Author(s)
仲宗根, 忠真
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(21): 21-28
Issue Date
2014-03-24
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/18203
目次 一 問題の所在 二 違憲理由として如何なる要因を挙げるべきだったか 三 違憲判例の効力に限界を設定すべきか否か 四 仮に違憲判例の効力に限界を設定する場合には如何なる内容が妥当か 一 問題の所在 1 本稿は、当職が弁護士業務の一環として最高裁に特別抗告した事案と同一の争点(非嫡出 子の相続分差別の合憲性)に関する判例について愚見を披瀝するものである。即ち、当職は 平成12年6月30日に死亡した被相続人(父)が認知した非嫡出子4名の代理人となり、家裁 の審判において民法900条4号但書前段の規定(本規定)を適用して非嫡出子の相続分を嫡 出子の2分の1として算定した遺産分割審判に対して、本規定が憲法14条に反するとして抗 告し、その抗告を棄却した高裁の決定に対して、最高裁に特別抗告を行った。 最高裁第二小法廷は平成21年9月30日に特別抗告を棄却する決定を下したが、欠員1名で 4名構成となる裁判官の内、3名が合憲(内1名は補足意見を付した)、1名が違憲の反対 意見であった(最高裁平成20年(ク)第1193号遺産分割申立事件の審判に対する抗告棄却決 定に対する特別抗告事件)。 この平成21年決定の補足意見は、本件の憲法適合性判断基準時である平成12年6月30日以 降において国民意識の変化や非嫡出子の出生数の増加、諸外国・国連の動向等に鑑み現時点 においては違憲の疑いが極めて強いとしながらも、事案毎に本規定の適用が不統一になるこ とへの配慮から違憲判断を差し控えるべき旨判示しており、法改正が実現されなければ最高 【論文】 専 門 分 野:民法(親族法・相続法)
キーワード:非嫡出子、an illegitimate child、民法900条4号但書、法律婚尊重、対立利益主体適格、 法的安定性、違憲判例の効力制限、付随的違憲審査制
Discriminatory Treatment for Child's Inherited Property Born out of Wedlock
仲宗根 忠 真*
Tadamasa NAKASONE
非嫡出子の相続分差別について
裁が違憲判断を下すのは時間の問題であるとの認識が高まると同時に、どのようにして法的 安定性を図るのかについて関心が高まった*1。 2 それから4年後の平成25年9月4日、ついに最高裁は判例変更のために大法廷を開き、本 規定を違憲無効とする二つの決定(事案は異なるが決定要旨は同一)を下した(最高裁平成 24年(ク)第984号、第985号平成25年9月4日大法廷決定(第1決定)及び最高裁平成24年(ク) 第1261号平成25年9月4日大法廷決定(第2決定)。以下、両決定を併せて「本決定」という。)。 3 本決定については、当該事案の解決にとっては妥当な結論を導いた点で評価するものの、 以下に述べるとおり、違憲理由と違憲判例の効力の面で重大な欠点があると考える。 4 まず、本決定は違憲理由として非嫡出子の割合増加や日本の国民意識の変化あるいは諸外 国における立法動向などといった内容的に漠然とし、かつ、時間と共に変化し流動的である 社会的要因ないし心理的要因を挙げており、曖昧模糊とした印象を拭えず、国民(特に伝統 的家族観の保持を主張する守旧派)や国会に対する説得力の点で疑問である。例えば、一時 的には差別廃止法が成立しても(国会では平成25年12月5日に民法の一部を改正する法律が 成立し同月11日に公布・施行され平成25年9月5日以降に開始した相続については本規定が 削除された民法が適用される)、将来において復活したり別の形態の差別規定が新設される 虞がある。 なお、さすがに最高裁としても出生数の多寡、諸外国と比較した出生割合の大小などが法 的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえないと断っているが、実際にはこれらの流動的 要因を決め手に結論を導いており、弁解としての意味はない。 5 次に、本決定は違憲判決の効力について、法に内在する法的安定性の要請、付随的違憲審 査制、違憲判例の個別的効力性を前提に、本決定における相続開始時(第1決定では平成13 年7月、第2決定では平成13年11月。)