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読み聞かせにおける読み手の視線が聞き手の態度に与える影響についての考察

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Academic year: 2021

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(1)

与える影響についての考察

著者

糸井 嘉, 浜崎 由紀

雑誌名

保育研究

49

ページ

41-48

発行年

2019-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1475/00002381/

(2)

読み聞かせにおける読み手の視線が

聞き手の態度に与える影響についての考察

A Consideration for the Influence of the Reader’s Gaze

on the Attitude of the Listener in Resding a Picture Book

本研究では絵本の読み聞かせにおける読み手の視線の影響に ついて考察する。筆者らがこれまでに行った研究では、幼稚園児 に対し担任教諭が読み聞かせを実施したところ、「読み手が『子 どもを見ない』読み方をする方が、子どもは絵本から顔を逸らさ ない」という結果を得た。これをふまえ、今回は読み手と聞き手 の信頼関係に着目し、担任教諭と学生による読み聞かせを実施し た。観察された子どもの行動を分析すると、両クラスとも読み手 が「子どもを見る」読み方で、子どもが絵本から顔を逸らす回数 が尐なかった。このことから、読み手の視線は聞き手の態度に影 響を与えるが、その影響は、両者の関係性よりむしろ視線の性質 によって様相を変えるのではないかと推察される。 キーワード:絵本、読み聞かせ、演劇的要素

1. はじめに

1.1. はじめに 幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型 認定こども園教育・保育要領では、領域「言葉」 のねらいと内容で絵本に親しむことが挙げられて いる1)。乳幼児期の子どもにとって絵本の言葉は、 自ら文字を読むことよりも、まずおとなに「読み 聞かせ」をしてもらうことによって理解される。 絵本を「芸術劇場」として捉える中川の理論をも とに、棚橋は「言葉や絵・造本及び伝達者の伝達 内容が、受け手の側で総合的に創造される表象が、 すなわち絵本の内容である」と述べ、受け手にと っては「伝達者の伝達」までを含めて「絵本の内 容」になるという考えを示している 2)。子どもが 絵本の物語世界に触れるとき、読み手の読み方や 関わり方が子どもの物語受容に影響するのだとす ると、読み手であるおとなは重要な役割を担うこ とになる。より豊かな読み聞かせのためには、読 み手は読み手自身の態度が聞き手の物語受容にど のような影響を与えるかを理解することが重要で ある。 本研究では、絵本の「読み聞かせ」における読 み手の視線の影響について考察する。ここでは「絵 を見せながら、言葉を声に出して読むことによっ て絵本の内容を伝える行為」を「読み聞かせ」と し、また主に保育の場における集団での活動を想 定してこの言葉を使用する。本文ではこれ以降、 鍵括弧をつけずに表記する。 筆者らはこれまでに、幼稚園の子どもを対象に 実施した読み聞かせの様子を観察し、読み手の視 線が聞き手の態度に与える影響について報告して きた3)。先の報告では、読み手が「子どもを見る」 読み方をしたときには、「子どもを見ない」読み方 をしたときに比べ、子どもは絵本から顔を逸らす という結果を得た。本稿では、この結果をふまえ、

