環境細菌のシングルセルゲノム解析 ―微小液滴を用いたゲノム解析手法とその応用例―
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(2) Vol. 31, No. 1 . Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria. ことによって、標的サンプルにおいてどのような種類の細. 遺伝子の獲得を目的とした解析が多く行われてきた 5)。ま. 菌がどの程度の割合で存在していたかを明らかにすること. た、ショットガン解析とメタ 16S rRNA 遺伝子解析を組. ができる。リードのクラスタリング手法としては、任意で. み合わせることによって、標的環境中の菌叢および遺伝子. 定めた値以上の相同性を示すリードを一つにまとめる手法. 情報が取得できるようになったことにより、標的環境にお. OTU clustering(OTU は Operational Taxonomic Unit の. いて重要な役割を果たす菌種の特定や細菌間の相互作用な. 略)がこれまで一般的に用いられており、97% の相同性を. どが明らかにされている 6, 7)。. 2). 指標として OTU 解析を行った例が多数報告されている 。. さらに近年では、シークエンサーから出力されたリー. また近年では、Amplicon sequence variant(ASV)と呼ば. ドの配列情報から de novo アセンブリによりコンティグ. れる指標を用いることにより、OTU を用いた場合に比較. を作成した後、GC 含有率や平均テトラヌクレオチド頻. してより分解能の高い解析が可能であるとの報告がなされ. 度およびリードの存在比等からコンティグを分類し、ド. ている 3)。. ラ フ ト ゲ ノ ム(Metagenome assembled genome、 以 下. 一般的な細菌のゲノムサイズが数 Mbp であるのに対し、. MAG)の再構成を行う手法 Metagenome binning が広く. メタ 16S rRNA 遺伝子解析では細菌ゲノムの数百 bp の. 用いられている 8)。Binning のための解析ツールとして. 領域の情報のみを標的としているため、その他の Whole. は、MetaBAT2 9)、MaxBin2. 10). 、CONCOCT. 11). 、DAS. 12). などが開発されており、現在でも活発に改良が進. genome sequencing(WGS)手法に比べ解析に必要とされ. Tool. る情報量を抑えることができる。そのため、Illumina 等の. められている。一方で、Binning の効率は標的環境中の細. インデックスシークエンスを利用することで、一度に多数. 菌多様性やデータ量などにも依存する。そのため、複数. のサンプルに対して配列情報を獲得することが可能であ. の解析ツールを比較・統合して解析することが有用であ. る。メタ 16S rRNA 遺伝子解析は次世代シークエンサー. ると考えられており、統合解析を可能にするパイプライ. を用いた細菌叢解析の最もポピュラーな手法として幅広く. ン(MetaWRAP)も開発されている 13)。Binning 法の開発. 応用されており、標的環境の菌叢の全体像を大まかに把握. により、メタゲノム中の混合された配列情報を個別のドラ. したい場合や、時系列での菌叢の変動を解析したい場合な. フトゲノムに分類することが可能となった。本手法ではこ. どに特に効果的である。. れまでに取得された複数のデータベースを統合することで. 一方で、本手法ではゲノムの一部分だけを解析の対象と. 大規模な解析を行うことが可能であり、これまでにヒトマ. しているため、含まれる細菌がどのような機能遺伝子を有. イクロバイオーム 14-16)やマウス腸内細菌 17)、海水中の細. しているかについては明らかにすることができない。ま. 菌集団 18)などを対象としたドラフトゲノムのカタログが. た、菌種の特定のためにはリファレンスとして利用できる. 作成されている(表 1)。一方、Binning では情報学的な処. 16S rRNA 遺伝子のデータベースが必要であり、未知細菌. 理によってドラフトゲノムの再構成を実施するため、いく. のドラフトゲノム情報をいかに拡充していくかということ. つかの課題が存在する。