中央大学理工学部情報工学科
卒業研究論文
災害時における要援護者の避難計画の立案
学籍番号 02D8104004C
三河 辰洋
指導教員 田口 東 教授
2006 年 3 月
あらまし
本研究では,地震発生時の避難において,自主避難の困難な住民を安全な場所に避難させ るための避難計画を立案する.このような避難計画を立案するためには,自主避難の困難な 住民が避難する際の援護活動を考慮する必要がある.本研究では,自主避難の困難な住民に 対して 2 人の住民で援護を行うことを援護活動と定義する.ここで,援護活動における援 護者の移動距離に着目した整数計画問題を定義する.この整数計画問題を解くことで,援護 者の移動距離を最小化した避難計画を導くことができる. 次に,現実的な避難計画の立案し,
その検証を行うために援護活動シミュレーションを作成する.そして,整数計画問題の最適 解と,立案した避難計画のシミュレーション結果とを比較することで現実的な避難計画を評 価する.
キーワード:整数計画問題,援護活動,世帯別避難,家族優先避難
目次
第 1 章 序論 ... 1
第 2 章 援護者総移動距離の最適化 ... 2
2.1 援護活動の定義 ...2
2.2 整数計画問題 ...3
2.3 整数計画問題の定式化 ...4
2.4 最適解の導出 ...6
2.5 デッドロック問題 ...6
2.6 援護者と要援護者の割合による最適解の考察 ...10
2.7 定式化した整数計画問題の活用 ...15
第 3 章 援護活動シミュレーション ... 16
3.1 シミュレーションの設定 ...16
3.1.1 空間モデルの定義 ...16
3.1.2 人物モデルの定義 ...18
3.2 避難計画の立案 ...22
3.2.1 シナリオ(Ⅰ) 世帯別避難 ...22
3.2.2 シナリオ(Ⅱ) 家族優先避難...23
第 4 章 避難計画の評価 ... 25
4.1 準備時間による援護活動の変化 ...25
4.2 援護者総移動距離に着目した避難計画の評価 ...26
第 5 章 総論 ... 28
謝辞 ... 29
参考文献 ... 29
第 1 章 序論
本研究では, 地震発生時に災害時要援護者を一時避難場所へ避難させるための避難計画を 立案し,評価する.具体的には,理想的な援護活動を整数計画問題として定式化し,最適な 解を導く.そして,現実的な避難計画を援護活動シミュレーションで実行し,その結果と整 数計画問題から導かれた最適解とを比較する.本研究成果を用いれば,災害時要援護者を考 慮に入れた災害事前計画を立案することができる.
近年,世界各地で自然災害が多発している.例として,新潟中越沖地震(2004年10月)
やスマトラ沖地震(2004年12月),米国ハリケーン「カトリーナ」(2005年8月)などが 挙げられる.このような自然災害では多くの犠牲者が生じる.その原因として,情報伝達の 遅延や災害に対する知識不足などの避難計画の不備が挙げられる.実際にスマトラ沖地震で は,津波に対する知識不足が大きな被害をもたらした原因の一つであると考えられる.また,
自然災害において最も多く犠牲となるのは,自主避難が困難な災害時要援護者である.した がって,災害時要援護者を考慮した避難計画を立案することは,自然災害における犠牲者の 減少につながる.
本研究では,災害時要援護者の中で多くの割合を占める高齢者(以下,要援護者)に着目 し,地震発生時の要援護者を考慮した避難計画を立案する.
本論文は5つの章から成っており,以下にその概要を示す.
第2章では,援護者が要援護者に対して援護活動を行い,全ての要援護者を地区に定めら
れた一時避難場所へ避難させる問題を定義する.そして,この問題において,援護者が全て
の援護者と要援護者の位置情報を知っていると仮定した上で,援護者の総移動距離を最小化
する整数計画問題として定式化を行う.第3章では,対象地区として東京都北区上十条5丁
目(以下,上十条5丁目)を選び,その地区の一時避難場所である王子第三小学校へ避難を
行う援護活動シミュレーションを作成する.そして,現実的な避難計画を立案してシミュレ
ーションを行う.第4章では,第2章の整数計画問題を上十条5丁目に適応して得られる最適
解と第3章のシミュレーションの結果を比較する.第5章では,本論文のまとめと今後の課
題を述べる.
