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厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)
「マリントキシンのリスク管理に関する研究」
平成 28 年度分担研究報告書 コモンフグの毒性試験調査
研究分担者 大城 直雅 国立医薬品食品衛生研究所 研究協力者 國吉 杏子 国立医薬品食品衛生研究所 研究協力者 杉田 典子 明治薬科大学
研究協力者 山田 拓磨 明治薬科大学 研究協力者 山元 繁秀 明治薬科大学
協力研究者 中島 安基江 広島県立総合技術研究所保健環境センター 協力研究者 安西 洋一 広島市健康福祉局保健部食品保健課 協力研究者 松浦 啓一 国立科学博物館
A. 研究目的
フグによる食中毒の未然防止対策については、
昭和58年(1983年)に厚生省環境衛生局長(当 時)が発出した「フグの衛生確保について」(環 乳第59号, 昭和58年12月2日)の通知(以下 通知とする)の別表1「処理などにより人の健康 を損なうおそれがないと認められるフグの種類 及び部位」によってリスク管理がなされている。
この別表1にはただし書きがあり、「岩手県越喜 来湾及び釜石湾並びに宮城県雄勝湾で漁獲され るコモンフグ及びヒガンフグについては適用し ない」と記されており、これらの海域のコモンフ グとヒガンフグは食用不可となっている。他の海 域においても、コモンフグは筋肉だけが食用可能 で、その他の部位(皮、精巣、卵巣および、肝臓)
は有毒部位として食用不可である。
フグによる食中毒事件の報告において、原因魚 種が記載されていたものは約半数であるが、その うち最も発生件数が多いのがコモンフグであっ た(登田ら, 2012)。多くの事例において、コモン フグの有毒部位を喫食していると推定されるが、
上記3海域以外で採取されたコモンフグ(疑)の 筋肉だけを喫食したことによる食中毒事例が発 生した。そのため、コモンフグの毒性評価につい て緊急に対応する必要があるため、コモンフグの 毒性調査を実施した。昨年度の調査で、蒐集した コモンフグ102個体のうち49個体の筋肉試料に
ついてLC-MS/MSによるTTX分析を実施た結果、
45個体が無毒(10 MU/g未満)であったが、4個 体が弱毒(13〜34 MU/g)であった。これらの試 研究要旨
コモンフグ筋肉は食用部位とされているが、三陸の 3 海域については有毒個体があることが確 認されており、食用不可となっている。その他の海域におけるコモンフグの毒性を調査し、現行 のリスク管理が適切であるか評価することを目的とした。瀬戸内海および九州産コモンフグ97個 体の筋肉試料についてLC-MS/MSによりTTXを分析した結果、6個体が弱毒(12MU/g)であった。
これらの試料は鮮度が悪いものや(1 個体)、凍結融解後に腑分けをしたもの(3 個体)であった が、残り2個体は凍結融解前に腑分けをして-30℃で保管していたが皮が猛毒であった。また、筋 肉の表皮側と内臓側の毒性を比較したところ、表皮側が高くなる傾向が認められた。
これらのことより、コモンフグの筋肉による食中毒のリスクを低減するために、鮮度の良いう ちに有毒部位の皮を除去し、身欠きで流通することが重要と思われる。なお、除毒処理が適切に なされない場合には、コモンフグの筋肉による食中毒が発生する可能性が示唆されるため、適切 な工程管理法の構築と徹底が必要である。
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料は鮮度が落ちていたものや、凍結融解後に腑分 けを行ったもので、皮からの移行が考えられた。
今年度は引き続きコモンフグ筋肉に加えて、皮の 分析を行い、筋肉の毒化機構について検討した。
B. 研究方法 1)供試試料
昨年度、蒐集した瀬戸内海および九州産コモン フグ試料97個体の筋肉および皮を対象とした。
① 筋肉の毒性
腑分け後、-30℃で保存されていた昨年度分析 できなかった48個体について、任意の3か所か ら各2 gを採取して分析に供した。
② 表皮側と内臓側の筋肉の毒性
