岡山大学経済学会雑誌
3 0 ( 3 ), 1 9 9 9,1 9 7 ‑2 1 6
経営学 と政策科学の相互作用的 発展過程 と将来展望
山 本 清
1
.は じ め に近年我が国の高等教育においても,学際的に社会経済問題に取 り観 も うと い う趣 旨か ら 「総合政策学部」,「総合情報学部」 あるいは 「政策科学部」 と いった新学部の設置が盛んにな っている。昨年には国立の大学院大学である
「政策研究大学院大学」が創設 された。 こうした,学際的 ・総合的な視点は 企業経営 ,政府活動 あるいは社会現象の問題解決にかねてか ら要求 されてい たため,歓迎すべ き動 きである。
ただ し,各学部や大学院の教育 ・研究の実施体制をみ ると従来の専門化 さ れた科 目が配置 されているだけで,総合政策学な り政策科学に どの ように体 系化 され るかが不透 明な ものが少な くない。研究に限定 して も,研究者の専 門は政治章 ,行政学 ,経営学 ,経済学等 と個別化 されてお り,総合政策学部 で**学を専攻 しているとい うのが実態である。学際 ・融合に よる新 しい学 問の形成 とい う目標には程遠い といえる。確かに最近誕生 した公共政策学会 は政策 自体を扱 う学際的学会観織であるが政治学的 アプローチが強 く,企業 経営 と政府活動を統一的な視点で把握す るものでないo
しか しなが ら,政策科学な り総合政策学は,こうした我が国の実状 と正反 対に隣接科学 ,とりわけ経営学 との相互作用の結果 として発展 してきている のである。そ こで,本稿 では,まず ,次節において学際 ・融合が政策科学 と
‑1 9 7 ‑
経営学の進展を促 した過程を意思決定過程を*心に明らかにす る。そ して, 第
3
節では,政策科学の実施面 とみなせ る政府の経営学 と企業 の経営学 の相 互作用 と異同点を行政改革に関連 して考察す る。また ,第4
節では統治 (ガ バナンス)論 としての同質性 と業績測定をめ ぐる企業経営 と政府経営の相互 作用について述べ る。第5
節においては,意思決定過程が線形的でない とい う経営学 の実証研究が政策科学に及ぼ した影響が検証 され るo最後 に,結論 と両者の相互学習の重要性が述べ られる。2.
スパイラル としての発展過程経営学 も政策科学 も魁織の意思決定過程を対象にす る点においては共通す る。そ こで,意思決定過程に関す る両者の相互作用 ・交流を検討 してみ るこ とにす る。
政策科学は第二次世界大戦後に ラスウェル
( La s s we
ll ,1 9 5
1)及び ドロア (Dror,1 9 71 )の提唱に よって誕生 した とされ るが,当初は合理的解を求 め
る管理科学的色彩が強か った。テイラー( Ta yl
or,1 91 1 )に代表 され る科学
的管理法の政策決定‑の適用 とい う側面を有 してお り,経済学 の費用便益分 析 とあいまって合理的意思決定に資す ることを 目的に していた。 この管理科 学では 「合理性」につ き次の ような前提をおいている。① 意思決定者はすべての代替案を特定化す る
② 意思決定者は代替案の全ての結果を予測す る
③ 意思決定者は 目的達成 を最大化す る代替案を選択す る
しか しなが ら,実際の意思決定行動 はサ イ モ ン
( Si mon ,1 947,1957
,1 9 5 9 )が指摘するように,
1)検討 され る代替案は部分的である
2)
生 じる結果の一部を予測す るに とどまる 3)最大化 とい うより満足解を求める経営学と政策科学の相互作用的発展過程と将来展望
6 9 5
である。 こうした合理性 の制約をサイモ ンは 「限定 された合理性
」( bo unde d r a t i o na l i t y)
と定義 し,管理学 として企業 と政府 の管理行動 を統一 的に把握しようとした。
この限定合理性モデルの概念は,政策決定の理論に対 して大 きな影響を与 えた。政治学者 リン ドプ ロム
( Li ndbl o m,1 9 6 3,1 9 6 8 )
に よる 「増分主義」( i nc r e me nt a l i s m)
