特集◆ロシア自動車市場の期待と不透明感
はじめに
ウリヤノフスク州は、自動車メーカーUAZ の本拠地があり、周囲にトリヤッチ等の自動車 生産地も多く、伝統的に自動車製造、自動車部 品製造が盛んであった。近年は、州政府の強い イニシアティブにより投資環境を整え、ブリヂ ストンやタカタのような日系企業も含め、複数 の自動車部品メーカーが進出するようになっ ている。この投資環境はロシアでトップレベル と評されている。この度、9月22日から26日ま でウリヤノフスクにて自動車・自動車部品メー カーの担当者との意見交換、現場調査を行なう 機会を得た。各社がウリヤノフスクに進出した 理由を分析することにより、同州が自動車部品 産業の進出先としてどのようなメリットがあ るのかを考査する。1.ウリヤノフスクについて
ウリヤノフスク州はモスクワから約800km で、州都のウリヤノフスク市は航空機で1時間 半程度の場所に位置する。人口はウリヤノフス ク市で約60万人、州全体で約130万人である。 ソ連時代から機械工業が発展し、自動車製造 のUAZ社、航空機製造のアビアスタルSP社が 輸送機械製造の中心を担ってきた。 近年では、ウリヤノフスクは投資環境が恵ま れていると評価され、外国企業の注目を浴びつ つある。特に州政府の進出企業への手厚いサポ ートには定評がある。これは、州側だけでなく 進出企業側も語っていることである。ここは、 本稿の主題の一つなので、追って詳述する。 UAZ社と生産の様子自動車部品産業の
ウリヤノフスク州進出の可能性
ロシアNIS経済研究所 研究員 渡邊 光太郎 ■ Research Report ■特 集
ロシア自動車市場の期待と不透明感
図表1 ウリヤノフスク市周辺位置関係 出所:Google Earthより作成
2.同地に進出した自動車部品メーカー
本項では、ウリヤノフスク州に進出している 外資系自動車部品メーカーについて業容と同 州への進出理由を紹介する(進出理由は調査で きたもののみ)。 ウリヤノフスク州に進出した外資系自動車 部品メーカーは現在のところ下記5社である。 その他、完成車メーカーとしていすゞ自動車と 中国系のBAW社(双方ともソラーズ社との合 弁)が進出している。 ブリヂストン タカタ シェフラー社(ドイツ系) ネマク社(メキシコ系) アフトスベット社(小糸製作所が技術協力) 上記5社の内、4社がザボルジエ工業団地に 集まっている。州開発公社の話では日本企業も 含め、複数の自動車部品メーカーとの交渉が行 なわれている。 (1)ブリヂストン ブリヂストンは2013年にウリヤノフスクに 製造会社を設立し、2016年4月に製品の生産を 開始すべく工場の建設を進めている。現在建設 中の工場がフル生産に入る2019年には年間400 万本の生産を計画している。タイヤはアフター マーケット向けが販売の大半を占めるが、ロシ アで生産する完成車メーカーへの納入も計画 している。 ブリヂストンがウリヤノフスクを選定した 理由は、州政府の強力なバックアップ、税制等 のインセンティブ、工業団地の立地のよさであ った。 進出の検討が始まると、ブリジストンをサポ ートするための専門チームが州政府内に設け ザボルジエ工業団地にブリヂストン、 タカタ、シェフラー社、ネマク社が進出。られ、州をあげた支援が行なわれた。ロシアは 残念ながら法律の不透明さが指摘されるが、日 本企業としてはコンプライアンスの強化を目 指している中、法律上のリスクは極めて避けた いところである。ブリヂストンでは、具体例と して建築許認可の話をうかがった。ロシアでは 建築許認可が遅れることが多く、建物が建って から許認可が降りることが少なくないそうで ある。それではコンプライアンス上は問題なの で、建築前に許認可を取得しようとした。州政 府が必要な情報を前もって教えてくれたり、手 続の進行を即してくれたりといったサポート をしてくれたので、ルール上正しく許認可を得 て建設が開始できたとのことだった。州政府で は工場建設開始後の現在でも、定期的に一度ブ リヂストンとのミーティングを行い、サポート を続けている。 また、ウリヤノフスクの立地上の優位性もウ リヤノフスクに決めた要因としては非常に重 要であった。