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棘下筋斜走線維の機能低下が前上方リーチ動作時に上肢痛を引き起こした一症例

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Academic year: 2021

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全文

(1)

棘下筋斜走線維の機能低下が前上方リーチ

動作時に上肢痛を引き起こした一症例

門田 美咲

1)

  三浦 雄一郎

1)

  福島 秀晃

1)

  上村 拓矢

1)

長㟢 進

1)

  飛田 勇樹

1)

  齊藤 正純

2)

  木田 圭重

2)

A case of dysfunction of the oblique fibers of the infraspinatus muscle

causing limb pain during movement of the upper limb in

the forward and upward direction

Misaki KADOTA, RPT

1)

, Yuichiro MIURA, RPT, Ph.D.

1)

, Hideaki FUKUSHIMA, RPT

1)

,

Takuya KAMIMURA, RPT

1)

, Susumu NAGASAKI, RPT

1)

, Yuki TOBITA, RPT

1)

,

Masazumi SAITO, MD, Ph.D.

2)

, Yoshikazu KIDA, MD, Ph.D.

2)

Abstract

Physiotherapy was performed in a patient with frozen shoulder who suffered from pain of the entire upper limb whenever he moved the limb in the forward and upwards direction. In an extended position, supination movements of the forearm caused excessive muscle activity in the upper limb. This resulted in pain due to the dysfunction of the oblique fibers of the infraspinatus muscle. Maintaining the upper limb in the extended (forward and upward) position required that the shoulder joint be kept in a neutral position (for internal and external rotation) because the oblique fibers of the infraspinatus muscle were damaged. Therefore, dynamic evaluation of each of the fibers of the infraspinatus muscle is important for determining appropriate physical therapy targeting the movement of the upper limb in the forward and upward direction.

Key words: reach movement, oblique fibers of the infraspinatus muscle, frozen shoulder

J. Kansai Phys. Ther. 20: 85–91, 2020

1) 伏見岡本病院 リハビリテーション科

2) 京都府立医科大学大学院 医学研究科 運動器機能再生外科 学(整形外科)

受付日 令和2 年 5 月 21 日 受理日 令和 2 年 10 月 1 日

Department of Rehabilitation, Fushimi Okamoto Hospital Department of Orthopaedics, Graduate School of Medical Science,

Kyoto Prefectural University of Medicine はじめに リーチ動作は、手部を目標物に最短距離かつ直線的に 移動させ、肩関節および肩甲骨の運動に肘関節の運動を 伴う動作である1)。リーチ動作時の運動機能に関する研 究は、健常者を対象とした肩甲骨周囲筋の報告1, 2)や片麻 痺患者の棘上筋の機能に関する報告3)がある。 今回、上肢挙上動作では疼痛を認めないが、両手で約5 kgのシーツの束を前上方の棚に置く動作(以下、前上方 リーチ動作)(図1)時に両上肢痛を認めた両肩関節周囲 炎の症例を経験した。本症例の動作の特徴や理学療法評 価から、棘下筋斜走線維に着目し理学療法を実施した結 果、上肢痛が消失および軽減したため、考察を踏まえ報 告する。なお、本論文の作成に関して、症例に説明のう え同意を得た。 症例紹介 症例は50歳代の女性、職業は看護助手であった。主な 仕事内容はカルテとリネン庫の整理であった。現病歴は X年Y月、両肩に疼痛を自覚し、X年Y+1.5月まで経過観 察をおこなったが改善せず、当院を受診し両肩関節周囲

第 19 回関西理学療法学会症例研究学術大会 大会長賞論文

(2)

