実践研究 ■要旨:本研究では、就労継続支援 B 型事業所(以下、「事業所」)において行動コンサルテーションを実施した。 対象は、他者に業務と無関係な不適切発言をすることで本人のみならず他利用者の業務遂行にも支障をきたしていた ASD 成人である A さんと事業所に通所する利用者全体の支援を担当する職員 4 名であった。ベースライン期におい て、A さんの不適切発言は 1 日あたり平均約 11 回観察されていた。これに対して介入期では、職員らに① A さんの 不適切発言に対応してしまうのではなく、業務遂行を促す声かけを行うか聞こえないふりをする、さらに、② A さ んの適切な業務遂行行動に対して言語称賛を提示する、以上 2 点を提案した。その結果、介入期以降、職員の適切な 対応の割合が大幅に増加し、それに呼応して、A さんの不適切発言は半減した。そして、フォローアップ期におい てもこの傾向は維持した。このことから今回の行動コンサルテーションは一定の効果を示したと言える。しかしなが ら、外部のコンサルタントによる直接観察に対する職員の抵抗感やコンサルティ各々が抱く課題意識への配慮におい て留意が必要な課題が示され、福祉施設の現状にも適合した行動コンサルテーションおよびコンサルティが複数名参 画することを念頭に置いた支援環境整備の更なる実践の蓄積と検討も必要であることが示唆された。 ■キーワード:福祉施設、ASD 成人、不適切発言、行動コンサルテーション、コンサルティ・グループ
ASD 成人における業務遂行中に不適切発言をする行動の改善
―就労継続支援 B 型事業所職員への行動コンサルテーションの実践を通して―
Repeating irrelevant words on work performance of an autistic spectrum disorder man: Behavioral consultations with supporters in employment support settings for disabled people (Type B)
植田 隆博(山口大学大学院 東アジア研究科)
Takahiro Ueda(Yamaguchi University Graduate School East Asian Studies) 松岡 勝彦(山口大学)
Katsuhiko Matsuoka(Yamaguchi University)
Ⅰ.問題の所在と目的
対象者(クライエント)の行動問題の解決を図る方 法の 1 つとして「行動コンサルテーション」がある (Erchul&Martens,2002;加藤・大石,2004;2011 など)。行動コンサルテーションとは、問題の同定、 問題の分析、指導介入の実施、指導介入の評価の 4 段 階を通してコンサルタント(専門的な知識を有する第 三者)がコンサルティ(クライエントの直接的な支援 者)に対しクライエントの支援に関する提案を行う 間接的な支援モデルである(Kratochwill&Bergan, 1990)。また、コンサルタントは、介入の整合性に留 意し、コンサルティによる支援の改善や維持に努める など、行動コンサルテーションはクライエントの行動 問題の解決のみならずコンサルティの支援行動変容に も着眼点を置く特徴を有している(Gresham,1989; 加藤・大石,2004;2011;野口・加藤,2010)。これ までの行動コンサルテーションは、主に欧米において 研究が行われてきたが、近年日本においても数多く の実践的研究が報告されている(道城,2012;梶・藤 田,2006;古田島他,2006 など)。日本において実践 されてきた行動コンサルテーション研究の多くは、学 校場面において不適応行動を示す児童・生徒(クラ イエント)とその担任教員等(コンサルティ)1名を 対象として実施されてきた(野呂・藤村,2002;松 岡,2007;道城,2012 など)。これらは、学齢期の子 どもの不適応行動の改善に寄与しただけでなく、学校 組織全体の支援体制整備や特別支援教育コーディネー ター養成など学校での文脈に適合した形で行動コンサ ルテーションのノウハウが援用されている(加藤・大 石,2004;2011 など)。さらに、近年の行動コンサル テーションでは、福祉施設や家庭などでも実施がなされ、その効果が報告され始めている(森弘・松岡, 2007;大石・高橋,2006;植田・松岡,2014 など)。 ところで、主に福祉施設や特別支援学校等では、ク ライエントに対し、コンサルティ 1 名で支援を実施す る個別支援のみならず、クライエントの支援を複数 のコンサルティで担うチーム・アプローチ的支援が多 く導入されている。