CONTENTS
PLENARY LECTURE, SPECIAL SYMPOSIUM 2020
A New Online Foreign Language Education Initiative:
Introduction of Zoom+α and Some Useful Online Class Tools
Hiroki IWAI 1
ARTICLES
Learning English Vocabulary with Smartphones: An Instruction Using Google Form and Kahoot!
NAKANISHI Atsushi, KAMIYA Kenichi, and YAMAUCHI Mari 13 Evaluating a Collaborative Learning Card Game for Pre-Intermediate
Language Learners in Face-to-Face and Online Settings
Mehrasa ALIZADEH, Tomomi OMAE, Shizuka SHIRAI, Noriko TAKEMURA 25
REPORTS
Implementation of On-demand Online English Courses Using Moodle and a CALL System: Quantitative and Qualitative Analyses of a Questionnaire
YONAHA Nobue, TAKEFUTA Junko, DOI Mitsuru, TAKAHASHI Hideo 37 Designing a Cross-Cultural Communication Class with Real-Time e-Learning:
A Case Study of Teaching Chinese Culture
Pei-Ling CHIEN 47
RULES AND REGULATIONS
Constitution of the Association for e-Learning Language Education 57 Guidelines for Submission 60
CALL FOR PAPERS 63
特別講演
*オンラインをベースにしたこれからの外国語教育
— Zoom+α の取り組みとオンライン授業に役立つツールの紹介 —
岩居
弘樹
(大阪大学)
1 はじめに 新型コロナの影響で大学の授業がオンラインになることが予想され始めた 2020 年 3 月 初旬から、オンライン授業を支援するための Web ページ Zoom+α1)の制作を開始した。 Zoom+αでは、Web 会議システム Zoom の使い方だけでなく、オンライン授業をサポート するさまざまなツールを紹介している。Zoom+αのベースとなっている情報は、これまで の筆者の経験を元に改めて調査、検証したものである。 またZoom+αの制作と並行して、大阪大学サイバーメディアセンター言語教育支援研究 部門のスタッフとともにZoom+α相談会2)をはじめた。当初はZoom の使い方を中心に講 習会形式で行っていたが、徐々にZoom 以外のサポートツールに関する相談が多くなり、 2020 年の前期が終了した現時点では「+α相談会」と称している。この相談会は 3 月半ば から始め、執筆段階まで開催回数は250 回を超え、海外も含め 3400 人を超える方々に参加 いただいている。 授業で使用するオンラインツールは、Web ページでの説明や一方通行のオンライン講習 会、解説ビデオだけではその機能を理解することが難しい。参加者はそもそも、自分がや りたいことが実現できるツールがあるかどうかもわからない。このような問題を解決する ためには、授業・学習支援ツールを紹介するだけでなく、参加者が「何をしたいか、どの ような授業を実現したいか」を理解し、それに最適のツールを紹介するという作業が必要 である。実際に教員の立場になって操作し、自身の授業でどのように利用できるかを体験 していただくことで疑問点が明らかになり、それを解決するためのサポートが始まる。+α 相談会では、同じ内容の相談会を何度も開き、同じような質問にも口頭で対応し、その場 で説明し、体験してもらい、疑問を解決するという方法をとっている。マニュアルを読ん だりFAQ で疑問を解決できる人はそもそも相談会には来ないし、来る必要もない。普段か らICT 機器を使用している人にとっては当たり前のことが、ICT 機器に不慣れな教員には 大きなハードルになっているのであり、何度も繰り返し質問できる場がなければ、大学の オンライン授業環境は改善しないと考え、この相談会を継続している。