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小・中学校道徳科及び社会科,並びに高等学校公民科の接続・連携に向けて : 予備的考察としての新学習指導要領の分析

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Academic year: 2021

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(1)Title. 小・中学校道徳科及び社会科,並びに高等学校公民科の接続・連携に向 けて ― 予備的考察としての新学習指導要領の分析 ―. Author(s). 古川, 雄嗣. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 70(1): 41-51. Issue Date. 2019-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10561. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 小・中学校道徳科及び社会科,並びに高等学校公民科の接続・連携に向けて ― 予備的考察としての新学習指導要領の分析 ―. 古 川 雄 嗣 北海道教育大学旭川校教育学教室. Making a Connection and Fostering Cooperation between Moral Education and Social Studies in Elementary and Junior High School, and Civic Education in High School ― An Analysis of the New Course of Study as a Preliminary Consideration ―. FURUKAWA Yuji Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 2018(平成30)年告示の新学習指導要領では,高等学校公民科の「公共」及び「倫理」が小・ 中学校道徳科との密接な関係の下に位置付けられた。このことは,哲学史・思想史の学習を基 礎として,「人格」として,また「国家及び社会の形成者」としての自己の生き方を「考え, 議論する」道徳教育への展開として,まずは一定の評価に値するものと思われる。しかしなが ら,そこで改めて問われるべきは,学校における道徳教育と社会科教育との関係如何という, 古くて新しい問題である。この観点から新学習指導要領の構造を分析した結果,主として, 小・中学校における道徳科と社会科,並びに高等学校における「公共」及び「倫理」と「政治・ 経済」及び地理歴史科との道徳教育上の関係の希薄さが浮き彫りになり,両者のいわば「再結 合」が今後の課題となり得るのではないかとする知見が導かれた。. はじめに. 示されているのが,道徳科は広い意味での「哲学」 であるべきである,という意見である1。. 2015(平成27)年に告示された一部改正学習指 導要領により, 「特別の教科」となった道徳(道 徳科)については,今も賛否両論が飛び交ってい るが,その中で,賛否双方の立場から共通して提. 1  例えば, 「教科化」に概ね肯定的な立場から提示さ れているそれとしては,古川雄嗣『大人の道徳――西 洋近代思想を問い直す』 (東洋経済新報社,2018年) ,. 41.

(3) 古 川 雄 嗣. おそらく,これは当然のことであろう。という. ナーを学び,規範意識などを育む2」ことが必要. のは,一方で,学校教育において何らかの道徳的. である,等として,これらの特定の価値や規範を. 価値を教えるべきであるとする,道徳教育推進の. 教えるべきことを明記しながらも,他方で,「人. 立場に立つとしても,思想・信条の自由や価値の. としての生き方や社会の在り方について,時に対. 多様性を尊重すべしとするリベラリズムの原則を. 立がある場合を含めて,多様な価値観の存在を認. 無視するわけにはいかない。他方,したがって特. 識しつつ,自ら感じ,考え,他者と対話し協働し. 定の価値を学校教育において教えるべきではない. ながら,よりよい方向を目指す資質・能力3」の. とする,道徳教育反対の立場に立つとしても,む. 育成こそが求められる,等として,価値の多様性. しろそうであるがゆえにこそ,そもそもその立場. そのものを教えることこそが道徳教育の目標であ. そのものが拠って立つリベラリズムの価値そのも. るともしている。かくして,いわゆる「考え,議. のは,何らかの仕方で教えるべきであるとしない. 論する道徳」が強調されることとなる。. わけにはいかない。かくして,結局,基本的には リベラリズムの原則を前提としつつ,特定の価値. 「特定の価値観を押し付けたり,主体性をも. を教え込むのではなく,価値の多様性という価値. たず言われるままに行動するよう指導したり. そのものを教え,その多様な価値について「考え. することは,道徳教育が目指す方向の対極に. る」ことを,学校における道徳教育の目標及び内. あるものと言わなければならない」,「多様な. 容とすることが,両者のいわば妥協点として,道. 価値観の,時に対立がある場合を含めて,誠. 徳教育に関する共通了解を形成することになるで. 実にそれらの価値に向き合い,道徳としての. あろう。. 問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべ. 実際,2018(平成30)年に告示された新学習指. き基本的資質である」との答申を踏まえ,発. 導要領は,それを明瞭に示している。例えば, 『小. 達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的. 学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の. な課題を一人一人の児童が自分自身の問題と. 教科 道徳編』 (中学校もほぼ同文)では,一方で,. 捉え,向き合う「考える道徳」,「議論する道. 道徳教育においては「人間尊重の精神と生命に対. 徳」へと転換を図るものである4。. する畏敬の念を前提に,人が互いに尊重し協働し て社会を形作っていく上で求められるルールやマ. さて,そうするとここで問題として立ち現れて くることの1つが,このように示された小・中学 校「道徳」と,特に高等学校「倫理」との連続性. 概ね批判的な立場から提示されているそれとしては, 河野哲也『道徳を問いなおす――リベラリズムと教育. の問題であろう。なぜなら,言うまでもなく, 「人 としての生き方や社会の在り方について」の, 「時. のゆくえ』(筑摩書房,2011年),小川仁志『「道徳」を. に対立」する「多様な価値観」とは,要するにま. 疑え!――自分の頭で考えるための哲学講義』(NHK. さにいわゆる思想史・哲学史にほかならず,従来. 出版,2013年)などがある。また,具体的な実践例と. それを扱ってきた科目が,まさに高等学校「倫理」. して,いわゆる「哲学対話」(梶谷真司『考えるとはど ういうことか――0歳から100歳までの哲学入門』幻冬 舎,2018年,参照)の方法を用い,小学校「道徳」を様々. にほかならないからである。かくして,新学習指 導要領に示された小・中学校「道徳」は,明らか. な道徳的価値をめぐる自由な思考と対話の場として位 置付けた,お茶の水女子大学附属小学校の新教科「て つがく」の試みがある。これについては,お茶の水女 子大学附属小学校編『新教科「てつがく」の挑戦――“考. 42. 2  文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示) 解説 特別の教科 道徳編』 (2017年)1頁。. え議論する”道徳教育への提言』(東洋館出版社,2019. 3  同上,1頁。. 年)を参照。. 4  同上,2頁。.

