博士論文審査報告書
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(2) レドックス活性基を密度高く含有する有機ポリマーはレドックスポリマー と呼ばれ、電気化学反応に基づく電荷輸送・貯蔵を担う湿式デバイスの構成 材として、光電変換、電荷貯蔵、センサーおよび表示用途に適した分子構造 が 広 く 探 求 さ れ て い る 。 電 子 供 与 ( p) 型 お よ び 受 容 ( n) 型 の レ ド ッ ク ス ポ リマーを電極活物質とした充放電デバイスに関する研究では、脂肪族主鎖に 密度高くレドックス活性基を置換させた構造が、高い電荷貯蔵密度と充放電 のレート特性の両立に寄与することが見出され、柔軟な主鎖による物質移動 (対イオンによる電荷補償過程)の促進がポリマー層の厚みに適合した電荷 有限拡散につながることが明確になっている。有機物ならではの主鎖および レドックス活性基の設計自由度は、酸化還元電位や反応速度の自在な制御を 可能とし、安定ラジカルの一つであるニトロキシドを置換したポリマーによ る p 型電荷貯蔵を成功例として、当該設計指針の有用性が立証されている。 しかし、n 型レドックスポリマーの例は極めて尐なく、これまで電子求引基 や拡張π共役系を導入した安定ラジカル種がその一群を形成しているのみで あった。これらは一般にレドックス前後での膨潤性(電荷補償能)の確保と 溶出抑制の両立が困難で、電極成形に際し相当量の炭素材料を導電付与剤と して添加する必要があるなど取扱いにも工夫を要し、n 型材料として可逆か つ高密度な電荷貯蔵を可能とする斬新な物質開拓が課題となっていた。 このような背景のもと、申請者は式量あたりの電荷保持密度が高く、かつ 化学安定度も高い n 型レドックス活性基を置換した高分子を新しく合成し、 水素結合効果の援用と、膨潤・電荷保持を可能とする主鎖選択により、高密 度な負電荷貯蔵を実現した。さらに、材料設計のスケール性を分子レベルか らナノ寸法へ拡張し、電荷貯蔵能を最大にする導電性ネットワーク構築を目 指す過程で、カーボンナノチューブの分子分散と、ポリマーとの複合化に関 する斬新な知見を得た。 本論文は 7 章から構成されており、以下に各章の要点と評価を述べる。 第 1 章では、n 型レドックスポリマーの分子構造、電荷輸送・貯蔵特性に ついて要領よく概説するとともに、本論文の位置づけと目的を的確に記述し ている。また、一連の n 型レドックス活性分子の熱力学的、速度論的挙動に 対する電解液、対イオンおよび分子間相互作用の効果に関する従来知見につ いても簡潔に記述し、本論文の目的と意義を明確に論じている。 第 2 章では、レドックス中心として、ベンゼノイド/キノイド型の双安定 性を示す分子を幅広く探索している。過酸化水素の合成触媒として工業的に も 利 用 さ れ る ア ン ト ラ キ ノ ン が 、 非 水 電 解 液 中 、 -0.8 V 近 い 卑 な 電 位 に て 可 逆的 n 型 2 電子酸化還元を示すことに着目し、多様なアントラキノン類につ いてレドックス活性基としての基礎的性質を明らかにしている。高分子反応 によりアントラキノンを導入率高く置換したポリスチレンが、複数回の電解 還元、再酸化に対して安定であり、高分子量のポリスチレン主鎖が膨潤およ び電荷保持に有効であるとの知見を明確にしている。特に、電解液質水溶液 1.
(3) 中における単一電位での 2 電子酸化還元が、分子内水素結合効果を受けたジ アニオン状態の安定化によることを、アニオン、ジアニオン間の自由エネル ギー差を指標に解明している。これに基づき、水素結合数の増加によって 1 段階 2 電子酸化還元が可能となる知見を論理的に導出した点は高く評価でき る。電極反応速度に与える影響についても定量的に解析し、水素結合数に応 じた電子移動速度の直線的増大を立証しており、多点水素結合と速度定数の 相関について重要な示唆を与えている。 第 3 章では、第 2 章までに議論された設計指針に基づき、高い理論電荷密 度 を 実 現 可 能 な ポ リ ( 2 - ビ ニ ル ア ン ト ラ キ ノ ン ) ( P VA Q ) を 設 計 し 、 種 々 の 条件検討を経て、従来困難とされたモノマーの重合に初めて成功し、高分子 量 体 を 得 て い る 。 P VA Q は 水 電 解 液 中 、 強 塩 基 性 条 件 下 に お い て 分 解 な く 安 定な酸化還元を示すことを見出し、通常強塩基を要する酸素還元正極触媒と の適合性を明らかにしている。ジアニオンのプロトン解離条件で急激な膨潤 を 認 め 、 電 荷 補 償 過 程 の 同 時 観 測 か ら そ の 定 量 的 描 像 に 至 っ て い る 。 P VA Q は レ ド ッ ク ス 中 心 あ た り の 2 電 子 酸 化 還 元 に 基 づ く 200 mAh/g 以 上 の 容 量 を 示 し 、 こ れ ま で に 報 告 さ れ て い る 共 役 系 お よ び 脂 肪 族 レ ド ッ ク ス ポ リ マ ー の中で最大の電荷密度を達成している。