境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした 精神科看護師の自己形成
著者名 佐々木 三和
発行年 2014‑03‑06
URL http://hdl.handle.net/10470/30589
2013 年度 東京女子医科大学大学院 看護学研究科
博士後期課程学位論文
境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした精神科看護師の自己形成
学籍番号 055002 氏名 佐々木 三和
東 京 女 子 医 科 大 学 大 学 院 看 護 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 学 位 論 文 要 旨
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成
東 京 女 子 医 科 大 学 大 学 院 看 護 学 研 究 科 看 護 学 専 攻
佐 々 木 三 和
Ⅰ . は じ め に
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 、 不 安 定 な 対 人 関 係 や 自 己 像 、 感 情 の 不 安 定 さ や 著 し い 衝 動 性 を 特 徴 と す る 精 神 障 害 で あ る 。 対 人 関 係 で は 、 見 捨 て ら れ る こ と を 避 け よ う と 周 囲 の 人 を 感 情 的 に 強 く 巻 き 込 む こ と や 他 者 を 極 端 に 理 想 化 す る か と 思 う と 、 逆 に 過 小 評 価 す る と い っ た 極 端 な 変 化 を み せ る 。 ま た 、 激 し い 苛 立 ち や 怒 り 、 抑 う つ な ど の 気 分 の 著 し い 変 動 を み せ る 。 さ ら に 衝 動 コ ン ト ロ ー ル が 困 難 な 場 合 に は 、 リ ス ト カ ッ ト や 薬 物 多 量 服 薬 な ど の 自 己 破 壊 的 行 動 や 自 殺 企 図 な ど の 行 動 化 に 及 ぶ こ と が あ る 。
こ れ ま で 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 陰 性 感 情 や 巻 き 込 ま れ に 関 す る 報 告 は 多 く み ら れ 、 そ の か か わ り の 困 難 さ が 指 摘 さ れ て き た 。 し か し 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の か か わ り は 、 精 神 科 看 護 師 に と っ て 、 自 己 と は 何 で あ る の か 、 精 神 科 看 護 師 と し て ど う あ る べ き な の か に つ い て 、 問 い 直 し が 迫 ら れ る 経 験 と な る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 を 記 述 し 、 そ の 意 味 を 理 解 す る こ と を 目 的 と し た 。
Ⅱ . 方 法
本 研 究 は 、 解 釈 的 ア プ ロ ー チ に 基 づ く 質 的 帰 納 的 研 究 デ ザ イ ン で あ り 、 方 法 論 と し て 解 釈 学 的 現 象 学 を 採 用 し た 。 研 究 参 加 者 は 、 精 神 科 病 院 に 5年 以 上 勤 務 し 、 か つ 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 経 験 の あ る 看 護 師 15 名 と し た 。 デ ー タ 収 集 は 、 イ ン タ ビ ュ ー ガ イ ド を 用 い た 半 構 成 的 面 接 法 と し た 。 デ ー タ は Benner に よ る 解 釈 学 的 現 象 学 を 基 盤 と し て 解 釈 を 行 い 、 研 究 参 加 者 ご と に 独 自 の テ ー マ を 見 出 し 、次 に す べ て の 研 究 参 加 者 の 自 己 形 成 を 比 較 検 討 し 、 統 合 的 に 解 釈 す る こ と で 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 に お け る 共 通 の 意 味 を 見 出 し た 。 な お 、 本 研 究 は 、 東 京 女 子 医 科 大 学 の 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 受 け て 実 施 し た ( 受 付 番 号 :2296)。
Ⅲ . 結 果
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 は 、そ の 人 に お い て 生 き ら れ た も の で あ り 、そ れ ぞ れ 独 自 の も の で あ っ た が 、 同 時 に そ こ に は 共 通 し た 意 味 が 見 出 せ た 。 す な わ ち 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し て 、 初 期 の 経 験 で は 研 究 参 加 者 の 誰 に も 、 患 者 の 病 理 に 巻 き 込 ま れ 陰 性 感 情 を 抱 く と い う 状 況 が 生 じ て い た 。そ し て 、研 究 参 加 者 は 、 状 況 に 関 与 す る な か で 自 己 形 成 し て い た 。研 究 参 加 者 の 自 己 形 成 は 、「 状 況 に 呑 ま れ る 」、「 状 況 か ら 自 己 を 守 る 」、「 状 況 に 向 き 合 い 、 自 己 を 問 い 直 す 」 と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を と お し て 、 そ れ ぞ れ 「 否 定 的 な 自 己 形 成 」、「 両 価 的 な 自 己 形 成 」、「 肯 定 的 な 自 己 形 成 」 と い う 3つ の 様 相 に 変 容 し て い た 。 ま た 、 自 己 形 成 を 促 す 原 動 力 に は 、「 自 己 洞 察 」 と 「 サ ポ ー ト 」 の 2つ が あ っ た 。
否 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の か か わ り に お い て 、現 在 で も 不 安 や 恐 怖 を 抱 い て お り 、「 状 況 に 呑 ま れ
る 」と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を し て い た 。そ の た め 、現 実 吟 味 に は 向 か わ ず 、
「 自 己 洞 察 」に は 至 っ て い な い 。ま た 、「 サ ポ ー ト 」が 得 ら れ な い と い う 特 徴 を も っ て い た 。 両 価 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の か か わ り に お い て 、「 自 己 洞 察 」が 促 さ れ 、そ の 経 験 か ら 学 ぶ こ と が あ り 、 自 己 へ の 肯 定 的 評 価 が な さ れ て い た 。 し か し 、 他 者 か ら の 「 サ ポ ー ト 」が 得 ら れ て い な い た め 、自 ら が 傷 つ か な い よ う 、「 状 況 か ら 自 己 を 守 る 」 と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を し て い た 。 肯 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、「 状 況 に 向 き 合 い 、自 己 を 問 い 直 す 」と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を と お し て「 自 己 洞 察 」が 深 ま り 、他 者 か ら の「 サ ポ ー ト 」を 得 る こ と で 、「 自 己 理 解 」 に 至 っ て い た 。 そ し て 、「 自 己 理 解 」 を 基 盤 と し て 、「 自 分 た ち と 変 わ ら な い 存 在 と し て 患 者 を 理 解 す る 」や 、「 精 神 科 看 護 師 と し て の 未 熟 さ を あ り の ま ま 認 め る 」 と い う 2 つ の 仕 方 の い ず れ か を 基 軸 と し て 、「 自 己 理 解 」 と 「 患 者 理 解 」 を 同 時 に 深 め て い た 。
Ⅳ . 考 察
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 の 初 期 の 経 験 に は 、 研 究 参 加 者 の 誰 に も 共 通 し て 、患 者 の 病 理 に 巻 き 込 ま れ 、陰 性 感 情 を 抱 く と い う 状 況 が 生 じ る 。 こ う し た 状 況 は 精 神 科 看 護 師 に と っ て 、 自 己 像 を 脅 か さ れ る 強 烈 な 経 験 と な る た め 、 状 況 に 向 き 合 う こ と を 困 難 に し て し ま う 。 し か し 、 肯 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、 自 分 を 含 め た 人 間 の 多 様 さ の 理 解 に 行 き 着 き 、 自 身 の 在 り 方 を 変 容 さ せ て 人 間 的 に 成 長 し て い た 。 そ れ は 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 の 状 況 に 向 き 合 い 、 自 己 を 問 い 続 け た 結 果 と し て の 人 間 に 対 す る 深 い 理 解 で あ る 。 過 去 の 経 験 に 対 す る 意 味 づ け は 常 に 書 き 換 え ら れ 、 経 験 と し て 内 在 化 さ れ つ つ 、 そ れ ら へ の 意 味 付 与 が 変 化 し 続 け る こ と に お い て 自 己
形 成 の 様 相 は 変 容 す る も の と 思 わ れ る 。 し た が っ て 、 精 神 科 看 護 師 が 肯 定 的 な 自 己 形 成 を 獲 得 す る た め に は 、 看 護 師 が 患 者 の 病 理 に 巻 き 込 ま れ た 状 況 に あ る と き 、 自 己 洞 察 を 促 進 す る た め の サ ポ ー ト と し て の 語 り の 場 の 提 供 が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
Ⅴ . 結 論
1. 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し て 、 初 期 に は 、 研 究 参 加 者 の 誰 に も 共 通 し て 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 病 理 に 巻 き 込 ま れ 、 陰 性 感 情 を 抱 く と い う 状 況 が 生 じ て い た 。
2. 研 究 参 加 の 自 己 形 成 は 、「 状 況 に 呑 ま れ る 」、「 状 況 か ら 自 己 を 守 る 」、「 状 況 に 向 き 合 い 、 自 己 を 問 い 直 す 」 と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を と お し て 、 そ れ ぞ れ 「 否 定 的 な 自 己 形 成 」、「 両 価 的 な 自 己 形 成 」、「 肯 定 的 な 自 己 形 成 」 と い う 3 つ の 様 相 に 変 容 し て い た 。
3. 自 己 形 成 を 促 す 原 動 力 に は 、「 自 己 洞 察 」 と 「 サ ポ ー ト 」 の 2つ が あ っ た 。 肯 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、「 状 況 に 向 き 合 い 、 自 己 を 問 い 直 す 」 と い う 状 況 へ の 関 与 の 仕 方 を と お し て 「 自 己 洞 察 」 が 深 ま り 、 他 者 か ら の 「 サ ポ ー ト 」 を 得 る こ と で 、「 自 己 理 解 」 に 至 っ て い た 。
4.肯 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 を 示 し た 研 究 参 加 者 は 、「 自 己 理 解 」を 基 盤 と し て 、
「 自 分 た ち と 変 わ ら な い 存 在 と し て 患 者 を 理 解 す る 」 や 、「 精 神 科 看 護 師 と し て の 未 熟 さ を あ り の ま ま 認 め る 」と い う 2つ の 仕 方 の い ず れ か を 基 軸 と し て 、「 自 己 理 解 」 と 「 患 者 理 解 」 を 同 時 に 深 め て い た 。
5. 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 で は 、 誰 も が 自 己 像 を 脅 か さ れ る 経 験 を も つ 。 し か し 、 精 神 科 看 護 師 の 経 験 の 意 味 づ け を 重 視 す る こ と に よ っ て 、 肯 定 的 な 自 己 形 成 の 様 相 へ と 変 容 す る 可 能 性 が 拓 け る 。
Graduate School of Tokyo Women’s Medical University Graduate Course of Nursing Doctoral Dissertation Abstract
Self-formation of psychiatric nurses through caring for patients with borderline personality disorder
Miwa, Sasaki
The purpose of this study was to describe self-formation of psychiatric nurses through caring for patients with borderline personality disorder (BPD), and understand the meaning.
