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最優秀賞

高校生を対象にした読譜能力向上のための効果的な指導法について

長崎県立長崎明誠高等学校 教諭 浅 井 隆 1 はじめに 以前,様々な幸運や機会に恵まれて,数度イタリアを訪問したことがある。そのうち一度はアパー トを借りてしばらく滞在したのだが,音楽レッスンや語学学習の他,幅広い交友関係を持ったことで, ずいぶん充実した生活を送ることができた。現地で知り合った友人の自宅へ招かれた際,特別に音楽 の勉強をされたとは感じられない彼の母親と妹が,歓迎の曲や歓談中の雰囲気を盛り上げるための音 楽を即興で披露してくれた。彼と私がピアノの争奪戦を繰り広げたこともあってか,その場の雰囲気 は非常に温かく,和やかな笑みに満ちたものであった。言葉以上の交流が楽しめたと思う。この自然 な雰囲気や生活に溶け込んだ音楽の在り方が,これからの私たちの生活にも求められるのではないか と考えている。 昨今,若手音楽家たちの活躍が華々しく,海内外のコンクールでも入賞者を数多く輩出している我 が国は,音楽先進国とまで言われるようになった。しかし,身近な生活空間においては「演奏を楽し む」ということが,はたしてどれほど日常生活に溶け込んでいるか疑問だ。家族団欒の手段のひとつ としてホームコンサートが家庭に浸透することを期待し,学校教育の可能性を探り続けている。 2 研究抄録 読譜能力向上の指導には,主に楽譜の捉え方そのものを工夫する方法と楽器を利用する方法が考え られる。この二つがうまく機能した時にリズム感と音程感が習得され,読譜能力は飛躍的に向上する。 楽譜はグローバルに考えると,数字譜,ギターなどのタブ譜,民俗音楽などに用いられる文字譜な ど多種多様であるが,この研究では最も普及している五線譜を用いることとする。五線譜は横軸に時 間の経過,縦軸には音の高さが記された非常に合理的な楽譜である。楽譜の捉え方そのものの工夫と は,音符の種類ではなく,楽譜中の音符が記されている場所(横軸方向)に着目し,リズム感の習得 を狙ったものである。また,楽器を利用する方法は,主に鍵盤楽器を用い,鳴る音の予想をさせるこ とと和音の指導を行うことで,音程感(縦軸方向)を養おうとするものである。 この研究は平成11年度から開始し,ピアノやソルフェージュなどの特別な講座だけではなく,音 楽Ⅰのような必修授業内においても,十分に指導効果を確認することができた。 3 研究の概要 (1)問題の所在及び主題設定の理由 16年前,私が初めて教師として対馬に赴任した時から比べると,現在は音楽がたいへん身 近な存在になり,文部科学省が長年求めてきた「情操教育としての音楽」はほぼ軌道に乗った 感がある。これは多くの先生方が情熱を傾けられた指導の賜物であり,ポータブルCD・MD などの普及,カラオケの大衆化,映画・テレビにおける音楽の地位の確立など,喜ばしい音の 氾濫が追い風を送り続けた結果,これらの事象も相乗的な効果を生んだと考えられる。 しかし,授業に目を向けると,楽譜を全く読めない生徒達が溢れており,演奏されたものを 聞かないと音楽や楽譜を把握できないという理由で,読譜に全く取り組もうとしない「音符諦 め症候群」が蔓延しているのも事実なのである。音楽の授業は三つの要素「表現」「創作」「鑑 賞」で成り立っているが,楽譜が読めないということは他人の作品を自力で演奏できない(感 じることができない)ということであり,この三要素の中でも最も重要な要素である「表現」 の領域が,極端に制約されることを意味しているのである。 変化の激しいこれからの社会に生きる子供たちには「生きる力」と「確かな学力」を育むこ