の考 え方 であ る。彼 は ,伝統 的な合理性 モデル は合理 的 ・包括的政策決定を想定 しているが非現実的であるとす る。政策決定者は あらゆる政策代替案を考慮 し,社会的 目標に関 して政策代替案の費用 と便益 を銀Il定 して政策代替案を順位づけ最適案を選択す るのでな く,過去の政策の 延長において政策を検討す るか ら,修正は付加的 ,増分的な ものに とどまるとした。
増分主義は,予算決定や政策決定の現実に適合 していることが実証研究に よ り確認 されたが,現状維持的 ・保守 的 な要素 を もつため ,エ ツ ィオ ーネ
( Et z i o ni ,1 9 6
7)は政策決定が本来 もつべ き創造性や革新性 と相容れない と 批判 した。彼は もともと社会学者であったが ,政策決定問題 として基本的な 政策の方 向を設定す る戦略的選択 と,その決定を支援 し実施に貢献す る業務 的選択を区分すべ きとす る。そ して,戦略的な問題には包括的合理性が適切 であるが ,業務的性質が強い問題に対 しては増分主義が望 ま しいとい う混合 走査( mi xe ds c a nni ng)
モデルを提唱 した。現実の魁織決定の実態 と創造性 ・革新性 の双方を扱 うものとして登場 した のが政治学者の コ‑エソ,マーチ及びオルセン
( Co he n,Ma r c ha ndOI s e n
,1 9 7 2 )
に よる 「ゴ ミ箱」( ga r ba gec a n)
モデルである。 ここでは,魁織 の行 動選択は合理性モデルで想定 され るような整理 された過程 として行われ るの でな く,問題 ,解決案 ,参加者が乱雑に投げ込 まれているゴ ミ箱か らの選択 の ような もの とみなされ る。すなわち,ゴ ミの混合状態に よ り行動選択が決 定 され ると考えるか ら,ある時点 ,状況に よって決定結果は大 き く左右 され ることになる。必ず しも最適解が選定 されなか った り,意外な決定が もた ら‑1 9 9‑
され る状態を理論的に示 した ものである。
しか しなが ら,経営者 としては ゴ ミ箱の状態で行動が決定 され るとい うこ とは,不確実性を引 き受け ることにな り好 ましいものでない。そ こで,不確 実性を内部化す ることで低減 しようとしたのがネ ットワーク経営の概念の一 つであるo参加者を特定化すれば契約に伴 う取引費用 も節減でき信頼関係 も 構築 し易い し,また ,研究開発を他企業 と協 力す る ことに よ り早 さの経 済 性 ,異業種 との交流に よ り範囲の経済性を得 られ る場合 もある。我が国の 自 動車 メーカーに代表 され る系列関係 もネ ッ トワークの一形態である
。1 9 8 0
年 代に 日本的経営が賞賛 され,9 0
年代に米国製造業が情報技術を活用 して再生したのもネ ッ トワーク経営の応用である。
政策決定の場を このネ ッ トワークの考え方 とゴミ箱モデルを観み合わせて 説明 しようとしたのが,キングダ
ソ ( Ki ngdo
m,1 9 8 4 )
の 「政策の窓」( po l ‑ i c yw indo w)
モデルである。彼 も政治学老であるが ,政府を ゴミ箱理論 と同 様に 「魁織化 された無秩序」 とみるが ,決定過程におけ る構造や類型の存在 を強調す る。具体的には,問題 ,政策代替案及び政治的動 きの3
つが合流す るとき,政策問題が認識 され政策の窓が開かれ るとす る。窓が開かない限 り は政策が検討 され ることはないか ら,問題 として注意を引 きつけ ること,政 策代替案を作成す ること及び政治的影響力を持つ ことが重要にな り,魁織化 された利益団体や政治的エ 1)‑ トがネ ッ トワークとして流れを形成す るので ある。一方 ,政策決定 のネ ッ トワークの展開をモデル化 したのが政治学者サ バ テ ィア( Sa ba t i e r ,1 9 8 8 )
の唱道連携( a dvo c a c yc o a l i t i o n)
モデルである。彼は長期的な政策変化を唱道連携集団間の相互作用 として把握 し,連携集団 が相互作用を通 じて細.織学習す るとみな し,環境政策についてモデルの妥当 性を検証 しているO
