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AIビジネス再び : エージェントシミュレーションの世界へ(<特集>ビジネスが創発する人工知能と人工社会)

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1.は じ め に

人工知能の研究は 1956 年に開催されたダートマス会 議から始まるのは皆さんよくご存知のことと思う.そ して,今は 3 回目の AI ブームである.最初のブームは 1960年代初めから 1970 年代初めにかけて起こった.そ こでは,パズルや積木の世界,すなわち,よく定義さ れた一見複雑だが小さな問題が対象であった [Winston 75].このブームは機械翻訳システムの失敗によって終 わった.2 番目のブームは,1980 年代の第五世代コン ピュータプロジェクト [JSAI 14-1] に始まるエキスパー トシステムブームである [Hayes-Roth 83, Winston 84]. そして,2 回の長い冬の時代を経て現在に至る.第 1 期 に AI に憧れ,第 2 期に複数のエキスパートシステムの 研究開発に携わった著者にとって,今の状況は感慨深い ものがある [寺野 02, 寺野 03]. 現在の AI ブームは,ハードウェア,Web,機械学 習,IOT/IOE などの技術進歩によってもたらされている [JSAI 15-1].この進歩は,ほかの社会システムの進歩に 比べると十分に速く,知能の特異点「シンギュラリティ」 が近いという議論もなされている [JSAI 14-2].かつて Lenatは常識を備えた大規模知識ベースを構築しようと 試みた Cyc プロジェクトの中間報告のなかで,さまざ まな AI システムの常識はずれな振舞いについて言及し, Cycプロジェクトの終了時には機械が学習することでこ れが解消され,かつ,Cyc 開発のような膨大な努力は不 要になると主張した [Lenat 89].これは,シンギュラリ ティポイントを超えると知的活動において人間は AI に 追いつけなくなるという昨今の議論と相通ずるものがあ る.しかし,残念ながら,著者は,今回のブームもあ と数年でやはり冷めると信ずる.ビジネスに適用可能な AIを実現する努力はいつの時代にも永遠に続く.高度 な技術の進展とその適用を待つビジネスの世界は膨大で あり,その探索には「銀の弾丸」は存在しないのである から. ただし,今回の AI ブームは,問題解決や知識,機械 学習といった道具立てが主役であったこれまでのビジネ スにおける AI ブーム [JSAI 14-3] とは,決定的に異な る点がある.それは,ビジネスにおけるシミュレーショ ンの役割が,主に自律分散エージェント [JSAI 13-1, Russel 02]の概念によって大きく変わったことである. 従来ならば,ビジネスの世界においては,データを集め 分析的な方法で接近し,そのうえで感と度胸で決めるほ かはなかったさまざまな問題について,とにかくやって みる,すなわち,シミュレーションを使って試行錯誤す るという方法が適用できるようになったのである.本稿 では,このような観点から,ビジネスに対する人工知能 によるアプローチについて述べる. 以下,本稿の構成は次のとおりである.2 章では著者 の考えるビジネス活動の本質とそこでの意思決定のモデ ル化について述べる.3 章では,これに基づいてビジネ スをモデル化するために必要な人工知能の技法について 論ずる.そして,そのために有用なエージェントをモデ ル化する道具立てとして,学習分類子システム(LCS) [Urbanowicz 09, Wilson 95]と Kauffman の NK モデル [Kauffman 87, Kauffman 89]の基本的な考え方を示し, エージェントベースモデルへの適用例を述べる.4 章で は,今後のビジネスにおいてイノベーション(新基軸) を活発化する方法(イノベーション能)について論ずる. 5章では結論と課題を述べる.

2.ビジネスの意思決定とモデル化について

「ビジネス」という言葉を聞くと,顔をしかめる大 学関係の研究者もいまだに多い.しかし,ビジネス= 金儲けではない.「ビジネスは変革の機会への挑戦であ る(B = CCC;Business = Challenge to Chances of

AIビジネス再び

─エージェントシミュレーションの世界へ─

AI Business Revisited

 ─ Why Agent-Based Simulation ─

寺野 隆雄

東京工業大学

Takao Terano Tokyo Institute of Technology.

[email protected], http://www.trn.dis.titech.ac.jp

Keywords:

AI business, expert systems, machine learning, agent-based modeling, learning classifier systems, Kauffman’s NK-model.

