環境汚染物質および放射線に対する生体内防御因子
の検索とその応用
著者
永沼 章
環境汚染物質および放射線に対する生体内防御因子の
検索とその応用
(課題番号 07558201) 平成7年度∼平成9年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(2))研究成果報告書 平成10年3月 研究代表者 永 沼 章 ・(東北大学薬学部教授)環境汚染物質および放射線に対する生体内防御因子の
検索とその応用
(課題番号 07558201) 平成7年度∼平成9年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(2))研究成果報告書 平成10年3月 研究代表者 永 沼 章 (東北大学薬学部教授) 00010133390 「. 五t展開芸能 !は し が き 生体内には環境汚染物質や放射線の示す障害に対するいくつかの防御機構が存在する ことが知られている。しかし環境汚染物質や放射線に対して耐性を示す細胞株を用いて その耐性獲得機構を検討しても,その耐性獲得機構が既知の防御機構の克進では説明で きないことが多い。我々も,重金属,農薬,放射線または紫外線に対して耐性を示す多 くの細胞株を単離したが,既知の生体内防御因子の活性または濃度の違いでその耐性獲 得機構を説明できる例はほとんどなく,その機構は未だ不明である。また,重金属,農 秦,放射線または紫外線に対する既知の生体内防御因子(代謝酵素,抗酸化酵素,細胞 外排壮促進蛋白など)をコードする遺伝子を培養細胞に導入してこれら酵素の活性が数 倍から数十倍高い値を示す培養細胞株(stable transformants)を作製したが,重金属,農薬, 放射線または紫外線に対するこれら細胞株の感受性には親株との間にほとんど違いが認 められなかった。これらの事実は,環境汚染物質や放射線の細胞毒性に対する防御機構 として,既知の因子があまり重要な役割を果たしていないことを示しており,細胞内に 既知の因子よりもさらに強力な作用を有する未知の防御因子が存在する可能性を強く示 唆している。 この未知の防御因子を同定することができれば,環境汚染物質や放射線の示す障害に 村する生体防御機構をより正確に理解することが可能となり,生体が本来有していると 考えられる免疫系を介さない生体防御機構の解明につながる非常に有用な知見を提供す ることになる。しかし,この未知の防御因子をこれまで一般的に行われてきたような" 可能性のある既知因子の中から消去法で見つけだすという方法"を用いて検索するのは 殆ど不可能に近く,このような非積極的な方法を用いた検討がこれまで中心的に行われ てきたことが''真の生体防御因子''の解明が大きく遅れた理由と考えることもできる。 そこで本研究では,環境汚染物質や放射線の毒性に対する新しいヒト生体防御遺伝子を 酵母を利用した効率の高い独創的な方法を用いて検索した。 1
-研 究 組 織 研究代表者:永沼 章(東北大学薬学部教授) 研究分担者:宮入伸一(東北大学薬学部助教授) 研究分担者:三浦伸彦(東北大学薬学部助手) 研究分担者:西山省二(明治製菓(秩)薬品総合研究所主席研究員) 研 究 経 費 平成7年度 5, 400千円 平成8年度 2, 400千円 平成9年度 1, 400千円 計 9, 200千円 研 究 発 表 (1)学会誌等
1・ Nakagawa, I・, Suzuki・ M・, Imura・ N・and Naganuma・ A・, Emincement ofparaquat toxicity
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37-43 (1995).
5・ Tohyama, C・, Satoh, M・, Kodama, N・, Nishimura, H・, Choo, A・, Michalska, A.,
- 2 -Kanayama, Y・and Naganuma, A・, Reduced retention of cadmiumin the liver of metallothionein-nullmice. Environ. Toxicol. Pharmaco1., I, 213-216 (1996).
6. Nakagawa, I., Satoh, M・, Imura, N・ and Naganuma, A・, Role of metallothionein in
protection against renaloxidative stress induced by cis-diaminedichloroplatinum(II) in
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7. Satoh, M., Nishimura, N., Kanayama, Y., Naganuma, A・, Suzuki, T.and Tohyama, C., Enhanced renaltoxicity by inorganic mercury in metallothion'ein-nullmice. J. Phamacol.
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methyl mercuryinrats・ Biochem・ Biophys・ Res・ Commun・, 239, 862-867 (1997)・
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solvent system・Anal・ Biochem・,impress (1998)・
12・ Tanaka-Kagawa, T・, Suzuki, M・, Naganuma, A・, Yamanaka, N・and Imura, N・, Stmin
difference in sensitivity of mice to renaltoxicity of inorganic mercury・ J・ Pharmacol・ Exp・ Ther.,impress (1998)I
13. Oe, T., Ohyagi, T.and Naganuma, A., Determination of g-glutamylglutathioneand other low
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- 3 -(2)稔説等 1・永沼 章‥ メタロチオネイン.赤沢修吾編, Keyword1995--96癌,244-245,1995 2・永沼 章‥ メタロチオネインの合成調節による制がん剤の副作用軽減および耐性 克服.薬学研究の進歩, 17-21, 1996. 3・三浦,伸彦,永沼 章‥ メタロチオネインの遺伝子制御.井上正康編,活性酸素と シグナル伝達-レドックス制御と生物の生存戦略, 47-56, 1996. 4・永沼 章:メタロチオネイン.日本臨床, 79-83,1997. (3)口頭発表
1・ Nakagawa・ I・・ Imura・ N・and Naganuma・ A・: Induction of metaIIothionein synthesis and
toxicity exerted by paraquat under glutathione depletion・ IntemationalCongress of
Toxicology-ⅤⅠ, I 995. 2・朝日育江,井村伸正,小山正夫,永沼 章:新しいメタロチオネイン合成誘導剤 PFIO70・第21回環境汚染物質とそのトキシコロジーシンポジウム, 1995. 3.香川(田中)聡子,豊田春香,永沼 章,井村伸正:アドリアマイシンおよびシス プラチンの細胞毒性防御因子としてのカタラーゼ及びスーパーオキシドジスムタ-ゼの役弓軌 第54回日本癌学会総会, 1995. 4・永沼 章,朝日育江,豊田春香,井村伸正:制がん剤の副作用軽減作用を期待した 新しいメタロチオネイン合成誘導剤の検索.第54回日本癌学会総会, 1995. 5・朝日育江,豊田春香,山室千穂,井村伸正,小山正夫,永沼 章, :新しいメタロチ オネイン合成誘導剤pF1070のプロモーター活性化機構.第68回日本生化学会大会, 1995.
