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高等学校交換留学生の日本語指導に 関する一考察

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0.はじめに

現在、民間の国際交流団体1や姉妹校提携等による高等学校レベルでの交換留学が盛ん に行われている。高等学校交換留学生(以下、高校留学生とする)2は、ホストファミリー や学校のクラスメート等の日本語母語話者に囲まれて過ごし、その中で様々な体験をし ながら日本語を学んでいくという特徴を持つ。つまり、高校留学生は日本語能力の如何に 関わらず、来日当初から日常の様々な場面で日本語やその他の手段を用いてコミュニケー ションを行っていく必要があると言える。

このような高校留学生の留学生活の充実を考えた場合、彼らにとって日本語能力の向 上、日本語教育からの支援の重要性は高いのではないだろうか。しかし、高校留学生の 日本語教育に注目した研究は塩沢(1991)、村野(2001)、岡部(2002)等があるが、村野

(2001)の学習ストラテジーの指導以外はカリキュラム改善や教材案の提案にとどまって おり、実践報告等は極めて少ないと言える。

そこで本研究では、先ず関係者に行ったインタビューから高校留学生の日本語指導に必 要な視点を分析し、それを生かした指導案として、ネットワーク作りを目的とした指導案 を考察した。そして筆者がその指導案を実施した高校留学生2名のケースを分析し、そ の有効性と課題を考察することで、高校留学生の日本語指導に関する提案を行っていきた い。

関する一考察

̶ ネットワーク作りを目的とした取り組み について ̶

稲葉 美穂

キーワード

高等学校交換留学生・授業外の課題・「インタビュー・タスク」・

人間関係(ネットワーク)作り・双方向の学習

(2)

1.高校留学生の日本語習得、日本語学習の問題点

1. 1 予備調査から考えられる問題点

高校留学生にどのような日本語教育、日本語指導が必要であるかを探るために、受け入 れ関係者5名(国際交流団体ボランティア2名、留学生受入担当教師1名、ホストファミ リー経験者2名)と筆者が指導していた高校留学生1名3に予備調査としてインタビュー を行った。そのインタビューで、次のような問題点が挙げられた。

①コミュニケーション上の問題点

先ず「やさしい日本語で話すのだが、留学生が『分かった』と言っても、分かっていな いことがあった(5月ごろ)。」(ホストファミリー経験者)のような、日本語でのコミュ ニケーションが難しい1学期目におけるコミュニケーション上の問題点である。これは

「夏休み以降、日本語でのコミュニケーションに不自由しなくなると、Yes/Noをはっき り主張するようになった」(受入校教師)というように、日本語能力の向上につれて解決 する問題であると思われるが、日本語でのコミュニケーションが難しい1学期目に関して は、上記のようなコミュニケーション上の行き違いも多いのではないだろうか。

②周囲の人々との人間関係作りに関する問題点

「最初の3ヶ月(1学期目)に、友達ができない、ホストファミリーと話ができない、

という孤独感を感じるということが、ほとんどの留学生に共通していると思う。」(受入校 教師)というように、周囲の人々との人間関係作りに関する問題点も複数挙げられた。コ ミュニケーション上の行き違いが1学期目に多いということを考え合わせると、高校留学 生の日本語能力によっては、日常生活での意思疎通も難しく、人間関係を築いていくこと も難しい、という状況なのではないだろうか。

③日本語指導の問題点

筆者が指導を担当していた高校留学生は、日本語の授業でやって欲しかったことについ て「外で友達と話すテーマ(内容)は、生活の言葉と少し違う。教科書とも違う。(中略)

(友達と話すために)授業で、自分のことや、自分の話したいことを話して、そのための 言葉や、どう言ったらいいかを勉強したり、練習したかった。」とコメントしている。こ の高校留学生は、主に一般社会人を対象とした日本語教科書を中心に指導を行っており、

教科書の語彙や表現が、実際に高校生活で触れていたもの、また友達と話す時に使うもの に即していなかったことが考えられる。これは、高校留学生の日常のコミュニケーション と日本語指導を結び付ける必要があったことを示唆していると思われるが、日本語教科書 を使用した授業だけでは、それが難しかったと言えるであろう。

1. 2 高校留学生の日本語指導に必要な視点

では、以上のような特徴や問題点から、高校留学生の日本語指導に必要な視点を考えて みたい。先ず①最初の段階(特に最初の1学期間)で、周囲の人々との関係を築くため の切っ掛けが必要なのではないか、ということが考えられる。高校留学生の生活環境は日 本語母語話者と関わることが多く、日本語でのコミュニケーションの機会に恵まれた環境 であると言えるであろう。しかし、特に日本語でのコミュニケーションに苦労する最初の 1学期間は、周囲の人々との関係を築いていくのが難しいことが予備調査の結果から伺え

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る。これは、日本語習得という側面から見ると、ネットワークを作るという「社会的スト ラテジー」(ネウストプニ―1995、宮崎・ネウストプニー1999)4に関することであると 思われるが、高校留学生は日本語能力等により、周囲の人々とのネットワークを作ること が難しい状況であると言えるであろう。故に、このようなネットワーク作りに対する、日 本語教育という立場からの支援が必要であると思われる。また、留学生活の充実という面 からも周囲の人々との関係作りは必要であろう。