86 門田美咲,他 炎と診断され、理学療法開始となった。主訴は「両手で シーツの束を前上方の棚に置く時に両腕が痛い」であり、 ニードを「前上方リーチ動作時の疼痛改善」とした。 初期評価と理学療法 1.動作観察 動作観察は、本症例の主訴とニードより前上方リーチ 動作とした(図2)。問題点を明確にするために前上方リー チ動作を、①開始肢位、②リーチ準備期、③リーチ期、④ リーチ最終期に相分けをおこなった。開始肢位は、肩関節 屈曲伸展中間位 ・ 内外旋中間位、肘関節屈曲90°位、前腕 回外位、全指屈曲伸展中間位で両手掌面にシーツを支え た肢位とした(図2a)。リーチ準備期は肘関節伸展が始ま る前の肩関節屈曲60°までとし(図2b)、リーチ期は肘関 節伸展が始まり目標物に向けて手部の直線的な動きが始 まる肩関節屈曲90°までとした(図2c)。リーチ最終期は 目標物に手部が届く肩関節屈曲120°までとした(図2d)。 本症例は左側の疼痛が強く、特に左上肢に異常動作を 認めていたため、左側の動作観察および経過を報告する。 本症例における動作の特徴は、リーチ期(肩関節屈曲 60°)からリーチ最終期にかけて鎖骨挙上、肩甲骨前傾 ・ 内旋が過剰に生じることで、肩鎖関節を軸とした肩甲骨 上方回旋と後傾、肩関節屈曲が乏しい動作であった(図 2b、c黒枠)。また、肩関節内外旋中間位が保持できず肩 関節内旋が生じることでリーチ期からリーチ最終期にか けて肘窩が内側を向き、肘関節軽度屈曲位で動作が終了 し(図2d 黒枠)、リーチ最終期にかけて上肢全体に鈍痛 を認めた。 2.理学療法評価 動作観察から、鎖骨挙上、肩甲骨前傾 ・ 内旋が過剰に 生じ肩関節屈曲、肩甲骨上方回旋、肘関節伸展が制限さ れていたことから、肩関節屈曲の関節可動域測定をおこ なった。左肩関節屈曲は155°と顕著な制限は認めなかっ た。徒手筋力検査(Manual Muscle Testing : 以下、MMT) は左肩関節屈曲が5、左肩甲骨外転 ・ 上方回旋が5、左肘 関節伸展が5であり、筋力低下を認めなかった。 リーチ期以降、肩関節内外旋中間位での保持が困難 であったため、肩関節外旋の関節可動域測定をおこなっ た。上肢下垂位での左肩関節外旋が60°、肩関節90°外転 位での左肩関節外旋が85°と顕著な制限は認めなかった。 MMTは左肩関節外旋が4であり、肩関節外旋機能に顕著 な低下を認めなかった。 本症例におけるリーチ期からリーチ最終期での肩甲骨 前傾 ・ 内旋が生じていた要因について、前上方リーチ動 作は肩関節に伸展方向への重力負荷が生じることに伴い、 肩甲骨に前傾・内旋方向への重力負荷が生じると考えた。 肩甲骨前傾・内旋方向への重力負荷を制御する僧帽筋下 部線維の筋力低下を疑った。さらに、腱板機能の低下に より上腕骨頭を求心位に保つことができないため、肩関 節屈曲運動の低下、鎖骨の挙上が生じたと考え、MMT ・ 整形外科的評価をおこなった。結果、フルカンテスト ・ エンプティーカンテスト・ベリープレステスト・ベアハ グテスト・リフトオフテスト・棘下筋テストは陰性であっ たが、左肩甲骨下制・内転のMMTは2であった。