6・Asahi, I・, Imura, N・・ Koyama, M・ and Naganuma, A・: A screenlng methdfor new
metallothioneininducers・ 1 996Amual Meeting of Society of Toxicology, I 996.
7.宮入伸一,柴田誠二,永沼 章:簡便な単一溶媒系HPLCによるメタロチオネイン
の高感度測定法の開発.第22回環境汚染物質とそのトキシコロジーシンポジウム,
- 4 -1996. 8.金山徳孝,永沼 章,佐藤雅彦,遠山千春,鈴木継美:メタロチオネイン欠損マウ スにおける無機水銀の体内動態.第22回環境汚染物質とそのトキシコロジーシン ポジウム, 1996. 9.柴田誠二,宮入伸一,永沼 章:蛍光検出高速クロマトグラフィーによる高感度メ タロチオネイン測定法の開発.第35回日本薬学会東北支部大会, 1996. 10.片桐綾子,三浦伸彦,永沼 章:メタロチオネイン合成とカドミウム毒性に対する ヒノキチオールの効果.第66回日本衛生学会総会, 1996. ll.片桐綾子,三浦伸彦,永沼 章,中嶋克行,花田勝美,有馬八重野,大津書朗:ヒ ノキチオールによるメタロチオネインプロモーターの活性化.日本薬学会第116年 会, 1996.
12. Miura, N・, Nagai, W・ and Naganuma, A・: Screenlng Of differentially expressed genes in
ass∝itation with metallothionein disruptlOn. ¶1e Fourth lntemational Metallothionein
Meeting, 1997・
13. Sato, M・, Naganuma, A・, Miura, N・, Tohyama, C・ and Homma, Y・: Effect of metallothioneinand zinc on toxicityinduced by oxidative stress in tissueand ceIIs・ The Fourdl htemationalMetallothionein Meeting, 1 997.
14. Naganuma, A., Miura, N., Katagiri, A・, Hosoya, S・, Arima, Y・, Otsu, Y・, Nakajima, K・
and Hanada, K.: Activation of gene expression of metalIothionein by a wood constituent,
hinokitioI. TYle FourthIntemational Metallodlionein Meeting, 1 997.
15・ Tohyama, C・, Satoh, M・, Nishimura, N・, Kanayama, Y・and Naganuma・ A・: Role of
metallothionein in distributionand toxicity of inorganic mercury inthe kidney of mice・ ne FourthIntemationalMetallothionein Meeting, I 997. 16.永沼 章:メタロチオネイン(金属結合蛋白質)の役割一遺伝子ノックアウト与 ウスの知見から.バイオメタル一生体調節の多彩な役割と病態, 1997. 17.三浦伸彦,永沼 章:メタロチオネイン遺伝子を欠損した不死化細胞からのカドミ ウム耐性細胞の樹立.第67回日本衛生学会総会, 1997. 18.三浦伸彦,長井和佳子,永沼 章:メタロチオネイン欠損により発現量が変動する
- 5 -遺伝子の検索.第70回日本生化学会大会, 1997. 19・松本陽子,三浦伸彦,永沼 章,西山省二‥ カドミウムの細胞毒性に対するトリテ ルペン化合物の軽減効果.第70回日本生化学会大会, 1997. 20・永沼 章:薬毒物に村する生体防御因子としてのメタロチオネイン.第10姻日 本薬学会北海道支部例会, 1997. 21・三浦伸彦,金山徳孝,校本陽子,三田征治,井村伸正,遠山千春,永沼 章:メタ ロチオネイン欠損マウス肝臓からの不死化細胞の樹立.日本薬学会第117年会, 1997. 22・石川弘英,三浦伸彦,永沼 章‥ 酵母のシスプラチン耐性に関与する遺伝子の検索. 日本薬学会第117年会, 1997. 23・金子 聡,三浦伸彦,永沼 章:酵母のメチル水銀耐性に関与する遺伝子の検索.日 本薬学会第117年会, 1997. 24・永沼 章:金属結合蛋白質メタロチオネインが示す制がん剤毒性抑制作用.理研 シンポジウム-生体微量元素-97, 1997. 25・永沼 章‥ 薬毒物の毒性から生体を防御する蛋白質メタロチオネイン.第18回日 本中毒学会西日本部会, 1998.