次に②初めから「話す」ことを積極的に取り入れること、また高校留学生の興味・関 心に即した話題が必要である、ということが考えられる。「来日直後から日本の受け入れ 家庭と高校を中心に生活する」(村野2001:21)高校留学生は、留学生活の最初の段階か ら日本語でのコミュニケーションが必要であり、「話す」ことを積極的に日本語指導に取 り入れる必要があると思われる。そして、それには高校留学生が話したいことを日本語で 話せるようにサポートするという視点が必要であろう。このような視点から「話す」こと を取り入れることによって、高校留学生が話したいことを表現するための語彙等にも対応 できると思われる。クラスメートやホストファミリーとのコミュニケーションが、周囲の 人々との人間関係作りにもつながると言え、そのためにも、初めから「話す」ことを日本 語指導に取り入れていく必要があるだろう。

2.高校留学生に対する日本語指導―ネットワーク作りのための日本語指導

上記1.2.で考察した①最初の段階(最初の1学期目)で周囲の人々との関係(ネット ワーク)を築くための切っ掛けが必要なのではないか、②初めから「話す」ことを取り入 れること、また高校留学生の興味・関心に即した話題が必要なのではないか、という視点 を踏まえた日本語指導の方法を考えてみたい。

先ず①の視点である周囲の人々とネットワークを築くためには、彼らとの間にインター アクション5を行う機会が必要であると思われる。近年の日本語教育においては、学習者 のコミュニケーション能力の育成を目指し、接触場面における実際のインターアクション を取り入れた様々な活動が行われている。それらは、大きく分けて「ビジターセッショ ン」(村岡1992)、「ゲストスピーカー」(トムソン木下1997)等教室場面の中にインター アクションを取り入れた活動と、「ホームステイ」(植田1995)、「家庭訪問」(溝口1995)

等の教室外でインターアクションの機会を作る活動がある。前者は確実にインターアク ションの機会を作り出せると言えるものの、周囲の人々とネットワークを作るという観点 から考えると、後者の方が効果的ではないかと思われる。特に高校留学生の場合、日常生 活での友達やホストファミリーとの関係作りが大切であると思われ、そのためには、教 室外の活動として、高校留学生自らが周囲の人々へ働きかけることが重要ではないだろ うか。しかし、「ホームステイ」(植田1995)「家庭訪問」(溝口1995)といった形態は、

ホームステイをしながら日本の高等学校に通う高校留学生にはそぐわない活動形態である と思われる。

また、ネットワーク作りそのものを目的とした取り組みとして、公立小学校に通う外国 人児童に対する矢崎(2001)の実践がある。矢崎(2001)は、外国人児童が在籍クラス で日本人児童らとなかなか関わりを持てないという現状から、彼らとの友人関係(教室内

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ネットワーク)を構築していくことが重要であると考え、ソーシャルスキル6を指導し、

それを用いた実践を行っている。外国人児童の状況は、周囲の人々とネットワークを築け ない高校留学生と類似点が多いと言える。しかし、矢崎(2001)の実践はソーシャルスキ ルを中心にした取り組みであり、インターアクションの機会を作り出すという視点は弱い のではないだろうか。ネットワーク作りだけでなく、その活動を日本語習得に繋げていく ためには、よりインターアクションの機会を作り出していくことが必要であろう。

そこで本研究では、周囲の環境への働きかけの手段として、インタビュー・タスクとい う課題を実施しようと考えた。その理由としては、インターアクションの機会を作り出す ためには、周囲の人々と「話す」という活動が必要であると思われ、そのためにはイン タビュー・タスクという方法が適しているのではないかということ、又それによって②の 視点である留学初期から「話す」活動を積極的に取り入れることができると考えたためで ある。そして、これは周囲の人々との人間関係作り、つまりネットワーク作りを目指して いるため、授業外の活動として行い、授業ではインタビュー・タスクのための準備、その フィードバックを行うという方針で実施した。

3.実施した授業案について

実際に上記のような指導案が高校留学生の人間関係作りや日本語の学習に有効であった かを考察するため、筆者が日本語指導を担当した高校留学生2名に、授業外の課題として インタビュー・タスクを取り入れた指導案を実施した。その詳細は、次の通りである。

3. 1 課題の実施方法

課題実施前の授業(1週目)と課題実施後の授業(2週目)を一つの単位とし、基本的 に2週間で一つの課題を行った。課題実施前の授業は、課題(インタビュー・タスク)に 必要な語彙や表現の導入、練習を行った。課題実施後の授業では、インタビューの際に分 からなかった表現や語彙に関するフィードバック等を行った。

インタビュー・タスクの質問内容は、学習者の興味・関心を取り入れるために、質問 内容を学習者が考えるという方針で行ったが、実際には課題を実施した両名とも、自分 自身で質問内容を考えることが難しかったため、授業中に筆者と学習者が話し合って決め ることが多かった。また、この活動に「書く」ことを取り入れるために、筆者がインタ ビュー・シートを用意し、それに質問内容と相手の意見を書き込むようにした。

具体的なインタビュー方法は、学校の休み時間や放課後を利用してクラスメートに聞 く、家庭でホストファミリーに聞く等、聞きたい人に聞くように指示し、筆者からの働き かけは行わなかった。その理由として、周囲の人々に働きかけ、人間関係を築くという目 的があったため、学習者自身が聞きたい人に聞くことが重要であると考えたからである。

また、インタビューを行う人数は、学習者の負担度などを考慮し、最低でも1課題につき 1人には聞いてくることにし、複数の人に質問したい場合は何人でもいい、ということに した。

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3. 2 課題実施期間

2003年4月〜7月初旬の約3ヶ月間(1学期間)で、課題実施回数は計5回だった(A に関しては、内1回は授業のみで、課題の実施はなかった)7。日本語指導は、調査対象者 が在籍していた高等学校の面接室や応接室で行われた。