第 2 章 援護者総移動距離の最適化
本章では,地震発生時における援護活動の定量的な評価を行うために援護者が移動した距 離に着目し,援護者の総移動距離を最小化する整数計画問題の定式化を行う.
2.1 節では,最適化を行う援護活動を定義する.2.2 節では,整数計画問題について説明 する.なお,本節で述べる整数計画問題は,今野[1], [2]を参考とする.2.3 節では,整数計 画問題の定式化を行う. 2.4 節では,定式化した整数計画問題を用いて最適化の一例を示す.
2.5 節では,定式化した整数計画問題で発生するデッドロックについて述べる. 2.6 節では,
援護者と要援護者の割合に着目して最適解の考察を行う. 2.7 節では,定式化した整数計画 問題の活用について述べる.
2.1 援護活動の定義
地震発生時,自主避難が困難な住民は,避難を行うために住民からの援護を必要とする.
そこで,援護者,要援護者,一時避難場所を以下のように定義する.
援護者 : 援護活動を行う人物 要援護者 : 援護を必要とする人物
一時避難場所 : 自主防災組織を中心に集団を作り,持ち寄った情報に応じて援護活 動をとるための集合場所
さらに,以下の条件(1)〜(3)を加えて,援護者が要援護者に対して援護活動を行い 一時避難場所に避難させることを援護活動と定義する(図 2.1).
(1)初期状態(t=0)において援護者と要援護者は各世帯に存在する.
(2)要援護者 1 名に対して援護者 2 名がペアを組んで援護活動を行う.
(3)援護者は一時避難場所に到着後,必要に応じて要援護者に対して援護活動を行う.
本章では,全ての援護者が移動した距離により援護活動の定量的な評価を行う.そこで,
援護活動を整数計画問題として定式化し,援護者と要援護者の最適な割り当てを求める.
図 2.1 援護活動の定義
2.2 整数計画問題
初めに整数計画問題の前提として線形計画問題について説明する.
線形計画問題とは,
・ 線形な不等式や等式によって規定される制約
・ すべての変数が非負の値をとる
という条件のもとで,線形な関数を最適化する (すなわち,最大あるいは最小にする) 問 題である.最適化すべき線形関数を目的関数という.線形不等式や等式のことを線形制約 条件という.変数が非負値をとるという条件を非負条件という.最も一般的な線形計画問 題を定式化すると次のようになる.
最小化 ∑ (2.1a)
=
=
nj j j
x c z
1
条件 ∑ (2.1b)
=
…
=
n
≤
j
i j
ij
x b i m
a
1
,
11 ,
∑ (2.1c)
=
… +
=
n
=
j
i j
ij
x b i m m
a
1
1
1 , ,
,
) ( , , 1 ,
0 j n
1n
x
j≥ = … ≤ (2.1d)
ここで, z は最小化を行う目的関数, a
ij, b
j, は定数, c
jx
jは最適解を表す決定変数で
ある.そして整数計画問題とは,線形計画問題に最適解が整数値に限定する制約条件式
) ( , ,
1 n
1n
j
x
j∈ Ζ . = … ≤ (2.1e)
を加えた問題である.また,最適解の値が 0-1 のみに限定した問題を特に 0-1 整数計画問題 と呼ぶ.
2.3 整数計画問題の定式化
2.1 節に説明した援護活動を定量的に評価するために援護活動にかかる全ての移動距離 を考えることは妥当だと考えられる.そこで援護活動の評価項目を各援護者の移動距離の総 和と定義する.まず,整数計画問題の定式化に必要なパラメータと決定変数を定義する.
(1) パラメータ
m : 援護者数 n : 要援護者数
d
ij: 援護者 i から要援護者 までの距離 j
(ただし, d
i0は援護者 i から一時避難場所までの距離と定義する.)
: 要援護者 から一時避難場所までの距離
d
0jj
(ただし, d
00= 0 と定義する. )
(2) 決定変数(0 or 1)
: 援護者 i が要援護者 を自宅から援護するかの有無
x
ijj
(ただし, x
i0は援護活動なしと定義する.)