腑分け後、-30℃で保存されていた筋肉の半身 を皮に近い部分(外側)と内臓に近い部分(内側)
に分け、それぞれ均質化した後に分析に供した。
③ 皮の毒性
腑分け後、-30℃で保存されていた皮をハサミ で細切したものを試料とした。
2)TTXのLC-MS/MS分析
筋肉および皮試料について、食品衛生検査指針 記載の抽出法を一部改変して試料調製を行い、分 析に供した。すなわち、試料2 gに0.1 %酢酸8 mLを加え、ホモジナイズ(11,000 rpm、1秒×10 回)をした後に沸騰水浴中で10分間加熱した。
放冷後、遠心分離(13,400×g、15分)し、上清 を回収し、抽出液(5 mL)とした。この0.1 mL
に 0.1%酢酸 0.9 mLを加え撹拌した後に、その
0.5 mLを限外ろ過(10 kDa)した。ろ液に、ア セトニトリルの終濃度が 50%になるようにアセ トニトリルを加え撹拌後に PVDF 膜(孔径 0.2 μm)でろ過したものを測定溶液とし、以下の条 件でLC-MS/MS分析した。
【LC部】
装 置 :Agilent 1290 Infinity、 分 析 カ ラ ム : InertSustain-Amide(75×2.1 mm、3 μm)、移動相A: 水(5mM ギ酸アンモニウム, 0.5 mM ギ酸)、移
動相 B:90%MeCN(5mM ギ酸アンモニウム、
0.5 mM ギ酸)、アイソクラティック分析 A/B
(29:71)、 測定時間:10分間、カラム温度:
45 ℃、流速:0.5 mL/min、注入量: 5 μL。
【MS部】
装置:Agilent 6460 Triple Quad LC/MS、イオン 化:ESI(AJS、Positive)、ドライガス:N(280 2 ℃、
12 L/min)、シースガス:N2(350 ℃,11 L/min)、
キャピラリー電圧:3500 V、ノズル電圧:500 V、
ネブライザー:N(55 psi)2 、フラグメンター電圧:
135 V、コリジョンエネルギー:35 eV、コリジョ ンガス:N2、プリカーサーイオン:m/z 320.2、プ ロダクトイオン(定量用):m/z 162.1、プロダク トイオン(確認用):m/z 302。
定量分析の結果から得られたTTX濃度に対し、
TTX の毒性を0.22 µg/MUとして毒性換算し、
以下のとおり評価した。
10 MU/g 未満: 無毒
10 MU/g以上、100 MU/g未満: 弱毒 100 MU/g以上、1000 MU/g未満: 強毒
1000 MU/g以上: 猛毒
3)TTXのリスク管理に関する情報収集
① EUの情報収集
スペイン・バイヨーナ(Baiona)で開催された First Workshop on Emerging Marine Biotoxins(第1 回新興海産生物毒に関する学術集会)に参加し、
わが国におけるリスク管理に関する情報提供を 行うとともに、ヨーロッパをはじめとする各国の 情報収集および意見交換を行った。
C. 研究結果
1)コモンフグ筋肉の毒性
昨年度実施した49個体を合せた供試試料97個 体中、有毒なのは6個体で、すべて弱毒であった
(表1)。測定試料(n=3)の最大値は36 MU/g、
各個体の平均値の最大は33 MU/gであり、n=3で の分析値にばらつきが認められた(表2)。これ らのうち、1個体は搬入時に鮮度が悪い個体、3 個体は凍結融解後に腑分けを行った個体であっ たが、残り2個体は鮮度も良好で、搬入後速やか に腑分けを行ったものであった。
表1 コモンフグ筋肉の毒性(n=3)
漁獲日 海域 試料数 有毒 備考
2015/10/30 A 6 0
2015/11/05 B 8 0
2015/11/17 C 15 1 痛んだ個体
2015/12/01 D 15 3 凍結保存
2015/12/07 E 6 0
2015/12/15 F 30 0
2016/01/20 G 17 2
合計 97 6
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表2 有毒個体の分析結果
個体番号 n1 n2 n3 平均 標準偏差 c.v.