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Change)」これは,以前,筑波大学ビジネス科学研究科 に所属していたときに同僚であった椿 広計氏(彼はご自 身のことを「統計家」と称しておられる)の言葉である [椿 14].新しい製品やサービスをつくる,あるいは,仕 事のやり方を変えるという変革の必要性を見極め,その ための機会を探り,実際に挑戦するという一連の作業は, 研究開発にも通じるイノベーションのプロセスと共通で ある.また,これが,自然界を対象とする自然科学にお ける分析中心の研究方法との大きな違いである. この違いについて,吉田民人氏は,次のように主張し ている.「物質エネルギーと法則」という従来の科学の パラダイムに加えて,21 世紀の科学として「記号情報 とプログラム」という「大文字の第二次科学革命」が進 行している.そして,前者を広義の物理科学,後者を広 義の情報科学と呼ぶ.また,科学的な態度を「対象のあ るがままの姿を記述・説明・予測する」ための「認識科学」 と「対象のありたい姿やあるべき姿を設計・説明・評価 する」ための「設計科学」とに分類している [吉田 99]. 一方,コンピュータシミュレーションについて考える と,自然法則のような第一原理の存在しないビジネスの 領域においては,実践することが不可能な対象,あるい は,結果の成否が判明するまでに数年から数百年かかる ような時間軸の長い対象において,何らかのシナリオや 判断基準を与えるという役割が大きい. 従来の離散事象シミュレーションでは,確率変動を伴 うシステムに対して,i)システムの振舞いを模倣する 確率モデルを計算機上につくり出し,ii)そのモデルに 対して思考実験を繰り返し行って,iii)得られた実験結 果を統計的に分析して対象システムの性能を推定すると いう方法が共通にとられる.しかしながら,ビジネスを 対象とする諸問題についてはこのような接近法を適用す ることは難しい.それは,自然現象と異なり,社会現象 には第一原理が存在しないことが理由である.そのため, ビジネスに関わる研究は,事例研究,あるいは(ビッグ) データ分析によってなされることが多い.「シミュレー ションによる予測」を強調する研究においても,シミュ レーション結果が個々の事象において再現することは期 待できず,将来発生し得る事象を適当な条件のもとで説 明しているにすぎない.したがって,あらゆる経済予測 がはずれるように,ビジネスにおけるシミュレーション 研究は正確な予測値を得ることを目的としてはならない のである. ビジネス関連の研究分野においても,金融工学やマー ケティング理論を始めとする,現象を説明するための理 論体系はいくつも存在する.ビジネスのシミュレーショ ンでは,それらの理論や現実の現象と整合する結果を示 すことが重要である.そして,シミュレーションという 手法を使う意義は,ビジネス意思決定において必要とな る判断基準,初期条件や境界条件を明示的に示し,網羅 的な考察や議論の根拠を明らかにすることにある. このような観点からビジネスについて考えると,ま さに,ビジネスの当事者は設計科学に携わっており,し かも,その意思決定において,コンピュータを使うにせ よ使わないにせよ,シミュレーションを常に利用してい ることとなる.このような意思決定は限定合理的である [Simon 82].客観的な正しい意思決定を行おうとしても, 環境情報をすべて得ることはできず,複数の代替案のな かで,複数の目的を満足するような解を求めることで良 しとしなければならない. それでも,最近は,自律分散エージェントを使うベー スモデリング手法の進歩により,ビジネスにおいても, 柔軟かつ複雑な分析が可能となってきている [Gilbert 08, Railsback 11]. エージェントベースモデリングでは,「エージェント」 と呼ぶ,i)内部状態を保持し変更する能力,ii)意思決定・ 問題解決のための能力,ならびに iii)他エージェント との通信能力の三つの機能を備えた複数の主体によるボ トムアップなモデル化を試みる.そしてこのインタラク ションに基づく創発的な現象やシナリオを分析する.そ の特徴は,i)ミクロ的な観点においてエージェントが(個 別の)内部状態をもち,自律的に行動・適応し,情報交 換と問題解決に携わる点,ii)その結果として対象シス テムのマクロ的な性質が創発する点,iii)エージェント とエージェントを囲む環境とがミクロ・マクロリンクを 形成し,互いに影響を及ぼし合いながら,システムの状 態が変化していく点にある [寺野 13]. これを利用することによって,実ビジネスでは実践す ることは難しい,あるいは不可能な事象に対しても,意 思決定において安価かつ安全な代替案の探索が可能とな る.しかし,そのためには,さらに,対象ビジネスの関 与者に対して,シミュレーションのモデルを共有させ, その結果の妥当性を認めさせなければならない.ここで, モデルの理解性・伝達性・正確性といった側面で大きな 問題が生ずる. 現状では,シミュレーションで用い得るエージェント の機能が単純であるがために,シミュレーション結果が リアリティをもたないのが普通である.その一方で,シ ミュレーション結果を説得するためには,「モデルをで きる限り単純にせよ」という KISS(Keep It Simple, Stupid)原理も重要である [Gilbert 08, 計測と制御 13].  以下では,そのために適用可能な,比較的単純ではある が適応性の高い二つの人工知能関連手法について述べる.

