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菌に優しいものづくり

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Academic year: 2021

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596 生物工学 第96巻 第10号(2018) 著者紹介 石川県立大学生物資源工学研究所(講師) E-mail: [email protected] 菌を用いたものづくり,いわゆる微生物発酵法は,基 本的に酵素反応を利用するため,光学特異性,官能基特 異性に優れ,環境に優しく,古くより研究されてきたテ クノロジーである.化学合成法では難しい化合物は,微 生物発酵法で生産されることが多々あり,これまでに, 主として,一次代謝産物であるアルコール,有機酸,ア ミノ酸が微生物発酵法で生産されてきた.近年では,強 い生理活性を持ち,実際に医薬,創薬研究に役立つ多く の二次代謝産物についても,生合成経路が続々と判明し てきており,管理,培養が容易な微生物を用いた発酵生 産が可能になってきた. プラスミドベクターを用いた遺伝子導入は,強力な遺 伝子工学的ツールであり,さまざまな微生物発酵法に用 いられている.一方で,プラスミドの存在が菌体に負荷 をかけるという点で問題も多い.たとえば,物質生産に 広く用いられているDuetベクターを大腸菌BL21(DE3) 株に導入し,発現誘導させるための化合物であるIPTG による発現誘導を行うだけで,何の遺伝子もクローニン グしていないにも関わらず,菌の細胞膜に形態異常が生 じ,菌は死んでしまう1).こうしたネクローシスが,物 質生産の効率に多大な影響を及ぼすことは容易に想像で きるであろう.そのため,遺伝子発現の菌に対する負荷 を軽減することが,生産量向上に役立つと考えられてい る.この点は,導入する遺伝子の数の多い二次代謝産物 の生産においては特に考慮すべき点である.抗菌作用を 持つ青色色素ビオラセインは,5つの酵素遺伝子を導入 することによりトリプトファンから生産される.このビ オラセイン合成系においては,弱いプロモーターの組合 せにより,強いプロモーターのみを組み合わせた場合に 比べ,およそ240倍もの生産量改善が見られた2).つまり, 酵素遺伝子をとにかく多量に発現させるのではなく,発 現量と菌に対する負荷のバランスを考慮することが,生 産能向上に役立つことが示唆された.プロモーターを弱 くする以外にも,プラスミドのコピー数を減らしたり, リボソーム結合配列を変えてその結合を弱めたりする方 法も有効であることが示されている. プラスミド由来の発現を調整する以外にも,プラスミ ドによる菌体への負荷を低減させる試みがなされてい る.今のところ機序は明らかになっていないが,一般に プラスミドを持つ菌は,酸素呼吸が弱まることによりエ ネルギー産生が低減してしまうと考えられている.そこ で,酸素運搬タンパク質であるヘモグロビンを導入すれ ば,菌体内酸素量が増え,生産能が向上すると考えられ た.グラム陰性であるビトレシオラ属細菌の一種はバク テリアとしては珍しく,ヘモグロビンを有している.こ のヘモグロビンを微生物に導入すると,予想通り,呼吸 活性が上がり,生育が改善した.実際に,タンパク質生 産,エタノール生産,抗生物質生産などにおいて,高生 産の実現が報告されている3).酸素吸収能を向上させる というアプローチは,今後,菌を用いたものづくりにお いて広く用いられると考えられる. 上述のプラスミド由来の菌に対する負荷に加えて,考 えなければならないのが,中間代謝産物の毒性である. 毒性のある中間代謝産物の蓄積は,菌に負担をかけ,結 果,生産量の低下を引き起こす.バイオディーゼル燃料 生産は,エタノールとアシルCoAを融合する反応を介 して行われるが,中間代謝産物のエタノールは,当然, 菌にとっては有害である.しかし,エタノール生成はア シルCoAの生成より効率がよく,エタノールが過剰に 蓄積してしまう.そこで,Keaslingらは,アシルCoA が十分量蓄積するまで,エタノールの生産を止め,ある 程度アシルCoAが蓄積してからエタノール生産をON にするというバイオセンサーを開発した4).具体的には アシルCoA応答リプレッサーFadRとそれに鋭敏に応答 する人工プロモーターを用いて,エタノール生産遺伝子 を制御したのである.このバイオセンサーの利用により, 4倍以上のバイオディーゼル燃料生産に成功している. 古くより研究されてきた単純な化合物の生合成工学で は問題にならなかったことが,今後,さまざまな化合物 に用いられるであろう多段反応系構築では,非常にクリ ティカルな問題になることが示されている.現在のとこ ろ,複数の反応ステップを必要とする化合物の生産は, 少量でもまずは作ればいいという研究が多いが,今後, 実用化を目指した場合,さまざまな菌に優しい手法が重 要になってくると考えられる.

1) Dvorak, P. et al.: Microb. Cell Fact., 14, 201 (2015). 2) Jones, J. A. et al.: Sci. Rep., 5, 11301 (2015). 3) Stark, B. C. et al.: Biotechnol. Lett., 33, 1705 (2011). 4) Zhang, F. et al.: Nat. Biotechnol., 30, 354 (2012).

菌に優しいものづくり

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参考文献 1)Fab Girl Project, http://www.dlab.ise.shibaura-it.ac.jp/ fabgirl/index.html 2)FabLab,https://www.fablabs.io/ 3)

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