例えば、ゲノム再構成の精度は対. が本手法の課題となっている。. 象となる細菌の環境中の存在比に依存しており、環境中の 存在比が少ない細菌については高精度なゲノム情報を取得. ②メタゲノムショットガン解析 . することが難しい。また、標的環境中に塩基配列の相同性. 本手法では、環境から抽出したメタゲノムから直接ライ. が高い近縁種が存在する場合、それらのゲノム情報を区別. ブラリを調製し、NGS を用いた配列解析を行う。得られ. して Binning することは技術的に困難である。生成された. た全ての DNA を対象とした解析のため、対象環境中に含. MAG の評価としては、CheckM 19)というツールを用いる. まれる遺伝子の情報も同時に取得することができる。本. ことで推定ゲノムカバー率(Completeness)および配列情. 4). 手法は 2000 年に Beja らによって提唱され 、当初は新規. 報のコンタミネーション率(Contamination)を評価する. 表 1.Metagenome binning を用いた環境細菌ドラフトゲノムの取得例 文献 Pasolli E et al., (2019). 対象サンプル. 総細菌種数. 多様な国から集められた複数の身体部位 (口腔、皮膚、膣、便)由来の 46 データセット. 4,930 種. Nayfach S et al., (2019). 多様な国から集められたヒト腸内細菌メタゲノム. 4,558 種. Almeida A et al., (2019). 75 例の研究データを集めたヒト腸内細菌メタゲノム *一部日本由来のデータを含む. 2,068 種. Xiao L et al., (2015). 184 匹のマウス由来の腸内細菌メタゲノム. 541 種. Haroon MF et al., (2016). 紅海の海水由来のメタゲノム(45 データセット). 136 種. 18 .
(3) Jpn. J. Lactic Acid Bact. . Vol. 31, No. 1. ことが可能であるが、株レベルでの評価を行うことは現状. 在、最低でも 1 ng の DNA が必要とされる NGS ライブラ. 難しい。同様の理由により、細菌間で配列の相同性が高い. リの調製において重要な工程である。一方で、MDA では. 16S rRNA 遺伝子の配列情報を個別のゲノム情報に分類す. ランダムプライマーを使用するため、反応液中に混入した. ることは難しく、これまでに報告されているメタゲノム由. 目的外 DNA についても同様に増幅が進行してしまう 25)。. 来のデータベースにおいても、16S rRNA 遺伝子の全長が. 特に、リファレンスが存在しない未知の環境細菌を標的. 14, 15). 。前. としたゲノム解析においては、こうしたコンタミネー. 述の通り、メタ 16S rRNA 遺伝子解析における菌種同定. ションや増幅反応中に生じるキメラ配列が、de novo ア. にはリファレンスとなる 16S rRNA 遺伝子のデータベー. センブリ後の配列解析において最も大きな障壁となる 21)。. スが必要となるため、MAG における 16S rRNA 遺伝子の. MDA 以外の全ゲノム増幅手法として、DOP-PCR 26)や. 欠落は、未知細菌の解析においては重要な課題である。近. MALBAC 27)と呼ばれる手法がこれまでに報告されている. 年、PacBio や Nanopore に代表される長鎖配列の取得が. が、反応中に増幅される領域に偏り(バイアス)が生じる. 可能なシークエンサーを用いることにより、これまでの. こと、塩基配列のエラーが発生すること、これらに起因し. Binning では困難であった配列(16S rRNA 遺伝子を含む). て最終的な SAG のゲノムカバー率が低下することなどが. 同定されている MAG の割合は数 % に満たない. を含んだ MAG が形成されることが報告されている. 20). 問題となっている 28)。. 。一. 方で、プラスミドやウイルス様配列の検出など、ゲノム以. これらの問題を解決するため、これまで様々な技術開. 外の配列を細胞ごとに分類することは未だ困難であり、本. 発 が 行 わ れ て き た。 