- 6 -研究成果
- 7 -メ チル水銀の毒性に対す る 生体防御因子の検索
メチル水銀は人体に重篤な障害をもたらす有害重金属である。環境中に 存在する有機水銀の大部分はメチル水銀であり、このメチル水銀は微生物 などによって無機水銀イオンから生成すると考えられている1)。近年、工 業的に利用されている水銀の量は増加の一途をたどっており2)、それに伴 う環境中メチル水銀濃度の上昇が懸念されている。これまでに世界各国で 集団的なメチル水銀中毒の発生が報告されており、我が国においてもメチ ル水銀の環境汚染によって水俣病が引き起こされ大きな社会問題となった。 メチル水銀の標的器官は神経系であり、ヒトにおける中毒症状は主として 感覚麻痔、言語障害、運動失調、視野狭窄、難聴などの中枢神経異常症で ある3)。メチル水銀は生体内で種々の物質と結合するが、とくに蛋白質の SH基との親和性が高く、 SH酵素の活性を強く阻害することが知られてい る4)。しかし、メチル水銀によって選択的に影響を受ける細胞内分子は未 だに全く不明であり、メチル水銀の毒性発現機構を解明するための糸口さ え得られていないというのが現状である。 メチル水銀の標的となる細胞内分子が明らかになれば、メチル水銀によ る神経障害発現機構解明の突被口ともなり、その後の研究の飛躍的な発展 が期待できる。しかし、メチル水銀毒性の標的分子を何らかの方法で直接 的に検索することは不可能に近い。そこで、本研究では、薬剤耐性獲得機 構の一つとして細胞内標的分子濃度の上昇が報告されていることに着目し、 遺伝子導入法を用いて、細胞にメチル水銀耐性を与える遺伝子の検索を試 みた。 第一章 メチル水銀耐性遺伝子の検索 【目的】 酵母は、われわれ晴乳類と同じ真核生物に属し、単細胞生物でありなが ら、少なくとも基本的な諸断面において真核細胞を代表するものとして古- 8 -くから研究されいる。そのため、遺伝子操作のためのベクタープラスミド や形質転換の技術が確立されており、遺伝子のクローニングや遺伝子破壊、 遺伝子交換などを思いのままに行うことが可能である。そこで、出芽酵母 (5acchaTOmyCeS CereVjsjae)よりメチル水銀耐性に関る遺伝子の検索を試 みた。これまで酵母からクローニングされた遺伝子群の中には、酵母のみ ならずヒトに至る真核生物にまで広く保持されている遺伝子も数多く存在 することから、辞母遺伝子の検索によりヒトにも存在するメチル水銀耐性 遺伝子が見出される可能性は高い。
【実験方法】
(1)実験材料酵母:出芽酵母(SacchaTOmyCeS CeI・eVjsjae)W303B棟(MATα his3
can1-100 ade2 1eu2 trpl ura3)
大腸菌: ⅩL-1blue株
YPAD培地: 1%bacto-yeast extract、 2%bacto-peptone、 2% glucose、
40mg/1 adenine
sDM培地: 0.67%yeast nitrogenbase、 2% glucose、 40mg/1 adenine、
20mg/lhistidine、 60mg/1 leucine、 40mg/1 tryptophan、 20mg/1 uracil、 1.3g/1 dropout powder
LB培地: 1%bacto-tryptone、 0.5% bacto-yeast extract、 1% NaCl、
pH7.5
SOC培地: 2%bacto-tryptone、 0.5%bacto-yeast extract、 0.05% NaCl、
20mM MgC12、 20mM glucose
Breakingbuffer : 2%TritonX-100、 1% SDS、 100mM NaCl、 10mM Tris- HCl (pH8.0)、 1mM EDTA(pH8.0) メチル水銀: MeHgCl(東京化成工業) 酵母ゲノムDNAライブラリー:酵母のゲノムDNAを5au3AIで部分分解し、 2LLm系マルチコピープラスミドYEp13のBamHI部位に組み込み、酵母ゲ ノムDNAライブラリーとした。このライブラリーは東京大学医科学研究 所の久下周佐博士より供与された。
- 9 -大腸菌からのプラスミド抽出には、 Wizard Minipreps DNAPurification System (Promega)を用いた。 (2)酵母へのゲノムDNAライブラリーの導入 酵母の形質転換は酢酸リチウム法5)によって行った。すなわち、ロイシ ン要求性の酵母W303B棟を完全培地であるYPAD培地50mlに植え、 2Ⅹ107cells/mlになるまで振塗培養した後に集菌し、それを1mlの100mM 酢酸リチウム溶液に懸濁した。ここに酵母ゲノムDNAライブラリー(Fig.1) lLLg、加熱変性サケ精子DNA50LLg及び50%ポリエチレングリコール (4000)300〟1を加え、 30℃で30間分インキュベ-トした。その後、 42℃ で15分間の熱ショックをかけた後に集菌し、ロイシンを含まない選択用培 地であるSDM(-leu)寒天培地に播き30℃で3日間培養した。この際、ベク ターとして用いたプラスミドYEp13中にはロイシン合成酵素の遺伝子が含 まれているので、本プラスミドが導入された酵母(形質転換体)のみがロイ シンを含まないSDM培地中でも生育可能となる。 (3)メチル水銀耐性遺伝子のスクリーニング 得られた形質転換体を、親株が生育できない濃度のメチル水銀(20nM)杏 含むSDM(-leu)寒天培地に1プレート当たり5Ⅹ103個ずつ播き、 30℃で3日間 培養して生えてきたコロニーを回収した。 (4)酵母からのプラスミドDNAの回収 酵母からのプラスミドDNAの回収はガラスビーズ法6)に従って行った。 先ず、シングルコロニーを2mlのSDM(-1eu)培地に植菌し、 30℃で24時間 インキュベ-トした後、集菌して200〟lのBreakingbufferに懸濁した。 これに、 200LLlのphenol/chloroform/iso-amylalcohol (25 : 24 : 1)及び 0.3gの酸洗浄ガラスビーズを加え5分間激しく撹拝した後、 12,000Ⅹgで5 分間遠心してプラスミドDNAを含む水屑200LLlを得た。得られたDNA溶液 をエタノール沈殿により濃縮し、最終的に10〟1のDNA溶液とした。引き 続き、プラスミドDNAを精製するために、大腸菌への導入及び回収を行っ