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とが必要(文部科学省ホームページ∼これからの時代に求められる力とは?より引用∼)だが, この確かな学力にあたる部分のひとつが読譜能力であり,「楽しむ音楽」から「わかる音楽」 「自ら判断・行動し,問題解決をできる生徒の育成」へ教師は指導の幅を広げる必要がある。 なぜなら生徒の読譜能力を高めることによって,授業展開の円滑化(音取りの時間が短縮され るため,芸術表現の指導に時間をかけることができる)や個人表現の幅の拡大に直接的な効果 があるだけでなく,能力・知識の定着は,将来的に,生涯学習としての音楽活動活性化に繋が ると考えられるからである。 以上の理由によりこの主題を設定するに至った。 (2)研究の目標 音楽経験が少なく楽譜に苦手意識を持つ生徒であっても,読譜に取り組む姿勢を育成し,歌 唱あるいは器楽によって,楽譜を自力で把握・理解し,演奏できる能力を養う。 (3)研究の仮説 仮説1 楽譜の捉え方の工夫によって,リズム感を習得させ,読譜能力を高めることができ る。また,※移動ド唱法を活用すれば,複雑な楽譜についても読譜能力を身に付けさ せることができるのではないか。 仮説2 ピアノなどの鍵盤楽器で各自に既知曲の音取りをさせれば,音の予想をしながら キータッチをすることになり,音程感を身に付けさせることができるのではないか。 また,和音指導を行うと跳躍音程についての感覚が養われ,音符の把握スピードが増 すことによって,読譜に対しての意欲向上に繋がるはずである。 ※移動ド唱法 ……… 各調の主音を音名に関わらず「ド」または「ラ」とし,長音階は ドレミファソラシド,短音階はラシドレミファソラで発音する相対 音感的唱法。絶対音感が備わっていなくとも,訓練によって相対音 感は身に付けることができるため,調性を感じて演奏することが可 能となる。しかし調の違いによって,同じ音高の音符であっても階 名が異なるため,階名発音の規則性を暗記する必要がある。 (4)研究の構想 ア.研究の方向性 < 高 校 音 楽 が 目 指 す 目 標 > 音楽の幅広い活動を通して,音楽を愛好する心情を育てるととも に,感性を高め,創造的な表現と鑑賞の能力を伸ばす。 (音楽Ⅰ) 音楽の諸活動を通して,音楽を愛好する心情を育てるとともに,感 性を高め,音楽文化について理解を深め,個性豊かな表現の能力と主 体的な鑑賞の能力を伸ばす。(音楽Ⅱ) 高等学校学習指導要領より抜粋 表現分野での基礎能力指導 (読譜能力) 本研究主題「高校生を対象にした読譜能力向上のための効果的な指導法」 (1) 楽譜の捉え方の工夫 ……… 仮説1 (2) 楽器の効果的な利用 ……… 仮説2 楽譜の仕組み,音楽の構成 を理解した上での音楽に対す る興味・関心の増大 指 導 と 評 価 の 一 体 性 を 踏 ま え た 読 譜 指 導 ﹁ 計 画 ﹂ ﹁ 実 践 ﹂ ﹁ 評 価 ﹂ を 繰 り 返 す こ と で 個 人 の 能 力 は 向 上 す る 。 楽譜を自力で把握・理解し 演奏できる能力の育成 生涯学習に通じる教養(能力・知識)と感性の育成

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イ.計 画 (1) 音程感を身に付ける発声練習(音階と跳躍音程の訓練)… 相対音感の習得を目指す。 (2) 教材や既知曲(童謡・歌謡曲)の階名唱……… 同上 (3) 選択楽器アンケートの実施 → 現状把握,器楽の効果的な指導… 跳躍音程の把握。 (4) 楽譜の捉え方指導(理論,練習問題)……… リズム,移動ド唱法の理解。 ウ.年間指導計画(本校 平成16年度音楽Ⅰのシラバスより) 時 期 授 業 内 容 読譜指導に関する事項 前期前半 <二部合唱及び斉唱> 「オリエンテーション」「校歌」 カントリーロード・未来へ 夜空ノムコウ・翼をください <鑑 賞> ブランデンブルグ協奏曲 バイオリン協奏曲「四季」 小フーガト短調(JSバッハ)他 音程感を身に付けるための 発声練習(年間を通し毎時) 教材の階名唱 楽曲の楽譜を見ながらの鑑 賞も実施。簡単な階名唱。 前期後半 <歌 曲>