The data was obtained by semi-structured interviews with 15 nurses who had experience in nursing patients with BPD and who had worked for ≥5 years at a psychiatric hospital. Hermeneutic phenomenology as defined by Benner, P. was used as a basis for interpretation.
As a result of interpretation, although self-formation of psychiatric nurses was unique to each individual, there were some common factors. In other words, in the early stage where nurses met BPD patients, it arise the situation where nurses harbor negative feelings by getting caught up in the pathology of patients condition. This is common among psychiatric nurses and occurs regardless of whether the nurse is directly involved with the patient. Psychiatric nurses described the way in which they were involved in the situation as “were overwhelmed by the situation,” “had to protect themselves from the situation,” and “had to confront the situation and reexamine themselves.” In addition, they described how they developed one of the three aspects of self-formation: “negative self-formation,” “ambivalent self-formation,” and “positive self-formation.”
Caring for patients with BPD involved intense experiences that threatened the nurses’ self-image. However, psychiatric nurses who showed positive self-formation enhanced “self-insight” by “confronting the situation and reexamining themselves” and simultaneously increased their “self-understanding” and “understanding of patients” by receiving “support” from others.
目次
第1章 序論………...….1
Ⅰ.研究の背景………..1
Ⅱ.研究の目的………...2
Ⅲ.本研究の意義………..…3
第2章 文献の検討………..4
Ⅰ.境界性パーソナリティ障害概念の歴史的変遷………..…4
1.「境界例」概念の創出………..…4
2.DSM-Ⅲ以降………...5
Ⅱ.わが国の境界性パーソナリティ障害患者の看護に関する研究の概観………...7
1.阿保による1983~2006年までの「パーソナリティ障害」の看護に関する文献検討………7
2.2007~2013年までの境界性パーソナリティ障害の看護に関する文献検討………10
3.境界性パーソナリティ障害患者を看護する際に生じる看護師の経験に関する文献検討…..11
Ⅲ.自己形成に関する研究の概観………..……..………..…..16
1.心理学領域における自己形成に関する研究の概観………..…16
2.「自己形成」と「アイデンティティ形成」………...18
Ⅳ.わが国の看護師の自己形成に関する研究の概観………...19
Ⅴ.自己形成の概念に関する検討……….……….………...22
1.「自己」の概念………22
2.「経験」の概念……….…....23
3.「自己」と「経験」の関係………24
第3章 研究の方法と研究参加者………26
Ⅰ.研究デザイン……….……....…26
Ⅱ.方法論………...26
1.人間概念に関するHeidegger現象学的見解………...27
2.Benner, P.の解釈学的研究の前提と特徴………..……….29
3.Benner & Wrubelの解釈学的現象学における共通性探究のための5つの道標………….…30
Ⅲ.具体的調査方法………..…..…….30
1.研究参加者………..…….……...30
2.データ収集開始までの手続き………...…30
3.データ収集……….……….31
4.データ収集期間………...………31
Ⅳ.データ解釈方法………...31
1.Benner, P. による解釈学的現象学を基盤としたデータ解釈方法………....….31
2.研究の厳密性の保証……….…….32
Ⅴ.倫理的配慮………33
1.研究参加の理解と同意……….….33
2.予想される不利益とその対応……….….33
3.プライバシーおよび匿名性の確保………..34
第4章 結果……….………...35
Ⅰ.研究参加者の概要………..……….... 35
Ⅱ.研究協力者の自己形成の記述と解釈………...……...37
1.Aさんの語りの解釈……….…..38
2.Bさんの語りの解釈………..………….49
3.Cさんの語りの解釈……….………..56
4.Dさんの語りの解釈………...64
5.Eさんの語りの解釈………...…72
6.Fさんの語りの解釈……….………..81
7.Gさんの語りの解釈………..…….…86
8.Hさんの語りの解釈………..…94
9.Iさんの語りの解釈……….…….101
10.Jさんの語りの解釈………...…111
11.Kさんの語りの解釈………..……..…..115
12.Lさんの語りの解釈……….….123
13.Mさんの語りの解釈………..…………130
14.Nさんの語りの解釈………..…..…….138
15.Oさんの語りの解釈………..…144
Ⅲ.境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした精神科看護師の自己形成………...……156
1.否定的な自己形成………..….156
2.両価的な自己形成……….…………..…157
3.肯定的な自己形成………157
第5章 考察………...….…164
Ⅰ.境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした精神科看護師の自己形成の意味…….164
1.境界性パーソナリティ障害患者への看護の状況からもたらされる精神科看護師 の自己形成…....……… ……….………….164
2.自己形成を動的に捉え、感情に注目することの重要性……….………166
Ⅱ.看護への示唆………...170
Ⅲ.本研究の限界と課題………..…171
第6章 結論……….172
謝辞………...…….173 引用文献……….………174-177 資料………...…………ⅰ~ⅹⅶ
表目次
表1 研究参加者の背景、およびインタビュー時間………..………....36
表2 研究参加者の自己形成の本質を表すタイトル
………..…..37
図目次
図1 境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした精神科看護師
の3つの自己形成の様相……….…...156
図2 境界性パーソナリティ障害患者への看護をとおした精神科看護師
の肯定的な自己形成……….157
第 1 章 序 論
Ⅰ . 研 究 の 背 景
か つ て「 境 界 例 」と 呼 ば れ 、特 別 な 疾 患 で あ っ た 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 、 最 近 す っ か り 影 を 潜 め 、 精 神 科 外 来 で 見 か け る こ と が 少 な く な っ た と い う の が 、 臨 床 家 一 般 の 一 致 し た 見 解 で あ る(牛 島,2010)。境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 入 院 で 扱 う こ と は 世 界 的 に 少 な く な っ て い る こ と が 指 摘 さ れ て お り 、 多 く の 精 神 障 害 と 同 様 に 外 来 治 療 が 主 体 で あ り 、 入 院 治 療 は あ く ま で 外 来 治 療 で は 対 応 で き な い 事 態 が 出 現 し て き た 時 の 応 急 的 対 応 に 留 ま る と い う の が 治 療 の 原 則 で あ る (小 野,2008)。
し た が っ て 入 院 が 必 要 に な る の は 、 自 殺 企 図 、 自 傷 行 為 を は じ め と し た 生 命 に 危 険 が 生 じ て い る と き や そ れ に 伴 っ て 生 活 が 破 綻 し 、 家 庭 内 の 混 乱 が 著 し く 、 家 族 の 疲 労 が 深 刻 な と き で あ る 。 し か し 、 外 来 治 療 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 対 人 関 係 上 の 特 徴 か ら 、 容 易 に 心 理 的 退 行 を 起 こ し や す く 、 そ の 結 果 と し て 大 量 服 薬 や 自 傷 行 為 な ど の 行 動 化 が 生 じ 、 入 院 治 療 が 余 儀 な く さ れ る 場 合 も 少 な く な い 。