このような状況に鑑みてか、例え ば、長谷川・松岡(2018)では、クラス担任の教員と 加配の支援員の 2 名をコンサルティとして行動コンサ ルテーションを実施し、複数のコンサルティによる一 貫した支援の提供が効果的であったことを報告してい る。しかしながら、クライエントの支援に関わるコン サルティが、2 名よりも多くなる場面も往々にして存 在する。当然ながら、行動コンサルテーションでは、 コンサルティによる支援実施が正確かつ継続的に行わ れるように、コンサルタントは様々な支援環境整備を 行う(加藤・大石,2004;2011 など)が、このよう に 3 名以上の複数のコンサルティが支援に参画する場 合には、具体的な支援方法がコンサルティ全員に共有 されるよう一層配慮しつつ、各コンサルティの支援技 術のばらつきに対応しうる支援環境整備が強く求めら れる。例えば、コンサルティ全員で支援方法を共有す る面接機会を設定しつつ、誰もが常時支援方法を確認 できるような支援マニュアル作成や各コンサルティへ の定期的な面接などの支援結果のフィードバックな ど(Erchul&Martens,2002 など)を複層的に実施す ることが殊に肝要になろう。しかしながら、先述の通 り、これまでの行動コンサルテーション研究において は、参画するコンサルティは 1、2 名であることがほ とんどであり、3 名以上の複数のコンサルティが参画 する行動コンサルテーションの検討自体が未だなされ ていない。 ところで、いわゆる「大人の発達障害」への支援に 関連して梅永(2010)は、青年期以降のクライエント の就労場面等において、クライエント自身の特性やラ イフスキルの不足による課題に直面したり、「パニッ クを起こす」等を含む問題が生じている実情を指摘し ている。これは、青年期以降のクライエントが多く利 用する福祉施設にとっても喫緊の課題となっている。 このような状況に対し、障害者就労継続支援 B 型事 業所を含む福祉施設等では、主にクライエントに対す る支援の計画を立案する職員(例えば、現場の責任者 など)と、その計画を基に主に支援実施を担う現場職 員らが連携し、支援を実施する場面がしばしば見受け られる。このような支援体制においても、クライエン トへ一貫した支援を提供するため、支援の計画をする 職員が立案した具体的な支援方法が、支援実施を担う 複数の現場職員にも共有されるように配慮し、尚且つ その支援が維持されるような支援環境整備を行うこと が強く求められるだろう。 以上のことから本研究では、就労継続支援 B 型事 業所(以下、「事業所」とする)において、ASD 成人 1 名による他者への業務と無関係な不適切発言の改善 を目指した行動コンサルテーションを実施した。また その中で、主に支援の計画を立案していた職員 1 名と (後述される)第一著者との協議の上で決定した支援 方法を、直接的な支援を担当する職員 3 名と共有しつ つ、職員 4 名(コンサルティ・グループ)による一貫 した支援実施を重ねて図った。なお、ここでは、(1) 事業所における行動コンサルテーションの効果、(2) コンサルティ・グループの支援環境の整備、以上 2 点 を検討した。
Ⅱ.方 法
1.参加者 (1)クライエント 20 歳代の ASD 男性(以下、A さん)1 名。事業所 が作成したアセスメント・シート(主に、保護者への 聞き取りが中心)によると、知的な遅れが認められ、 自分自身の気持ちを言語で表出することは困難であっ たが、要求については 2 語文程度で言語表出すること が可能であった。後述する職員 1 によると A さんは、 職員が手本を示しながら作業内容を説明すると、基本 的な業務(出勤時の着替えを含む朝の準備や事業所の 清掃業務、食器洗浄に加え、用紙の裁断などの事務作 業)は遂行可能であった。しかしながら、「床に寝転 ぶ」、「ビーズアート作品を机に投げつける」などの行 動上の問題が垣間見られ、その中でも業務遂行中に 作業を中断し、職員や他利用者に対して、「○○(職 員あるいは他利用者の名前)さん、△△って言って (やって)」と言葉や動作を要求する(以下、「不適切 発言」)行動が頻発していた。この不適切発言によっ て A さん自身の業務が停滞するだけでなく、他利用 者が不適切発言に対してその発言通りに対応をするこ とで、その利用者の業務も一定時間以上滞るなどの影 響が出ていた。 (2)コンサルティ・グループ ①職員 1:30 歳代の常勤職員であり、後述する職員2,3,4 の上司にあたる人物。役職は管理者であった。 精神保健福祉士ならびに児童指導員の資格等を有し ており、障害のある人と関わる仕事は 13 年目であっ た。