スズドープ酸化インジウム(ITO) ナノインクの現状
と課題
著者
村松 淳司, 蟹江 澄志, 佐々木 隆史
雑誌名
東北大学多元物質科学研究所素材工学研究彙報
巻
65
号
1/2
ページ
54-62
発行年
2010-03-01
URL
http://hdl.handle.net/10097/48500
スズドープ酸化インジウム
(ITO)
ナノインクの現状と課題
村松淳司
*1,蟹江澄志
*1,中谷昌史
*1,佐々木隆史
*1Progress on ITO Nano-ink and Problems
By Atsushi Muramatsu, Kiyoshi Kanie, Masafumi Nakaya
and Takafumi Sasaki
Indium tin oxide (ITO) has been widely utilized as transparent conductive materials, in particular, as a film-type for flat panel displays. However, indium is one of rare metals so that the world-wide deficiency in supply would be evoked as a serious problem in near future. From this point of view, Japan National Project, the Alternative Metal Resources – Reduction of Indium, was started last year, and then the research group was organized with charge of the development of highly efficient system of ITO nano-film coated with ITO nano-ink in non- sputter technique Since we have been investigated the novel synthesis method of monodispersed nanoparticles precisely controlled in size and shape with large productivity as an industrial level, we have started this ITO project from the shape control of ITO particles by various methods, such as the Gel-Sol method, which has been developed originally, and the polyol method as a non-aqueous medium. In addition, the resulting ITO particles will be placed on some substrate with regular arrangement by controlling the surface potential, followed by the low-temperature thermal treatment to give ITO nano-film, which will be also discussed.
(Received on December 29, 2009)
Keywords: ITO(tin-doped indium oxide), polyol process, Gel-sol method, nanoparticles
1
緒言