を基準時として、基準時以降本決定日以前に行われ た遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判については法律関係が確定的になったことか ら違憲判例の効力が及ばないとし、他方、基準時以前に開始された相続については法律関係 が未確定であっても違憲判例の効力が及ばない旨判示しているが、抽象的で漠然とした法的 安定性の確保を理由に非嫡出子に対する差別ひいては非嫡出子の個人の尊厳を侵害する本規 定の適用を容認すること及び偶然の事情に過ぎない本決定における相続開始時を違憲判例の 効力の時的基準・時的限界とすることは極めて遺憾である。 6 最高裁としては、過去の判例との整合性を保つ観点から、違憲理由の背景に可変性を持つ 国民意識の変化を据えることで過去の判例当時とは状況が異なっていることを示しつつ、違 憲判例による社会的混乱・法的安定性の侵害を最小限に抑えるために時的限界を設定し、尚 かつ、具体的な時的限界の年月日を社会的ないし心理的要因が顕著に認められる時点と擬制 できる本決定における相続開始時とすることで、形式的・論理的にも実質的・内容的にも妥 当な解決基準になると考えたのだろう。 7 しかし、私から見れば、最高裁は違憲理由に国民意識等の不安定要素を混入させたことで 司法に対する国民の信頼を低下させると共に、立法府に対する立法指針の付与機能の点から も脆弱性を抱え込み、さらに違憲判例の効力の時的限界を本決定における相続開始時という 偶然かつ固定的・画一的な事項に求めたために非嫡出子への差別解消・非嫡出子の個人の尊
厳確保を最大限に図るべきという正義公平の理念の実現、換言すれば結果の妥当性も損ねて いる。 そこで、私は本決定に対する批判的検討及び本決定によっては救済されない非嫡出子の救 済可能性を探るため、①違憲理由として如何なる事項を挙げるべきだったか、及び、②違憲 判例の効力に限界を設定すべきか否か、③仮に限界を設定する場合には如何なる内容が妥当 か、という三つの側面から検討を進めたい。 二 違憲理由として如何なる要因を挙げるべきだったか 1 本規定を違憲と評価することを妨げてきた本規定の立法理由は真に成り立つか(非嫡出子 保護と対立関係に立ちうる利益主体・利益客体の不存在) ⑴ 立法理由の前提が成り立たないこと 本規定の立法理由について、最高裁平成7年7月5日決定(民集49巻7号1789頁・判例 時報1540号3頁=平成7年判例)は、「民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続 分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定 の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される」と判示し、法律婚の尊重 と非嫡出子保護の利益調整に求めている。 このような立法理由は、非嫡出子に相続権を全く与えない立法的選択肢もあることを前 提にして、恩恵的に非嫡出子にも嫡出子の半分の相続権を付与することは非嫡出子にとっ て利益となるから正当な立法であるという思考過程の上に立って初めて成り立つ論法であ る。しかし、そもそも非嫡出子に相続権を全く付与しない立法が憲法の下で許されるのだ ろうか。 最高裁も、かかる立法は立法府の裁量を逸脱した不合理な差別として違憲と判断したは ずである。そのような立法は非嫡出子の人格的存在性・人格的価値を全面的に否定し、正 面から個人の尊厳原理に反するからである。 かかる理解を前提にすれば、法律婚尊重と非嫡出子保護の利益調整という立法理由が憲 法の下で成立し得ないことが論理的に帰結される。 ⑵ 法律婚尊重が憲法上の要請でないこと 仮に非嫡出子に相続権を全く付与しない立法が憲法の下で許される(加えて世界人権宣 言や国連B規約にも反しない)という前提に立脚した場合、法律婚尊重と非嫡出子保護の 利益調整という立法理由は成立し得るだろうか。まず、非嫡出子保護、非嫡出子への不合 理な差別禁止という要請は憲法13条、14条に基づく以上、法律婚尊重という要請も憲法上 の要請でなければ不均衡であり、対立利益としての衡平を欠く結果、直ちに、あるいは少 なくとも厳格な違憲審査基準を適用した上で、違憲の結論が導出される。 そこで法律婚尊重という要請が憲法上の要請か否か検討するに、憲法24条1項は個人の 尊厳原理に立脚する観点から、婚姻は当事者の意思だけに基づくべきこと(自由婚姻)を 保障する趣旨で、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立すると規定している。これは前近 代的な家長や父母が配偶者を選んだり許可を与える制度を廃止する趣旨と解されるところ (民法旧規定では男子30歳、女子25歳までは父母の同意を必要とした)、戸籍制度が家制度
