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財団法人 機械システム振興協会

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(1)

システム技術開発調査研究 19−R−16

SaaSビジネスモデル実証実験の運用と 中小企業における

SaaS利用に関する調査研究 報告書

平成20年3月

財団法人 機械システム振興協会

委託先 社団法人 コンピュータソフトウェア協会

この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

http://ringring‑keirin.jp/

(2)

わが国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社会的諸条件は急速 な変化を見せており、社会生活における環境、防災、都市、住宅、福祉、教育等、直面する問題 の解決を図るためには、技術開発力の強化に加えて、ますます多様化、高度化する社会的ニーズ に適応する機械情報システムの研究開発が必要であります。

このような社会情勢に対応し、各方面の要請に応えるため、財団法人機械システム振興協会で は、財団法人日本自転車振興会から機械工業振興資金の交付を受けて、機械システムに関する調 査研究等補助事業、新機械システム普及促進補助事業を実施しております。

特に、システム開発に関する事業を効果的に推進するためには、国内外における先端技術、あ るいはシステム統合化技術に関する調査研究を先行して実施する必要がありますので、当協会に 総合システム調査開発委員会(委員長 東京大学 名誉教授 藤正 巖氏)を設置し、同委員会の ご指導のもとにシステム技術開発に関する調査研究事業を実施しております。

この「SaaS ビジネスモデル実証実験の運用と中小企業における SaaS 利用に関する調査研究報 告書」は、上記事業の一環として、当協会が社団法人コンピュータソフトウェア協会に委託して 実施した調査研究の成果であります。今後、機械情報産業に関する諸施策が展開されていくうえ で、本調査研究の成果が一つの礎石として役立てば幸いであります。

平成20年3月

財団法人機械システム振興協会

(3)

はじめに

近年、インターネット経由でソフトウェアの機能を提供(販売)するSaaS (Software as a Service) に注目が集まっている。

SaaSはユーザーにとってメリットの多い仕組みである。たとえば、SaaSを利用するために必要

なものは、インターネットに接続されたパソコンと標準的なウェブブラウザだけでよいので、情 報システムを開発するための初期投資を必要しない。また、料金は通常利用者数と利用期間によ って決まるサブスクライブ型である。さらにソフトウェアのアップデートや業務データのバック アップ作業をする必要がない。こうしたメリットに加え、特にマルチテナント方式1のSaaSの場 合には、運用保守のプロセスにおいて「規模の経済2」が働くため、サービス提供のコストが下 がり、その結果として情報システムを自社で保有する場合に比べきわめて経済的になると考えら れる。平易な言い方をすれば、リーズナブルな料金で高機能なシステムを利用できることになる。

SaaSが、中小企業の情報化促進の鍵になると期待されている理由はここにある。

しかし、SaaSはまだ一部の企業で利用が始まったばかりで、SaaSベンダーの数もSaaSの種類も

まだかなり限定されている。ソフトウェアベンダーにとっては、自社のソフトウェアをSaaS化し た場合にどのように利用されるのか、どのようなビジネスモデルになるのかが、よく見えていな い。また、ユーザーにとってもSaaSがどのようなものなのかが分からないため、業務にSaaSを用 いるメリットが実感できない。実際に利用した場合にどのような問題が発生するのかも明確では ない。

そこで、ソフトウェアベンダーが自社のソフトウェアをSaaSとして提供し、それを実際にユー ザーに利用してもらうことによって、業務への適用性や課題、価格感を把握するために、実験環 境を構築してモニターを募集して実証実験を行った。

この実証実験に参加したベンダーや利用モニターに対してアンケートを行い、ベンダー側の SaaSビジネスにおける課題、ユーザー側のSaaSに対する意識の変化や利用意向や支払可能額など について調査を行った。これによって、今後のSaaS普及に役立つ、前例のない貴重なデータを得 ることができた。このデータからSaaSの中小企業への普及の課題を明らかにするとともに、その 解決に向けた取組みが進むことを期待したい。

社団法人 コンピュータソフトウェア協会

1 一つのバージョンのソフトウェアで複数の利用者にサービスを提供する方式のこと。マルチテナント方式であれば、顧客が 増加しても、ソフトウェアの保守コストをあまり増やさないで済む。

2 生産量(サービスの場合には、顧客)の増大につれて平均費用が減少する結果、利益率が高まること

(4)

はじめに

1. 調査研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2. 調査研究の実施体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3. 調査研究の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 第1章 SaaS とは――本調査研究における SaaS の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 1.1 「SaaS」の由来と定義のバリエーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 1.2 本調査研究における「SaaS」の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第2章 SaaS ビジネスモデルの実証実験環境の構築と運用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.1 SaaS ビジネスモデルプラットフォーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2.2 実証実験の概略及びフロー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 2.3 技術上の諸問題とその解決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2.4 ビジネスモデル上の諸問題とその解決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 第3章 中小企業における SaaS 利用に関する調査研究の実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 3.1 基礎・背景調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 3.2 本調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 3.3 回答結果と分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 a)回答者の基本プロフィール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 b)利用意向・開発意向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 c)運用基盤の調達 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 d)データ管理とその仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 e)サービスの内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 f)サービスの品質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 g)カスタマイズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 h)既存システムとの互換性及び連動性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 i)サービスの提供体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 j)サポート体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 k)契約条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 l)サービスの保証(SLA=Service Level Agreement:品質保証制度) ・・・・・・・・・・・・・74 m)価格観と費用対効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 n)SaaS 利用の地域差 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 4. 調査研究の成果(まとめ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85 5. 調査研究の今後の課題及び展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87