この ように,経営学 と政策科学は相互交渉に よって発展 してきた といって よい。相互作用の推移を示す と図 1の ように整理できよう。特に図か ら注 目 すべ きことは,経営学 ・阻織論に大 きな影響を与えた限定 された合理性 モデ
経営学と政策科学の相互作用的発展過程 と将来展望
6 9 7
図1 経営学と政策科学の進展過程
<経営学>
匝 頭 重 司 ‑ 1 一一、 限定された合理性モデル
<政策科学>
一.一.̲・一・・二 > [:≡ :二≡= コ
㌔ ‑㌔ ‑‑、 l止与ハユー副
害 ≡ ≡ 藁 ク
ル及び ゴ ミ箱 モデルが純粋 な経営学老 とい うよ り政治学研究か ら生 まれた と い う事実 である。確かにサイモ ンは ノーベル経済学賞 を受賞 しているが ,彼 は シカ ゴ大学 で政治学 の博士号を得 てお り,研究領域は政治学 ,行政学 ,経 済学 ,経営学 ,心理学
,OR
等に及んでい る。 また ,オルセ ンも政治学 以外 に経済学 ,経営学等 の論文 を多数発表 している。 したが って ,我 々は改めて 学際的 アプ ローチか ら画期的な経営 ・範織理論が生 まれ てい る事実 を確認す ることが重要 である。3.
企業 の経営学 と政府 の経営学(1) 新公的部 門経営 (NPM)の興隆
政府部 門において政策 の具体的執行 にかか る新 しい経営理論 として脚光を 浴 びているのが 「新公的部門経営
」( Ne w Publ i cMana ge me nt ;NPM)
であ る。NPM
につ いては既に別稿 (山本,1 9 9 7b,1 9 9 8a
)で詳細 に述べている ので ,ここでは概論 に とどめ るが ,大 き く次 の4
つ の基本理念か らなる。第‑ は顧客志 向であ り,住民 を政府部門の顧客 ・消費者 とみな し,顧客満 足度 向上を 目指そ うとす る。第二 は成果志 向である。 い くら予算を投入 した か ,どれだけの事業を行 ったかでな く, 目的を どの程度達成 したかが評価尺
‑2 0 1 ‑
度 となる。従来が投入 (イ ンプ ッ ト),過程 (プロセス)中心の統制であった のに対 し,こ うした手錠 き遵守 よ りも成果 (アウ トプ ッ ト及びアウ トカム) 中心の統制‑の転換である。第三は分権化 ・権限委譲
( empo we r me nt )
であ る。現場の管理者に権限を委譲 し,責任 と権限を一致 させ ることに よ り,ア カウンタビリティを強化す るとともに現場 の裁量性を増加 させ業績 向上に結 びつけ よ うとする0第四は市場模樺 の活用 である。政府 内部に競争環境 を創 造す る内部市場やェージェソシー (外庁)化の他 ,政府部門 と民間 とがサービス供給で競争す る民間委託や民営化が具体例である。
上記の説明か ら理解できるように,NPMは企業経営手法 と経済学 (契約) 的 アプローチを結合 した もの
( Ho od,1 9 9
1)であるO このため,経営学的な「任す」
( l e t t i ng)
と経済学的な 「させ る」(ma ki ng)の相矛盾す る原理を内
在す るとい う批判( Sc hi c k,1 9 9 6 )を受け ることもある。ただ し,NPM
も各 国で両原理の重みづけが異な っている。最 も経済学 的 アプ ローチ とされ る ニュージーラン ドでさえ,導入成果の約7
割が企業経営手法の適用に よるも の とい うヒア リング結果であるか ら,企業 の経営学 の政府部門‑の適用の影 響が大 きい といえる。しか しなが ら,企業活動 と政府活動は同 じではないか ら,上記の
4
原理に よる政府運営は公正や安定 といった公共価値 と衝突 した り軽視 され る危険性 がある。OECD (1995) でもNPM
の有効性を認めつつ公共価値を維持 向上 す る対策 として公務員倫理や阻織文化 の改革の重要性を訴えてい る(1)o現 に 表1に示す ように,米国地方政府及び我が国 自治体 とも企業経営の理念を全 面的に適用 しているわけでない。「政府再創造」(Re i nve nt i ngGo ve r nment )
