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芸術療法における感触を介しての作り手と素材の相互作用 -粘土を用いた素材体験のプロセス分析を通して- [ PDF

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Academic year: 2021

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芸術療法における感触を介しての作り手と素材の相互作用

―粘土を用いた素材体験のプロセス分析を通して―

キーワード:芸術療法,感触,素材体験,粘土,プロセス分析 人間共生システム専攻 渡邉 綾 問題 1.作り手と素材 芸術療法では,セラピストとクライエントの間に素材が 存在する。その場合,クライエントは素材を扱う作り手で もある。作り手と素材の間にはどのような相互作用が生ま れ,作り手はどのような体験をしているのだろうか。 2.芸術療法における素材体験 芸術療法では,創作の材料として,様々な種類の紙,粘 土,木,砂など素材を用いるものが多くあり,作品を作る ことも多い。しかし,栗本・高尾(2010)は「作品表現過 程の前の段階である素材体験やイメージ体験の相互作用の 中で」,「作品表現が伴わず,言語的に意識化しなくても自 然治癒力が発生する可能性もある」ことを指摘している。 また,中井(1976)は,芸術療法について,「因果関係の陳 述を必要としないことも治療上有益な点」だと述べている。 したがって,芸術療法では,素材の体験が重要な意味を持 ち,作品が作られたとしても,それのみを分析したり治療 に活かしたりするわけではないということが言える。 また,素材を用いる際の注意点として,中井(1976)は 「押しつけがましさ,強制が実を結ばない」ことを指摘し ているが,「慎重さを以てしても避け得ない直接の危険性は まずないと思う」とも述べている。 3.“触れる”ことについて 素材を用いる場合,作り手は素材に直接触れる。 ものに触れる,つまり手で触れて知覚するという行為は, 触覚と言われ,人間の五感の1 つである。触覚は他と違っ て特殊な受容器を持たず,触覚以外の感覚は外界の物理的 な特性をそのまま知覚するのに対し,触覚は触れたことに よる自分の皮膚の変化という「自分の状態を検知」して「情 報を創り出している」感覚(山口,2006)と言える。した がって,同じものに触れても,「その感じ方は人によって違 い,その知覚も人によって微妙に異な」り(山口,2006), 触覚は特にその人の感じ方が表れる感覚だと考えられる。 4.芸術療法における感触 先行研究で,芸術療法における感触の重要な意味につい て言及されることがしばしばある。 例えば,箱庭制作において,「触覚を媒介することで,よ り『イメージ通りである』と感じ」る(片畑,2003)こと や,「砂への接触が[安心]に至」る(上田,2012)こと,ま た,粘土制作においては,「触覚という身体感覚を通して, 感じられる粘土の抵抗,反発は,作り手に自分自身の身体 の存在を感じさせる」(平井,2010)こと,自分の手で粘土 を扱うことで「『遊びの感覚』が引き起こされ,適度の治療 的退行が促される」(内藤,中井,1995)ことが述べられて いる。さらに,フィンガーペインティングでは,「指に絵具 を持つ柔らかくてぬめりのある質感に伴う心地よい皮膚感 覚により,大人は退行に向かいやす」く,「自己の幼児性を 表出できる」(林,2011)とされている。調査研究では,粘 土と木の素材を,被験者が目隠しをして触れて印象を語る と,目隠し無しよりも言語数が増え,「触覚による印象はよ りイメージを広げやすく,身体感覚を通して,素材が心身 に影響を与えている」(栗本,高尾,2010)との報告がある。 しかし,これらのように,芸術療法において,素材に触 れることによる影響や重要な意味は指摘されているものの, 実践や経験からの考察や主題ではない場合が多い。また, 主題として調査を行った場合でも,作品やインタビュー内 容のみが対象となっている場合が多い。素材に触れた感じ やそれが自身にどう影響したか,触れた本人は言葉にしづ らい面があると考えられるため,「触れる」ことや「感触」 に焦点を当てる場合,その方法として素材に触れた者の語 りのみを対象とするのではなく,例えば行動や触れる過程 などにも着目する必要性があると考えられる。 5.「触覚」と「感触」 ここで,用語について整理しておく。先行研究では「触 覚」と「感触」のどちらの用語も使われ,特に定義されて いない。本研究では,物理的な感覚よりも“触れたときの 感じ”に焦点を当てたいので,「感触」という用語を用い, 定義は「外界の刺激に触れて感ずること」とする。 6.粘土について 芸術療法で扱われる素材には様々なものがあるが,本研 究では視覚よりも触覚の刺激が大きいものが適切と考え, 粘土を取り上げる。中川(2005)によると,「粘土は造形素