入 院 施 設 を 持 た な い ク リ ニ ッ ク を 対 象 と し た 調 査 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 入 院 を 引 き 受 け て く れ る 病 院 は 少 な く 、 入 院 先 探 し は 大 変 と さ れ て い る(牛 島,2008)。現 在 の 医 療 保 険 制 度 で は 、人 手 と 時 間 が か か る 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 は 、 経 営 上 採 算 の と れ な い 患 者 で あ り 、 医 療 ス タ ッ フ の 心 理 的 な 負 担 と な る 迷 惑 な 患 者 だ と い う 歪 ん だ 想 定 も 広 が っ て い る(林,2010a)。 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に お い て は 、 そ の 治 療 を 嫌 厭 す る 空 気 さ え あ り 、 し ば し ば 医 療 ネ グ レ ク ト の 対 象 に な っ て い る と も い わ れ て い る(林,2010b)。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 す る 看 護 は 難 し い と い う 思 い に か ら れ る こ と は 、こ れ ま で 異 口 同 音 に 表 現 さ れ(須 藤,2006)、精 神 科 看 護 師 に よ る 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 陰 性 感 情 や 巻 き 込 ま れ に 関 す る 報 告 は 多 く み ら れ る (鎌 井,2004;萱 間,林 2005;八 木,2003)。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 看 護 す る 際 に は 、 そ の 病 理 ゆ え に 、 患 者 自 身 の 不 安 や 怒 り な ど 、 さ ま ざ ま な 感 情 が 看 護 師 に 投 げ 込 ま れ る た め に 、 強 烈 な 陰 性 感 情 が 看 護 師 の 側 に 引 き 出 さ れ 、 未 解 決 な 葛 藤 が 刺 激 さ れ る な ど 、 冷 静 に 対 応 で き な く な る こ と が あ る 。 ま た 、 患 者 の 激 し い 衝 動 性 ゆ え の 自 傷 行 為 や 暴 力 な ど の 問 題 行 動 に 直 面 す る と き に は 、 看 護 師 自 身 の 感 情 が 激 し く 揺 さ ぶ ら れ 、 自 己 の 価 値 観 や 専 門 職 と し て の 判 断 に 葛 藤 を 覚 え や す く な る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 し 共 感 的 に 理 解 し よ う と す れ ば す る ほ ど 、 自 責 的 に 自 尊 感 情 を 低 下 さ せ て い く(野 嶋 ら,1995)と の 指 摘 は 、熱 意 を 持 っ た 看 護 実 践 が 必 ず し も 治 療 的 効 果 を 生 む こ と に つ な が る わ け で は な い と い う 精 神 科 看 護 の 特 殊 性 を 示 す も の と も い え よ う 。
し か し 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 は 、 そ の 困 難 さ が 指 摘 さ れ て い る に も か か わ ら ず 、 否 定 的 な も の ば か り で は な い 。
看 護 師 が ケ ア 場 面 で 体 験 す る 否 定 的 感 情 の 様 相 を 明 ら か に し た 小 宮(2005)の 研 究 で は 、 否 定 的 感 情 の 体 験 は 、 ケ ア の 質 を 低 下 さ せ る 要 因 と な っ て い た が 、 一 方 で 患 者 と の 間 で 感 情 を 共 有 し て 関 係 を ダ イ ナ ミ ッ ク に 転 換 す る 要 因 に も な っ て い た と 報 告 し て い る 。否 定 的 感 情 は 、他 者 へ の 救 助 行 動 や 内 省 の 過 程 を 経 る こ と で 、 質 の 高 い ケ ア の 原 動 力 と な り 、 看 護 の 質 の 保 証 に と っ て 、 重 要 な 意 味 を 持 つ と 指 摘 し て い る 。
実 際 、 筆 者 自 身 の 精 神 科 看 護 師 と し て の 自 己 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の 濃 密 な か か わ り に よ っ て 鍛 え ら れ 、 形 成 さ れ て き た と い え る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の か か わ り は 、 精 神 科 看 護 師 に と っ て 、 人 間 存 在 そ の も の へ の 問 い や 、 人 間 の こ こ ろ の 不 思 議 さ や 深 さ を 学 ぶ 機 会 と な っ て い る の で は な い だ ろ う か 。 ま た 、 自 己 と は 何 で あ る の か 、 精 神 科 看 護 師 と し て ど う あ る べ き な の か に つ い て 、 問 い 直 し が 迫 ら れ る 場 合 も あ る と 考 え ら れ る 。
そ こ で 本 研 究 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 を 記 述 し 、 そ の 意 味 を 理 解 し た い と 考 え た 。
Ⅱ . 研 究 の 目 的
本 研 究 の 目 的 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 を 記 述 し 、 そ の 意 味 を 理 解 す る こ と で あ る 。
本 研 究 で は 、「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 」 を 、DSM-Ⅳ-TR1の 診 断 に 基 づ く 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害2と 診 断 さ れ て い る 患 者 と す る 。
ま た 、 こ こ で い う 「 精 神 科 看 護 師 」 と は 、「 精 神 科 病 院 に 勤 務 す る 看 護 師 」 と す る 。
さ ら に 、 こ こ で い う 「 自 己 形 成 」 と は 、「 経 験 と 意 味 づ け の 相 互 作 用 に よ っ て 自 己 が も た ら さ れ る こ と 」 と し て 定 義 す る 。
1 D i ag n o s t ic a nd St a t is t i c M a n u a l o f Me n t a l D i so r de r s( ア メ リ カ 精 神 医 学 会 の 『 精 神 障 害 の 診 断 ・ 統 計 マ ニ ュ ア ル 』) の 第 4版 の 略 称 。
2 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と 診 断 さ れ る 際 に は 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 全 般 的 基 準 を 満 た す こ と が 前 提 と な っ て い る 。そ の 要 点 は 、① 自 己 や 他 者 や 出 来 事 に つ い て の 認 知 、② 感 情 性 、③ 対 人 関 係 機 能 、
④ 衝 動 の 制 御 、 の 4つ の 領 域 の う ち 2つ 以 上 の 領 域 で 、 内 的 体 験 お よ び 行 動 様 式 が 持 続 的 に 明 ら か に 偏 っ て い る こ と 、 そ の 持 続 様 式 は 柔 軟 性 が な く 、 個 人 的 お よ び 社 会 的 状 況 の 幅 広 い 範 囲 に 広 が っ て い る こ と 、 そ の よ う な 体 験 や 行 動 様 式 の 偏 り が 強 い 苦 痛 を 引 き 起 こ し 、 職 業 な ど 社 会 に お け る 機 能 性 を 阻 害 し て い る こ と 、 体 験 ・ 行 動 様 式 の 偏 り は 、 少 な く と も 青 年 期 ま た は 成 人 期 早 期 か ら 始 ま り 、 長 期 に 渡 っ て い る こ と 、こ う し た 特 徴 が 他 の 精 神 疾 患 に よ る も の で な く 、ま た 薬 物 や 身 体 疾 患( 頭 部 外 傷 ) の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 に よ る も の で も な い こ と で あ る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 基 準 は 9項 目 で 、 ① 見 捨 て ら れ 不 安 、 ② 不 安 定 な 対 人 関 係 、 ③ 同 一 性 障 害 、 ④ 衝 動 性 、 ⑤ 自 己 破 壊 的 行 動 、 ⑥ 感 情 の 不 安 定 性 、 ⑦ 空 虚 感 、 ⑧ 怒 り 、 ⑨ 一 過 性 認 知 障 害 で あ る 。 こ れ ら 9項 目 の う ち 、5項 目 以 上 に 該 当 す る こ と が 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 の 要 件 と さ れ る 。
Ⅲ . 本 研 究 の 意 義
本 研 究 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 を 記 述 し 、 そ の 意 味 を 理 解 す る こ と で あ る 。 そ の 結 果 と し て 、 以 下 の 成 果 が 期 待 で き る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 精 神 科 看 護 師 の 自 己 形 成 を 記 述 す る こ と は 、 普 段 の 看 護 実 践 を 深 く 理 解 す る こ と を 導 き 、 実 践 に 根 ざ し 、 経 験 に 裏 打 ち さ れ た 新 た な 知 識 や 技 能 を 発 見 す る こ と が で き る 。 ま た 、 そ の こ と に よ り 、 看 護 師 の 優 れ た 実 践 や そ れ を 阻 害 す る も の が 明 ら か と な り 、 看 護 の 質 の 向 上 に 貢 献 で き る 。
さ ら に 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 実 践 へ の 状 況 や そ の 状 況 に お け る 看 護 師 と し て の 普 遍 的 な も の を 把 握 す る こ と が 可 能 に な る 。 ま た 、 語 り 手 で あ る 看 護 師 自 身 が 自 ら の 実 践 の 担 う 意 義 を 積 極 的 に 意 味 づ け ら れ れ ば 、 精 神 看 護 の 価 値 を 高 め る こ と に 貢 献 す る と 考 え ら れ る 。
第 2 章 文 献 の 検 討
本 章 で は 、 以 下 の 項 目 に そ っ て 文 献 を 検 討 し 、 本 研 究 を 進 め て い く う え で の 課 題 に つ い て 述 べ る 。