: 援護者 i が要援護者 を一時避難場所から援護するかの有無
y
ijj
以上のパラメータと決定変数より,援護者の総移動距離を最小化する問題は,
目的関数 : ∑∑ { ( ) } ∑∑ ( (2.2a)
= =
= =
×
× +
+
×
=
mi n
j
j ij m
i n
j
j ij
ij
d d y d
x y
x f
1 1
0
1 0
0
2
) ,
( )
制約式 : 2 ,
1 1
= + ∑
∑
= = mi ij m
i
ij
y
x j = 1 , 2 ,...., n (2.2b)
1 ,
0
∑ =
= n
j
x
iji = 0 , 1 ,...., m (2.2c)
1 ,
≤ +
ijij
y
x i = 0 , 1 ,...., m , j = 0 , 1 ,...., n (2.2d)
1 ,
0 ≤ x
ij≤ i = 0 , 1 ,...., m , j = 0 , 1 ,...., n (2.2e)
1 .
0 ≤ y
ij≤ i = 0 , 1 ,...., m , j = 0 , 1 ,...., n (2.2f)
と定式化される.
式(2.2a)の右辺の第 1 項は,援護者の自宅から一時避難場所までの移動距離の総和を 表している.また,第 2 項は,援護者が一時避難場所から援護活動に要する移動距離の総 和を表している.制約式(2.2b)は,要援護者 に対して援護者が自宅もしくは一時避難場 所から合わせて 2 人必要であることを表している.制約式( 2.2c )は,援護者 i が援護活動 の有無に関わらず一時避難場所へ避難することを表している.この時, であれば援護 者 i は,援護活動を行わず一時避難場所へ避難する.制約式(2.2d)は,自宅と一時避難場 所から同一人物の援護者 i が要援護者 に対して援護活動を行うことを禁止している.制約 式( 2.2e ), ( 2.2f )は,整数計画問題における非負条件であり,この問題においては,決定 変数が 0-1 だけの値を取るため,0-1 整数計画問題となる.
j
= 0 j
j
以上の制約式(2.2b) ~ (2.2f)から目的関数 を最小化することで援護活動総移動 距離の最適化を行う.
) , ( x y f
図 2.2 は,援護者を { A , B , C , D } ,要援護者を { } a, b とする援護活動を表している.ここ で, は距離を表し,実線は援護者の自宅から一時避難場所への援護活動を表し,破線は 一時避難場所からの援護活動を表している.要援護者 は,自宅から援護活動を行う援護者 によって援護される.要援護者 は,自宅から援護活動を行う援護者 C と一時避難場 所に避難した援護者
d
a B
A, b
A によって援護される.援護者 は,援護活動を行わずに一時避難場 所へ避難する.この場合,援護者の移動距離の総和は,
D
0 0
0
3
2 )
,
( x y d
Aad
Bad
ad
Cbd
bd
Df = + + + + + (2.3)
となる.
図 2.2 整数計画問題の定式化
2.4 最適解の導出
本章で定義した整数計画問題の最適解 x ∗ , y ∗ を導出することで援護者の最適な割り当て を得ることができる.本研究では,整数計画問題を解くために数理計画法パッケージ
NUOPT Version 7 を用いる.例として,小規模な問題で最適解を導き,援護者の割り当て
を可視化したものを図 2.3 に示す.
本章では, (100×100)の XY 平面を与える.原点を一時避難場所(青)とし,援護者(緑)
と要援護者(赤)を XY 平面上に配置する.また,距離の定義としてマンハッタン距離を採 用する.マンハッタン距離とは,各座標の差の絶対値の総和を 2 点間の距離と定義したも のである.例として, XY 平面上において座標 に置かれた点 と座標 に置 かれた点 間のマンハッタン距離 は式(2.4)で表される.
) ,
( x
1y
1P
1( x
2, y
2)
P
2d
122 1 2 1
12
x x y y
d = − + − (2.4)
さらに,援護活動を行う援護者と援護される要援護者を実線で結ぶ.ここで原点と実線で 結ばれた要援護者は,一時避難場所から援護活動されるものと考える.
図 2.3 は援護者数 を 6 人,要援護者数 を 4 人の合計 10 人で援護者総距離の最適化を 行った結果である.要援護者 c は,自宅から援護活動を行う援護者 に援護される.要 援護者 は,自宅から援護活動を行う援護者 に援護される.要援護者 は,自宅から 援護活動を行う援護者
m n
E D,
d C, F a
A と一時避難場所に避難した援護者 に援護される.援護者 は,
自宅から援護活動を行う援護者
F b
B と一時避難場所に避難した援護者 A に援護される.この 問題では,目的関数値は f ( x , y ) = 1527 となる.