この道・荒城の月・Caro mio ben Torna a Surriento・野薔薇 <楽 典> 音名・階名,音階,反復記号 リズム(シンコペーション) <鑑 賞> オラトリオ「メサイヤ」・王宮の 花火の音楽・交響曲第40番(モー ツァルト)他 教材の階名唱 音階の指導時,移動ド唱法に ついて,理論上の説明を実施。 楽曲の楽譜を見ながらの鑑 賞も実施。簡単な階名唱。 後期前半 <器 楽> ※ 選択楽器アンケート ギター,キーボード <合 唱> パリを離れて・メリーウィドウ Tonight・美女と野獣

The Sound of Music 他 <楽 典> 和音,転調,音楽用語 音階及び和音指導を実施。 練習曲は基本的に教科書か ら選択させる。 パート練習の音取りは,当番 制で多くの生徒に行わせ,器楽 で身に付けた能力を生かさせ る。 副教材を十分に使用し,実際 の楽曲に照らし合わせて理論 を浸透させる。 後期後半 <合 唱> 大地讃頌・Choral・卒業式式歌 <創 作> 即興的表現・旋律を作る。 <鑑 賞> 白鳥の湖・新世界・ボレロ ウエストサイドストーリー他 パート練習の音取りは,当番 制で多くの生徒に行わせ,器楽 で身に付けた能力を生かさせ る。 楽譜の書き方を指導。 楽曲の楽譜を見ながらの鑑 賞も実施。簡単な階名唱。 本年度使用教材 教科書 新 高校の音楽Ⅰ(音楽之友社) 補助教材 ミュージックノート,高校生の歌集「つどい」(九州音楽研究会高校部会)

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※ 選択楽器アンケート 本校は音楽科目を多く開設しており,キーボードやピアノは他 校に比べ充実している。そこで器楽においてはギターに限定せず, 鍵盤楽器の指導も同時に行っている。生徒の希望を調査すること で,楽器の割り当てに使用するだけでなく,音楽に対する意向の 変化も知ることが出来るため,毎年実施している。 <用紙形式 例> 実際には書き込むスペースを広げ B5版で作成し実施

選択楽器アンケート

1年( )組( )番 氏名( ) 後期には器楽分野の授業を実施します。楽器数には制限がありますが, ギターとキーボードを実施予定です。授業に役立てるため,下記の質問に 答えてください。 (1) あなたは演奏できる楽器がありますか? ある( ) ない (2) 器楽の授業ではどちらの楽器を選択したいですか? ギター キーボード (3)(2)の楽器を選んだのはどうしてですか? (4)楽器を使って,どのようなことをやってみたいと思いますか? (5)(4)で「ない」と答えた人はどうしてだと思いますか? <アンケート集計結果> 長崎県立長崎明誠高等学校 音楽Ⅰ選択者対象(H11∼16) 単位は%,数値は6年間の平均 検証:あくまでも自己申告だが,本校の場合,豊かな楽器経験を持つ者は,ここ数年極端 に増えてはいない。その中では鍵盤楽器の経験者が比較的多いことがわかる。 検証:ギター選択者は,ある程度ギターについて知識や技術を習得している者が多く, ピアノ選択者はピアノについて興味・関心はあったが,演奏経験のない者が大半 (2)ギター……… 42.2 しかし,台数の都合によりピアノ・キー ピアノ……… 57.8 ボードは毎年,交替で使用させている。 (3) ギターを選ぶ理由 ピアノを選ぶ理由 ①気軽に演奏できる…………37.1 ①以前から弾いてみたかった…54.1 ②弾けたらかっこいい………31.7 ②少しは弾くことが出来る……19.6 ③ピアノは難しそうだから…18.5 ③楽譜がわかるようになりたい17.6 ④楽譜が読めないから……… 9.0 ④その他……… 8.7 ⑤その他……… 3.7 16 17 18 19 20 21 H11 H12 H13 H14 H15 H16 (1) 演奏できる楽器がある割合⇒右グラフ 内訳 ピアノ(電子ピアノ)…… 48.5 ギター類……… 30.4 管打楽器……… 12.7 その他……… 8.4

