンハルモニッ ク転換ができるように作られている。これらの黒 鍵上の括弧内に示された音は,エンハルモニウム にも備えられている,エンハルモニック転換柄と 呼ばれる左の膝板を通じて得られる(田中 1940, 130)。  また,7 個の大(白)鍵の 1 個と,4 個の小白鍵の 3 個も,シントニック・コンマ単位での転換が できるように作られている。これらの白鍵上の括弧内に示された音は,エンハルモニウムには備えら れていない,七度転換柄と呼ばれる中央の膝板を通じて得られる(田中 1940, 131)。  さらに,その鍵盤自体にも,エンハルモニウムには備えられていない,B

-2を奏出する小黒鍵が追 加されている。このため,日本製オルガンでは,21 個の鍵で 31 音を奏出することが可能である15)  図 7 は,この 31 音を,田中がラティス上に表したものである。ただし,図 7 では,G- 1,D0,A0 E0を転換して得られる音が,それぞれ F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3と記され,これらの各音の上 に(G-2),(D-2),(A-2),(E-2) と 記 さ れ て い る。 な お,F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3と,G-2 D-2,A-2,E-2は,それぞれスキスマの関係にある。 15)日本製オルガンには,主音の位置をC0(第5号器の調査によると,C✚1であると考えられる)とした場合と同じ運指 で,他の調の演奏を実現する移調装置が備えられている。主音の位置を12個の位置(文献からは,C0D0D0 E0E0F0F0G0A0A0B0B0であると読み取れる)(田中 1940, 134)(同調査によると,C✚1D✚1 D0E✚1E0F✚1F0G0A✚1A0B✚1B0であると考えられる)に移すと,同楽器では46音を奏出するこ とができる。この結果,全ての調(同調査によると,極めて遠隔な関係にある調を除いた全ての調)において,C0(同調 査によると,C✚1であると考えられる)を主音とした場合と同じ種類と数の和音や音階の奏出が可能となる(田中 1940, 134-135)。 図6 日本製オルガンの鍵盤図(田中 1940, 131)

(10)

図7  21鍵から奏出される31音(田中 1940, 132)  31 音から形成される長三和音(C0 根音とする長三和音の例:C0-E-1-G0 と短三和音(C0を根音とする短三和音 の例:C0-E

✚1-G0)の数は,それぞれ 19個である(図 7)。これらの三和音の うちで根音のみを示すと,長三和音につ

い て は,D

-2,A

-2,E

-2,D-1,A-1

E-1,B-1,F

-1,B

0,F0,C0,G0,D0

A0,G

✚1,D

✚1,A

✚1,E

✚1,B

✚1

であり,短三和音については,F

 

-3

C

 

-3,G

 

-3,F

-2,C

-2,G

-2

D

-2,A

-2,G-1,D-1,A-1,E-1,B-1,F

-1,B

0,F0,C0,G0,D0である。

 31 音から形成される長音階(C0を主音とする長音階の例:C0,D0,E-1,F0,G0,A-1,B-1)と和

声的短音階(C0を主音とする和声的短音階の例:C0,D0,E

✚1,F0,G0,A

✚1,B-1)の数は,そ

れぞれ 11 個である(図 7)。これらの音階のうちで主音のみを示すと,長音階については,A

-2,A-1

E-1,B-1,F0,C0,G0,D0,D

✚1,A

✚1,E

✚1で あ り16), 和 声 的 短 音 階 に つ い て は,G

-2

D

-2,A

-2,D-1,A-1,E-1,B-1,F0,C0,G0,D0である。

 表 1 は,これらのことをもとに,C0の長音階を基調として,そこから転調できる調の領域を,筆 者が記したものである。なお,表 1 では,転調可能な調を記したセルを網かけで示しており,大文 字は長調を,小文字は短調を表している。 表1 C0の長調を基調とした場合に転調できる調の領域 D

✚1 A

✚1 E

✚1 B

✚1 F✚1 C✚1 G✚1 平行調 b

0 f0 c0 g0 d0 a0 e0 同主調 B

0 F0 C0 G0 D0 A0 E0 g-1 d-1 a-1 e-1 b-1 f

-1 c

-1 平行調 G-1 D-1 A-1 E-1 B-1 F

-1 C

-1 同主調 e-2 b-2 f

-2 c

-2 g

-2 d

-2 a

-2 平行調 E-2 B-2 F

-2 C

-2 G

-2 D

-2 A

-2 同主調  31 音に含まれているにも関わらず,これらの調を形成する音階の構成音でないものが,1 音だけあ る。すなわち,D

 

