2008 年国際金融危機と世界不況
―覚え書き―
石 井 敏
目 次 はじめに Ⅰ.アメリカの金融危機 Ⅱ.世界金融危機と世界不況 Ⅲ.緊急経済対策と危機の現段階はじめに
2008 年 9 月のリーマン・ショック(1)を契機として、世界経済は一挙に金融危機と深刻な不況に陥っ た。FED 前議長のグリーンスパンはこの危機を「100 年に一度の危機」と語り(2)、全世界は 1930 年代世界恐慌の再来を恐れてパニック状態に陥った。 振り返ってみると、危機の予兆は 2007 年春に始まっていた。しかし、米サブプライム・ローン 大手のニューセンチュリー・フィナンシャルが破産したとき、それはサブプライム・ローンに過度 に依存した金融機関の個別的金融倒産と捉えられ、それがやがてアメリカ金融システム全体を揺 るがす信用不安に発展し、さらに国際金融危機と世界不況にまで広がると予想する者は少なかっ た。しかしながら、07 年 8 月のバリバ・ショック、9 月英ノーザンロック銀行取り付け騒ぎ、08 年 3 月米 JP モルガン・チェース銀行によるベアー・スターンズの救済合併、9 月米政府によるファニー メイ、フレディマックの国有化へと信用不安は拡大していき、リーマン・ショックを境に一挙に国 際金融危機へと発展し、それとほぼ同時に世界不況へと広がっていった。 この全面的危機に対応して、ほとんど全ての中央銀行が政策金利の大幅切り下げ、市場への大 量の資金供給をおこない、預金保護の強化、銀行間債務の保証、金融機関への公的資本の注入な どにより、金融システムの安定に努めた。各国政府も不況の深刻化を防ぐために大幅な財政出動 をおこなうとともに、企業倒産と失業率の増大を食い止めるために、個別産業救済にまで立ち入る ほどの景気対策に乗り出した。これらの懸命な政策的努力により世界経済は徐々に落ち着きを取り 戻し、株価も 09 年 3 月を底に回復傾向を示し、9 月 23 日に FED は「経済活動は上向き」と判断 していると報じられた(3)。はたして危機は本当に回避され、順調に回復に向かっているのだろうか? それとも、現在は一時的小康状態に過ぎず、二番底が待ち構えているのであろうか? 本稿は、今回の危機の原因を探り、危機の現段階について考察している。本稿は、危機前後に 発表された日本語文献をサーベイした結果を、覚え書きとしてまとめたものである。Ⅰ.アメリカの金融危機
今回の金融危機の特徴は、アメリカとヨーロッパにおける住宅価格バブルと投資銀行ビジネス・ モデルの破綻にある。ここではアメリカに対象を限定して、住宅バブルと投資銀行ビジネス・モデ ルがどのようにして金融危機を招いたのかを考察する。 1.住宅価格バブルと「市場型間接金融」システム アメリカの住宅価格は 97 年まで安定的に推移してきたが、その後 06 年にかけて急激に上昇し た。S&P が発表しているケース・シラー住宅価格指数(2000 年を 100)によれば、97 年 79、00 年 100、03 年 157、06 年 226 と急激な上昇を示し、06 年にピークアウトした後急激に下落して 09 年 5 月 151 となっている(4)。多くの文献は、この住宅価格バブルを生み出した要因として、アメリ カの手厚い持ち家政策(5)、01 年以降の低金利政策(6)、04 年以降のサブプライム・ローンの急拡 大(7)など、様々な要因を指摘している。これら諸要因は住宅価格上昇を加速化させるうえで重要 な役割を果たしたが、ここで注目しなければならないことは、この住宅バブルが「市場型間接金融(8)」 システムと呼ばれる住宅金融システムの下で膨張したことである。 アメリカの住宅金融は「市場型間接金融」が過半を占めるようになった(9)。伝統的な住宅ローン では、直接的あるいは間接的に預金を原資として信用供与がおこなわれ、銀行(10)は住宅担保債権 を保有し続け、債権回収まで責任を持っておこなう。これに対して「市場型間接金融」では、住 宅ローン貸付金融機関(Originator)は住宅担保債権を第三者金融機関(Distributor)に売却し、 債権保有や金利変動に関わるリスクを回避する。ディストリビューターはこれら債権をプールして 債権の標準化を図り、それらを担保に社債を発行したり、住宅債権担保証券(RMBS)を組成し て売却することによって資金調達する。社債や証券の売却によって資本市場から資金調達をして いる点で「市場型」と呼ばれる。 この「市場型間接金融」システムについてもう少し詳しく見てみよう(11)。前述の第三者金 融機関は伝統的にファニーメイおよびフレディマックなどの GSE(Government Sponsored Enterprise:政府支援企業)が担ってきた。両社は、個人の信用履歴を指数化した FICO スコア が基準点以上の住宅債権を購入対象とし、その債権を買い取ってそれを担保に社債や証券を発行 して市場に売却してきた(12)。両社の公的性格と FICO スコアの高さ、デフォルト・リスクに対する 両社の保障(「外部信用補完」と呼ばれる)から、両社の社債と証券は AAA に格付けされており、 投資優良証券とされてきた。 両社の融資基準に満たない住宅ローン需用者向けに登場したローンの一種がサブプライム・ ローンである。