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を占めている。また,「楽譜をわかるようになりたい」と強く意思表示している 者が意外と多いことに驚かされた。読譜能力習得が音楽活動活性化のポイントに なっているようだ。 0 10 20 30 40 50 H11 H13 H15 H16 クラシック演奏 歌謡曲演奏 歌の伴奏 作曲 (5)楽器を使ってやりたいことがない理由 ① やったことがないから特に興味が沸かない……… 37.8 ② 楽譜が読めないからたぶん演奏できないと思う……… 35.1 ③ 基本的に何もしたくない……… 17.6 ④ その他……… 9.5 検証:③は問題だと思われるが,器楽の技術を習得させ楽器の面白さを体感できれば,必ず 数値は減少すると思われる。ここでも楽譜に対する不安を持つ生徒がかなりの割合を 占めている。この不安感を少なく出来れば,器楽の分野においても積極性が生まれる 可能性がある。 4 方 法 (1)相対音感および和声感覚の基盤作り 読譜の指導を進める上で特に大切なのは,生徒達の音感基盤を日々どのようにして育成し, 十分な指導効果が得られるように準備をさせておくかである。 ① 発声練習ではハ長調音階での順次音階練習と跳躍は必ず行うこと。母音 の発声後は階名唱を行わせる。ハ長調音階では絶対音感を持った生徒も違 和感なく階名唱に参加できるからである。 ② 調を変えた(半音ずつ上昇あるいは下降)音域拡大練習はピアノで伴奏 を入れる場合,主和音のハーモニーでなく,必ず移行調の属七和音を直前 に演奏すること。この方法により,和声感覚Ⅴ(7) ⇒Ⅰが身に付く上に,属 七和音から次の主音を想像する意識が芽生える。 ③ 既習曲は必ず階名唱を行うこと。ただし,絶対音感を持つ者が学級内に 多く存在する場合は,ハ長調あるいはイ短調に転調して行うべきである。 多少音域に無理があっても,このように配慮することで音感は定着しやす くなる。また,童謡や TV の CM など,生徒の興味ある音楽は積極的に取 り上げ,階名唱する習慣を付けさせれば,すべての生徒達の相対音感を伸 ばすことができる。 (4)楽器を使ってやってみたいこと 検証:本校の場合,歌謡曲演奏よりも 作曲をしてみたいと考えている者が 年々増加しているが,(3)の結果か らわかるように,楽譜に苦手意識を持 つ者が多いため,欲求と能力の差に苦 しんでいる生徒も多いのではないだ ろうか。 発 声 練 習 な ど 、 日 々 の 授 業 を 工 夫 す る こ と で 相 対 音 感 を 伸 ば す こ と が で き る