-3である。D

 

-3が採用された理由は,次のように考えられる。田中は,純正 7 度 である 7:4(約 968. 826 セント)の代用音程として,その 7:4 との差が 225:224(約 7. 712 セント) と小さい,225:128(約 976. 537 セント)を使用した(田中 1940, 122)。なぜなら,7 リミットの音程 を 5 リミットのラティスに組み込もうとすると,ラティスが三次元的なものになるため,その多次 16)田中はE-2を主音とする長音階を数として数えていないのだが(田中 1940, 132),この理由は,G-1F -2)および C -3G -3D -3D-2A-2E-2)を含む同音階の演奏には,七度転換柄のオンとオフの素早く頻繁な切り替え が必要となるからであると考えられる。このため,本章では,同音階,および,B-2を根音とする長三和音は数として数 えていない。なお,G-1F -2はスキスマの関係にある。

(11)

元ラティス空間内の密接な音程関係を予測することが非常に難しくなる(「音係網が立體的になるか ら見透が頗る惡くなり,却て不便を來す」)からである(田中 1940, 118-119)。D

 

-3は,純正律に おいて,F

-1と 225:128 の音程関係にある。このため,D

 

-3が,F

-1を根音とする 7 の和音 (F

-1-A

-2-C

-1-D

 

-3)の第 7 音の役割を持つ。そして,1/8 スキスマ・テンペラメントでは,例 えば約 976. 049 セントの音高が 225/128(約 976. 537 セント)に近似する17)  上記から,図 7 において,G-2,D-2,A-2,E-2ではなく,それぞれ F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3 と表記し直されている理由は,G-1,D0,A0,E0を転換して得られる音が,七度転換柄を通じて得ら れる音,すなわち,純正 7 度の代用音程として機能する音であることを明確に示すためであると考 えられる。こうした表記により,F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3が,それぞれ A-1,E-1,B-1,F

-1 を根音とする 7 の和音の第 7 音の役割を果たしていることが明確に示される。  また,F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3と同様に,エンハルモニウムでは奏出されない B

-2につ いても,D0を根音とする 7 の和音(D0-F

-1-A0-B

-2)の第 7 音の役割を持つ。  以上を踏まえると,日本製オルガンの 21 鍵から奏出される 31 音のうち,純正 7 度の代用音程と し て 機 能 す る の は 14 音 で あ る。 具 体 的 に は,F

 

-3,C

 

-3,G

 

-3,D

 

-3,G

-2,D

-2 A

-2,E

-2,B

-2,G-1(F

 

-2),E-1,B-1,F

-1,C

-1の 14 音である。  田中の『日本和聲の基礎』では,日本製オルガンにおいて「多數の属七和音及び属九和音にして自 然七度及び自然九度の發聲するものが見出される」(田中 1940, 132)ことが特記されている(田中 1940, 132-133)。事実,日本製オルガンでは,エンハルモニウムよりも,7 の和音は 5 個多く形成さ れ,9 の和音は 4 個多く形成される。具体的には,日本製オルガンから奏出される 7 の和音は 14 個 であり,9 の和音(G0を根音とする 9 の和音の例:G0-B-1-D0-E

-2-A0)は 12 個である(田中 1940, 133)。一方,エンハルモニウムから奏出される 7 の和音は 9 個だけであり,9 の和音は 8 個だけで ある(Tanaka 1890, 27)。本章を通じてその数を確認した純正 7 度の代用音程として機能する音は, こうした 7 の和音や 9 の和音の第 7 音の役割を果たすものである18)