【資料編】

参考資料 調査票A〜D

(5)

1. 調査研究の目的

中小企業は今日、業種・業態など極めて多様化しており、先進的な IT を利活用する企業もある が、まだまだパソコンさえも導入していない企業や、設備は整ったものの活用がなされていない 企業もかなりの割合で存在する。したがって、今後の日本経済の生産性を向上させるためには、

中小企業の位置づけがますます重要となってきていることからも、実態に即したきめ細かな IT 化 促進が必要と考えられる。

一方、日本国内の IT 投資は、大企業では増加傾向にあるものの、中小企業は横ばいにとどまっ ていることも事実である。

しかし、現実は、従来のパッケージソフトを企業として導入し、活用し、維持管理していくこ とは、企業内にシステム管理者を配置しきれない企業にとっては、大きな負担である。

中小企業の IT 化を促進するためには、中小企業が IT の導入・維持管理を手軽にかつ低廉なコ ストで行える環境づくりが不可欠であり、又、そのために、中小企業にとって使いやすい新たな サービスの普及促進のための共通基盤の整備等の環境整備が急務となっているといえる。

こうした中小企業に対する IT 化支援の一環として、ソフトウェアがネットワークを介して機 能・サービスとして提供される ASP(Application Service Provider)や SaaS(Software as a Service

=サービスとしてのソフトウェア)などがベンダー、中小企業ユーザーの双方にメリットのある 形態として注目されている。

社団法人コンピュータソフトウェア協会(以下、CSAJ)では、平成 18 年度より、中小企業に対 する IT 化支援にとって有効であると考えられる SaaS/ASP 型ビジネス環境において、利用者の利 便性に資するために「SaaS 研究会」を設置し、議論を重ねてきている。

そこで平成 19 年度には、SaaS 型ビジネスが、ベンダー及び中小企業ユーザーにとっても使い 勝手がよい理想的なソフトウェア提供方法であるとの観点から、これを双方が実際に利用するこ とによって、その問題点や利便性を確認するための実証実験を行うことを決定した。更に、以下 の目的をもって、この実証実験にかかわるベンダー、ユーザー双方に対して、中小企業における SaaS 利用に関する調査研究を実施することとした。

技術的及びビジネスモデル的問題の洗い出しと解決方法の検討

SaaS 型のソフトウェアサービス導入にあたり、ベンダー、ユーザー双方の現場の混乱や不安を 回避するため、事前に技術的及びビジネスモデル的問題を洗い出し、その解決方法を検討する。

「ネット活用型経営革新支援システムの開発」への情報提供

経済産業省より平成 20 年度の情報政策関連予算概算要求で示された「IT による中小・小規模 事業者の経営支援の強化」における「ネット活用型経営革新支援システムの開発」への情報提供 と協力を行う。

(6)

2. 調査研究の実施体制

財団法人機械システム振興協会内に「総合システム調査開発委員会」を、社団法人コンピュー タソフトウェア協会内に「SaaS ビジネスモデル実証実験研究委員会」を設置して、本調査研究を 実施した。

また、社団法人コンピュータソフトウェア協会の会員企業にサービスの提供と調査への協力を、

一般ユーザーには実証実験のモニターとして実際にサービスを利用してもらい、調査への協力を 依頼した。

本調査研究の実施体制を図2‑1に示す。

(社)コンピュータソフトウェア 協会

(財)機械システム開発振興協会 総合システム調査開発委員会 委託

ベンダー

SaaSビジネスモデル 実証実験研究委員会

ユーザー(モニター)

図2−1 調査研究の実施体制

(7)

総合システム調査開発委員会委員名簿

(順不同・敬称略)

委員長 東京大学 藤 正 巖

名誉教授

委 員 埼玉大学 太 田 公 廣

地域共同研究センター 教授

委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 金 丸 正 剛 エレクトロニクス研究部門

副研究部門長

委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 志 村 洋 文 産学官連携推進部門

産学官連携コーディネータ 委 員 東北大学

工学研究科 教授 中 島 一 郎

(未来科学技術共同研究センター長)

委 員 東京工業大学大学院 廣 田 薫

総合理工学研究科 教授

委 員 東京大学大学院 藤 岡 健 彦

工学系研究科 准教授

委 員 東京大学大学院 大 和 裕 幸

新領域創成科学研究科 教授(副研究科長)

(8)

SaaS ビジネスモデル実証実験研究委員会委員名簿

(順不同・敬称略)

委員長 株式会社アールワークス 木 下 仁

代表取締役社長

委 員 全国商工会連合会 井 上 信 人

組織運営部 情報・能力開発課

委 員 特定非営利活動法人 IT コーディネータ協会 久保寺 良 之 常務理事

事務局長

委 員 ユビキタス・ソリューション・インク 佐 藤 正 幸 代表(IT コーディネータ/中小企業診断士)

委 員 株式会社オービックビジネスコンサルタント 日 野 和麻呂 開発本部

OTEC グループ グループリーダー

委 員 サイバー大学 前 川 徹

IT 総合学部 教授

委 員 山梨学院大学 松 田 利 夫

経営情報学部経営情報学科 教授

(9)