(4) 道徳科及び社会科,並びに公民科の接続・連携に向けて. に,高等学校「倫理」の基礎的段階として位置付. おける道徳教育の新たな位置付けに伴い,改めて. けられるべき性格を持っている。. 問われるべき問いとして浮上してくることとなっ. そして現に,この度の学習指導要領改訂におけ. たのである。. る1つの大きな変更点は,まさに高等学校におけ. かくして,新学習指導要領における道徳教育の. る道徳教育の位置付けであり,そこにおいて「倫. 在り方をめぐって問われるべき問いの1つは,. 理」は,同じ公民科の中の必履修科目として新設. 小・中学校における道徳科と社会科,並びにその. された「公共」と並んで,「人間としての在り方. 両者と高等学校公民科という,いわば鼎立の関係. 生き方に関する教育を通して行う高等学校の道徳. 如何であるということになる(図1)。. 教育の中核的な指導の場面として関連付け5」ら れることが明記された。高等学校公民科の「公共」. 高等学校. 及び「倫理」は,小・中学校「道徳」との緊密な. 公 民 科 (「 公 共 」 及 び「 倫 理 」 ). 連続性の下に, 新たに位置付け直されたのである。 しかし,そうすると,ここで更にもう1つ問題 として立ち現れるのは,小・中学校における道徳. 小 ・中 学 校. 小 ・中 学 校. 科と社会科との関係,つまり道徳教育と社会科教. 道徳科. 社会科. 育との関係如何という,いわば古くて新しい問題. 図1 道徳科・社会科・公民科の関係. である。言うまでもなく,従来の高等学校公民科. (出所)筆者作成。. は,小・中学校社会科との連続性の下に位置付け られた教科・科目であった。ところが,この度の. そこで本稿では,さしあたり,この問いを問う. 指導要領改訂により,それは同時に道徳科との緊. ための出発点として,新学習指導要領におけるこ. 密な連続性をも持つべきものと位置付けられた。. の関係の規定を改めて整理・検討することによっ. では,そもそもその社会科と道徳科との関係は,. て,この問題をめぐる今後の課題を具体化するこ. 小・中学校において,どうなっているのか。当然,. とを試みてみたい6。. このことが改めて問題になってくる。 これも言うまでもなく,元々,小・中学校社会 科は, 修身科が廃止された戦後教育改革において, 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の「中. 6  なお,筆者自身は,道徳教育のあり方に関するこの 度の学習指導要領改訂は,基本的には望ましいもので. 心」として新設された教科であった。ところが,. あると考えている。それは,筆者自身も,基本的に,小・. 1958(昭和33)年の「道徳の時間」特設に伴い,. 中学校道徳科は,哲学・倫理学を学問的基礎とする教. その当初の位置付けは曖昧なものとなった。つま り,特設された「道徳の時間」と,従来道徳教育. 科であるべきであると考えるからである。その理由に ついては,古川前掲書で論じたので参照してほしい。 また,したがって筆者は,小・中学校道徳科は高等学. の「中心」とされた社会科との関係如何をめぐっ. 校公民科,特に「倫理」の基礎科目として位置付ける. て,様々な議論が飛び交い,それは結局,確かな. とともに,その内容を再編すべきであるとも考えてい. 結論を得ないままとなっていたのである。これを 「古くて新しい」問題と言うのは,そのゆえであ. る。その点については,甚だ雑駁ながら,以下の記事 にて所見を述べた。古川雄嗣・斎藤哲也「「空気を読ま ない」 哲学が学校や企業を救う理由――日本の 「道徳. る。 「道徳の時間」特設以来のこの問題が,この. 教育」 はなぜイケてないのか」『東洋経済オンライン』. 度の道徳の「特別の教科」化,並びに高等学校に. 2019年 3 月 7 日(https://toyokeizai.net/articles/-/268 549) 。したがって,本稿の問いは,決して単に学習指 導要領改訂に伴う,いわば政策追従的な問いであるわ. 5  文部科学省『高等学校学習指導要領解説 総則編』 (2018年)12頁。. けではなく,あくまでも筆者自身の学問的関心に基づ くものであることを,念のため断っておきたい。. 43.