このローンを信用保証するのが、投資銀行あるいは商業銀行傘下の SPC(Special Purpose Conduit:特定目的会社)で、別会社化することで「倒産隔離(13)」がなされている。SPC は金融工学に基づいた内部信用補完システムを用いて、ハイリスクのサブプライム・ローン住宅 債権からローリスク・ハイリターンの RMBS を作り出し、それらを投資家に売却した。内部信用 補完の基本的原理は、RMBS を 3 つのクラス(トランシェ)に分け、債務者の延滞やデフォルト・リスクを真っ先に引き受ける部分(エクイティ)、次にリスクを引き受ける部分(メザニン)、デフォ ルト・リスクがほとんど波及しないと考えられている部分(シニア)に区分し、償還金が停止した 場合に下位のクラスから順に配当を停止するもので、このような構造を優先劣後構造という。これ ら証券の信用格付けする機関が S&P やムーディーズなどの信用格付け機関であり、証券発行主体 の依頼に応じて証券を格付けしてきた。そして投資家に売却される証券は、主としてシニア部分 (AAA と格付けされる)であった。 サブプライム・ローンが登場した当初、これまで住宅ローンの恩恵を受けることができなかった 低所得者たち(白人低所得者、黒人、ヒスパニックが多い)に、持ち家の夢を与えるものとして 歓迎された。他方、ローリスク・ハイリターンのサブプライム・ローン関連の RMBS は、高収益 を求める投資家側からも歓迎された。その結果、住宅価格高騰によってプライム・ローンの融資 が伸び悩んだ 2004 年以降、サブプライム・ローン融資は急激に伸びていった(14)。しかしながら、 サブプライム・ローンは低い信用力故に高いリスク・プレミアムを要求されるローンであり、ロー ン返済の負担はきわめて厳しい。たとえば、最初の 2 ないし 3 年間だけ比較的低利の固定金利で その後はかなり高い変動金利に移行するもの、頭金無しで全額融資するもの、当初数年間は金利 返済だけでその後元本の返済が始まるものなど、当初の返済負担を軽減して借りやすくしてやが て重い返済負担に移行するものがほとんどであった。したがって、返済実績を積んで FICO スコ アを上げてプライム・ローンに借り換えることを念頭に、短期間の融資を受けるつもりであった借 り手が多かったといわれる。住宅価格の上昇率が十分高ければ、返済を続けているうちに住宅の 担保価値が上昇して比較的容易に借り換えができるようになる。たとえ借り換えができず返済の 継続ができなくなったとしても、住宅を処分して清算すれば債務者も債権者もそれによって実害を 受けることはない。この意味で、サブプライム・ローンは住宅バブルを前提としたローンであった と言えよう。 サブプライム・ローンほど極端ではないが、プライム・ローンにもまた住宅バブルを前提とした 側面があった。住宅の時価とローン残債の差額はホーム・エクイティと呼ばれ、それを担保に通 常の消費者ローンよりも低利のローンを組むことができた。自動車購入や教育費など、多種多様な 消費支出がホーム・エクイティ・ローンによって賄われた。このような仕組みの下では住宅価格の 上昇が個人の借り入れ能力を高め、相対的に低い利率でより多くの消費をすることが可能になる。 税制上の持ち家優遇策も加わって、住宅投資はますます有利な投資対象になる。アメリカの消費 の対GDP比率は80年代以降徐々に高まり、21世紀に入った頃には70%を超える水準になったこと、 逆に個人部門の純貯蓄率が徐々に下がり一時は 0%を切る水準にまで下がったことの背景には、こ のような事情が影響していたと見られている。 以上の「市場型間接金融」方式を背景にして、住宅融資の拡大、住宅価格の高騰が進行していっ たわけであるが、06 年に住宅価格がピークアウトすると、当然のことながら、住宅ローン債権の デフォルト率が高まり、証券の格付けが下げられていった。証券の格付けが下がると一部の機関 投資家はその証券の処分を迫られ(15)、それが証券価格の暴落の引き金となった。また、これら証
券は個別性が強く、公社債のような公開の証券市場が存立し得ないため、価格下落が始まると値 付けが困難になる事情も存在した。このような住宅金融システムのあり方が、今回の金融危機の 背景にある。 2.証券化商品の再証券化と投資銀行ビジネス・モデル 問題がサブプライム・ローンの RMBS の範囲に留まっていれば、サブプライム・ローンのデフォ ルト率が高まったとしても、これほど大きな問題にまで発展しなかったはずである。アメリカの住 宅ローン債権残高は約 10 兆ドル規模で、そのうちサブプライム・ローンは 1 兆ドル程度とされて いるから、たとえサブプライム・ローンの 1/3 がデフォルトになったとしても 3,300 億ドル規模で、 アメリカの経済規模からすれば十分耐えられる範囲内に収まるはずである(16)。その範囲内に収ま らなかった理由は、以下に述べるような事情にある。一つは、証券化商品の再証券化によりサブプ ライム関連の証券化商品の規模が元のサブプライム・ローンの何倍かに膨らんでいたこと、二つに は、レバレッジ投資を中心とする投資銀行ビジネス・モデルを欧米の大手金融機関が採用し、デ レバレッジによる損失が膨大に膨れあがったこと、三つ目に、証券化商品の値付けが困難なため 金融機関相互間に疑心暗鬼が蔓延し、金融機関相互間の融資がほとんどストップ状態に陥ったこ とである。 