平成19年度から始まった経済産業省のプロジェクト「希少金属代替材料開発プロジェクト」の中に もあるように,ITOの原料であるInは,供給不安があることから,省使用技術の開発が期待されて いる.すなわち,現行のスパッタ製膜法では,製膜時のスパッタ装置内への付着ロス,配線形成時の エッチングロス等により,用いたITOターゲットのうち,わずか20%程度のみが実際に透明電極と して使用される.のこりのロス分80%の大部分は,リサイクルにより再資源化されるものの,再資源 化には,リードタイムが存在するため,現実的には,実際に配線として使用されるより多くのIn原料 の確保が必要となる.さらにスパッタ製膜法では,大型薄型テレビの急速な需要拡大にあわせて,そ の都度ITOターゲット,真空チャンバー等の大型化・更新を必要とするなどの問題を有することか ら,現行法に置き換わる根本的な技術革新が求められる. 現行のスパッタ製膜法の問題点を解決する有効な手法としては,ITOナノ粒子をインク化し基板上 に直接塗布・大気中焼成により製膜・配線化する技術が注目されつつある.この方法では,In原料の 使用効率をほぼ100%に高めることが可能であると共に,大面積の電極作製も可能である.特に,塗 布型ITOナノインク配線技術の一つであるインクジェット法による配線は,配線を基板に直接描画で きるため,工程が大幅に簡略化できる.さらには材料やエネルギー使用量が大幅に削減できることや, 微細・高集積回路が形成できることから,その実用化が強く求められている. しかし,特にITO使用数量の多い液晶パネルの共通電極,画素電極用途においては,焼成温度が 200˚C程度と高温にできない制約があるため,現行のITOナノインクから製膜した場合では,スパッ タリング法と比較して,特に導電性の点でかなり劣っている(概略1kΩ/sq,膜厚200nm)ので,根 本的に代わるインク合成法の開発が必要不可欠となっている.また,インクの目詰まりの多発や,ス パッタ製膜法に比べて電極の透明性および抵抗値などが劣るなど,克服すべき問題点が数多い. ITOナノ粒子は,低抵抗化・高透過率・低濁度(ヘイズ)の観点から,微粒子化,高い分散性,低 *1東北大学多元物質科学研究所温焼結性を兼ね備えることが必要である.また,透明導電膜は,薄型テレビ等広く世の中に使われる ため,大量生産に適した製法で合成することが望まれる. 低抵抗化には,ITOナノ粒子の接触抵抗低減と内部抵抗低減が必要である.特に,塗布用途である ITOナノ粒子の場合は,接触抵抗を低減させることが重要であり,そのためには,粒子の接触面積の 増大および接触面積間の化学的な結合を取ることが必要と考えている.粒子の接触面積を増大させる ためには,粒子の高分散性,最密充填に適した粒度分布の制御,および,接触が容易に得られる形態 制御が必要である.また,粒子同士は,ただ接触しているだけでなく,粒子同士が,化学的な結合を もつことが重要であり,かつ,ITOナノ粒子が使用される基板がガラスや樹脂基板であることを想定 すると,できるだけ低い温度で粒子同士が焼結する低温焼結性が求められる. 高透過率を得るためには,一次粒子径の低減が必要であり,ヘイズの低減には2次粒子径の低減が 必要である.特に,それぞれ50nmを越えたあたりから特性の悪化が顕著になることから,50nm以 上の粗粒子・凝集体を含まないよう粒度分布の精密制御が必要とされる.また,ミリング装置や界面 活性剤による分散は,粒子表面の結晶性低下や界面活性剤の吸着により,接触抵抗を著しく増加させ ることがわかっているため,分散性の優れた粒子を直接合成することがきわめて重要である. 結局,ITOナノ粒子の合成方法としては,低抵抗・高透過率・低ヘイズを達成するために,高い溶 媒分散性を有しかつ単分散・形態制御が原理的に可能な液相合成法が適している.さらに,ITOナノ 粒子が工業的に使用されることを想定すると,大量生産性に適し,かつ環境負荷低減の観点から廃液・ エネルギー効率等に配慮をすると,合成系の金属イオン濃度が0.1mol dm-3以上となる濃厚系での液 相反応法開発が必要である. 以上の観点から,本項では超濃厚系における液相からの単分散ナノ粒子合成法である“ゲル–ゾル 法”ITOナノ粒子の合成と,それを薄膜化する新技術について詳説する.
2
従来法
従来,塗布型ITOナノインクは,中和反応によりSn含有In(OH)3粒子を合成し,これを気相還元 雰囲気で熱処理することにより酸素欠損ITO粉として合成し,適当な有機溶媒に分散していた.この 方法では,温度処理により,水酸化物から酸化物In2O3への変換が必須であるが,気相での熱処理は 当然粒子同士の焼結を起こし,サイズ,形態が均一な単分散粒子が得られないという致命的な問題を 有していた. さらに熱処理のあと,高分散性を得るために,有機溶媒や界面活性剤などを使用すると,上述した ように,粒子表面の結晶性低下や界面活性剤の吸着により,接触抵抗を著しく増加させる.実際,こ のことによってスパッタ法透明導電膜の比抵抗には遠く及ばないような低導電性膜しか作製できない のが現状である.