2.5 デッドロック問題
2.3 節の整数計画問題は,条件によりデッドロックが発生することがある.デッドロック とは,援護活動を行うために必要な援護者を待ち続けてしまい手詰まりの状態に陥ることで ある.図 2.4 では,援護者 A が要援護者 を援護するために一時避難場所から援護活動を行 う援護者 C を待ち,援護者 が要援護者 を援護するために一時避難場所から援護活動を 行う援護者
b
C c
B を待ち,援護者 B が要援護者 を援護するために一時避難場所から援護活動 を行う援護者
a
A を待つデッドロックを表している.
図 2.3 援護者の最適な割り当て
図 2.4 デッドロックの発生
(a)デッドロック回避前 (b)デッドロック回避後
図 2.5 目的関数値に変化があるデッドロック
( a )デッドロック回避前 ( b )デッドロック回避後
図 2.6 目的関数値に変化がないデッドロック
このデッドロックには,以下に示す 2 種類のデッドロックがある.
( 1 )目的関数値が変化するデッドロック 1 (図 2.5 )
( 2 )目的関数値が変化しないデッドロック 2 (図 2.6 )
このような場合は,援護者の援護活動の割り当てを変更してデッドロックの回避を行う.
図 2.5(b)では,一時避難場所にいる援護者 B の代わりに自宅にいる援護者 A が要援護
者 に対して援護活動を行い,自宅にいる援護者 c A の代わりに一時避難場所にいる援護者
B が要援護者 b に対して援護活動を行うことでデッドロックを回避している.ここで,デ
ッドロック回避前と回避後で変更された割り当ての距離の関係が d
Ab+ d
0c≠ d
Ac+ d
0bと
なる場合,目的関数値に変化が生じる.
図 2.6 (b)では,一時避難場所にいる援護者 C の代わりに一時避難場所にいる援護者 A が 要援護者 a に対して援護活動を行うことでデッドロックを回避している.ここで,一時避難 場所から要援護者 a までの距離は, であるため距離は援護者に依存しないことがわかる.
したがって, デッドロックを回避するために援護者の割り当てを変更しても目的関数値に変 化は生じない.
d
0a以上からデッドロック 2 では,援護者の割り当てを変更しても目的関数値は最小化され ている.一方,デッドロック 1 では,デッドロックを回避することで目的関数値が変化す るため,最適な援護者の割り当てを導くことができない.そこで,デッドロック1の発生条 件と発生頻度の検証を行い,定式化した整数計画問題の妥当性を評価する.
デッドロック 1 の発生条件は,援護者数が要援護者数以下で,かつ自宅から援護活動を 行う援護者のペアがいない場合と考えられる.援護者数が要援護者数より多ければ,図 2.6
(a)や図 2.7 のように一時避難場所から援護活動を行える援護者が,1 人以上いることに なる.この場合,発生するデッドロックは,目的関数値が変化しないデッドロック 2 にな る.また,援護者数が要援護者数以下であっても,図 2.8 のように自宅から援護活動を行う 援護者のペアが 1 組以上いればデッドロック 1 は発生しない.これは,自宅から援護活動 を行う援護者のペアが一時避難場所に避難して,一時避難場所から援護活動を行えるためで ある.上記を考慮してデッドロック 1 の発生頻度を検証する.ここで,検証に用いる問題 の規模は, (100×100)の XY 平面上に援護者 100 人と要援護者 200 人の合計 300 人を 100 通りの乱数で配置した 100 データとする.検証を行った結果,デッドロック 1 の発生回数 は 100 データ中 0 回である.したがって,定式化した整数計画問題は,多くの場合におい て援護者の総移動距離を最小化することができると考えられる.
図 2.7 援護者>要援護者のデッドロック 図 2.8 援護者<要援護者のデッドロック
2.6 援護者と要援護者の割合による最適解の考察
2.5 節で述べたデッドロックの発生条件に,援護者数が要援護者数以下という条件がある.
このように,援護者と要援護者の割合によって最適解に特徴が出ると考えられる.そこで,
援護者数 m と要援護者数 の割合を以下の条件(1)〜(4)で変化させて最適解の考察を 行う.
n
(1) m > 2 n :援護者数が要援護者数の 2 倍を超える場合
(2) m = 2 n :援護者数と要援護者数がちょうど 2 倍の場合
(3) n < m < 2 n :援護者数が要援護者数より多いが 2 倍に満たない場合
(4) m ≤ n :援護者数が要援護者数以下の場合
評価に使用する問題の規模は, (100×100)の XY 平面上に合計 300 人の援護者と要援護 者を条件(1)〜(4)に従って 100 通りの乱数で配置した 400 データとする.以下に 4 通 りの比率で整数計画問題を解いた結果を示す.ただし,図 2.10,図 2.11 では図を見やすく するために一時避難場所からの割り当てを表す直線を省略して表現している.