3. 調査研究の内容

SaaS ビジネスモデルの実証実験環境の構築と運用

ベンダー・ユーザーともに、SaaS 型のソフトウェアサービスを検討・利用・体験したいと考え たとき、現状ではテスト的な利用環境がなく、又実際のビジネスにおいてもその選択肢は極めて 少ない。つまり、ベンダーにとっては、既存のビジネスモデルから SaaS 型モデルへ切り替えるた めに、開発などのための多くのコストとリスクを背負うことになる。

一方、ユーザーも、実際の課金の仕組みや使い勝手・効果が見えないままでは、なかなか SaaS 型のソフトウェアサービスに切り替える強い理由や根拠を見つけ出すには至っていない状況であ ろう。

今回の実証実験では、そうしたベンダー、ユーザー双方が、CSAJ が用意した実証実験環境を利 用することで、リスクを最小限に抑え、SaaS 型のソフトウェアサービスを提供・利用することが できた。

今回の実証実験の特徴は、SaaS 型のソフトウェアサービスへの移行が比較的安易な Web サービ ス型(インターネットのブラウザを利用してソフトウェアサービスが提供されるもの)はもちろ ん、レガシーなパッケージ型のソフトウェアに対して、ストリーミング方式や、Server Based Computing 環境(SBC 環境)などの Web 化できるツールを SaaS プラットフォームとともに提供する ことで、SaaS 型のソフトウェアサービスモデルにすばやく移行できる点にある。このため、将来 的に Web 化を予定しているパッケージソフトベンダーも、多大な開発コストをかける前に、SaaS 型のソフトウェアサービスを提供・利用・検証できることになる。図3−1に今回の実証実験モ デルの簡略図を示す。

データセンター

ポータルサイト

CSA J実証実験環境 SaaS プラットフォーム

利用 モニター

ベンダー

(CSAJ会員)

一般ユーザー

インターネット

図3−1 実証実験モデルの簡略図

(10)

中小企業における SaaS 利用に関する調査研究の実施

調査研究では、実証実験に参加するベンダーやユーザー(モニター)、つまり、SaaS 型のソフ トウェアサービスにまさに移行せんとするベンダー及びユーザーの声を集め、分析した。

調査結果を公開することにより、今後 SaaS 型のソフトウェアサービスの利用を検討するベンダ ー、ユーザーにとって、それぞれの立場における直接的なメリット、デメリットを知ることがで き、双方の状況を共有することも可能となる。

本調査研究では、従来型のパッケージソフトウェア製品の利用とは異なる、SaaS 型のソフトウ ェアサービスならではのポイントを対象とした。

下記の各項目を主たる調査対象とした。

①運用基盤の調達

②データ管理とその仕組み

③サービスの内容

④サービスの品質

⑤カスタマイズ

⑥既存システムとの互換性及び連動性

⑦サービスの提供体制

⑧サポート体制

⑨契約条件

⑩サービスの保証(SLA=Service Level Agreement:品質保証制度)

⑪価格観と費用対効果

⑫SaaS 利用の地域差

(11)

第1章

SaaS とは――本調査研究における SaaS の定義

1.1 「SaaS」の由来と定義のバリエーション

SaaS には現在さまざまな捉え方があるように見えるが、複数の定義があるのではなくて、

確定的な定義がないというべきである。なぜなら、SaaS そのものがさまざまに変化しうるも のであり、SaaS と呼ぶべきものとそうでないものを線引きすることが困難であり、又、そう する必要もないからだろう。

SaaS の中心にある考え方は、その名のとおり、ソフトウェアをモノとしてではなく、サー ビスとして利用するという点にある。従来のパッケージソフトは、確かに情報機能こそが商 品ではあったが、それでもユーザーのサーバや PC 端末に「プログラム」というモノをイン ストールして利用している。そのモノを有効に利用するためのシステムを構築するためにさ まざまなハードウェアが更に必要になる。プログラムは情報にすぎなくとも、このように物 理的な付帯物が多く、ソフトウェアはずっとモノであった。SaaS はそうしたモノからソフト ウェアが本格的に独立しようとしているものだと考えることができるだろう。

物理的な制約を逃れて情報だけが分離して供給されるものといえば、最近では携帯電話の 中に組み入れられて普及している電子マネーが参考になる例だろう。かつて、電子マネーと いう想像上のものに対してさまざまな定義が試みられたが、それらは曖昧なまま、ともかく も金銭的価値が紙幣やコインから離れ、独立して動けるようになったのが現在である。SaaS もおそらくは定義をはっきりさせることよりも SaaS の持つ可能性を伸ばすことの方に力が 注がれていくだろう。

実際、SaaS は「Web2.0」と呼ばれる Web テクノロジー上の考え方とも相性よく呼応し、Web API の共有やマッシュアップテクノロジーなどによって、ソフトウェアサービスとしてどの ように発展していくのか誰にも予測できないほどである。

そうした夢の一方で、ユーザー規模の大小に関わらず誰もが平等に高価値のサービスが受 けられたり、導入が比較的容易にできたり、現時点でも他からは得がたい確かな利便性をも 備えているのが SaaS である。

こうした SaaS の特質から、中小企業を中心とした、IT 環境が比較的立ち遅れている層の 現実的な IT 化支援の手段としても注目されている。

(12)

1.2 本調査研究における「SaaS」の定義

本調査研究では、中小企業層の現実的な IT 化支援の手段としての SaaS に注目して、SaaS を以下のように定義して、調査の範囲とした。

①SaaS プラットフォームにおいて対象とした SaaS 型ソフトウェア 以下の2つの要件を満たす PC 用ソフトウェア

(1)インターネット回線を介した利用(ストリーム配信を含む)