糸 井 嘉

*1

、浜 崎 由 紀

*2

Yoshimi Itoi

Yuki HAMASAKI

*1:平安女学院大学短期大学部 保育科 助教 *2:滋賀短期大学 幼児教育保育学科 講師

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さらに条件を変えて読み聞かせを実施、観察を行 い、読み手の態度が聞き手に与える影響について 考える。 1.2. 先行研究 絵本の読み聞かせについて、方法の解説書や実 践についての書籍は数多く出版されている4) 。し かし理論に基づいた方法論は確立されておらず、 解説書でも読み方の説明に対し根拠が十分に述べ られているとは言い難い。また読み聞かせの研究 としては、家庭や保育における幼児の反応や幼児 への影響についての研究が多く報告されているが 5)、読み手の読み聞かせ中の態度に着目した研究 は尐ない。読み手の態度に着目したものとして、 近年では、読み手の感情表現や「大げさな演じ分 け」の影響を分析した研究があるものの、基準の 一般化が難しく、客観性に欠ける部分がある6) 読み聞かせにおける視線に着目した研究には、 奥山らの研究がある 7)。読み聞かせをする保育者 と幼児の視線の変容に焦点をあて、相互作用の意 義について検討したものである。本研究は視線の 変容や相互作用に至る前の段階、読み手が聞き手 を見るか、見ないかによる違いを検討するという 点で、奥山らの研究と異なるものである。 1.3. 演劇的要素について 本研究では、読み聞かせについての考え方、理 論、研究方法に演劇的要素を含む。 読み聞かせは演劇と似た構造を持っている。演 劇は、俳優、戯曲、観客という 3 つの要素から成 り立っているとされる8)。一方読み聞かせは、読 み手、絵本、聞き手という 3 つの要素から成立す ると考えることができる9)。演劇では戯曲と観客 の間に介在する俳優が、読み聞かせでは絵本と聞 き手の間に介在する読み手が、その存在や表現に よって物語の受容に影響を及ぼす可能性がある点 で共通している。 この影響について理論立てて検討するため、ブ レヒトの演劇理論、異化と同化の視点を取り入れ る10)。ブレヒトは演劇には異化効果を用い、同化 を避けるべきだと提唱したが、本研究ではそれら の良し悪しではなく、効果の要因と特徴に着目し、 読み聞かせの方法とその影響に結びつけて論じる。 研究方法は観客の行動観察および分析とする。 人形劇や児童劇といった児童文化領域における演 劇研究では、観客の行動観察が一定の成果をあげ ており11)、演劇と似た構造をもつ読み聞かせの研 究においても有用であると考える。特に乾は著書 のなかで、子どもは児童劇では「自分に近い人物 に成り変わって」鑑賞するが、人形劇では「自分 自身として感じるのではなくて一定の距離を持っ て」鑑賞することができると述べている12)。前者 は同化、後者は異化の特徴を示しており、乾自身 は異化・同化という言葉を使っていないものの、 演劇的表現の鑑賞をする子どもの行動観察を行う にあたり、異化と同化の視点を取り入れる意義は あると考える。

2. 方法

2.1. 研究方法 読み聞かせを実施し、その様子を撮影した映像 から子どもの行動を観察する。 子どもの行動に影響をおよぼすものとして、読 み手の視線に着目する。視線は人の「意思の所在」 を表すため、演劇においても子どもの発達におい ても重要な役割を担う。演劇では、俳優は登場人 物の意思を示す手段として視線(目線)を使う13) 発達においては、共同注意や社会的参照の現れが コミュニケーション・ツールとしての視線の役割 を示している14)。読み聞かせにおいて、読み手は 俳優とも対話相手とも異なる立ち位置から聞き手 に関わることになるが、場合によっては、つまり、 読み手の意図によっては、俳優のように、あるい は対話相手のように、聞き手に影響を与えるもの と考えられる。また視線が子どもの他者理解の手 段として重要であることをふまえると、読み手と 聞き手がどのような関係にあるのか、両者のあい だに信頼関係や愛着関係はあるかといったことが、 視線の有無に絡んで子どもの態度に影響するので はないだろうか。 そこで今回は、聞き手である子どもとのあいだ に信頼関係が築かれているクラスの担任教諭を読 み手とする場合と、子どもと関わりをもたない保