Ⅰ . 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 概 念 の 歴 史 的 変 遷
Ⅱ . わ が 国 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 に 関 す る 研 究 の 概 観
Ⅲ . 自 己 形 成 に 関 す る 研 究 の 概 観
Ⅳ . わ が 国 の 看 護 師 の 自 己 形 成 に 関 す る 研 究 の 概 観
ま た 、 Ⅴ . と し て 本 研 究 で 使 用 す る 「 自 己 形 成 」 の 概 念 に 関 す る 検 討 を 行 う 。
な お 、境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害(borderline personality d isorder)に 関 し て は 、 境 界 例 、 境 界 性 人 格 障 害 、 ボ ー ダ ー 、 ボ ー ダ ー ラ イ ン な ど の 呼 称 が あ る が 、 本 論 文 で は 「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 で 統 一 し て 扱 う こ と に す る 。 た だ し 、 引 用 文 献 や 参 考 文 献 に お い て は 、 そ れ ら の 中 で 著 者 が 記 載 し て い る と お り の 用 語 を 使 用 し た 。
Ⅰ . 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 概 念 の 歴 史 的 変 遷
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 概 念 は 、1980 年 に 米 国 精 神 医 学 会 に よ る「 精 神 障 害 の 診 断 と 手 引 き 第 3 版 」DSM-Ⅲ に 採 用 さ れ た 。そ の 後 、現 在 の DSM-Ⅳ-TR に み ら れ る 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 概 念 に 結 実 す る ま で に は 、 数 十 年 に わ た る 議 論 の 経 緯 が あ る 。 ま ず は 、「 境 界 例 」 概 念 の 創 出 に つ い て 述 べ る 。 次 に 、1980 年 に 発 表 さ れ た DSM-Ⅲ 以 降 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 概 念 に つ い て 概 観 す る 。
1.「 境 界 例 」 概 念 の 創 出
概 念 と し て の 「 境 界 例 (borderline case)」 の 創 出 は 、1950 年 代 に ま で 遡 る こ と が で き る 。 は じ め は 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造 の レ ベ ル が 統 合 失 調 症 と 神 経 症 の 中 間 、 も し く は そ の 境 界 上 に 位 置 す る と い う 意 味 か ら 発 し た も の で あ っ た 。 Stern(1938)の 境 界 性 神 経 症(borderline neurosis )、Hock & Pollatin(1949)の 偽 神 経 症 性 統 合 失 調 症(pseudoneurotic form of schizophrenia )、Bychowski(1953) の 潜 在 性 精 神 病(latent psychosis) な ど の 概 念 は 、 神 経 症 状 態 の 内 実 に 精 神 病 性 の 障 害 を も つ 群 を 見 出 す 考 え 方 で あ る と い え る 。 こ の 考 え 方 の 背 後 に は 、 統 合 失 調 症 か そ れ と も 神 経 症 か と い う よ う に 、「 境 界 例 」を 二 分 法 的 な 見 方 で 理 解 し よ う と す る 学 問 的 姿 勢 が あ っ た(岡 田,2008)。
こ う し た 状 況 の な か 、Knight(1953)は「 境 界 状 態(borderline personality state)」
と い う 論 文 を 発 表 し 、「 境 界 例 」の 特 徴 に つ い て 、は っ き り と し た 精 神 病 で は な い が 、 比 較 的 重 篤 で あ る と い う こ と を 示 す だ け で あ る と 主 張 し 、 既 存 の 疾 病 に 位 置
づ け る 単 純 な 二 分 法 的 診 断 を 批 判 し た 。 そ し て 、 自 我 機 能 の 様 相 を 多 面 的 に 評 価 す る 必 要 性 を 説 い た 。 こ の 論 文 は 、 詳 し い 病 態 把 握 の 重 要 性 を 説 き 、 精 神 分 析 療 法 の 応 用 範 囲 の 拡 大 に 貢 献 し た た め 、 そ の 後 の 「 境 界 例 」 概 念 に 関 す る 議 論 が 展 開 し て い く 重 要 な 契 機 と な る も の で あ っ た が 、Knight が そ の 診 断 名 を 使 用 す る の に 批 判 的 だ っ た の に 対 し て 、「 境 界 例 」 と い う 用 語 を 定 着 さ せ て し ま っ た 。
1960 年 代 以 降 、「 境 界 例 」 を 既 存 の 疾 患 の 亜 型 と し て で は な く 、 ま っ た く 新 し い 観 点 に よ る も の と し て 捉 え る 研 究 が あ い つ い で 発 表 さ れ た 。
Kernberg(1967)は 、 精 神 分 析 的 視 点 か ら 、「 境 界 例 」 の 内 面 的 な パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造 の 特 異 性 に 注 目 し 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造(borderline personality organization)と い う 概 念 を 発 展 さ せ た 。境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造 は 、精 神 病 的 パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造 と も 神 経 症 的 パ ー ソ ナ リ テ ィ 構 造 と も 異 な り 、 現 実 検 討 力 は 基 本 的 に 保 た れ て い る も の の 、 分 裂 を 中 心 と し た 未 熟 な 防 衛 機 制 で 自 己 同 一 性 が 拡 散 し て い る と 主 張 し た 。
次 に 、Grincker,Werble,and Drye(1968)は 、51 名 の 「 境 界 例 」 の ケ ー ス を 対 象 に 詳 細 な 自 我 機 能 評 価 を 行 い 、 統 計 的 解 釈 を 行 っ た 。 そ し て こ れ ら の ケ ー ス を 精 神 病 的 な 境 界 例 群 、 境 界 例 症 候 群 の 中 核 群 、 神 経 症 的 な 境 界 例 群 な ど の グ ル ー プ に 分 け 、 そ の 後 の 過 程 に お い て 精 神 病 へ と 移 行 し て い か な い こ と を 見 出 し 、 一 つ の 臨 床 単 位 と し て の 境 界 性 症 候 群(borderline s yndrome)と い う 概 念 を 発 展 さ せ た 。
さ ら に Kety, Rosenthal,Wender,and Schulsinger(1968)は 、 統 合 失 調 症 を 発 症 し た 養 子 の 生 物 学 的 親 族 に は 重 篤 な 性 格 病 理 や 統 合 失 調 症 様 の 認 知 様 式 を 持 つ 人 々 が い る こ と を 見 出 し 、境 界 例 的 統 合 失 調 症(borderline schizophrenia)と い う 概 念 を 発 展 さ せ た 。
1960 年 代 後 半 に 発 表 さ れ た こ れ ら の 研 究 は 、「 境 界 例 」 を 精 神 病 の 派 生 状 態 と し て 捉 え る の で は な く 、 臨 床 単 位 と し て 積 極 的 に そ の 特 徴 を 記 述 し た も の で あ っ た 。 こ れ ら の 流 れ を 受 け て 発 展 し 、 今 日 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 概 念 の 基 盤 と な っ た の が Gunderson & Singer(1975)の 研 究 で あ る 。 彼 ら は 文 献 的 検 討 か ら 、
「 境 界 例 」 を 合 理 的 に 判 断 す る た め の 特 徴 を 抽 出 し た 。 こ の 障 害 に お け る 特 徴 と し て は 、 怒 り や 抑 う つ な ど の 不 愉 快 な 気 分 と 感 情 、 衝 動 的 行 為 、 不 安 定 な 対 人 関 係 、 精 神 病 様 の 思 考 、 社 会 不 適 応 が あ る 。 そ の 後 、 こ れ ら の 記 述 は 、 い く つ か の 研 究 を と お し 洗 練 さ れ る こ と に よ っ て 、 他 の 精 神 障 害 か ら 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 診 断 基 準 を 明 確 化 す る た め に 使 わ れ る よ う に な っ た(Gunderson &
Hoffman,2005)。
2.DSM-Ⅲ 以 降
現 在 、わ が 国 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 基 準 と し て は 、2000 年 か ら 米 国 精 神 医 学 会 の DSM-Ⅳ-TR が 使 用 さ れ て い る 。 こ れ は 操 作 的 な 診 断 基 準 と 呼 ば れ る も の で あ り 、 病 因 や 病 理 と い う こ と を 抜 き に し て 、 チ ェ ッ ク す べ き 症 状 の う ち の い く つ 以 上 が 該 当 す る 場 合 に は 、 そ の 診 断 を 下 す と 便 宜 的 に 決 め た も の で あ
る 。精 神 医 学 領 域 で は 、病 因 や 病 理 の 所 見 が 客 観 的 に 得 ら れ に く い と い う こ と や 、 症 状 の み に よ る 診 断 の 方 が 、 誰 も が 容 易 に か つ 同 一 の 基 準 で 診 断 を 行 え る と い う 点 で 有 用 性 を も つ と い う 理 由 か ら 、 広 く 使 わ れ て い る 。