3.ビジネスをモデル化するための人工知能の

考え方

ビジネスを対象とするエージェントベースモデルを記 述し実現するためには,人工知能では古典的な記号処理 と学習の手法 [Russel 02] をある程度自由かつ簡便に扱 えることが要請されよう.著者としては,これに環境適

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応能力と通信能力も加えたい.我々はこのような目的で 利用できるアーキテクチャとして,学習分類子システム (Learning Classifier System)と NK 適応度地形モデル (以下,NK モデル)をさまざまな分野のエージェント シミュレーションモデルで使用してきた.どちらも自然 界における,適応進化や酵素反応系といった,生命現象 に範をとった手法である. 学習分類子システムは,Holland によって,遺伝的ア ルゴリズムの黎明期に発表された自動的に適応・学習・ 進化し得るモデルである [Urbanowicz 09].NK モデル は,Kauffman によって提案された,生体分子間の自己 触媒ネットワークを表現するモデルである [Kauffman 89].いずれも,数学的な分析によってその原理を記述 し理解するには手強く,また,反面プログラム化するの は比較的容易なモデルで,エージェントシミュレーショ ンで実装するには手頃である.最近の深層学習モデルと は基本的な考え方が異なる方法であるが,これらを使用 したエージェント研究はあまり見受けられないので以下 ではその概要を紹介する. 3・1 学習分類子システム 学習分類子システムは,意思決定知識として If-Then 形式のルールをもち,この強度を強化学習で変更し,ま た,必要に応じて,遺伝的アルゴリズムを適用してルー ルの生成・進化を行う. 基本的な学習分類子システムでは,プロダクションシ ステムは,0, 1, # を要素としてもつ If-Then ルールの集 合で問題解決知識を表す.例えば,#01101 というルー ルは,センサから,0011 または 1011 というデータが入 力されたときに If 部と照合し,Then 部に記述した 01 という行動を起こすことができる.強化学習は,このルー ルの重みを変更して,より良いルールを学習させていく仕 組みである.遺伝的アルゴリズムでは,良いルールを部分 的に組み替えて知識を進化させる.コントロールはどの ようなタイミングで学習機能を働かせるかを決定する.