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育者養成校の学生を読み手とする場合とで読み聞 かせを実施し、行動観察を通して比較を行う。 詳細は以下の通りである。 2.2. 実施日 1 回目は 2017 年 5 月 29 日、2 回目は 2017 年 6 月 12 日に読み聞かせを実施した。 2.3. 対象者 滋賀県大津市内 A 幼稚園、5 歳児クラスの園児 を対象とする。前回実施した読み聞かせに参加し た子どもたちである。ただし年度を跨いでいるた め、クラスのメンバーやクラス担任は異なる。前 回の報告では 4 歳児クラスの A 組、B 組としてい たが、今回は 5 歳児クラスの C 組、D 組とする。 2.4. 倫理的配慮 研究に際して、当該幼稚園園長から保護者へ書 面にて協力依頼を行い、同意を確認した。また、 映像による行動観察の段階で個人を記号で匿名化 し、分析には個人の氏名ではなく記号のみを使用 し、個人情報保護に配慮した。幼稚園園長および 読み手である5 歳クラスの担任教諭、保育者養成 校の学生からも研究への協力に同意を得た。 なお、本研究は滋賀短期大学研究倫理委員会の 審査にて承認を得ている。 2.5. 対象作品 前回の行動観察と同じ作品、『きょだいな きょ だいな』(長谷川摂子作、降矢なな絵)15)の読み聞 かせを分析する。また前回同様、『きょだいな き ょだいな』のあとに『三びきのやぎのがらがらど ん』(マーシャ・ブラウン絵、瀬田貞二訳)16)も続 けて読み聞かせをしたが、本稿では『きょだいな きょだいな』のみを取り上げる。 2.6. 実施内容 C 組では 1 日目にクラスの担任教諭が「子ども を見る」読み聞かせをし、2 日目に「子どもを見 ない」読み聞かせをする。D 組では、1 日目に保 育者養成課程の学生が「子どもを見る」読み聞か せをし、2 日目に「子どもを見ない」読み聞かせ をする。読み聞かせ中の様子をビデオカメラで撮 影する。 「子どもを見る」読み方の際、担任教諭と学生 の間で回数や長さに大きな差が生じないよう、タ イミングを次のように指定する。 ①「あったとさ あったとさ ひろいのっぱらど まんなか」を読む間、②(「きょだいな○○が」の あとの)「あったとさ」を読む間、③見開きページ の最後の言葉を読む間、子どもを見る。 ビデオカメラは図1 のように 3 台を設置する。 カメラ①は子どもの後方に設置し、読み手を正 面から撮影する。カメラ②は読み手の右側に設置 し、子どもを斜め前から撮影する。カメラ③は読 み手の左側に設置し、子どもを斜め前から撮影す る。 読み聞かせの導入方法は指定しておらず、担任 教諭、学生ともに手遊びは行わなかった。 2.7. 分析方法 読み聞かせの様子を撮影した映像から、子ども の行動観察を行う。絵本の表紙から裏表紙までを、 画面が切り替わる箇所を区切りとして 20 のシー ンに分け、各シーンが示される間、俯く、振り返 る、友達と言葉を交わす、友達の顔を覗き込むな どといった行動により「子どもが絵本から顔を逸 らした回数」をカウントする。 分析の対象となる子どもは、「1 日目、2 日目と もに読み聞かせのあいだの顔の向きが確認できた 子ども」とする。座る場所によっては他の子ども が重なって映っていることがあるため、「たまたま 2 日間とも顔の向きが判別できる位置に座ってい た子ども」が無作為に選ばれる。各組 11 人ずつ観 察し、22 人の子どもにはそれぞれ小文字のアルフ 図1 カメラの配置

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ァベット a~v を割り振り、匿名化する。 2.8. 仮説 担任教諭が読む場合は「子どもを見る」読み方 の方が、子どもが絵本から顔を逸らす回数は増え る。 学生が読む場合は子どもとの信頼関係がないた め、「子どもを見ない」読み方の方が、子どもが絵 本から顔を逸らす回数は増える。