疼痛評価としてNumerical Rating Scale(以下、NRS) は左肩甲帯、上腕部および前腕部に各々8 を認めた。僧 帽筋上部線維、三角筋全線維、上腕二頭筋、上腕三頭筋、 長橈側手根伸筋には圧痛、収縮時痛、伸張時痛を認めた。 3.統合と解釈 前上方リーチ動作はリーチ最終期において特に肩関節 に伸展方向、肩甲骨に前傾 ・ 内旋方向への重力負荷が生 じると考えた。リーチ期以降において、本症例は肩甲骨 下制・内転筋の筋力低下により肩甲骨の前傾・内旋が生 じたと推察した。シーツの束を両手掌で支えた状態(前 腕回外位)で肩甲骨の前傾 ・ 内旋が生じることで、見か け上の肩関節内旋が生じていた。肩関節の伸展 ・ 内旋方 向への重力負荷に対して三角筋全線維が、そして肩甲骨 の前傾・内旋方向への重力負荷に対して僧帽筋上部線維 が過剰収縮することで代償的に関与した結果、肩甲帯の 疼痛が生じたと考えた。 上腕部および前腕部の疼痛について、前上方リーチ動 作中に肩関節内旋が生じたことで、前腕と上腕に相対的 な回旋が生じ、肘関節完全伸展位による骨性支持での前 上方リーチ動作がおこなえず肘関節軽度屈曲位での動作 となったと推察した。その結果、リーチ最終期にて上腕 二頭筋、上腕三頭筋、長橈側手根伸筋の過剰収縮によっ 図 1 本症例の仕事動作 両手でシーツの束(約5 kg)を前上方の棚に置 く動作。この際、上肢全体に疼痛が生じていた。

(3)

図 2 本症例の前上方リーチ動作 a: 開始肢位:左肩関節0°屈曲・内外旋中間位、左肘関節90°屈曲位、左前腕回外位、左全指屈曲伸展中間位で両手掌面にシーツの束 を支える。 b: リーチ準備期:左肩関節内外旋中間位での左肩関節屈曲、肘窩上方を向く。 c: リーチ期:左肩関節60°屈曲以降左肩甲骨挙上・前傾が生じ、左肩鎖関節を軸とした左肩甲骨上方回旋と後傾が乏しい。左肩関節 内旋が生じ、肘窩が内側を向く。 d: リーチ最終期:左肩関節約120°屈曲し前上方へリーチするが、左肘関節軽度屈曲位でリーチを終了する。 て上腕部および前腕部の疼痛が生じたと考えた。 4.評価結果に対する治療プログラムと結果 初期評価より、肩甲骨下制 ・ 内転筋力において筋力低 下を認めたことから、筋力強化を目的にMMTの肢位と 同様に肩甲骨下制 ・ 内転を促す運動療法を実施した。そ の際、自動介助運動から開始し、徐々に自動運動、抵抗 運動へと促した。 結果、1 ヵ月後に左肩甲骨下制・内転はMMT4となっ たが、前上方リーチ動作様式に変化を認めず、疼痛にお いても、部位や程度に改善を認めなかった。 再評価と理学療法 1.理学療法再評価 初期評価より肩甲胸郭関節へのアプローチをおこなっ たが動作様式に変化がなかったことから、リーチ期以降 における肩関節の内外旋中間位での保持が困難であった ことに着目した。上肢下垂位での外旋可動域、肩関節外 転90°位での外旋可動域、肩関節外旋MMTおよび棘下筋 テストにおいて可動域制限や機能低下を認めなかったが、 肩関節屈曲位での棘下筋の機能評価が充分でないと考え た。棘下筋は横行線維と斜走線維の2 本に分かれ、挙上

(4)