(5) 古 川 雄 嗣. 1 高等学校における道徳教育と公民科の位 置付け. て,その全体計画を作成すること9」とだけ定め られていた。しかしながら,それを小・中学校と 同様に,「各学校や生徒の実態に応じて重点化し. すでに述べたように,この度の学習指導要領改. た道徳教育を行うために,校長の方針の下,高等. 訂における1つの大きな変更点は,高等学校にお. 学校において道徳教育推進を主に担当する教師. ける道徳教育に関する規定である。例えば, 「総則」. (以下「道徳教育推進教師」という。)を新たに. において,第7款として「道徳教育に関する配慮. 位置付けた10」わけである。. 事項」 が独立して立てられた。この点については,. 第二に,更に注目すべきは,傍点を付したよう. 「小・中学校学習指導要領総則と同様に,道徳教. に,「公民科の「公共」及び「倫理」並びに特別. 育の充実の観点から,高等学校における道徳教育. 活動が,人間としての在り方生き方に関する中核. 推進上の配慮事項を第7款としてまとめて示すこ. 的な指導の場面であることに配慮すること」とい. 7. ととした 」と解説されている。そこには,まず,. う一文が明記されたことである。この点について. その1として,次のように定められている。. は,すでに現行の学習指導要領でも,「公民科や ホームルーム活動を中心に各教科・科目等の特質. 各学校においては,第1款の2の⑵に示す道. に応じ学校の教育活動全体を通じて,生徒が人間. 徳教育の目標を踏まえ,道徳教育の全体計画. としての在り方生き方を主体的に探求し豊かな自. を作成し,校長の方針の下に,道徳教育の推. 己形成ができるよう,適切な指導を行う11」とか,. 進を主に担当する教師(「道徳教育推進教師」. 「特に公民科の「現代社会」及び「倫理」,特別. という。 )を中心に,全教師が協力して道徳. 活動にはそれぞれの目標に「人間としての在り方. 教育を展開すること。なお,道徳教育の全体. 生き方」を掲げており,これらを中核的な指導の. 計画の作成に当たっては,生徒や学校の実態. 場面として重視し,道徳教育の目標全体を踏まえ. に応じ,指導の方針や重点を明らかにして,. た指導を行う必要がある12」とかと,「解説」は. 各教科・科目等との関係を明らかにするこ ・・・・ ・・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ と。その際,公民科の「公共」及び「倫理」 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ 並びに特別活動が,人間としての在り方生き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 方に関する中核的な指導の場面であることに ・・・・・・ 配慮すること8。. されていた。しかし,これらの文言は「解説」に しか記載されておらず,「本文」には明記されて いなかった。この度の改訂は,いわば,この「解 説」を「本文」に格上げすることによって,公民 科を高等学校における道徳教育の「中核」とすべ きであることを,一層強調した形になっているわ. ここでは,まず第一に,小・中学校と同様に,. けである。. 「道徳教育推進教師」を設置することが義務付け. しかしながら,このことは,直ちに次のような. られている。現行(2009(平成21)年告示)の学. 問題を導くであろう。. 習指導要領では,単に「全教師が協力して道徳教. 新学習指導要領においては,高等学校において. 育を展開するため,第1款の2に示す道徳教育の. も,小・中学校と同様,道徳教育推進教師が(中. 目標を踏まえ,指導の方針や重点を明確にして,. 心となって)道徳教育の全体計画を作成する。と. 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育につい 9  文部科学省『高等学校学習指導要領』 (2009年)7頁。 10 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 総則編』 7  文部科学省『高等学校学習指導要領解説 総則編』 (2018年)11頁。 8   文 部 科 学 省『 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 』(2018年 ) 22-23頁,傍点引用者。. 44. (2018年)12頁。 11 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 総則編』 (2009年)18頁。 12 同上,19頁。.

(6) 道徳科及び社会科,並びに公民科の接続・連携に向けて. ・・・ ころが,その際,公民科の「公共」及び「倫理」. このことの制度上の是非については,賛否のあ. (並びに特別活動13)が「人間としての在り方生. るところであろうが,それについてはここでは問. き方に関する中核的な指導の場面であることに配. うことはしない。そのこと自体を問う前に,まず. 慮する」必要があるのである。このことは,「解. ここで確認しておきたいことは,このような問題. 説」では,より詳細に,例えば次のように説明さ. が生じる背景にあるのは,結局,公民科はあくま. れている。 「道徳教育推進教師には,人間として. でも単に各教科のうちの1つにすぎないのか,そ. の在り方生き方に関する教育を学校の教育活動全. れとも道徳教育の「中核」を担うという,特別な. 体を通じて推進する上での中心となり,全教師の. 意味を持った教科なのかという問題であるという. 参画,分担,協力の下に,その充実が図られるよ. ことである。この点についての,指導要領上での. 14. う働きかけていくことが望まれる 」。全体計画. 規定を,改めて確認してみることにしよう。. の意義の1つは,「「人間としての在り方生き方」 を目標に掲げる公民科の「公共」及び「倫理」並 びに特別活動の中核的な指導の場面としての位置. 2 公民科と社会科及び道徳科との関係. 付けや役割が明確になる」ことであり, 「全体計. 見てきたように,高等学校の新学習指導要領の. 画は,公民科の「公共」及び「倫理」並びに特別. 総則において,公民科の「公共」及び「倫理」は,. 活動の年間指導計画を作成するよりどころにもな. 