3. 結果

分析の結果は表1、表 2 の通りである。子ども を示す「a1」は「1 日目の子ども a」、「a2」は「2 日目の子どもa」を示している。 表1 は担任教諭が読み聞かせをした C 組の結果で ある。「子どもを見る」読み方では、11 人の子ど もが絵本から顔を逸らした回数の合計は 81 回、 「子どもを見ない」読み方では11 人の合計が 192 回となった。 表1 C 組 読み聞かせ中、子どもが絵本から顔を逸らした回数 表2 D 組 読み聞かせ中、子どもが絵本から顔を逸らした回数 a1 a2 b1 b2 c1 c2 d1 d2 e1 e2 f1 f2 g1 g2 h1 h2 i1 i2 j1 j2 k1 k2 表紙 0 0 0 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 見返し、扉 1 0 1 1 0 0 0 1 0 0 0 0 1 1 1 2 0 0 0 1 1 3 ピアノ1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 3 0 0 0 0 0 ピアノ2 1 0 0 3 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 せっけん1 0 2 2 1 0 1 0 0 0 0 1 2 1 1 0 0 2 0 1 2 0 1 せっけん2 1 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 1 電話1 0 0 2 0 0 0 0 1 0 2 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 3 電話2 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 1 トイレ1 0 0 0 3 1 2 0 0 1 1 0 3 0 2 0 1 2 1 2 2 0 1 トイレ2 0 0 0 1 1 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 1 0 1 1 1 0 2 ビン 0 1 0 3 0 1 0 3 0 0 0 2 3 1 0 4 0 1 0 2 0 2 桃1 1 0 0 0 0 2 1 2 0 2 0 2 0 2 1 2 0 2 0 1 3 2 桃2 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1 0 2 1 2 0 3 0 5 0 2 泡立て器1 2 1 0 3 0 1 0 1 0 1 0 2 0 3 0 0 1 1 0 1 1 1 泡立て器2 0 0 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0 1 2 0 2 3 0 3 扇風機 1 1 2 2 2 1 1 2 1 2 0 0 1 3 0 3 2 3 4 3 2 3 扇風機2 0 1 0 2 1 1 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0 0 1 0 0 1 4 奥付 0 0 1 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 1 0 0 見返し 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 1 0 1 0 0 0 1 0 1 裏表紙 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 0 0 0 0 合計 9 6 9 26 5 9 2 12 9 8 3 12 7 30 4 20 14 16 10 23 9 30 子ども l1 l2 m1 m2 n1 n2 o1 o2 p1 p2 q1 q2 r1 r2 s1 s2 t1 t2 u1 u2 v1 v2 表紙 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 見返し、扉 1 2 0 0 0 3 1 1 1 1 2 3 0 0 1 1 2 2 0 0 0 2 ピアノ1 2 0 0 0 1 3 0 0 2 1 0 3 0 1 1 1 0 2 2 3 0 0 ピアノ2 0 1 0 2 1 1 0 0 0 2 1 1 0 1 0 1 0 1 0 2 0 2 せっけん1 1 2 1 2 0 2 0 2 1 2 1 2 0 1 3 1 1 2 0 1 0 1 せっけん2 1 1 0 0 0 2 0 2 2 2 2 0 0 0 0 4 0 0 0 3 1 1 電話1 2 4 0 0 1 1 0 0 1 3 1 0 1 1 2 0 1 1 1 0 0 1 電話2 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 3 0 0 0 0 0 2 トイレ1 1 2 0 1 3 1 1 2 3 2 3 0 2 4 5 5 0 2 1 0 1 2 トイレ2 1 1 1 2 1 2 0 0 1 1 3 1 2 1 0 2 0 2 0 1 1 2 ビン 0 1 0 2 0 2 0 0 1 4 0 0 0 5 1 2 3 1 0 0 1 1 桃1 1 3 0 2 0 2 0 1 1 3 1 1 1 3 1 3 2 2 0 2 1 2 桃2 0 2 0 1 1 1 0 2 1 2 2 0 0 2 2 1 0 1 1 1 0 1 泡立て器1 0 0 1 1 0 3 0 4 2 1 1 4 0 3 1 1 1 2 0 0 1 2 泡立て器2 0 1 0 0 0 1 0 1 1 1 0 2 0 0 1 1 1 1 0 0 0 0 扇風機 0 2 1 3 2 1 0 1 0 3 0 2 1 3 0 2 2 3 1 1 0 2 扇風機2 0 2 0 0 1 2 0 1 1 3 0 0 0 1 1 0 0 2 0 0 0 2 奥付 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 見返し 0 0 1 0 2 0 0 0 1 1 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 裏表紙 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 2 2 0 0 0 0 合計 14 24 5 17 13 29 2 18 19 32 20 20 8 26 21 28 15 27 6 14 6 23 子ども