2 Zoom+α の背景 – 遠隔講義と Zoom の体験 筆者は、2005 年から 2018 年まで大阪大学北米センターから配信される遠隔講義3)の日 本側コーディネートを担当していた。この遠隔講義は、前期はベイエリアで活躍している 日本人の方々に、後期はカリフォルニア大学などの教授陣を北米センターにお招きし、大 阪大学の学生に向けてお話いただくというプログラムで、講師と学生の間の議論や質疑応 答も行われるインタラクティブな授業である。2016 年 9 月からは、リモートでのインタラ クティブな学習活動やグループ発表などに柔軟に対応できるようにするため、Zoom の利 用を始めた。 この遠隔講義では様々なトラブルを経験している。テレビ会議システム1 つで運用して いた初期の頃は、何らかの障害で接続できなかったときに相互に連絡が取れなくなり、授 業が進まなくなることがあった。そのため、テレビ会議以外のコミュニケーションチャン ネルの必要性を痛感し、授業中は常時連絡を取れるよう対策を講じた4)。 音声をどのようにしてクリアに伝えるかという問題はとりわけ深刻であった。Web 会議 用の高性能の集音マイクを教室に置くと、学生の発言はある程度相手に届くようになるが、 他の学生のひそひそ話まで講師側に伝わってしまうこともある 5)。学生の声が小さい時に は教室のマイクで拡声したが、Web 会議システムの向こう側には声がクリアには届かなっ た。北米センター側の講師が音楽を聴かせようとスマートフォンをマイクに近づけたが、 大阪側では音が潰れて聞き取れないということもあった。これらは人間の声をクリアに届 けるために Web 会議システムに内蔵されているノイズキャンセラーが働くために起こる 現象だが、このトラブルは音の送信側で認識することが難しかった。 また、テレビ会議システムを使うと、カメラとスクリーンの位置が異なるため、講師と 学生がお互いに顔を見て話していても、画面上では目が合わないという問題も起こる。こ れを解決するために、教室内で複数のiPad を Zoom に接続し、学生のテーブルに置い 図1 遠隔講義の様子(左:iPad を活用して講師と対話・右:学生と目が合わない状態)
2 Zoom+α の背景 – 遠隔講義と Zoom の体験 筆者は、2005 年から 2018 年まで大阪大学北米センターから配信される遠隔講義3)の日 本側コーディネートを担当していた。この遠隔講義は、前期はベイエリアで活躍している 日本人の方々に、後期はカリフォルニア大学などの教授陣を北米センターにお招きし、大 阪大学の学生に向けてお話いただくというプログラムで、講師と学生の間の議論や質疑応 答も行われるインタラクティブな授業である。2016 年 9 月からは、リモートでのインタラ クティブな学習活動やグループ発表などに柔軟に対応できるようにするため、Zoom の利 用を始めた。 この遠隔講義では様々なトラブルを経験している。テレビ会議システム1 つで運用して いた初期の頃は、何らかの障害で接続できなかったときに相互に連絡が取れなくなり、授 業が進まなくなることがあった。そのため、テレビ会議以外のコミュニケーションチャン ネルの必要性を痛感し、授業中は常時連絡を取れるよう対策を講じた4)。 音声をどのようにしてクリアに伝えるかという問題はとりわけ深刻であった。Web 会議 用の高性能の集音マイクを教室に置くと、学生の発言はある程度相手に届くようになるが、 他の学生のひそひそ話まで講師側に伝わってしまうこともある 5)。学生の声が小さい時に は教室のマイクで拡声したが、Web 会議システムの向こう側には声がクリアには届かなっ た。北米センター側の講師が音楽を聴かせようとスマートフォンをマイクに近づけたが、 大阪側では音が潰れて聞き取れないということもあった。これらは人間の声をクリアに届 けるために Web 会議システムに内蔵されているノイズキャンセラーが働くために起こる 現象だが、このトラブルは音の送信側で認識することが難しかった。 また、テレビ会議システムを使うと、カメラとスクリーンの位置が異なるため、講師と 学生がお互いに顔を見て話していても、画面上では目が合わないという問題も起こる。こ れを解決するために、教室内で複数のiPad を Zoom に接続し、学生のテーブルに置い 図1 遠隔講義の様子(左:iPad を活用して講師と対話・右:学生と目が合わない状態) て「学生と講師の目が合う」環境の構築6)も試みたが、ひとつの教室で複数の端末から Zoom につなぐとハウリングが起こるため、セッティングには時間がかかった。 現在、対面授業を同時にオンライン配信するという「ハイフレックス授業」が一部で行 われている。しかし、授業中に映像や音声の問題が発生したり、リモート接続している学 生からの質問やトラブルに対応できないなどの問題が発生することが十分に予想され、教 員ひとりで対応できる範囲を超える。