XCS(eXtended Classifier System)は,従来の学習 分類子システムを拡張したもので,工学分野を中心に広 く研究開発が行われている [Butz 06, Wilson 95].XCS では , プロダクションルールはビット列で表現された分 類子である.この集合が知識ベースを構成する.XCS は,外部環境からセンサを通じて外部の状態の情報を獲 得し,それと比較して,どの分類子が State に利用可能 かどうかの判定を行う.その際に,XCS は,適用可能 な分類子を適応度(Fitness)の観点から判定し,その 信頼度を計算する.その結果,一つの分類子が選択され, その行動部に記述された値をエフェクタに渡すことで環 境に対して行動を起こす. この行動が良かったか悪かったかは,環境からの報酬 によって評価される.これが XCS のプロダクションシ ステムにおける基本的な動作である.XCS の学習は,強 化学習による分類子の強化 , 分類子の更新の順で行われ る.図 1 には,プロダクションシステムと強化学習の部 分に注目した XCS の構成を示す. 各分類子はルール集合に蓄積されている.ルールには 条件部(if 部,図 1 のルール集合の C),行動部(then 部, 図 1 のルール集合の A),予測報酬(図 1 のルール集合 の p),予測報酬誤差(図 1 のルール集合の e),ルール の適応度(図 1 のルール集合の F)が含まれている.条 件部は,0 か 1, もしくは #(ワイルドカード)の列から なる複数の文字列で表現される.ワイルドカードは汎化 のための構成要素であり 0,1 どちらの値とも照合する ことができることを示す. 予測報酬は,条件部に一致した分類子がアクションを 起こした結果に得られる報酬の予測値である.予測報酬 誤差は,予測報酬がどの程度の誤差を含んでいるかを示 す情報である.適応度は,その分類子の良さを表す値で 予測報酬の効果を重み付けする.手高度は,同時に,遺 伝的アルゴリズムでルールを評価する際にも利用され る.これは行動を決定する際に予測報酬を積算すること によって学習効率を高める仕組みである. センサからの情報(ここでは 0011)が得られるとす べての分類子に対して条件部と状態の照合がなされる. 合致する条件部が存在する分類子で照合集合(Match Set)を形成する.もし,条件に適合する分類子が存在 しない場合は,入力された状態に一致する条件部をもっ た分類子を新たに生成する.照合集合内の分類子行動部 には複数の行動が含むことがある.この中から適当な分 類子を選択するために,すべての分類子を行動部が同一 なものでまとめ, 予測報酬を連ねた予測配列(Prediction Array)を作成する. この予測配列に基づいて行動選択が行われる.通常, 行動を決定するルールの選択には,予測配列の値に比例 する確率値が用いられる.その後,選ばれた行動を行動 部にもつ分類子によって行動集合が形成され,選択され た行動(ここでは 01)が実行されることによって,分 類子の選択と実行が終了する. 分類子の選択と実行が完了した後,最後の行動の行動 価値を求める.そして,行動集合 [A] に含まれる分類子 図 1 学習分類子システム XCS の構成 [Butz 06]

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を予測報酬,予測報酬誤差,適応度を環境から得られる 報酬に基づいて更新する . これによって分類子の評価を 行い,さらに遺伝的アルゴリズムを適用することによっ て新しいより良い分類子を生成する. 我々は,分類子システムを個々のエージェントとし, これを複数用いて,組織モデルを開発してきた.エージェ ント間での知識交換方式や組織化を工夫することで,経 営分野で提案されているさまざまな組織学習モデルをコ ンピュータ上で実現することができる.これらの中に は,組織学習指向型分類子システム OCS(Organized leaning oriented Classifier System)としてプリント 基板の部品配置問題に適用した例 [Takadama 01] や, XOLCSとして,100 万にも及ぶ多数のエージェントか ら構成される学習型推薦システムエンジンの研究も含ま れている [Irvan 13]. 3・2 NK モ デ ル NKモデルは,酵素間の触媒反応ネットワークの生 成や安定性を表現するために考案されたもので,複雑 な化学反応間の関連性を記述するうえで有用とされる [Kauffman 89].このようなモデルは,ビジネス組織に おける構成員のネットワークや意思決定構造の分析にも 適用可能である. NKモデルでは,部分的に相互作用を行う生体分子の 機能セグメントをそれぞれ N 個の整数値で表し,その 数字列を互いに評価する.この各機能セグメントに割り 当てられた整数値は,ほかの K 個の整数値との組合せに よって自らの評価値を決定する.数字列全体の評価値は 各整数値の評価値の平均とする.図 2 に N= 6,K = 1 の場合の数字列,評価の依存関係,整数値の組合せと評 価値との対応,および評価値の計算例を示す.これは, 分子には六つ(N= 6)の機能セグメントがあり,各セ グメントが同じ分子中の別のセグメント一つ(K = 1) から影響を受けて,何らかの反応を行い,評価が得られ るというモデルになっている. 本モデルでは,この整数値の組合せと評価値の対応の 違いによって反応度を定義する.評価の際の整数値の依 存関係の組合せは多様であるが,図 2 では単純化のため 右側の整数値に依存関係をもたせている.整数値の各組 合せに応じた評価値は,0 から 1 の間の実数値でランダ ムに与えられる.K の大きさ,依存関係の組合せ方,お よび整数値の範囲によって問題空間の局所解の数が変化 する.K の値が小さく(整数値間の依存関係が少なく), 整数値の取れる範囲が小さい場合,局所解の数が少ない 単純なランドスケープとなる.逆に,K の値が大きく(整 数値間の依存関係が多く),整数値の範囲が大きい場合, 局所解の数が多い複雑なランドスケープとなる. NKモデルをエージェントの意思決定モデルに利用す る場合は,例えば,エージェントの行動選択を長さ N の整数値の数字列で表現する.各エージェントは,自身 の満足度を向上させるために学習しながら行動を変化さ せる.エージェントの満足度は NK ランドスケープの値 によって決定する.エージェントは,行動を選択する際 に,単純な強化学習の機能を利用して学習を行い,行動 選択の精度を向上させる.現在のところ我々の研究では エージェントは,各個別の学習,および他エージェント の行動の模倣という 2 種類から構成されている. NKモデルの適用例を示す.我々は,組織における不 祥事と改善活動の関連に注目してきた.この研究では, 企業組織における不祥事と改善活動は,ともにルーチン 化している作業プロセスのルールを破ることによって始 まるとの仮説に基づいてエージェントシミュレーション モデルを作成した.そして,エージェントや企業組織, 社会のもつ規範あるいは効用関数の形状を NK モデルの ランドスケープによって定めた.これによって,既定の 規範から逸れるという点で,不祥事と改善活動を統一的 に表現し,実際に発生した複数の事例を説明することが 可能となった [小林 11]. 我々の他の研究例としては,観光サービスにおける サービス提供者・受益者の関連性の分析 [Rajapakse 11], 組織の意思決定行動と組織行動の関連性の分析などが存 在する.通常のエージェントモデルでは,単純になりが ちな,エージェント意思決定構造のランドスケープをパ ラメータしだいで自由に設定できることが大きな魅力で ある.