高等学校における道徳教育の「中核的な指導の場. 15. 。 「各学校が全体計画に示すことが望まれる る 」. 面」であると規定されている。このことは, 「解. 事項」の1つは, 「中核的な指導の場面である公. 説」において更に力説されている。. 民科の「公共」及び「倫理」並びに特別活動をは. 特にそれを再三にわたって力説しているのは,. じめとして,各教科・科目等の方針に基づいて進. 「解説」の第8章として立てられた「道徳教育推. める道徳性を養うことに関わる指導の内容を整理. 進上の配慮事項」である。前節の終わりに見た箇. 16. して示す」ことである 。「全体計画作成上の創. 所のほかにも,例えば次のような記述がある。. 意工夫と留意点」の1つとして,「公民科の「公 共」及び「倫理」並びに特別活動において人間と. 高等学校における人間としての在り方生き方. しての在り方生き方に関する中核的な指導の場面. に関する教育は,学校の教育活動全体を通じ. としての役割が果たされるよう計画を工夫するこ. て各教科・科目,総合的な探究の時間及び特. 17. 。 とが必要である 」. 別活動のそれぞれの特質に応じて実施するも. これらの規定に基づくならば,道徳教育推進教. のである。特に公民科に新たに必履修科目と. 師は,必然的に,公民科の学習指導計画に精通し. して設けた「公共」及び新たに選択科目となっ. た者でなければならないことになる。いや,もっ. た「倫理」並びに特別活動にはそれぞれの目. と有り体に言えば,事実上,道徳教育推進教師は. 標に「人間としての在り方生き方」を掲げて. 公民科教員でなければ務まらないということにさ. おり,これらを中核的な指導の場面として重. えなるであろう。. 視し,道徳教育の目標全体を踏まえた指導を 行う必要がある18。. 13 本稿では,問いの性格上,特別活動に関する考察は, ひとまず一切割愛することとする。 14 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 総則編』 (2018年)177頁。 15 同上,179頁。. 〔「公共」の〕指導に当たっては,思考実験 などを通して人間としての在り方生き方につ いて多面的・多角的に考察し,表現できるよ. 16 同上,180頁。 17 同上,181頁。. 18 同上,182頁。. 45.

(7) 古 川 雄 嗣. うにすることが必要となる19。. 連を図る26」こと,及び「第1章第1款の2の⑵ に示す道徳教育の目標に基づき,この科目の特質. 〔 「倫理」の〕指導に当たっては,いかに生. に応じて適切な指導をすること27」が定められて. きればよいかという問いを切実に問い,その. いる。さらに,「解説」では,「公民科と道徳教育. 問いに,まず先哲がどのように問い,どのよ. との関連を明確に意識しながら,適切な指導を行. うに答えを求めているかを参考にしながら,. う必要がある28」という極めて直接的な指示を記. 自らの答えを求めて思索を深めることができ. すとともに,次のように,極めて具体的な形で,. 20. るようにすることが必要となる 。. 中学校道徳科との接続を図るよう,促してもいる。. ところで, 当然,高等学校における道徳教育は,. 中学校特別の教科である道徳の内容として定. 「中学校までの道徳教育とのつながりを意識す. めている22項目の中にも,「公共」〔「倫理」〕. 21. 「小・中学校の道徳教育との接続を る 」こと, 22. の内容と共通していたり,あるいは関連の深. 意識すること 」,「中学校までの道徳科の学習等. い項目が多く含まれていたりする。したがっ. を通じて深めた,主として「自分自身」,「人との. て,「公共」〔「倫理」〕の指導においては,こ. 関わり」 , 「集団や社会との関わり」,「生命や自. のような中学校の道徳教育における指導を受. 然,崇高なものとの関わり」に関する道徳的諸価. け継ぐよう,十分関連を図る必要がある29。. 「小・中 値についての理解を基に23」すること, 学校の道徳教育の内容項目とのつながりを意識す 24. , 「中学校までの道徳科の学習を通じた ること 」 25. 現行の指導要領でも, 「現代社会」及び「倫理」 については,「中学校社会科及び道徳並びに公民. 道徳的諸価値の理解についても考慮 」すること. 科に属する他の科目,地理歴史科,家庭科,情報. が求められる。ということは,これもまた当然,. 科及び特別活動などとの関連を図る30」ことが定. その道徳教育の「中核的な指導の場面」として位. められてはいたが,上記の「道徳教育の目標に基. 置付けられる「公共」及び「倫理」もまた,小・. づき,この科目の特質に応じて適切な指導をする. 中学校における道徳教育及び道徳科との緊密な連. こと」といった記載はない。「解説」においても,. 続性の下に,その学習指導内容が計画されなけれ. 「倫理」については,「「倫理」は,高等学校にお. ばならないということになる。. ける道徳教育としての人間としての在り方生き方. このことは, 新学習指導要領の第2章第3節「公. に関する教育において重要な役割を担っている。. 民」においても,極めて明瞭に示されている。そ. 〔……〕中学校道徳の内容として定めている24項. こでは, 「公共」及び「倫理」の双方について, 「中. 目の中にも「倫理」の内容と共通していたり,あ. 学校社会科及び特別の教科である道徳,高等学校. るいは関連の深い項目が多く含まれている。した. 公民科に属する他の科目,この章に示す地理歴史. がって「倫理」の指導においては,このような中. 科,家庭科及び情報科並びに特別活動などとの関. 学校の道徳教育における指導を受け継ぐよう,十. 26 文部科学省『高等学校学習指導要領』 (2018年)96, 19 同上,183頁。. 102頁。. 20 同上,183頁。. 27 同上,96,102頁。. 21 同上,177頁。. 28 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 公民編』. 22 同上,179頁。. (2018年)119頁。. 23 同上,188頁。. 29 同上,81,118頁。. 24 同上,188頁。. 30 文部科学省『高等学校学習指導要領』 (2009年)32,. 25 同上,188頁。. 46. 33頁。.