5

章 「十分に自然七度を出し得るやうに」という改案

 本章では,田中の『日本和聲の基礎』に残された,日本製オルガンが「十分に自然七度を出し得る やうに改案して」作製されたことを示す記述と,エンハルモニウムについて「本格的純正調に依り設 計せられたから,自然七度の發聲に缺くるところが多かつた」可能性が読み取れる記述を考察する。 そのなかで,日本製オルガンが「純正調」・「本格の純正調」・「廣義の純正調」のどれを念頭に置いて 設計されたのかを明らかにする。また,これに伴い,エンハルモニウムについても同様の指摘を行う。  田中は日本製オルガンについて次のように記しており,同楽器が「十分に自然七度を出し得るやう に改案して」作製されたことが分かる。   17) 53平均律では,例えばピッチクラスの43(約973. 585セント)が225/128(約976. 537セント)に近似するのだが, 1/8スキスマ・テンペラメントにおけるそれらの2つの音高間の誤差は,53平均律におけるそれらの2つの音高間の誤差 よりも小さい。 18)エンハルモニウムでは20鍵から26音が奏出され,純正7度の代用音程として機能するのは9音である。具体的には, G-2D-2A-2E-2G-1F -2),E-1B-1F-1C-19音である(Tanaka 1890, 27)。同楽器において純正 7度の代用音程として機能する音が日本製オルガンに比べて5音少ない理由は,エンハルモニウムにF -3C -3 G -3D -3を奏出する七度転換柄と,B-2を奏出する鍵(小黒鍵)が備えられていないからである。

(12)

筆者は今より 40 數年前ドイツ国にあって,一種の純正調オルガンを考案してこれを製作せし め,普通の楽曲が殆ど總て,比較的容易に純正調にて演出し得られることを確かめた。これを当 時の音楽大家フォン・ビュローはエンハルモニウムと命名した。その当時,数個の同方式パイプ オルガンも製作せられ,その 1 個が今日でもミュンヘン市のドイツ博物館に陳列されている。 このオルガンは本格的純正調に依り設計せられたから,自然七度の發聲に缺くるところが多かつ た。依つて,最近その装置を擴充して,十分に自然七度を出し得るやうに改案して,横濱市の日 本樂器製造會社工場にその製作を委囑した(田中 1940, 129)。 この田中の記述からは,パイプオルガンが,エンハルモニウムと同じ方式で作製されたことも分か る。事実,田中の英語原稿(1894)19)からは,パイプオルガンに,エンハルモニウムと同じ鍵盤が 用いられたことが見て取れ,移調装置20)とエンハルモニック転換装置が備えられたことが読み取れ る(田中 1930, 7)。また,ここで言う方式とは,その話の流れから,「本格的純正調に依り設計せら れたから,自然七度の發聲に缺くるところが多かつた」方式であるように読み取れる。  田中の純正調の定義に従うと,純正調は調律法であると言える。下記は,その純正調の定義をより 具体的に示したものである。 純正調とは聲樂及び樂器の調律に使用せられる一種の調音法である。總じて音樂に使用せられる 諸音は相互に或る確然たる關係を持つてゐる。詳しく言へば二音間の音程は兩音の振動數が一定 の簡單なる比率を保有すべきである(田中 1940, 108)。 次に,田中の考える和声組織では,純正律が次の 3 種に分類される(田中 1940, 83)。 第 1 種:純正 5 度からなる純正律(田中 1940, 83),すなわち,3 リミットの純正律であり,この音 律を導く調律法は「純正調」と呼べるもの(田中 1940, 108),すなわち,3 リミットの純正 調である。 第 2 種:純正 5 度と純正長 3 度からなる純正律(田中 1940, 83),すなわち,5 リミットの純正律で あり,この音律を導く調律法は「本格の純正調」と呼ばれるもの(田中 1940, 108-109), すなわち,5 リミットの純正調である。 第 3 種:純正 5 度と純正長 3 度と純正 7 度からなる純正律(田中 1940, 83),すなわち,7 リミット の純正律であり,この音律を導く調律法は「廣義の純正調」(田中 1940, 109)と呼ばれる もの,すなわち,7 リミットの純正調である。    ここまでのことから,エンハルモニウムが日本製オルガンに比べて「自然七度の發聲に缺くるとこ ろが多かつた」こと,具体的には,純正 7 度の代用音程として機能する音の発生に欠けるところが

19) Tanaka, Shohei. 1894. “The Syntonic Organ and the Question of Pure Harmony.”この原稿は田辺が所蔵していたもので あり,次の文献として民音音楽博物館に収蔵されている。田中正平 1930 『純正調樂律論』(民音音楽博物館所蔵資料)。 20)エンハルモニウムには,主音の位置をC0とした場合と同じ運指で,他の調の演奏を実現する移調装置が備えられてい