ブリヂストンが進出したザボルジ エ工業団地は、ウリヤノフスク中心部から車で 30分ほどの通勤圏にあるが、工場建設に十分な 長方形で大規模な造成の必要のない土地が取 得できた。土地は一定期間内の建屋増設が義務 付けられていないので、将来の増設可能性につ いて余裕を持って対応できる土地を確保でき ている。大消費地モスクワに比較的近い場所で、 駐在員が居住できる都市から通勤圏で、工場建 設や将来の拡張の可能性にも対応できる面積 の土地が手に入るという条件の良さは、他の地 域では見つけることができなかったそうであ る。 ロシアでの製造コストは途上国と比較して 安くはないものの、自動車購入後、半年以内に 冬タイヤを購入し、自動車一台あたりの需要が 他の地域よりも多い市場の特殊性等からロシ ア市場とロシアでの生産は十分魅力的である とのことである。 ブリヂストン工場の工事風景 (2)タカタ タカタはエアバック、シートベルト、チャイ ルドシート等を製造する自動車部品メーカー であるが、欧州現地法人経由でザボルジエ工業 団地に進出した。すでに製造を始めている。今 回直接話しをうかがう機会を得ることができ なかったが、AvtoVAZ等のトリヤッチの自動車 メーカーにエアバック付のステアリングホイ ールを製造、供給しているようだ。 開発公社担当者の話では、トリヤッチの顧客 までの距離(直線距離で120キロ程度)はある が、ウリヤノフスク州の手続のスピードを考慮 して、トリヤッチの経済特区への進出ではなく、 ザボルジエ工業団地を選択したのではないか とのことであった。 (3)シェフラー社 シェフラー社はドイツの総合的な機械部品 メーカーで、クラッチ、トランスミッション、 エンジン部品、ベアリングなど多数の生産品目 を持つ。日本で言えば、NTNやアイシン精機等 と競合するメーカーである。 ウリヤノフスクでは、ザボルジエ工業団地に 入居し、すでに完成した工場では生産が始まっ ている。一部で高速鉄道サプサン用のベアリン グを製作するほかは、売り上げベースで90%程 度が自動車部品の製造で、顧客はトリヤッチ、 アラブガ、カルーガの自動車メーカーとのこと であった。ウリヤノフスクでの生産品目は、シ リンダーライナー、ギアボックス、クラッチ等
である。ザボルジエの工場では、熱処理後の仕 掛品に対する機械加工と仕上げを行なってい る。尚、熱処理ラインは投資額が大きく、現在 の仕事量で設置するのは採算が合わないとの ことで、ロシアで調達したベアリング鋼を海外 のシェフラーの工場に送り、鍛造から熱処理ま での工程を行なった上でロシアに戻して、ウリ ヤノフスクでそれ以降の加工を行なっている とのことであった。 シェフラー社 ウリヤノフスクへ決めた理由は、ウリヤノフ スクがロシアの伝統的な自動車製造地域であ るボルガ地方の中心にあることであった。近年 外資系が進出したモスクワ周辺やサンクトペ テルブルクの自動車メーカーはKD部品の組立 が中心であることに対し、ボルガ川周辺では部 品製造も含めた生産を行なっている傾向が強 い。また、それに伴って調達先の候補となる現 地サプライヤーが多いこともポイントとして いた。その他、ウリヤノフスク市内から近く、 人材を雇用しやすいこともウリヤノフスクの 選定において重要だった。 ロシアで生産を始めた理由は、ロシアにおけ るコストは確かに高いが、ロシア市場に対応す るために市場に近いロシア国内に進出したと のことだった。 (4)NEMAK社 NEMAK社はメキシコの企業グループに属 するエンジン部品を製造する企業である。ロシ ア以外の拠点では、日系自動車メーカーとも取 引がある。 ウリヤノフスクではザボルジエ工業団地で、 工場建設を進めているが、カルーガのフォルク スワーゲン向けにアルミダイキャストのエン ジンブロックやシリンダーヘッドを供給する 予定である。アルミダイキャストの素材となる アルミインゴットはロシアで調達している。 ウリヤノフスクに決定した理由は、インフラ 等の整備について州政府がコミットしたこと をすべてやり遂げたことを評価したからで、州 政府のサポートを高く評価している。また、航 空産業が発達していたため、高度な技術に慣れ た人材が多いことはメリットとしている。 コストは、人件費は高いものの、金属の溶融 を行なうために必要な燃料のガスは欧州の3 分の1の価格であり、トータルコストはポーラ ンドと同等であるとのことだった。 (5)アフトスベット社 アフトスベット社は、小糸製作所との技術提 携によりDAAZ工業団地内で日産アルメーラ 用のライトを製造している。グリーンフィール ドに工場を建設して進出したのではなく、ロシ アメーカーとの技術提携という形で既存のロ シア自動車部品産業を活用している点で、上記 の4社と異なる。DAAZは複数のロシア系自動 車部品メーカーがソ連時代から入居している 工業団地で、アフトスベット社のケースでは、 技術のみを供与して近代化されたラインを現 地企業内に作り、新しい技術での部品製作を行 なうものである。日本企業側のリスク低減と現 地企業側の新技術に対する要望の双方に応え るものとして有望な形態であると思われる。今 回は、進出理由等の詳細の話を伺える機会を得 られなかったが、また、別の機会にご紹介でき ればと考えている。
図表2 ザボルジエ工業団地
ウリヤノフスク州開発公社提供
本文で紹介した自動車関連メーカー以外のザボルジエ工業団地の入居企業は下記のとおり
DMG森精機(独・日) 工作機械、 Hermle(独) 工作機械、 Jokey(独) 梱包材、 SAB Miller(独) 食品、 Cucina(伊) 家具、 Vkusnoteevo(露) 食品、 Alexandriyckie Dveri(露) 内装材
3.ウリヤノフスク進出のメリット
上記の進出企業が挙げたウリヤノフスクの 進出先としての長所について検討していく。ウ リヤノフスクへ進出した企業が挙げているメ リットを列挙していくと(1)行政府の手厚い サポート、(2)場所の良さ、(3)自動車工業の伝 統となる。なお、経済的なインセンティブも投 資の際は重要になるが、多くの地域が類似の経 済的インセンティブを準備していることから、 ウリヤノフスク州も経済的インセンティブを 提供するものの、ウリヤノフスク州の特徴とは なっていないと考えるため、あえてはずした。 以下、個々のメリットについて説明していく。 (1)行政府の手厚いサポート 行政府の手厚いサポートは、外資企業を誘致 するどの地方行政府もアピールするものであ る。しかし、ウリヤノフスクでは、自動車企業 や外資系企業に限らず、進出したすべての企業 がウリヤノフスク州への進出のメリットとし て挙げているほど評価されていた。 ウリヤノフスク州は、進出案件があれば具体 化前の検討段階でも専門チームを設定し、窓口になる人を任命する。複雑な許認可、土地取得、 法的な手続を一つの窓口ですべて処理できる よう、専門チームによるサポートを行なう。問 題が起これば、州知事まで話が伝わる仕組みが できており、州が一丸となって進出企業を支援 することは徹底されている。これは、州側がそ のように言っているだけではなく、サポート体 制が機能していることについては、進出企業側 も一致して語っていた。 これは我々の経験であるが、今回の訪問につ いても行政府の実務組織である開発公社の準 備は非常に手を尽くしてくれたものであった。 こちらの相当な我儘も汲み多くの場所の訪問 をアレンジしていただいた。また、やり取りは すべて英語で行なったが、レスポンスは早く極 めてスムーズなやりとりができた。 ロシア進出を検討する際、手続が煩雑ではな いか、不透明な法律にリスクがあるのではない か、言語的にコミュニケーションが難しいので はないかといった不安をよく聞くが、ウリヤノ フスク州では行政府のサポートによりこうし た不安がかなりの程度まで解消されている様 子が伺えた。 (2)場所の良さ 本稿はウリヤノフスク州全体を対象とする ものであるが、この場所の良さというメリット は特にウリヤノフスク市周辺に当てはまるも のである。ザボルジエ工業団地とボストーチニ ー港湾型経済特区等のウリヤノフスク市周辺 の工業団地への進出ではこの土地の良さのメ リットを享受できる。 場所の良さとは、立地の良さと土地の質に分 けられる。更に、立地の良さは都市に近いこと と、モスクワ等のロシアにおける大消費地に近 いことに分けられる。ザボルジエ工業団地とボ ストーチニー港湾型経済特区は、ウリヤノフス ク市の中心部から車で30分程度の場所に位置 している。この程度の距離であれば通勤圏であ り、人口60万人を越えるウリヤノフスク市は労 働力の供給源となるし、駐在員はウリヤノフス クに住居を構えれば建設した工場に通うこと は問題がない。