また,援護される要援護者を以下の(Ⅰ)〜(Ⅲ)のように分類する.
(Ⅰ)援護者が 2 人とも自宅から援護活動を行う場合 n
1[人]
(Ⅱ)援護者が自宅と一時避難場所から 1 人ずつ援護活動を行う場合 n
2[人]
(Ⅲ)援護者が 2 人とも一時避難場所から援護活動を行う場合 n
3[人]
図 2.9 m > 2 n の最適な割り当て
表 2.1 m > 2 n におけるパラメータと結果
m [人] n [人] f ( ) x , y [m] n
1[人] n
2[人] n
3[人]
250 50 26280 50 0 0
n
m > 2 のときの最適な割り当てを図 2.9 に示す.また, におけるパラメータと 結果を表 2.1 に示す. では,援護者数が要援護者数の 2 倍を超えているため全ての 要援護者は,自宅から援護活動を行う援護者によって援護される.なぜならば,援護者 i が 一 時避難 場所 に避難 して から要 援護 者 に対 して 援護活 動を 行うた めに 必要な 距離 は,自宅から援護活動を行う距離 以上の長さとなるからである.ただし,援護 活動に区別がつかない という状況では,援護者が自宅から援護活動を行うも のと考える.また,援護者が自分よりも一時避難場所に近い要援護者に対して援護活動を行 う割り当てが多く存在する.これは,援護者が自宅から援護活動を行う上で一時避難場所か ら遠ざかる援護活動を避けているためだと考えられる.
n m > 2 n
m > 2
j
j
i
d
d
0+
0d
ijij j
i
d d
d
0+
0=
図 2.10 m = 2 n の最適な割り当て
表 2.2 m = 2 n におけるパラメータと結果
m [人] n [人] f ( ) x , y [m] n
1[人] n
2[人] n
3[人]
200 100 22730 100 0 0
n
m = 2 のときの最適な割り当てを図 2.10 に示す.また, m = 2 n におけるパラメータと 結果を表 2.2 に示す. では,援護者数が要援護者数の 2 倍になるので全ての要援護 者は,自宅から援護活動を行う援護者によって援護される.また,援護者が自分よりも一時 避難場所から離れている要援護者に対して援護活動を行う割り当てが, より多く存 在する.これは,援護者と要援護者の配置に大きく依存しており, に比べて援護者 が自宅から援護活動を行うときに自分より一時避難場所に近い要援護者を見つけられない 可能性が高くなることが原因だと考えられる.
n m = 2
n m > 2
n
m > 2
図 2.11 n < m < 2 n の最適な割り当て
表 2.3 n < m < 2 n におけるパラメータと結果
m [人] n [人] f ( ) x , y [m] n
1[人] n
2[人] n
3[人]
175 125 30906 81 13 31
n m
n < < 2 のときの最適な割り当てを図 2.11 に示す.また, n < m < 2 n におけるパラ
メータと結果を表 2.3 に示す. n < m < 2 n では,援護者数が要援護者数の 2 倍より少ない
ので一時避難場所からの援護活動が必要となる.また,自宅から援護活動を行う援護者のペ
アは最大で 87 組可能であるのに対して n < m < 2 n の最適な割り当てでは,81 組となって
いる.これは,まだ割り当てられていない援護者同士を組ませて援護活動を行うよりも,一
時避難場所から援護活動を行う援護者とペアを組む方が移動距離を短くできるためだと考
えられる.