授業の質を確保しながら授業中に生じる問題に対処 するには、現場で授業をサポートする人員とオンライン配信に適した設備が必要である7)。 3 オンラインをベースにした外国語授業の可能性 2020 年春の突然のオンライン授業の実施を受けて、これまでの対面授業のやり方をその ままオンラインに移行することは不可能であることが明らかになった。学習者とのインタ ラクションが多く発生する外国語授業ではさらに深刻で、オンラインという環境でできる 新しい授業方法を考えなければならない状況になっている。 さて、Zoom は Web「会議」システムであり、授業支援のためのツールではない。一方通 行の講義であればZoom だけで実施できるが、学生と何らかのインタラクションをする場 合には、Zoom 以外のツールが必要になる。幸いなことに、スマートフォンの普及と通信環 境の改善、インターネット技術の進歩により、スマートフォンが登場する以前には不可能 であると思われていた学習方法が、手軽に実現できるようになっている。大阪大学で導入 している授業支援クラウド・ロイロノートスクール8) はオンライン授業に欠くことのでき ないツールであるが、学校や部局単位での導入が必要になるため、ここでは、個人でも活 用できるオンライン授業支援ツールをご紹介したい。 3.1 オンライン練習問題の作成 BookWidgets9) BookWidgets は、オンラインテストの作成・配布・学習履歴の記録ができるサービスで ある。テスト問題だけでなく、地図やスライドショー、3D ビューアーなどを含むオンライ ン教材も作成できるが、ここでは外国語教育に活用できるQuiz 機能を紹介する。 Quiz には、選択肢問題や記述問題だけでなく、語句の並べ替え、穴埋め問題、間違い探 し、語と語、絵と語、絵と音声、語と音声のマッチング、音声を録音して回答する問題な ど全部で30 種類以上の問題を作成することができる10)。問題文中にYouTube などの映像 や音声を挿入することもでき、外国語学習で必要となりそうな問題パターンはほとんど含 まれている。インターフェースは英語だが、メニューを日本語化することも可能である。 作成した問題を配布する場合は、各問題のURL を学習者に送付する。学習者は回答後に 提出ボタンを押すことで、学習履歴がBookWidgets サーバーに記録される。学習履歴は画 面上で確認でき、CSV ファイルでダウンロードすることもできる。作成した問題は、教員
間で共有することもできる。また、標準でGoogle Classroom との連携に対応しており、LTI 連携11)対応のLMS であれば、LMS 上で出題設定や成績管理も可能になる。 BookWidgets は学生のスマートフォンでも利用できるが、基本的にタブレット端末や PC のWeb ブラウザ向けにデザインされているため、スマートフォンでの利用を想定する場合 は、事前にスマートフォンを使ってレイアウトや操作性を確認することをお勧めする。 図2 BookWidgets 学生向け画面の例 3.2 音を聴く・Text to Speech 活用の可能性 近年、外国語の音に触れる機会は増加し、教科書に付属する音声資料以外に、YouTube や Podcast などでも外国語の音声に接することができるようになった。さらに、スマート フォンのText to Speech(テキスト読み上げ)機能やアプリを使って、外国語のテキストを 読み上げさせて発音を確かめることができるようになった。 Text to Speech は既に実用段階に入っており、交通機関のアナウンスや一部のラジオニュ ース番組でも利用されている。不自然なイントネーションや、日本語の場合には漢字の読 み間違いなどが含まれることもあるが、徐々に改善されていくものと思われる。 Web ページ上でテキストを合成音声に変換できる TTSMP312)では、28 種類の言語の読み 上げができ、合成音声をMP3 ファイルでダウンロードすることもできる13)。
間で共有することもできる。また、標準でGoogle Classroom との連携に対応しており、LTI 連携11)対応のLMS であれば、LMS 上で出題設定や成績管理も可能になる。 BookWidgets は学生のスマートフォンでも利用できるが、基本的にタブレット端末や PC のWeb ブラウザ向けにデザインされているため、スマートフォンでの利用を想定する場合 は、事前にスマートフォンを使ってレイアウトや操作性を確認することをお勧めする。 図2 BookWidgets 学生向け画面の例 3.2 音を聴く・Text to Speech 活用の可能性 近年、外国語の音に触れる機会は増加し、教科書に付属する音声資料以外に、YouTube や Podcast などでも外国語の音声に接することができるようになった。