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材の中でもっとも触覚的」とされている。また,粘土は変 形を伴うため触れる時間も長く触れ方のバリエーションも 多いと予想される。 目的 芸術療法における,感触を介しての作り手の素材体験の 中で,作り手はどのような体験をしており,素材との相互 作用と言えるものはどのようなものがあるのか,体験プロ セスに着目しながら探索的に検討することとする。 方法 1.調査 (1)対象 調査者と初対面の大学生・大学院生10 名(男性 6 名,女 性4 名,平均年齢 21.6 歳)を対象とした。 (2)時期 2013 年 10 月,11 月に実施した。 (3)データ収集に用いたもの 調査には油粘土(ベージュ色)と粘土板を用い,インタ ビューの際に映像を見るときにはパソコンを使った。 (4)手続き 流れとしては,最初に調査について同意を得た後,粘土 遊びを15 分程度行ってもらい,その後半構造化面接を行っ た。粘土遊びの際の教示は「この粘土で遊んでみてくださ い。15 分くらい経ったところで終わりの合図をします。何 か作品を作ってもいいし,作らなくてもいいです。」とした。 半構造化面接の質問内容は,①感想②最初から順に,生じ た気持ちや考え③前後の気持ちの変化④その他とした(① と②は上田,2012 より)。②では,順を追って話しやすい よう,粘土遊びの手元の映像を見せながら行った。 2.分析方法 行動解析ソフトELAN を用いて,粘土遊びの手元の動画 を見ながら,調査協力者の粘土の触れ方を分析した(表1)。 調査協力者が粘土に触れた瞬間を始まりとし,終了の合図 によって粘土から手を離した瞬間を終わりとして,その時 間の間の行動がどの分類に当てはまるかをタグ付けしてい った(例:00:15.1~00:17.2 触れている/両手/指先)。 なお,最小単位は0.1 秒 とした。 その分析結果とイン タビュー内容,調査者か ら見た印象を総合して 考察を行った。 結果と考察 1.調査協力者の概要 調査協力者の概要を表2 に示す。また,調査協力者につ いて,便宜上これ以降「作り手」と記述する。 10 人中 8 人が作品を作っており,作品を強制しなくても, 15 分という時間があると作品を作る人が多いことがわかっ た。また,その作品は完成しているものが多く,15 分とい う時間は短すぎたわけではなかったことがうかがえた。 2.インタビューの概要 粘土の感触について,9 名が粘土の「硬さ」に言及してお り,さらに「意外に」「思ったより」という言葉が付け加わ っている場合が多かった。粘土を柔らかくしようとこねた 作り手や,変形が「思い通りにいった」と述べた作り手が いたことから,おそらく次第に柔らかくなっていったはず だが,それについて言語化されることはあまりなかった。 また,調査者が行為について詳しく尋ねても「無意識」「な んとなく」といった言葉で説明されることが多くあった。 はっきりとした意思を持って粘土を扱うことは少なく,い ざそのときの感じを言語化しようとしてもなかなか難しか ったと推察される。したがって,そのときの体験を作り手 の語りのみで読み取るのには限界があると考えられた。 3.行動分析 各作り手の触れている時間を表3,どの手を使っていたか の時間を表4 に示す。ただし,作り手 F,H については, 手元の動作がカメラのフレームから外れてしまうことが多 かったため,対象から外した。 表3,4 から,作業時間の間ほぼ粘土に触れており,両手 で触れる時間が一番長いことがわかった。素材としての粘 土は作り手にとって触れやすいものであり,言い換えると 触れることを強制する側面も強いと考えられる。 作り手 全体の時間 触れている 触れていない A 913.8 908.4(99%) 5.6(1%) B 934.2 928.1(99%) 6.1(1%) C 943.5 895.7(95%) 47.8(5%) D 885.3 874.5(99%) 10.8(1%) E 878.0 861.8(98%) 16.2(2%) G 867.3 847.1(98%) 20.2(2%) I 914.0 909.8(99.5%) 4.2(0.5%) J 947.4 935.1(99%) 12.3(1%) 表3.粘土に触れている時間(秒(割合)) 作り手 右手のみ 左手のみ 両手 A 37.3(4%) 5.6(1%) 865.6(95%) B 35.5(4%) 30.5(3%) 862.1(93%) C 133.9(15%) 124.7(14%) 637.1(71%) D 55.0(6%) 77.4(9%) 742.1(85%) E 57.2(7%) 65.9(8%) 738.7(85%) G 106.6(13%) 40.5(5%) 700.0(82%) I 37.2(4%) 55.1(6%) 817.5(90%) J 57.4(6%) 54.4(6%) 823.3(88%) 表4.使っている手についての時間(秒(割合))