な か で も、Microelectromechanical. 手法においても課題が残されている。. Systems(MEMS)等に代表される微細加工技術を応用し、 微小空間内においてゲノム増幅を実施する手法が近年注. ③シングルセルゲノム解析 . 目を集めている 29)。これらの手法では、マイクロフルイ. シングルセルゲノム解析では、環境細菌をシングルセル. ディクスと呼ばれる微小流体を取り扱う技術が用いられて. に単離した後、それぞれの細胞に対してゲノム解析を実. おり、細菌のゲノム解析以外の様々なシングルセル解析に. 施する。本手法で得られるゲノム情報は Single amplified. おいても広く応用がなされている。特に哺乳類細胞の遺伝. genome(以下、SAG)と呼ばれる。本手法では、物理的. 子発現解析を目的としたシングルセルゲノム解析装置は多. に隔離されたシングルセルからゲノム情報が獲得されるた. 社から市販化されている 30-32)。微小空間内で種々の反応を. め、原理的には 16S rRNA 遺伝子やプラスミドなどの配. 行うことにより、試薬の削減や反応の迅速化、システムの. 列を含んだ情報を獲得することができ、近縁種や株ごとの. 集積化によるスループットの向上などの利点を得ることが. 詳細なゲノム解析が可能になる。しかしながら、本手法に. できる。特に、全ゲノム増幅においては、目的外 DNA の. おいても様々な課題が存在する。. 混入を物理的に抑制することが可能であるため、コンタミ. シングルセルゲノム解析の実現には、細胞の単離、溶. ネーションリスクを抑制した反応が可能であると考えられ. 菌、全ゲノム増幅の 3 つの工程が必要となる。まず、細胞. る 33)。こうした状況の中で、筆者らも同様に、微小空間. の単離では、セルソーターを用いてマルチウェルプレート. を用いたゲノム解析手法の開発に取り組んできた。. にシングルセルを分取する方法が現在一般的に行われて 3.微小液滴を用いたシングルセルゲノム解析 . いる 21)。しかしながら、環境細菌を対象とした解析では、 サンプル中に細胞成分以外の粒子が混入している場合が多. 微小反応場を作製する技術として、筆者らはマイクロ流. く、種類ごとに大きさや形状の異なる多様な細菌を選択 的かつ効率的に分取することは技術的に困難であった. 22). 。. 体デバイスを用いてピコリットル容量の微小液滴(ドロッ. 次に、アルカリやリゾチーム、界面活性剤などを用いた細. プレット)を作製する技術に着目した。本技術では、ド. 23). 。細胞の状態や膜構造によって溶菌. ロップレットの構成成分である水性溶液と分散媒である. の効率が異なるため、複数の溶菌方法を組み合わせた強力. キャリアオイルを内部に十字構造を有するマイクロ流体デ. な処理を行うことが望ましいが、一部の溶菌試薬は次の. バイス内に導入することにより、せん断応力によって毎秒. 工程である全ゲノム増幅反応を阻害してしまう。最後に、. 約 1000 個のスピードで Water in Oil(以下、W/O)ドロッ. 胞溶菌が行われる. シングルセル内に含まれるフェムトグラム(10. -15. プレットを作製することができる 34, 35)。本手法を応用し、. g)量の. DNA を配列解析が可能な十分量にまで増幅する全ゲノム. 筆者らはハイスループットかつ高精度なシングルセルゲノ. 増幅が行われる。現在一般的に行われている全ゲノム増幅. ム解析に向けた Single-cell amplified genome in gel beads. 手法として、鎖置換活性を有する Phi29 polymerase とラ. (図 1)。本手法では、 (以下、SAG-gel)法を開発した 36). ンダムプライマーを組み合わせた Multiple displacement. 標的細胞集団をアガロース溶液中に懸濁し、調製された細. amplification(以下、MDA)法が挙げられる 24)。MDA で. 胞懸濁液を用いて W/O ドロップレットを作製する。この. は、等温反応条件においてテンプレート DNA をマイクロ. とき、懸濁液中の細胞濃度をドロップレット 1 個あたり 1. グラム(10-6 g)量にまで増幅することが可能であり、現. 細胞以下となるように予め調製することによって、内部に 19 .