また、4 名のうちで唯一、応用行動分析に関わる 基本的な知識を大学時代に学んでいた。さらに、事業 所内の支援を推進する中心人物であり、これまでも主 に職員 1 が施設利用者らの支援方法について検討して いた。直接的に利用者支援を担うこともあったが、他 業務のため、事業所を留守にすることも少なくなかっ た。A さんの不適切発言を含む行動上の問題に対し ては、大きな反応を示さず、「A さん仕事中ですよ」 と作業実施を促す声かけなどを行っていた。研究開始 前より職員 1 から「1 日に 10 名程度以上の利用者の 支援を職員全員で行っているが、その中でも A さん のいくつかの行動上の問題が気になっている。職員も それらに対してうまく対応できておらず困っている」 と相談があった。 ②職員 2:精神保健福祉士の資格を有する 50 歳代 の常勤職員で、主に利用者への直接的支援を担当して いた。これまで障害のある人と関わる仕事を 20 年続 けていた。 ③職員 3:40 歳代の常勤職員であり、主に利用者の 直接的支援を担当していた。事業所に勤めるまでに障 害のある人と関わる職務の経験はなく、勤続年数は 3 年。 ④職員 4:20 歳代の非常勤職員。主に利用者の直接 的支援を担当していた。事業所に勤めるまで障害のあ る人と関わる職務の経験はなく、勤続年数は 2 年。 (3)コンサルタント B 大学で特別支援教育を専攻し、応用行動分析およ び行動コンサルテーションの基本的な知識を有してい る大学院生 1 名(第一著者)。また、第一著者は、適 宜、大学教員(第二著者)からの助言等を受けてい た。 2.倫理的配慮 本研究を開始する前に、A さんの保護者と職員 1 には口頭で、職員 2,3,4 には合同でスライド資料を 示しつつ口頭によるインフォームド・コンセントを 行った。内容は、①支援ニーズのある人たちの現状 (クライエントやコンサルティが抱く日常的な困り感 やそれらに対する支援の必要性など)、②本研究は A さんのよりよい支援プログラムの検討が目的である、 ③ A さんや母親や職員を批判するものではない、④ 研究結果を公表することがあるが、その際には個人情 報の遵守に務める、以上であった。その後、説明を受 けた全員から研究に参加する旨の回答があった。 3.標的行動と測定対象行動 (1)A さんの標的行動 研究開始前における職員 1 からの報告にあったいく つかの行動上の問題のうち、ベースライン期において 最も高頻度で生起し、本人にも他者にも影響のあっ た「不適切発言」を標的行動として決定した。これを 決定する際には、職員 1 と第一著者による協議が行わ れたが、職員 1 より「(不適切発言は)せめて業務遂 行中くらいは控えてほしい」という切実な要望があっ た。A さんによる不適切発言は、先述の通り、本人 のみならず他利用者の業務遂行にまで支障を来たして いたため、この行動の改善は A さんだけでなく事業 所の全利用者の業務遂行の向上においてもメリットが あると考えられた。 (2)不適切発言の機能的アセスメント A さんの不適切発言に関する職員 1 からのインタ ビュー結果とベースライン期の記録(記録内容は、 Ⅱ .6 に後述)を基に機能的アセスメントを行った。 その結果、職員 3,4 はその発言(要求)通りの対応 を行う、職員 2 は「~(業務内容)をしようね」と指 示しながらも不適切発言に従うなどの対応を行うこと で、A さんの不適切発言は正の強化(要求および他 者からの注目獲得)により維持されていた可能性が示 された(なお、その他の行動上の問題も注目獲得の機 能があると推測された)。しかしながら、A さんの業 務遂行行動などの適切な行動に対しては、職員が言語 称賛や激励等の正の強化子を提示することはほとんど 観察されなかった。 (3)職員らの測定対象行動 業務遂行中における A さんの不適切発言の低減を 図るため、職員による A さんに対する対応について も次のような測定対象行動を設定した。つまり、① A さんによる不適切発言に職員が対応した行動、な らびに② A さんの業務遂行行動に対して職員が言語 称賛を提示した行動であった。 4.研究デザイン 本研究は、ベースライン期、介入 1 期、介入 2 期、 フォローアップ期の 4 フェイズで構成され、その後、 事後評価が行われた。
