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河内利治『黄道周研究』

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Academic year: 2021

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書 評     □ 書  評 □

河内利治﹃黄道周研究﹄

増 

田 

知 

之 

本書は、本会副理事長を務められる河内利治 氏による、明末清初の激動期を生きた黄道周に ついての総合的研究の成果である。 ﹃明漳浦黄忠端公全集﹄を縦横に活用して 、 生涯 ︵第一章︶ 、政治 ・軍事や文学等の諸活動 ︵第二章︶ 、各界の代表的人物との交流︵第三∼ 五章︶ 、継室の蔡玉︵第六章︶ 、書法観︵第七 章︶ 、詩書の後世における受容 ︵第八章︶など 様々な側面に光を当て、黄道周その人を立体的 に描き出そうとしている 。この総合性こそが 、 本書最大の特徴である。黄道周の詩文を数多取 り上げ、中には詳細な注釈を施し、また関連す る諸情報をふんだんに盛り込むなど、黄道周に 関する﹁資料集成﹂としての価値も十分に認め られよう。 本書のさらなる特徴は 、黄道周の位置づけ が 、﹁異民族支配に屈せず明朝への忠誠を最後 まで貫いた志士﹂ ︵六頁︶として 、始終一貫し ている点である。 ﹁忠孝﹂をはじめとして、 ﹁人 品﹂の高さを強調する語が、本書の随所に確認 できる。あるいは、かようなゆるぎない黄道周 観を根底に据えて、本書を構成する各研究がい わば演繹的 3 3 3 に生み出されてきたかのようにも映 る。しかしその一方で、 黄道周を ﹁無能の忠臣﹂ ︵﹁孤臣の死﹂ 、﹃頹筆集﹄ ︶とみなす福本雅一氏 による一連の研究をはじめ、黄に対して否定的 な見解には概して触れることはない。 本書には、先行研究や史料の取り扱い︵翻訳 を含む︶ 、また史料や歴史的事実の分析 ・解釈 などにおいて、疑問なしとはできない種種の問 題が存する 。 とくに 、 先行研究の成果 ︵就中 、 自説と異なるもの︶を踏まえた多角的・複合的 なより深い考察が不足している点は否めない。 たとえば、第七章第一節において黄道周の書 法観について論じ、各種書論を断片的に取り上 げて 、﹁ 遒媚﹂の語が黄道周の ﹁理想とする書 法美﹂であり、かつそれを具備するものとして 王羲之と顔真の書を尊崇したと断じている 。 しかし、先行研究として挙げる劉正成﹁黄道周 書法評伝﹂ ︵﹃中国書法全集﹄五六︶は 、黄道周 の書論に加え、その経歴や具体的な書跡をも含 めた総合的検討を通して 、﹁遒媚﹂は王法の否 定、鍾繇の称揚を表明するもの、すなわち﹁二 王書法美学観の否定﹂であったと結論づけてい る。同じく沙孟海氏も、黄道周が﹁王羲之から 別の道を切り拓き、⋮⋮大胆に鍾繇、索靖を遠 く師と仰いだ﹂と指摘している ︵ 三三八頁︶ 。 つまり、これら諸氏と著者の解釈は先鋭に対立 しているのであるが、この極めて重大な問題に ついて本書では一切の言及がない。総合的研究 には 、多領域にわたる総合性はもちろんのこ と、各領域における事実・言説についての多様 な︵ときには自説と対立する︶分析や解釈を批 判的に止揚し、それらをまとめ上げることも求 められよう。 最後に、清代の黄道周評価について付言して おきたい。乾隆三十年代末より﹃四庫全書﹄編 纂を背景とした﹁禁書﹂の取締りが本格化する が ︵黄道周 ﹃博物典彙﹄ ﹃広百将伝﹄なども対 象︶ 、一方で 、弐臣の弾刻とともに明の忠臣を 顕彰し諡を追贈するという﹁珍しい措置﹂が行 われた︵岡本さえ﹃清代禁書の研究﹄ ︶。本書第 八章に見えるように、入清後の黄書の刻帖化は 乾隆中期より始まっており、黄道周の評価・受 容には乾隆帝の文化政策が深く関わっていよ う 。禁書後の道光年間に刊行された ﹃黄全集﹄ の巻首に 、 上記政策を示した乾隆帝の上諭や ﹃欽定勝朝殉節諸臣録﹄序文が ﹁護符﹂のよう に収載されているのは、実に象徴的である。 書  名  黄道周研究 著  者  河内利治 発  行  二〇二〇年一月   古書院 規  模  A5 判  五四五頁+ 96頁+ ⅹ

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