(8) 道徳科及び社会科,並びに公民科の接続・連携に向けて. 分関連を図る必要がある31」という記載はあった. であること,さらにその中の「広い視野に立ち」. が, 「現代社会」については,単に「道徳との関. とは,「中学校までの社会科学習の成果を活用す. 連については,それが各教科及び特別活動,総合. ることを意味する」こと,並びに「公民としての. 的な学習の時間などと密接な関連を図りながら,. 資質・能力」とは,「小・中学校社会科の目標に. 人間としての生き方についての自覚を深め,道徳. 一貫した表現である「公民としての資質・能力の. 的実践力を育成することに主眼を置いていること. 基礎」の上に立って育成されるものである」こと,. に留意する必要がある32」という,極めて簡潔な. 等が再三にわたって説明されている34。このよう. 説明があるのみであった。つまり,この度の改訂. に,ここではむしろ,小・中学校社会科と高等学. における,小・中学校における道徳科の新設と高. 校公民科及び地理歴史科の一貫性が強調されてい. 等学校における道徳教育の推進に伴い,公民科の. るのである。. 「公共」及び「倫理」を,中学校道徳科と緊密に. さらに,中学校道徳科との連続性を明確に意識. 連続させ,公民科を道徳科の発展科目として位置. し,高等学校における道徳教育の「中核」を担う. 付けようとする意図が,ここに明瞭に現れている. 科目として位置付けられているはずの「公共」及. と言える。. び「倫理」についてさえ,その指導に際しては,. しかしながら,言うまでもなく,公民科は同時. 「公共」では「小・中学校社会科や地理歴史科な. に,依然として,社会科の発展教科としても位置. 「倫理」 どで育んだ資質・能力を用いる35」こと,. 付けられている。というよりも,このことは,こ. では「中学校社会科,地理歴史科及び公民科「公. の度の改訂における公民科全体の目標の見直しに. 共」などの学習との関連に留意36」することが求. おいて, むしろ一層強調されてさえいる。例えば,. められている。. 公民科の目標として,「社会的な見方・考え方を. こうなると,結局,高等学校公民科の「公共」. 働かせ,現代の諸課題を追究したり解決したりす. 及び「倫理」は,小・中学校道徳科の発展科目な. る活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化. のか,それとも社会科のそれなのか,極めて不明. する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国. 瞭であると言わざるを得ない。明らかに,新指導. 家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての. 要領は,その両方であることを力説している。し. 資 質・ 能 力 を 次 の と お り 育 成 す る こ と を 目 指. かし,それは具体的には一体どういうことを意味. 33. 「解説」では, す 」との文言が掲げられたが,. しているのであろうか。指導要領上では,それが. ここで言う「社会的な見方・考え方」とは, 「社. 依然として不明瞭であるように思われる。そうし. 会科,地理歴史科,公民科の特質に応じた見方・. て,このことは結局,そもそも「公共」及び「倫. 考え方の総称」 」であること,後段の「広い視野. 理」がその両方の発展科目であるとされる,小・. に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生. 中学校の道徳科と社会科とが,一体どのような関. きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者. 係の下にあるのかという問題に帰着するように思. に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育. われる。. 成することを目指す」という部分は, 「小学校及 び中学校における社会科学習を踏まえた,高等学 校における地理歴史科,公民科の共通のねらい」. 31 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 公民編』 (2009年)(頁数記載なし)。. 34 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 公民編』 (2018年)21-22頁。. 32 同上(頁数記載なし)。. 35 同上,28頁。. 33 文部科学省『高等学校学習指導要領』 (2018年)92頁。. 36 同上,86頁。. 47.

