はじめに
この『可換環論の勘どころ』は,著者がこれまでに学んできた 経験の中から「可換環論ではこれが勘どころだよ」と考えるとこ ろを,後から来る人々に伝えるために書かれている.学部 3・4 年 次で可換環論の基本を学ぶ/教えるための参考書/教科書でもある. 本書末尾に挙げた参考文献の中で,[1] は歴史的な良書であり,今 日でも高い評価を保っているが,国内の普通の大学の学部 3・4 年 次カリキュラムでこの本を教科書として使うには,いささか勇気が いる.本書はむやみに高級な議論は避け,到達目標は明確して要点 を述べ,高校までに学んできてよく知っていることにも証明を付け ながら,この学問「可換環論」を発展的に学ぶために丁寧な助言を している.まっさらな状態の人にも(そして,まっさらな人にはな おさら)最適の入門書であると自負するものである. [1] を読み終えた後に [2] に進み,[3] で知識と技術の不足分を補 うというのが,標準的な研究者への途である.高級な専門書でよけ れば,[5, 8] などの他にも優れた書物が既にかなりたくさん出版さ れているが,[1] と [2] の間には,homology 代数学の知識と Cohen-Macaulay 環や Gorenstein 環あるいは正準加群の理論という,か なり深く広い谷間が横たわる.ついでに説明しておくと,[4] は [1] を読了した方がこの谷間を乗り越えるためのシェルパとして書かれvi はじめに ている.学部 4 年次・大学院 M1 のセミナー教材としては適当か もしれない.そして,[1] はとても素敵な本であるが,[1] に入ると きに出会う,実際にはかなり高い敷居を乗り越えさせてくれるガイ ドがいない.本書の役割はこの案内役を果たすことにある. 本書の執筆にあたっては,著者の友人であり学問上の大切な仲間 である松岡直之氏と谷口直樹氏から,助言のみならず具体的な執筆 上でも多大な援助をいただいた.また,共立出版編集部三浦拓馬氏 の辛抱強い助言なしにも,本書が日の目を見ることはなかったと思 われる.末尾になったが,これらの方々に対し深い謝意を表するも のである. 2017 年 7 月 後藤四郎