サブプライム・ローンを担保とする RMBS は利回りが高いため投資家の需要が高かったが、そ の融資残高が 1 兆ドル程度であったため、それから作り出される AAA 格の RMBS の規模には限 界があった。そこで、プライム・ローンの RMBS や消費者ローンその他の ABS(Asset Backed Securities: 資産担保証券)などの証券化商品とサブプライム・ローンの RMBS をプールして、そ れらを担保に新たな証券化商品 CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)が作り出 された。その中にはシニアだけでなく、メザニンやエクイティの RMBS も含められたという。通 常の証券化商品と同じように、優先劣後構造の内部信用保証システムを用いて、これらの証券化 商品から AAA 格の新たな証券化商品 CDO が作り出され、それが投資家に販売された。この二 次的証券化商品も高利回りであったために、世界中の投資家たちが積極的に購入した。このよう にして、何らかの形でサブプライム・ローンの要素が混入した証券化商品の規模は、元のサブプ ライム・ローンの何倍もの規模に膨れあがっていった。しかし、この複雑な操作を通して元のサブ プライム・ローンとの関係は希薄化し、投資家たちは購入した CDO がサブプライム・ローンとど のような関係にあるかを理解することは困難であった(17)。彼らは投資格付け会社が付与した AAA の格付けだけを頼りに投資するしかなかった。 サブプライム・ローンのデフォルト率が想定以上に上昇したとき、サブプライム・ローンの RMBS の格付けが低下し、その価格が暴落しただけでなく、それを含む二次的証券化商品全体の 格付けが低下し、価格が暴落した。更に悪いことは、正確なリスク評価が困難なために、これら 証券化商品の正当な値段を誰も知り得ないことであった。格付け低下のためにこれら証券を処分 せざるを得ない投資家たちは、いわば投げ売り状態でこれら証券を売却せざるを得なくなり、それ
は投資家たちに膨大な損失を発生させた。しかし、これだけならば金融危機に陥る必然性はない。 なぜならば、SPC を擁する金融機関は証券化商品をすでに売却し、リスクを投資家に転嫁してい るためである。新たな証券化商品の組成と売却は困難になったとしても、既に売却した証券化商 品の暴落による損失を負担する必要がない。 金融機関が莫大な損失を被ったのは、彼らが証券化商品の組成と売却からなるブローカレイジ (brokerage)業務だけでなく、自ら証券化商品を購入・保有してレバレッジを効かせてポートフォ リオ投資業務をおこなったためである。自己資本で証券化商品を購入し、その証券化商品を担保 にして ABCP(Asset Backed Commercial Paper)などを発行して資金調達し、その調達資金で 更に証券化商品を購入し、またそれを担保に資金調達を図るというプロセスを通して、自己資本 の何十倍もの証券化商品を購入して運用益を得ることができる。自己資本に対する実際の資産購 入額の倍率がレバレッジである。運用資産の利回りと調達資金の金利の差が 1%、レバレッジ率が 20 倍とすれば、自己資本収益率は 20%になる。これが投資銀行ビジネス・モデルの原理であり、 それが法外な収益率を実現できた理由である。しかし、運用利回りと調達金利の差が逆転してマ イナス 1%になると、自己資本収益率はマイナス 20%になり、金利差がマイナス 5%になると自己 資本は消滅してしまう。また運用資産の時価が 5%低下するとそれは自己資本の額に等しく、それ 以上資産価値が下落すると債務超過になってしまう。そのような危険性を内包していた。
商業銀行が FED の監視下にあり、BIS 自己資本規制を受けているのに対し、投資銀行は SEC の監督下にあってもほとんど制約を受けることはなかった。投資銀行は高いレバレッジ率でポート フォリオ投資業務をおこない、法外に高い収益率を上げることができた。そこで、商業銀行は SIV (Structured Investment Vehicle)を設立して倒産隔離を図り、ポートフォリオ投資業務をオフバ ランス化することで、投資銀行ビジネス・モデルを積極的に取り入れた(18)。住宅価格バブルが膨 張しているときはこのモデルが効果的に機能して、投資銀行も商業銀行も高い収益率を実現でき た。21 世紀初めにアメリカの金融界が未曾有の好景気に沸いたのは、このような投資銀行ビジネス・ モデルによって高収益を上げることができたためである。 しかしバブルが崩壊してデフォルト率が高まると、デレバレッジが働き始めた。投資銀行ビジネ ス・モデルの先行きを懸念した投資家たちが ABCP などの短期資金による資金調達に応じなくな ると、これらのファンドは手持ちの証券化商品を売却処分して資金返済に充当しなければならなく なり、これが証券化商品の暴落を引き起こした。同時に、ABCP などの金利が上昇して逆スプレッ ドとなり、ファンドの収益率は大きくマイナスに転じた。これらの事情が証券化商品の更なる下落 と収益率の更なるマイナスをもたらし、やがてファンドは債務超過に陥り、倒産せざるを得なくなっ た。このようにして投資銀行の実質的倒産が相次いだのが 08 年初から秋にかけての時期であった。 SIV を倒産隔離していたとはいえ、商業銀行も大きな損失を被った。傘下のファンドが ABCP を 発行して低利資金を調達する際、母体行は債務保証をおこなっていたため、傘下のファンドが破 産したとき、売却処分できない証券化商品と未払いの CP 債務を抱え込むことになった。そして商 業銀行もまた経営危機に陥った。