そこで,ITOナノインクに必要な性能として,粒径50nm程度,粒径の変動係数が 10%以下で,分散性のすぐれ,二次粒子を形成しないものとし,これら粒子を金属塩濃度0.1mol/L 以上の濃厚系液相反応で合成する手法を開発することを目標とすることが工業的には望ましいと考え られる. また,基板がガラス基板または樹脂基板である寸法安定性も求められる用途が多いことから,塗布 後の膜の緻密化のための,過度な加圧・加熱を避ける必要がある.塗布・乾燥・低温焼成で高密度の 膜を形成する高分散性(凝集・焼結がない)かつ高充填性(形態制御,粒度分布)を有した粒子を合成 することが肝要となる. 希望通りのITOナノインクを合成でき,それを薄膜化したときには,現状の性能を著しく向上させ ることができ,焼成温度200˚C以下で,透過率90%以上,ヘイズ1%以下,抵抗100Ω/sq以下とい う夢のナノインク薄膜を達成できるものと期待している.3
液相法合成
上記の目的を達成できるのが,液相からのよく制御された系での粒子析出法である.すなわち,単 純な中和反応による前駆物質(インジウムやスズの非晶質水酸化物)析出ではなく,核生成や成長な ど粒子形成の全てのステップの速度が制御された手法である.こうした液相法では,一般に合成する 粒子のサイズ,形態を自由に制御することが可能であり,かつ,それらを揃えること(単分散化)が できる.特に液相におけるサイズ,形態の制御は機構がかなり明確になっているので,比較的容易に 行うことができる.しかしながら,それら粒子の生産性は低く,価格が通常の粉砕法に比べて高価に なることが問題になっている. ナノ粒子領域の単分散粒子については,その合成法がほとんど報告されていないのが現状で,ゾル ゲル法合成ですらせいぜい50nm程度の大きさのSiO2やTiO2粒子の合成研究が散見されるのみで ある.詳しくは後述するが,単分散粒子のサイズは一般に生成核数と全物質量で決まり,生成核数が 多いときには全体の反応時間に比較して核生成期間が長く生成粒子の標準偏差が大きくなる.通常, 単分散粒子は絶対的な標準偏差を維持しながら成長するので,サイズが大きくなればなるほど見た目 の標準偏差,すなわち相対標準偏差は小さくなる.逆に言えば,サイズの小さな粒子の単分散化は非 常に困難であり,従って報告例は少ないと言える. さらに,ゾルゲル法による粒子は高温履歴がないことなどの理由から構造は通常非晶質となる.ま た,液相法で非晶質粒子ができると,最も表面エネルギーの小さい形,すなわち比表面積が最小とな る,球形となる.従って,乾燥のみでは結晶化が不十分であるため,高温処理(アニール)が施され るのが通常であるが,アニールすると内部焼結だけではなく,外部の焼結,つまり2粒子以上が融合 することがおき,折角サイズが単一の単分散粒子を作製できても高温処理中にその特性が失われるこ とが多い.Fig.1 LaMer model to explain steps of nucleation and particle growth. 単分散粒子を得るための 条件は,LaMerモデル[1, 2] とSugimotoらの考察[3–5] を元にすると, 1. 目的生成物が得られ る条件であること 2. 副生成物が生成しな い条件であること 3. 核生成と粒子成長が 明確に分離されてい ること 4. 粒子成長中の凝集・凝 結が防止されている こと となる.そのため,単分散粒子生成は成長中の著しい粒子同士の凝集を防止するために,希薄溶液系 を採用せざるを得ない状況であった.実際多くの単分散粒子合成について報告してきたMatijevicの 研究[6–24]においても,ほとんどが0.01mol dm−3以下の希薄溶液であり,実用的な手法とは言えな い状況であった.ゾル–ゲル法によるシリカ粒子合成においても同様なことが言える.すなわち,溶質 濃度が大きくなったりすると,粒子分散系,すなわちゾル状態では停まらず,ゲル状態,すなわち粒 子同士が激しい凝集を起こし,もはや粒子と識別できない状態まで進行する.逆に言えば,ゾル–ゲル