4.ビジネスをインテリジェント化するために

最近の本誌の特集において,イノベーションと AI 研 究に関する優れた解説が掲載されている [JSAI 15-2]. これらの実ビジネスと学術とを結ぶための議論におい ても,やはり,前章に述べたような,生物界に範を置 くような自律分散エージェントの考え方 [Brownlee 12] は重要な役割を果たすと考えている.以下 Arthur や Axelrod,Wagner などの議論に基づいて,生物の進化・ 複雑適応系の性質と,ビジネスにおけるイノベーショ 図 2 NK 適応度地形モデル

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ンとの類似性について説明し,今後のビジネスにおける AI活用においてイノベーション(新基軸)を活発化す る方法(イノベーション能)について論ずる. Arthur [Arthur 09]は,進化型の経済モデルを考察す るために学習分類子システムを利用し,さまざまな知見 を得ている.その結果に基づき,テクノロジーとイノ ベーションを推進する原理としての進化システムの重要 性を指摘している.Axelrod と Cohen [Axelrod 99] は Harnessing Complexityという魅力的な小論の中で,複 雑適応系を神のような観点から制御することは不可能で あり,より穏やかな Harness という概念で考察するこ とを主張している.さらに,Harness を操作的に理解す るうえで,生命系に学ぶことの重要性を論じている.そ して,生命のもつ,多少の誤りを含んだ親個体からの遺 伝子の複写の機能,両親から形質の一部を受け継ぐ再組 合せの機能,そして,環境条件に従って存在する個体を 選別する評価機能の三つがその本質であることを述べて いる.さらに,この三つの仕組みによって,自律的に社 会が変化し成長していく重要性を指摘する. Wagner [Wagner 14]は,酵素反応系のネットワーク の機能がいかに獲得されたかに関する議論に基づいて, 自然の新機軸と技術革新のよく似た性質に注目し,同じ ような問題には必ず複数の解があること,古いものを組 み合わせて新しいものをつくることの重要性を主張して いる. AIを含む新しい技術をビジネスへ適用するうえでは, 資源制約から,選択と集中のパラダイムを採用しがちで ある.しかし,2 番目の人工知能の冬の期間─失われた 20年間─においては,ビジネス意思決定者は,近視眼 的にこのパラダイムにしがみ付いたがために,多くの組 織で多様性と活力が失われることとなった. ビジネスをシステムとして合理的に考える必要性は いうまでもない.しかしながら,システム技術が,最も 成功を収めたといわれるアポロ計画のような大きなプ ロジェクトでも,選択と集中を繰り返した結果,「ほか を捨てる」必要から,1970 年代の米国の技術的な衰退 を招くこととなった.我が国でも,1980 年代の第五世 代コンピュータ計画がぱっとしなかったせいで,2 回目 の AI ブームが終焉している.しかし,その一方で,第 五世代コンピュータを担った(当時の)若手研究者が過 度の集中と選択の淘汰を受けなかったからこそ,今日 の AI ブームが存在するような気がしてならない.1990 年代初めの研究を深めていたらどうなったかという議論 を,最近の深層学習のブームの中で,聞くことが多いに もかかわらずである.