(9) 古 川 雄 嗣. 性があると言ってよいであろう38。. 3 社会科と道徳科との関係. しかしながら,むしろそうであるがゆえに,新. そもそも,本質的に,学校における道徳教育が,. 学習指導要領にはいくつかの不可解な点が残って. 特に社会科及びその発展教科である公民科並びに. いるように思われる。それは次のような点である。. 地理歴史科との極めて密接な関係にあることは,. まず第一に,小・中学校の道徳教育及び道徳科. 論を俟たないはずである。なぜなら,学習指導要. との連続性の下に位置付けられているのは,公民. 領も随所で前提として示しているように,学校に. 科のうちの「公共」及び「倫理」のみであり,も. おける道徳教育の目的は,教育基本法第1条にあ. う1つの科目である「政治・経済」は除外されて. る「人格の完成」を目指すこと,並びに「平和で. いる。例えば,「公共」及び「倫理」では「中学. 民主的な国家及び社会の形成者として必要な資. 校社会科及び特別の教科である道徳,高等学校公. 37. 質」を育成することにほかならない 。したがっ. 民科に属する他の科目,この章に示す地理歴史科,. て,そのためには,まずそもそも,「人格(の完. 家庭科及び情報科並びに特別活動などとの関連を. 成) 」とは何であるか,「平和で民主的な国家及び. 図る」と定められた「指導計画の作成と指導上の. 社会」とはどのような国家と社会なのか,そして. 配慮事項」について, 「政治・経済」では単に「公. その「形成者として必要な資質」とはどのような. 民科に属する他の科目,この章に示す地理歴史. 資質なのか,これらに関する基礎的知識を学習す. 科,家庭科及び情報科などとの関連を図る39」と. る必要がある。前者は主として哲学・倫理学を中. しか記されていない。また,やはり「公共」及び. 心とする人文科学,後者は主として政治学・経済. 「倫理」には記載されていた「道徳教育の目標に. 学を中心とする社会科学が,各々その学問的基盤. 基づき,この科目の特質に応じて適切な指導をす. となる。さらに,「国家及び社会」とは,単なる. ること」という規定も, 「政治・経済」にはない。. 抽象的観念ではなく,あくまでも「日本」という. ここでは, 「小学校及び中学校で習得した概念な. 時間・空間的に限定された歴史的個体である以 上,それは歴史的・地理的な知識・思考とも不可. 38 なお,このような観点から,今日改めて注目と検討. 分である。したがって,学校における道徳教育は,. を要すると思われるのが,敗戦直後に日本側が独自に. 広義の社会科教育との密接な関係にある(ないし. 新日本の新たな道徳教育のあり方を構想した,いわゆ. る。また,したがって,戦後道徳教育が, 「道徳」. る「公民教育構想」であろう。ここでは,例えば「道 ・・・・・・・・・・・ 徳ハ元来社会ニ於ケル個人ノ道徳ナルガ故ニ,「修身」 ・・・・・・・・・・ ハ公民的知識ト結合シテハジメテ其ノ具体的内容ヲ得,. を特設せず,社会科を「中心」とする全面主義で. ソノ徳目モ現実社会ニ於テ実践サルベキモノトナル。. 出発したこと,そして今日,いわば改めて,高等. 従ツテ修身ハ「公民」ト一体タルベキモノデアリ,両. 社会科教育そのものである)と,まずは考えられ. 学校公民科が道徳教育と社会科教育との総合とし て位置付けられるに至ったことには,論理的必然. 者ヲ統合シテ「公民」科ガ確立サルベキデアル」等と 考えられていた(傍点引用者。参照,片上宗二編『敗 戦直後の公民教育構想』教育史料出版会,1984年)。こ のような本稿の問題意識を概ね共有していると思われ る論考として,例えば,蔭山佐智子・小池孝範・佐藤. 37 もちろん,この教育基本法の理念自体の正当性につ. 修司「戦後教育改革の黎明期における公民教育構想. いては,いくらでも問うことはできるし,問うべきで. ――道徳教育改革との関連をふまえて」『秋田大学教育. ある。しかし,さしあたりこの理念に則るのであれば,. 文化学部研究紀要 教育科学部門』第74巻,2019年)が. 「人格の完成」と「平和で民主的な国家及び社会の形. ある。ここでは,高等学校における「公共」の新設や,. 成者として必要な資質の育成」のための教育は, 「人格」. いわゆるシティズンシップ教育の必要性といった今日. と「平和」と「民主」,及びそれらに付随する諸々特定. 的観点と,敗戦直後の「公民教育構想」との間には, 「そ. の道徳的価値を教え,身に付けさせるものである以上,. の方向性に共有する点をみとめることができる」との. まぎれもない道徳教育であり,それが学校で行われな ければならないことは,当然である。. 48. 認識に基づき, その意義の再検討の必要が説かれている。 39 文部科学省 『高等学校学習指導要領』 (2018年)107頁。.

(10) 道徳科及び社会科,並びに公民科の接続・連携に向けて. どに関する知識や,「公共」で身に付けた選択・. これは高等学校における「公共」及び「倫理」. 判断の手掛かりとなる考え方などを基に40」とか,. との著しい相違点である。というのは,『高等学. 「小・中学校社会科及び「公共」の学習との関連. 校学習指導要領解説 総則編』では,第8章「道. 41. 性に留意して指導すること 」とかというふうに,. 徳教育推進上の配慮事項」において,既述のよう. ほとんど専ら,社会科との連続性のみしか規定さ. に, 「公共」及び「倫理」が「中核的な指導の場面」. れていない。確かに,道徳科との連続性の下に位. として位置付けられている。したがって,その第. 置付けられた「公共」との関連性に留意するとい. 1節の2の⑵「各教科・科目等における人間とし. うことは,いわば間接的に道徳科との連続性を有. ての在り方生き方に関する教育」では,まず「公. することにはなるが,少なくとも,直接的な連続. 共」及び「倫理」 (並びに特別活動)がその「中核」. 性についての記載は,「政治・経済」には一切な い。また,このことは,地理歴史科についても,. に位置付けられることが改めて具体的に記述され ・・・・・・・ ・・・・・ た上で,それに次いで,それ以外の各教科・科目. 全く同様である。なお,これは現行の指導要領が. 等の道徳教育との関連性が,羅列的に解説されて. 採っている構造であり(中学校道徳との直接的な. いる。ところが,小学校及び中学校の『学習指導. 連続性の下に位置付けられているのは, 「現代社 地理歴史科はそうではない) ,それが新学習指導. 要領解説 総則編』では,ともに,第6節の1の ・・ ⑷「各教科等における道徳教育」において,社会 ・・・・・・・ 科を含む全ての各教科等に関して,その道徳教育. 要領においても,依然として踏襲されているので. との関連性が,羅列的に解説されているのである。. ある。 