3. 3 調査対象者

筆者が指導を担当していた2003年4月来日の高校留学生2名。彼らは約1年間、ホー ムステイをしながら都内の私立高校に通っていた。

高校留学生Aの母語はドイツ語であったが、英語でのコミュニケーションも十分可能 であった。また来日前の日本語学習歴は数週間で、2003年4月の日本語指導スタート時 点で、挨拶と普段よく使う言葉(好き、嫌いなど)が理解できる程度だった。

高校留学生Rも母語はスウェーデン語だが、英語でのコミュニケーションも十分可能 であった。Rはスウェーデンで3年間の日本語学習歴があり、2003年4月の日本語指導 スタート時点で、既に日常の意思疎通には困らない程度の日本語能力があり、先生やクラ スメートとのコミュニケーションも日本語だけで行っていた。

表1 高校留学生Aの課題内容

実施回数・時期 課  題  内  容

1

回目(4月) 「どんな音楽が好きですか」

2

回目(5月) 「どんな

GW

でしたか」→インタビュー・タスクは行われなかった 第

3

回目(5月) 「一番好きな漫画は何ですか」

4

回目(6月) 「もしインターネットにサーフするなら、どこへ行くのがいいですか」

5

回目(7月) 「(あなたは)夏休みの間に何をしますか」

表2 高校留学生Rの課題内容

実施回数・時期 課  題  内  容

1

回目(4月) 「男が泣くことを、どう思いますか」

2

回目(5月) 「スウェーデンでは授業中寝てると怒られますけど、日本の先生は怒らない のはなぜですか」

3

回目(5月) 「人間を殺さない理由は何だと思いますか」

4

回目(6月) 「生まれ変わることができたら、男がいいですか、女がいいですか」

5

回目(6月) 「彼女にするんだったら、どんな女の子がいいですか」

表3 調査対象者

性 別 来日時の年齢 出身国 母 語

A

男性

17

歳 スイス ドイツ語

R

男性

19

歳 スウェーデン スウェーデン語

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3. 4 調査対象者の日本語授業について

調査対象者の日本語指導は、日本語教育学を専攻している大学院生(2003年4月当時)

による授業が週5回(1回50分)、Aに関してはクラス担任による漢字指導の授業もあっ た。日本語の授業は、在籍クラスの生徒が国語などの授業を受けている際に、取り出し授 業として行われた。Rはプライベート・レッスン、Aは5月まで2002年9月来日の留学 生と日本語指導を受けていたが、その後はプライベート・レッスンであった。週5回の授 業のうち、筆者が担当していたのは週2回で、そのうち1回を授業外の課題を行うための 授業とし、記録を行った8

3. 5 授業内容

3. 5. 1 高校留学生Aの場合

Aは日本語でのコミュニケーションが困難であったため、授業に関しては適宜英語を使 用した。課題前の授業では、先ず筆者が用意した質問の中から、Aと話し合って質問内容 を決めた(4、5回目はA自身が質問内容を決めた)。その後インタビュー・タスクに必要 な文型や語彙を説明し、単純なQ&A練習をした後、「話し掛ける→質問する→お礼を言 う」といった流れの会話として練習を行った。

課題後の授業では、インタビュー・シートに書いてきた相手の話の内容や語彙を確認し たり、英語で記入してきたものを日本語に書き直したりするということを行った。また復 習として、課題で使用した文型を用いて再度Q&Aを行った。しかし後半の授業(4、5 回目)では同じ事を何度も練習するよりも、自分の話したいことを日本語で話したいとい う傾向が見られたため、インタビュー内容に関連した話をした。(例えば、5回目の課題

『夏休みの間に何をしますか』の際に、「アルバイトをする」というクラスメートの発言が あったので、Aのアルバイト体験について話してもらった。)

3. 5. 2 高校留学生Rの場合

Rは来日時、既に日常の意思疎通には困らない程度の日本語を身につけていたので、課 題前の授業では、先ずRと話し合って質問内容を決めた。その際、「学校や家での生活の 中で疑問に思ったこと、知りたいと思ったこと、誰かに聞いてみたいと思ったことは?」

という問いかけを行い、Rの意見を引き出していった。その後、会話の進め方も含めた失 礼にならない聞き方や質問の仕方、表現のバリエーションを意識した指導を行った。

課題後の授業では、フィードバックとして、インタビューの中で使われた語彙や表現の 説明を行った。また相手の意見に対する理解を深めるために、インタビュー相手の意見に 対する感想を筆者とRで話し合い、その後感想をまとめるという活動を行った。この活動 で、Rは自分の意見を表現する言葉が分からなかったことも多く、相手の意見に対する理 解を深めるだけでなく、Rが自分自身の意見や感情を表現する練習になったと思われる。

4.授業外の課題に関するインタビュー調査

今回の実践の有効性を探るために、調査対象者、課題の協力者であるクラスメート等に インタビューを行った。そのインタビュー結果から、今回の取り組みが①高校留学生の人

(7)

間関係作り(ネットワーク作り)につながっていたか、②日本語習得・学習の機会に繋 がったか、③今回の実践の問題点、を中心に分析し、その有効性について考察する。

4. 1 調査方法とインタビュー協力者

実施した課題に対する意見・感想や、高校留学生A、Rの在籍クラスでの様子等を調査 するため、調査対象者である高校留学生2名、課題協力者であるクラスメート等10名、

課題協力者以外のクラスメート1名に半構造化タイプのインタビューを行った。また調査 対象者の家庭での様子、コミュニケーション状況を知るためにAとRのホストファミリー 2名にも半構造化タイプのインタビューを行った。調査期間は1学期終了後の2003年7

