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おわりに 議論と今後の研究課題
最後に、本研究の結論に対してさまざまな角度から検討を加える。また今回の質問紙調査およ びインタビュー調査では十分明らかにすることができなかった点を、今後の研究課題として挙げ ておきたい。
1.議論
今回の研究は、企業家活動における社会ネットワークに焦点をあてたものである。欧米(特に 米国)においては 1980 年代後半から、同種のテーマによる研究が進められてきた。海外の先行 研究を参考にしつつ、また最近盛んに研究されるようになったネットワーク分析も視野にいれ、
研究を行った。
実際に質問紙調査を行ってみて、自由記入欄の回答内容や欄外に書かれたお叱りの言葉などを 読むと、ある疑問が生じてきた。「ネットワーク」のとらえ方が人によってかなり異なっていると いうことである。たとえば、ある書き込みには、「ネットワークはすべてがつながっているもので あり、1つ2つと数えられるものではない」とか、「ネットワークというより、個人同士のつきあ いがほとんど。集団は信用できない」と書かれていた。
確かに、インターネットのネットワークは、世界中すべてがつながっている。ネットワークを グループととらえると、組織化されたフォーマルな組織を連想され、個人ではなく集団の意図が 優先されるのではないかという疑念も理解できる。本調査で想定していたのは、面識のある個人 同士のゆるやかなつながりであり、同じ目的を持っていたり、空間を共有していたり、ある時期 一緒に過ごしたりした人間同士を考えている。Face to Faceでコミュニケーションをとるからこ そ、信頼関係が醸成される。さらに、理念やコンテクストを共有した人同士のネットワークでは、
直接会ったことがなくても、同じグループのメンバーであるというだけで信頼が生じる。たとえ ば米国のMITベンチャーフォーラムのような同窓会を母体とする組織や、ある目標の実現を目 指すための活動をしているグループなどである。
しかし、質問紙にはそこまで詳しい定義を記載することができず、ある程度詳しい説明はつけ たものの、すべての回答者に同じイメージを持ってもらうことはできなかった。むしろ、共通の 理解を持たなかった回答者の方が多かったかもしれない。このことは、回答内容にも影響を与え たことが考えられる。企業家活動における社会ネットワークについて、もう少し理解しやすい定 義や説明の仕方を工夫する余地があった。
もう一つの疑問は、社会ネットワークの成果のとらえ方である。一般的に、活用した社会ネッ トワークの数が増えると、経営成果や成長性にプラスの影響があるのではないかと考えられ、調 査票もそのように設計した。しかし、資本金の増加額と年平均増加率を除き、統計的に有意な相
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関関係はみられなかった。この結果の解釈には、注意を要する。まず、記入された回答の正確性 についてである。資本金額、従業員数、年商は実数(万円単位)で記入してもらったが、定款や 会社案内に明示されている資本金額と異なり、創業時の従業員数や年商は回答者の記憶に頼って 記入してもらわざるを得ない。特に年商については少ない場合は見栄を張って実際より多い金額 を記入しているかもしれない。回答者の自筆記入による質問紙調査なので、裏付けとなる資料の 提示をお願いすることもできない。郵送による質問紙調査の限界である。
見方を変えれば、社会ネットワークは危機的状況の際に効力を発揮するのであるから、通常の 経営状況を示す年商や従業員数、資本金額、外部資金調達額などでは測定できないのかもしれな い。たとえば創業企業の○年後の存続率とか、直面した経営危機の回数と克服状況とか、企業家 自身の能力の向上など、他の指標を使うことによって、創業期の企業家活動における社会ネット ワークの効果が客観的数値で把握できるかもしれない。
2.今後の研究課題
企業家と社会ネットワークに関する研究に取り組んだのは、今回が初めてである。本研究によ って、日本の企業家が活用、構築している社会ネットワークとその効果について、少しでも実態 が描けたと考えている。
だが、さらに研究すべき課題も多い。まず企業家のパーソナリティと社会ネットワークの関係 である。本研究の成果からは、ネットワーク構築に企業家の職業経験が大きく影響していること がわかったが、企業家個人の性格や行動パターンなどのパーソナリティがネットワーキングに影 響を及ぼすことも想定できる。この分野は心理学の領域であると思うが、さらに先行研究などを 分析し、経営学の視点を取り入れて研究したい。
またネットワーク活用と構築における性差についても、職業経験だけでなく家族の職業や家庭 教育、学校教育、個人的な体験などに広げて分析すべきである。
最後に、社会ネットワークの調査・分析方法の改良である。今回、質問紙調査とインタビュー 調査という方法を用いたが、これは、個別の企業家やそのネットワークについて深く調査・分析 する観察調査と、電子メールや電話、ファクシミリなど客観的に確認できるやりとりを数値化し て分析する方法でカバーしきれない、企業家が活用する社会ネットワークの全体像を浮き彫りに することを目指したからである。しかし、この方法にも限界がある。今後、さらに企業家の社会 ネットワークを分析するための適切な研究方法、分析方法を探っていきたい。