先述したように,論理的に考えれば,教育基本. 高等学校における「公共」及び「倫理」が,道徳 ・・・ 教育との特別な関係に位置付けられているのに対. 法に基づく道徳教育は,本来,政治・経済及び地. して,小・中学校における社会科はそうではない. 会」及び「倫理」のみであり,「政治・経済」と. 理・歴史に関する知識・思考とも不可分であるは ずである。にもかかわらず,なぜこれらが中学校 の道徳教育及び道徳科との直接的な連続性の下に. ん社会科で養いたいと考える望ましい態度や能力,特 に態度は,単に社会科のみでねらわれるべきものでは. 位置付けられていないのか,不可解である。. なく,他のすべての教科の学習の際においても,また. 第二に,小・中学校における道徳科と社会科と. そのほかの,学校生活におけるあらゆる機会,あらゆ. の関係である。これも先述したように,本来,論 理的にも歴史的にも,社会科は道徳教育と最も密 接な関係にあるか,ないしはそれ自体が道徳教育 であるという性格を持っている。ところが,現行 及び新学習指導要領においては,社会科は道徳教 ・・・ 育に対する特別な関係を持っていない。いわば単. る場面においても,養うことのできるものである。け ・・・ れども社会科は,人間生活・社会生活に対する正しい ・・ ・・・ 理解 を得させることによって,これらの態度の裏づけ をし,たえず統一のある生活態度を進展させるという ・・・・・・・・・・・・ 使命をになっている点で,道徳教育に関する特別な使 ・・・・・・・ 命を負っているということができる」(文部省『小学校 学習指導要領 社会科編(試案) 』1951年,第2章「社 会科の目標」,傍点引用者)。その後,「道徳の時間」特. なる各教科の1つであり,道徳教育との関係にお. 設に伴い,従来学習指導要領の「社会科編」に記載さ. いて,他の教科と全く並列に位置付けられてい. れていた道徳教育の目標及び内容の多くが,同第3章. る42。. 第1節の「道徳」に移されたわけであるが,その58年. 42 「道徳の時間」が特設される以前,すなわち社会科が. の指導要領でも,依然として,「社会科は,社会生活に ・・・・・ 対する正しい理解 を得させることによって,児童の道 ・・ 徳的判断力の基礎を養い,望ましい態度や心情の裏づ ・ ・・・・・ けをしていくという役割をになっており,道徳教育に ・・・・・・・・・・・・ ついて特に深い関係をもつものである」と記されてい. 学校における道徳教育の中心として位置付けられてい. た(文部省『小学校学習指導要領』1958年,第2章第. た1958年以前の学習指導要領においては,当然のこと. 2節「社会」,第1「目標」,傍点引用者)。この規定が. であるが,例えば次のように明記されていた。「もちろ. 一切消失したのは,1968年の改訂以降である。. 40 同上,107頁。 41 同上,107頁。. 49.

(11) 古 川 雄 嗣. というのは,このことを指している。. の関係如何に焦点を絞り,その構造を分析した。. 言うまでもなく,これは小・中学校においては. その結果は,図2のように表すことができるであ. 各教科とは別に「道徳」が特設されていたからに. ろう。. ほかならない。そうして,新学習指導要領では, それが「道徳科」として,いわばより一層特設性. 高等学校. を強めたわけである。しかし,それによって,む. 「公 共 」. 「政 治 ・ 経 済 」. しろ道徳教育と社会科との本来的な不可分の関係. 「倫 理 」. 地理歴史科. 性が,より一層不可視化したように思われる。簡. 徳育. 知育. 単に言えば,このことによって,教員も児童・生. (心 情 ・意 欲 ・態 度 ). (知 識 ・理 解 ・判 断 ). 徒も,ともに,社会科が本来道徳教育と不可分な. 道徳科. 関係にあるという認識を,極めて持ちづらくなっ ているように思われる43。 そうして,これもまた言うまでもなく,ここに 挙げた第一の点と第二の点は,連続している。つ. 社会科 小 ・中 学 校. 図2 新学習指導要領における道徳科・社会科・公 民科の関係 (出所)筆者作成。. まり,あえて図式的に単純化して言えば,「公共」 及び「倫理」が道徳科との緊密な連続性の下に位. 図において,実線の矢は強く濃い関係を,点線. 置付けられているのに対し,「政治・経済」と地. の矢は弱く薄い関係を,各々表している。高等学. 理歴史科は社会科とのそれの下に位置付けられて. 校の「公共」及び「倫理」は,小・中学校の道徳. いるということになる。小・中学校における道徳. 科及び社会科の双方との直接的な連続性の下に位. 科と社会科との関係が,高等学校における「公共」. 置付けられている。他方,「政治・経済」及び地. 及び「倫理」と「政治・経済」及び地理歴史科と. 理歴史科は,社会科との直接的な連続性のみしか. の関係に,ほとんどそのままスライドしていると. 有しておらず,道徳科とのそれは有していない。. 言ってもよいし,道徳の「特別の教科」化と高等. また,小・中学校においては,道徳科と社会科と. 学校における道徳教育の推進に伴って, 「公共」. は特別な関係を有していない。その意味で,弱く. 及び「倫理」が,いわば社会科教育から切り離さ. 薄い関係であると言うことができる。そうして,. れて「道徳化」したと言ってもよいであろう。新. その関係が,「公共」及び「倫理」と「政治・経済」. 学習指導要領には,このような構造を見て取るこ. 及び地理歴史科との間にも,そのままスライドし. とができる。. ている。それによって,高等学校における「公共」. むすびに代えて. 及び「倫理」と,「政治・経済」及び地理歴史科 ・・・・・・ との間にも,道徳教育上の有機的な連関は存在し ない形になっているわけである。. 以上,本稿では,2018(平成30)年告示の新学. このことは,ともすれば,社会科や「政治・経. 習指導要領に関し,特に道徳科・社会科・公民科. 済」及び地理歴史科は,道徳教育とは本質的に無 関係な教科・科目である,あるいは,道徳教育は. 43 筆者の教員養成大学における教育経験を顧みても,. 社会科や「政治・経済」及び地理歴史科における. 社会科が道徳教育と密接な関係にあるという認識を. 教科教育とは無関係に実践され得るものであると. 持っている者は,社会科教育専攻所属の学生でさえ,. いう,誤った認識を,教員及び児童・生徒に与え. 極めて少ない。彼らの多くは,社会科が元々道徳教育 の「中心」となる教科として出発したという歴史的事. かねない危険があるように思われる。そうして, この問題は,図の右側が主としていわゆる知育(知. からないと言う。. 識,理解,判断)を主眼とする教科・科目である. 50. 実を知ると,大いに驚くとともに,その意味がよくわ.