さらに、スマート フォンのText to Speech(テキスト読み上げ)機能やアプリを使って、外国語のテキストを 読み上げさせて発音を確かめることができるようになった。 Text to Speech は既に実用段階に入っており、交通機関のアナウンスや一部のラジオニュ ース番組でも利用されている。不自然なイントネーションや、日本語の場合には漢字の読 み間違いなどが含まれることもあるが、徐々に改善されていくものと思われる。 Web ページ上でテキストを合成音声に変換できる TTSMP312)では、28 種類の言語の読み 上げができ、合成音声をMP3 ファイルでダウンロードすることもできる13)。 またWord Online などには「イマーシブリーダー」14)と呼ばれる機能があり、作成した ドキュメントを読み上げさせることもできる。複数の言語が混在していても読み上げ可能 である。また絵辞書や、品詞、音節を表示する機能も備えられている。 図3 TTSMP3.com サンプル 図4 イマーシブリーダーのサンプル(絵辞書を表示中) 3.3 音を確かめる Speech to Text 活用の可能性 一方、学生が自分の発音が正しいかどうかを確かめるには、従来は教員や母語話者など
に指導を受けるしかなかった。筆者はこの課題を解決するために、2012 年ごろから、スマ ートフォンにインストールされた音声認識アプリをドイツ語クラスでの発音練習に導入し、 その効果を検証してきた15)。導入当初は「ドイツ語が正しく発音できるようになるかどう か」に注目していたが、実際に導入してみると、学生たちはドイツ語を何度も繰り返し声 に出して練習するようになるという予想外の効果があった。音声認識アプリを利用すると、 自分の発音に対して文字による即時フィードバックがあり、正しく認識されたかどうかが すぐにわかるため、正しく認識された時の「達成感」と、正しく認識されなかった時の「悔 しさ」が、発音練習の頻度をあげるきっかけになったと考えられる。 音声認識を使って練習をしていたある学生から、「発音練習を繰り返して音を口に馴染 ませることができる」という感想をもらったことがある。外国語の発音は、日本語にはな い発音や音のつながりを再現する筋肉の動かし方をトレーニングして、まさに音を口に馴 染ませなければならない。音声認識アプリを使ったトレーニングは、「達成感」と「悔しさ」 に一喜一憂しながら音を口に馴染ませることができる、これまでとは次元の異なる発音練 習の方法である。
2020 年に入り、Speech to Text Webcam Overlay16) というサービスが始まった。Google
Chrome で動くこのサービスは、音声認識を使用してリアルタイムに画面に字幕をつける ことができる。認識させる言語を学習する言語に切り替え、自分の口の動き、口の形を見 て音の出し方を調整し、正しい音が出せたかどうかを確認できるので、これまで以上に自 律的な発音練習ができるようになった。
に指導を受けるしかなかった。筆者はこの課題を解決するために、2012 年ごろから、スマ ートフォンにインストールされた音声認識アプリをドイツ語クラスでの発音練習に導入し、 その効果を検証してきた15)。導入当初は「ドイツ語が正しく発音できるようになるかどう か」に注目していたが、実際に導入してみると、学生たちはドイツ語を何度も繰り返し声 に出して練習するようになるという予想外の効果があった。音声認識アプリを利用すると、 自分の発音に対して文字による即時フィードバックがあり、正しく認識されたかどうかが すぐにわかるため、正しく認識された時の「達成感」と、正しく認識されなかった時の「悔 しさ」が、発音練習の頻度をあげるきっかけになったと考えられる。 音声認識を使って練習をしていたある学生から、「発音練習を繰り返して音を口に馴染 ませることができる」という感想をもらったことがある。外国語の発音は、日本語にはな い発音や音のつながりを再現する筋肉の動かし方をトレーニングして、まさに音を口に馴 染ませなければならない。音声認識アプリを使ったトレーニングは、「達成感」と「悔しさ」 に一喜一憂しながら音を口に馴染ませることができる、これまでとは次元の異なる発音練 習の方法である。
2020 年に入り、Speech to Text Webcam Overlay16) というサービスが始まった。Google
Chrome で動くこのサービスは、音声認識を使用してリアルタイムに画面に字幕をつける ことができる。認識させる言語を学習する言語に切り替え、自分の口の動き、口の形を見 て音の出し方を調整し、正しい音が出せたかどうかを確認できるので、これまで以上に自 律的な発音練習ができるようになった。
図5 Speech to Text Webcam Overlay