88 門田美咲,他 角度で活動が切り替わる4)ことから、肩関節屈曲角度を 変えて追加評価をおこなった。側臥位にて前上方リーチ 動作と類似した、肘関節屈曲90°位とし肩関節に内旋方 向への重力負荷が生じる状態で肩関節の屈曲運動をおこ なった(図3)。これは、上肢レバーアームの減少により 三角筋全線維と上腕三頭筋の疼痛が軽減できること、お よび肩関節に生じる内旋方向への重力負荷に対応した棘 下筋斜走線維の評価をおこなえることが利点である。結 果は肩関節屈曲60°以降にて肩関節内旋が生じ、肩関節 の内外旋中間位を持続的に保持することが困難であった。 2.統合と解釈 棘下筋は横行線維と斜走線維の2本に分かれ、挙上角 度で活動が切り替わる4)ことから、動作観察・再評価より、 肩関節屈曲60°以降での棘下筋斜走線維の機能低下によ り、リーチ期からリーチ最終期にかけて肩関節の内外旋 中間位が保持できず、肩関節内旋位での前上方リーチ動 作が生じていたと考えた。井尻ら5)は、肩関節屈曲時、肩 関節内旋が生じると三角筋の筋線維方向が変化すること で三角筋中部・後部線維の活動が増大すると述べている。 本症例においても、肩関節内旋が生じ三角筋の筋線維方 向が変化することで三角筋中部・後部線維に過剰収縮が 生じていたと推察した。また、三角筋全線維には肩甲上 腕関節の安定化機構があることが報告6)されている。棘 下筋斜走線維の機能低下により、リーチ期以降に三角筋 全線維の同時収縮により肩関節屈曲運動が制限された結 果、代償として僧帽筋上部線維による肩甲帯挙上が生じ、 肩甲帯の疼痛に至ったと考えた。 上腕部および前腕部の疼痛について、前上方リーチ動 作中、肩関節内旋が生じることにより、前腕と上腕に相 対的な回旋が生じ肘関節軽度屈曲位となり骨性支持によ る肘関節完全伸展位での前上方リーチ動作に至らなかっ た。肘関節軽度屈曲位保持を上腕二頭筋、上腕三頭筋、長 橈側手根伸筋の過剰収縮によって制動することで前上方 リーチ動作を遂行し続けた結果、リーチ最終期にて上腕 部および前腕部の疼痛が生じたと推察した。 3.再評価結果に対する治療プログラム 僧帽筋上部線維、三角筋全線維、上腕二頭筋、上腕三 頭筋、長橈側手根伸筋の圧痛が、以下に述べる治療対象 筋の棘下筋斜走線維の自動介助運動における誘導を阻害 していたため、リラクゼーションが必要であると考えた。 疼痛筋に対してストレッチングと自動介助運動を主体と したリラクゼーションを実施した。 棘下筋斜走線維に対しては、再評価時と同様、側臥位 にて肘関節90°屈曲位、肩関節内外旋中間位で肩関節屈 曲運動を実施した(図3)。その際、自動介助運動から開 始し、徐々に自動運動、抵抗運動を実施した。 最後に、肩関節内旋が生じないように前上方リーチ動 作練習を実施した。その際、シーツを持たずにおこなっ たのち、前腕回外位、全指屈曲伸展中間位で手掌面に軽 量のシーツを支えながらおこなった。 4.最終評価 理学療法再評価から2 ヵ月後、リーチ期からリーチ最 終期にかけて鎖骨挙上、肩甲骨前傾 ・ 内旋が減少し、肩 甲骨上方回旋・後傾が増大した(図4a)。肩関節の内外旋 中間位が可能となり肘窩が上方に向き(図4b)、リーチ最 終期で肩関節屈曲が増大し、肘関節伸展位での動作が可 能となった。上肢全体の疼痛はNRS において左肩甲帯 8 から0となり、左上腕部および前腕部8から4と減少を認 めた。 前上方リーチ動作の肩関節周囲筋の筋活動を初期 評価と最終評価で測定した。動作筋電図には筋電計 Myosystem1400™(Noraxon社製)を用いた。電極は銀 ・ 塩化銀型disposable電極Blue Senser®(Medicotest社製)を

用いた。測定筋は棘下筋斜走線維と僧帽筋上部線維、三 角筋全線維の5筋とし、電極貼付位置はBoettcherら7) 方法を参考に貼付した。各筋いずれも筋線維と平行に貼 付し、電極貼付後、上肢肢位を変化させ、各筋の筋電図 波形を確認した。筋電図導出方法は双極導出法とし、電 極間距離は20 mm、筋電周波数帯域10 ∼ 500 Hzとして、 筋活動電位をコンピューターにサンプリング周波数1000 Hzで取り込んだ。測定側は左上肢とした。測定課題は動 作観察と同様の前上方リーチ動作とした。分析は初期評 価と最終評価における肩関節屈曲90°位での筋電図積分 値を算出し、それを基準としてリーチ期の筋電図積分値 を除した筋電図積分値相対値(以下、相対値)で比較した。 結果は、棘下筋斜走線維の相対値は初期評価時1.9 から 最終評価時2.6 に増加し、僧帽筋上部線維の相対値は初 図 3 棘下筋斜走線維の評価・理学療法の肢位 側臥位にて左肘関節屈曲90°位とし左肩関節に内旋方向への重 力負荷( 点線矢印)を生じさせた状態で左肩関節屈曲( 実線矢印)をおこなう。