(2)定期/定額課金、又は従量制などの買い取りでない課金

又、クライアント側の OS は、Windows 及び Linux とした。

②本実証実験における「SaaS 型ソフトウェア」の種類

(1)Web アプリタイプ

ソフトウェアはサーバで動作し、ユーザーは PC などのクライアントからブラウザで操作す る。ASP など Web アプリとして開発されているもの。

(2)サーバホスティングタイプ

ソフトウェアはサーバで動作し、ユーザーは PC などのクライアントからブラウザで操作す る。もともとパッケージソフトとして開発されたものをプラットフォームの機能によって SaaS 型として Web を介して供給する。

(3)ストリーミングタイプ

ほかの ASP、SaaS と異なり、ソフトウェアはクライアントで動作する。オンデマンドでその つど必要なモジュールを配信して動作する。

(13)

第 2 章

SaaS ビジネスモデルの実証実験環境の構築と運用

2.1 SaaSビジネスモデルプラットフォーム

図3−2のプラットフォームにおいて以下のように実証実験を行った。

【期間】 2007 年 10 月 5 日〜2008 年 2 月 29 日

【参加ベンダー/サービス】 27 社/35 サービス

【参加モニター】一般企業(ユーザー)の IT 管理者、中小企業診断士、IT コーディネータな ど計 171 名に加え、実証実験参加ベンダー及び大手キャリアのクローズドサービス 230 名ほ か、計 400 名。

SaaS プラットフォーム

シングルサインオン アクセス権管理

ユーザ管理 サービ ス・カ タログ

ビ リング ポリシー/ルール

ワークフロ ー マルチ・テナント

データセンター

非Web系サービス用 ホスティングアダプタ

非Web系サービス用 ストリーミングアダプタ

Windows アプリケーショ ン

Windows アプリケーショ ン

Web アプリケーショ ン

(既SaaS/ASP)

︵申・サ

モニ ター2:

企業規模10人前 後〜

ITコーディネータ 中小企業 診断士、 他

モニ ター3:

特定ユーザー 自社ユーザー モニ ター1:

企業規模100人以上 中堅企業

基本機能

CSAJ実証実験環境

CSAJ会員 モニター ベンダー

利用

接続用APIをベンダーへ提供

図3−2 SaaS ビジネスモデルプラットフォームの概略図

(14)

2.2 実証実験の概略及びフロー

参加ベンダーはそれぞれのサービスをプラットフォームに提供し、プラットフォームの仮 想マーケットプレイス(図3−3)で参加モニターがそれぞれ希望するサービス(複数)の 試用申し込みを行い、登録・認証を経てサービスを利用した。

マーケットプレイス型SaaSプラットフォーム

ユーザー企業 ユーザー企業 ユーザー企業

ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー

パッケージ・ベンダー 仕入

ASP / SaaS 仕入

ストア(屋台)

卸売

ストア(屋台)

卸売

ストア(屋台)

卸売

小売 小売

図3−3 マーケットプレイスの構成イメージ

(15)

a)SaaS実証実験への参加申し込み

モニターは、プラットフォームに対して一度だけの認証でログインし、その後、認証の手 続きを意識することなく各サービスを利用した。このようにユーザーから見て、一度だけの 認証で複数のサービスにログインする機能を「シングルサインオン」という。今回はそのた めに SaaS プラットフォームポータルへ申し込み、その認証をもってプラットフォームへロ グインすることによって、申し込んだ複数のサービスにモニター側から見て認証手続きなく

(最初のプラットフォームへの認証は必要)各サービスを使用するという流れになっている。

申し込みの流れは以下の図のとおりである。

1) 実 証 実 験 申 込 T OPペー ジ

申 込 をした い サ ービ ス横 の 、

「お 申 込 」リ ンク をク リッ クして 、 次 画 面 へ 移 動

2) SaaS プラッ トフォ ーム ポ ータル 会 員 登録

「新 規 登 録 」ボ タンを クリ ック して、

次 画 面 へ 移 動

ク リ ック

3) SaaS プラッ トフォ ーム ポ ータル 会 員 利用 規 約 確 認

SaaSプ ラ ットフ ォー ムポ ータル 会 員 利 用 利 用 規 約 に 問 題 が なけ れ ば 、「同 意 」ボタンを クリ ック して、

次 画 面 へ 移 動

(16)

4) SaaSプラットフォームポータル 会員情報入力

・メールアドレス (必須)

・パスワード (必須)

・ハンドル名 (必須)

・会社名

・部署名

・お名前 (必須)

・電話番号

・住所

上記項目を入力したら、

「入力内容を確認する」をクリックして、

次画面へ移動

5) SaaSプラットフォームポータル 会員情報入力内容 確認

入力内容に問題がなければ、

「上記内容で登録する」をクリックして、

次画面へ移動

6) SaaSプラットフォームポータル 会員登録完了

「こちら」をクリックして、

次画面へ移動

(17)

7) 実証実験サービス申込 ご利用環境の確認

内容に問題がなければ、

「はい」をクリックして、

次画面へ移動

8) SaaS実証実験プログラム 利用規約 確認

SaaS実証実験プログラム 利用規約に 問題がなければ、「同意」ボタンをクリックして、

次画面へ移動

(18)