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これは「『子どもを見る』読み方の方が、子ども が絵本から顔を逸らす回数は増える」とした仮説 および前回の報告とは逆の結果となっている。 表2 は学生が読み聞かせをしたD組の結果であ る。「子どもを見る」読み方では、11 人の子ども が絵本から顔を逸らした回数の合計が129 回、「子 どもを見ない」読み方では11 人の合計が 258 回 であり、仮説通りの結果となった。 「子どもを見る」読み方と「子どもを見ない」 読み方を比較すると、子どもが絵本から顔を逸ら す回数は、C 組で約 2.4 倍、D 組では 2 倍の差が ついており、今回の観察においては、「子どもを見 る」読み方のときに子どもは絵本から顔を逸らさ なかったことがわかる。C 組で 2 人の子ども(a、 e)が全体とは逆の数字となったが、a は 9 回-6 回、e は 9 回-8 回と、その差は大きくない。全体 の傾向として、読み手から視線を向けられるとき に絵本から顔を逸らす回数が尐なかったといえる。

4. 考察

4.1. C 組の結果についてー担任教諭の場合 担任教諭による読み聞かせでは、前回と同じ結 果になると予測し、「子どもを見る」読み方の方が、 子どもが絵本から顔を逸らす回数は増えると仮説 を立てた。読み聞かせの最中に読み手と目が合う と、聞き手は「絵本を見ながら読み手とのコミュ ニケーションをはかる」という態度をとる。この とき聞き手の態度は同化(現実世界を忘れて物語 世界に入り込む)ではなく、物語世界を外側(現実 世界)から眺めるという異化の姿勢になる。現実 世界を意識している子どもは、読み手だけでなく、 周りにいる友達とも目を合わせたり、顔を覗き込 んだりするため、絵本から顔を逸らす回数が増え ると考えた。 しかし今回の観察では逆の結果が見られた。読 み手が「子どもを見る」読み方をする方が、子ど もは絵本から顔を逸らす回数は尐なかった。前回 と異なる結果となった要因は、読み手の視線に込 められた意図にあるのではないか。読み聞かせの 実施にあたり、子どもを見るタイミングや回数に ついて指定をしたが、「どのような意図で」子ども を見るかという指定はしなかった。読み手と目が あったとき、子どもは単に「目が合った」という 事実を超えて、正確ではないにしろ、その意図や 感情を察していると考えられる。当然、読み手が 視線に込めた意図によって、子どもの態度は変化 するだろう。 C 組の担任教諭は読み聞かせの前に、静かに見 る姿勢をとるように子どもに伝えている。読み聞 かせの最中にも、静かにすることを求める意図で 子どもに向けた視線があった可能性がある。ある いは、担任教諭が絵本を見る子どもの態度を気に かけ、把握する意図で見ていたことも考えられる。 「様子を把握する」意図で見ていたのだとすると、 子どもはその意図を察し、「静かに見ているかどう かを見られている」と受け取っただろう。担任教 諭が「静かに見る」よう求める意図で子どもの方 を見、その視線から「見る態度を正さなければな らない」と感じた子どもが多かったとすると、こ の場合、アイコンタクトは「交流」としてのコミ ュニケーションではなく、「静かに見てほしい」と いう読み手の意図が聞き手に伝わったという意味 でコミュニケーションが成立したととらえること ができる。子どもは聞き手の視線を受けて絵本を 注視し、絵を入り口として物語世界に入り込んで いく。 聞き手の視界を舞台(絵本)に限定することは、 同化(感情移入)を促す手法として有効である。 演劇においても、物語が舞台上でのみ展開され、 舞台の「枠」が物語の「額縁」として機能すると、 同化の効果が生じやすい。逆に、観客の視線が限 定されない舞台、例えば俳優が舞台と客席を行き 来するような演出は、観客に現実世界を意識させ るため、異化の効果が生じやすい。 C 組では読み手がクラスの担任教諭であったた め、聞き手である子ども達は普段の読み聞かせか ら読み手の視線によるメッセージを受け取ること に慣れていた可能性がある。読み手が「子どもを 見ない」読み方をしたときに、子どもが絵本から 顔を逸らす回数が増えたのは、「先生が見ていない から態度を正さなくてもいい」と判断した子ども がいたためだろう。絵本から目を離し、隣の友達 と顔を見合わせると、ついでに言葉のやり取りが 始まることもある。異化された子どもはこのよう