DSM-Ⅳ-TR に お い て 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と 診 断 さ れ る 際 に は 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 全 般 的 診 断 基 準 を 満 た す こ と が 前 提 と な っ て い る 。
パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 全 般 の 診 断 基 準 の 要 点 は 、 ① 自 己 や 他 者 や 出 来 事 に つ い て の 認 知 、 ② 感 情 性 、 ③ 対 人 関 係 機 能 、 ④ 衝 動 の 制 御 、 の 4 つ の 領 域 の う ち 2 つ 以 上 の 領 域 で 、 内 的 体 験 お よ び 行 動 様 式 が 持 続 的 に 明 ら か に 偏 っ て い る こ と 、 そ の 持 続 様 式 は 柔 軟 性 が な く 、 個 人 的 お よ び 社 会 的 状 況 の 幅 広 い 範 囲 に 広 が っ て い る こ と 、 そ の よ う な 体 験 や 行 動 様 式 の 偏 り が 強 い 苦 痛 を 引 き 起 こ し 、 職 業 な ど 社 会 に お け る 機 能 性 を 阻 害 し て い る こ と 、 体 験 ・ 行 動 様 式 の 偏 り は 、 少 な く と も 青 年 期 ま た は 成 人 期 早 期 か ら 始 ま り 、 長 期 に 渡 っ て い る こ と 、 こ う し た 特 徴 が 他 の 精 神 疾 患 に よ る も の で な く 、 ま た 薬 物 や 身 体 疾 患(頭 部 外 傷)の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 に よ る も の で も な い こ と で あ る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 基 準 は 9 項 目 で 、 ① 見 捨 て ら れ 不 安 、 ② 不 安 定 な 対 人 関 係 、③ 同 一 性 障 害 、④ 衝 動 性 、⑤ 自 己 破 壊 的 行 動 、⑥ 感 情 の 不 安 定 性 、
⑦ 空 虚 感 、 ⑧ 怒 り 、 ⑨ 一 過 性 認 知 障 害 で あ る 。 こ れ ら 9 項 目 の う ち 、5 項 目 以 上 に 該 当 す る こ と が 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 の 要 件 と さ れ る(American Psychiatric Association,2 000)。
DSM-Ⅲ 以 降 、今 日 の DSM-Ⅳ-TR に 移 行 す る ま で の 間 に も 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 に 関 す る 議 論 は 続 い て お り 、 特 に 最 近 で は 、 統 合 失 調 症 以 外 の 精 神 疾 患 と 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と の 関 連 に 関 す る 議 論 が あ る 。 こ れ に つ い て は 、 白 波 瀬(2010)が「 こ こ ろ の 科 学 154」で 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 を 特 別 企 画 し た「 特 別 な 疾 患 か ら 普 通 の 疾 患 へ―境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 概 念 の 変 遷 」 に 詳 細 に 記 し て い る た め 、 参 考 に し て 要 約 す る 。
感 情 障 害 と の 関 連 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と 非 定 型 う つ 病 と の 関 連 が 示 唆 さ れ て き た が 、 近 年 の 研 究 で 、 現 象 学 的 研 究 や 薬 物 反 応 性 な ど の い く つ か の 点 に お い て 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と 大 う つ 病 性 障 害 と の 間 の 重 要 な 差 異 が 立 証 さ れ た 。 そ の 結 果 、 論 点 は 双 極 性 障 害 と の 関 連 へ 、 さ ら に 最 近 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 変 異 型 か 否 か と い う 議 論 へ と 推 移 し て い る 。
心 的 外 傷 と の 関 連 で は 、 心 的 外 傷 が 病 因 と し て 主 要 な 役 割 を 果 た す 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 症 例 が 存 在 す る こ と は 確 か で あ る が 、 す べ て の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 心 的 外 傷 体 験 が 病 因 で あ る と 考 え る に は 無 理 が あ る と い え る だ ろ う と 説 明 し て い る 。
発 達 障 害 と の 関 連 で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 は 、 自 分 自 身 や 他 者 の 心 的 状 態 を 的 確 に 把 握 す る 認 知 に つ い て 障 害 が あ り 、 こ う し た 流 れ か ら 、 発 達 障 害 と の 近 接 性 や 関 連 性 に 関 す る 議 論 が 生 ま れ て く る と し て い る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 概 念 は 現 時 点 で も 多 様 な 観 方 が あ り 、 そ の 治 療 も 概 念 の 歴 史 的 変 遷 に 伴 っ て 、 様 々 に 変 遷 し て き た 。 も と も と 「 境 界 例 」 と い う 概 念 は 力 動 的 な 研 究 か ら 生 ま れ て き た た め 、1970 年 代 か ら 1990 年 代 に か け て は 、 精 神 分 析 的 治 療 が 主 流 で あ っ た 。1990 年 代 に な る と 診 断 は DSM な ど の 操 作 的 診 断 基 準 に よ っ て 定 義 さ れ る よ う に な り 、 治 療 内 容 も マ ニ ュ ア ル ベ ー ス で 統 一 さ れ る よ う に な っ た 。 そ の な か で 、 も っ と も 実 証 研 究 が 行 わ れ て き た Linehan(1993)の DBT(Dialectical Behavior Therapy;弁 証 法 的 行 動 療 法)は 、 過 去 の 問 題 よ り も 患 者 の 現 在 の 社 会 的 能 力 に 注 目 し て 、 社 会 療 法 的 な 手 法 を 取 り 入 れ た 治 療 法 で 、 自 殺 関 連 行 動 の 頻 度 や 向 精 神 病 薬 の 使 用 量 、 社 会 的 機 能 の 状 況 で 有 効 性 が 示 さ れ て い る 。 し か し 、 長 期 的 に 治 療 を 行 っ た 場 合 の 治 療 効 果 は ま だ 解 明 さ れ て お ら ず 、 今 後 の 実 証 研 究 の 成 果 が 待 た れ る 。
し た が っ て 、 現 在 の よ う に 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 絶 対 的 な 治 療 方 法 が 確 立 し て い な い 状 況 で は 、 患 者 の 状 態 に 応 じ て 有 効 で あ る と 考 え ら れ る 治 療 を 組 み 合 わ せ 、複 数 の 臨 床 家 が か か わ る チ ー ム 医 療 が 有 効 で あ る と 考 え ら れ て い る(白 波 瀬,2010)。 と り わ け 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 他 の 複 数 の 精 神 疾 患 と 併 発 す る こ と が 多 く 、 病 像 が 多 様 性 に 富 ん で い る た め 、 患 者 へ の 看 護 は 個 別 の 状 況 に 応 じ た 看 護 師 の 判 断 に 委 ね ら れ て い る の が 現 状 で あ る と い え よ う 。
Ⅱ . わ が 国 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 に 関 す る 研 究 の 概 観
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 に 関 し て は 、阿 保,粕 田(2008)の「 境 界 性 人 格 障 害 患 者 の 理 解 と 看 護 」 に 詳 細 に 記 さ れ て い る 。
こ こ で は ま ず 、 阿 保 が ま と め た 1983~2006 年 ま で の 「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 の 看 護 に 関 す る 文 献 検 討 を 参 考 に し て そ の 動 向 を 要 約 す る 。 続 い て 2007~2013 年 ま で の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 に 関 す る 文 献 を 検 討 す る 。
さ ら に 本 研 究 に 関 連 が 強 い と 考 え ら れ る 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 看 護 す る 看 護 師 個 人 の 経 験 に 焦 点 が あ て ら れ た 文 献 を 検 討 す る 。
1. 阿 保 に よ る 1983~2006 年 ま で の 「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 の 看 護 に 関 す る 文 献 検 討