の残滓の側面を色濃く有していることに鑑み、民法739条1項が規定する戸籍の届出も排 除する趣旨と理解すべきである(目的論的解釈としての拡大解釈)。 民法739条1項で戸籍の届出を規定しているのは効力要件の次元であり、憲法24条1項 の成立要件とは次元を異にしているから民法739条1項は違憲ではないという理解も成り 立つ余地があるが、憲法24条1項の趣旨(個人の尊厳を確保するための自由婚姻)からは 遠ざかることになる。また、憲法24条2項では婚姻は個人の尊厳に立脚して制定されなけ ればならない旨規定しており、個人の自己決定権の尊重に資する自由婚姻及び個人の尊厳 を侵害してきた家制度の残滓である戸籍制度からの開放が要請される。 従って、憲法は戸籍の届出を内容とする法律婚を忌避しているという結論が自然かつ目 的論的解釈の帰結であり、少なくとも法律婚尊重という要請は憲法上の要請とは評価し難 い。とすれば、仮に非嫡出子に相続権を全く付与しない立法が憲法の下で許されるという 前提に立脚した場合であっても、法律婚尊重という反憲法的価値の要請と非嫡出子保護と いう合憲法的価値の要請の利益調整という立法理由は成立し得ない。 ⑶ 立法理由が妥当しないケース 次に、百歩譲って法律婚尊重と非嫡出子保護の利益調整という立法理由が憲法の下で成 立し得ると仮定しても、例えば事実婚夫婦A男・B女が儲けた子(非嫡出子)について、 A男とB女が当該事実婚解消後にそれぞれ(あるいはいずれか一方だけ)別の配偶者との 間で法律婚夫婦となり儲けた子(嫡出子)との関係で、A男やB女が死亡した場合に当該 非嫡出子の法定相続分が当該嫡出子の半分になることは、法律婚の尊重に資することにな るだろうか?このような事案では、非嫡出子の誕生が法律婚の成立前に既にあったのであ り、法律婚を脅かす不貞や不貞の結果としての非嫡出子の誕生といった事態は発生してい ない。にも拘わらず、非嫡出子の犠牲の上に法律婚を尊重する必然性・関連性があるだろ うか?法律婚に対して何の脅威も実害も与えていない事実婚の結果として誕生した非嫡出 子の犠牲を強いて法律婚構成員を優遇することは、無関係の者を犠牲にして特定の者に利 益を与えるという不合理な構造であり、国会に付与された立法裁量権を逸脱している。こ のような逸脱は、法律婚が存在したが死別や離婚により法律婚が解消した後に別の相手と の交際が開始され非嫡出子を儲けた事案にも当て嵌まる(非嫡出子の父母の交際開始時に おいて既に守るべき法律婚が存在してなかったケース)。 このように、立法理由が妥当しない逸脱事案にも適用される危険性があること自体が、 本規定の合理性を失わせ、違憲の評価を招くことになる。 2 法律婚の尊重に資さないこと ⑴ 仮に法律婚尊重と非嫡出子保護という立法理由が抽象的には成り立ち得るとしても、そ もそも論で言えば、非嫡出子に不利益を課して差別することが法律婚の尊重を構成する要 素の内、法律婚の維持を図る側面、即ち法律婚の破壊を招く不貞の抑止に効果的かという 問題もある。 本規定の存在を気にして不貞を思い止まろうか否かと逡巡し悩む法律婚配偶者が仮に存 在したとしても、遺言で本規定を排除できることを容易に認識できるので、抑止力として は余りにも弱い。要するに、大山鳴動して鼠一匹の諺の如く、非嫡出子を差別するという
個人の尊厳原理への大胆な侵犯を惹起しながら、得られる効果は微々たるものなのであり、 このような機能不全の立法理由が果たして差別の合理性を基礎付けるものとして憲法の下 で許容されるだけの資質を有しているだろうか? もちろん、中には非嫡出子差別規定の存在は知っているが遺言で相続割合を平等に出来 ることは知らなかった者もいるだろうが、そのような中途半端な理解をしている者を想定 して差別待遇規定を設けることは不当である。 不貞に躊躇するとすれば、それは非嫡出子差別規定の存在とは無関係の事項(道徳的規 範意識、法律婚配偶者への愛情を裏切ることの後ろめたさ等)が要因となっているのが通 常ではないか。 ⑵ また、法律婚尊重を構成する要素の内、不貞の抑止ではなく、非嫡出子の相続分を減ら すことで結果的に嫡出子の相続分を増やし、法律婚配偶者を含めた法律婚家族の生活保護 に資するという側面を以て法律婚尊重という立法理由が実現されるという解釈の余地もあ る *2。 しかし、これについても遺言で非嫡出子の相続分を嫡出子と同じにすることができるの だから、説得力に乏しいし、個人の尊厳=個人主義と緊張関係を孕む法律婚家族という集 団・団体には非嫡出子の利益と等価の利益を見出すことはできない。日本国憲法は個人の 利益と集団の利益を秤に掛けて利益衡量することを想定していないのである。それが個人 主義からの当然の帰結である。個人の利益を制限する根拠になり得るのは他の個人の利益 のみである。国家の利益でも社会の利益でも中間団体の利益でも家族の利益でもない。法 律婚家族という概念は、非嫡出子に不利益を課して差別することを正当化するだけの対立 利益主体適格を有しないのである。 ⑶ 他方、法律婚家族を構成員毎に解体して法律婚配偶者の利益や嫡出子の利益を対立利益 主体に据えたとしても、非嫡出子を差別することで法律婚配偶者の相続割合は増えないし、 非嫡出子の犠牲の下に嫡出子を優遇する合理的理由も見出せない。嫡出子が法律婚配偶者 の扶養義務を負うケースは多いだろうが、扶養義務の履行は嫡出子自身の生活レベルに応 じて可能な範囲で行えば足りるのであり、非嫡出子の相続分を減らして嫡出子の相続分を 増やす理由としては弱いし、法律婚配偶者の扶養については非嫡出子を差別しないでも配 慮する立法措置が可能であるから(例えば被相続人の生存配偶者に対する将来の扶養義務 の履行を予め想定して寄与分類似の制度で扶養義務者の相続分を増やす等)、個人の尊厳 を蹂躙する結果となる非嫡出子差別立法に結びつける必要はない。 ⑷ 更に、法律婚家族構成員の居住利益を守るために非嫡出子の相続分を減らす必要がある という主張も考えられるが、遺産である居住用家屋を法律婚家族構成員の使用に供する方 法としては、法定の使用権を設定したり、遺産分割における代償金の支払いを長期分割可 能とする等の立法措置で解決できる問題である。非嫡出子を差別する必要性は乏しい。 3 以上の検討から浮き彫りになったのは、本規定の立法理由は幻想に過ぎず、仮に立法理由 が成り立つとしても極めて脆弱なものであり、個人の尊厳原理を犠牲にしてまで擁護するに 値しないということである。従って、本決定が採用すべきであった違憲理由は、非嫡出子の 利益保護と対立する利益主体及び対立利益の双方ないし少なくとも一方が欠如しており、本
規定の立法理由が実体のない空虚なものであったことから、端的に個人の尊厳原理に反し違 憲であるというものである。 私の理解からすれば、平成7年判例は、法律婚の尊重を図るための法律婚配偶者と嫡出子 の優遇という、存在論的に元々不存在の立法理由もしくは価値論的に日本国憲法上成立し得 ない立法理由を挙げて合憲の結論を導いたことに帰するが、その論法は架空合憲理由を持ち 出したという意味で、合憲理由捏造論法である。仮に立法理由が存在したとしても、非嫡出 子の利益を侵害してまで法律婚を尊重する必要性はなく、合憲理由の内実を伴っていない。 三 違憲判例の効力に限界を設定すべきか否か 1 違憲判例の効果論について検討するに、本決定が違憲判例の効力に時的限界(当該事案で の相続開始時を基準時として基準時以降)及び事項的限界(基準日以降でも調停等で確定し た事案には効力が及ばない点)を設定したことは不当である。そもそも、非嫡出子の個人の 尊厳を侵害する本規定は時間的にも事項的にも効果を否定されるべきである。本決定は法に 内在する法的安定性を理由に違憲判例の効力に時的限界を設けるが、法的安定という要請が 憲法上の要請か疑問である。仮に憲法に明記されていなくても法に内在するものであるから 憲法上の要請と等価である(あるいは憲法より効力が強い国際法や自然法の要請である)と 仮定しても、法的安定性の要請を満たす方法としては、遺産分割後に相続人が現れた場合に 価額償還を認める民法910条の類推適用*3、相続回復請求権の消滅時効(民法884条)の援用、 取得時効(民法162条)の援用、動機の錯誤(民法95条)における要素性(因果性、重要性) の認定厳格化、権利濫用(民法1条3項)の適用、再審開始事由の厳格な運用などが想定で きるのであり、既存制度の活用で十分に対応できる。 2 また、法的安定性確保の要請は、司法機関が考慮すべき一要素ではあっても、それは審理 対象・審理内容の外延に位置する派生的問題に過ぎず、権利侵害の救済を最優先することが 司法機関の使命である。