Ilo-た。大腸菌へのプラスミドの導入はHanahanらの方法7)に従って行った。 コンビテントセル溶液200〝1に上述のDNA溶液5〝1を加え、氷上に30分間 静置した後、 42℃で30秒間の熱ショックを与え、更に氷上に1分間静置し た。これにSOC培地0.8mlを加え37℃で1時間インキュべ-トした後、アン ピシリン50〝g/mlを含むLB寒天培地に塗布し、 37℃で一晩培養した。形 成されたコロニーをアンピシリン50LLg/mlを含むLB培地にて一晩撮塗培 養した後、 Wizard Minipreps DNA Purification Systemを用いて大腸菌 よりプラスミドDNAを回収した。 (5)プラスミドを再導入した酵母のメチル水銀に対する感受性 プラスミドを再導入した酵母のシングルコロニーを2mlのSDM(lleu)培 地に埴菌し30℃で一晩培養した後、この培養液を5Ⅹ106cells/mlになるよ うにSDM(-leu)培地で希釈し、その希釈培養液を30℃で5時間培養した。 得られた対数増殖期中期の菌体をメチル水銀(0、 15、 18、 20nM)を含む SDM(-leu)寒天培地に1プレート当たり5Ⅹ103個ずつ播き、 30℃で3日間培 養した後のコロニーの形成を調べた。尚、 YEp13ベクターを導入した酵母 を実験の対照とした。
【結果及び考察】
メチル水銀耐性に関与する酵母遺伝子をFig.2に要約したような方法に よって検索した。 2〝m系マルチコピープラスミドYEp13をベクターとする 酵母ゲノムライブラリー(Fig.1)を酢酸リチウム法により酵母(W303B棟)に 導入し、導入遺伝子を高発現する形質転換体が約2Ⅹ104個得られた。この 形質転換体の中から、遺伝子の導入によりメチル水銀に対して耐性を示す クローンを選択するために、親株が生育できない濃度(20nM)のメチル水銀 を含むSDM(-leu)寒天培地にこれら形質転換体を播き、 3日間培養したとこ ろ、この条件下でも成育可能なコロニーが10個得られた。ここで得られた コロニーは理論的には遺伝子の導入によってメチル水銀耐性を獲得したク ローンと考えられるが、突然変異や一時的な耐性獲得によって耐性を示す ものが含まれる可能性を否定できない。そこで、酵母にメチル水銀耐性を-ll-与えるプラスミドのみを選択するために、これらクローンからプラスミド を回収し、親株に再導入してメチル水銀に対する感受性を調べた。この結 果、 14-1又は18-1と命名した2つのプラスミドを導入した酵母が、メチル 水銀存在下(15-20nM)においてもコロニーを形成し、明らかにメチル水銀 耐性を示した。特に、 18-1を導入した酵母はより強い耐性を示し、メチル 水銀20nM存在下でも殆ど成育が阻害されなかった(Fig.3)。これら2種の プラスミド導入酵母にはメチル水銀に対する耐性の強さに違いが認められ たことから、ここで得られたプラスミド中には異なる遺伝子が含まれる可 能性も考えられる。そこで、今回得られた2種のプラスミドのうち、より強 いメチル水銀耐性を与える18-1について以後の解析を進めることとした。 GenomiC DNA Fig.1
Structure of YEp13・based Yeast Genomic Library
-12-Yoast GenomiC Library
Transtect into Yeast W303B Strain
2 x 104 Transtormants
MeHg (20nM) Selection
MeHg・reSistant (MeHgり C一ones
DNA Isolation
MeHgr・related PIasmids
Fig.2
screening Procedure of MeHg Resistant C一ones
-13-1
0
MeHg onM
YEp13
15nM
18nM
20nM
Fig.3
第二章 メチル水銀耐性遺伝子18-1の解析 【目的】 メチル水銀耐性に関与する遺伝子を酵母ゲノムライブラリーから検索し たところ、 2種のプラスミド(18-1、 14-1)が得られ、 18-1がより強いメ チル水銀耐性を示した。そこで、 18-1に組み込まれている酵母DNA(18-1 インサート)について解析を行った。
【実験方法】
(1)実験材料ベクター: pYES2 (Invitrogen)、 pBluescriptII (STRATAGENE)
DNAライゲ-ションキット: DNAligationkitver.2 (宝酒造)
シークエンス用アクリルアミドゲル溶液・. PagesetSQC-6A (BIOMATE)
シークエンスプライマー:
M13 Primer M3(5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3')
M13 Primer RV(5'-CAGGAAACAGCTATGAC-3') (宝酒造)