で 知 られ ゴ ア 副 大 統 領 を 責 任 者 とす る 「国 家 業 績 検 証」(Na t i o na l Per f o r ma nc eRe vi e w)に も関与 したオズボーン ( Os bo r ne )は,その後実務
家 との共著で 「政府経営 と企業経営は同 じ」 とす る見解を 「神話」 とし,組(1)公務員の阻織文化については我が国と英国の国際比較を含めて山本
( 1 9 9 7
a.)参照。経 営学 と政策科 学 の相 互作用 的発展過程 と将来展 望 699
表1 自治体での企業経営手法の活用状況
項 目 ボール ダー ?/貢言上 ミ 言冒?y妄言 北海道 宮 城 三 重
(理念) 分権化 柔軟性 適応 競争 学 習 顧客志向 創造的
リーン(連接) 能率
(手法) 民間委託 民営化 官 民 パ ∴ ト ナーシ ッフ 政策立案に特 化
代替的なサ ー ビス供給 バ ウチ ャー
○ ○
△△○
△△○
△△△△○ ○
△△○
△△○
△△△△〇 〇 〇
△△△△○
△△△△△
△△△一△一 △△△一△ △△△△△△一△
ボランテ ィア
ー
△参加型経営
○ ○
△ △分権化 △ △
○
△ △ △TQM
△ △ △注1
二
〇は積極的に ,△はい くらか (部分的に)適用 されてい ることを ,また ,‑はほ とん ど適用 されていない ことを示す。2:米国はJohnson(1996),我が国は筆者の調査結果に よる。
‑203‑
織文化の重要性を説いている。 このため,意思決定論での相互作用 と同様 , 倫理 ,文化 といった ソフ トな要素は政府部門において成果測定が企業 よ り困 難で よ り重視 され るか ら,企業経営‑展開可能な新 しい理論が生 まれ るか も
しれない。
( 2 )
組織学習の視点我が国では中央政府 ,自治体を問わず最近は業績測定 ・評価がブームであ る.中央政府でも先の中央省庁等改革基本法において業績評価 ,政策評価 の 充実強化が詣われているし,自治体では事務事業評価 システムとして急速に 普及 している。従来の計画 ・予算重視 の行政 か ら評価 ・決算重視 ‑ の転換 は,ある意味で前記企業経営 と同 じマネジメン トサイ クルの確立 と理解 され る側面 もあるが計画遂行が絶対であった風土に見直 しを持ち込んだ点で素直 に評価 されて よい。
問題 は,別稿で述べた ように ,現在の業績評価 システムが単年度予算制度 の枠組みで評価 と計画 ・予算 との リンク性を確保 しようとす るあま り,①既 存政策の見直 しあるいは調整に力点が置かれ新鋭の行政 ニーズに対 して後迫 い的対応になる危険性があること,②成果 (アウ トカム) の発現 と事業 ・政 策の実施にタイムラグを考慮 しないため,因果関係が不 明確なまま評価を行 う可能性があること,である。行政は住民 ニーズを先取 りす ることも要請 さ れ るし,結果的にも効率的な場合 も少な くない。高齢者対策や防災対策等が その例である。 また ,マネジメン トサイ クルを確立す るとい う観点は,暗黙 裏に毎年度経常的に政策 あるいは事業が実施 されることを想定 している。
しか しなが ら,行政活動 のなかには毎年度実施 されないイ ンフラ整備等の 投資 あるいは新規政策の他 ,緊急措置 として,た とえば公共価値 の安定の見 地か ら実施 され る不況業種‑の緊急融資や災害復 旧事業な どがある。 こ うし た戦略的な政策 ・事務事業については,資源管理の効率性 ,つ ま り,経済性
( ec onomy)
・効率性 (ef f i ci enc y)
・有効性( ef f ec t i venes s )
とい う3E
の経営学と政策科学の相互作用的発展過程と将来展望 701
観点か らの評価 はな じまない。経常的 と戦略的な区分を して管理す る必要性 は前 出エテ ィオ リも述べてい るが ,組織 目的や政策 自体 の見直 しを含む戦略 的決定において二重 の学習
( doubl el oopl ear ni ng)
の重 要性 を説 いた のが ア‑ジ リス( Ar gyr i s,1 977 )であ ったO彼 は ,現行政策を実施 し目的を達成
させ るプ ロセスを一重 の学習( s i ngl el o opl e ar ni ng)