(4) Vol. 31, No. 1. Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria. 図 1.Single︲cellamplifiedgenomeingelbeads(SAG︲gel)法の概要 (A)標的細菌を含んだゲルビーズの作製。マイクロ流体デバイスを用いてゲル ビーズを高速に生成することにより、1 つのチューブ内に 105 個以上のシングルセ ルを封入したゲルビーズが回収される。 (B)シングルセルを封入したゲルビーズは、遠心と洗浄を繰り返しながら異なる 種類の溶液に順番に浸漬される。これにより、細胞溶解、全ゲノム増幅を超並列的 に実施することができる。増幅された DNA は、DNA 結合色素を用いて可視化す ることが可能であり、セルソーターを用いて個別に分取される。. シングルセルを封入したドロップレットを高速に生成する. な溶菌操作を実施することが可能になるだけでなく、1 本. ことができる。生成されたドロップレットはチューブに回. 5 のチューブ内で一度に 10 個以上の細胞に対して並列的に. 収された後、氷上で冷却することによって内部のアガロー. 全ゲノム増幅を実施することが可能となる。. スをゲル化させる。これにより、粒径約 40 μm のアガロー. シングルセルのゲノム解析では、効率的な全ゲノム増幅. ス性のビーズ(ゲルビーズ)が形成され、内部に封入され. 手法の開発に加え、キメラ配列などの増幅エラーを含ん. たシングルセルはマトリックス上に捕捉される。次に、分. だ配列情報から高品質な SAG を取得するための解析手法. 散媒であるキャリアオイルの除去・洗浄を行い、ゲルビー. の開発も同時に求められる。筆者らは、得られた多数の. ズをオイル相から水相へと置換する。このとき、ゲルビー. SAG 情報から、同一種由来と推定される細菌の SAG 情報. ズは溶媒よりも比重が大きいため、水相置換後のゲルビー. を選抜し、サンプル間の配列情報の違いを in silico に相互. ズは遠心操作によって容易に回収することが可能となる。. 比較するツール:Cleaning and co-assembly of a single-. また、上清を除去した後のゲルビーズに異なる溶液を加. cell amplified genome(以下、ccSAG)を開発した 37)。相. えることによって、ゲルビーズ内に異なる種類の溶液を. 互比較によってエラー配列の検出を行った後、それぞれの. 浸潤させることが可能になる。この性質を利用し、SAG-. SAG 情報を統合してアセンブルを行うことにより、個々. gel では水相置換後のゲルビーズを複数種類の試薬に浸漬. の SAG では失われていた情報が補完されたドラフトゲノ. し、全ゲノム増幅までの一連の反応を進行させる。従来ま. ムを得ることができる。モデル微生物を用いた性能評価で. での手法では、溶菌処理に用いた試薬は次の全ゲノム増幅. は、同一種由来の SAG を 6 個以上統合することにより、. にまで持ち越されるため、反応を阻害する可能性のある. 液体培養後の細菌集団から抽出した DNA を用いたシーク. 試薬を使用することは困難であった。一方 SAG-gel では、. エンス結果と同等の品質の SAG が得られることが明らか. 遠心操作によってゲルビーズを回収・洗浄することが可能. となった(図 2)。本手法は、環境細菌のゲノム解析におい. であるため、反応の阻害の有無に関わらず任意の数の処理. ても同様に効果を発揮することが期待されるが、多様性の. を細胞に対して実施することができる。また、細胞溶菌後. 高い環境サンプルの解析では、どの SAG を同一種とみな. に露出する DNA はアガロースのマトリックスに比べて十. して解析を実施するかが重要となる。ゲノム配列情報を用. 分に高分子量であるため、細胞溶菌後もゲルビーズ内に捕. いた細胞種判定については、16S rRNA 遺伝子などの一部. 捉される。最後に、シングルセル由来の DNA を含んだゲ. の配列情報の相同性を用いて評価する手法に加え、ゲノム. ルビーズを MDA 反応液中に浸漬することによって、ビー. の全配列を対象とした評価手法として、全塩基配列の相同. ズ内で全ゲノムの情報が増幅される。MDA 反応後のゲル. 性 Average Nucleotide Identity(以下、ANI)を指標とす. ビーズは FACS 等のセルソーターを用いてマルチウェル. る方法 38)や、Mash 39)と呼ばれる解析ツールを用いて算出. プレートに分取することが可能であり、シングルセル由来. される Mash distance を指標とした手法 40)などがこれま. のゲノム増幅産物として以降の操作に使用することができ. でに提案されている。. る。本手法を用いることによって、標的細胞に対して強力 20.