図 2.12 m ≤ n の最適な割り当て
表 2.4 図 2.12 におけるパラメータと結果
m [人] n [人] f ( ) x , y [m] n
1[人] n
2[人] n
3[人]
100 200 68353 38 24 138
n
m ≤ のときの最適な割り当てを図 2.12 に示す.また, m ≤ n におけるパラメータと
結果を表 2.4に示す. では,援護者数が要援護者数以下のため目的関数値が変化
するデッドロック 1 が発生する可能性がある.しかしながら,図 2.12 では, (Ⅰ)の要 援護者が存在するためデッドロック 1 が発生しない.また,援護者数が少ないために
より(Ⅱ)の要援護者が増加していると考えられる.
n m ≤
n
m
n < < 2
2.7 定式化した整数計画問題の活用
本章で定式化した整数計画問題は,地区の援護者,要援護者の位置情報を入力として与え
ることで援護者と要援護者の最適な割り当てを出力として求めることができる.また,評価
項目として援護者の総移動距離が得られる.したがって,本モデルは災害事前計画の立案を
行うために活用できると考えられる.しかしながら,事前に全ての援護者,要援護者情報を
知ることは難しいと考えられる.そこで,第 3 章では,現実的な避難計画を立案する.そ
して,援護活動シミュレーションを作成し,その避難計画のシミュレーションを行う.
第 3 章 援護活動シミュレーション
本章では,現実的な援護活動の立案を行い,その避難計画にもとづいて,援護活動シミュ レーションを行う.
3.1 節では,シミュレーションの設定について述べる.3.2 節では,シミュレーションを 実行する避難計画の立案を行う.
3.1 シミュレーション設定
本 研 究 で は , 2.1 節 で 定 義 し た 援 護 活 動 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で 実 現 す る た め に
SOFTIMAGE|BEHAVIOR を用いて援護活動シミュレーションを作成する.ここでは,
シミュレーションの作成に必要な空間モデルと人物モデルの設定について述べる.
3.1.1 空間モデルの定義
空間モデルを以下のように定義する.
組 : 地区内の数世帯が集まって構成される集合 組集合場所 : 組に定められた一時的な集合場所
一時避難場所 : 地区の住民が避難を行う集合場所 避難路 : 対象空間内の全ての道路
(ただし,災害による道路閉塞は考慮しない)
本シミュレーションでは,対象地区を東京都北区上十条 5 丁目として,地区住民が地区 の一時避難場所である王子第三小学校へ避難を行うものとする.平成 12 年国政調査の総数 及び世帯総数[3]から,上十条 5 丁目は,人口 3,312 人,世帯総数 1,540 世帯の地区である.
また,0 歳以上 15 歳未満を年少人口, 15 歳以上 65 歳未満を生産年齢人口,65 歳以上を老 年人口とすると,約 5 人に 1 人が 65 歳以上の高齢者であることが分かる(図 3.1).また,
図 3.2 から,65 歳以上の親族のいる世帯と 65 歳以上の親族のみの世帯の合計が上十条 5 丁目世帯数の半数を超えていることが分かる.以上から,この地区では,要援護者である高 齢者を考慮した避難計画を立案する必要がある.
ここで,上十条 5 丁目の空間モデルは,ベクトル総研から提供して頂いたデータを使用
する(図 3.3).
9%
22%
15 歳未満
15〜64 歳
65 歳以上
69%
図 3.1 上十条 5 丁目 年齢 3 区分別人口
18%
35%
その他
65 歳以上の親族のみの世帯
65 歳以上の親族のいる一般世帯総数 47%
図 3.2 上十条 5 丁目 高齢者世帯数
図 3.3 上十条 5 丁目の空間モデル
3.1.2 人物モデルの定義
本節では, 2.1 節で定めた援護活動の定義に以下の条件を加えてシミュレーションの人物 モデルを定義する.
援護者 :援護活動を行う人物
(15 歳以上 65 歳未満の男女)
要援護者 :援護を必要とする人物
(自主避難が困難な 65 歳以上の男女)
避難者 :援護活動を行わず,一時避難場所に避難を行う人物
(15 歳未満の男女,または自主避難が可能な 65 歳以上の男女)
行動能力 :通常時歩行速度を 1.0[m/s],援護時速度を 0.8[m/s]とする.
まず,援護者の行動について説明する(図 3.4).地震発生後,援護者は,世帯内に要援 護者がいるか確認を行う.援護者がいなければ,一時避難場所に避難を行う.援護者がいる ならば,援護活動を行えるかを判断する.援護活動が行うことができるならば,要援護者に 援護活動を行い,援護活動ができなければ,一時避難場所に避難して援護要請を依頼する.