法において粒子分散系で生成を停止させるには,非常に希薄な溶液系にせざるを得ないのである. 近年,Sugimotoらは,0.1∼ 1.0mol dm−3の濃厚溶液からの単分散粒子合成法である,ゲル–ゾル 法を開発して注目されている.この方法について簡単に述べる.ゲル–ゾル法の要点は次の通りであ る[25]. 1. 固相前駆体の溶質濃度はLaMerモデルに従い,十分に下げ,制御できる範囲とする. 2. 前駆体溶質の供給源を別途用意する. 3. 濃厚溶液中で粒子が凝集しないようにする. であり,いずれも難解な技術を伴っている. 一方,単分散粒子合成では,粒子成長を途中で停止させればサイズの制御は比較的簡単であるが, この場合はサイズは収率に依存することとなる.実用上は収率100%であることが望ましいので,粒 子の成長が溶質の直接析出であれば,粒子のサイズは,生成核数に依存する.すなわち,全体の物質 量が一定ならば,粒子の数が多くなるほど,サイズは小さくなる.また,単分散粒子の場合は,サイズ が小さくなるほど,サイズ分布は一般に大きくなる.これは,安定な核の大きさは数nm以上である から,核の大きさに近ければ近いほど,サイズ分布が大きくなるためである.溶質の直接析出による 粒子成長を伴う場合はLaMerモデルで考えると,初期に生成した核と後から生成した核には,その時 間のずれだけ,最初に生成した核は成長しているので,核生成終了時にはサイズ分布はかなり大きい. 核生成が終了し,成長だけの段階に移ると,どの粒子も同じように成長を続けるため,核生成時のサ イズの違いを残したまま成長する.凝集が全く起こらず,かつ,新たな核生成が粒子成長中に全く起 こらない場合,成長に費やす物質量が,核生成に費やす物質量よりも圧倒的に大きければ,粒子のサ イズ分布は非常に狭くなることが期待できる.したがって,サイズ分布を小さくするためには,核数, すなわち粒子数をできるだけ抑えて,できるだけ成長させることが必要である.さらに,粒子成長の 時間に比較して核生成の時間を短くすることも効果がある. 水溶液におけるサイズ制御の方法は主として2つある.全体の濃度と体積が一定である場合は,1 つは生成核数を制御すること,2つめは種を入れて粒子数を直接制御すること,である.前者は反応 条件をコントロールして生成する核数を決めるもので,後者は粒子生成系に別に調製した種を添加す る手法をとる.種は大きさにはこだわらず,核と同じ大きさである必要はないが,種が必ず成長する ような条件としなければならない. 粒子生成においては,核生成と粒子成長は競争反応であるので,生成核数を増やすには粒子成長の 方を抑制しなければならない.LaMerモデルで表現できる粒子生成においては,最初の生成核数の制 御は臨界過飽和度を抑制することで数を減らすことが可能であるので,通常核生成期と粒子成長期の 反応温度を制御することで生成核数の制御は可能である.たとえば,高い生成エネルギーを必要とす る核の生成は比較的高温条件で行い,核生成は反応温度を下げることで終了させ,その後は成長だけ を行うような,温度ジャンプの手法である.ただし,この試みは核生成と粒子成長の各段階がよく知 られた系でのみ適用可能である.制御されていない溶液からの固相析出では,過飽和状態が固相析出 終了まで継続するため,核生成と成長を明確に分離しやすい希薄溶液を用いる場合が多い.逆に制御 しやすいような溶液条件と温度を選択すると,希薄溶液系にならざるを得ないである.ゲルーゾル法 を初めとする濃厚系では,核生成と成長のそれぞれのステップを,前者は最初から溶液相に含まれる 溶質,後者はリザーバーに含まれる溶質を使用する,という役割分担をすることができる.ゲル−ゾ ル法では溶質の供給源にリザーバーを使うが,これにより系の過飽和度を十分に下げ,核生成と粒子 成長の制御を可能にしている.リザーバーと溶液相は平衡関係にあるから,核生成は平衡濃度で存在 する溶質によって起こる.この平衡をずらして溶質濃度を制御できれば,生成核数の制御も可能であ ろう.また,この平衡に達する時間は必ずしも短くないことから,リザーバーが存在する溶液に核生 成のための溶質を添加し,すぐに核生成を行わせば,生成する核数は添加する溶質の量に依存する.
Fig.2 Basic idea to realize ITO particles as a source of ITO nanoink with highly promoted properties.
溶 質 が 消 費 さ れ る と 直 ち に リ ザーバーから溶質を補給する. このように何らかの方法でこの 溶質の初期濃度を制御すること で,核生成時間,すなわち生成核 数を制御することが可能であろ う.なおリザーバーの役割は直 接最終生成物に変換するのでは なく,溶液相の溶質濃度を低く 保ちながら溶質を供給すること である.