5.本研究におけるコンサルタントの動き 本研究は、X 年 10 月から X 年 12 月まで行われた。 この期間、第一著者は、表 1 のように職員 1 との面接 を 3 回、職員 1 を除く職員 3 名には、3 名合同の面接 を 2 回行った。そして介入 1 期および介入 2 期におい て、職員 4 名それぞれに個別面接を行った(表 1 参 照)。 職員による一貫した支援を維持するために次のよう に支援環境整備を行った。つまり、介入 1 期前におけ る職員 2,3,4 への面接では、職員 1 の課題意識や具 体的な支援方法の提案などに加え、第一著者より応用 行動分析学に関する簡単なレクチャーを行った。さら に介入 1,2 期では、第一著者が職員に提案した対応 についてイラスト等にて記した紙資料をファイルに綴 じたもの(以下、「支援マニュアル」)を作成し、職 員 1 との相談の上で事業所の事務室に設置した。ま た、職員による A さんへの対応の変化および A さん による不適切発言の変容表と、職員による対応の変化 が A さんの不適切発言低減に成果をもたらしたこと を強調したコメント(例えば、「皆さんの対応によっ て A さん不適切発言が順調に減ってきています」等) が記入された A4 判の「結果表」を、職員 1 と相談の 上で事務室のロッカーに掲示した。そして、表 1 にも あるように、介入 1,2 期における第一著者による直 接観察終了ごとに、職員による対応の変化および A さんの不適切発言の変容に関する報告と「A さんの 不適切発言の低減は職員の対応のおかげてある」旨の フィードバックを行った。また、適切な対応が見られ なかった職員に対しては A さんへの対応方法の確認 も重ねて行った。 6.データの記録および処理方法 業務遂行中において A さんによる不適切発言が生 起した時刻、発言相手、不適切発言の内容、これに対 して発言相手からどのような対応がなされたかを第一 著者が直接観察を通してそれぞれ記録した。さらに、 A さんの業務遂行行動の業務内容と開始時刻、これ に対する職員による言語称賛の有無を併せて記録し た。第一著者はこれらの記録をもとに① A さんによ る不適切発言の生起回数と、② A さんによる不適切 発言に対する職員対応の割合(A さんによる不適切 発言に職員が対応してしまった行動の回数/ A さん による不適切発言のうち発言の対象者が職員であっ た回数× 100)、③ A さんの業務遂行行動に対する職 表 1 職員との面接および個別面接の概要 面接 職員 1 研究開始直前(約 20min) A さんの行動上の問題(例えば、「不適切発言」をはじめ「床に寝転ぶ」、 「ビーズアート作品を机に投げつける」など)とその状況の聴取を行っ た。また、A さんの行動に関する記録方法についても協議を行った。 介入 1 期開始前(約 20min) A さんの行動上の問題におけるベースライン期の状況を報告した。こ れを基に協議を行い、最も回数の多かった不適切発言を標的行動とし た。また、不適切発言に対する具体的な支援方法について重ねて協議、 検討を行った。 研究終了後(約 30min) 研究を通しての、職員による A さんへの対応の変化および A さんの 不適切発言の変容に関する報告および事後評価を行った。 職員 2,3,4 介入 1 期開始前(約 30min) ※職員 1 における介入 1 期開 始前の面接後に実施 職員 1 に A さんの不適切発言に対する課題意識があることを伝えた。 その際、ベースライン期における A さんの不適切発言の回数の推移の グラフを併せて提示した。その後、スライド資料を提示しつつ、応用 行動分析学に関するレクチャー(三項随伴性・強化の原理・消去)お よび A さんの不適切発言への対応に関する説明を行い、実施を依頼し た。 ※職員 1 は、他業務のためこの面接には参加することができなかった。 研究終了後(約 20min) ※職員 1 における研究終了後 の面接後に実施 研究を通しての職員らによる A さんへの対応の変化および A さんの 不適切発言の変容に関するそれぞれの表を提示しつつ結果の報告を 行った。重ねて、事後評価を実施した。 ※職員 1 は、他業務のためこの面接には参加することができなかった。 個別面接 職員 1,2,3,4 介入 1 期および介入 2 期にお ける第一著者による直接観察 終了ごと(約 5min) 職員による対応の変化および A さんの不適切発言の変容に関する報 告と「A さんの不適切発言の変化は職員の対応のおかげてある」旨の フィードバックを行った。その際、職員の対応変化および A さんの不 適切発言の変容を表にしたものも併せて提示した。また、必要に応じ て A さんへの対応方法の確認をした。 ※ただし、各職員が欠勤あるいは不在であった際、個別面接は行われ なかった。