〜9月で、インタビューは調査対象者や課題協力者の通う高校の面接室や周辺のファース トフード店で行った。

高校留学生Aへのインタビューは、通訳を介し、Aの母語であるドイツ語で行った。

高校留学生Rとクラスメート等協力者へのインタビューは日本語で行った。インタビュー は録音し、文字化したものを、課題に関する意見・感想、調査対象者とのコミュニケー ション状況などの部分を中心に分析した。

表4 高校留学生Aの課題協力者

協力者

A

との関係 課題協力回

Y

クラスメート

1、3

回目

O

クラスメート

1、4

回目

H

クラスメート

4、5

回目

S

同じ授業を履修している

3

回目

表5 高校留学生Rの課題協力者

協力者

A

との関係 課題協力回

M

クラスメート

1

回目

W

担任教師

2

回目

H

クラスメート

3

回目

K

クラスメート

4

回目

ES

クラスメート

5

回目

S

クラスメート

3

回目

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4. 2 高校留学生Aの場合

4. 2. 1 高校留学生の人間関係作り(ネットワーク作り)につながっていたか

―インタビューがAと話をする切っ掛けになったか―

〈クラスメート・コメント〉

・ インタビューを受ける前からAとよく話していた。インタビューは、宿題として やった。(0)

・ 書道クラスの時に、書き方を教えたりしていて、前から結構仲は良かったと思うの で、このインタビュー自体が話す切っ掛けになったということはないと思う。(S)

〈高校留学生Aコメント〉

・インタビューが切っ掛けで、よく話をするようになったこともあった。

・ ある程度勉強にもなり、同級生について、いろいろ知ることにもなったので、そう いう面では良かった。

課題のインタビューに答えてくれたクラスメートは、Aと比較的仲が良く、普段から話を するようになっていたため、このインタビュー自体がAと話をする切っ掛けになったと認 識している人はいなかった。しかし、Aのコメントからは、Aがこの課題を「クラスメート のことを知る機会になった」と評価していたことが分かる。インタビューでクラスメートの 意見を聞くことが、クラスメートのことを知る機会になったと言えるのではないだろうか。

しかし、「クラスメートの中には、自分の英語では自信がないと言って、Aと話すこと に萎縮してしまっている人も多い。」(クラスメートH)というコメントもあり、Aとのコ ミュニケーションが英語中心になっていたこと、またAの友達関係が比較的限られたもの となっていたことが伺える。「クラスの中での人間関係を広げる」ことを目指すのであれば、

今回の課題実施方法では達成できておらず、実施方法の見直しが必要であると思われる。

4. 2. 2 授業外の課題が日本語習得(日本語学習)の機会につながったか

―インタビューの際の様子―

〈クラスメート・コメント〉

・ Aも最初は日本語でやろうとするが、じれったくなってしまい、英語を使った。英 語を使ったほうが速いので。単語は日本語を使おうとした。(H)

・ 一番最初の時は、初めから英語で質問してきた。2回目(6月)は、最初日本語で 言おうとしていたが諦めてしまい、プリントを見せ、英語で質問しなおした。(Y)

〈高校留学生Aコメント〉

・ (インタビューの)アイデアは結構いいと思っているが、少し問題だったのは、質 問相手であったクラスメートは、自分が日本語で話しかけても、答えがいつも英語 だったこと。なので、友達と話す機会にはなったが、日本語を話す機会にはならな かった。

(9)

Aが授業中に報告していた通りインタビューには英語も使用されたが、その度合いは予 想以上に多かったことが、インタビュー調査から明らかになった。A自身のコメントから も、インタビュー・タスクが日本語を話す機会にはならなかったことが伺える。

これはAの日本語能力によるところが大きいと思われるが、「自分たちも英語を話せる ようになりたいので、Aが日本語で話して、自分たちが英語で返すというのをAとの目 標にしていた」(クラスメートY)等のコメントもあり、クラスメート側の意識も一因に なっていたのではないかと思われる。

4.2.3 課題実施方法について

(1)授業外の課題という方法について

・ 休み時間に宿題として、の方がいい。自分の経験を考えると、授業中では間違って はいけないという気持ちが出てくると思うので、Aも大変だと思う。(Y)

・ このようなやり方だと、(普段から)話す人にしか聞けないから、交友関係が広が らないと思う。(O)

・ Aも異国に一人できているので、こちらから声を掛けて仲良くしていかなければい けないのではないかと思う。だから、日本語の授業に数人呼んで、話す機会を作っ てもいいのではないか。(H)

「休み時間の方がやりやすい」という意見もあったが、人間関係を広げるためにインタ ビューをするのであれば、ある程度その機会を設定することが必要なのではないか、とい う意見が出てきた。また既に述べたように「クラスメートの中には、自分の英語では自信 がないと言って、Aと話すことに萎縮してしまっている人も多い」(クラスメートH)と いう状況を考えると、休み時間に行うという方法には限界があったと思われる。インタ ビューが日本語を話す機会にならなかったことも併せて考えると、日本語でのコミュニ ケーションを促す機会を設定する必要があったのではないかと思われる。

(2)質問内容について

・ 最初は、Aのことが何も分からなかったので、話す事がなくて苦労した。Aの方も、

全然話し掛けてこなかった。だから最初に趣味などが分かるといいと思うが、今回 のインタビューでは、そこまではいかなかった。(Y)

・ Aも漫画が好きなようで、自分(A)の興味があることを質問していたので、Aも 質問しやすかったし、自分も答えやすかった。自分も結構知っている具体的なこと だったので、答えやすかった。(S)