9) サービス 利用規約 確認

サービス自体の利用規約に

問題がなければ、「同意」ボタンをクリックして、

次画面へ移動

10) サービスお申込情報入力

・会社名 (必須)

・部署名

・お名前 (必須)

・メールアドレス (必須)

・電話番号 (必須)

・住所 (必須)

・付随する申込情報

入力したら、「申込内容確認」をクリックして、

次画面へ移動

(19)

11) サービスお申込情報 入力内容 確認

入力内容に問題がなければ、

「申込確定」をクリックして、

次画面へ移動

12) サービス申込完了

この画面になったら、

入力したメールアカウントに来ている メールを確認。

13) 自動受付メールの受信

自動返信メールなので、入力内容に間違いがないか確認

(20)

14) 後日、サービス開始案内メールの受信(自動返信メールがあった、2〜3日後)

15) メールに記載されたURLにアクセス

メールに記載された

・ログインID

・ログインパスワード を入力してログイン

16) サービス一覧より、利用したいサービスをクリック

右側に申し込んだ商品リンクがあるので、

利用したいサービスをクリック

起動後のイメージ例

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お申込みいただいた商品

■■■■■■

以下のURLにアクセスし、ID/PWでログインしてください。

https://csaj.e-ksdn.com/

ユーザID:

[email protected] パスワード:

ksdnKSDN

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(21)

b)SaaSサービス提供フロー

シングルサインオンによってプラットフォームへログイン後、SaaS サービスを提供するフ ローは以下のとおりである。

①アプリケーション提供

参加ベンダーは SaaS プラットフォームへパッケージソフト及び確認用アカウントを提供 する。

②アプリケーション搭載

SaaS プラットフォームから各サーバへアプリケーションを搭載し、ベンダーが動作を確認 する。又、Web アプリ系サービスとの接続・動作を確認し、Web アプリ系サービスに対して もシングルサインオンの設定を行う。

③アプリケーション実行(ストリーミングタイプ)

ストリーミングタイプの場合は、ユーザー(モニター)がプラットフォームへログインし、

プラットフォームからユーザーへ認証情報を送信した後、ユーザーがストリーミングタイプ 用サーバへストリーミングを要求する。ストリーミング配信が開始し、ユーザーはストリー ミングで送信されるモジュールを自分のクライアントで動作させて使用する。生成したデー タはクライアントに保存される。

アプリケーション搭載 ベンダーによる動作確認

接続確認 動作確認/接続確認後、

シングルサイン用の設定を行う。

SaaS プラットフォーム

ストリーミングタ イプ用 サーバ

サーバホスティング タイプ用

サーバ

Webアプリ系サービス サーバ パッケージ提供

確認用アカウント提供

SaaS プラットフォーム

ストリーミングタ イプ 用 サーバ

サーバホスティング タイプ用

サーバ

Webアプリ系サービス サーバ ベンダー

(22)

④アプリケーション実行(サーバホスティングタイプ)

サーバホスティングタイプは、ストリーミングタイプと同様にまず SaaS プラットフォー ムにログインし、認証情報送信を受けてからサーバホスティングタイプ用サーバへブラウザ から操作情報を送信する。それに対してサーバが描画情報を送信することによってユーザー がソフトウェアを使用する。アプリケーションはサーバ側で実行され、生成したデータもサ ーバに保存される。

なお、今回はサーバホスティングタイプについてはベンダーからの申し込みがなく、稼動 していない。

Ⅰ.ログイン アプリケーション起動

ユーザー ユーザー

Ⅱ.認証情報送信 Ⅲ.描画情報送信

Ⅳ.操作情報送信

・アプリケーションはサーバ側で実行される。

・データはサーバ側に保存される。

SaaS プラットフォーム

ストリーミングタ イプ用 サーバ

サーバホスティング タイプ用

サーバ

Ⅰ.ログイン

アプリケーション起動

ユーザー ユーザー

Ⅱ.認証情報 送信

Ⅲ.ストリーミング 要求

Ⅳ.ストリーミング配信

・アプリケーションはクライアント側で実行される。

・データはクライアント側に保存される。

SaaS プラットフォーム

ストリーミングタ イプ 用 サーバ

サーバホスティング タイプ用

サーバ

Webアプリ系サービス サーバ

(23)

⑤アプリケーション実行(Web アプリ系サービス)

Web アプリ系サービスの場合も同様にユーザーは SaaS プラットフォームにログインし、認 証情報を受信して、そこからは直接 Web アプリ系サービスの Web サーバと通信してアプリケ ーションを利用する。この場合も、アプリケーションはサーバ側で動作し、生成したデータ もサーバ側に保存される。

Ⅰ.ログイン

アプリケーション起動

ユーザー ユーザー

Ⅱ.認証情報送信

Ⅲ.Web通信

・直接Webサーバと通信する。

SaaS プラットフォーム

ストリーミングタ イプ 用 サーバ

サーバホスティング タイプ用

サーバ

Webアプリ系サービ ス サーバ

(24)

2.3 技術上の諸問題とその解決

a)サービス接続における技術的な問題

①ユーザー認証の問題

ベーシック認証を用いる一部の ASP 型サービスにおいて、ユーザー認証に問題があり、シ ングルサインオンに支障をきたすケースがあった。

今回の場合、クライアント側でのレジストリ変更が必要になるため、プラットフォームベ ンダーでアダプタの修正が必要だった。技術的には軽微な問題だが、実稼動中の事故などを 想定して、こうした問題点を踏まえた事前の取り決めが必要である。