員の言語称賛提示の割合(A さんの業務遂行行動に 対して職員が言語称賛を提示した業務数/ A さんに よって遂行された業務数× 100)を算出した。 7.手続き (1)ベースライン期:X 年 10 月 14 日、22 日、23 日、28 日、29 日、30 日の 6 日間測定された。この期 間、第一著者から職員全員に対して支援の助言および 提案ならびにフィードバックは一切行わなかった。 (2) 介 入 1 期:X 年 11 月 10 日 の み 測 定 さ れ た。 ベースライン期において、A さんによる不適切発言 に対する職員対応の割合が平均 72%であったこと、 他方 A さんの業務遂行行動に対する職員の言語称賛 提示の割合は平均 25%であったことを第一著者から 職員 1 の面接および職員 2,3,4 との面接にてそれぞ れ伝えた。なお、支援方法については、第一著者と職 員 1 との面接にて① A さんによる不適切発言に対応 してしまうのではなく、聞こえないふりをするか業務 遂行を促す声かけを行う、また② A さんの業務を遂 行する姿を見かけたら言語称賛を提示する(例えば、 「通りがかりにほめるような声かけをする」等)こと、 以上 2 点を協議の上で決定した。そして、その後に実 施された職員 2,3,4 と第一著者との面接にて、①お よび②の支援実施を職員 1 以外の職員にも依頼した。 (3)介入 2 期:X 年 11 月 12 日、14 日、17 日、19 日、26 日、27 日の 6 日間測定された。介入 1 期(11 月 10 日)の個別面接において職員 2 より「(A さん を)褒めるタイミングがいまいち分からない」とい うコメントがあったこと、さらに 11 月 10 日におけ る A さんの業務遂行行動に対する職員の言語称賛提 示の割合がベースライン期とほぼ変化がなかったこと に鑑み、新たに第一著者が A さんの業務遂行中に言 語称賛を提示するタイミングを職員 3 名(職員 2,3, 4)に示した。言語称賛を提示するタイミングは、① A さんの各業務遂行中に A さんの付近約 1m に職員 が接近した際、あるいは② A さんの各業務終了直後 に行うこととした。ただし、職員全体の多忙性に鑑 み、A さんの業務遂行時に職員が他の利用者の支援 にあたっていた場合や、職員 4 名のうち 1 名でもすで に A さんに言語称賛を提示していた場合には他の職 員には重ねて提示しないこととした。なお、介入 2 期 における手続きの変更については、職員らへの「個別 面接」にてそれぞれに提案し、各職員からは肯定的な 返答を得ていた。 (4)フォローアップ期:X 年 12 月 3 日、5 日の 2 日間測定された。ベースライン期と同様に第一著者か ら職員に向けて助言および提案ならびにフィードバッ クは行わず、支援マニュアルおよび結果表は事務室よ り撤去した。 (5)事後評価:研究終了後、職員 1 には口頭で、そ の他の職員 3 名には書面にて事後アンケートを実施し た。内容は、①研究の効果(書面では「大いにあっ た」、「まあまああった」、「あった」、「あまりなかっ た」、「全くなかった」から選択)、②研究の負担感の 有無(書面では「大いにあった」、「まあまああった」、 「あった」、「あまりなかった」、「全くなかった」から 選択)、③支援内容の実施しやすさ(書面では「実施 しやすかった」、「まあまあ実施しやすかった」、「どち らでもない」、「少し実施しにくかった」、「実施しにく かった」から選択)、④全体の感想(書面では自由記 述)であった。
Ⅲ.結 果
A さんによる不適切発言の変容を図 1 に、A さん による不適切発言に対する職員対応の割合ならびに A さんの業務遂行行動に対する職員の言語称賛提示 の割合を図 2 に示した。 ベースライン期での A さんによる不適切発言の生 起回数平均は 10.8 回であった。また A さんによる不 適切発言に対する職員対応の割合は高い水準で推移し ており、その平均は 72.0%であった。職員は、不適切 発言に従う、あるいは発言に従いつつも「~(業務内 容)をしようね」と業務遂行を促すような指示を行っ ていた。しかしながら、A さんの業務遂行行動に対 する職員の言語称賛提示の割合の平均は、25%と低 い値を示した。介入 1 期においては、A さんによる 不適切発言に対する職員対応の割合が 25%と急減し、 それに伴って、A さんによる不適切発言も 7 回と減 少した。しかしながら A さんの業務遂行行動に対す る職員の言語称賛提示の割合が 38%とベースライン 期と比較して微増にとどまった。介入 2 期が開始され ると、職員より A さんの業務遂行行動に対して「す ばらしい」「えらいね」「さすが A さん」などの言語 称賛が提示されるようになり、A さんの業務遂行行 動に対する職員の言語称賛提示の割合は全体的に高 い数値を維持し、平均も 93%と 9 割を超えた。