クラスメートYの意見は、A自身にも当てはまることではないかと思われる。つまり、

A自身もクラスメートのことを知らないために、どのような話をすればよいか分からず、

(10)

なかなか交友関係を広げることができなかったと言えるのではないだろうか。今回のイン タビュー・タスクは広く趣味を聞くような質問ではなかったが、話をする切っ掛け作りの ための質問も必要であったと思われる。

またSのコメントからは、質問内容が課題への取り組み姿勢に影響を与えていたこと が伺える。ホストファミリーからも「漫画が好きで、家でもアニメをよく見ている(日 本語で)。漫画の話になると、日本語がよく出てくる。」というコメントが出ており、Aは 自分自身が興味のあることに関しては、日本語で話そうという姿勢が授業中にも観察され た9。Aは最初質問内容を考えることに抵抗を示したのであるが、よりAの興味・関心を 質問内容に取り入れることで、インタビュー時の日本語使用に繋げていくことも可能だっ たのではないかと思われる。

4. 3 高校留学生Rの場合

4. 3. 1 高校留学生の人間関係作り(ネットワーク作り)につながっていたか

―インタビューがRと話をする切っ掛けになったか―

〈クラスメート・コメント〉

・ インタビューをされる前から、Rの方が声を掛けてくるようになったので、切っ掛 けになったというところまでいかない。(S)

・ インタビューを受けた後から、結構仲良くなった(朝の挨拶をしたり、時々メール をしたりする)。インタビューで1回話をしたので、話せるような存在になってき た。(K)

〈高校留学生Rコメント〉

・ 話したいと思っている人であるが、どんな風に声を掛けたらいいか分からないとき に、話をする切っ掛けになった。

・ (「インタビューで勉強になったことは」という質問に対して)クラスメートのこと を少し分かるようになったことも、良かったと思う。

Aの場合と同様、既に話をするようになっていたクラスメートにインタビューを行って おり、インタビュー・タスクが話をする切っ掛けになったのはクラスメートKの1例の みであった。またRのコメントからは、Aと同様に、今回のインタビュー・タスクがク ラスメートのことを知る機会になったと感じていたことが伺える。Rはインタビュー相手 を選んだ理由を「いろいろな人がいたので、この人に聞いて、この人に聞いてみようと 思って、いろいろな人に聞いた。」と述べており、インタビュー・タスクで自分が聞きた い人に意見を聞いたことが、「クラスメートのことを少し分かるようになった」という評 価にも繋がったのではないかと思われる。

(11)

4. 3. 2 授業外の課題が日本語習得(日本語学習)の機会につながったか

―インタビューの際の様子など―

〈クラスメート・コメント〉

・ 難しい話だったので、自分たちが普通に話していると、分かっていないような気が した。簡単な単語で話した。(H)

・ 自分が普通に日本語で話すと、やはりRは全然理解できなかった。自分が普段使う 言葉では伝えられないから、自分はその言葉を、Rに分かる単語で、どう説明すれ ばいいか、ということを考えて答えた。(M)

〈高校留学生Rコメント〉

・ (インタビュー・タスクでは)人の言っていることを、聞いて、速く自分で書くこ とが勉強になった。

Rは既に日本語でのコミュニケーションが可能であったため、インタビュー・タスクは 日本語だけで行われたが、上記のコメントからは、語彙等の面でクラスメートの話をな かなか理解できなかったことが伺える。このことから、今回のインタビュー・タスクがR にとって新しい語彙に触れる機会になったと思われる。しかし、Rはその点に関してコメ ントしておらず、インタビュー・タスクが日本語のインプットを得る機会になっていたと は意識していなかったと思われる。

またクラスメートからは「自分が普段使う言葉では伝えられないから、Rに分かる単語 で、どう説明すればいいかということを考えて答えた。」(クラスメートM)という主旨の コメントが複数挙げられた。「クラスメートとは、無理なく日本語で会話をしている。特に 英語でフォローするというようなことも、殆どないと思う。」(クラス担任W先生)という コメントからは、普段のコミュニケーションに関しては特に問題はなかったことが伺える が、今回のインタビュー・タスクに関しては、Rに伝わるような語彙や表現の工夫が必要で あった。つまり、今回のインタビュー・タスクが、Rのクラスメートにとっても、限られた 語彙でコミュニケーションすることを学習する機会になっていたのではないかと思われる。

4. 3. 3 課題実施方法について

(1)授業外の課題という方法について

・ (このインタビューは)休み時間に、席が隣で話していて、その流れで質問されたの で、自然に聞かれた。いい感じだった。(中略)休み時間だと、自分もリラックス して、自分の思っていることが結構はっきり言える。普段の会話の中でできる。(H)

・ 自分は両方いいと思う。ただ、Rを見ている感じでは、休み時間の間では、あまり集 中しているという感じがしなかったので、授業内にやる方がいいかもしれない。(M)

・ 勉強ではなく、普段の生活の中で、言葉を通して日本語に慣れたりすることが出来 ると思うので、いいことだと思う。(K)

(12)

休み時間に行うことに対しては、否定的な意見よりも、「答えやすい」といった肯定的 な意見が多かった。インタビューの完成度を目指すのであれば、クラスメートMが指摘 するように授業中に行う方がいいかもしれない。しかし、「普段の会話の中でできる」と いうように、クラスメートとの普段の生活の中でできるという利点は大きいと思われる。