4
ITO
ナノ粒子合成
ナノインク用ITOナノ粒子の 合成について,その実用化を念頭におくと,Fig.2に示したような基本的な考え方ができる. 1. ナノサイズ(数nm)の粒子は甚 だしい凝集を起こすことが知ら れていて,その懸濁液は凝集物 (フロック)の性質に依存する. 従って,凝集物となりやすい数 nmサイズの粒子の合成は行わな い.加えて数nmサイズの粒子 ではその高い表面活性のために, ほとんど球形となり,事実上形態 制御は不可能である.形態制御 可能なサイズまで大きくする必 要がある. 2. 分散剤を使用すると焼結の際に それが残存し,抵抗が高くなり, 良好な導電性を保てなくなる. 分散を良くするには分散剤を使 用するのではなく,表面電荷の 制御が必要であり,Fig.3のよう なpH-電位曲線データを使って, もっとも適当な溶液条件を設定 すれば特に分散剤を使用しなく てもよい.Fig.3からわかるよう に,ITOの等電点は表面のイン ジウムとスズの構成比で連続的 に変化することから,分散性の決 め手となる表面電荷の制御は表 面組成の変化で可能となる.pH
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Fig.3 Conceptual drawing of surface potential affected by surface composition of ITO.
Fig.4 Schematic view of electrostatic painting:production of ITO nanoparticles precisely controlled in size and shape with large quantity, and their monolayered allay.
3. 焼結性能は単粒子層にきれいに並べることに大きく影響することが予想されるので,Fig.4のよ うに粒子や基板の表面電荷を考慮に入れた塗布法が効果的と考えられる.すなわち,粒子同士 は同電荷により反発し,粒子と基板は異電荷を有し,基板上にきれいにヘテロ凝集して単粒子 配列させることが可能となろう.そのためには粒子の表面電荷制御が必要不可欠である. このように,ナノインクITO微粒子合成に必要な3要素について詳細な検討が必要となる.
Fig.5 Schematic drawing of ITO nanoparticle synthesis via indium hy-droxide crystal with thermal treatment. Right side shows TEM photos of each particle formation step.
Fig.6 Schematic view of direct synthesis of ITO nanoparticles from indium and tin salt solution with using ethylene glycol as a solvent. ここで用いたゲル−ゾル 法は前述の通りであり,この 場合,溶液からの固相析出反 応では反応条件を整えるこ とでインジウムとスズの比 を任意に制御してITO粒子 を合成することが可能であ る.合成フローチャートを Fig.5に示した.硝酸インジ ウムの溶液を100˚C経時し, その後スズを投入,この後, ゲルーゾル変換反応を通し て,最終的にITO粒子を得 るルートである. ところが,この場合,最終 粒子の構造には水酸化物が 多量に混入することがわか っており,ワンパスでITO 粒子は合成することは困難 である.いったん,結晶性水 酸化インジウム粒子を合成 し,スズを添加して焼成処理 して,ITO粒子を得ている. 具体的には,最初,非晶質水 酸化インジウムゲルを合成 し,これを水熱合成条件に 供することにより,結晶性単 分散粒子を得,その後,最終 的にITO粒子を得るもので ある. 上述のように,水系溶媒か ら酸化インジウムを直接合 成することは難しく,焼成処理を必要とするが,焼成による粒子同士の凝集,融着が生じ,単分散性 の高い微粒子群を得ることは難しい[26–30].これまでにも水系溶媒以外,たとえばエチレングリコー ルやポリエチレングリコール(PEG)等を用いたソルボサーマル法によるITOナノ粒子の合成例が報 告されている.しかし,それらは水溶媒中でいったんインジウムスズ水酸化物を合成し,それらを有 機溶媒中に分散させ,ソルボサーマル処理をするものである[31].
最近,筆者らは,ゲルーゾル法を発展させ,エチレングリコールを溶媒としたソルボサーマル法によ り,水溶媒中での水酸化物の合成の段階を経由することなく,高結晶性ITOナノ粒子の一段階合成に 成功した[32].Fig.6に示したように,ITOナノ粒子の合成はインジウムとスズのエチレングリコー ル混合溶液に,水酸化ナトリウムのエチレングリコール溶液を添加し,得られたゾルを200∼ 250˚C のオートクレーブ中で数日間加熱経時することにより行った.得られた粒子は濃い青色を示していた. これは,エチレングリコールの還元性により酸素欠陥が増加したためと考えられる.また,XRD測 定と制限視野電子線回折等により,立方晶構造からなる,スズが入ったITOであることを確認した.