3.4 自動翻訳・例文データベース
自動翻訳が普及し、Google 翻訳を使った「和訳」や「作文」を提出する学生も増えてい る。最近はGoogle 翻訳に加えて Microsoft 翻訳17)やDeepL18)なども登場し、この分野での
競争も激しくなり、その性能も急速に改善されている。
一方、例文データベースの発達も目を見張るものがある。あるキーワードを入れて検索 すると、そのキーワードが含まれる文例が表示される。筆者は長年Tatoeba Project19) を授 業で利用していたが、近年は Reverso Context20) に切り替えている。また、翻訳サービス DeepL のうしろでは Linguee21) という例文データベースが動いており、DeepL のページ上
で切り替えて利用できる。初級レベルの学習者でも、表現したいと思う内容に近い文例を 例文データベースで検索し、その文中の単語を置き換えて文を完成させるというスタイル の作文トレーニングができるようになる22)。 自動翻訳を使った「和訳」や「作文」を不正行為とみなし禁止することは簡単だが、ス マートフォンの普及とともにわたしたちの生活に溶け込みつつある自動翻訳サービスや、 手軽に利用できるようになった例文データベースを授業でも活用した、新たな外国語学習 の方法を探ることも必要ではないだろうか。 図6 DeepL の翻訳ツール画面
図7 Reverso Context: Translation のサンプル 3.5 ビデオ撮影と共有: Flipgrid23) スマートフォンの普及にともない、個人が手軽にビデオ撮影し、その場ですぐに見返し たり共有したりできるようになった。またひとりで「自撮り」もでき、トリミングや編集 作業もスマートフォンひとつでできる。最近では、ビデオ撮影アプリやビデオ共有サービ スに音声認識技術が組み込まれ、自動で字幕をつける機能も追加されている24)。 数年前までは、授業で撮影したビデオを共有する場合はYouTube を利用していたが、現 在はFlipgrid という教育向けに特化されたビデオ共有 SNS を使用することが多くなってい る。Flipgrid は授業で撮影したビデオをクラス内で共有できるだけでなく、クラスや学校、 さらには国境を超えた交流へと発展させることができるサービスとなっている25)。 スマートフォンのビデオアプリは、学習者が自分自身の声と姿を客観的に観察できるツ ールであり、学習者の創造性を育むためのツールでもある。撮影したビデオをクラスで共 有することで、他者の目を意識し、見られても恥ずかしくない作品を提出しようと努力し たり、仲間が作ったビデオをみて刺激を受けたり、自身の発音の誤りに気がついたりとい ったポジティブな効果が現れる。ビデオ撮影による学習について学生は次のような感想を 述べている。 ♦ 授業後に撮った動画より復習で撮った動画の方が上手くなっていて、練習した成果
図7 Reverso Context: Translation のサンプル 3.5 ビデオ撮影と共有: Flipgrid23) スマートフォンの普及にともない、個人が手軽にビデオ撮影し、その場ですぐに見返し たり共有したりできるようになった。またひとりで「自撮り」もでき、トリミングや編集 作業もスマートフォンひとつでできる。最近では、ビデオ撮影アプリやビデオ共有サービ スに音声認識技術が組み込まれ、自動で字幕をつける機能も追加されている24)。 数年前までは、授業で撮影したビデオを共有する場合はYouTube を利用していたが、現 在はFlipgrid という教育向けに特化されたビデオ共有 SNS を使用することが多くなってい る。Flipgrid は授業で撮影したビデオをクラス内で共有できるだけでなく、クラスや学校、 さらには国境を超えた交流へと発展させることができるサービスとなっている25)。 スマートフォンのビデオアプリは、学習者が自分自身の声と姿を客観的に観察できるツ ールであり、学習者の創造性を育むためのツールでもある。撮影したビデオをクラスで共 有することで、他者の目を意識し、見られても恥ずかしくない作品を提出しようと努力し たり、仲間が作ったビデオをみて刺激を受けたり、自身の発音の誤りに気がついたりとい ったポジティブな効果が現れる。ビデオ撮影による学習について学生は次のような感想を 述べている。 ♦ 授業後に撮った動画より復習で撮った動画の方が上手くなっていて、練習した成果 が比較しやすくて楽しかった。(R.T.) ♦ ビデオ撮影は、必ず復習する時間をとらないといけないので、自然と言葉が身につ いていった。(H.K.) ♦ 毎回ビデオ撮影は自分が納得いくものに仕上げたかったから、何度も練習するきっ かけになった。(N.T.) ♦ 他の人のビデオを見ることで発音がうまい人がいたり、自分との違いを見ることで学べ ることが多くあった。