インタビュー・タスクを休み時間に行うことで、高校留学生とクラスメートが協力してコ ミュニケーションを行う機会となる可能性があると言えるのではないだろうか。

しかし、高校留学生Aのように日本語でのコミュニケーションが難しい場合とでは相 違点も多いと思われ、それぞれの状況に合わせた活動が必要であると思われる。

(2)質問内容について

・ 比較的答えやすかった。自分も、こういうことに関して論文を書くとか、意見を言 うということが好きなので。(M)

・ (質問内容が)少し難しく、なかなかはっきりと答えが出せなかった。真面目な質 問で、緊張した。(E)

・ 質問内容が、普通の質問と違っていて、面白い事を考えているという印象を受けた。

しかし、普段考えたことがないことだったので、少し答えにくかった。(K)

質問内容に関しては、「難しかった」「答えにくかった」という意見が殆んどであった。

これは、Rの質問が「どう思いますか」のような相手の意見を聞くものであったためであ ると思われる。しかしながら、このような普段話すことがない話題であったために、「相 手の意見を聞くインタビューでは、答える方としても、普段の会話とは違う言葉で答えな くてはいけないと思うので、難しいことを言ってしまうような気がする」(クラスメート M)ということも起こり、Rにとっては新しい語彙を学ぶ機会となり、またクラスメート にとっては、Rに伝えるために表現を工夫することを学ぶ機会になったと言えるのではな いだろうか。

また「質問内容が普段の質問と違っていて、面白い事を考えているという印象を受け た」というコメントは、R自身が質問内容を考えていたことで、インタビュー・タスクが クラスメートにとってもRのことを知る機会になっていたことを示唆していると思われ る。

(3)インタビュー方法について

・質問だけで終わってしまい、意見交換のような感じにはならなかった。(S)

・ 質問事項があって、それに答えて欲しいという感じだったので、会話が発展しな かった。(W)

今回のインタビュー・タスクは、質問を一つだけ用意し、それを質問するという方法で

(13)

行った。相手の話に対して更に質問することは、授業内の練習で行ったのであるが、実際 にはそれが行われていなかったことが、上記のコメントから伺える。つまり今回のインタ ビュー方法では、「質問する→答える」という一方向的なコミュニケーションしか行われ ていなかったと言えるだろう。しかし、課題のインタビューをより多くのインプットを得 る機会とするためには、一つの質問に終わらせない工夫が必要であろう。

4. 4 考察

今回の実践について、高校留学生AとRのケースから、次のことが言えると思われる。

1)高校留学生の人間関係作り(ネットワーク作り)につながっていたか

―インタビューが人間関係を広げる手段にはなりえなかったが、周囲の人について知る機 会になっていたのではないか

高校留学生A、R共に、今回の取り組みが、周囲の人々と話をする切っ掛けになってい なかったと言える。これは、両名が聞きたい人に聞くという方針で行ったため、既に知っ ている、話したことがある人にインタビューをしたためであるということが、今回のイン タビュー調査から言えるであろう。しかし、両名とも、今回の活動がクラスメートのこと を知る機会になったという評価をしている。このことから、今回の実施方法は人間関係を 広げる手段とはならなかったが、周囲の人について知り、その関係を深めていくことに繋 がっていたと言えるであろう。またRのクラスメートからは「質問内容が普通と違って いて、面白いことを考えているという印象を受けた」というコメントも出ており、この課 題が、クラスメートにとっても高校留学生のことを知る機会になった部分もあったと思わ れる。

2)授業外の課題が日本語習得、日本語の学習の機会につながったか

―日本語の学習という面を考えた場合、インタビューの形式など改善すべき点がある Aの場合、インタビューそのものが日本語の学習の機会になっていなかったことが、今 回のインタビュー調査から明らかになった。日本語でのコミュニケーションが困難なA の場合、課題実施方法等で何らかの工夫が必要であったと思われる。

またRに関しては、インタビュー・タスクが新しい語彙や表現に触れる機会になって いたと思われるが、R自身はそれを新しい日本語のインプットを得る機会とは認識してい なかったことがインタビュー調査から明らかになった。課題のインタビューを日本語習得 につなげていくためには、その点をRに意識化させていくこと、そのための授業活動の 改善が必要であったと思われる。

―高校留学生とクラスメート、双方の学びの機会を作り出すことにつながっていたのでは ないか

これはRの場合に観察されたことであるが、インタビューの際に、答えるクラスメー トの側にも、Rが理解できるように表現するにはどうしたらいいか、といった学びとも言 えるものが生じていた。また既に述べたように、今回のインタビュー・タスクは、クラス メートにとってもRのことを知る機会になったと言える。これは、直接高校留学生の日

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本語習得には関係ないように思われる。しかし、Rとクラスメート双方にとって何かを学 べる機会となったことが、クラスメートがRと接することに関心を持ち、「(インタビュー のような活動に)喜んで協力したい」(クラスメートE)といった、Rの日本語学習に協 力的な姿勢が生まれることにも繋がったのではないだろうか10

3)課題の実施方法について

―授業外の課題という実施方法の利点と問題点がある

今回、周囲の人々との関係(ネットワーク)を作っていくことを目的として授業外の 課題という方法を採ったのだが、その方法には利点と問題点があったことが明らかになっ た。

先ず利点は「答えやすい」という点である。これは課題を行う高校留学生AとRにも 言えることであると思われる。また「普段の会話の中でできる」(クラスメートH)とい うように、高校留学生とクラスメートの日常のコミュニケーションに繋がっていく可能性 があると言えるであろう。

