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新刊紹介 伊藤セツ著 『クラーラ・ツェトキーン -ジェンダー平等と反戦の生涯-』

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Academic year: 2021

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本書は、女性解放の思想と運動の世界史に無視 できない地位を占め続けている C la raZ etk in (一八五七 一九三三) の生涯を書き綴った、 菊判 一〇六六ページの大著である。著者伊藤セツさん は、五〇年に亘って抱え続けたこのテーマを、こ の度この大著にまとめて世に問うたのである。 日本語で記述されているとはいえ、その包括性、 しかるべきアルヒーフの一次資料から初めて世に 出したものも含めて、周到な資料探索、学術的な 点検可能性を確保した厳密な叙述、同一対象を扱 う研究への国際的なサーヴェイによって、本書は まことに充分に国際水準の研究成果である。以上 は、目次と序章および巻末の文献リストを一覧し ただけで、誰にも概ね明らかである。二〇一四年 春に社会政策学会賞学術賞を受けた。 著者は、この大部の著作を繙く読者のために、 7 節からなる序章の最後に、自ら内容の紹介をし ている。しかしここでは評者の言葉で若干の内容 紹介を試みよう。 本書は、序章と終章を除いて 16章で構成され、 それらが年次毎に 3 部に分けて配されている。第 1 部は「おいたち 青春 亡命 ヴィーデラウ  ライプツィヒ パリ (一八五七 一八九〇) 」と 題 して、 クラーラ ツェトキーンが、 女性解放論者  女性解放運動家として世に現われる経緯を書いて いる。 第 2 部は「ドイツ社会民主党と第 2 インターナ ショナル シュツットガルト時代 (一八九一  一九一四) 」と 題 し て 、『平等』 誌 の 編集 を 中 心 と し た彼女の円熟期の活動を書き、第 3 部は「戦争と 革命」と題して、第一次世界大戦の勃発からロシ ア革命を経て、コミンテルンの活動家としてソビ エト ロシアで暮らし、スターリンの覇権の確 立 と ほぼ 時を同 じ くして 没す る、 一九一四年から 一九三三年の彼女を書いている。 全 3 部を 通じ て最後に 見 えてくるものは、彼女 が、資本主 義下 の女 子労働 者の運命を 軸 にして、 女性の社会的自 立 、 労働 の 場 での保 護 と平等、 労 働 者家 族 の家 庭 生活への 援 護 を中心に 置 き、ここ を 起 点にして社会の 全 階層 の女性たちを解放へ 導 こうという思想と運動を、生涯を 通じ て 愚直 なま でに一 貫 さ せ ていたことである。これが、マルク スと ベ ー ベ ルから学んだクラーラ ツェトキーン によってこそ 提起 され、第 2 インターナショナル に 持 ち 込 まれ、さらにコミンテルンに 持 ち 込 まれ た 方針 だったのだ、という史 実 である。 その一 貫 性は、それがコミンテルン 崩壊 の後に もわれわれの 前 で生き続けていることでわかる。 それを 説 くべく著者は、クラーラが 起草 した 方針 書のいく つ もを 全 文 翻訳 を含めて 詳 しく紹介して いるのである。現代のわれわれの 課 題に つ いて評 者としては、いま、 竹信 三 恵 子 『家 事 労働 ハ ラス メ ント』 ( 岩波 書 店 ) や エミリー マッ チャ ー『 ハ ウス ワ イフ 2  0 』(文 藝 春 秋 ) を 念 頭 に 置 いてい る。 ここまで評者は、とも す れ ば 読者の 食欲 を 減 じ かねない言葉 ば か り連 ねてきているので、そうで はないのだということを次に述べたい。 著者が本書を評 伝 と す るために、あくまでも生 身 の生活者であるクラーラ ツェトキーンの 姿 を 追 い 求 めたことから、読者は思わ ぬ興奮 を 呼 び 起 ― 86―

荒又重雄

『クラーラ



ツェトキーン



ジェン

平等

生涯



伊藤セツ著

新刊

紹介

2013年 12月 25日発行 御茶の水書房 菊判 1066頁 定価 本体 15000円+税 学 苑 第八九三 号 八六 ~ 九一(二〇一五 三)