(5) Jpn. J. Lactic Acid Bact. . Vol. 31, No. 1. 図 2.ccSAG を用いたリードのクリーニングによるde novo アセンブリの評価(枯 草菌をモデルとして使用) (A)出力されたリード(Raw)と ccSAG 後のリード(ccSAG)を用いた de novo アセンブリの結果。横軸は重ね合わせたサンプルの数を示し、破線は抽出 DNA を 用いた場合の解析結果を表す。Raw read を用いた場合ではキメラ配列が多く含ま れるため、SAG 数の増加に伴ってコンティグ数が増加し、N50 の値が低くなる。一 方、ccSAG によってキメラ配列やコンタミネーション配列と推定されるリードが除 去されるため、SAG 数の増加に伴ってコンティグ数が減少し、N50 の値が高くなる。 (B)リファレンスゲノムに対するコンティグの正確性の評価。サンプル間を結ぶ 曲線は、シングルセルデータに含まれるミスアセンブリコンティグと、そのコン ティグのリファレンスゲノム上での位置を示す。ccSAG を用いて作成したコンティ グは、Raw read を用いて作成したコンティグに比べてミスアセンブリコンティグ が少なく、配列の精度が高いことがわかる。. 4.シングルセルゲノム解析の実用例:腸内細菌を対象と. のゲノム解析を実施した 36)。. したゲノム解析 . 6 週齢の BALB/c マウスに対し、プレバイオティクス (宿主には分解・吸収されず、腸内細菌の栄養源となるこ. 近年、ヒトとマイクロバイオームの関係性に着目した. とによって腸内細菌叢のバランスの改善が期待される食. 様々な研究が急速に進んでいる。米国では、大学および国. 品成分)として知られるイヌリンを 2 週間摂取させ、摂. 立研究所に 50 以上のマイクロバイオーム研究施設が設立. 取 前 後 の 菌 叢 の 変 動 を メ タ 16S rRNA 遺 伝 子 解 析 に よ. されており、それらのほとんどが過去 3 年以内に設立され たものである 41)。ヒトマイクロバイオームの内、最大の. り比較した。菌叢解析の結果、イヌリンの摂取によって Bacteroides 属に分類される細菌叢の割合が増加すること. 割合を占めるのは腸管内に生息する細菌群であり、一般的. が明らかとなった。また、イヌリンを摂取したマウスでは、. なヒト腸管には 500 ~ 1,000 種類、100 兆個以上の腸内細. 腸内細菌由来の二次代謝産物として知られる酪酸やコハ. 42). 。これらの腸内細菌. ク酸などの短鎖脂肪酸(Short-chain fatty acids:SCFAs). は宿主のエネルギー生産や免疫機能の獲得などに重要な役. が盲腸内容物中で有意に増加することが明らかとなった。. 割を果たしていることが知られている一方で、個々の細. 得られた結果をもとに、マウス糞便中の腸内細菌を対象と. 菌の働きについては未だ明らかにされていない部分が多. した SAG-gel を実施し、300 個を超える SAG を一挙に獲. 菌が生息していると言われている. 43, 44). 。個別化医療の重要性が謳われている現在、腸内細. 得した。得られた SAG を用いて、CheckM によって検出. 菌をはじめとするヒトマイクロバイオームにおいても、個. されたマーカー遺伝子の配列相同性が 99% 以上であるこ. 人ごとの細菌をより高解像度で理解する技術が必要になる. と、ANI の値が 95% 以上であることを基準とした ccSAG. と考えられる。そこで筆者らは、これまでに開発したシン. を実施した。これにより、22 種の統合されたドラフトゲ. グルセル解析手法の環境サンプルへの応用として、糞便中. ノムが獲得され、合計で 31 種の高品質なドラフトゲノ. の腸内細菌に着目し、マウスモデルを対象とした腸内細菌. ムが獲得された。得られたドラフトゲノムの情報から、. い. 21 .