165m
175m
集合場所
一時避難場所
一時避難場所に避難した援護者は,一時避難場所から要援護者情報を受け取り,全ての要援 護者が避難するまで援護活動を繰り返す.ここで,一時避難場所から援護活動を行う場合,
援護を要請された要援護者を最優先して援護活動(以下,要請援護活動)を行い,援護要請 がなければ, 一時避難場所に避難が完了していない要援護者の情報を取得し援護活動(以下,
通常援護活動)を行うものと考える.ただし,3.2 節で立案する避難計画によって,援護者 の行動に条件が加わる.詳しくは,3.2 節で説明する.
地震発生
図 3.4 援護者の行動 Yes
一時避難場所で待機 要援護者の有無
援護活動が可能
援護活動開始 援護要請
Yes No
No
援護要請の有無
通常援護活動 避難開始
要請援護活動
Yes No
全ての要援護者 が避難完了
No
避難完了
Yes
次に,要援護者の行動について説明する(図 3.5).地震発生後,要援護者は,援護者が 到着するまで自宅で待機し,援護活動が可能な状態になったら,援護者と一時避難場所に避 難を行う.
最後に,避難者の行動について説明する(図 3.6).地震発生後,避難者は,近くの援護 者を探して見つかれば援護者と避難を行い,見つからなかった場合は,単独避難を行う.
本シミュレーションでは,地区の組を3つ選び,平成 12 年度国政調査の上十条 5 丁目の 総数及び世帯総数を用いて推定した,援護者 56 人,要援護者 25 人,避難者 59 人の合計 140 人の規模でシミュレーションを行う(図 3.7).
また,援護者を緑色,要援護者を赤色,避難者を黄色で色分けを行うことでそれぞれの人 物モデルの行動を区別しやすく表現する(図 3.8).
図 3.5 要援護者の行動 図 3.6 避難者の行動 地震発生
Yes
一時避難場所
No
援護者の有無 待機
避難完了
地震発生
Yes
単独避難
一時避難場所
No 援護者の有無
援護者と避難
避難完了
図 3.7 シミュレーションの設定
避難者 要援護者
援護者
図 3.8 人物モデルの色分け
3.2 避難計画の立案
地震が発生して避難を行う場合,要援護者に関する情報不足や家族の安全確保のため,即 座に援護活動を行うことは難しいと考えられる.そこで,現実的な避難計画とし“世帯別避 難”,“家族優先避難”を立案してシミュレーションを行う.
3.2.1 シナリオ(Ⅰ)世帯別避難
世帯別避難とは,地震発生後,各世帯が世帯単位で一時避難場所へ避難を行い,一時避難 場所に避難を完了した援護者が援護要請を受けて要援護者に対して援護活動を行う(図
3.9).援護者要援護者,避難者の行動は,図 3.4〜図 3.6 に従う.
一時避難場所から援護活動を開始するためには,要援護者情報を集める時間や援護活動の 準備を行う時間が発生すると考えられる.そこで,一番初めに到着した援護者が,一時避難 場所に避難してから援護活動を開始するまでの時間を準備時間 と定義する.ただし,準 備時間後に,援護者が一時避難場所へ避難してきた場合,その援護者はすぐに援護活動を行 えるものとする.
T
1図 3.9 シナリオ(Ⅰ)世帯別避難
3.2.2 シナリオ(Ⅱ)家族優先避難
家族優先避難とは,地震発生後,避難者がいる世帯や要援護者の援護活動が可能な世帯で は,避難者や要援護者の安全確保のために家族全員で一時避難場所へ避難を行う.その他の 世帯では,各組に定められた組集合場所に集まり,組の要援護者情報を受け取り,援護活動 を行う(図 3.10).援護者の行動は,図 3.11 に従う.要援護者,避難者の行動は,図 3.5,
図 3.6 に従う.
一時避難場所と同様に, 組集合場所においても要援護者情報を集める時間や援護活動の準 備を行う時間を考慮する必要がある.そこで,組集合場所の準備時間を と定義する.シ ナリオ(Ⅱ)では,援護活動を一時避難場所と組集合場所の 2 ヶ所から行うことになるた め,各場所における準備時間によって援護者の割り当てが変わる可能性が考えられる.そこ で,準備時間 , の関係を変化させて,援護活動の変化を検証する.また,本シミュレ ーションでは,一時避難場所と組集合場所で要援護者情報を同期させることで同じ要援護者 に援護活動を行わないようにする.