(R.F.) ♦ ほかの人が頑張っている姿を見ることで自分も頑張ろうと思えました。(Y.K.) 図8 Flipgrid ビデオ提出・共有画面 3.6 インタラクティブビデオの可能性 Edpuzzle26) インタラクティブビデオは、ビデオ映像の中に関連情報へのリンクを埋め込んだり、ビ デオを一時停止させて確認問題やアンケートに回答させたりする機能を備えた映像コンテ ンツで、学習者にビデオ視聴中に何らかのアクションを促すことができるという特徴があ る。ここで紹介するEdpuzzle は、任意の時点でビデオを止め、画像やテキスト、音声を含 む「ノート」を提示したり、選択問題や記述問題を表示する機能を持つ。図9 に紹介して いる教材では、画面下にあるタイムラインの各点でビデオの再生が停止し、選択問題が表
示される。ビデオを巻き戻して再生することはできるが、問題に回答しないと先に進むこ とができず、ビデオの早送りもできない設定になっている。選択問題の回答は自動採点さ れ、視聴履歴や回答履歴、巻き戻し回数とともにサーバー上に記録される。 Edpuzzle は YouTube 上にあるビデオを取り込み、トリミングや編集ができる機能を持っ ている。また、自分自身で撮影したビデオをアップロードし、YouTube ビデオと同じよう に Edpuzzle 上で編集したり、テスト問題を追加したり、Voiceover という機能で音声をア フレコすることもできる。これまで作成してきたオンデマンド授業ビデオをEdpuzzle に読 み込んでインタラクティブビデオにすることで、視聴確認や学習履歴、学生個別の理解度 チェックなどが可能になる。 図9 Edpuzzle 学生向け画面 4 おわりに 2020 年春、教室で黒板・教科書・プリントなどのアナログツールしか使っていなかった 学校や教員は、対面授業ができなくなった途端にお手上げ状態になったことは記憶に新し い。一方、普段からデジタルデバイスやオンラインツールを活用する授業を行っていれば、 対面授業ができなくなった時でも簡単にオンライン授業に切り替えることができることも 経験した。 教育の情報化に関する議論は、これまで「デジタルかアナログか」、「オンラインか対面 か」といった二項対立で語られることが多かった。しかし、「新しい日常」はもはや、デジ タルツールを「使うか使わないか」という議論をしている段階ではない。また、デジタル
示される。ビデオを巻き戻して再生することはできるが、問題に回答しないと先に進むこ とができず、ビデオの早送りもできない設定になっている。選択問題の回答は自動採点さ れ、視聴履歴や回答履歴、巻き戻し回数とともにサーバー上に記録される。 Edpuzzle は YouTube 上にあるビデオを取り込み、トリミングや編集ができる機能を持っ ている。また、自分自身で撮影したビデオをアップロードし、YouTube ビデオと同じよう にEdpuzzle 上で編集したり、テスト問題を追加したり、Voiceover という機能で音声をア フレコすることもできる。これまで作成してきたオンデマンド授業ビデオをEdpuzzle に読 み込んでインタラクティブビデオにすることで、視聴確認や学習履歴、学生個別の理解度 チェックなどが可能になる。 図9 Edpuzzle 学生向け画面 4 おわりに 2020 年春、教室で黒板・教科書・プリントなどのアナログツールしか使っていなかった 学校や教員は、対面授業ができなくなった途端にお手上げ状態になったことは記憶に新し い。一方、普段からデジタルデバイスやオンラインツールを活用する授業を行っていれば、 対面授業ができなくなった時でも簡単にオンライン授業に切り替えることができることも 経験した。 教育の情報化に関する議論は、これまで「デジタルかアナログか」、「オンラインか対面 か」といった二項対立で語られることが多かった。しかし、「新しい日常」はもはや、デジ タルツールを「使うか使わないか」という議論をしている段階ではない。また、デジタル ツールは「対面授業に導入する補助教材」というレベルでは語れない存在になっている。 これからの学校は、教育全体がオンラインデジタルツールで包み込まれ、対面授業はその 大きな枠組みの中の重要な要素のひとつになる。オンラインを中心にしたカリキュラムを 設計し、対面授業でもオンラインツールを使いながら学習できる環境を整えておけば、対 面授業ができなくなったときも慌てずに対応できる。わたしたちは対面授業でやっていた ことを一度見直し、オンラインでもできること、オンラインでないとできないこと、そし て対面授業でなければできないことを精査し、対面授業の意義を明らかにすることで、オ ンラインを中心にしたこれからの教育に向き合うことができるようになるのではないだろ うか。 