②会計ソフトにおける SQL Server 利用時の問題

パッケージ型サービスをオンデマンドでネット配信するためのストリーミングツールを 利用する一部の会計系アプリケーションにおいて、外部のデータベースエンジンを使用する 仕組みとなっているが、アプリケーション本体とデータベースエンジンとのパッケージ化の 際に問題があり、データベースエンジンをユーザー側が別途インストールしなければならな い状況が生じた。今回はインストールマニュアルを作成し、データベースエンジンをユーザ ー側にインストールしてもらい対応した。

b)導入手順における問題

①煩雑な規約への同意及び責任の所在が不明確になる危険性

今回の実証実験では、ユーザーがサービスの提供を受ける際の利用規約への同意が非常に 複雑となった。

従来であれば、ユーザーがサービスの申込時に、利用するサービスの規約や約款だけに同 意すればよいのだが、今回の実証実験の場合は以下のような流れである。

Ⅰ. 受付窓口(SaaS プラットフォームポータル)利用時の規約

Ⅱ. SaaS 実証実験利用時の規約(ストアの規約)

Ⅲ. サービス申込時の規約(選んだサービス分の規約)

Ⅳ. プラットフォーム利用時の規約(SaaS プラットフォーム)

(25)

今回はあくまでも実証実験であるため、サービス提供の流れが複雑化していることは事実 だが、実際の有料サービスにおいても、多数のベンダーが関わることが予想され、これらを 一本化するのは容易ではない。

このあたりは、役割分担や責任の所在が不明確であることなど、SaaS 型ビジネスモデルの 諸問題と絡んでおり、SaaS の普及への足かせともなりかねない要素である。

②利用規約の対応

すでに ASP 型サービスを提供しているベンダーは問題ないが、既存のパッケージ型の場合、

オンデマンド型のサービス提供の経験がないため、利用規約の作成に手間取る(又は作成で きない)ベンダーも多く見られた。又、法務や弁護士への確認作業の遅れにより、期間内に サービス提供できないベンダーもあった。少なくともビジネスプラットフォームを実際に立 ち上げるときにはこうしたケースに対してサポートを行う体制が欠かせないだろう。

③サポート体制の不備

利用規約に関連した事項として、サポートが十分に行えないという問題がある。当初は SaaS プラットフォームポータルを通じて各サービスへの問い合わせを受け付けし、ベンダー に引き渡して回答をいただく流れを検討していたが、ベンダー側のサポート対応がまちまち で(実証実験は、体験版と同じであり、オンデマンド型でのサービス提供ではサポート実績 がないため対応不可と考えるベンダーもあった)、結果的に「原則、サポートは受け付けな い」方向とせざるをえなかった。

この問題は、基本的にプラットフォーム運営側がやるのか、あるいはベンダーごとに従来 と同様のサポートを行うのか、又新しい形がありえるのかを検討するきっかけとなる。

④導入手順の煩雑さ

複数の利用規約への同意が必要であることも導入手順の煩雑さにつながっているが、プラ ットフォームを利用したサービス提供であり、かつ複数のサービスを登録・利用できるがゆ えに、その導入手順をまとめたマニュアルの作成が困難となっている。サポート同様、当初 は受付窓口となる SaaS プラットフォームポータルを通じて導入サポートを行う予定であっ たが、申込方法、プラットフォーム利用方法、各サービス利用方法など、膨大な量のマニュ アルが必要となるため対応が遅れた。

⑤プロキシ設定によるアクセス制限

一部のモニターの利用環境において、企業内のプロキシ通過がセキュリティ対策上許可さ れていないケースがあり、送信元の IP アドレスが特定できず、プラットフォームへアクセ スできない現象が起きた。これもプラットフォームとベンダー及び、ユーザー企業間で合意 が形成されていれば解決できる問題だろう。

(26)

2.4 ビジネスモデル上の諸問題とその解決

a)ユーザーの位置づけ

今回の実証実験に用いるプラットフォームでは、「ユーザー」を管理すべき対象者すべて であると定義しており、又、販売対象(課金対象)を「企業」としている(図3−4)。

「ストア」からサービスを購入するのは、末端のユーザー(企業内利用者)ではなく、「企 業」の担当者(システム責任者等)という仕組みである。これは、プラットフォーム側で末 端のユーザー(企業内利用者)がどのサービスをどれだけ使ったかを管理(課金)する必要 があるためである。

しかし、一部の Web アプリ系サービスでは、サービスの購入者は「企業」の担当者(シス テム責任者等)であるものの、末端のユーザー(企業内利用者)までは管理しない(企業担 当者が自ら管理する仕組み)。このため、今回は Web アプリ系サービス内のユーザー管理機 能を企業担当者には使わせずに、ストアに対してユーザーの追加作業を行い、最終的にプラ ットフォーム側が Web アプリ系サービスに対してユーザーの追加作業を行ってデータを連携 させる(末端のユーザーを SaaS プラットフォームの利用者としてリンクさせる)という、

非常に複雑な対応を行うこととなった。

今回はプラットフォームの仕様にサービス側が合わせるという対応を採ったが、サービス 側からすれば、特に末端のユーザーを管理する必要がない場合は無意味かつ無駄な作業とな る。このため、プラットフォーム側にも、サービスごとのユーザーの位置づけに合わせた、