阿 保 は 、「 人 格 障 害 に し ろ 境 界 性 人 格 障 害 に し ろ 、 病 気 で あ る の か な い の か 、 あ る い は 概 念 的 に ど れ が 正 し い の か な ど 、 多 く の 議 論 が 現 在 も 続 い て い る こ と だ け は た し か で あ る 」(阿 保,2008,p.10)と し 、 精 神 科 医 療 の 不 明 瞭 さ を 指 摘 し て い る 。 そ し て 「 精 神 科 看 護 は 、 常 に そ う い っ た 観 念 的 な 問 題 に 首 を つ っ こ む 前 に 、 す で に 目 前 に い る 苦 悩 す る 人 々 と 向 き あ っ て き た 」(阿 保,2008,p.11)と 述 べ 、そ う い っ た 人 々 に 対 し て 、 医 療 者 が 現 実 的 に ど の よ う に 対 応 し て い る の か 、 あ る い は 看 護 し て い る の か を さ ま ざ ま な 研 究 報 告 か ら 整 理 し て い る 。
し た が っ て 阿 保 に よ る 文 献 の 検 討 は 、「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」、「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 の 両 方 が 含 ま れ る が 、 入 院 と い う 形 式 を と る 患 者 に は 「 境 界 性 パ
ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」の 診 断 が 多 い こ と 、「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」は「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 の 典 型 と い っ て よ い ほ ど 、 彼 ら が 実 際 に 引 き 起 こ す 臨 床 上 の 問 題 が 大 き い こ と か ら 、「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 の 文 献 と し て 扱 う こ と に す る 。
阿 保 は 、 医 中 誌 Web 版 を 用 い て 、 実 質 24 年 間(1983-2006 年)の 看 護 に お け る
「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」、さ ら に「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」を キ ー ワ ー ド に も つ 原 著 論 文 を 検 討 し 、 そ の 研 究 の 動 向 を 、5 年 毎 に 以 下 の よ う に 整 理 し て い る 。
1983~1987 年 は 、「 境 界 例 」 と い う 新 し い 概 念 に 触 れ 、 そ の 看 護 を 模 索 し は じ め た 時 期 で あ る 。1985 年 に は 、現 在 に お い て も な お パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 対 象 理 解 の 基 礎 と な っ て い る 精 神 力 動 理 論 を も と に し た 、 セ ル フ ケ ア モ デ ル の 創 成 期 の 粕 田 ら の 「Orem/Underwood theory に よ る Dr.Underwood に よ る 境 界 例 の ケ ー ス ス タ デ ィ 」 が 発 表 さ れ た 時 期 で あ る と し て い る 。
1988~1992 年 は 、1989 年 ご ろ ピ ー ク を 迎 え た 医 師 た ち に よ る パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 研 究 に 端 を 発 し 、 看 護 師 に よ る 発 表 件 数 が 増 加 し は じ め る 時 期 で あ る 。 こ の 間 の レ ポ ー ト で は 、 看 護 師 の 中 立 性 や 行 動 制 限 、 病 棟 規 則 な ど が 、 患 者 へ の 看 護 的 対 応 の 経 験 と の 関 係 で 報 告 さ れ て い る と し て い る 。
1993~1997 年 は 、 特 に 1994 年 に は 十 数 件 の 看 護 師 に よ る パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 原 著 論 文 が 発 表 さ れ て い る 。 内 容 と し て は 、 精 神 力 動 理 論 や 発 達 理 論 な ど を 用 い て 対 象 理 解 を 深 め よ う と す る も の や 、 患 者 と の 治 療 ・ 看 護 契 約 や 心 理 的 距 離 の 置 き 方 、看 護 師 の 意 識 の も ち 方 に 言 及 す る も の が 目 立 つ 。1995 年 に は 、野 嶋 ら が
「 精 神 科 看 護 者 の 境 界 性 人 格 障 害 に 対 す る と ら え 方 と 態 度 」 を 発 表 し 、 看 護 師 自 身 が 経 験 し て い る 患 者 に 対 し て 抱 く 感 情 や 対 処 行 動 と そ の 根 拠 な ど を 量 的 に 分 析 し て い る 。 そ の 結 果 、 看 護 者 は 彼 ら の 示 す 「 逸 脱 行 動 へ の 巻 き 込 み 」、「 自 殺 の 脅 か し 」、「 自 暴 自 棄 な 行 動 」、「 治 療 方 針 や 治 療 行 為 に 関 す る 質 問 ・ 苦 情 」、「 権 利 の 主 張 、 規 則 違 反 」、「 回 復 意 欲 の 欠 如 」 な ど へ の 対 応 に 困 難 を 感 じ て い る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。 ま た 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 に 対 す る 看 護 師 の 感 情 と 看 護 師 自 身 に 対 す る 感 情 、そ の 関 係 に 関 す る 結 果 か ら 、「 共 感 的 に 理 解 し よ う と す れ ば す る ほ ど 自 責 的 に 自 尊 感 情 を 低 下 さ せ て い く と い う 現 象 が 浮 か び 上 が る 。 患 者 の 行 動 に 圧 倒 さ れ た 時 に 、 看 護 者 は 自 己 の 力 に あ る 種 の あ き ら め 的 感 情 を も っ て い る 」 と 結 論 づ け て い る 。 こ れ に 対 し 阿 保 は 、 患 者 の 問 題 を 看 護 師 自 身 の 責 任 と し て 引 き 受 け て し ま う 当 時 の 傾 向 が よ く 反 映 さ れ て い る と 述 べ て い る 。 つ ま り 、 当 時 は 信 頼 関 係 や 安 心 で き る 環 境 を 提 供 し た り 、 看 護 師 自 身 の 自 己 洞 察 、 あ る い は 患 者 の 生 育 史 に 目 を 向 け る こ と か ら 患 者 と か か わ ろ う と し て い る と し 、 医 学 的 治 療 へ の 積 極 的 な 協 力 や 薬 物 へ の 期 待 な ど 、 精 神 科 看 護 の 方 法 を で き る だ け 多 様 に 活 用 し て い た と し て い る 。 ま た 、 こ の 時 期 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 病 理 に 対 す る 看 護 師 の 見 解 に つ い て は 、「 親 の し つ け が 不 十 分 で あ る 」、「 社 会 性 が 未 発 達 で あ る 」 と い っ た 見 解 の ほ か 、 社 会 的 風 潮 の 乱 れ を 含 む 社 会 的 因 子 や 性 格 上 の 問 題 、 精 神 的 修 養 不 足 、 反 抗 な ど か ら な る 性 格 的 因 子 を と ら え る 傾 向 が あ り 、 器
質 的 因 子 と し て と ら え る 傾 向 が 最 も 少 な か っ た と し て い る 。 病 気 と し て と ら え る 傾 向 が 低 い 一 方 で 、 医 学 的 治 療 に は 高 い 期 待 を 寄 せ る と い う 矛 盾 し た 結 果 は 、 当 時 の 看 護 師 の 混 乱 と 戸 惑 い を 表 し て い る と も 述 べ て い る 。
1998~2002 年 は 、境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 が 引 き 起 こ す 問 題 行 動 へ の 看 護 経 験 に 焦 点 を あ て た 報 告 が み ら れ る よ う に な る 。 依 然 と し て 問 題 行 動 を と り あ げ る 傾 向 は 続 く も の の 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 病 理 を 理 解 し て の か か わ り や 、具 体 的 な 援 助 の 方 法 に 関 す る 報 告 も み ら れ る 。こ れ ら に は 、「 見 捨 て ら れ 不 安 」 や 、看 護 師 間 で の「 統 一 し た 対 応 」、「 治 療 チ ー ム 」と し て の か か わ り 、「 父 性 的 口 調 で の 生 活 指 導 」 と い っ た 表 現 が み ら れ 、 精 神 力 動 的 理 解 が 少 し 取 り 入 れ ら れ て き て い る こ と が わ か る と 述 べ て い る 。 し か し 、 同 時 に 傾 聴 を 基 本 と す る 支 持 的 援 助 の 効 果 を 述 べ た 報 告 も み ら れ る と し て い る 。
2003~2006 年 は 、2000 年 以 降 に 見 ら れ は じ め た 傾 向 で 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 峙 し た と き に 看 護 師 が 抱 く 感 情 や 、 患 者 と 看 護 チ ー ム と の 間 に 生 じ る 葛 藤 に 焦 点 を あ て た 報 告 が 多 く み ら れ る 。 ま た 、 他 職 種 と 連 携 を と り な が ら 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 地 域 で サ ポ ー ト し よ う と す る 試 み や 、 外 来 、 訪 問 看 護 、 保 健 所 な ど 、 病 棟 以 外 で の 看 護 実 践 の 報 告 が あ る の も 特 徴 的 で あ る 。