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こされる。第 1 部では、データはパリの警察文書 からも得られている。ライプツィヒで出会った亡 命ナロードニキのオシップ ツェトキーンを追っ て、パリに出た彼女は、そこでマルクスが残した 三人の娘たちに出 っているし、エンゲルスが事 実を隠そうとしたマルクスの庶子とも後にロンド ンでマルクスの娘に紹介されて会っている。チュ ーリッヒでは、レーニンに先立つロシアの労働解 放団の三人、プレハーノフ、アクセリロード、ザ スーリチにも会っているのだ。夫オシップの死に 際して、友人を代表して彼を追悼したのはピョー トル ラブローフだった! 第 2 部では、二番目の夫フリードリッヒ ツン デルとの暮らしや、 ケーテ コルヴィッツ (その 兄はコンラート シュミット) との接近や、 同様に 接近したローザ ルクセンブルグが、こちらは互 いに生涯の友となる過程が語られるばかりではな く、著者が本書を女性解放思想史研究でもあるよ うにと志したことから、 読者はここでアウグスト  ベーベルやリリー ブラウンの理論的活動の著書 による詳しい解説にも恵まれる。 第 3 部は、ある意味では本書の華である。世界 大戦、ソヴィエト革命、勃興するナチズムの嵐の 中で生きるクラーラの姿が、アルヒーフの中に遺 されていた私信の解読を含めて語られる。 「戦争 を内乱へ」というレーニンの驚くべき方針の適用 限界を巡って、無二の友であるローザ ルクセン ブルグに連帯しながらも、西欧での長い労働運動 史の経験を背負って微妙に揺れる姿、ブハーリン やルイコフ、トムスキーらがスターリンに敵視さ れていく様子を見て密かに心痛める姿、老骨に鞭 打ってワイマール ドイツの国会で反戦を獅子吼 する姿、子や孫の暮らしに心を配る姿が描き出さ れている。 以上のように、可能なあらゆる方法で彼女の生 身の生涯に近づこうとした著者の努力は、言わば 浩瀚なクラーラ ツェトキーン曼荼羅を織りなし て、彼女の「愚直な」方針書の類には関心を寄せ ることのない人々をも、読者として 引 き 込む こと になっている。 この 機 会に 評 者は、 北海道 大 学教授新川士郎 先 生の 門下 で著者の 数年 先 輩 であったという立 場 か ら、 若干 のことを 記 して お きたい。 新川 先生の 師 は 東京商科 大 学 ( 現 、 一橋 大 学 ) の大 塚金之助 先 生である。 その 流 れに 『 エリノア マルクス 』 ( み す ず 書 房 ) を著した 都築忠七 先生も お られる。 著者 伊藤 セツさ ん はその 流 れの中に立っているの である。これは 伝聞証 言に 止 まるが、戦 時下 で大 塚 先生は、 船員組合 の 勇敢 な労働者によって 日 本 にもたらされたコミンテルン文 献 の、 翻訳 紹介に 関 与 されたことがあった。 戦後のある 時期 に西欧でコミンテルン関 係 文書 が大 量 に 翻刻 されることになった以 前 には、とり わ け 西欧から 遠 く、戦後も 一時期 GHQ による 占 領 下 にあった 日 本で、その 種 の文 献 は 希少 であっ たばかりか、それらに接することが研究者の生涯 を 危険 に 曝 す お それもな お 残っていた。そのよう な 時 に、 新川 研究 室 に 奇 跡 が 起 った。戦 前 のある 時期 に、 北海道 日 高 の 素封 家 の出である 伊藤 四 郎 氏 が 早稲田 大 学 に 入 学 し、 左翼 運動に 触 れ、 輸 入 される 片端 から警察に 押収 されるような文書を 買 い 集 めた。 逮捕 されるた び に、 「ハイ、 もうや めます」と言って 釈 放されては同 じ ことを 繰 り 返 した 挙句 に、 「 お 前 のとこ ろ の 左翼 本はあまりた くさ ん あるから 一 度 で運べない。 今度 トラックを 持 ってくるから 覚悟 して お け 」と言われて、でも 警察が 押収 を 忘 れてしまったので、戦後にも 伊藤 氏 の 手元 に残っていたものが、 門下 生の努力もあ って 新川 研究 室 に 入 ったのである。そうして、こ の文 献 を 利 用して本 格 的研究を 始 めた 最初 の人が 著者 伊藤 セツさ ん だったのである。 評 者の 耳 には、 「 君 ! よ くやった! よくやった!」 と 喜ぶ 新川 教授 の 声 が、 天 から 聞 え てくる。この 伊藤 四 郎 文 庫 の 最重要 部 分 は、 新川 先生が寄 贈 して 北海道 大 学 図 書 館 に 収 蔵 されている。 (あらまた し げ お 北海道 大 学 名誉 教授 ) ― 87―

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