と呼んでいるO政 府 の業 績 評 価 シス テ ムに も この視 点 を主 張 した の は メ ッカ‑ フ と 1) チ ャー ド
( Me t cal f eandRi char ds,1 99 0 )が有名 であるが ,実際には政策実
施論 で著名 な ウィルダフスキー( Wi l da vs ky,1 983)が プ レスマ ン ( Pr es s ‑ man)との共著 『
実施』(I mpl ement at i on)の第三版 において ,評価 には アカ
ウンタビ リティのための評価 と学習 のための評価 の2種類があることを既に 明示 していた。前者 は
3E
に ,後者 は メ ッカ‑フと リチ ャー ドの3D
,すな わ ち,組織 が環境変化に適応 してい く診断( di a gnos i s )
,システ ム設計 の改訂( des i gn)及び改定案 の実施展開 ( deve l opment )にそれぞれ対応 しているO
この戦略的決定 の一重学習 と異な る特性 を 明確 に指 摘 して い るのが ミソツ バ ーグ( Mi nt z ber g,1 994 )である。彼 は,戦略的計画は ,①予測 は可能 であ
る,②戦略家 (決定者) は戦略対象か ら影響 を受けない及び③戦略策定過程 は定式化( f or mal i z ed)可能 である,とい う3
つの誤 った前提 に立 って い る とす る。3D
は伝統 的な戦略的計画に替 えて敵織学習に よ り対応 してい こ うとす る ものであ り,計画 目標 との対比に よる有効性検証 とい った一重 の業績評価 シ ステム (マネ ジメン トサイ クル) と区分 され る。かか る視点を考慮す ると, 政策評価 ・業績評価 のサイ クルは図2の ような二重 の学習 プ ロセスか らな る とみなすべ きであ り,諸外 国を含めて もう一つ別次元のル ープを付加す るこ とが必要 と認 め られ る。‑ 205‑
図2 ダ ブルル ープ と しての マネ ジメ ン トサ イ クル
/ 両 税 ニ ー ズ の画
4.
統治モデル としての相互作用(1) 統治 と業績測定
範織 を どの ように統治す るかは企業 トップの不正等 を受け ,近年我が国で もコ‑ポ レー ト .ガバナ ンス として経営学 のみな らず法学 ,経済学及 び社会 学 で も盛 んに論 じられ て い る (た とえば深 尾 ・森 田
,1996;Hopt ,Kanda andRoe,1 9 98 )
。企業 は誰 の ものか とい う基本理念は国際比較 の点か らも重 要 であるが ,統治 の裏返 しと して経営責任 をいかに果た しているかを説明 し なければな らないQ したが って ,経営責任を負 っている者 は敵織業績を説 明 す るとともに,継続 してその任務 を遂行 しよ うとす る場合には,常に業贋改 善に向けた対策を講 じることが求め られ る。 この意味において業績測定 ・評 価 システムは ,観織 の業績 ・成果 を計画に照 らして把撞す る( moni t or )
だけ でな く,計画通 りの業績が達成 されない ときには問題が どこに存在 し,いか に改善す るかを決定( det er mi ne )できるものでなけれ ばな らな い ( At ki n‑
s one ta
l‥ 1 997 )
。つ ま り,実績 の説 明 と同時にプ ロセスの管理 と予測機能 を経営学と政策科学の相互作用的発展過程と将来展望
7 0 3
持つ ことが必要であ り,過去の取引結果の客観的
( h a r d )
な測定に優れた会 計情報中心の財務業績測定 システムは内部管理及び統制に必要な情報を提供 しない といえる。た とえば,企業の業掛 ま顧客の購買行動を通 じて結果的に 会計的な売上 として測定 され るが,売上の維持 向上には顧客満足度を高めてライバル企業に勝つ戦略 こそ必要なのである。
こうした財務業績測定 システムの有す る限界は,政府部門で企業部門 より 早 く認識 され非財務情報を含めた業績測定 ・評価 システムの開発が
1 9 7 0