柔軟な仕様が要求されるだろう。

ストア ストア ストア

SaaS プラットフォーム(マーケットプレイス)

企業 企業 企業 企業 企業 企業

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者 企業内

利用者 企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

企業内 利用者

図3−4 マーケットプレイス型プラットフォームにおける「ユーザー」の範囲 ユーザー(管理すべき対象者すべて)

(27)

b)ユーザーへの負荷

繰り返しになるが、今回のプラットフォームでは、「ストア」からサービスを購入するの は「企業」の担当者(システム責任者等)という位置づけとなっている。担当者は自社のさ まざまな部署に必要なサービスを「ストア」から購入し、各部署の利用者をユーザーとして 登録する。このような仕様であるため、企業の担当者には「ストア」に対してライセンス(ユ ーザー)の追加や削除、別サービスの購入など、企業の窓口としてのサービス利用に必要な 管理機能を提供している。

しかし、今回の実証実験では、企業向けのサービスとコンシューマ向けのサービスが 1 つ のプラットフォーム、ストアに混在しており、対象となるユーザーもさまざまである。対象 が PC リテラシの乏しい小規模企業などである場合、購入者となる企業担当者が、これらの 機能を使いこなすことは難しく、負担となるだろう。又、個人企業やコンシューマがユーザ ーとして利用する場合も、せっかくの管理機能が逆に使いにくく思えるだろう。

(28)

第3章

中小企業における SaaS 利用に関する調査研究の実施

3.1 基礎・背景調査

SaaS プラットフォーム実証実験及びモニターを対象としたアンケート調査と並行して、一 般ユーザーなどに対して SaaS に関する意識調査を行い、本アンケート調査の基礎・背景調 査とした。

a) Webアンケート版「SaaSに関する調査」

①調査方法

調査は民間の Web アンケートサービス会社に外注して行った。まず、Web アンケートサ ービス会社のモニター会員のうち、企業に勤めている人、経営者・役員、個人事業主を 対象として、予備調査(スクリーニング調査)を実施し、

(1) SaaS についてある程度以上の知識がある、

(2) 情報システム導入に関与しているか、関心の高い人 (3) 従業員が 300 人以下の企業の従業員か経営者 の 3 条件を満たす人を抽出した。

次いで、抽出後のモニター会員に対して、本調査を実施した。

②調査実施時期

(1) 予備調査(スクリーニング調査) 2008 年 1 月 11 日〜14 日 (2) 本調査 2008 年 1 月 18 日〜19 日

③予備調査の調査項目 (1) SaaS の認知度

(2) 情報システム導入における立場 (3) 業種

(4) 従業員規模

④予備調査の結果

予備調査は 50,370 人に対して行い、3 条件を満たす 1187 人を抽出した。

⑤本調査の調査項目

(1) SaaS への関心と利用意向

(29)

b)通信キャリア大手による「SaaSの利用に関するアンケート」

①調査方法

通信キャリア大手のモニター200 名に対して SaaS に関するアンケートを実施。37 人の 回答を得た。

②調査実施時期

2008 年 2 月 6 日〜2 月 19 日

③調査項目

(1)「SaaS」に対する認知度とイメージ (2)利用意向

(3)回答者の IT 環境

c)ASP/SaaS検索サイトでのオープンアンケート

①調査方法

本実証実験において SaaS プラットフォームポータルとして機能した ASP/SaaS 検索サイ トを訪問したユーザーに Web 上で告知して実施。95 人の回答を得た。

②調査実施時期

2008 年 1 月 28 日〜2 月 25 日

③調査項目

(1)「SaaS」に対する認知度とイメージ (2)利用意向

(3)回答者の IT 環境

※実証実験でのモニターアンケートに準じた。

(30)

3.2 本調査

a) アンケートの実施体制

本調査は、SaaS プラットフォームポータルを窓口とする Web アンケートの形で行われた(図 3−5)。

ベンダー ユーザー(モニター)

(社)コンピュータソフトウェア 協会

SaaSビジネスモデル 実証実験研究委員会

SaaS プラットフォーム

ポータル

アンケート作成・告知 回答回収

b) アンケート回答者の基本属性の切り分けと意義

モニター・ベンダー調査では、実証実験に参加したモニターに対して、調査票 A、B を用 い、ベンダーに対して調査票 C を用いた(巻末・参考資料を参照)。又、3.1のc)の調 査において用いた調査票はこれらに準じた調査票 D である。

●モニターA

実証実験のモニターのうち、情報システムの導入に際して、承認・決定、候補の選定、情 報の収集などで関与している層(有効回答数 n=69)。

なお、モニターA はさらに次の2つに分けて調査を実施した(回答者自身による自己判断)。

A1:主として、IT 管理者など SaaS を IT 管理上の観点から見ることのできる層(有効回 答数 n=33:モニターA の内数)。

A2:主として、経営者・役員・管理者、コンサルタントなど、SaaS を経営的観点から見 ることのできる層(有効回答数 n=36:モニターA の内数)。

●モニターB

実証実験のモニターのうち、モニターA1、A2 には分類されない一般層。基本的にエンドユ ーザーと捉えた設問を作成(有効回答数 n=47)。

●ベンダー

図3−5 アンケートの実施体制

(31)