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4.各作り手の体験について ここで作り手一人一人の体験について考察していく。こ こでは4 名の作り手について述べる。 (1)作り手A:流れが見られた作り手 図1.作り手A の 30 秒ごとの使った手の箇所の割合 作り手A は,タグ数が一番少なく,比較的手元の動作が 遅かった。流れとしては,4(1:30~2:00)で 2 つにちぎっ たあと,片方を右手の「手の平」で粘土板に押し付けて広 げる作業があり,そのように広げたことから作るものを決 めている。「手の平」での作業は「なんとなく」で行われた が,なんとなくでも触れて粘土を変形させてみるという行 為は,粘土がどんなものかを知り,どう扱えばどう変わる かを感じられるものであったと思われる。また,作り手 A は指先→指→手全体という流れがあり,いきなり「手全体」 で何かを行うことはなかった。自分と粘土との距離をあま り近づけないようにしていたのではないかと考えられる。 (2)作り手C:指先を多用した作り手 図2.作り手 C の 30 秒ごとの使った手の箇所の割合 作り手C はタグの数が 1 番多く,一つ一つの行為のスピ ードが速かった。また,「触れていない」時間と「指先」の 使用も一番多かった。その様子は,粘土に触れては離し, の繰り返しで,じっくりとは粘土に触れられなかったよう であった。しかし,粘土遊びは「想像力が湧いてくる感じ が楽しかった」と述べている。流れとしては,「硬さ」を感 じた後,粘土を分けずに,事前に決めていたものをすぐに 作り始め,最初に「手全体」で粘土を伸ばす様子が見られ たが,後はほぼ細かな作業であった。21(10:00~10:30) から,粘土の様子からイメージして作ったものが2 種類あ り,それは「楽しさ」を感じる思いがけない体験であった と言える。ただし,それは「指先」で行うような細かな作 業においてであり,作り手C にとって粘土との距離を近づ けないことが重要だったのではないかと考えられる。 (3)作り手E:手全体を多用した作り手 図3.作り手 E の 30 秒ごとの使った手の箇所の割合 作り手E は「手全体」の使用が一番多かった。ただ,様 子としてはてきぱきと言った感じで,じっくり触れていた わけではないが,それを踏まえても比較的粘土との距離は 近かったのではないかと考えられる。インタビューの中で も「愛着」「愛しい」「楽しかった」の言葉があったことか らも,その近さはうかがえる。流れとしては,5(2:00~2:30) までで顔,それから16(7:30~8:00)までで胴を作り,17 (8:00~8:30)~19(9:00~9:30)でそれらをくっつけ, それから仕上げであった。触れ方としては全体的に変わら ずに安定していたように読み取れる。 (4)作り手J:力強くこねた作り手 図4.作り手 J の 30 秒ごとの使った手の箇所の割合 作り手J は,「柔らかくしてやろう」と思ったと述べた通 り,力強さが印象的であった。終始「硬さ」に向き合い,「指 先」の使用がなく,「手の平」の割合が作り手の中で一番多 かった。流れとしては,最初の6(2:30~3:00)までは粘土 をちぎって丸める作業を繰り返し,7(3:00~3:30)~10 (4:30~5:00)でその球を 1 つに合わせ,それを元の塊に くっつけて塊を柔らくしていく作業が最後まで続く。その 様子から,粘土との距離は近かったと言えるが,その近さ