る。主音の位置を12個の位置(D0A0E0B0F0C0G0D0A0E0B0F0)に移すと(田辺 1951,

211),同楽器では36音を奏出することができる(田辺 1951, 213)。この結果,極めて遠隔な関係にある調を除いた全て の調において,C0を主音とした場合と同じ種類と数の和音や音階の奏出が可能となる(Pole 1891, 448)。

(13)

多いことを確認できれば,エンハルモニウムは「本格的純正調」(以下「本格の純正調」)に基づいて 設計されたと言え,さらに,日本製オルガンは「廣義の純正調」に基づいて設計されたと考えられる。  第 4 章で述べたように,日本製オルガンから奏出される 7 の和音は 14 個であり(田中 1940, 133),エンハルモニウムから奏出される 7 の和音は 9 個だけである(Tanaka 1890, 27)。言い換える と,日本製オルガンにおいて純正 7 度の代用音程として機能するのは 14 音であり,エンハルモニウ ムにおいて純正 7 度の代用音程として機能するのは 9 音である。このように,エンハルモニウムに おけるその音数は,日本製オルガンにおけるその音数に比べて 5 音も少ない。したがって,エンハ ルモニウムは「本格の純正調」に基づいて設計され,また,日本製オルガンは「廣義の純正調」に基 づいて設計されたと考えることができる。  もちろん,「本格の純正調」とは 5 リミットの純正律を引き出す調律法であり「廣義の純正調」と は 7 リミットの純正律を引き出す調律法である。また,第 3 章では,エンハルモニウムは 53 平均律 に基づいており,日本製オルガンは 1/8 スキスマ・テンペラメントに基づいているという見解を示し た。つまり,これらの調律法と音律の関係は成立していない。  しかし,53 平均律は,田中が 5 リミットの純正律に,最も近似すると認識していたテンペラメン トであり(田中 1939, 12),等しいと捉えていた唯一のテンペラメントである(Tanaka 1890, 17)。 また,1/8 スキスマ・テンペラメントは,53 平均律よりも,純正 7 度の代用音程(約 976.537 セン ト)に約 2.464 セントも高く近似する音高(約 976.049 セント)を有している。さらに,エンハルモ ニウムに 53 平均律の代用として 1/8 スキスマ・テンペラメントが適用されていたとしても,同楽器 が 53 平均律の適用を想定して(あるいは,53 平均律の適用を最も高い理想として)設計されたこと は間違いないと言える。  これらのことを考慮すると,エンハルモニウムと日本製オルガンの音律デザインにおいて,田中が 5リミットの純正律に相当すると捉えていたテンペラメントは 53 平均律であり,7 リミットの純正 律に相当すると捉えていたテンペラメントは 1/8 スキスマ・テンペラメントであったと考えられる。 したがって,エンハルモニウムは「本格の純正調」に基づいて設計され,また,日本製オルガンは 「廣義の純正調」に基づいて設計されたとする考え,厳密には,前者と後者はこれらの純正調を念頭4 4 に置いて4 4 4 4設計されたとする考えは,妥当であると考えられる。  日本製オルガンにおいて,純正 7 度の代用音程として機能する音を十分に奏出できるように改良 された理由は,下記の田中と伊藤の記述から,次のように考えられる。田中がエンハルモニウムを設 計した後に,純正 7 度の代用音程として機能する音を 7 の和音と 9 の和音の第 7 音における協和音 程として受け入れたからである。 筆者[田中]は約四十年前独逸に留学中,一種の純正調オルガンを考案し,これを作製して彼の 地の音楽家に示したことがあるが,なおその構成に幾多の欠くるところがあるを悟り,最近その 設備を完成し,日本楽器株式会社の横浜分工場にこれが製作を委嘱して,数個の新型純正調オル ガンができ上がった(菊川 1971, 26)。   この[日本製オルガンにおける]改良は西洋音楽で和声学上,属七の和音を不協和不独立和音と していた既成概念を改めさせる一つの根拠となったとみてよい。  事実,洋楽の和声運用上の点から洋楽の諸作品を客観的に見た場合,属七の和音はしばしば独 立的に扱われているだけでなく,ショパンにいたってはさらに自然的九の和音をも独立的な和音

(14)