加えて、付随的違憲審査制の下では、他の事案に及ぼす波及効果や 社会的混乱等は本来考慮対象外のはずであり、法的安定性として正面から考慮すること自体 が問題である。法的安定性を確保するために違憲判例の効力に限界を設定することは、ある 意味、司法機関が立法作用を発動するようなものであり、権力分立や国家機関相互の役割分 担・権限分掌の点からも疑問を呈したい。 3 結局、違憲判例の効力に限界を設定することは、個人の尊厳を回復するという司法機関の 最重要使命に対する認識が不十分であると同時に、権力分立への配慮も足りないと言わざる を得ない。従って、そのような限界を設定すべきではない。法的安定性を確保する方法は、 既存の制度の活用で十分に達成できるはずである。 四 仮に違憲判例の効力に限界を設定する場合には如何なる内容が妥当か 1 どうしても違憲判例の効力に限界を設定するという場合は、可及的に非嫡出子の保護を図 り個人の尊厳を貫徹する観点から、次のような時的限界と事項的限界を設定すべきである。 ⑴ 時的限界としては法制審議会総会で非嫡出子と嫡出子の相続分を平等とする条項を含む 民法の一部を改正する法律要綱案を決議した平成8年2月26日を基準時として、同日以降
に開始された相続については本規定の適用が排除され、基準時以前に開始された相続につ いては本規定が排除されないとする(時効や除斥期間に準じて本決定から20年前の日(平 成5年9月4日)を基準時とすることでも遡及効を制限できるが技術的に過ぎる印象を否 めない)。 ⑵ 事項的限界としては遺産分割協議、調停、審判等で解決した事案のうち、非嫡出子が不 貞行為の結果誕生したと推定される類型であり、かつ、被相続人が生前に法律婚家族への 扶助義務を十分に履行しておらず、かつ、非嫡出子が遺産の形成・維持に貢献したと評価 できず、かつ、生存法律婚配偶者の居住用建物を同人が取得するために必要な代償金を同 人の相続分から捻出することが困難であるものについては、本規定を排除することができ ないとする。 2 上記の内容は論理必然的なものではなく、便宜上の観点から析出された結果である。従っ て、他により有益な内容が考案された場合には交代して構わない。 3 また、権力分立への配慮から、立法的措置が実施される場合は、立法的措置が優先される べきものである。そのような意味で、便宜的かつ暫定的なものである。ただ、本決定が打ち 出した違憲判例の効力の限界に比べれば、上記限界内容が非嫡出子の保護、ひいては個人の 尊厳への配慮に適合的であると自負する。 参考文献 1 君塚正臣・「平成21年決定判例解説」・民商141巻4・5号119頁・2010年 2 二宮周平・「婚外子相続分差別を違憲とした最高裁大法廷決定を学ぶ」・戸籍時報703号10頁・ 2013年 3 棚村政行・「婚外子相続分差別違憲決定」・『自由と正義』月間第65巻第1号97~106頁・2014 年 4 水野紀子・「子どもの平等権」・『家族・社会と法』10号155頁以下・1994年 5 遠山信一郎・「非嫡出子差別最高裁裁判所法令違憲裁判への始動」・『法学新報』120巻1・2 号351頁・2013年 6 二宮周平・「非嫡出子の相続分差別と法の下の平等」・『ジュリスト』1091号74頁・1996年 7 棟居快行・「非嫡出子の相続分を定めた民法900条4号但書の合憲性」・1002号23頁・1992年 8 米倉明・「非嫡出子の相続分差別は合憲か」・『家族法判例百選』・152頁・1995年 9 松原正明・「最高裁平成25年9月4日大法廷決定」・『戸籍時報』703号21頁・2013年 10 石川健治・大村敦志・「最高裁判所民事判例研究平成7年大法廷決定」・法協114巻12号1566 頁以下・1997年 11 床谷文雄・私法判例リマークス47・77頁以下・2013年 * 沖縄大学法経学部 非常勤講師、弁護士 1 君塚正臣・平成21年決定判例解説・民商141巻4号119頁・5号537頁・2010年は事案の解決 を本来の任務とする司法権は法令の違憲的運用を避け違憲部分を排除するか合憲的解釈を選
択すべきだが、それが無理ならば立法を待つことなく当該法令を違憲とすべきであると指摘 する。 2 水野紀子・「子どもの平等権」『家族・社会と法』10号155頁以下・1994年は配偶者相続権の 拡大を条件に非嫡出子の相続権の平等化を提言されている。 3 二宮周平・婚外子相続分差別を違憲とした最高裁大法廷決定を学ぶ・戸籍時報703号10頁・ 2013は民法910条の類推適用を提言されている。