また、 A さんによる不適切発言に対する職員対応の割合平 均も 14%と介入 1 期より更なる減少を示した。A さんの不適切発言も低い数値を維持し、その平均もベー スライン期のおおよそ半分の 5.17 回となった。また、 11 月 17 日の観察終了後に職員 2 より「作業によく取 り組むようになった」、「朝の着替えがスムーズになっ た」などのコメントがあった。ところで A さんが他 利用者に不適切発言をした際、職員は「仕事をしま しょう」など作業実施を促すような指示を行ってい た。また、他利用者についても A さんに対して「仕 事するよ」などの声かけのみをするようになり、要求 通りの対応をすることが少なくなった。 また、介入 1,2 期を通して、事務所に掲示した結 果表について職員が確認する姿はほぼ見受けられな かった。しかし、事務所に設置した支援マニュアルに ついては、職員 2 のみが支援内容の確認に使用した旨 のコメントがあった。 さらにフォローアップ期では、A さんによる不適 切発言の生起回数の平均も 4 回とこれまでで最も低 い平均値となった。A さんによる不適切発言に対す る職員対応の割合平均は 25%で介入 2 期と比較する と微増したものの、12 月 3 日には職員に対する A さ んの不適切発言は 2 回しか生起しなかった。一方、A さんの業務遂行行動に対する職員の言語称賛提示の割 合平均は 89%でほぼ 9 割と高い水準であった。ちな みに 12 月 3 日においては、A さんの不適切発言のう ち 1 回は他利用者を対象としたものであり、職員に対 する不適切発言は 2 回しか生起していなかったが、職 員対応自体は 1 回のみ行われたため、不適切発言に対 する職員対応の割合は数値上 50%と高く示された。 事後評価の結果を表 2 に示した。職員 1 に対する口 頭での事後評価では、研究の効果は、「あったと思う」 との評価を得た。また、「研究の負担感の有無」につ いても、なかった旨を述べたものの、「職員 4 が(第 10月14日 10月22日 10月23日 10月28日 10月29日 10月30日 11月10日 11月12日 11月14日 11月17日 11月19日 11月26日 11月27日 12月3日 12月5日 14 12 10 8 6 4 2 0 (回) ベースライン期 介入 1 期 介入 2 期 フォローアップ期 10.83 7.00 5.17 4.00 7 12 12 13 8 13 7 6 5 4 6 4 6 3 5 は各フェーズの平均 ※ 10月 14日 10月 22日 10月 23日 10月 28日 10月 29日 10月 30日 11月 10日 11月 12日 11月 14日 11月 17日 11月 19日 11月 26日 11月 27日 12月 3日 12月 5日 100 80 60 40 20 0 ベースライン期 介入 1 期 介入 2 期 フォローアップ期 0 13 40 38 25 25 38 0 0 25 25 33 0 0 71 70 86 60 71 75 80 89 100 90 100 100 100 78 33 50% 72% 25% 14% 93% 25% 89% 業務遂行に対する言語称賛提示の割合 不適切発言に対する職員対応の割合 は業務遂行行動に対する言語称賛提示の割合平均 は不適切発言に対する職員対応の割合平均 (%) 図 1 A さんによる不適切発言の変容 図 2 A さんの不適切発言に対する職員対応の割合と業務遂行行動に対する職員の言語称賛提示の割合
一著者に)見られているのが負担だったと述べてい た」ことを重ねてコメントした。「支援の実施しやす さ」については、「実施しやすかったと思われる。職 員 2,3,4 の支援が他の利用者にも般化すればいいと 思う」との肯定的な評価であった。また、「第一著者 による個別面接が職員の支援行動の強化子になってい た」とも発言した。職員 2,3,4 への書面での事後評 価においては「研究の効果」について、3 名ともにお およそ肯定的に評したが、「研究の負担感の有無」が 「あった」という旨の評価であった。しかしながら、 「支援内容の実施のしやすさ」については、職員 2 を 除き全体的には実行しやすかった旨の評価を得た。と ころで、「全体的な感想」において職員 3 は、「(A さ んの不適切発言を)無視する(聞こえないふりをす る)と A さんがかわいそうと思うことがあった」と 綴っていた。また、事後評価終了後に職員 3 より「最 後の方は気にならなくなったが(第一著者に)見られ るのはしんどかった」というコメントがあった。