5.お わ り に

本稿では,今日の 3 回目の AI ブームが終了した後で も──そのときには,その技術を AI とは呼ばないかも しれないが──,新しい技術や概念をビジネスに適用し ていくためにとるべき,著者の基本的な立場について述 べた.このアイディアがエージェントベースモデリング とシミュレーションに基づいていること,ならびに,本 稿で紹介した手法を含めて,ビジネスへの適用が有効と 思われる AI の接近法が自然界の生命現象に類似してい ることを認識していただければ幸いである. 生命現象と AI 手法のビジネス適用が,イノベーショ ンの在り方に深く関わっていることは偶然ではない.イ ノベーションを推進する能力は,結局は,自然界の生命 現象にもともと備わっており,下手に人為的な「選択と 集中」では,コントロールできない.過去の生命の歴史 を見てもわかるとおり下手な選択と評価によって多様性 が失われた世界はまたたく間に衰えていく.我々が携わ るビジネスも,また,我々の生きる社会も全く同じ原則 からなる生態系を成しているのであるから,常に,変革 の機会への挑戦を続けていくことは重要である. 謝 辞 本 稿 の 一 部 は, 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究(A) 25240048の支援を受けた.感謝の意を表する.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Arthur 09] Arthur, W. B.: The Nature of Technology─ What It Is

and How It Evolves─,Free Press(2009);有賀裕二 訳:テ クノロジーとイノベーション─進化/生成の理論─,みすず書 房(2011)

[Axelrod 99] Axelrod, R. and Cohen, M. D.: Harnessing

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[Brownlee 12] Brownlee, J.: Clever Algorithms: Nature-Inspired

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[Butz 06] Butz, M. V.: Rule-Based Evolutionary Online Learning

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Springer Verlag(2006)

[Gilbert 08] Gilbert, N.: Agent-Based Models, Sage Publication (2008)

[Hayes-Roth 83] Hayes-Roth, F., Waterman, D. A. and Lenat, D. B.(eds.): Building Expert Systems, Addison-Wesley(1983); AIUEO訳:エキスパート・システム,産業図書(1979)) [Irvan 13] Irvan, M., Yamada, T. and Terano, T.: Influence of

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[JSAI 13-1] 人工知能学会誌:特集「エージェント」,Vol. 28, No. 3, pp. 358-471(2013) [JSAI 14-1] 人工知能:特集「第五世代コンピュータと人工知能の 未来」,Vol. 29, No. 2, pp. 114-165(2014) [JSAI 14-2] 人工知能:特集「汎用人工知能への招待」,Vol. 29, No. 3, pp. 226-267(2014) [JSAI 14-3] 人工知能:特集「企業における AI 研究の最前線」, Vol. 29, No. 5, pp. 410-479(2014)

[JSAI 15-1] 人工知能:特集「データ中心科学」,Vol. 30, No. 2, pp. 207-246(2015)

[JSAI 15-2] 人工知能:特集「イノベーションと AI 研究」,Vol. 30, No. 3, pp. 295-357(2015)

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Biology, Vol. 178, No. 1, pp. 11-45, doi:10.1016/s0022-5193(87) 80029-2(1987)

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Business─ The Commercial Uses of Artificial Intelligence ─, MIT Press(1984) [吉田 99] 吉田民人:21 世紀の科学─大文字の科学革命─,組織科 学,Vol.32, No. 3, pp. 4-26(1999) 2015年 6 月 5 日 受理

著 者 紹 介

寺野 隆雄(正会員) 1978年東京大学大学院工学系研究科情報工学修士 課程修了.1978 ∼ 89 年電力中央研究疎勤務.1990 ∼ 2004 年筑波大学大学院経営システム科学専攻. 2004年より東京工業大学大学院総合理工学研究科知 能システム科学専攻教授.工学博士.社会シミュレー ション,サービス科学,知識システムなどに興味を もつ.経営情報学会,社会情報学会,情報処理学会, 計測自動制御学会,日本 OR 学会,プロジェクトマネジメント学会,進 化経済学会,日本シミュレーション & ゲーミング学会,横断型基幹科学 技術研究団体連合などの理事,学会誌・論文誌編集委員(長),研究会主 査を歴任.ACM,IEEE 各会員,PAAA 代表.

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