年代 か ら欧米で行われている。注 目すべ きは,政府監査 と一体にな り業蹟改善に 主眼をおいた業績指標 の開発研究が盛んな ことである(2)。最近話題 の ニ ュー ジーラン ド,英国及び米国の行政改革 とも,政府業績の成果測定を前提に し てお り,顧客満足度以外にサービスの質や有効性に関す る指標 の測定を通 じ た行政管理 を行 ってい る。 カ プ ラ ン とノ ー トソ ( Ka p l a na ndNo r t o n
,1 9 9 2 )
のバ ランス ・ス コア ・カー ド( Ba l a n c e dSc o r e c a r d )
のアプローチ (図 3参照)紘 ,業績を財務的側面以外に内部業務 ,顧客 ,革新 と学習 とい う4 つの側面か ら総合的に成果を把握す るとともに業績要因 と目的 との因果関係 の特定化を行 うものである。従来の管理会計か ら経営管理には非財務情報を 含める必要性を説いた点で,管理会計を業績測定 システムに統合 した と理解図3 バランス・スコア・カード
/ / 竿 \\
廃 客の視朝 一 トビジョンと視剥
‑ 内部業務過程の視
点∴ 二 二 :
±l ̲‑・ l
(2)英国の自治体や中央政府の業蹟測定システムは1980年代 に地方 監査委 員会 及 び会計 検査院
( NAO)
の設立に よる業績監査 の強化 とあいまって進展 した0‑2 0 7 ‑
できる。 この ように業績測定 システムにつ いては,政府 の経営学か ら企業 の 経営学への影響がみ られ,NPMが企業 の経営学か ら影響 を受けてい るの と 正反対で興味深 い もの といえ よ う。
(2)公的部門の統治モデル
一方 ,政府等 の公的部 門の統治モデルについては企業 と同様 「あるべ き」
統治を巡 り学界及び実務界で大 きな論争が生 じている。特 に,NPM が顧 客 志 向を標梼 しているところか ら,公的部門の経 営管理 において顧客 モデルが 有効か否かがステイ クホルダー論 と結 びついて議論 されてい る. この間の事 情 はBt]稿 (山本
,1 9 9 8a ;Ya ma mot o,1 9 9 8 )
に述べたが ,住民 を顧客 とみな す ことに反対す る立場か ら,住民を所有者( Sc ha c ht e r ,1 9 9 5 )
,投資家( S‑
mi t ha ndHunt s ma
rl,1 9 9
7) あるいは決定関与者( Fi s he r ,1 9 9 3 )
とみなす 参加型 モデル (PPM)の他 ,政府 ・自治体 の経営 の特質を多 くのステイ クホ ル ダーのネ ッ トワークとみ年すネ ッ トワーク経 営 モデル( N
WM)( Ki c ke r t e ta 1
.,1 9 9
7) が提案 されている (図4
参照)O確かに住民 を顧客 とみなすだけでは住民側 を要求志 向に した り,不満 な ら ば退 出すれば よい とい う意識か ら 「足 に よる投 票 理 論」 は機 能 す る よ うに な って も住民 の行政 への コ ミッ トメン トは醸成 され ない可能性が強 いo鼠織 論的にいえばノ、‑シュマ ン
( Hi r s c hma n,1 9 7 0 )
の艶織構成員 の放棄 である図 4 政府の新しい統治モデル
NPM
政策形成政策決定 政策実施 政策評価 メリット デメリット 前提条件
適合領域
PPM NWM
政策助言者(専門家) 政治家
契約者 (官 ・民) 顧客としての市民 運営費用が低い 消極的参加 競争環境 個人主義 窓 口サービス
専門家の支援を受けた市民 市民の意向を考慮し政治家 協働生産
所有者としての市民 民主的
合意形成が困難 長期的視点 市民意識の成熟 環境対策
政策ネットワーク 政治家 ・協議会 共同 (官 ・民
・NPO)
代表者からなる審議会等 弾力輪脆 弱怪 自発性 動的安定性 広域サービス
経営学 と政策科学 の相互作用 的発展過程 と将来展望
7 0 5
「退 出」 (exit)でな く阻織に止 ま り 「告発」 (voice)す る姿勢が要請 され る のであるO行政サービスの質や水準は決 して政府 ・自治体側の経営能力 ・努 力だけで決定 されない (3)か ら,こうした消費者的対応機構 を範み込むだけで は不十分でないo同時に,全ての住民を所有者意識 を持たす ことあるいは関 心を有す るテーマ別 のネ ッ トワーク構成員に位置づけることも理想論に近い