都市の近くに立地していること のメリットは大きい。また、自動車メーカーに 納入する製品では必ずしもメリットではない が、ブリヂストンのようにアフターマーケット 向けが多く、直接消費者に販売する製品では、 ロシアの他の地域と比べれば比較的大消費地 モスクワに近いということは重要である。 更にザボルジエ工業団地は、平坦で長方形の 土地が確保できるというメリットがある。工場 建設の際に無理なく製造ラインを配置できる 建屋を建設しやすいし、大規模な造成も必要な い。 上記のメリットの1つであれば、他の場所で も十分に実現できる。例えば、広く長方形の土 地であれば、人口が希薄な場所では確保できる だろうし、モスクワ近郊であればより大消費地 に近い。しかし、広く平坦で土地の形が良く、 労働力の供給余力のある 人口50万人を超え る規模の都市から通勤圏内で、比較的大消費地 にも近いという工業団地は、ウリヤノフスク市 周辺以外ではなかなか見つからないようだ。 ザボルジエ工業団地の工業用地
図表3 ウリヤノフスク周辺の完成車メーカーと生産台数(2013) ASMデータ、Google Mapより作成 ウリヤノフスクから400km圏内で、ロシアの乗用車生産の30%、商用車生産の90%の生産が行なわれている。乗用車 では40万台以上生産するAvtoVAZ社、商用車では9万台生産するGAZ社の存在が大きい。 (3)自動車工業の伝統 ウリヤノフスクを含むボルガ河沿岸地域は、 自動車製造の伝統がソ連時代から続いてきた。 減少傾向であるが、今でもロシア最大の自動車 生産地トリヤッチを抱え、ボルガ河沿岸地域の 生産量は突出している。もちろん、ソ連崩壊前 から西側の水準に遅れた部分はあった上、近年 では伝統的なロシアメーカーのロシアブラン ド車は海外ブランド車に圧倒されつつあるの も事実である。そのためか、必ずしもすべての 企業がボルガ河沿岸地域に顧客を持つわけで も、自動車製造業地帯に立地することをメリッ トとして挙げたわけではないが、一部企業はこ の地域が伝統的に自動車や航空機などの機械 製造業が盛んな地域であることに関連するメ リットと感じていた。 AvtoVAZ工場(上)とLADAブランド車(下)
まず、自動車製造が盛んな地域であるので、 顧客が多いというメリットがある。実際に、5 社の内3社はトリヤッチのAvtoVAZ社、ルノ ー・日産、アラブガのフォード等、ウリヤノフ スクから半径400kmの地域に顧客を持つ。現状 では、トリヤッチにおけるラーダブランド車の 落ち込みが大きく、この地域の生産は減少傾向 にある。しかし、ルノー・日産がトリヤッチで アルメーラ、ロガン、ダットサンの生産を立ち 上げ生産を増やしているところである。また、 イジェフスクでも日産による生産の準備が進 む。こうした動きが軌道に乗っていけば、ルノ ー・日産の部品供給地としての需要も高まって いくだろう。 日産アルメーラ(トリヤッチ製) 他の自動車製造が盛んな地域では、外資系メ ーカーの進出により表面上の台数は増えてい るが、KD部品の組み立てによる製造の割合が 多い。一方で、台数は減少傾向にあるもののこ の地域では、自動車を部品から製造してきた。 このことを指摘する進出企業もあった。部品か ら製造するということは、自動車の開発そのも のが行なわれていることであり、部品の調達が 現地で行なわれる可能性が高いことを意味す る。サプライヤーにとっては、開発を通じた新 規のビジネスチャンスがあり得ることや、台数 あたりの部品調達量が多くなるというメリッ トがある。 ウリヤノフスクのメリットとして、サプライ ヤー候補となる企業が多いことを挙げた企業 もあった。自動車製造が盛んであったことから、 関連するサプライヤーも存在した。ロシアでは、 自動車メーカーが部品まですべて作っていた という話が広まっているが、実際にはソ連時代 から続く自動車部品メーカーも少なくない(た だし、必ずしも西側のレベルまでサプライヤー の層が厚いという意味ではない。)。ウリヤノフ スク州には、比較的大規模なものだけでもウリ ヤノフスクエンジン工場社、アフトデタルセル ビス社、DAAZ社(正確に言うとDAAZ社は工 業団地で、入居企業が自動車部品を生産してい る。)などがある。 アフトデタルセルビス社 DAAZ社