シークエンシングキット: ABI PRISM Dye Terminator cycle Sequencing
Ready Reaction Kit (PERKIN ELMER)
pcR装置: TAKARAPCRThermal Cycler MP (宝酒造) オートシーケンサー: ABI373A(PERKINELMER) 制限酵素はNEWENGLANDBIOLABS及び宝酒造のものを用いた。 アガロースゲルからのDNA精製にはGENECLEANE IIIKIT(BIOIOl) を用いた。 (2).18-1の制限酵素地図の作製 18-1プラスミドを数種の適当な制限酵素で切断し、その切断パターンを 0.6%又は2%のアガロースゲル電気泳動により解析して、 18-1インサート の制限酵素地図を作製した。
-15-(3)18-1フラグメントの酵母発現ベクターへのサブクローニング 18-1プラスミドをBamHI又はHindIIIで切断し、 0.8%アガロースゲル 電気泳動によりBamHIフラグメント又はmndIIIフラグメントに分離した。 これらのフラグメントをアガロースゲルより切り出し、 GENECLEANEIII KITを用いてゲルから精製した。一方、酵母発現ベクターpYES2(Fig.4)ち BamHI又はmndIIIで切断し、同様にゲルから精製した。次に、 pYES2と それぞれのフラグメントをDNAligationkitver.2を用いて連結した後に、 第一章と同様の方法を用いて大腸菌より回収し、最終的にpYES2にBamHI フラグメント又はHjndIIIフラグメントを組み込んだプラスミドを得た。 (4)1811BamHIフラグメント又はHjndIIIフラグメントを導入した酵母のメ
チル水銀に対する感受性
(3)で得られたプラスミドを第-章と同様の方法を用いて酵母(W303B)に 導入し、形質転換体を得た。この形質転換体のシングルコロニーを2mlの SDM(-ura)培地に植菌し30℃で一晩培養した後、この培養液を 5Ⅹ106cells/mlになるようにSDM(-ura)培地で希釈し、その希釈培養液を 30℃で5時間培養した。ここで用いた酵母(W303B)株はロイシン要求性で あるとともにウラシル要求性でもあり、ベクターのpYES2中にはウラシル 合成酵素遺伝子が含まれているので、 SDM(-ura)培地中で培養することに よって形質転換体を選択することができる。得られた対数増殖期中期の菌 体を、メチル水銀(0、 15、 20nM)を含むSDM(-ura)寒天培地に1プレート当 たり5Ⅹ103個ずつ播き、 30℃で3日間培養した後のコロニーの形成を調べた。 尚、 pYES2ベクターを導入した形質転換体を実験の対照とした。 (5)18-1BamHIフラグメントの部分塩基配列の決定 1811BamHIフラグメントの両端の塩基配列をジデオキシサイクルシーク エンス法により決定した。先ず、 BamHIフラグメントを(3)と同様の方法 を用いてシークエンシング用のベクターpBluescriptIIにサブクローニング し、テンプレートDNAとした。このテンプレートDNA400ng、シークエ ンス用プライマー(M13 Primer M3又はM13Primer RV)3.2pmol及び-16-Terminator Ready Reaction Mix (PERKIN ELMER)8 〝1を加えて全量が 20LLlになるように滅菌蒸留水で調製し、 PCR装置を用いて96℃30秒、 50 ℃15秒、 60℃4分のシークエンス反応を25サイクル行った。反応生成物を エタノール沈殿により濃縮した後、 4LLlのローディングバッファー(25mM EDTA、 50mg/mlブルーデキストラン/ホルムアミド 1:6)に溶かし、 90℃で2分間の熱変性を行った後、氷浴上で急冷した。これを6%シークエ ンスゲルにアプライし、オートシ-ケンサーにより塩基配列を解析した。 (6)1811EcoRIフラグメントを導入した酵母のメチル水銀に対する感受性 18-1EcoRIフラグメントを(3)、 (4)と同様の方法を用いてpYES2にサブ クローニングし、これを親株に導入してメチル水銀に対する感受性を調べ た。
【結果及び考察】
酵母にメチル水銀耐性を与えたプラスミド18-1中に挿入されている酵母 ゲノムDNA断片の大きさ及び制限酵素部位を調べるために、数種の適当な 制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動により解析した。その結果、 プラスミド18-1に挿入された酵母ゲノムDNA断片の大きさは約9.2kbで あり、その中に2個のBamHI部位と1個のEljndIII部位を持つことが明らか となった(Fig.5)。インサートが9.2kbと長く、複数の遺伝子を含むこと が予想されたので、メチル水銀耐性に関与する領域を絞り込むために、次 に上記の2つの制限酵素部位を利用して、インサート部分を約4.6kbの BamHIフラグメント及び約7.5kbのHjndIIIフラグメントに切断した (Fig.5)。尚、 EIjndIIIフラグメントの作製にはベクター側のnjndIII部位を 利用した。これら2つのフラグメントをアガロースゲルから精製後、 2LLm 系発現ベクターpYES2にサブクローニングし、これを親株に導入して、メ チル水銀に対する耐性を調べた。その結果、 pYES2ベクタ-のみ或いは HjndIIIフラグメントを導入した酵母は15nMのメチル水銀存在下でコロニー の形成が認められなかったのに対し、 BamHIフラグメントを導入した酵母 は20nMのメチル水銀存在下でもコロニーを形成し、明らかな耐性を示し-17-た(Fig.6)。従って、今回得られた9.2kbインサート内でメチル水銀耐性 に関る領域は、このBamHI領域であることが示唆された。