注 *本稿は、コロナウィルス蔓延という事態を受け、2020 年 9 月 20 日にオンラインで実施された「緊 急シンポジウム 2020 『緊急時の外国語教育』を踏まえた『将来の外国語教育』のあり方を巡って」 における基調講演に基づく。https://e-learningwell.org/2020/09/09/20200920symposium/ 1. https://zoom.les.cmc.osaka-u.ac.jp/ 2. 当初は「Zoom ゲリラ講座」と称していた。 3. 岩居・山口ほか(2017)参照。 4. 初期の頃は、トラブル発生時は携帯電話で国際電話をかけてお互いの状況を確認していた。その 後、北米センター担当者のスキルやデバイスに応じて、Skype や Facebook Messenger、iOS のメッセ ージなどをバックチャンネルとして使用した。
5. テレビ会議中に、発言者以外の参加者が打ち合わせをしていると、その部屋では小声で話してい ても遠隔側には発言者と同じくらいの大きさで届いてしまうという経験をされた方も多いのでは ないだろうか。
6. iPad を使ったテレプレゼンスロボット Kubi (http://kubi-robot.com/) の活用を試みた。Kubi は、リモ ートコントロールできるiPad スタンドで、遠隔地から iPad の向きを変えることができる。 7. 筆者がコーディネートをしていた授業では、講師以外に日本側のスタッフ 2 名と TA 1 名、現地 (アメリカ)のスタッフ1 名の合計 4 名で授業を支え、少なくとも一人は音声のモニターをしてい た。 8. ロイロノートスクールは、スマートフォン、タブレット端末、PC で動作し、テキスト、写真、音 声、ビデオなどのカードをリアルタイムでやりとりすることができる。多くの教員が、対面授業で もオンライン授業でも活用している。https://n.loilo.tv/ja/ 9. https://www.bookwidgets.com/ 10. https://bit.ly/328Or0z (BookWidgets で作成できる問題パターンの一覧)
11. Moodle や Blackboard などの LMS との連携を実現するための規格 12.https://ttsmp3.com/ 13. 長 い テ キ ス ト の 読 み 上 げ や 、 よ り 自 然 な 合 成 音 声 を 作 り た い 場 合 は 、 Amazon Polly (https://aws.amazon.com/jp/polly/) を利用することをお勧めする。 14. https://azure.microsoft.com/ja-jp/services/cognitive-services/immersive-reader/ 15. 岩居(2015), 岩居(2017)参照。 16. https://1heisuzuki.github.io/speech-to-text-webcam-overlay/ 17. https://www.microsoft.com/ja-jp/translator/ 18. https://www.deepl.com/ 19. https://tatoeba.org/ 20. https://www.reverso.net/ 21. https://www.linguee.com/ 22. ドイツ語の場合には、例えば名詞を置き換える場合に格変化を意識することになる。この時点で 改めて文法を説明することで、格変化の仕組みを理解する学生もいる。 23.https://flipgrid.com/
24.YouTube の字幕自動生成機能、iOS アプリ Clips のライブタイトルなど。
25. 筆者の担当するドイツ語クラスでは、Flipgrid を利用してドイツのルール大学、アーヘン工科大 学の日本語学習者との交流を行なっている。岩居(2019)参照。 26. https://edpuzzle.com/ 参考文献 岩居弘樹 (2015)「音声認識アプリを活用したドイツ語発音トレーニング」『大阪大学高等 教育研究』03, pp. 1-15. 岩居弘樹 (2017)「ICT が可能にした新しい外国語学習(「声」中心の学び方)」『情報処理学 会論文誌:教育とコンピューター』 3, pp. 8-17. 岩居弘樹・山口和也ほか (2017)「日米間遠隔授業におけるスマートフォン対応授業支援ア プリの利用による双方向コミュニケーションの向上」『大阪大学高等教育研究』05, pp. 57-62.
岩居弘樹(2019) 「Flipgrid でビデオ交流」『FLExICT Expo 2018 発表予行集』pp. 33-37 https://flexict-expo-2018.jimdosite.com/ (2020 年 11 月 4 日確認).