とい う難点がある(4)。
しか し,住民は顧客であると同時に所有者 ・株主であるか ら,これ ら
3
つ のモデルの どれか一つを選択 し,他を排除す るのは適切でない。便益が個人 に帰着す るため顧客志向が有効な窓 口サービスもあるし,ゴミ収集の ように 参加型でない と省資源効果が発揮できない こともあろ う。 また,他の 自治体 住民 ・法人等であって もよい知恵や労力を借 りることは当該 自治体の問題解 決能力を向上 させ ることもある。全て自前主義でや ることだけが住民 自治で はない。NPO の ような活動は地域 ・国家 とい う制約 ・境界を超 え る ことで 効果を発揮 してい るのである。要はサービス特性に応 じて適正なモデルを使 い分けることである。残念なが ら全ての政府サービスに有効な理念モデルは 未だ開発 されていない。NPM の欠点を指摘す ることは易 しい し,参加型 モ デルは理念 として素晴 らしいが ,問題 は実効可能性である。経営学 も政策科 学 も理論 と実践性を兼ね備 えない限 り,存在意義を失 うか らである。(3)医療や教育サービスは,サービスの受け手 と供給者の共同生産であ り,両者の努力が 成果達成を規定する。
(4)労働党政権のBestValue(最善の価値)と保守党政権のValueforMoney(支出に見 合 う価値)は,前者が利害関係者全員の関与を強調するのに対 し後者は効率性をより重 視する点が異なるOただ し,この差異は相対的なもので市民憲章(Citizen'scharter)に 基づ き質 とサービスを メージ ャー保守党政権 も無視 していた訳 ではない。 自治体 の BestValueの詳細についてはDETR (1998)を参照のこと0
‑2 0 9
15.
政策分析 と経営学 (り 決定過程の線形性 と非線形性意思決定過程は,企業でも政府でも合理性モデルに よると問題の明確化 ・ 定式化か ら始ま り代替案の検討 ・評価を経 て解 の提示 とい う線形的な流れ
(図
5
参照)を想定 している。こうした線形性が現実の意思決定過程において成立 しないことは,実証分 析でも認識 されているD古 くは ウィット
( Wi t
te,1 9 7 2 )及 び ミソツバ ーグ ( Mh l t Z be r ge ta
l.,1 9 7 6 )らに より魁織 の意思決定過程が線形的な段階でな
く動的で構造化 されない( uns t r uc t ur e d)ものであることを明らかに してい
るo また ,公 共 政 策 で もス トー キ ー とゼ ック‑ ウザ‑ (St o ke y a nd Ze c kha us e r ,1 9 7 8 )が,問題の確定,選択肢の列挙 ,選択結果の予測 ,結果
の評価及び選択 とい う5
段階か ら分析が構成 されるとしつつ,
「一つ の段階 か ら次の段階‑ と常に順序 よく進んでい くとは考えていない」 として 「行 き つ戻 りつ しながら,洗練 された分析に到達す る」 と表現 している。 この よう に現実の意思決定過程が非線形的なことにおいて,企業 も政府 も共通すると いえる。図5 線形合理性 モー ドにおけ る政策分析過程
(問題 分 析) 一一■ー (解 法分析 )
1.問題 の理解 4.妥 当な評価基準 の選択
2.目標 と制約 の 5.政策代替案 の特定 選択 と説明 6.代替案の評価 3.解決手法の選択 7.勧 告
コミ
ュニケー ション (助言 の伝達)経営学と政策科学の相互作用的発展過程と将来展望
7 0 7
( 2 )
政策 目標の決定過程公共政策の意思決定過程 における特性は,企業 よ り評価基準が多 くなるこ と及び評価基準間で コンフ リク トが しば しば生 じることである。 フッ ド(Hl
ood,1 9 9
1)の概念に したがえば,公共価値には効率 ,公正及び安定 ・信頼の3
種類があるとい う。 これ らは,責任論か らいえばそれ ぞれ管理 的( man‑
ager i a
l),法的( l ega
l)及び政治的( po l i t i ca
l) アカウンタビリティ (acc ou‑
nt abi l i t y)に対応す るものであるが,企業は 3