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な自らの行為によりさらに同化しにくい状態にな っていく。他方、「静かに見る」ことが身に着き、 静かな読み聞かせに慣れた子どもにとっては、友 達の動きや声は集中を妨げるものであり、物語の 外側、すなわち現実世界を意識させるものである。 このように、同化しなかった子どもは他の子ども の同化を妨げ、彼ら自身も読み聞かせのなかで聞 き手を異化させる役を担ったということになる。 4.2. D 組の結果についてー学生の場合 読み手と聞き手の信頼関係の有無に着目した今 回の観察では、子どもとの信頼関係がない学生に よる読み聞かせでは、「子どもを見ない」読み方の 方が、子どもが絵本から顔を逸らす回数は増える と仮説を立てた。信頼関係がある大人が読み手の 場合、聞き手である子どもは読み手の視線が持つ 意味に積極的な興味をもち、その延長に共同注意 やアイコンタクトによるコミュニケーションが成 立すると考えたのが前回の報告内容である。両者 のあいだに信頼関係がない場合、信頼関係がある 場合と比べ、読み手の視線は聞き手に対し異なる はたらきをすると考えた。 D 組の結果を見ると、仮説の通り、「子どもを 見ない」読み方では「子どもを見る」読み方より も子どもが絵本から顔を逸らす回数が多かった。 「子どもを見る」読み方では、読み手と聞き手 のあいだに、見る・見られることによる緊張関係 が生じたのだと考えられる。子どもは相手が「知 らない人」でも、視線を向けられることで相手の 関心が自らに向けられていることを感じとり、読 み手を自分自身に関係する相手として認識する。 しかし関係の積み重ねがないために、「なぜ見られ ているのか」という点に確信をもつことは難しい。 ここに緊張が生じ、子どもにとって読み手は「無 視できない相手」になる。子どもは信頼関係がな い大人と目を合わせるプレッシャーから逃れるた めに、読み手から目を逸らしたいと感じると同時 に、自分に関心を向けている読み手の存在を無視 することもできないという状況にあると考えられ る。このことが絵本への注視を促したのではない だろうか。子どもは読み手の視線から目を逸らす ため絵を見る。読み手からは目を逸らしながら、 絵を見て言葉に耳を傾けることで、読み手との関 係を保っている。 「子どもを見ない」読み方の場合、子どもは読 み手を「自分とは関係のない人」だと感じる。視 線が向けられないということは、自分に対して関 心がないということである。子どもは絵本を注視 する読み手の視線からその意図を察し、読み手の 興味は絵本にあって自分にはないと判断する。ま た「自分とは関係ない人」である読み手の「視線 の先」を共有しようとする思いも生まれにくく、 共同注意が持続しないということになる。子ども にとっては読み手や読み手が注意を向ける絵本よ りも友達への興味が勝り、絵本から顔を逸らす回 数が増えたのだと考える。 4.3. C 組、D 組の結果から 学生の読み聞かせにおける「子どもが絵本から 顔を逸らした回数」は担任教諭のそれよりも、「見 ない」場合で約1.3 倍、「見る」場合で約1.6 倍と、 明らかに多い。このような差が生じた原因は、読 み手と聞き手の関係性だけでなく、読み聞かせ技 術の巧拙が影響した可能性がある。読み方を詳細 に分析したわけではないが、印象として、担任教 諭の読み聞かせには自然な抑揚、声の強弱と、わ らべうた調のリズムがあったのに対し、学生の読 み聞かせはやや抑揚に乏しく、リズムが安定しな い箇所があった。自然な表現は同化の、違和感の ある表現は異化の効果をもつため、子どもが絵本 から顔を逸らす回数に影響したと考えられる。 C 組と D 組のクラス間の回数差については、想 定した信頼関係の有無という差だけでなく、読み 81 129 192 258 0 50 100 150 200 250 300 C組(担任) D組(学生) 図4 子どもが絵本から顔を 逸らした回数(11人の合計) 子どもを見る 子どもを見ない