Fig.7 Effect of [In3+] : [OH−] in concentration ratio on particle size and shape under the synthesis condition; 250˚C and 96 h.
Fig.7にIn源とOH源の 仕込み比を変えて合成し たITOナノ粒子のTEM 像 を 示 し た .[In3+] : [OH−] = 1 : 2では粒子径 50nm程の立方体型ITO 粒子が生成するのに対し, 1:4では20nm程度の粒子 が得られ,段階的な粒径制 御が可能であることが示 された.サイズ制御の要 因は,仕込み比1:2の系に 比べて1:4の方が初期に生 成する核の量が多いためであるが,これは酸化物粒子一般にその傾向がある.すなわち,酸化物の前 駆錯体と考えられる水酸化物錯体の生成が高アルカリで有利であるからである.Fig.8にはFig.7の左 側(仕込み比1:2)の立方体型ITOナノ粒子の高分解能電子顕微鏡像を示したが,格子縞が粒子全体 に広がって均一に観察されることから,得られたITOナノ粒子は高い結晶性を有することが明らかと なった.
Fig.8 High resolution TEM and FFT photos of ITO nanoparticle formed under the condition; [In3+] : [OH−] = 1 : 2, 250˚C,96 h.
また,制限視野電子線回折から,方位づけを行い,この粒子が(100)に囲まれた単結晶の立方体状
ITO粒子であることがわかる.右側のFFT像では,このような強いストリークが観察されたことか ら,この粒子は均一にスズや酸素欠陥を有していることが示唆される.さらに,EDSおよびICPによ りインジウムとスズの成分分析を行ったところ,仕込み比通りに,インジウムとスズをmol比1:0.1の
Fig.9 Mono-layered allay of ITO nanoparti-cles, left-side of Fig.7 by the electrostatic paint-ing technique, as shown in Fig.4.
割合で含有していることが分かった.この粒子を 単粒子層(厚みは約50nm程度)に配列した様子 をFig.9に示した.このようなITOナノインクの 超薄膜形成も可能となった. また,これら粒子の圧粉体の導電性を調べたとこ ろ(Fig.10),50nm程度の立方体粒子(Fig.8の粒 子)が最も良好な導電性を示し,5.7× 10−2Ω· cm であり,市販の粒子に比べて1∼ 2桁以上,20nm の粒子に比べて1/2程度桁小さな値となった.こ のような違いが現れた理由は,左の不定形粒子で は,粒子同士が点で接触するため接触面積が小さく なり,接触抵抗が高くなり,立方体状粒子では面と 面が接触するため,接触面積が増大し,接触抵抗が 減少したためと考えられる.以上のことから,粒子 のサイズ・形態を筆者らが提唱している50 nmの 立方体状としたことで,確かに導電性は向上し,粒 子の形態制御によるインク塗布型薄膜の導電性向 上が十分に期待できることがわかった.現在もよ り単分散性の優れた粒子の開発研究を続けている.
Fig.10 Effect of the particle size and shape on the resistivity. 20 nm irregular-shaped particles (Fig.7 right-sided) and 50 nm cubic-shaped particles (Fig.7 left-sided) were used. The former is expected point-to-point contact between particles but the latter face-to-face one.
5
終わりに
冒頭で紹介したプロジェクトは3年を経過し,実用化,事業化に向けていよいよ加速しつつある. 現状,タッチパネル等限られた利用になっているITOナノインクの広範な分野への実用化が実現でき るかどうかの最大の鍵は,粒子の単分散化(精密形態・サイズ制御)と,安定なインク化であるが,第 一の関門である単分散化はほぼ無事通過したと思って良い.今後はインク化が焦点になってきており, 現在,種々の分散法を用いたナノインク開発を実施し,ITOナノインクの事業化は2020年を目標に している.また,波及効果として次世代の太陽電池として期待されている色素増感型太陽電池の電極 材料への応用など,多方面で期待されている.実際,第3添加金属によって特に赤外領域の吸収がな くなったというようなデータも出てきており,さらなる研究の進展が期待されている.文 献
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