(5)

期評価時2.8から最終評価時1.8に低下した。三角筋前部 線維の相対値は初期評価時1.9から最終評価時2.2、三角 筋中部線維の相対値は初期評価時1.5から最終評価時2.4、 三角筋後部線維の相対値は初期評価時1.5 から最終評価 時2.1と増加した(図5)。 考 察 健常者の前上方リーチ動作は、肩関節の内外旋中間位 を保持し、肩甲骨上方回旋を伴いながら肩関節屈曲、肘 関節伸展が生じる。本症例は棘下筋斜走線維の機能低下 により前上方リーチ動作におけるリーチ期以降の肩関節 の内外旋中間位が保持できず、肩関節内旋位で動作を遂 行していた。 異常動作から生じた疼痛の機序について述べる。肩甲 帯の疼痛について、井尻ら5)は肩関節屈曲時、肩関節内 旋が生じると、三角筋の筋線維方向が変化することで三 角筋中部 ・ 後部線維の活動が増大すると述べている。本 症例においても、肩関節内旋が生じ三角筋の筋線維方向 が変化することで三角筋中部・後部線維に過剰収縮が生 じていたと推察した。また、三角筋全線維には肩甲上腕 関節の安定化機構があることが報告されている6)。三角 筋全線維の同時収縮によって肩関節の安定性は増加する が運動性は制限される。その結果、肩関節屈曲運動を僧 帽筋上部線維による肩甲帯挙上において代償し、三角筋 全線維と僧帽筋上部線維に過剰収縮が生じたと推察した。 前腕部の疼痛について、通常、リーチ最終期では、肘関節 完全伸展位での骨性支持により動作を遂行する。しかし、 図 4 初期評価と最終評価時のリーチ最終期の動作 a: 左肩甲骨挙上・前傾が減少し、左肩甲骨上方回旋・後傾が増大した。 b: 左肩関節の内外旋中間位が可能となり肘窩が上方を向いた。左肩関節屈曲が増大し、左肘関 節伸展位での前上方リーチ動作が可能となった。

(6)

90 門田美咲,他 本症例は、シーツの束を両手掌で支えた状態(前腕回外 位)で肩関節内旋が生じることにより、前腕と上腕に相 対的な回旋が生じ、肘関節完全伸展位による骨性支持で の動作がおこなえず肘関節軽度屈曲位で動作を遂行した。 その結果、肘関節の制動に上腕二頭筋、上腕三頭筋、長 橈側手根伸筋の過剰収縮が生じたと考えた。Jarvholmら8) は筋を持続的に収縮させると、筋血流量が減少し、発痛 物質であるブラジキニンの血中濃度が上昇し、侵害受容 器を興奮させると報告している。このことから、多数の 筋に攣縮が生じ肩甲帯、上腕および前腕に過剰収縮によ る疼痛が生じたと推察した。 棘下筋斜走線維と前上方リーチ動作の関連性について 述べる。棘下筋は横行線維と斜走線維の2本に分かれ、挙 上角度で活動が切り替わる4)。本症例は肩関節屈曲60°以 降の棘下筋斜走線維の機能低下により前上方リーチ動作 時の肩関節の内外旋中間位が保持できず、肩関節内旋位 で動作を遂行していた。理学療法後、棘下筋斜走線維の 機能向上により前上方リーチ動作におけるリーチ期以降 での肩関節の内外旋中間位での動作が可能となり、肩関 節の屈曲運動が増大し、肘関節伸展位での動作が可能と なった。結果、各筋の過剰収縮が減少し、NRSが左肩甲帯、 8から0と消失し、前腕部8から4と減少したと推測した。 上肢痛が消失、減少したことで前上方リーチ動作を繰り 返し円滑におこなうことが可能となり動作の安定性が向 上したと推測した。 三角筋全線維の筋電図積分値相対値が増加したことに 図 5 初期評価、最終評価時の棘下筋斜走線維筋、僧帽筋上部線維、三角筋全線維の筋電図積分値相対値 棘下筋斜走線維は初期評価時よりも筋活動が増加し、僧帽筋上部線維は初期評価時よりも筋活動が低下した。三角筋の 全線維は最終評価時に筋活動が増加した。