(12) 道徳科及び社会科,並びに公民科の接続・連携に向けて. のに対し,左側が主としていわゆる徳育(心情,. 念は,単なる「個人の道徳」ではなく「社会にお. 意欲,態度)を主眼とするそれであるとする,過. ける個人の道徳」であり,その育成のための「公. 度な区分に起因するものとも思われる。元々, 「道. 民〔市民〕的知識と結合」した道徳教育であった。. 徳の時間」は,社会科をはじめとする各教科等に. 新学習指導要領における「公共」の新設,並びに. おいて学習された知識が,自らの身近な日常に関. 「公共」及び「倫理」のいわば「道徳化」は,あ. わる事柄として捉え直されることによって,道徳. る意味ではその理念への立ち返りであると評価す. 的諸価値として「自覚」され,もって具体的な実. ることもできなくはない47。しかしながら,そう. 践意欲や態度に結び付くことを意図して設置され. であるならば,なおのこと,小・中学校における. たものであった44。この知育と徳育との区分は,. 道徳科と社会科とのいわば「再結合」こそが,今. 新学習指導要領にも明瞭に継承されている。この. 後の大きな課題となってくるのではなかろうか。. ことは, 「公共」及び「倫理」が,「単に知識を身. むろん,冒頭に述べたように,この両者の関係. に付けることではなく,基礎的・基本的な知識を. 如何は,特に主として50年代に争われたいわゆる. 確実に習得しながら,既得の知識と関連付けたり. 「特設道徳論争」の主要な論点であった。今日的. 組み合わせたりしていくことにより,学習内容の. 観点から改めてこの論争を検証し,引き継ぐべき. 深い理解と,個別の知識の定着を図るとともに,. 論点を再評価していくことが,まずは必要となる. 社会における様々な場面で活用できる,現代の諸. であろう48。. 課題を捉え考察し,選択・判断するための手掛か りとなる概念や理論を獲得していくこと45」を目. . (旭川校准教授). 指すとか,「先哲の考え方などを単に知識として 学ぶことを目指すのではなく,生徒一人一人が自 らの人生観,世界観ないし価値観を形成するよ う,自己との関わりにおいて捉え,自ら思索する ことができるようにすることを目指す46」とかと いった記述が頻出することに,如実に現れている。 しかし,そもそも知識の習得や知的な判断力を養 うことを目指す教育・学習と,その「自覚」や実 践的な活用を目指すそれとを,そう截然と区分す ることが可能であろうか。ともすれば,むしろ両 者を区分することによって,かえってその双方と もの形骸化を招きかねない危険もあるであろう。 少なくとも,戦後道徳教育の出発点にあった理. 47 本稿注参照。 48 貝塚茂樹は,この論争は総じて「政治的なイデオロ ギー対立を色濃くした議論が主流」であったと評して. 44 「社会科の指導を通して育成される判断力が,道徳の. いる(貝塚茂樹「解説・解題」 ,貝塚茂樹監修『文献資. 時間において児童の道徳性についての自覚としていっ. 料集成 日本道徳教育論争史 第Ⅲ期 戦後道徳教育の停. そう深められ,この自覚がふたたび社会科における学. 滞と再生 第12巻「特設道徳」論争』日本図書センター,. 習に生きてはたらくように指導することが望ましい」. 2015年,16頁) 。筆者が「今日的観点から」と言うのは,. (文部省『小学校学習指導要領』1958年,第2章第2. 主として90年代以降の政治哲学・政治思想の領域にお. 節「社会」,第1「目標」)。. ける国家論・市民社会論の飛躍的な進展,特にいわゆ. 45 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 公民編』 (2018年)31頁。 46 同上,103頁。. る「共和主義」の思想をめぐるそれを基礎として,当 時の「政治的なイデオロギー」そのものをも批判的に 検証することも含意している。. 51.

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