040 32 30 36 33 2.5 0.08
051 9.0 23 16 16 5.7 0.36
052 6.9 20 12 13 5.4 0.42
054 6.0 9.7 26 14 8.7 0.63
091 4.1 6.3 33 14 13 0.91
097 8.0 13 15 12 2.8 0.24
2)表皮側と内臓側の筋肉の毒性
有毒個体において、分析結果にばらつきがあっ たため、各個体の筋肉を内臓側と表皮側に分け、
それぞれ分析に供した結果、表皮側の毒性が高く なる傾向が認められた。また、個体ごとの平均値
(n=3)が無毒であった個体中に表皮側が弱毒の ものが認められた(表3)。
表3 表皮側と内臓側の筋肉の毒性
個体番号 試料区分 内臓側 表皮側
040 有毒 24 57
051 有毒 26 53
052 有毒 17 39
054 有毒 29 40
091 有毒 15 38
097 有毒 17 46
087 >7.5 MU/g 7.3 7.3 094 >7.5 MU/g 9.5 8.9 096 >7.5 MU/g 4.2 8.4 098 >7.5 MU/g 2.0 16
049 冷凍保存 0 3
053 冷凍保存 8 22
076 冷凍保存 1 2
078 冷凍保存 1 1
079 冷凍保存 0 0
080 冷凍保存 0 0
081 冷凍保存 0 1
083 冷凍保存 1 2
084 冷凍保存 1 1
085 冷凍保存 2 2
099 小型個体 3.4 7.9
100 小型個体 0.20 2.3
101 小型個体 0.60 2.2
102 小型個体 0.60 2.3
3)皮の毒性
コモンフグ95個体の皮はすべて有毒であった。
そのうち、猛毒のものが18個体あった。鮮度が 良い状態で腑分けをしていたにもかかわらず筋 肉が有毒であった 2 個体はいずれも猛毒であっ た。
4)TTXのリスク管理に関する情報収集 平成28年9月5日~7日にスペインのバイヨー ナ で 開 催 さ れ た First Workshop on Emerging
Toxins に出席した。本会議には会議にはヨーロ
ッパ諸国、米国、ニュージーランド、日本から参 加があり、テトロドトキシン、神経性貝毒(ブレ ベトキシン)およびシガトキシンに対する各国の 現状と取組について講演され、今後取り組むべき 課題について全体で討議された。大城は最終日に 日本における動物性自然毒の発生状況と、厚労省 がとるリスク管理措置について講演した。フグ毒 に関しては各国の関心が高く、わが国での食中毒 症例における LOAEL や規制値設定について科 学的根拠づくりが求められた。シガテラについて は、輸入時に食衛法第6条第2号に該当するとし た魚種のリストや、食中毒症例におけるLOAEL 等の算出を求められた。今回、欧米諸国を中心に、
日本とニュージーランドを含めた各国の研究者 が共同で新興の海産生物毒について調査・研究に 取組むことを確認した。
フグ食中毒調査票による食中毒事例の情報収 集については、各自治体の食品衛生担当部局への 配布方法について調整が取れなかったため、実施 することができなかった。来年度は方法を変更し、
各自治体に対し調査への協力を呼びかけ、協力が 得られる自治体を対象にして調査を実施したい。
D. 考察
コモンフグ97個体中、筋肉が有毒であったの は6個体で、そのうち1個体は鮮度の低下、3個 体は腑分け前の凍結融解であった。残り2個体は 凍結融解前に腑分けをして-30℃で保管していた が、皮が猛毒であった。また、半身を表皮側と内 臓側に分けてTTX を分析したところ、表皮側の 毒性が高くなる傾向があり、皮からの移行が示唆 された。
コモンフグ皮はすべて有毒であり、中には
7,000 MU/g もの猛毒を持つものが確認された。
また、皮の毒性が高い個体においては、目視で鮮 度がよく、腑分け前に凍結融解していない場合で も筋肉への移行があった。
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コモンフグの筋肉による食中毒のリスクを低 減するために、鮮度の良いうちに有毒部位の皮を 除去し、身欠きで流通することが重要と思われる。
なお、除毒処理が適切になされない場合には、コ モンフグの筋肉による食中毒が発生する可能性 が示唆されるため、適切な工程管理法の構築と徹 底が必要である。
E.結論
瀬戸内海および九州産コモンフグ 102 個体を 蒐集し、筋肉および皮について、LC-MS/MS法に よるTTX の定量分析を実施した。ほとんどの筋 肉が無毒であったが、6個体が弱毒であった。こ れらについては、皮からの移行の可能性が示唆さ れた。コモンフグ筋肉による食中毒のリスクを低 減するために、工程管理法の構築と徹底が必要と 考えられる。
F. 健康危険情報 特になし
G. 研究発表 1. 論文発表 なし
2. 学会発表
1) 大城直雅,國吉杏子,堀田彩乃,鈴木貴文,
杉田典子,松浦啓一,中島安基江,安西洋一:
コモンフグの毒性分析.第53回全国衛生化学 技術協議会年会,青森県青森市,2016 年 11 月.
2) 大城直雅:コモンフグの毒性評価.第 33 回 マリントキシン研究会,東京都港区,2017年 3月.
H. 知的財産権の出願・登録状況 なし