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童謡・愛唱歌の例を下に記す。各レベルは音程その他の難易度で分け,読譜練習の際,生徒の個人 的な弱点指導に活用できることを目的に分類したものである。 【レベル1】音の跳躍が少なく,音階を意識した楽曲 どじょっこふなっこ(♪春になれば∼) かえるの歌(♪かえるの歌が,聞こえてくるよ∼) こがねむし(♪こがねむしは金持ちだ∼) 夕焼け小焼け(♪夕焼け小焼けで日が暮れて∼) 【レベル2】3∼4度程度の跳躍音程を含む楽曲 もみじ(♪秋の夕日に,照る山もみじ∼) かたつむり(♪でんでんむしむし,かたつむり∼) 赤い靴(♪赤い靴はいてた女の子∼) 春の小川(♪春の小川はさらさらゆくよ∼) 【レベル3】4∼5度程度の跳躍や臨時記号を含む楽曲 手のひらを太陽に(♪僕らはみんな生きている∼) 小さな木の実(♪小さな手のひらにひとつ,古ぼけた木の実握りしめ∼) 大きな古時計(♪大きなのっぽの古時計,おじいさんの時計∼) 七つの子(♪からす,なぜ鳴くの∼) 【レベル4】ミニマム転調なども含むやや難易度の高い楽曲 ドレミの歌(♪ドはドーナツのド∼) 遠くへ行きたい(♪知らない街を歩いてみたい∼) ずいずいずっころばし(♪ずいずいずっころばし,ごまみそずい∼) 君を乗せて(♪あの地平線∼) 基盤作りとは,耳に聞こえてくる旋律や頭に浮かんだ旋律を,ドレミ唱で歌唱できる能力(相 対音感的把握能力)を育成することである。この能力がないと,たとえ楽譜上の音符のドレミを 把握できたにしても,音としても音楽としても再現できない。 (2)楽譜の捉え方の工夫<仮説1> 音符には,四分音符,付点八分音符など多くの音符が存在し,この形状を覚えることが面倒 だと楽譜嫌いになる生徒も多い。音符は音の高さと同時に音の長さを表すものであるから,正 確な楽譜(出版されているものはほとんど正確)なら,音符の種類に応じた小節内での空間使 用もまた正確である。 <譜例1> 音符の種類に応じた小節内の空間使用 そこで,小節内の音符の記されている位置だけに注目させて,目を左から右へ一定の速さ で動かすトレーニングを行うと,次第にリズム感覚が養われていくのである。このような方 法で指導を行うと,楽譜のリズム把握はほぼ全員が出来るようになる。 ① 小節には八分音符(4 /4拍子の場合の半拍)ごとにグリッド線を引 き,音の鳴っている時間を小節内の空間として視覚的に把握させること。 ② 目は連続的ではなく,クオーツ時計の秒針のように,グリッド線上で 一旦停止しながら動かさせるようにすること。 ③ 始めは一線譜に黒丸を打っただけの楽譜から指導を開始し,次にはカ タカナで階名を記したもの,最後に普通の五線譜を使用する。 ト レ ー ニ ン グ 時 に 注 意 す べ き こ と 。

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上記③について,指導初期の参考楽譜を下に記す。(中央のグリッド線は拍を表している) <参考1 音符を◎で表し,何拍目に◎があるかを把握させ,声を出してリズム練習> 4 ── ◎───◎─◎─◎──◎◎─◎─ ◎─◎─◎──◎◎───休み── 4 ターン タンタンター カタンタン タンタンター カターン ウーン ─┼─ ─┼─ ─┼─ ─┼─ ─ ┼─ ─┼─ ─┼─ ─┼─ (グリッド線) 1拍目 2拍目 3拍目 4拍目 1拍目 2拍目 3拍目 4拍目 <参考2 階名を当てはめたもの。相対音感の基盤があれば曲名はすぐわかる> 4 ◎───◎─◎─◎──◎◎─◎─ ◎─◎─◎──◎◎───休み─── 4 ラー ソ ミ ソー ソミ ド ミ ミ レー レドー ※ 参考2程度の楽譜が理解できれば作曲をすることが可能。インターネット環境なら, フリーソフト「さくら」(copyright by クジラ飛行机 http://www.text2music.com)を 利用し,記譜の作業に時間を確保できればさらに読譜能力は高まる。カタカナ(ドレ ミ)で入力し,作曲したものを聞くことはもちろん,保存もできる。 既習曲の階名唱を普段の授業から続けていれば,少なくともハ長調における階名読みは初見可能か 時間をかけなくともできるようになっている。またト音譜表だけでなく,ヘ音譜表にもピアノなどで 慣れさせておくと移動ドの読譜は非常に簡単なものになる。それでは,ハ長調以外の調について楽譜 の捉え方を考える。 移動ドの読譜感覚は,楽譜が複雑になればなるほど容易となる。音部記号(ト音記号・ヘ音記号) のすぐ右側に置かれる♯(シャープ)や♭(フラット)は調の特性を表したもので「調号」と呼ばれ るが,この置かれる場所と個数には規則性がある。本研究は高校生が対象であるから,生徒にこの規 則性を覚えさせるにはそう時間はかからない。理論で指導してもよいし,語呂合わせにして暗記させ てもよい。 移動ドで考えた場合に,どの音が「ド」(または「ラ」)になるかがわかればよいのである。調は 主音(つまり「ド」や「ラ」と発音する音)の※音名がそのまま名称になっている。つまりニ長調で はニの音,「レ」(固定ド)の音が主音であるから「レ」を「ド」と発音すればよいし,ロ短調はロ の音を「ラ」と発音すればよい。ただし,読譜ということだけ考えれば,短調についてはあえて指導 しなくともよいと思われる。同一調号の長短調(平行調)の場合,調の規則に従いドレミ唱をすれば, 特に短調を意識しなくとも,発音と読譜ができてしまうからである。 ※ 音名 ……… 音に対する共通観念として440Hz の音を「A」と定めた。これを基 準にして音階を構成し,それぞれの音にアルファベットを当てはめた。 音の絶対的な名称が音名である。一般にいうドレミはイタリア語の音名 であるが,世界的には C・D・E・F・G・A・B(H)が標準。我が国では 明治時代に「A」をイロハの「イ」に当てはめたため,ハ長調の音階は 音名で言うとハニホヘトイロハとなる。階名は,歌唱しやすいように音 階に付けた名称(ドレミを使用,主音を「ド」とする)であるから,根 本的に階名と音名は意味が全く異なる。