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は対峙していたからであるように思われる。自分のイメー ジする柔らかさに近づけようとする意志が強く,また,そ れに抗う粘土の硬さも大いに感じていたと考えられる。 (5)その他 他の作り手も同様に考察を行った。他には「指」の使用 が多い作り手や,徐々に触れる面積が減っていった作り手 などがいた。行動分析によって,各作り手がどのように粘 土との距離を模索していったのかがわかった。 5.総合考察 (1)粘土の特質 本調査では素材として油粘土を使用したが,粘土ならで はの部分も大いにあった。 まず,粘土という素材は作り手にとって自由度が高く, 触れやすさが特徴的であった。一方で,それは触れること を強制していたということも意味する。何を作ろう,こう しようと意識下ではっきり考えていなくても触れることが でき,何かしらの変形をすることが可能である。 次に,粘土は手先の作業が主で,一つ一つの行為のスピ ードが速かった。したがって,もし作り手が動きを止めた り,ゆっくり触れたりすれば,それはかなりその作り手の 特徴を表しており,重要な意味を持つと考えられる。 その他,痕跡が残りやすいというのも粘土の特徴である。 粘土は少し触れれば自分の痕が粘土に残る。本調査の中で も,表面を滑らかにしたり,「ひび」や「線」を消したりと いった自分の痕跡を消す行為が見られた。自分の痕がつく ことが触覚的に実感をともない,なおかつ目で見てわかる のは粘土ならではと言える。 また,本調査では油粘土を用いたことで,作り手が感じ た「意外な硬さ」をどうしていくかがテーマになることが 多かった。イメージとは違う「硬さ」とそのまま対峙する か,扱いやすい大きさに分割するか,そのままにしておく か。粘土の「硬さ」との向き合い方が重要な意味を持った と考えられる。 (2)感触を介しての作り手と素材の相互作用 芸術療法において,作り手は感触を介しながら素材とど う関わり,その場ではどのような相互作用が起こったのか。 まず,作り手は対象としての素材との心地よい距離を触 れながら模索し,自身のイメージとのすり合わせを行って いたと考えられる。素材との距離の取り方に関して,本調 査では触れる面積を徐々に広げていったり,一定の触れ方 で安定させたり,最初にぐっと触れて確かめる作業をした りと様々であったが,はっきりとは意識していない行動の 面でその様子が見られた。最初の視覚の情報から,触れて 感触を確かめる中で,最初は自身のイメージとは違ったり, 思い通りにいかなかったりするが,だんだんと自分の触れ 方のパターンが無意識化で定着していく。そうして,素材 が徐々に手になじみ,どうすれば素材がどう反応し,自身 の心地よさにつなげていけるかがわかっていく。そのよう な,対象としての素材を理解していく過程があるから安心 感や緊張の緩和,楽しさが生まれるのではないだろうか。 次に,作り手は素材に触れる中で,素材との境界が曖昧 となって一体化する瞬間があったと考えられる。前述した 内容は素材との相互作用と言えるが,一体化というとそれ とは矛盾しているように感じられる。しかし,対象として の素材と,自分と素材が一体化するという両方あることが 素材を用いた療法の特徴なのではないかと考えられる。素 材に触れる瞬間,作り手は,触れている自分自身を感じる とともに,素材とも自身ともとれる,あるいはどちらかわ からないような境界が曖昧になる感じも持つのではないか。 例えば,それは作り手が語った「無意識」や「なんとなく」 の部分に表れていると思われる。自分の行動であるのに説 明しきれなかったり,よく覚えていなかったりする場合, そのとき作り手は素材とはっきりと分けられない状態で, そこで生まれた行為や作品は,作り手が対象化するのは難 しいようなものと言えるのではないだろうか。そのような 瞬間が先行研究で言われる「退行」と関係しているのでは ないかと考えられる。 これらのことから,感触を介しながら,作り手は素材と の心地よい距離を測りつつ,ときには一体化する瞬間も感 じながら,主に無意識のレベルで素材と向き合っていると 言えるのではないかと考えられる。 6.展望 今後,他の素材の特徴や特質を確かめること,見守り手 としてのセラピストの関係も考慮に入れること,作品が作 られた場合,どのような過程を経て何を表現したのかとい うことも考察していく必要性があると考えられる。 主要引用文献 栗本美百合・高尾浩幸(2010)造形活動における治療機序 ―素材体験とイメージ体験過程について― 『人間科学 研究』文教大学人間科学部 第32 号 中川織江(2005)粘土遊びの心理学―ヒトがつくる,チン パンジーがこねる― 風間書房 中井久夫(1976)“芸術療法”の有益性と要注意点 芸術療 法7,73-79 上田勝久(2012)箱庭制作のプロセス 不安のワークスル ーをめぐって 心理臨床学研究 第30 巻 第 5 号 p.736~746 山口創(2006)皮膚感覚の不思議―「皮膚」と「心」の身 体心理学― 講談社

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