これを負極活物質として、酸素を正 極 活 物 質 と し た P VA Q / 空 気 電 池 を 作 製 し 、 室 温 大 気 下 開 放 型 の 試 作 セ ル に お い て 300 サ イ ク ル 以 上 の 安 定 な 充 放 電 挙 動 を 達 成 し て い る 。 斬 新 な 有 機 系 空気電池の提案とその優れた充放電特性の実証は、酸素の還元電位と n 型ポ リマーの電位差に関する考察と合わせ、意義ある成果と認められる。 第 4 章では、n 型トランジスタ材料などとして研究されている縮合環芳香 族を有するイミド化合物をレドックス中心とした n 型レドックスポリマーに 着目し、ポリイミドによる電荷貯蔵を目指した成果を論述している。芳香族 イミド類の基礎的性質を、酸化還元電位と補償イオン種の観点から検討し、 体系的に電気化学特性を解明している。これらイミド構造を含むポリイミド は緻密なパッキング構造により強靭なフィルムを形成し、電気化学的に不活 性であるが、前駆体ポリアミド酸の段階で気相成長炭素繊維と湿式混合し、 ナノ寸法の前駆体ポリマー層を炭素上に形成したのち熱イミド化するプロセ スで、ポリイミドの電気化学的な活性を引き出すことに成功している。負電 荷 貯 蔵 の 実 証 と 、全 反 射 I R 、顕 微 観 察 お よ び X 線 回 折 に よ る 構 造 ・ 形 態 観 察 の結果は、新しい n 型ポリマーの設計指針を明確に示したものとして高く評 価できる。 第 5 章 で は 、レ ド ッ ク ス ポ リ マ ー と 導 電 性 炭 素 材 料 と の 複 合 構 造 に 着 目 し 、 単 層 カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ ( SWNT ) が 形 成 す る 導 電 性 ネ ッ ト ワ ー ク が 電 極 全体としての電荷密度を最大にしうるとの着想を、複合電極の性質から実証 し て い る 。 チ ュ ー ブ 間 の ス タ ッ ク に よ り バ ン ド ル 形 成 す る SWNT を 、 レ ドックスポリマーであるポリ(ニトロキシドラジカル置換メタクリレート) ( PTMA) に よ り 被 覆 ・ 分 散 安 定 化 し 、 界 面 活 性 剤 や 化 学 修 飾 の 適 用 な く 導 2.
(4) 電 性 を 維 持 し な が ら 高 分 散 体 を 得 て い る 。さ ら に 、こ の P T M A 被 覆 し た S W N T を PTMA 中 に 均 一 配 置 す る こ と に よ り 、微 量 な 炭 素 含 有 量 で 導 電 性 レ ド ッ ク ス ポ リ マ ー 電 極 の 形 成 に 成 功 し て い る 。得 ら れ た 電 極 は 光 学 的 透 明 性 を 有 し 、 極めて高速な充放電も達成しており、光電極への展開の可能性も含め、応用 範囲を広げる重要な成果となっている。 第 6 章では、カーボンナノチューブに電荷貯蔵機能を付与し、導電性と電 荷貯蔵特性を両立させた修飾カーボンナノチューブの生成法を確立した。レ ドックスポリマーを分散度低く重合し、定量的に活性エステルを末端修飾し た 後 、 ア ミ ノ 化 し た 多 層 カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ (MWNT)と 縮 合 す る 独 創 的 手 法 で 、 高 密 度 な グ ラ フ ト 化 MWNT を 合 成 し て い る 。 TEM 観 察 で は MWNT 上 に均一なポリマーの被膜を確認し、特性評価においては定量的電荷貯蔵特性 とチューブ間の接触による高い導電性を立証している。二次凝集力に依らず 共有結合で分散固定した複合電極が、電解反応に対する理想的サイクル安定 性を示すことを初めて明らかにした成果は、本論文の根幹をなす一つの重要 知見であり、カーボンナノチューブの物性開拓面でも意義ある成果と認めら れる。 第 7 章では、本研究の成果を総括し、レドックスポリマーを用いた電荷輸 送・貯蔵に関わる将来展望について言及している。 以上のように、本論文は高密度にレドックス中心を有する斬新な n 型レド ックスポリマーを新しく合成し、分子構造、電解液との相互作用、形態、導 電性材料との複合化による高密度化に向けた設計指針をまとめたもので、電 気化学特性を中心とした機能性高分子の合成と応用に関する一つの新展開を 論述している。よって、本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるも のと認める。 2012 年 1 月 審 査 員 (主 査 ) 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士 (早 稲 田 大 学 ). 西出 宏之. 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士 (早 稲 田 大 学 ). 逢坂 哲彌. 早 稲 田 大 学 准 教 授 博 士 (工 学 )早 稲 田 大 学. 小柳津 研一. 光 州 科 学 技 術 院 教 授 Ph.D, M.D.(Tübingen 大 学 ) Kurt E. Geckeler. 3.
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