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方の巧拙が影響した可能性があり、今回の分析か らは明確な説明ができない。しかし両クラスとも、 読み手が聞き手を「見る」場合と「見ない」場合 で子どもが絵本から顔を逸らす回数に明確な差が あった。読み手の視線は信頼関係の有無や巧拙の 差に関わらず、聞き手の鑑賞態度に影響するとい うことが明らかとなった。

5. おわりに

前回の報告では行動観察の結果から、単純に読 み手が聞き手を「見ている」ときは異化、「見てい ない」ときは同化の効果があると考えた。しかし 今回、逆の結果を得たことで、読み聞かせにおい ては読み手の視線の性質によって異化と同化の効 果が様相を変えることが示唆された。重要なのは、 いずれの場合においても、読み手に見られている か、見られていないかによって、子どもの鑑賞態 度(絵本から顔を逸らす回数)に明らかな違いが 生じたという点である。 読み手の視線を受けることで、読み聞かせ中の 子どもの態度は変化する。子どもの態度がどのよ うに変わるかは、読み手がどのような意図で視線 を送るかによって異なる。さらに、読み手の視線 に込めた意図の積み重ね(読み聞かせにおける習 慣)が、「いつもと違う読み聞かせ」での子どもの 鑑賞態度に尐なからず影響するのではないかとい うことが推察される結果となった。このことは、 読み手の介在者としての役割を考えるにあたり、 ひとつの重要な手がかりとなるだろう。 河竹は演劇の三要素の説明のなかで、「観客は舞 台がよければ感動を表明し、悪ければ不満を示す。 その反応の波動はただちに舞台に及び、劇の成果 を左右する。つまり観客は単なる鑑賞者ではなく、 積極的に、また同時的に演劇創造に参加する」と し、この「直接的交流共感」が他の芸術との大き な違いであると述べている17)。この考えを読み聞 かせに当てはめると、子どもの反応によって読み 聞かせの成果が左右されることになる。そして読 み聞かせの成果を左右する子どもの反応には、読 み手の視線が影響しているのである。読み手は自 身の視線が聞き手にもたらす異化や同化のはたら きを自覚することで、読み聞かせ中の子どもの反 応の受けとめ方の幅を広げることができるのでは ないだろうか。 絵本から顔を逸らすこと自体を、マイナスの評 価として捉える必要はない。仲間と一緒に物語に 触れるなかで、絵本から顔を逸らし、周りの友達 の反応を窺ったり、顔を見合わせ笑いあったり、 自分の考えを伝えたりすることは、幼児期の子ど もにとって重要な社会性の育ちにつながる18)。も ちろん退屈や、物語に集中できない様子として、 その姿が見られる場合もある。しかしそうであっ ても、保育の場で集団への読み聞かせをするとき に心掛けたいのは、子どもが片時も絵本から目を 逸らさないように工夫することではなく、子ども が読み聞かせに参加する態度のなかに、どのよう な物語の受けとめや、社会性の育ち(あるいは育ち の過程)があるかを感じ取ることである。読み手の 視線が聞き手に影響することをふまえ、子どもを 見て読むことでいつも子どもが静かに絵本を注視 しているのであれば、あえて子どもの方を見ずに 読み、子ども同士の関係が生まれるかを試してみ てもいい。あるいは、子どもの方を見て読むなか で、子ども同士のやりとりがいつも見られるので あれば、子どもを見ずに読み、子ども一人ひとり の絵本への集中が高まるかを試すこともできる。 このような読み手の視線と聞き手の態度の関係 を理論立てて説明するには、さらに調査を重ねる 必要がある。今回実施した読み聞かせでは、筆者 らが意図した信頼関係の有無だけでなく、読み手 の技量や視線の意図による影響があったと考えら れ、調査としては不十分な点がある。今後も検討 を重ねたい。