として作品に取りいれているという事実は,すでにそこに自然的七の和音あるいはまた自然的九 の和音の美しさを,その鋭い音感覚によってとらえて作品の上に応用しているものとみてよいと 思う。博士は早くからその事実を認め,独立性を容認して独立和音として奏出できるようにした のであった(伊藤 1968, 60-61)。 さらに,田中が純正 7 度の代用音程として機能する音を 7 の和音と 9 の和音の第 7 音における協和 音程として受け入れた理由については,1)彼がドイツ滞在時にエンハルモニウムの実演などを通じ て,純正 7 度の代用音程に近似する整律された音程を受容できる耳を培ったため,あるいは,2)彼 が日本帰国後に邦楽研究を通じて様々な 7 リミットの音程を受容できる柔軟な耳を培ったため,以 上の 2 つが考えられる。  上記の田中の記述から,その「悟り」の時期を読み取ることは難しい。しかし,日本製オルガンの 第 1 号器が作製されたのが 1932 年であることを踏まえると,その「悟り」の時期がドイツ滞在時で あったとしても,田中の邦楽研究については考慮する必要があると考えられる。その証拠に,田中が 『日本和聲の基礎』のなかで提案した日本の和声理論(1940)における音階に,例えば純正陰律旋音 階と純正陰呂旋音階と呼ばれるものがあるが21),これらの音階の主要三和音の第 3 音には 7:6(約 266. 871セント)が用いられる22)(田中 1940, 72)。  表 2 は,純正陰呂旋音階の音律(田中 1940, 72)について,上から順に,比率,音名(基音= C),セント値を,筆者が記したものである。L は,セプティマル・コンマ23)と呼ばれる 64:63(約 27. 264セント)の 1 つ分の下降を表している。図 8 は,筆者が同音階の音律をラティス上に表わし たものである。ここでは,純正 5 度の連続が横方向に示されており,純正 7 度の連続が斜め方向に 示されている。なお,純正陰律旋音階の音律は,純正陰呂旋音階の音律を全体的に純正 5 度下げた ものである24) 表2 純正陰呂旋音階の音律 比率 1 / 1 9 / 8 7 / 6 4 / 3 3 / 2 14 / 9 7 / 4 音名 C D E

L F G A

L B

L セント値 0 204 267 498 702 765 969 21)田中が提案した日本の和声理論における音階は4種あり,これらの音階の音律は,あらゆる音程が整数比によって表わ される,真正の純正律である(田中 1940, 85-86, 144-145)。純正陰律旋音階と純正陰呂旋音階の音律は純正5度と純正 7度からなり(田中 1940, 72),純正律旋音階と純正呂旋音階と呼ばれる音階の音律は純正5度と純正長3度と純正7度 からなる(田中 1940, 79)。 22)純正陰律旋音階と純正陰呂旋音階の主要三和音の第3音に7:6が用いられる主な理由は,田中が「古來吾國で實際用ひ られる半音は一般に甚だ狭い」(田中 1940, 68)と捉えていたからである。例えば,西洋の和声理論においては,G0の半 音上の音にA✚1が用いられるが,このG0-A✚1の半音について,田中は「頗る大きいので日本の旋律感には全然適合しな い」(田中 1940, 69)と述べている。このため,F0を根音とする短三和音の第3音には,純正短6度の8/5(約813. 686 セント),すなわち,A✚1ではなく,セプティマル短6度の14/9(約764. 916セント),すなわち,ALが用いられる。 23)セプティマル・コンマ(アルキュタスのコンマとも呼ばれる)とは,ピタゴラスの短7度の16:9(約996.090セント) と純正7度の7:4の差(16/9×4/7=64/63)として表される微小な音程で,その音程は64:63(約27. 264セント)である。 24)純正陰律旋音階と純正陰呂旋音階の音律は,素数5(5リミットの音程)が欠落した7リミットの純正律に基づく最初 の作品として知られる,アメリカの作曲家ラ・モンテ・ヤング La Monte Young(1935~)の《ザ・ウェル=チューンド・ ピアノThe Well-Tuned Piano》(1964-73-81-Present)よりも約4半世紀前に考案されており,このことは特筆に値す る。