ロシアでは工業アセンブリ措置への対応と いう特殊事情があるが、特殊事情がなくてもコ スト削減、納期確保、地元との関係強化などの 理由で現地調達率の向上が望ましいとされる のが一般的である。とはいえ、このように書く と、ロシアでの現地調達は難しいのではないか という疑問を感じる方がいるのではないかと 思う。日系企業を含む外資系企業が思うような コスト、品質、技術力を現状で持つ地元企業は 確かに限られる。また、調達先となり得る現地 企業の情報は限られる。具体的に言うと、例え ばコストでは一度の案件ですべての投資回収 をしようとして高額な見積が示されたり、最新 の製品を作るための部品製造には見合わない 旧式の設備を抱えていたりすることがある。現 地企業の情報は、比較的大規模な企業の大雑把 な情報が中心となり、実際に調達品目の選定を 行なうために必要な地元企業の詳細な製造品 目の情報や中小規模の企業の情報は手に入り にくい。そのため、実際には現地調達の難易度 が高いのは事実である。とはいえ、進出企業の 中でもベアリング鋼やエンジンブロック鋳造 用のアルミインゴットを現地調達していたの は事実であるし、現地調達拡大を目指している と語ってくれた企業も多かった。現時点では、 “可能性”に留まるメリットであるが将来的に は現地調達の状況は改善していくのではない かと感じる。 地元企業の活用という面では、地元企業との 合弁や技術提携の可能性もある。部品でなく完 成車であるが、いすゞ自動車はソラーズ社傘下 と提携し、ソラーズ社傘下のUAZ社のブラウ ンフィールドを活用している。投資負担が軽い ことや、現地における労務管理、許認可などを 提携先に任せることができるというメリット がある。自動車部品メーカーでも同じスキーム の可能性がある。 ウリヤノフスク市のソラーズいすゞの工場 ソラーズいすゞ社提供
自動車部品においてもいすゞ自動車と同様 に現地企業活用の可能性があるのではないか と考える。前述のとおり、現有の設備をそのま ま利用することは難しいが、技術、設備は日本 のものを持ち込むことで、投資負担の軽減と顧 客のニーズに合った製品の提供を両立するこ とができる。今回の調査では、地元の自動車部 品企業であるアフトデタルセルビス社を訪問 した。同社はパワートレイン、エンジンを構成 する金属部品を製造している。現有設備の利用 は厳しいものも多いと思われるが、同社は積極 的姿勢があり日本企業のパートナーとなり得 る可能性を感じた。スイスからの熱処理ライン の導入やコストダウンのための中国からの資 材調達などの努力を限られた資金で行なって いた。顧客がロシア系自動車メーカーに限られ る伝統的な地元自動車部品メーカーの現実は 厳しいが、積極的に情報を公開し、熱処理ライ ンの活用の提案や、自社内のブラウンフィール ドに日本企業が進出し、最新の技術を学ぶこと ができるならば自分たちの利益になるという 考え方を表明するなど、非常に積極的な考え方 を持っていた。技術と資金を得られれば、外資 系自動車メーカーへ部品を納入する企業に成 長する可能性があると感じた。 地元の自動車部品産業の存在することによ り、技術支援を行い、ライセンス料を得るとい う形で、最低限のリスクでの進出も可能になっ ている。小糸製作所とアフトスベット社の提携 はその例である。相手方が製造ラインを更新す る資金的余裕があり、技術レベルの問題で外資 系自動車メーカーへ納入できない状態になっ ている場合は成立する可能性がある。 人口60万人のウリヤノフスク市が通勤圏内 であるザボルジエ工業団地の立地は雇用上の 数的なメリットを提供しているが、ウリヤノフ スクで自動車産業や航空産業が発展していた ことは雇用の質的なメリットを提供する。確か に、進出企業でその日から役に立つ技術、技能 を期待することは難しいものの、輸送機械製造 に従事したことがあることで、必要な技術をよ り早く習得することが期待できる。自動車産業 や航空産業の経験者が多いことが確かである。 今回、お話を伺った方の中にも元UAZ社の方 がいらした。ウリヤノフスクは、高等教育を受 けた人材が多いことを売りとしているが、それ に留まらず機械製造に関する素養がある人材 が多いことをメリットとして挙げる企業が複 数存在した。