ここで金融危機を更に深刻化させたのが、カウンター・パーティ・リスク問題であった。それ ぞれの金融機関がどれだけの債務を抱え、どれだけの不良資産を抱えているかがわからないため、 金融機関同士の信用関係が失われ、金融機関相互間の資金の流通が滞ってしまった。リーマン・ ショックを機にそれが一気に顕在化してアメリカは深刻な金融危機に陥ってしまった。この段階で、 金融危機はミクロ的な金融危機からマクロ的なシステミック危機へと変質したのである。 3.アメリカ金融危機の本質 伝統的な金融システム(銀行型間接金融システム)から市場型間接金融システムへの移行は、 貸付に関わる 3 つの要素(貸付、保有、回収)のリスクを異なった経済主体間(オリジネーター、 投資家、サービサー)に分散させたが、この危険分散は貸付リスクの総量を減らすものではなかっ た。他面で、証券化は債権の権利・責任関係を複雑化させ、デフォルト率の上昇に対して金融シ ステムの脆弱性を飛躍的に増大させた。このような金融システムの高度化・複雑化が、今回の金 融危機を深刻化させる役割を果たした。デフォルト率の上昇に際して、証券の公正な価格付けが 困難となり、カウンター・パーティ・リスクの増大から金融機関相互間に疑心暗鬼が蔓延し、金融 機関相互間の取引が困難になった。問題をより深刻化させたのは、投資銀行と大手銀行が投資銀 行ビジネス・モデルに熱中し、ハイリスク・ハイリターンの取引にのめり込んだことである。それ は、現代社会の社会的共通資本とも言える公的金融システムを過度に危険な致富の手段に転化さ せ、その破綻が金融制度の根幹を揺るがす金融危機を作り出した。 河合正広は、金融危機の原因を、「金融自由化や規制緩和が進む中で、金融機関の活動や金融 商品の取引が多様化しかつグローバル化する中で、金融機関自身による自律的なリスク管理や金 融監督の体制・枠組みが市場の実態に追いつけなかった(19)」ことに求めている。彼の立場は、金 融の構造的変化を与件とし、そこでの金融機関の自律性の欠如、金融当局の監督体制の不備に、 今回の金融危機の主要な原因を求めるもので、それは現代の主流派経済学の立場を代表している。 これに対し、宇沢弘文・内橋克人は、今回の金融危機と世界不況が、戦後世界を支配してきたパッ クスアメリカーナの崩壊の始まりを示すものであり、市場原理主義の行き詰まりと富の分配の不均 衡の結果であるとみている(20)。彼らは現代資本主義のあり方そのものに疑問を呈している。この 金融危機と世界不況は現在もまだ進行中であり、現時点でその本質について結論を下すことは難 しい。今後の推移に注目しながら探求を深めていくことが必要であろう。
Ⅱ.世界金融危機と世界不況
アメリカの金融危機は直ちに世界の金融危機へと波及し、それとほぼ同時に実体経済も急激に 悪化した。なぜアメリカの金融危機がほぼ同時に世界金融危機へと発展し、即座に世界不況を引 き起こしたのだろうか。この点について考察を進める。 1.世界金融危機への波及 金融システムは全世界的なネットワークを形成している。それゆえ、一国の金融危機は全世界的に波及する。とくにアメリカの場合、ネットワークの中心として機能しているため、その波及効 果は大きい。世界的な資金の流れを見ると、世界中から資金がアメリカに流入し、それがアメリカ の金融機関を通して世界中に再投資化される構造を持っていることがわかる。水野和夫は、それ を「マネー集中一括管理システム」と名付けている(21)。アメリカ市場への株式・国債投資、証券 化商品の購入等の形でアメリカに流入した資金は、アメリカ金融機関の世界戦略の下で世界中に 再投資化されるとともに、一部はアメリカ経常収支赤字を下支えする役割を果たしてきた。 この世界的資金循環の下で、ヨーロッパの金融機関は、ロンドン市場を中心に、オイルマネーそ の他の海外資金を取り入れて域内および周辺諸国に投資するとともに、そのうちのかなりの部分を アメリカの証券化商品の購入に振り向けていた。域内投資のかなりの部分が住宅・不動産投資に 振り向けられていたため、イギリス、オランダ、スペインを中心に不動産バブルが進行していた。 また、ヨーロッパの金融機関もアメリカの金融機関以上のレバレッジ経営をおこなっていたため、 不動産バブルの崩壊と証券化商品の暴落は、ヨーロッパにおいても深刻な金融危機を作り出した のである。このことは、リーマン・ショック以前の段階で、ヨーロッパにおいてもバリバ・ショック、 ノーザンロック銀行取り付け騒動が起きていたことからも明らかである。ヨーロッパ金融界はアメ リカ金融危機の被害者というよりも、アメリカとともに国際金融危機を作り出した共犯者というべ きであろう。リーマン・ショックが直ちに世界金融危機に波及した背景には、このような事情が存 在した(22)。 以上の世界的な資金循環構造の下で、資金の最終的な供給者の役割を担っていたのは、産油国、 日本、中国などの貿易黒字国であった。