問題点は「(普段から)話す人にしか聞けないから、交友関係が広がらない」(クラス メートO)という点である。実際、高校留学生Aは同じ人に複数回聞いており、話した ことがない人に自分から話し掛けることが難しかったことが予想できる。またRに関し ても、あまり話したことがない生徒にインタビューをしたのは1回のみであった。Aのク ラスメートのコメントにもあったように、人間関係を広げていくのであれば、日本語の授 業に数人生徒を呼んで話す機会を作る等の方法も必要であったと思われる。授業外の課題 という実施方法の利点と問題点を把握し、学習者の様子に合わせて他の活動も取り入れて いく必要があると言えるであろう。

4)質問内容について

―話しかける切っ掛けとなる質問の必要性

今回は高校留学生A、Rの興味・関心に基づきながら、相手の意見や好み等を聞く質問 を行った。その理由として、相手の意見等を聞くことで相手のことを知るという目的が あったからである。これは今回の課題が相手のことを知る機会になったという結果に繋 がったと思われるが、人間関係を広げることには繋がらなかったと言える。Aのクラス メートから「最初は、Aの事が何も分からなかったので、話す事がなくて苦労した。Aの 方も、全然話し掛けてこなかった。だから、最初に趣味等が分かるといいと思うが、今回 のインタビューでは、そこまではいかなかった。」(クラスメートY)という意見が出てい るように、人間関係を広げていくためには、話したことがない人と話をする切っ掛けとな る質問が必要であったと思われる。

―「話しやすい話題」という視点の必要性

これはインタビュー調査からだけでなく、授業中の調査対象者の発言等からも観察され たことであるが、インタビュー・タスクの質問内容が、インタビューを行う調査対象者だ けでなく、インタビュー相手にとっても興味・関心のある話題であった場合、答えやすい という反応があった。答えやすさだけが大切ではないが、インタビュー・タスクを周囲の

(15)

人々との人間関係作りにつなげていくためには、そこで日本語のやり取りが活発に行われ る必要があると思われる。そういった点を考えると、質問内容を考える際に、話しやすい

「話題」という視点も必要であると思われる。

5.今後の課題

以上のように、今回の実践の目標であった、周囲の人々との人間関係作り、日本語の学 習の機会という点においては達成されていなかった部分もあり、課題実施方法などの改善 が必要であるという結果となった。また今回の実践から考えられる主な課題を挙げると、

次のようになる。

①インタビュー・タスクの形式の再考

今回のインタビュー・タスクは「質問する→答える」だけで終わってしまい、双方向的 なコミュニケーションに至らなかったことが、インタビュー調査から明らかになった。イ ンタビューという形式自体が「質問する→答える」という一方向的なコミュニケーション で終わりやすいということは三牧他(1999)でも指摘されており、インタビュー形式の問 題点であると思われる。しかし、人間関係(ネットワーク)を築いていくという点、日本 語のインプットを増やすという両方の点において、双方向的なコミュニケーションが行わ れる必要があると言えるであろう。今後は、インタビューであっても双方向的なコミュニ ケーションにつながるような方法を考えていく必要があると思われる。

更に高校留学生Aの場合、今回のインタビュー・タスクでも難しい面があったと言え、

それが英語使用に繋がったことも考えられる。今後は日本語でのコミュニケーションが 難しい場合にも実施可能な、言語的なコミュニケーションだけに頼らずにできるインタ ビュー方法を考える必要があるであろう。

②日本語授業担当者のマネージメント

今回は学習者自身にインタビュー相手の選択を任せていたが、人間関係を広げるために は、クラスメートに課題協力を依頼する等のマネージメントも必要であったと思われる。

また、課題協力者に対して対応の仕方などを提示するといったマネージメントも必要で あったのではないだろうか。特に高校留学生Aの場合、英語が話せないクラスメートは Aと話をすることに萎縮してしまっていることがインタビュー調査から明らかになった が、こういった工夫をすることで、英語等の媒介語が話せないクラスメートの協力を得る ことにも繋がると思われる。

③フィードバック方法の改善

Rの場合、インタビューの際に語彙や表現等の面で難しい部分もあったが、R自身は それを意識していなかったことがインタビュー調査で明らかになった。つまり、今回の フィードバック方法では、インタビュー・タスクで新しい語彙や表現を学んでいることを 意識化させることができなかったと言える。授業内の活動として新しい語彙のノートを作 らせる、また橋本(1995)のようにビデオ録画を分析させる等、学習者の意識化につなが るようなフィードバック方法の改善が必要であると思われる。

また既に述べたように、今回の実践の中で、高校留学生Rのクラスメートには学びと

(16)

も言えるものが生じており、彼らにはRの日本語学習に対して協力的な姿勢が見られた。

これは春原(1992)の言う「双方向の学習」11が行われたものであると思われる。このこ とから、高校留学生が周囲の環境へ働きかけ、そこで日本語を学んでいく活動には、上記 の改善点以外に「双方向の学習」という視点が必要であり、またそのためには、お互いの ことを知るための双方向的なコミュニケーションが必要ではないかと思われる。また、高 校留学生の日本語指導は取り出し授業として行われることが多い(村野2001)が、双方 向的なコミュニケーションを生み、クラスメートとの間に継続的な関係を築いていくため には、在籍クラスと繋がった活動や、在籍クラスで行える活動が必要なのではないだろう か。今後、こういった視点を取り入れた活動を日本語教育という立場から提案していくこ とが必要であると思われる。

―参考文献―

稲葉美穂(2004)「高等学校交換留学生に対する日本語教育と支援の方法―授業外の課題を中心にし た取り組みについて―」早稲田大学大学院 修士論文

植田栄子(1995)「海外日本人家庭で行うホームステイプログラムの有効性―タイにおける日本語学 習者の場合」『世界の日本語教育、日本語教育事情報告編』2号 国際交流基金日本語国際セン ター pp. 213–232