謝 辞

本研究にあたり、読み聞かせの実施にご協力い ただいた幼稚園の先生方、園児ならびに保護者の 皆様、学生に、深く感謝申し上げます。 参 考 文 献 1) 幼稚園教育要領(文部科学省、平成 30 年施行) 保育所保育指針(厚生労働省、平成 30 年施行) 幼保連携型認定こども園教育・保育要領(内

(9)

閣府、文部科学省、厚生労働省、平成 30 年 施行) 2) 棚橋美代子、他「絵本の概念 その 1」日本保 育学会大会研究論文集(40)(1987)p.554-555 村榮喜代子、他「絵本の概念 その 2」日本保 育学会大会研究論文集(40)(1987) pp.556-557 3) 糸井嘉、浜崎由紀「絵本の読み聞かせにおけ る介在者の役割に関する考察」滋賀短期大学 研究紀要 第 43 号(2018)pp.117-130 浜崎由紀、糸井嘉「絵本の読み聞かせにおけ る介在者の役割―『三びきのやぎのがらがら どん』を中心に―」日本保育学会第 71 回大 会ポスター発表(2018) 4) たとえば、全日本私立幼稚園連合会 公益財 団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 『読み方からおススメまで 絵本ガイド』 (2017) 徳永満理『よくわかる 0~5 歳児の絵本読み 聞かせ』(チャイルド本社、2013) など 5) たとえば、平澤順子「保育所 1 歳児クラスの 絵本の読み聞かせ場面における自発的身ぶ りの検討―手・指の動きに焦点を当てて―」 日本女子大学大学院紀要 家政学研究科・人 間生活学研究科 第 24 号(2018)pp.113-122 など 6) 秀真一郎「絵本の読み聞かせにおける一考察 -感情の有無からくる影響」吉備国際大学研 究紀要(28)(2018)pp.1-11 松村敦 、 森円花 、 宇陀則彦「絵本の読み 聞かせ時の演じ分けが子どもの物語理解と 物語の印象に与える影響」日本教育工学会論 文誌(39)(2016)pp.125-128 齋藤有『幼児期の読み聞かせ場面における大 人の関わりに関する研究-幼児の自発的な 学びを促す側面への着目-』(風間書房、 2015) 7) 奥山優佳、松述毅、香曽我部琢「クラス活動 の絵本の読み聞かせにおける相互作用の意 義-保育者と幼児の視線の変容プロセスの 分析より-」東北文教大学・東北文教大学短 期大学部紀要(4)(2014)pp.73-82 8) 河竹登志夫「演劇の本質」『日本大百科全書』 (小学館、1994)p.732 9) 糸井嘉、浜崎由紀「絵本の読み聞かせにおけ る介在者の役割に関する考察」滋賀短期大学 研究紀要、第 43 号(2018)pp.117-130 10) ベルトルト・ブレヒト、千田是也訳『今日の 世界は演劇によって再現できるか』(白水社、 1962) 11) たとえば、向平知絵、棚橋美代子、米谷淳「人 形劇『なかよし』の作品分析―観客の行動観 察からの試み―」京都女子大学発達教育学部 紀要、第 5 号(2009)pp.51-60 12) いぬいたかし「人形劇の出発―いぬい たか しの人形激論―」『人形劇の出発』(1979、い かだ社)p.181 13) クリスティアン・ビエ、クリストフ・トリオ ー、佐伯隆幸日本語版監修『演劇学の教科書』 (国書刊行会、2009)pp.295-301 14) 遠藤利彦「感情と情意理解の発達」市川伸一 編『現代の認知心理学 5 発達と学習』(北大 路書房、2010)pp.145-150 15) 長谷川摂子、降矢なな『きょだいな きょだ いな』(福音館書店、1994) 16) マーシャ・ブラウン、瀬田貞二『三びきのや ぎのがらがらどん』(福音館書店、1965) 17) 同 8) 18) 棚橋美代子、米谷淳「人形劇」中坪史典編著 『児童文化がひらく豊かな保育実践』(保育 出版社、2009)p.55 付記 本稿は一部を日本保育学会第 71 回大会にて発表 している。

参照

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