そ の 中 で 特 筆 す べ き も の と し て 、2003 年 の 鈴 木 の 「 境 界 性 人 格 障 害 に 関 す る わ が 国 の 最 近 6 年 間 の 文 献 的 研 究―看 護 上 の 問 題 行 動 に 焦 点 を 当 て て 」 を あ げ て い る 。 こ れ は 、1995~2000 年 ま で の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 に 関 す る 既 出 文 献 を 総 覧 し 、 患 者 の 問 題 行 動 に 対 す る 研 究 を 整 理 、 分 析 し た も の で 、 有 効 と 考 え ら れ る 看 護 実 践 を 導 き 出 し た も の で あ る 。 結 論 と し て は 、 ま ず 、 患 者 の 問 題 行 動 を ア セ ス メ ン ト し 、① 中 心 的 症 状( 対 人 関 係 、感 情 の 不 安 定 さ 、衝 動 性 )、具 体 的 な 問 題 行 動 を 把 握 す る 、 ② 主 な 問 題 行 動 で あ る 衝 動 行 為 、 操 作 性 、 依 存 性 は 単 一 な も の で は な く 、 関 連 づ け て 捉 え 、 患 者 の 発 達 過 程 や 力 動 的 視 点 か ら 捉 え る と し て い る 。 次 に 、 患 者 の 問 題 行 動 へ の 対 応 と し て 、 構 造 化 さ れ た 治 療 的 環 境 を 提 供 す る た め に 、 ① 生 命 の 危 険 を 守 る た め 、 自 身 を コ ン ト ロ ー ル す る と い っ た 限 界 設 定
(Limits Setting) の 必 要 性 を 事 前 に 説 明 し 、 同 意 を 得 る 、 ② 規 則 は 厳 守 す る よ う に 促 し 、 必 要 以 上 の 要 求 に 対 し て 受 け 入 れ ら れ な い と 伝 え る 、 ③ 違 反 し た 場 合 の 現 実 的 具 体 的 な 対 応 、 約 束 事 を 決 め て お く 、 ④ 医 師 の 治 療 、 方 針 を 知 り 、 連 携 を 図 り な が ら 一 貫 し た 対 応 、 看 護 を 実 施 す る と し て い る 。 ま た 、 自 殺 企 図 、 自 傷 行 為 に 対 し て は 、① 操 作 的 で あ っ て も 積 極 的 に 介 入 し て い く 、② 制 限 設 定 の 確 認 、 振 り 返 り 、 枠 組 み の 変 更 を 行 い 、 カ ン フ ァ レ ン ス を 通 じ 、 情 報 交 換 す る と し て い る 。 最 後 に 、 支 持 的 精 神 療 法 を 取 り 入 れ 、 ① 健 康 な 自 我 ( 現 実 原 則 に 添 っ た 反 省 的 な 機 能 を 持 つ 自 我 ) を 支 持 し て い く 、 ② 健 康 な 自 我 に 働 き か け 、 セ ル フ ケ ア 能 力 を 高 め 、 自 立 、 成 長 を 促 す 援 助 を 行 う と し て い る 。
こ れ に つ い て 阿 保 は 、2003 年 ま で の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 に 関 す る 研 究 の 、一 応 の 総 括 と み る こ と が で き る と 述 べ て い る 。し か し 、「 よ く ま と ま っ た 看 護 援 助 の 方 法 で あ る と 評 価 で き る 一 方 で 、 実 際 に は 、 こ う い っ た 援 助 を 支
え る た め の 学 習 や 他 の 医 療 職 と の 連 携 、 看 護 師 自 身 の 精 神 的 ・ 感 情 的 修 練 、 マ ン パ ワ ー や 援 助 の た め の 環 境 づ く り な ど 、 ど れ 1 つ を と っ て も 困 難 な 問 題 が 立 ち は だ か っ て い る と い え る だ ろ う 」(阿 保,2008,p.36) と 指 摘 し て い る 。 ま た 阿 保 は 、 現 在 は 2000 年 以 前 の よ う に 医 学 的 治 療 に 期 待 す る と い う こ と は な く な っ て き て い る と し 、 患 者 の 病 理 や 心 理 の 精 神 力 動 的 理 解 が 一 歩 前 進 し て き た よ う に 思 え る と 述 べ て い る 。 し か し 、 精 神 力 動 的 理 解 が 逆 に 看 護 師 の 感 情 を も 説 明 し て し ま う た め 、 報 告 に は 看 護 師 自 身 の 感 情 の 処 理 に つ い て は 触 れ ら れ る こ と が 少 な く な っ て い る と も 述 べ 、 ま だ ま だ 研 究 の 蓄 積 は 少 な い と 指 摘 し て い る 。
2.2007~2013 年 ま で の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 看 護 に 関 す る 文 献 検 討
看 護 に お け る「 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」の 原 著 論 文 を 医 中 誌 Web 版 を 用 い て 2007
~2013 年 で 検 索 す る と 、67 件 の 投 稿 が あ る が 、 さ ら に 「 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」を キ ー ワ ー ド に も つ 論 文 を 抽 出 す る と 、33 件 と な り 、そ の 大 多 数 を 事 例 報 告 が 占 め る 。 そ れ ら の 文 献 の 内 容 を 整 理 す る と 、 や は り こ こ で も 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 病 理 を 理 解 し て の か か わ り と 具 体 的 な 援 助 の 方 法 に 関 す る 報 告 が 多 数 を 占 め る 。
こ れ に は 、 患 者 - 看 護 師 関 係 を 考 察 す る と と も に 看 護 の 役 割 に つ い て 明 ら か に し た 報 告(石 部,2008;夏 堀,2007;吉 田 ら,2009)や 医 療 チ ー ム で か か わ る こ と の 重 要 性 を 述 べ た 報 告(夏 堀,2010;島 田,2010)が 含 ま れ る 。 ま た 、 受 け 持 ち ナ ー ス の 役 割 か ら チ ー ム の あ り 方 に つ い て 検 討 し た も の や(佐 々 木,2008)、重 要 他 者 と の か か わ り に 焦 点 を あ て 、 そ の か か わ り の 内 容 と 変 遷 を 分 析 し 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 対 象 理 解 の 視 点 を 検 討 し た 研 究(那 須,2007,2008,2009)が み ら れ る 。さ ら に 、家 族 と い う 視 点 が 加 わ っ て 、 特 に 母 親 を 中 心 と し た 家 族 支 援 の 必 要 性 を 述 べ た 報 告 (阿 部,2008; 知 識,2008)が み ら れ る よ う に な っ て き て い る こ と も 特 徴 と し て あ げ ら れ る 。
ま た 、 こ れ ま で に み ら れ な か っ た 新 た な 研 究 と し て は 、「 境 界 例 」 の 入 院 治 療 体 験 を 持 つ 成 人 の 男 性 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 確 立 過 程 に お け る 体 験 の 構 造 を 、 当 事 者 の 視 点 か ら 明 ら か に し た 報 告(石 橋,2010)が み ら れ る 。こ れ は 、境 界 例 の 入 院 治 療 体 験 を 持 つ 成 人 の 男 性 を 対 象 に 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 確 立 過 程 に お け る 「 体 験 」 の 構 造 を 、 退 院 後 20 年 を 経 た 後 の 自 ら の 語 り を と お し て 明 ら か に し た も の で あ る 。対 象 者 は 、幼 少 期 か ら 母 親 と の 離 別 、父 親 と の 死 別 、希 薄 な 親 戚 関 係 か ら「 見 捨 て ら れ 体 験 」 を 繰 り 返 し 、 そ れ が ト ラ ウ マ に な っ て 感 情 の 爆 発 や 突 然 の 卒 倒 な ど の 行 動 化 を 起 こ し て い た 。 そ し て 入 院 体 験 を タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト に 、 職 場 の 同 僚 や 妻 の 支 え に よ っ て 対 象 者 の リ ジ リ エ ン ス は 高 ま り 、 仕 事 上 の 成 功 体 験 、 守 る べ き 家 族 の 存 在 に よ っ て 、 こ こ ろ の 傷 は 癒 さ れ 、 自 己 の 再 構 成 を 遂 げ て い っ た と い う 。 石 橋 は 、 看 護 実 践 へ の 示 唆 と し て 、 境 界 例 患 者 の 持 つ 病 理 は 、 看 護 役 割 を 自 覚 し つ つ も 患 者 の 自 己 中 心 的 な 行 動 に 否 定 的 感 情 を 抱 き 、 看 護 者 自 身 の 傷 つ き 体 験 に つ な が る 特 徴 を も つ と し 、 こ う し た 悪 循 環 を 止 め る た め に は 、 看 護 者 自 身 の 内 面 的 洞 察 と 自 己 理 解 を 通 じ て 、 患 者 の 生 育 歴 の 十 分 な 分 析 に 基 づ い て 関 わ り
の 糸 口 を 探 り 、 自 立 生 活 を 送 れ る よ う 自 ら が 自 覚 す る 方 向 で 支 援 す る 必 要 性 が あ る と 述 べ て い る 。
こ の 時 期 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 に 関 す る 研 究 で は 、「 看 護 師 と し て ど の よ う に 患 者 と か か わ る か 」、「 チ ー ム は ど う あ る べ き か 」 な ど 、 患 者 へ の 看 護 実 践 に 向 け て の 問 題 解 決 志 向 性 の 強 い 視 点 で 行 わ れ た も の が 中 心 と し て 行 わ れ て き た こ と が 示 さ れ た 。
3. 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 看 護 す る 際 に 生 じ る 看 護 師 の 経 験 に 関 す る 文 献 検 討