T
2T
1T
2図 3.10 シナリオ(Ⅱ)家族優先避難
地震発生
No
図 3.11 シナリオ(Ⅱ)における援護者の行動
Yes
避難者の有無 Yes
援護活動を開始
No No Yes
要援護者の有無
組の集合場所 避難開始
援護活動が可能
Yes
援護要請の有無
Yes No
援護活動が可能
No 援護要請
一時避難場所で待機
援護要請の有無
通常援護活動 要請援護活動
Yes No
全ての要援護者 が避難完了
Yes No
地震発生
第 4 章 避難計画の評価
本章では,第 3 章で立案した避難計画における準備時間を変えて援護活動の変化を検証 する.また,第 2 章で定義した整数計画問題を上十条 5 丁目に適応させて最適解を導き,
第 3 章で立案した避難計画と比較する.
4.1 準備時間による援護活動の変化
シナリオ(Ⅰ)では,全ての援護者が一時避難場所から援護活動を開始するために,準備 時間 T
1を変化させても援護者総移動距離に変化は見られないと考えられる.
一方,シナリオ(Ⅱ)では,援護者が一時避難場所と組集合場所から援護活動を開始する.
したがって,準備時間 , の関係によって援護者の割り当てが変わる可能性がある.そ の結果,援護者総移動距離が変わると考えられる.ここで,条件(1)〜(3)のように , の関係を変えて,援護者総移動距離の変化を検証する.ここで,援護者の割り当ては,
3.1 節と同様に援護要請がある場合を除いて,一時避難場所に避難していない要援護者情報 を取得し援護活動を行うものと考える.
T
1T
2T
1T
2(1) T
1> T
2:一時避難場所より組集合場所の準備時間が短い場合
(2) T
1= T
2:一時避難場所と組集合場所の準備時間が同じ場合
(3) T
1< T
2:組集合場所より一時避難場所の準備時間が短い場合
ここで,組集合場所に集まる援護者が,全て集合する時間を考慮して, T
2= 150 とする.
(1)では,組集合場所の援護者の割り当てが先に行われるように準備時間 秒,
秒とする.
1
= 180 T
2
= 150 T
( 2 )では,一時避難場所と組集合場所の援護者の割り当てが同時に始まるように準備時間 秒, 秒とする.
1
= 150
T T
2= 150
(3)では,一時避難場所の援護者の割り当てが行われるように準備時間 秒,
秒とする.
1
= 30 T
2
= 150 T
図 4.1 に,条件( 1 )〜( 3 )の援護者総移動距離を示す.条件( 1 )では, 16,805[m] , 条件(2)では,17,166[m],条件(3)では,17,293[m]となる.このように,準備時間 , の関係により,援護者総移動距離に変化が見られる.この要因としては以下のことが挙 げられる .
T
1T
2・組集合場所と一時避難場所から行われる援護活動の頻度
・要援護者と組集合場所と一時避難場所の地理的関係
今後は, これらの要因を考慮したシミュレーションを作成する必要がある.
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000
180:150 150:150 30:150
T1:T2 [秒]
移動距離[m]
図 4.1 準備時間による援護活動の変化
4.2 援護者総移動距離に着目した避難計画の評価
まず,第 3 章で立案した各避難計画をシミュレーションで実行し,援護者総移動距離を 求める.ここで,シナリオ(Ⅱ)は, 一番短い距離となる条件(1)で求めた値を採用する.
次に,第 2 章で定義した整数計画問題に上十条 5 丁目の援護者と要援護者の位置情報を 与えて援護者総移動距離の最適化を行う.以上から援護者総移動距離を求めると図 4.2 のよ うになる.
図 4.2 からシナリオ(Ⅰ)における援護者総移動距離は 17,306[m]となり,一番長い距離 となっている.これは,一時避難場所に避難を行ってから援護活動を開始するためだと考え られる.シナリオ(Ⅱ)では,援護者総移動距離は 16,805[m]となり,シナリオ(Ⅰ)より も短い値となっている.これは,組集合場所から援護活動を行うことで,一時避難場所から の援護活動を行うよりも短い距離で要援護者を援護していると考えられる.最適化では,援 護活動総移動距離は 7,871[m]となり,シミュレーションと比べて小さい値になる.上十条 5 丁目の場合,援護者が要援護者の 2 倍より多い であるため,要援護者は自宅から 援護活動を行う援護者によって援護される.
n
m > 2
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000
シナリオ(Ⅰ) シナリオ(Ⅱ) 最適解
移動距離[m]