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図8 純正陰呂旋音階の音律のラティス  このように,日本製オルガンは,田中の耳が求めた「改案」により作製された楽器であり,その彼 の耳は,エンハルモニウムを設計した時期のものとは明らかに異なっていたと考えられる。また,こ のことから,日本製オルガン設計当時の田中の音律デザインを生み出す音律思考も,エンハルモニウ ム設計当時の「本格の純正調」,すなわち,5 リミットの純正調に基づいたものから,西洋の和声理 論の枠組みに収まらない「廣義の純正調」,すなわち,7 リミットの純正調に基づいたものへと拡張 されていたと考えられる。  しかし,日本製オルガンは,西洋の和声理論に基づく楽曲の演奏を目的として作製された楽器であ る(田中 1940, 144)。このため,田中は 7 リミットの純正調に基づく自身の音律思考を,5 リミット の純正律を土台とする 1/8 スキスマ・テンペラメントを通じて具現化させたのである。

結び

 53 平均律と 1/8 スキスマ・テンペラメントは,5 リミットの純正律との聴覚上の差異が皆無に等し い音律である。53 平均律は,例えば純正 5 度(約 701. 955 セント)と純正長 3 度(約 386. 314 セン ト)と純正 7 度の代用音程(約 976. 537 セント)に,それぞれ-約 0.068 セントと-約 1. 408 セン トと-約 2. 952 セントの誤差で近似する音高を有している。また,1/8 スキスマ・テンペラメント は,例えば純正 5 度と純正 7 度の代用音程に,それぞれ-約 0. 244 セントと-約 0. 488 セントの誤 差で近似する音高を有しており,さらに純正長 3 度を有している。  第 3 章で示したように,エンハルモニウムと日本製オルガンに適用された音律は,前者が 53 平均 律であり,後者が 1/8 スキスマ・テンペラメントである。また,田中の小論『エンハルモニウム Das Enharmonium』(1892)には,3.2 節で示した見解のさらなる証拠立てとなる 53 平均律について の記述が確認される(Tanaka 1892, 5-6)。しかし,エンハルモニウムに 53 平均律の代用として 1/8 スキスマ・テンペラメントが適用された可能性は十分にあり,また,上述の近似性から分かるよう に,その代用にはほとんど問題がない。  こうしたことから,エンハルモニウムと日本製オルガンが 53 平均律と 1/8 スキスマ・テンペラメ ントのどちらに基づいているのかを示すだけでなく,さらに,それらの音律以上に田中の音律思考を 直接的に反映していることを示すためには,これらの楽器が「本格の純正調」と「廣義の純正調」の どちらを念頭に置いて設計されたのかも明確にする必要があった。こうして,エンハルモニウムは 「本格の純正調」を念頭に置いて設計され,日本製オルガンは「廣義の純正調」を念頭に置いて設計 されたと結論づけることができた。  田中の言う「廣義の純正調」とは,今日において 7 リミット以上の純正調を示す際にしばしば用 いられる,拡張された純正調(extended just intonation)という用語に言い換えられるものである。 しかし,その「廣義の純正調」には,厳密には 2 種あり,これらの調律法,すなわち,1/8 スキス マ・チューニングと 7 リミットの純正調から導かれる音程の用途には明確な違いがある。

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途が 7 の和音や 9 の和音の第 7 音としての使用に限られる。このため,同楽器から,西洋の和声理 論の枠組みを逸脱した響きは奏出されない。一方,田中提案の日本の和声理論における音階では,西 洋の音楽を特徴づけてきた純正長 3 度を導く 5 リミットの音程が完全に排除,あるいは,ほとんど 排除され(純正律旋音階と純正呂旋音階〈注 21〉の音律では 5 リミットの音程がそれぞれ 1 つだけ 使用される),さらに,西洋以外の様々な民族の音楽で親しまれてきた 7 リミットの音程が三和音や 四和音の第 3 音として用いられる。このため,これらの音階からは,田中が求めた日本の響きが奏 出される。  こうした西洋音楽と非西洋音楽の文脈における「廣義の純正調」から導かれる音程の使い分けは, 西洋と日本において純正調の研究を行った田中ならではの手法であり,当時としては極めて先鋭的な 彼の音律思考を反映している。  本研究では,田中の音律思考の拡張と彼の邦楽研究の強い結びつきが確認された。その具体的な検 証については今後の課題としたい。 引用文献

Bosanquet, R. H. M. 1876. An Elementary Treatise on Musical Intervals and Temperament. London: MacMillan & Co.