つの うち主 として効 率 の価値 を追求 しているとみ られ る。 この次元の差は,業績測定 システムにおける非 財務情報の役割が公的部門で強い ことに対応 している印象を与えるが,質的 に異なる。公的部門では財務 ,非財務情報を問わず効率以外に公正 と安定 ・ 信頼にかか る評価基準が業績測定 ・評価に要求 され るか らである。この点を効率 と公正 とい う公共政策で常に追求 され る2つ評価基準 とその 目標につ き検証 してみ よう。いま問題 の簡略化(5)のため意思決定者 (甲)が 一人であ り,効率 と公正の関係につ き特定のイデオ ロギー (政治信条)を有 しているとす る。 甲の効率 と公正の選好に関す る無差別 曲線を Ⅰ.,選択 され た政策にかか る予算制的式をA‑Aとす ると,イデオ ロギ ー上 いか に効率重 視の選好 (効率選好ほ どよ り水平的になる)を有 していて も,達成 目標は無 差別 曲線 と予算制約式の接点
B
‑ (e*,f*) として決定 され る (図6
参照)0 つ ま り,目標水準が決定 されてか ら目標を達成す る代替案の選択 ・決定が さ れ る訳でな く,ワイマ‑とバイニング( Wei merandVi ni ng,1 9 92 )が指摘
す るように 目標水準は政策分析 の結果 (ア ウ トプ ッ ト) にす ぎないのであ る。政策分析 ・評価が政治的に歪め られ るとい う批判は一面において政策科 学の限界を示 しているとみなせるが, 目標が政策の確定段階において同時決 定 され る政策決定過程 の実態を反映 しているといえる。(5)イデオ ロギーが対立す る場合への拡張モデルについては,山本 (1998b)参照。
‑21 1 ‑
図6 日標 の事後的確定性
A 効率(e)
6.
ま と め政策科学が我が国で重要性を増 しつつ ある状況下 で,政策科学 の進展 は経 営学 ,組織科学 の発展 と密接 に関係 して い る こ とを理 論面 か ら考 察 して き た。両者 は相互に影響 しあ って新 たな概念や モデルを生み 出 した こと,特に NPM の行政改革‑の適用が盛 んにな るに伴 い政策科学 の実施面 と位置づけ られ る政府 の経営学 と企業 の経営学は相互補完 の関係に突入 した といえる。
非財務情報を含む包括的な業績測定 システ ムは政府 の評価 が先行 して企業 の システムに影響 を与 えた といえる し,逆 にNPM の顧客志 向は企業 の経 営学 の手法 の応用 といえる。
この ように経営学 の進展は政策科学の発展に も貢献す ることが判 明 した。
特に我が国の ように経営学 とい うと即企業 の経 営学 を さす 現 状 を踏 まえ る と,もっと多 くの経営学研究者及 び実務家が政府 の経営学や政策科学 に関心 を持 ち相互交流を深め ることが望 まれ る。 ただ し,最後 に留意 す べ き こ と
経 営学 と政 策科学 の相互作 用 的発 展過程 と将来展 望 709
は,両者は全 く同 じものではないとい うことである。民主的政府の経営や政 策決定には,市場におけ る個人の自由意思でな く集合的意思決定下における 政治的 コンフ リク トを伴 うことである
oNPM
の代表選手 と称 され るオズ ボーンはブラス ト7)ックとの近著 (Osborneand Plastrik,1 9 9 7 )
において, 前記 した ように誤 った5
つの神話の一つ として 「政府は企業 と同 じ方式で運 営すればよくなる」を挙げている。政府は企業 と同 じでな く,あ くまで も「企業的経営が有効な分野がある」 とい うことを忘れてはならない。
追記
本稿 は,同 じ経営学講座の若林教授 よ り経営学 と政策科学の関係 を整理 した ら とい うご 助言に基づ き作成 した ものである。若林先生 とは経営学に対す る アプ ローチが必 ず しも同 じでないが,実際に稿を進め る過程 で思わぬ発見な ど得 るところが少な くなか った。記 して 感謝 申 し上げたい。 もちろん,あ り得 る誤 りは全て筆者 の責任である。
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