岡部悦子(2002)「高校生と交換留学生とのコミュニケーション分析―協同的課題解決場面を事例と して―」『紀要』15 早稲田大学日本語教育研究センター pp. 147–162

塩沢正(1991)「高等学校での外国人留学生をめぐる諸問題と国際理解教育」『The Language

Teacher』11 pp. 15–18

田中望・斉藤里美(1993)『日本語教育の理論と実際―学習支援システムの開発―』大修館書店 トムソン木下千尋

(1997) 「海外の日本語教育におけるリソースの活用」 『世界の日本語教育』 7

号 国

際交流基金日本語センター pp. 17–29

J.V.ネウストプニー(1995)『新しい日本語教育のために』大修館書店

橋本博子(1995)「自己評価能力の育成―オーストラリアの元交換留学生の話ことばについて―」『日 本語教育論集』12号 国立国語研究所日本語教育センター pp. 20–39

春原憲一郎(1992)「ネットワーキング・ストラテジー:交流の戦略に関する基礎研究」『日本語学』

11–10 明治書院 pp. 17–26

溝口博幸(1995)「インターアクション体験を通した日本語・日本事情教育―「日本人家庭訪問」の 場合」『日本語教育』87号 pp. 114–125

三牧陽子・竹内康恵・西口光一・難波康治・浜田麻里(1999)「日本語学習者と日本人協力者による 相互活動―『日本語パートナー』導入―」『大阪大学留学生センター研究論集 多文化社会と留 学生交流』第

3

号 pp. 101–119

宮崎里司・J.V.ネウストプニー(1999)『日本語教育と日本語学習―学習ストラテジー論にむけ て―』くろしお出版

村岡英裕(1992)「実際使用場面での学習者のインターアクション能力について:「ビジターセッショ ン場面の分析」『世界の日本語教育』2号 pp. 115–128

村野良子(2001)『高校留学生に対する日本語教育の方法―言語学習と文化学習の統合と学習支援シ ステムの構築に向けて』東京堂出版

矢崎満夫(2001)「外国人児童と日本人児童とのインターアクションに関する一考察―ネットワーク づくりのためのソーシャルスキルトレーニングの試み―」『2001年度日本語教育学会秋季大会予 稿集』日本語教育学会 pp. 145–150

(17)

1

エイ・エフ・エス日本協会やロータリークラブ等の国際交流団体が交換留学生の受け入れや派遣 を行っている。

2

本研究では、海外の中等教育機関に在学、あるいは卒業し、民間の国際交流団体などを通じて日 本に来日し、約1年間ホームステイをしながら日本の高等学校に通う留学生を対象とする。

3

2002

3

月〜

2003

2

月まで日本に滞在した高校留学生で、筆者が日本語指導を担当したのは

2002

9 〜 2003

2

月までであった。

4

ネウストプニー(1995)は「日本語教育でもやはり広いネットワークを作れるか、とりわけ友達 ができるかどうかによってインプットの量が決まり、学習の結果が左右されるのである」(ネウ ストプニー

1995:261)と述べ、周囲の人々との関係作り、つまりネットワーク作りという社会

的ストラテジーの重要性を説いている。また宮崎・ネウストプニー(1999)でも、同様に社会的 ストラテジーの重要性を説いている。

5

田中・斉藤(1993)はインターアクションを「相手に働きかけ、そのことによって相手も自分 も変わっていく相互作用のこと」(田中・斉藤

1993:44)とし、またネウストプニー(1995)は

コミュニケーションだけでなく「社会・文化、あるいは社会・経済的な行動」(ネウストプニー

1995:10)という実質行動をも含めたものであるとしているが、本研究では、相手に働きかけ、

相手も自分に働きかけるといった相互作用に注目する際に「インターアクション」を用い、言語 的なやり取りを指す場合に「コミュニケーション」を用いる。

6

矢崎(2001)は相川(2000)の定義を用いて「対人場面において個人が相手の反応を解読し、そ れに応じて対人目標と対人反応を決定し、感情を統制した上で対人反応を実行するまでの循環的 な過程」(矢崎

2001:146)としている。具体的には、あいさつ、自己紹介、上手な聞き方、質

問する、仲間の誘い方、仲間の入り方などの項目を矢崎は指導した。

7

課題が実施されなかった

5

月ごろ、高校留学生

A

はストレスを感じていたことが授業観察から 感じられた。詳細については拙稿(稲葉

2004)を参照。

8

2

回のうち、残りの

1

回は、

R

に関しては本人の希望で日本語能力検定試験の練習問題を行い、

A

に関しては課題の際に使用した語彙や文型の復習、また

A

からの質問(文法事項や漢字)に 対する説明を行った。他の

2

名は、レポート作成と漢字の指導を行っていた。

9 詳細は拙稿(稲葉

2004)「4.授業案の実施と授業観察による調査」参照。

10

その他、「続けてこういう宿題があるならやってみたい」「自分個人の気持ちとしては、今まで 外国人と接する機会が少なかったので、このような機会(インタビューなどで

R

と接する機会)

にいろいろな事を知っておきたい。」等のコメントがクラスメートから出ている。詳細は拙稿

(稲

2004)「5–4–2.高校留学生 R

の課題に関する分析」参照。

11

春原(1992)は、学習者が日常の生活の中で学習を展開させていくためには「場のネットワーキ ング」と「知のネットワーキング」が必要であり、「場のネットワークが継続・展開・活性化す るためには、双方向の学習の可能性が保障されていなければならない」(春原

1992:18)として

いる。

参照

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