国際金融危機に際して、これら諸国が資金の供給をストッ プしていたならば、世界的資金循環の大転換が起き、国際金融危機は現在とは異なったより深刻 な様相を示していたに違いない。幸いにしてそのような事態には陥らなかった。黒字国はドルから の逃避をしたくとも逃避先を見つけることができなかったこと、資金供給をストップした場合に生 じうる事態に危険を感じていたためであろう。 現実の国際金融危機は以下のような波及形態をとった。河合正広は、この間の事情を、「世界的 に資本の流れが縮小している理由は、米国の金融機関やファンドが、サブプライム・ローン危機や その後の金融システム全体の拡大で、自らのバランスシートが傷んできた結果、手元流動性を確 保し、資本ベースを強化する目的で世界中からドル資金の回収に迫られているからである。・・・・ そのため、多くの国で株価が大幅に下落し、為替が減価し、金融市場で信用収縮が起きている。(23)」 と説明している。国際金融危機がドルからの逃避、ドル暴落ではなく、逆にドル不足とドル高とし て現象化したのはこのような事情によるものである。この被害をとくに大きく受けたのは、自国の 成長を海外資本流入に依存してきた国々であった。中欧・東欧の諸国、バルト三国などの新興国 がとくに大きな影響を受けている。 日本と中国は、ヨーロッパやその周辺新興国と全く異なった立場にあった。両国はその成長を海 外資本の流入に依存しているわけでもなく、両国の金融機関はサブプライム関連投資に深く関わっ ておらず、レバレッジ経営もおこなっていなかった。それゆえ、アメリカの金融危機が深刻化した
時点でも、いわば対岸の火事として模様眺めする雰囲気があった。実際、今回の金融危機で倒産 した金融機関はなかった。しかし、円は全ての通貨に対して大幅に上昇し、日本の景気はアメリカ 以上に大きな落ち込みを示した。中国元は実質的にドルにリンクしているため元のドルレートは変 化しなかったが、中国の景気も下降に向かった。 円が大幅上昇した理由については以下のように考えられる。今回の危機以前に日本は政策的超 低金利政策を採り続けていたため、円キャリー取引などによる資金の海外流出圧力が強まり、円の 実質実効為替レートが円安になっていた(24)。通貨危機で各国が低金利政策を採用したために諸外 国との間の金利差が大幅に縮小して円資金の海外流出圧力が低下したこと、アメリカの海外投資 資金の回収により円キャリー取引の巻き戻しが生じたことが円高をもたらしたと思われる。このよ うにみるならば、円高は政策的円安の修正であり、均衡水準への復帰である。 2.世界不況の原因 国際金融危機と世界不況は密接な関連を有しているが、世界不況については独自の要因が作用 していることに留意する必要がある。 国際金融危機の震源地であるアメリカ、ヨーロッパではバブルが崩壊し、それが直ちに景気の 悪化に直結した。住宅建設は産業連関効果が大きいため、住宅バブルの崩壊と住宅建設の落ち込 みは国民経済に幅広いマイナスの波及効果を持った。 しかしそれ以上の大きな影響力を及ぼした要因は、金融危機をきっかけにアメリカの消費者心 理が一挙に冷え込み、アメリカの消費が一挙に落ち込んだことである。国民総支出勘定における 住宅投資の構成比は 5%程度であるのに対し、消費需要の構成比は 70%を占めているので、消費 動向が国民経済に与える影響はきわめて大きい。アメリカでは 1980 年代から現在まで消費比率が 65%弱から 70%超まで 5%以上上昇してきたが、この主たる原因はアメリカ家計の借金依存の消 費拡大にあるといわれている。アメリカ経済は 1990 年代半ば以降長期の繁栄を続けてきたが、そ の繁栄を実体経済面から支えてきた主要な要因は、この消費の持続的拡大にあったと考えられる。 しかしこの間に、アメリカ家計の借入金残高の GDP 比は 100%程度から 150%程度に上昇し、こ れ以上借金を増やして消費を拡大することが困難な限界に達していた。アメリカ経済は既に 2007 年末に景気の山を越えて景気後退期にあった。今回のアメリカの経済不況は、住宅バブルの崩壊 に伴う金融危機とその余波というよりも、ここで示したアメリカ経済の借金依存体質が限界に達し たことに根本的原因があり、金融危機は一つのきっかけに過ぎないのかもしれない。 民間消費の落ち込みはとくに耐久消費財において顕著であった。08 年夏のガソリン価格高騰の 下で販売不振にあった自動車は、リーマン・ショックで急激に落ち込み、とくにビッグスリーの受 けた打撃は大きかった。競合する外国メーカーに比べてきわめて高コスト体質を持っていたビッグ スリーは、直ちに経営危機に陥った。民間消費の落ち込みは民間投資の落ち込みに波及し、生産 の落ち込みは雇用削減に波及し、雇用削減はさらに消費抑制へと波及するというように、消費減 退→投資減少→産出減少→雇用削減→所得減少→消費減退の悪循環を引き起こした。