(7)

関して述べる。初期評価時の前上方リーチ動作では、棘 下筋斜走線維の機能低下により、三角筋全線維の同時収 縮が生じることで運動時の肩関節の安定性を代償した結 果、運動性が低下し三角筋全線維、僧帽筋上部線維に疼 痛が生じたと考えた。最終評価時の相対値では、初期評 価時と比較し棘下筋斜走線維の相対値が増加し、同時に 三角筋全線維も増加した結果となった。棘下筋斜走線維 の挙上角度に応じた外旋機能が向上したことで、三角筋 前部・中部線維は上腕挙上トルクとして機能が発揮され た。三角筋後部線維は肩関節外旋補助筋として機能した。 三角筋各線維が機能分化した結果、三角筋全線維の相対 値が増加したと考えた。 本症例は、肩関節外旋MMTや棘下筋テストにより肩 関節外転 ・ 外旋90°位および上肢下垂位での外旋の等尺 性の機能低下を認めなかったが、肩関節屈曲60°以降か ら前上方にリーチするまでの動的な評価において棘下筋 斜走線維の機能低下を認めた。既存の静的な等尺性の評 価のみでは詳細な機能障害を抽出できなかったが、動的 な臨床評価を取り入れたことが本症例の前上方リーチ動 作における機能障害を抽出できたと考えた。 前上方リーチ動作は上肢を構成する諸関節の連鎖的な 運動である。本症例のように肩関節の機能障害により連 鎖的に他の関節に悪影響を及ぼすことが予測される。前 上方リーチ動作は肩関節、肩甲胸郭関節、肘関節の適切 な連鎖運動を理解する必要がある。 まとめ 1. 前腕肢位を回外位に規定した閉鎖性運動での前上方 リーチ動作を観察した。 2. 棘下筋斜走線維の機能低下による代償動作が疼痛に 関連していた。 3. 棘下筋の機能を各線維ごとに評価し、理学療法をお こなった結果、肩甲帯、上腕部および前腕部の疼痛が 減少した。 4. 本症例の前上方リーチ動作の評価において、動作に 類似した動的な評価が重要であった。 文 献 1) 楠貴 光:上肢リーチ動作の評価と運動療法.関西理学 18: 39–46, 2018. 2) 井尻朋人:筋電図波形の詳細な分析によりみえてくる臨床 的なヒント.関西理学 17: 41–46, 2017. 3) 園尾萌香・他:発症から 8 年が経過した片麻痺患者のリー チ動作の獲得を目指して— 生活期における脳卒中片麻痺患 者に対するクリニカルリーズニング—.理学療法 — 臨床・ 研究・教育 24: 88–92, 2017. 4) 筒井廣明・他:投球障害肩 — こう診てこう治せ,第 1 版. p64,メジカルビュー,2004. 5) 井尻朋人・他:筋電図データから肩甲帯機能を考える.関 西理学 19: 17–26, 2019.

6) Kido T, et al.: Dynamic stabilizing function of the deltoid muscle in shoulders with anterior instability. Am J Sports Med 31: 399– 403, 2003.

7) Boettcher CE, et al.: Standard maximum isometric voluntary contraction tests for normalizing shoulder muscle EMG. J Orthop Res 26: 1591–1597, 2008.

8) Järvholm U, et al.: Intramuscular pressure and muscle blood flow in supraspinatus. Eur J Appl Physiol Occup Physiol 58: 219–224, 1988.

参照

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