(6) Vol. 31, No. 1 . Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria. Bacteroides 属に分類される 2 種の新規細菌(Bacteroides. ゲノム解析などに力を発揮することが期待される。筆者ら. spp. IMSAGC_001 and IMSAGC_004)に着目して詳細な. は、これまでに SAG-gel 法を用いて 1,000 個以上のシン. 解析を実施した結果、イヌリンを分解するために必要な遺. グルセル由来のゲノム情報の獲得を行っており、これらの. 伝子クラスターや短鎖脂肪酸産生に関わる代謝経路を有し. 結果についても近く報告する予定である。. ているということが明らかになった(図 3)。以上の結果か. 本総説では、特にシングルセルゲノム解析に着目してそ. ら、シングルセルを対象としたゲノム解析を実施すること. の技術を紹介したが、その他の解析においても NGS や目. により、イヌリンを栄養源として腸内で優先的に増殖し、. 的に特化した解析ツールの開発などにより、日進月歩で研. 特定の短鎖脂肪酸を産生するレスポンダー細菌を特定する. 究が進められている。これらの手法を統合し、それぞれの. ことができた。. 手法の利点を最大限に活用することが、環境細菌を理解す るためには必要であると考えられる。こうした状況におい. 5.おわりに . て、筆者らが開発したシングルセルゲノム解析に気軽に アクセスしていただくことが重要であると考え、筆者の. 環境細菌を対象としてシングルセルゲノム解析を実施す. 一人である細川が、研究開発ベンチャー企業 bitBiome 社. ることにより、細菌ごとの遺伝子情報を明らかにすること. を 2018 年に創業した。bitBiome 社ではシングルセルゲノ. ができるようになった。これにより、菌叢解析において存. ム解析サービスを広く提供し、その他のゲノム解析手法を. 在比に有意な変動が見られた細菌が、どのような理由に. 組み合わせることによって、環境細菌のゲノム解析分野に. よって変動したのかについてゲノム情報から直接的に明ら. 新たな切り口をもたらすことを目的としている。将来的に. かにすることが可能となった。さらに筆者らが開発した. は、マイクロバイオームを対象とした医学研究をはじめ、. SAG-gel では、一度に多量のシングルセルゲノム情報が. 微生物の進化や機能解明などの基礎研究に至るまで、多く. 獲得されるため、系統的に非常に近い細菌間においても詳. の研究者が気軽にシングルセルゲノム解析を活用できるよ. 細な比較ゲノム解析を実施することができる。そのため、. うになることを期待する。. 本手法は集団レベルの詳細な遺伝的多様性を評価するパン. 図 3.Bacteroides spp. IMSAGC_001 と IMSAGC_004 におけるイヌリン代 謝遺伝子の探索 Bacteroides spp. IMSAGC_001 および IMSAGC_004 で確認された遺伝子クラス ターを示す。どちらの細菌においても、SusC, SusD のホモログを始めとする、細 胞内へのイヌリンの取り込みおよび分解に必要とされる遺伝子を保持しており、今 回獲得された 2 種の細菌はイヌリンの分解能を有することが示唆された。. 22 .
(7) Jpn. J. Lactic Acid Bact. . Vol. 31, No. 1. 参 考 文 献 1) Locey, K.J. & Lennon, J.T. (2016) Scaling laws predict global microbial diversity. Proc Natl Acad Sci U S A 113: 59705975. 2) Nguyen, N.P., Warnow, T., Pop, M. & White, B. (2016) A perspective on 16S rRNA operational taxonomic unit clustering using sequence similarity. NPJ Biofilms Microbiomes 2: 16004. 3) Callahan, B.J., McMurdie, P.J. & Holmes, S.P. (2017) Exact sequence variants should replace operational taxonomic units in marker-gene data analysis. ISME J 11: 2639-2643. 4) Beja, O., Suzuki, M.T., Koonin, E.V., Aravind, L., Hadd, A. et al. (2000) Construction and analysis of bacterial artificial chromosome libraries from a marine microbial assemblage. Environ Microbiol 2: 516-529. 5) Venter, J.C., Remington, K., Heidelberg, J.F., Halpern, A.L., Rusch, D. et al. (2004) Environmental genome shotgun sequencing of the Sargasso Sea. 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