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<譜例2> 上記の楽譜は調号として♯が3つ付く一見難解な楽譜であるが,イ長調で あることが分かれば,読譜を工夫することによって下記のように相対音感的 に楽譜の合理化を図ることができる。上記楽譜の場合,音名「イ」の音が移 動ドでは「ド」となり,音符はそのままの位置でヘ音記号による読み替えを 行うことができる。 <譜例3> 上記は音楽経験が豊かな上,絶対音感を持つ者であっても非常に読譜が困 難な楽譜である。しかし,譜例2の場合と同様にこれが変ハ長調の楽譜であ ると判断できれば,相対音感的に楽譜の合理化を図り,下記のような非常に 簡単な楽譜にすることができる。 相対音感的(移動ド)合理化 ……… 読譜は最もよく使用されるト音譜表で行う。 ※表中の「一つ」や「二つ」はそれぞれ「二度音程」「三度音程」を意味している。 調 号 調 名 合 理 化 方 法 ♯2つ ニ長調(ロ短調) 音符の階名は常に一つ下の階名で読む。 レ→ド ♯3つ イ長調(嬰ヘ短調) 音部記号をヘ音記号に置き換えて読む(譜例2参照)。 ♯4つ ホ長調(嬰ハ短調) 音符の階名は常に二つ下の階名で読む。 ミ→ド ♯5つ ロ長調(嬰ト短調) 音符の階名は常に一つ上の階名で読む。 シ→ド ♯6つ 嬰ヘ長調(嬰ニ短調) ヘ長調と同様に読む。移動ドには最も難しい。 ♯7つ 嬰ハ長調(嬰イ短調) そのまま読む。変ハ長調に同じ(譜例3参照)。

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調 号 調 名 合 理 化 方 法 ♭2つ 変ロ長調(ト短調) 音符の階名は常に一つ上の階名で読む。 シ→ド ♭3つ 変ホ長調(ハ短調) 音符の階名は常に二つ下の階名で読む。 ミ→ド ♭4つ 変イ長調(ヘ短調) 音部記号をヘ音記号に置き換えて読む。 ♭5つ 変ニ長調(変ロ短調) 音符の階名は常に一つ下の階名で読む。 レ→ド ♭6つ 変ト長調(変ホ短調) ト長調と同様に読む。移動ドには最も難しい。 ♭7つ 変ハ長調(変イ短調) そのまま読む(譜例3参照)。変ハ長調に同じ。 ♯一つ(ト長調),と♭一つ(ヘ長調)の場合,及びこれらとほとんど同じ読み替えを行う嬰ヘ長 調と変ト長調は移動ド唱法には非常に難しい。固定ド唱法(絶対音感的唱法)を用いるか,下記の方 法を用いる。 ト長調(ホ短調)及び変ト長調(変ホ短調)・・・音部記号をヘ音記号に置き換え,一つ上の階名 で読む。 ヘ長調(ニ短調)及び嬰ヘ長調(嬰ニ短調)・・・音部記号をヘ音記号に置き換え,二つ上の階名 で読む。 (3)楽器の効果的な利用<仮説2> 楽器を利用することで,自分が感じた音や音楽が正しいかどうかを自己判断できるようにな る。ギターや他の楽器でも構わないのであるが,あえてピアノ(鍵盤楽器)の指導法について 研究する理由を下記に述べる。 理由1 選択楽器アンケートの結果,本校生徒の約半数がピアノに対する興味関心を持っ ており,演奏できるようになりたいと考えている。 理由2 ギターは運指と音づくりが難しく,多くの時間を要する。 理由3 ピアノは無調楽器(あえて言うならハ長調楽器)であるから,演奏時における楽 譜の書き換えの必要がなく,習熟度に応じて単旋律からハーモニーまで幅広く演奏 することができる。(音感教育には適している) 理由4 本校は総合学科(音楽科目を多く開設)の高校であり,ピアノやキーボードの台 数が多いため,一度に多くの生徒を指導できる。 <鍵盤楽器指導のポイント> 学校教育の現場では指導の時間が限られているため,いかに短時間で効果を上げるかが重要であ る。楽譜を見ながらキータッチを行う時,必然的に鍵盤を見ることができない。この点に不安を感 じ生徒達は練習する前から諦めがちになるのだが,開始音に指を置いた後は一種の勘に近い感覚で 運指はどうであれ簡単な旋律であれば弾けてしまうものなのである。 ポイント1「ドレミの理解」 ハ長調音階における運指のみを教え,音域が1オ クターブ前後の曲の音取りをさせる。なお,この際, 同時に階名を歌わせること。 ポイント2「5度音程及びオクターブの理解」 親指をドに置いたとき,小指が自然な開き具合で ソを押さえられるような訓練を行う。また,ある程 度思い切り指を開き,オクターブを掴む練習もさせ る。 ポイント3「半音の理解」 ファの♯はソの♭と同じ鍵盤を弾くということ