Ⅳ.考 察
1.事業所における行動コンサルテーションの効果 本研究では、事業所において不適切発言が見受けら れた A さんに対して、主に支援の計画を立案してい た職員 1 と直接的な支援を担当する他職員 3 名(職員 2,3,4)の 4 名による一貫した支援実施を目指した 行動コンサルテーションを実施した。 先述の通り、ベースライン期において、職員は、A さんの不適切発言を強化する対応を行っていた。他 方、A さんの適切な業務遂行行動に、職員から言語 称賛や激励等の正の強化子を提示されることは稀で あった。このようなベースライン期の状況を踏まえ、 介入 1,2 期での支援を実施したところ、A さんの不 適切発言に対する職員対応の割合は急減し、A さん の業務遂行行動に対する職員の言語称賛提示の割合は 高い水準で安定・維持した。それに伴って A さんの 不適切発言もベースライン期における平均の半分以下 となった。ところで 11 月 17 日において職員 2 からの 「朝の着替えがスムーズになった」という報告があっ た。研究開始前より A さんは着替えを更衣室にて一 人で行っていたが、着替えを終了し更衣室を退出した 後に職員からの言語称賛が提示されることはごく僅か であった。しかしながら、介入 1 期以降は、A さん が更衣室を退出した直後に職員より言語称賛が提示さ れていたため、これまでより早く更衣室を退出すると いう行動が生起したと考えられる。さらに職員 2 か らは「作業によく取り組むようになった」とのコメン トがあった。これは、これまで不適切発言をすること で A さん自身の作業が滞ってしまっていたが、介入 1 期以降、不適切発言をすることなく作業従事をする ことが増えたためと推察される。そしてフォローアッ プ期においても A さんの不適切発言の減少傾向は維 持された。これは、今回提案された支援方法が職員に とって実施しやすいものであったため、職員 1 の事後 評価(表 2)にもあったように、第一著者がいない時 も提案された対応を職員が実施していた結果と考え る。 このように不適切発言を消去しつつ、業務遂行行動 に対して言語称賛という正の強化子を提示すること で、A さんの就労の場における適応状態が向上した。 このことから今回の事業所における行動コンサルテー ションは一定の効果を示したと言えるであろう。 表 2 職員による事後評価 研究の効果 研究の負担感の 有無 支援内容の実施しやすさ 全体的な感想 職員 1 あったと思う 個人的にはない が、職員 4 が「(第 一著者に)見ら れているのが負担 だった」と述べて いた。 実施しやすかった と思われる。職員 2,3,4 の支援が 他の利用者にも般 化すればいいと思 う。 A さんの負担感が少し気になる(支援開始当初は職員の 支援が変化したことへの戸惑いが見られたとのこと)が、 成果はあったように思う。また職員(職員 2,3,4)の 変化として、問題行動に対して大きな反応を示さなくな り、称賛も意図的に行えるようになっている。5 分程度 の個別面接において第一著者が(支援行動における正の) 強化子になっているように感じた。また、第一著者がい ない時も支援は継続されていた。 職員 2 大いにあった あった どちらでもない 他の利用者の支援について何かあれば教えてほしい。 職員 3 あった あった まあまあ 実施しやすかった 無視をすると A さんがかわいそうと思うことがあった。 職員 4 まあまああった あった 実施しやすかった いろいろ教えてくださってありがとうございました。2.コンサルティ・グループの支援環境の整備 本研究では、職員 4 名(コンサルティ・グループ) による一貫した支援提供を目的として、全体面接によ り支援方法を共有したことに加え、支援マニュアルの 作成、個別面接の実施や結果表の掲示などの複層的な 支援環境整備を行った。支援マニュアルについては、 本研究において提案された支援が概ね実施しやすいも のであった(職員による事後評価の結果より)ため、 全体的には活用されていなかった。しかしながら、結 果による職員 2 の発言より、実施が容易な支援であっ ても支援マニュアルの作成が一部のコンサルティの支 援維持には有用な場合があり、その作成や設置は一定 の効果があると考えられる。また、職員 1 の事後評価 より、個別面接が職員にとって肯定的に捉えられてい た。これは、第一著者による肯定的なフィードバック や必要に応じた支援方法の確認が、職員の一貫した 支援実施およびその維持に効果があったためと考えら れる。