出芽酵母はゲノム全DNA塩基配列が既に明らかにされているので、得ら
れた18-1のBamHIフラグメントの両端から約300bpの塩基配列を決定した
㌔
後に、この配列をデータ-ベース(Saccharomyces Genome Database)を 利用して検索した。その結果、今回得られた18-1BamHIフラグメントは
酵母の第11染色体の241442番から246087番の塩基配列に相当すること が判明した(Fig.7)。この領域にはYKL105C、 GFAl、 LAP4という3個の ORF(OpenReadingFrame)が存在するが、得られた18rlBamHIフラグメ ントにはGFAlだけが完全長で含まれていたことから、 GFAlが目的とする メチル水銀耐性に関与する遺伝子である可能性が高い。そこで、 GFAlを 3.7kbのEcoRIフラグメントとして単離し、 pYES2にサブクローニングし た後に酵母(W303B)に導入してメチル水銀に対する感受性を調べたところ、 前述のBamHIフラグメントを導入した酵母の場合と同様に、このEcoRIフラグ メントを導入した酵母も明らかな耐性を示した(Fig.8)。これらの結果から、 このGFAlがメチル水銀耐性に関与する酵母遺伝子の一つであることが示 唆された。 Fig.4
Structure of pYES2 Yeast Expression Vector
-18-4.6kb am川tragment
7.5kb〟ーagment
d‖fr
Fig.5
Restriction Map of the 18・1 Fragment
H: in B: amHl, X: E: co I
20nM
pYES2
18-18amHl fragment
18-1
HI'ndHJ fragment
Fig.6
Sensitivity of the Yeasts Transfected with 18-1 BamHl or
由m ) EcoFII Edl飴m l
ト.一一・一」一」一一l一■■ll一一一■]一一1
240000 247000 日 YKL105C 1kb」_.」
GFA 7【===== j
LAP4Fig.7
MeHg OnM
pYES2
18-1
EcoRl fragment
15nM
20nM
Fig.8
MeHg・Resistance of the EcoRI Fragment・
第三章 GFAlを導入した酵母の他の重金属に対する交叉耐性 【目的】 第二章において、メチル水銀耐性に関与する遺伝子として見出された GFAlはトグルタミン:D-フルクト-ス-6-リン酸アミドトランスフエラー ゼ(以下、 GFATと略す)をコ-ドする遺伝子として既に報告されている8'。 GFATはグルタミンとフルクト-スー6-リン酸からグルコサミンー6-リン酸 の生成を触媒する酵素であり、酵母以外にも大腸菌9㌦マウス10)、ラット ll)、ヒト12)など微生物から晴乳動物に至るまで広く保存されている酵素で ある。
L-glutamine + D-fructose-6-P > D-glucosamine-6lP + L-glutamate
この反応はアミノ糖生合成の初発反応に当たるため、本酵素はアミノ糖 生合成に重要な役割を果たしているものと考えられている13'。本章では GFAl導入酵母の性質を明らかにするために、この酵母のGFAT活性を測 定し、更にメチル水銀以外の重金属に対する交叉耐性を検討した。
【実験方法】
(1)実験材料 D-フルクト-スー6-リン酸二ナトリウム、 L-グルタミン、 D-グルコース 16-リン酸二ナトリウム、グルコサミンー6-リン酸、 phenylmethylsulfonyl fluoride (Nacalai Tesque. Inc.)(2)酵母細胞抽出液の調製 酵母シングルコロニーを2mlのSDM培地に植菌し30℃で一晩培養した後、 この培養液を1Ⅹ107cells/mlになるようにSDM培地で希釈し、 30℃で5時 間振塗培養した。ここで得られた菌体(約1Ⅹ109cells)を集菌し、氷冷した 抽出バッファー(0.2Mリン酸ナトリウムpH7・0、 1mMEDTA、 12mMD-グルコースー61リン酸、 1mM phenylmethylsulfonyl fluoride) 1mlに懸濁 して1.5mlのプラスチックチューブに移し、 1,500Xg、 5分間、 4℃で遠心
-23-沈殿させた。これに細胞の体積の3倍量の抽出バッファー及び4倍量の酸洗 浄ガラスビーズを加え4℃低温室内で10分間激し'(撹拝した後、 12,000Ⅹg、 20分間、 4℃で遠心し、その上清を細胞抽出液とした。 (3)GFAT活性の測定 6mMD-フルクト-スー6-リン酸、 12mML-グルタミン、 1mMEDTA、 40mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)及び50〝1の細胞抽出液を含む反 応溶液0.5mlを37℃で1時間インキュベ-トして酵素反応を行った。次に、 酵素反応を停止させるために沸騰水浴中で2分間加熱した後に、 12,000Xg で10分間遠心し、 0.4mlの上浦を得た。この上清中のグルコサミン-6-リ ン酸をEIson-Morgan法の変法14)で定量した。すなわちグルコサミンー6-リン酸をアルカリ溶液中で無水酢酸と反応させてN-アセチルグルコサミンー 61リン酸とし、これを希アルカリで加熱後、冷却してエールリッヒ試薬と 反応させて585nmの吸光度を測定した。