他方、アメリカとヨーロッパの内需縮小は、貿易を通じて世界全体の不況へと波及していった。 有効需要の側面から世界経済の構造を概観すると、過大な消費需要に支えられた需要超過のアメ リカと、需要不足のその他世界が補完的関係にあることがわかる。それは他面から見れば、貿易 赤字のアメリカと貿易黒字のその他世界との関係として捉えることができる。とくに貿易黒字が多 い中国と日本の経済は、アメリカの貿易赤字に依存していると言える。アメリカとヨーロッパが金 融危機から不況に陥ると中国と日本の輸出が急減し、それは両国の不況へと波及していった。こ の関係を日本についてもう少し詳しく見てみよう(25)。 日本の景気後退は、「国内的な金融危機を伴うというよりも、実体経済中心の悪化が顕著で、そ れが金融にも波及したという性格(26)」であった。その特徴は、外需の寄与が著しいマイナスになっ た点にある。「日本の GDP 減少幅が欧米よりも大きい原因は、外需の大幅マイナス寄与とその波 及にあった(27)」。日本の輸出品の主力は、輸送機械、一般機械、電子部品・デバイスであるが、 これらの製品の輸出が大きく減少した。とくに輸送用機械の減少幅が大きい。当然のことである が、日本の輸出は、輸出先の内需の減少率が大きいほど、輸出の減少率も大きい傾向を持ってい るが、その減少率は輸出先の内需の減少率から推測される以上に大きい。それは、「輸出相手国が さらに別の国へ輸出する製品のための部品を供給している面も強く、相手国の内需だけでなく相手 国の輸出の減少もマイナスに働いた(28)」ためである。近年、日本の輸出先はアメリカ、ヨーロッパ よりも中国を含めた東アジアの比重が高まっているが、前述した貿易構造の下では最終的にアメリ カとヨーロッパの輸入への依存度が高いことになる。この貿易構造が、今回の世界不況でとくに日 本に大きな打撃を与えたと考えられる。今回の景気後退では、輸出相手国の内需縮小だけでなく、 円高による輸出抑制効果も働いている。危機が始まる直前のドル・円レートは 1ドル 110 円弱であっ たが、その後急激な円高が進み現在は 1 ドル 90 円を割る水準にまで円が上昇している。20%近い 急激な円高は、数量ベースで輸出を抑制しただけでなく、円ベース手取りの減少によって輸出産 業の経営に大きなマイナス効果を及ぼしている。GDP 比でみた日本の輸出依存度は低いが、輸出 が日本経済に与える影響力はその比率以上に大きい。他方、日本の民間設備投資は、90 年代以降 輸出感応度が高まり、輸出が減るとそれによる有効需要の減少効果だけでなく、民間投資の減退 を通じた間接的な有効需要減少効果が働き、日本の景気が悪化するようになっている。また、輸 出の減退が雇用削減をもたらし、雇用不安の高まりが消費を抑制して景気を悪化させる、マイナ スの循環作用も無視できない。
Ⅲ.緊急経済対策と危機の現段階
1.緊急経済対策とその効果 金融危機に対応して、アメリカとヨーロッパの各国政府は包括的な安定化政策を実行した(29)。 その主要な内容は、預金保護、銀行間取引の保障、金融機関への公的資本注入であった。アメリ カは 7000 億ドルにのぼる「金融安定化法案」を 08 年 10 月に可決し、金融機関に対する公的資本 注入と金融機関からの不良資産の買い取りに充てることになった。アメリカはそれ以外にも、金融市場支援策として、市場への流動性資金供給の拡大、銀行間取引の債務保証などをおこなってい る。また、預金者保護措置を強化し、新たな追加策として、公的資金での保険会社への資本注入、 住宅差し押さえ防止のため住宅ローン保障をおこなった。ヨーロッパでも同様に、預金保護の強化、 インターバンクでの銀行債務保証、金融機関への公的資本注入などをおこなった。 金融危機の基本的原因が、カウンター・パーティ・リスクの増大によって金融機関相互間の資 金流通に支障が生じ、金融の機能麻痺が生じていることにあるため、以上の緊急対策を講じるこ とによって金融の機能麻痺を解消し、金融機関の連鎖倒産を防止して危機の深化を食い止めるこ とに、対策の最大の力点が置かれていた。これらの対策が金融機関のモラルハザードを助長する 可能性があるとか、大量の資金注入が将来のインフレの種になるとの懸念もささやかれていたが、 それらの中・長期的な心配は無視して、当面の危機回避策が採られたわけである。これらの緊急 対策は効果的であった。金融界のパニックは比較的早期に沈静化され、金融機能が徐々に回復し ていった。しかしながら、これらの施策はあくまで緊急避難的な対策であり、金融危機を引き起こ した根本的原因を解決するものではなかった。 実体経済の悪化を食い止めるための景気対策は金融対策ほど迅速に実行されなかったが、アメ リカではオバマ政権の下で 09 年 2 月に総額 7870 億ドルの「景気対策法案」が下院で可決され、 景気対策に本格的に取り組みはじめた。その内容は、中低所得者向け定額減税、メディケイドを 中心とする医療補助、教育対策、失業対策、公共事業などである。また、GM、クライスラーの財 政支援のように、個別企業の救済にまで乗り出している。しかしながらこれらの景気対策の即効 性は疑問視されており、実際その後も失業率は高まり続け、09 年 9 月のアメリカ完全失業率は 9.8% と、前月に比べてさらに 0.1%上昇している。そればかりか、それが持続的に景気を下支えする効 果についても疑問が提起され、この年末には下支え効果の息切れし、それに伴って景気の 2 番底 への陥落もあり得るのではないかとの懸念もささやかれている。ヨーロッパと日本においても同様 の財政出動がおこなわれてきたが、両地域においても失業率が高まり続け、景気底入れの気配は まだ無い。 2.危機の現段階と今後の展望 結論的に述べるならば、金融危機は一応収束させることができたが、実体経済の底入れにはも う少し時間がかかる状況にある。種々の経済指標をみると、実体経済は徐々に景気の底入れに近 づいているように思えるが、それは各国政府の強力な財政出動に下支えされた動きであって、財 政の下支えが弱まれば再び景気の悪化が懸念される微妙なバランスのもとにある。今後財政の下 支え効果が弱まれば、景気の二番底に陥る危険性を内包している。以下で、今後の景気動向に問 題を絞って考察する。 金融に関して述べるならば、今後の問題は、金融機関が抱え込んだ不良資産をどのように処理 するべきか、公的資金を注入して実質的に国有化あるいは純国有化した金融機関をどのように自 立させていくべきか、再び金融危機を起こさないようにするために、どのような金融システムの再