Doty, David B. 2002. The Just Intonation Primer: An Introduction to the Theory and Practice of Just Intonation. 3rd ed. San Francisco: The Just Intonation Network.

Helmholtz, Hermann. 1885. On the Sensations of Tone: As a Physiological Basis for the Theory of Music. Translated by Alexander J. Ellis. 2nd ed. London: Longmans, Green, and Co.

Pole, William. 1891. “A New Keyed Musical Instrument for Just Intonation.” Nature 44, no. 1141: 446-448. Tanaka, Shohé. 1890. “Studien im Gebiet der reinen Stimmung.” Vierteljahrsschrift für Musikwissenschaft 6,

no. 1: 1-90.

. 1892. Aufsätze, Gutachten etc. über das Enharmonium von Dr. Shohé Tanaka verfertigt durch Ph. J. Trayser & Cie. Stuttgart: Harmonium-Fabrik.

─. 1995. “Studien im Gebiet der reinen Stimmung (A translation of pages 8 to 18 by Daniel J. Wolf).” Xenharmonikon 16 (autumn): 118-125.

Tanaka, Shohei. 1894. “The Syntonic Organ and the Question of Pure Harmony.” [田中正平 1930 『純正調樂律 論』(民音音楽博物館所蔵資料)] 伊藤完夫 1968 『田中正平と純正調』 東京:音楽之友社 菊川兼男 1971 『世界的音響学者 田中正平博士』 兵庫県三原郡南淡町福良:田中正平博士顕彰会 黒沢隆朝 1972 『図解世界楽器大事典』 東京:雄山閣出版 篠原盛慶 2013 「エンハルモニウムに適用された音律─田中正平の「純正調」を読み解く─」『音楽表現学』 Vol. 11: 1-12 ─ 2018 「田中正平の「純正調」オルガンに適用された音律:53平均律と1/8- スキスマ・テンペラメン ト」 九州大学芸術工学府博士論文 須永克巳 1932 『純正調の問題』(「月刊樂譜」に昭和6年10月より昭和7年5月号まで掲載されたものの抜刷) 出版地不明 田中正平 1930 『純正調樂律論』(民音音楽博物館所蔵資料) ─ 1939 「印度樂律の本體」『東洋音楽研究』第2巻1号: 1-48 ─ 1940 『日本和聲の基礎』 東京:創元社 田邊尚雄 1933 『音樂原論Ⅰ』(世界音楽講座Ⅰ,3) 東京:春秋社

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田辺尚雄 1951 『音楽音響学』 東京:音楽之友社 田村昭治 2012 『生誕150年記念 田中正平の足跡をたずねて─純正調と日本音楽にかけた明治の青春』 南 あわじ:田中正平博士生誕150年記念事業実行委員会・南あわじ市教育委員会 平島達司 1983 『ゼロビートの再発見─「平均律」への疑問と「古典音律」をめぐって』 東京:東京音楽社 参照動画 伊藤完夫 1988 『純正調を語る』(非売品DVD) (2019 年 8 月 28 日受領) しの はら もり よし 現 在 無所属(フリー)

図 7    21 鍵から奏出される 31 音(田中  1940, 132 )  31 音から形成される長三和音(C 0 を 根音とする長三和音の例:C 0 -E -1 -G 0 ) と短三和音(C 0 を根音とする短三和音 の例:C 0 -E  ✚ 1 -G 0 )の数は,それぞれ 19 個である(図 7)。これらの三和音の うちで根音のみを示すと,長三和音につ い て は,D  -2 ,A  -2 ,E  -2 ,D -1 ,A -1 , E -1 ,B -1 ,F  -1 ,B  0 ,F
図 8  純正陰呂旋音階の音律のラティス  このように,日本製オルガンは,田中の耳が求めた「改案」により作製された楽器であり,その彼 の耳は,エンハルモニウムを設計した時期のものとは明らかに異なっていたと考えられる。また,こ のことから,日本製オルガン設計当時の田中の音律デザインを生み出す音律思考も,エンハルモニウ ム設計当時の「本格の純正調」,すなわち,5 リミットの純正調に基づいたものから,西洋の和声理 論の枠組みに収まらない「廣義の純正調」,すなわち,7 リミットの純正調に基づいたものへと拡張 されて

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