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<ピアノによる和音指導について> ピアノを弾きたいと希望した者は,やはり両手で演奏している華麗な自分をイメージしている。こ の欲求を満たしてあげることも,指導効果を上げる原動力になる。しかし,10時間程度の学習時間 ではショパンはもちろん,市販されているピアノ曲集なども弾く実力はまだない。そこで和音(コー ド)指導も行うことにした。この指導が生徒達に与える影響は大きく,三度・五度の跳躍音程の感覚 が身に付くことに加え、器楽に対する意識改革をもたらすこととなった。器楽指導期間が終了しても, 授業開始前には多くの生徒がピアノの取り合いをするほどである。もちろん,この段階の生徒は指導 前と比べ飛躍的に読譜能力が高まっており,初見演奏能力もある程度備わっている。 ピアノの和音指導(旋律の音取りと並行して実施)実施内容・・・指導は第二音楽室で一斉に。 【一斉指導時間:5∼10分,残りの時間は自主練習】 1時間目 右手の親指・中指・小指を使い,メジャーコードの押さえ方(全調)を指導。 2時間目 前時の既習内容チェック。ランダムに,親指を置いた場所からメジャーコード を形成する練習。なお,コードネームは親指の鍵盤の英語音名と同一であること も指導し,演奏時には必ずコードネームを発音させる。 3時間目 前時の既習内容チェック。マイナーコード(中指を半音下げるだけでいい)の 指導。加えて,左手でコードのベース音のみを右手コードと同時に演奏する練習。 この時もコードネームは発声させる。前時の内容が消化できていない者は前時内 容を継続自主練習。 4時間目 前時の既習内容チェック。高校生のための歌集「つどい」を使用し,伴奏パタ ーン(左右の手に違う動きを付ける)の指導。前時の内容が消化できていない者 は前時内容を継続自主練習。なお,練習曲は「つどい」の中から各自が選曲。 5時間目 前時の既習内容チェック。和音の転回形を指導。しかし,無理は決してさせず 基本形のみの演奏も認める。さらに多くの曲の伴奏について練習。前時の内容が 消化できていない者は前時内容を継続自主練習。 6時間目 前時の既習内容チェック。ギターとのアンサンブル(オリジナル曲)に必要な コード進行の指導。前時の内容が消化できていない者は前時内容を継続自主練習。 7時間目 前時の既習内容チェック。「つどい」の曲について,右手メロディ,左手コー ド演奏指導。バリエーションを考えさせる。前時の内容が消化できていない者は 前時内容を継続自主練習。 8∼9時間目 ギターとのアンサンブル実施。音楽表現について指導。 10時間目 アンサンブル,コード進行について実技試験実施。 【オーグメント及びディミニッシュコードはあえて指導内容から外す。】 は知っていてもミの♯とファ,ドの♭とシが同じ鍵 盤を弾くということは案外知らないものである。 ポイント4「完璧に弾かせるより多くの曲を」 とにかく鍵盤を見ずに音と鍵盤を予想しながら 弾くことになるから,完璧を要求するよりも多くの 楽譜に挑戦させるべき。思い切り褒めることも重 要。 ※ 練習曲は本研究P6及び教科書既習曲を取り 上げ,階名での弾き歌いを実施している。ただ し,ハ長調の楽譜に編曲することは必要。