編を目指すべきかなどである。景気との関連で特に重要な点は、不良資産処理問題である。不良 資産処理をおこなうためには、不良資産の正当な価格を厳密に査定してオフバランス化し、損失 を償却することが求められる。この損失額が大きければ追加的な公的資本の注入が求められるで あろう。日本の不良債権処理においては、含み資産の売却と経常利益から償却原資を捻出してき たが、アメリカおよびヨーロッパの金融機関において含み資産と呼べるようなものがどれだけある かが問題である。含み資産が十分無い場合は、損失の償却はもっぱら経常利益に依存する。経常 利益による損失処理は、国民所得勘定上のフローの所得をストックの損失の償却に充てることで あり、有効需要を削減して貯蓄化することを意味する。毎年どれだけの規模でどれだけの期間損 失処理をするか不明であるが、日本の経験から判断すると、この損失処理が国民経済に及ぼすデ フレ圧力は大きくかつ長期的であろう。今回の金融危機がアメリカとヨーロッパで同時発生したこ とを考えると、不良資産処理のデフレ圧力はアメリカとヨーロッパの二つの地域で持続的に生み出 される可能性が強い 前に論じたように、アメリカの借金依存の経済構造が限界に達し、現在その修正局面にあると するならば、今後徐々に消費率が低下していき、それがアメリカ経済にデフレ圧力をかける可能 性が強い。そしてこの修正過程はきわめて長期に及ぶ可能性が強い。前述した不良資産処理によ るデフレ圧力と、この過剰消費体質修正によるデフレ圧力が相乗効果を持って働くならば、少々 の財政出動ではアメリカの景気下支えが困難だということになる。オバマ政権の「景気対策法案」 にもかかわらず、アメリカの完全失業率が上昇し続けている背景にはこのような事情が存在してい る。アメリカとヨーロッパは、デフレスパイラルの悪循環に陥らないために、かなりの長期にわたっ て財政赤字による景気の下支えを余儀なくされるだろう。 他方、世界経済の有効需要のバランスはアメリカの貿易赤字と他国の貿易黒字によって保たれ てきた。アメリカが長期の景気停滞から貿易赤字を縮小する方向に動くならば、黒字国側の輸出 依存体質の改善がないかぎり、世界経済の縮小均衡を作り出す危険性が強い。アメリカの借金体 質の改善、貿易赤字依存の経済構造の修正が必要であり、世界経済の均衡発展が今後とも求めら れるべきであるとすれば、黒字国側の輸出依存体質を修正することが絶対的に必要である。唯一 の希望は、これまで高成長を続けてきた BRICs 諸国が今後とも高成長を続け、世界経済を牽引す ることである。はたしてデカップリングが持続しうるのだろうか? 文末注 (1) 全米第 4 位の投資銀行リーマン・ブラザーズは、破産を回避するために FED に救済を求めていたが、第 3 位 の投資銀行メリルリンチが救済されたのに対し、リーマンは救済を受けられずに破産した。これほど大きな金 融機関でさえ倒産させられたという事実が全世界にショックを与え、一挙に国際金融危機と世界不況に突入し た。 (2) 米 CNBC テレビに出演して、「100 年に一度起きるかどうかの深刻な金融危機」と発言。それ以来、今回の危 機は「100 年に一度の危機」との言い方が定着した。 (3) 日本経済新聞、2009 年 9 月 25 日 (4) http://www2.standardandpoors.com/spf/pdf/index/SA_CSHomePrice_History_072820.xls
(5) たとえば、所得税におけるローン利子の所得控除。これは住宅の新築住宅の購入だけでなく中古住宅の買い換 えも対象としているため、住宅投資を有力な節税手段、蓄財手段にする。 (6) この点を重視する論者は多い。河合正広「世界金融危機の進展と世界経済へのインパクト」『世界』2009 年 1月号、 pp.170-180。なかには、「IT バブル崩壊で受けた惨状を、新たな資産価格バブルを生み出すことによって切り 抜けようとしてきた」と述べる論者もいる。斉藤誠「金融危機が浮かび上がらせた日本経済の危機と機会」『世 界』2009 年 2 月号、p.118。 (7) この点を重視する論者も多い。サブプライム・ローンの急拡大がバブルを加速化する役割を果たしたことは確 かであるが、住宅バブルはそれ以外の要因も大きいと思われるため、これはバブル加速化要因の一部と考えら れるべきであろう。 (8) 池尾和人の命名による。