酵素活性はグルコサミンー6-リン 酸を標準物質として、 1分間に生成するグルコサミンー6-リン酸の量(nmol) を蛋白質1mg当たりに換算した値(nmoles/min/mgprotein)で示した。尚、 蛋白質の定量は色素吸着法15)で行った。イオン交換水で5倍に希釈した Dye-binding試薬(BIO-RAD)2mlに細胞抽出液100〟1を添加し、 595nm における吸光度を測定した。 (4)交叉耐性の検討 18-1EcoRIフラグメントを導入した酵母を塩化第二水銀(350-450nM)、 塩化亜鉛(7.5-10mM)、塩化カドミウム(20-40f↓M)、塩化第二銅 (ト3mM)又は塩化メチル水銀(0-20nM)を含むSDM(-ura)寒天培地に1 プレート当たり5Ⅹ103個ずつ播き、 30℃で3日間培養した後のコロニーの 形成を調べた。尚、 pYES2ベクターを導入した形質転換体を実験の対照と した。
【結果及び考察】
先ず、第二章で18-1EcoRIフラグメントとして単離したGFAl遺伝子を-24-導入した酵母のGFAT活性を測定した。・その結果、この酵母は親株及びベ クターのみを導入した酵母の約5倍のGFAT活性が認められた(Fig.9)O徒つ て、 GFAT活性の上昇が酵母にメチル水銀耐性を与えている可能性が示唆 された。 次に、このGFAl遺伝子を導入した酵母のメチル水銀以外の重金属に対 する交叉耐性を検討した。メチル水銀に対しては明らかな耐性を示す GFAl導入酵母は、今回検討した4種の重金属(塩化第二水銀、塩化亜鉛、 塩化カドミウム、塩化第二鋼)に対しては殆ど耐性を示さなかった(Fig・10)。 この結果から、 GFAl遺伝子の導入による耐性獲得はメチル水銀に特異的な 現象である可能性も考えられる。 W303B pYES2 GFAl Fig.9
GFAT Activity of GFAl -Transfected Yeasts
-25-( u S q o J d B E p J ! u J 一 O u u ) h S ^ ! t 9 t ! . L V L 9 0 L O 0 2 1 1 H n 0
contro暮 鵬HgC1 20nM HgC12 400nM ZnC12 10mM CdC12 3叫M CuC12 2mM
「て
Fig.10
第四章 GFAT活性に対するメチル水銀の影響 【目的】 メチル水銀耐性因子として見出されたGFATはアミノ糖合成の初発反応 を担うものであり、紳胞の機能維持に欠かせない酵素であることから、メ チル水銀毒性発現の標的分子である可能性も考えられる。そこで、 GFAT 活性に対するメチル水銀の影響を検討した。
【実験方法】
(1)実験材料 ピルピン酸ナトリウム(NacalaiTesque.Inc.)、 NADH二ナトリウム(Sigma) (2)酵母におけるメチル水銀毒性の測定 酵母(W303B)を1Ⅹ107cells/mlになるように30mlのYPAD培地に懸濁し、 そこに種々の濃度のメチル水銀を添加して培養した。毒性の指標となる増 殖率は24時間後の細胞数をもとに求めた。 (3)HepG2細胞の培養HepG2細胞はD-MEM(Dulbecco-s modified Eagle medium)(日水製薬) に硫酸カナマイシン(60〝g/ml)、 NaHCO3(0・1%)、 L-グルタミン(316
〝g/ml)、 10%Fetalbovine serum(JRH Biosciences)を添加した培地を用
いて、 37℃、 5%C02の条件下で培養した。 (4)HepG2細胞におけるメチル水銀毒性の測定 9.6wellマイクロプレートにHepG2細胞を1Ⅹ104/wellの濃度になるよう に播き、.24時間培養後、メチル水銀を添加した。添加24時間後に、 AlamarBlue(関東化学)を最終濃度10%になるように培地中に添加して、 5 %co2存在下37℃で4時間培養して570nmと620nmの吸光度を測定し、 以下に示す式を用いて毒性の指標となる細胞の生存率を求めた16'。
-27-(OD570nm-OD620nm) of MeHg treated cells
細胞生存率(%)-100 Ⅹ
(OD570mm-OD620mm) of MeHg untreated cells
(5)HepG2細胞抽出液の調製 HepG2細胞を氷冷した抽出溶液(150mMKCl、 1mMEDTA、 12mM D-グ ルコースー6-リン酸)で2回洗浄した後、 0.5mlの抽出溶液に懸濁し、超音 波破砕した。これを12,000Ⅹg、 4℃で15分間遠心し、その上清を紳胞抽 出液とした。 (6)LDH活性の測定 2mM ピルビン酸、 135〝M NADH、 50mMリン酸カリウムー100mM KCl(pH7.0)、及び30〝1の細胞抽出液を含む2mlの反応溶液を25℃でイ ンキュべ-トし、 NADHの酸化に伴う340nmの吸光度の減少を測定した。 酵素活性は〟mol/min/mg proteinで算出した。
【結果及び考察】