ちなみに結果表が活用されなかった理由として は、A さんの不適切発言の変容および職員による対 応の変化に関する報告やこれに対する肯定的なフィー ドバックの提示という点において、観察毎に各職員に 対して実施した個別面接と役割が類似していたため、 結果表を意識的に確認する必要がなかったのであろ うと推測される。しかしながら、加藤・大石(2004; 2011)などに示されたような介入の整合性に配慮した 支援環境の整備が、複数の職員による一貫した支援実 施に関しても有効であったと言えよう。 他方、職員 4 名の事後評価において、研究の負担感 の有無については「あった」との評価が大半であっ た。これについては、事後評価の結果や事後評価後の 職員 3 の発言などからも窺えるように、第一著者によ る直接観察に関して抵抗感が強かったことが一因であ ると考えられる。本研究における行動記録について は、職員の負担感を考慮し、第一著者と職員 1 とで協 議し、その他の職員にも承諾を得た上で、第一著者に よる直接観察を行うこととした。これまでいくつかの 行動コンサルテーション研究においてもコンサルタン トの直接観察においてデータの記録がなされている (松岡,2007;野口・加藤,2010 など)が、事業所に おいては、これまでに外部の人材が直接観察を行う機 会はほぼ皆無であったため、コンサルタントによる直 接観察に対しての抵抗感が強く示されたのではないだ ろうか。上記のように本研究における事業所をはじめ とした福祉施設においては、コンサルティが承諾の上 であっても、外部のコンサルタントによる直接観察が 結果的にコンサルティの負担感に繋がる可能性があ る。この場合、複数のビデオカメラによる記録やビデ オカメラを用いて別室にてモニタリングを行いコンサ ルタントの存在をコンサルティに意識させないような 記録方法を適用する、あるいは記録者(あるいはコン サルタント自体)を施設職員(内部の人材)とする等 の配慮が必要であろう。 ところで、本研究における事後評価において職員 3 より「不適切発言を無視する(聞こえないふりをす る)と A さんがかわいそうと思うことがあった」と いう感想が綴られていた。これは、A さんの不適切 発言への支援は、主に支援の計画立案を担う職員 1 の 課題意識から実施されたものであり、主に支援実施を する職員 3 にとって、不適切発言自体が支援の必要な 行動とは判断されていなかったのではないだろうか。 よって、第一著者から依頼された対応(支援)を行う 意義やその効果が実感し難かった可能性がある。事 実、本研究では、主に支援の計画立案を担う職員 1 の みとの協議によって標的行動やその対応を決定したた め、職員 3 を含む主に支援を実施する職員の課題意識 が反映され難い状況であった。このように複数名のコ ンサルティ(コンサルティ・グループ)が参画する行 動コンサルテーションにおいては、本研究でいう職員 1 のような支援実施の中心的なコンサルティが、クラ イエントによる特定の行動に対して、たとえ強い課題 意識を有していたとしても、他の参画しているコンサ ルティが同様にそのようではなく、コンサルティ・グ ループ全員の課題意識に応じたものとはなり難い。こ れが結果的にコンサルティ・グループ全体の負担感に もつながったと考えられる。このような場合、支援実 施の中心となるコンサルティのみとの協議ではなく、 参画をする他のコンサルティも含むコンサルティ・グ ループ全体での協議を基とし、各コンサルティが抱く 課題意識や支援の困難性についても反映されるような 協議を実施していく必要があるだろう。例えば、標的 行動を決定する際には、コンサルティ・グループ全員 による協議の上で、支援実施の中心であるコンサル ティのみならず、他のコンサルティを含むコンサル ティ・グループ全員が「早急に対応を要すると判断し ている行動」を標的行動とする等が有効であろう。 以上のように、就労継続支援 B 型事業所において、 コンサルティ・グループ全員の支援方法共有を図りつ つ、支援実施の維持がなされるように複層的な支援環 境整備を行うことで、コンサルティ・グループによる 一貫した支援の提供が促進され、クライエントの行動
問題に対して一定の効果を示すことができた。しか し、コンサルタントによる観察方法や複数のコンサル ティ各々が抱く課題意識についても強く考慮しなけれ ばならないことが明らかになった。今後は、複数名の 支援者が参画する支援環境などを模索しつつ、福祉施 設が抱える現状にも適合する行動コンサルテーション のさらなる実践の蓄積と検討を行っていきたい。
〈文 献〉
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