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5 結果と考察 (1)評価の方法 読譜能力向上を知る方法として,新曲視唱を用いた。題材(曲)はソルフェージュの教則 本として普及しているコールユーブンゲンの№45までを用い,初見でどれくらい歌唱でき るかを毎月1回,小グループ(四名程度)ごとに検査し,評価を行う。 コールユーブンゲンの№45までは,すべてハ長調あるいはイ短調(ミニマム転調は含ん でいるが)で書かれており,音程によって難易度を分けた,優れた教本である。難易度を徐 徐に上げチェックを繰り返すことで,ほぼ正確に生徒達の能力の度合いを知ることができる。 (2)結 果 リズム能力は初見演奏課題すべての検査において,ほとんどの生徒に能力の著しい向上が 見られた。楽譜の捉え方の工夫は浸透しており,特別な指導をしたわけでもないのだが,身 体を使った拍の把握を皆無意識に行っており,指導効果は想像以上のものであった。 音程については個人差が顕れた。前期においては三度音程までの容易な楽譜を使用するこ とから,全員に大きな能力の差は認められないが,後期に入り,器楽指導が行われ始めると, 難易度が高い曲では生徒間に大きな差が生まれ始めた。 ピアノを特別教習した者の八割は,演奏にぎこちなさはあるものの,曲を最後まで歌い切 る気力と能力を持つに至った。しかしギターのみの器楽学習をしたものは,四度音程になる と約半数の生徒が正確に歌唱することはできず,歌唱途中でリタイヤすることも多かった。 (3)考 察 ギター履修者の指導においては,和音(コード)練習がほとんどで,旋律の訓練が不足し ていたため,音程把握に問題が生じたと思われる。今後,器楽の実施期間や選曲を含めて, ギターの履修者の音程把握能力向上に有効な指導法を研究しなければならない。しかし,ピ アノ履修者同様に行っていた毎授業時の読譜指導は少なからず浸透しており,楽譜が全く読 めないと嘆いていた生徒達においても,容易な楽譜であれば自力で把握しようとする姿勢及 び能力を養うことができたことは,大きな収穫であった。 6 おわりに 先日,本校を訪れた卒業生が,私にこんなことを語ってくれた。友人と本屋へ出掛けた時に, 本棚に流行の曲が載っている本を見つけた。新しい曲らしく二人ともよくわからなかったが,彼 女が何となく楽譜を鼻歌で歌ったところ,友人から羨望の眼差しで見つめられたという話だっ た。彼女から突然にお礼を言われ戸惑ったが,非常に嬉しく感じた。彼女は幼児教育の道に進む。 将来彼女が出会う幼児達は,大人と比べものにならないほど音楽に対しても敏感だ。読譜によっ て広がった自分の音楽観を生かし,無垢な天才集団の可能性を導き出すため,全力の教育をして ほしい。これが生涯教育の始まりとなる。私も彼女に負けないように,目の前の生徒達に対して, 今の自分にできることを全うしたい。 一人の音楽教師として,単に生徒達に音 楽の楽しさだけを伝えるのではなく,生涯 教育に通じる知識と教養を定着させ,感性 を伸ばす教育の在り方を探り続けることが 私の使命なのである。 【参考文献】 「良い音楽家とは」東川清一・海老沢敏編著 「メロディと音階」玉木宏樹著 「 カ ラ ー 図 解 音 楽 事 典」U. ミ フ ェ ル ス 編 集

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