まず、酵母のGFAT活性に対するメチル水銀の影響を検討した。酵母 (W303B)を1Ⅹ107/mlになるようにYPAD培地に懸濁し、メチル水銀存在 下で2時間培養した後に細胞抽出液のGFAT活性を測定したところ、 GFAT 活性はメチル水銀によって添加量依存的に阻害され、比較的低濃度の3LLM でほぼ完全に阻害された(Fig.ll-A)。また、上記と同じ条件で24時間培 養した後の酵母の増殖率はメチル水銀3〟M存在下でコントロールの約25% に抑えられ(Fig.ll-B)、メチル水銀による細胞毒性とGFAT活性の阻害に 相関が認められた。このことから、メチル水銀の毒性発現にGFAT活性の 阻害が関与している可能性が考えられる。次に、 GFAT活性に対するメチ ル水銀の影響をjnvjtTOで検討した。先ず、無処理の酵母から細胞抽出液を 得、上記と同様の条件で酵素反応溶液を調製し、これに直接メチル水銀を 加えてこれまでと同様にGFAT活性を測定したところ、メチル水銀の添加 量依存的なGFAT活性の阻害が認められた(Fig.12)。以上の結果から、メ-28-チル水銀毒性の発現にGFAT活性の直接的な阻害が大きく関与していると 考えられ、 GFATがメチル水銀毒性発現の標的分子である可能性も高いと 思われる。 一方、 GFATはヒトにも存在する酵素であるので、 GFAT活性が比較的高 いと報告されている肝由来細胞のHepG2細胞を用いてヒトGFATに対する メチル水銀の影響を検討した。その結果、 HepG2細胞においても、メチル 水銀の添加量に依存した顕著なGFAT活性の阻害が認められた(Fig・13-A)。 また、 HepG2細胞の生存率も同様にメチル水銀の添加量に依存して低下し たが(Fig.13-C)、ここで用いた濃度範囲ではGFAT以外の酵素の一例とし て測定したLDHの活性はメチル水銀によって殆ど阻害されなかった (Fig.13-B)。この結果から、ヒト細胞においてもGFATがメチル水銀の標 的分子である可能性が十分に考えられる。
-29-1 2 3
MeHg(LJM)
1 2 3
MeHg(LJM)
Fig.1 1
GFAT Activity of Yeasts Treated with MeHg
-30-( u ! a l O J d B u J u ! u J ( o u u ) 倉 > ! ) 3 t ! ト V 」 9 l U l b 0 l O 7 L O 2 ( l O J t u O 9 -0 % ) L J P O J 9 0 l U 0
0.5 1 2
MeHg (pM)
Fig.12
Effect of MeHg on GFAT Activity in Yeast Extract
-31-5 4 ( u ! q o J d B u p J ! u J l O u u ) 倉 ^ ! p t 2 ト V 」 9 3 2 1 0 0
0 10 20 30 MeHg(PM) 0 10 20 30 MeHg(PM) 0 10 20 30 MeHg(PM)
Fig.13
GFAT Activity of HopG2 Cells Treated with MeHg
-32-L D (u空○Jd6uJufuJl○∈u) hp葛tFIVLD 4 一 ■ 2 1 0 Q E > 4 2 ( u f a l ○ J d B u J u l u / r O u r J ) A u A t 1 9 e H 凸 1 ○ ( % ) l 空 r -J u n S 〓 0 3 0 5 L n 2
まとめ
これまで、メチル水銀毒性について多くの研究が行なわれてきたにも拘 らず、その毒性発現機構は未だに全く不明である。メチル水銀毒性の発現 機構を解明するためには、まずメチル水銀毒性の細胞内標的因子を明らか にすることが必要と考えられる。本研究では、一般的な薬剤耐性獲得機構 の一つとして細胞内標的分子濃度の上昇が報告されていることに着目して、 酵母ゲノムライブラリー中から酵母にメチル水銀耐性を与える遺伝子を検 索し、その中からメチル水銀毒性の標的となる分子を見出すことを試みた。 その結果、酵母にメチル水銀耐性を与える遺伝子として、 GFAlを得るこ とができた。 GFAlはグルタミンとフルクトースー6-リン酸からグルコサミンー6-リン 酸の生成を触媒する酵素であるL-グルタミン: D-フルクト-スー6-リン酸 アミドトランスフエラーゼ(GFAT)をコードする遺伝子であり、アミノ糖生 合成に重要な役割を果たしていもものと考えられている。 GFAl遺伝子を 導入した酵母のGFAT活性は親株に比べて約5倍高いことから、本酵素の活 性上昇によってメチル水銀の毒性発現が抑制されるものと考えられる。こ のGFAl遺伝子導入酵母はメチル水銀に対して高い耐性を示すものの、塩 化第二水銀、塩化亜鉛、塩化カドミウム及び塩化第二銅に対しては交叉耐 性を示さないことから、 GFATの高発現による耐性獲得がメチル水銀に特異 的な現象である可能性も考えられる。酵母のGFAT活性は比較的低濃度(3 〝M)のメチル水銀によってほぼ完全に阻害され、ヒト由来肝細胞(HepG2) でも酵母の場合と同様にメチル水銀によるGFAT活性の顕著な阻害が観察 されたことから、本酵素はヒトにおいてもメチル水銀毒性発現に関与して いると思われる。このような結果から、本研究においてメチル水銀耐性因 子として単離されたGFATはメチル水銀毒性発現の標的分子である可能性 が考えられる。今後、 GFATを高発現するヒト細胞のメチル水銀に対する 感受性や、メチル水銀の標的器官である神経細胞におけるメチル水銀毒性 とGFAT活性との関係などを詳細に検討することによってメチル水銀毒性 の発現機構解明における重要な手掛かりが得られるものと期待される。-33-参考論文
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-34-TOUR : Tohoku University Repository コメント・シート 本報告書収録の学術雑誌等発表論文は本ファイルに登録しておりません。なお、このうち東北大学 在籍の研究者の論文で、かつ、出版社等から著作権の許諾が得られた論文は、個別にTOUR に登録 しております。 TOUR http://ir.library.tohoku.ac.jp/