池尾和人・池田信夫『なぜ世界は不況に陥ったのか』日経 BP 社、2009 年、p.22 (9) 2006 年段階で融資残高比率を調べると、伝統的な「銀行型間接金融」方式による資金供給が約 40%、「市場 型間接金融」方式が約 60%となっている。今回の危機と深く関わっているのは後者である。市場型間接金融方 式の具体的説明およびデータは、小林正宏・安田裕美子『サブプライム問題とアメリカの住宅金融市場』住宅 新報社、2008 年による。 (10) 実際に住宅融資をおこなう金融機関は銀行に限定されない。S & L やモーゲージ・バンクなどが含まれるが、 ここでは銀行で代表させている。 (11) 以下のサブプライム・ローンの仕組みについての説明は次の著書に依拠している。小林正宏・安田裕美子『サ ブプライム問題とアメリカの住宅金融市場』住宅新報社、2008 年 (12) 必ずしも全てを売却するわけではない。両社は証券の一部を保有して収益を得る活動(ポートフォリオ投資事 業)もおこなっている。 (13) SPC は元の企業から資産を「真性譲渡」されているので、元の企業が破綻したとしても、その債権者が SPC に遡及できないようにすることで、証券化商品である MBS のキャッシュフローがストラクチャー上きちんと担 保されている。 (14) 小林正宏・安田裕美子、前掲書、p.23 参照 (15) たとえば年金財団は投資対象を AAA にすることが義務づけられていたため、格付けが低下するとそれを売却 処分しなければならなかった。 (16) 3,300 億ドルは約 33 兆円(1 ドル 100 円として)である。アメリカの経済規模が日本の約 3 倍であることを考 慮すると、日本にあてはめればさしずめ 11 兆円くらいに相当する焦げ付きである。日本の土地バブルによる銀 行組織の不良債権処理額が総額 100 兆円近いことを考えると、11 兆円くらいの不良債権はアメリカの金融組織 で十分処理できる額だと思われる。 (17)この証券化商品を作り出した SPC ですら、CDO のリスクを正確に評価することが困難だったといわれている。 (18) 商業銀行が投資銀行ビジネス・モデルを導入した背景には、欧米が資本過剰社会になって、伝統的な融資業務 では十分な利潤を上げることが困難になったこと、株主の発言権が増して高収益率経営への圧力が強まったこ となどが挙げられる。池尾和人・池田信夫『なぜ世界は不況に陥ったのか』日経 BP、2009 年、第 3 講参照 (19) 河合正広「世界金融危機の進展と世界経済へのインパクト」『世界』2009 年 1 月号、p.174 (20) 宇沢弘文・内橋克人「新しい経済学は可能か 1 ~ 3」『世界』2009 年 4 月号~ 6 月号 (21) 水野和夫『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』日本経済新聞社、2007 年、p.30 (22) ヨーロッパの金融・経済危機については以下の文献を参考にしている。田中素香「深刻な金融・経済危機の ヨーロッパ」『世界経済評論』2009 年 3 月号、pp.6-21。星野郁「ヨーロッパの金融構造の変貌と金融危機」『世 界経済評論』2009 年 3 月号、pp.22-32。岩田健治「なぜヨーロッパで危機が顕在化したか?」『世界経済評論』 2009 年 3 月号、pp.33-45 (23) 河合正広「世界金融危機の進展と世界経済へのインパクト」『世界』2009 年 1 月号、p.176 (24) 福岡正夫・鈴木淑夫『危機の日本経済』NTT 出版、p.4-6。 (25) 以下の日本経済に関する叙述は、『平成 21 年版経済財政白書』第 1 章による。以下で『白書』と略称 (26) 『白書』p.15 (27) 『白書』p.39 (28) 『白書』pp.41-42 (29) アメリカとヨーロッパの金融対策については、河合正広、前掲論文、pp.176-178 による。
参考文献 【単行本】 池尾和人・池田信夫『なぜ世界は不況に陥ったのか』日経 BP、2009 年 小林正宏・安田裕美子『サブプライム問題とアメリカの住宅金融市場』住宅新報社、2008 年 小峰隆夫 『データで斬る世界不況』日経 BP、2009 年 福岡正夫・鈴木淑夫編『危機の日本経済』NTT 出版、2009 年 10 月 13 日 水野和夫 『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』日本経済新聞、2007 年 リチャード・クー『日本経済をおそう二つの波』徳間書店、2008 年 内閣府 『平成 21 年版経済財政白書』日経印刷、2009 年 【論文】 岩田健治 「なぜヨーロッパで危機が顕在化したのか?」『世界経済評論』2009 年 3 月号、pp.33-45 宇沢弘文・内橋克人「新しい経済学は可能か(1)(2)(3)」『世界』2009 年 4 月―6 月号 河合正広 「世界金融危機の進展と世界経済へのインパクト」『世界』岩波書店、2009 年 1 月号、 pp.170-180 斉藤誠 「金融危機が浮かび上がらせた日本経済の危機と機会」『世界』岩波書店、2009 年 2 月号、 pp.112-120 田中素香 「深刻な金融・経済危機のヨーロッパ」『世界経済評論』2009 年 3 月号、pp.6-21 星野郁 「ヨーロッパの金融構造の変貌と金融危機」『世界経済評論』2009 年 3 月号、pp.22-32