こ こ で は 、 本 研 究 の テ ー マ で あ る 「 自 己 形 成 」 に 深 く 関 連 す る と 考 え ら れ る 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 看 護 師 の 経 験 に 注 目 し て 、 特 に 主 要 な 4 つ の 文 献 に つ い て 詳 述 す る 。
野 嶋 ら(1995)は 、 精 神 科 看 護 者 に と っ て 看 護 が 難 し い と さ れ て い る 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 す る 経 験 や 見 解 を 、7 病 院 の 精 神 科 看 護 者 278 名 を 対 象 と し て 質 問 紙 調 査 を 行 い 、 デ ー タ を 量 的 に 分 析 し て い る 。
そ の 結 果 、看 護 者 は 彼 ら の 示 す「 逸 脱 行 動 へ の 巻 き 込 み 」、「 自 殺 の 脅 か し 」、「 自 暴 ・ 自 棄 な 行 動 」、「 治 療 方 針 や 治 療 法 に 関 す る 質 問 ・ 苦 情 」、「 権 利 の 主 張 、 規 則 違 反 」、「 回 復 意 欲 の 欠 如 」 な ど の 問 題 行 動 へ の 対 応 に 困 難 を 感 じ て い る と し て い る 。
ま た 、 看 護 師 の 患 者 に 対 す る 感 情 と し て は 、「 わ か る よ う な 気 が す る 」、「 痛 ま し い 」、「 気 の 毒 」「 心 配 」と い う 肯 定 的 な 感 情 が 含 ま れ て お り 、否 定 的 な 感 情 に は
「 怒 り 」、「 嫌 悪 感 」、「 苛 立 ち 」「 迷 惑 」が 含 ま れ て い た と し て い る 。そ の 両 者 を 比 較 し 、 看 護 者 は 、 患 者 に 対 し て 肯 定 的 な 感 情 で 捉 え る 傾 向 が 高 い と し て い る 。 し か し 、 看 護 者 が 患 者 を 否 定 的 に 理 解 し よ う と 肯 定 的 に 理 解 し よ う と 、 結 局 は 自 己 に 対 し て 、 否 定 的 な 思 い を 経 験 す る こ と に な り 、 自 己 の 力 に 対 し て あ き ら め 的 な 感 情 を 持 ち 、 回 避 的 な 対 処 を と る 傾 向 が み ら れ る と し て い る 。
さ ら に 、 看 護 者 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 し 共 感 的 に 理 解 し よ う と す れ ば す る ほ ど 自 責 的 に 自 尊 感 情 を 低 下 さ せ て い く と い う 現 象 が あ る と し て い る 。 ま た 、 こ の こ と が 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 が 難 し い と さ れ る 理 由 で あ る と 指 摘 し て い る 。
そ し て 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 の 困 難 さ は 、 自 己 へ の 脅 か し を も た ら す と し て 、1988 年 の 南 の 看 護 師 の 燃 え つ き 現 象 に 関 す る 仮 説 に た ち 、「 看 護 者 の 機 能 に 関 す る 葛 藤 」、「 看 護 婦 の 地 位 に 関 す る 葛 藤 」、「 看 護 婦 の 意 思 決 定 に 関 す る 葛 藤 」、「 患 者 に 対 す る パ ラ ド ッ ク ス 的 な 葛 藤 」 の 4 つ が 深 く 関 与 し て い る と 考 察 し て い る 。
最 後 に 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 し て 肯 定 的 な 感 情 を 持 ち 、 看 護 に や り が い を 感 じ て い る 看 護 者 の 特 徴 は 、 積 極 的 な 対 処 を と る こ と の ほ か に も 、 経 験 年 数 が 長 く 、 病 気 を 性 格 的 な も の で は な く 、 器 質 的 な も の と し て と ら え 、 生 活
モ デ ル を 重 視 し て い る 傾 向 が あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。
こ の 論 文 で は 、 看 護 者 は 、 患 者 に 対 し て 肯 定 的 な 感 情 で 捉 え る 傾 向 が 高 い と し て い る が 、 い ず れ に せ よ 、 結 局 は 自 己 に 対 し て 、 否 定 的 な 思 い を 経 験 し 、 回 避 的 に 対 処 せ ざ る を え な い 難 し い 状 況 と な っ て い る こ と 明 ら か に し て い る 。 ま た 、 看 護 者 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 に 対 し 共 感 的 に 理 解 し よ う と す れ ば す る ほ ど 自 責 的 に 自 尊 感 情 を 低 下 さ せ て い く と い う 現 象 が あ る こ と か ら 、 多 く の 葛 藤 を 抱 え て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 し か し 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 の 経 験 を 看 護 師 自 身 が ど の よ う に 意 味 づ け て い る の か に つ い て は 示 さ れ て お ら ず 、 そ の 理 解 を 深 め る こ と が 求 め ら れ る 。
次 に 、 看 護 チ ー ム で 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 (「 ボ ー ダ ー 」) と か か わ る 際 に 生 じ る 感 情 に つ い て 詳 し く 述 べ ら れ た 八 木(2003)の 論 文 が あ る 。 こ こ で は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 へ の 看 護 を と お し た 看 護 師 個 人 の 経 験 に つ い て も 触 れ ら れ て い る た め 、 み て い く こ と に す る 。
八 木 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と 呼 ば れ る 人 々 が ひ と た び 入 院 し た 以 上 、 看 護 者 は そ の 病 理 を 秘 め て い る 人 々 を 抱 え る 煩 わ し さ か ら 逃 げ る こ と は で き な い と し 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 と の か か わ り を 振 り 返 る こ と は 、 看 護 師 と し て の 自 分 の 中 に あ っ た 感 情 に 葛 藤 を お ぼ え 、 つ ら い 作 業 に な る と 述 べ て い る 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 看 護 師 が 受 け 入 れ ら れ な い 理 由 の 一 つ と し て 、「 ボ ー ダ ー 性 」の 神 出 鬼 没 さ を あ げ 、そ の 診 断 名 が 付 さ れ て い る 患 者 で あ れ ば 、 ど ん な 問 題 が 出 て く る の か と 構 え ざ る を 得 な い と い う 。 な ぜ な ら 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 最 も 厄 介 な 病 理 と は 集 団 に 投 げ か け る 強 い 影 響 力 や 感 化 力 で あ り 、 衝 動 性 で あ れ 操 作 性 で あ れ 、 一 人 の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 が 持 つ 強 い 感 染 力 は 確 実 に 看 護 師 間 や 他 の 患 者 た ち に 影 響 を 与 え て い く と 述 べ て い る 。
ま た 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 感 情 爆 発 と い う 影 響 力 は 、 患 者 集 団 に 不 穏 の ド ミ ノ 倒 し を 引 き 起 こ し 、 さ ら に 病 棟 単 位 で 看 護 集 団 に マ イ ナ ス 感 情 を 充 満 さ せ る と し て い る 。
特 に 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 受 け 入 れ は じ め た こ ろ に は 、 看 護 師 が 患 者 に よ っ て 操 作 さ れ や す い 好 条 件 が あ っ た と い う 。 そ れ は 、 こ れ ま で の 看 護 チ ー ム は 長 い 間 統 合 失 調 症 患 者 中 心 に 看 護 を し て き た の で あ り 、 親 身 に な っ て 世 話 を す る 距 離 の 近 い 看 護 で あ っ た め 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 操 作 を 受 け や す い の で あ る と い う 。
境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 の 看 護 は と に か く し ん ど い も の で あ り 、 そ れ を 説 明 す る の が ま た し ん ど い 作 業 で あ る と し 、そ の 理 由 と し て 、集 団 を 巻 き 込 む「 操 作 」 に よ る 影 響 力 が 、 看 護 師 た ち の 無 意 識 領 域 を 揺 り 動 か す 不 気 味 さ を 秘 め て い る か ら だ と 述 べ て い る 。
八 木 は ま た 、 多 く の 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 患 者 を 抱 え る 病 棟 の 看 護 師 で あ れ ば 、 そ の 巻 き 込 ま れ 方 は み な 違 っ て も 「 巻 き 込 ま れ る 」 こ と を 経 験 し な い 人 は い な い の で は な い だ ろ う か と 述 べ 、 巻 き 込 ま れ の パ タ ー ン を 記 述 し て い る 。