モニターA1 と A2 は、同じ調査票 A に回答した。調査票の設問中に A1 か A2 かを判断する 設問があり、必要に応じて意見を切り分けて分析するためである。基本的に情報システムの 導入に際して、承認・決定、候補選定、情報収集の側面において、関与している層を原則と して、更にそれに準じる立場として中小企業に対し経営と情報システムに関するコンサルタ ントを務める中小企業診断士、IT コーディネータも、顧客へのコンサルティング時の視点で という前提で参加している。

その上で、IT 管理的視点で SaaS を見ているか、経営的視点で SaaS を見ているかで A1 と A2 に分けた。IT 管理的視点か経営的視点かは自己判断してもらった。

モニターB は、そのいずれでもないモニター及び SaaS プラットフォームポータルでオープ ンに募集した一般から参加したモニターである。用いた調査票は B である。設問内容の大筋 は調査票 A、B でほとんど変わらないが、調査票 A の方が B よりも細かく専門的なものが多 くなっている。例えば、SaaS の利用意向をたずねる設問では、調査票 A では業務分野ごとの 選択肢を用意したマトリクスタイプの設問であるのに対し、調査票 B では SaaS をおおまか に捉えてイメージ的に利用したいかどうかをたずねている。

ベンダーに対して質問した調査票 C では SaaS 事業に対するベンダーの姿勢、現状、体制 についてたずねた。

c) 各調査票の主な調査項目

各調査票の主な調査項目は以下のとおりである。

①調査票 A

 回答者の立場と IT 環境

 所属企業の規模・所在地・業種

 所属企業のセキュリティ施策状況

 SaaS への認知度、評価、価格観

 SaaS 利用におけるセキュリティ意識

 SaaS 利用における利用上の要望・意識

②調査票 B

 回答者の立場と IT 環境

 所属企業の規模・所在地・業種

 SaaS への認知度、評価、価格観

 SaaS 選定の際に重視する項目

 SaaS 利用における利用上の要望・意識

③調査票 C

 企業の規模・所在地

 開発傾向

 SaaS に対する評価

 SaaS 事業についての意向、現状、展望

(32)

3.3 回答結果と分析

a)回答者の基本プロフィール

回答者のプロフィールは、回答者の意見を立場などで切り分けて意見を探る目的で、性 別・年齢・業務、及び勤務先の規模、所在地、業種などの基本データを取った。勤務先のデ ータは、主として、本事業の調査目的の 1 つである「IT による中小・小規模事業者の経営支 援の強化」における「ネット活用型経営革新支援システムの開発」への情報提供と協力に鑑 み、対象が中小企業のユーザーであるか、又、企業が大都市圏にあるか、地域にあるかを確 認するためである。大都市圏と地域との違いについては、後述の「n)SaaS 利用の地域差」

において考察する。本アンケートは SaaS ビジネスモデルプラットフォームのモニターに対 するアンケートという形態をとり、かつオープンにモニターを募集したこともあり、回答者 には大企業ユーザーも相当程度存在する。

又、これら以外に、PC 歴、PC の使用状況(共有か専有か)、勤務先で使用している回線 の項目を設け、個人 1 人 1 人の IT 環境についてのデータを取った。

PC の使用状況については c)で考察する。

モニターとなったユーザーは PC 使用歴が 10 年以上と長い傾向にあり、調査票 A に回答し たモニターA1・A2 では、IT 管理面よりも経営的視点のモニターのほうが若干多かった。

(33)

●情報システムとの関わり

図3−6 調査票 A‑質問 001 情報システム導入における立場 n=69

図3−6でモニターA の回答者のすべてが情報システム導入に関与する層になっているのは、

調査票 A が「情報システムの導入に技術的側面から関与している方」を対象として、具体例とし て「情報システム部系部署に勤務する方」「クライアント企業の IT 導入に関心を持つ中小企業診 断士・IT コンサルタントの方」「IT に関心の高い経営者・役員・管理職の方」「そのほか、IT や SaaS に特に関心・造詣がある方」を挙げ、回答者をしぼったためである。特に「技術的側面」

という条件を入れることで承認・決定権を持つ経営層であっても一定の IT への理解度を求めた。

図3−7 調査票 A‑質問 002 立場と役割 n=69

モニターA の具体的な立場・役割を細かく聞いた。いわゆる「情シス」(IT 管理を行う情報シ ステム部に勤務するスタッフ)が全体の約 4 分の 1、コンサルタント層が約 2 分の 1 含まれてい た。モニターを依頼した団体・組織のプロフィールから、このコンサルタント層は中小企業診断 士か IT コーディネータのどちらかであると思われる。コンサルタント層の回答者は一定数存在す

(34)

ることがわかっていたため、他の立場とは違って自分自身の事業所や事業の中で答えてもらうの ではなく、このアンケートが一般企業における SaaS の現状、あり方をさぐる目的のものであるこ とを前提に、特に「コンサルタント業の方は、 ご自身のニーズなどを回答していただくのではな く、クライアント企業、もしくは事情をよく知る企業を 1 社想定し、その企業へのアンケートで あると仮定した上で、コンサルティングするようなつもりで回答してください」と事前にお願い しているため、モニターA の回答には、中小企業の現場の声を集約し、理想化した声が多く含ま れていると考えられる。

図3−8 調査票 A‑質問 003 情報システムの導入に関わるときの観点 n=69

図3−8は、調査票 A の質問 003 の結果である。モニターA に対して、3.2 b)で述べた A1、

A2 層を分ける標識をつけることが目的だが、ほぼ半々であった。情報システム部に在籍するスタ ッフの割合の倍の層が、SaaS を IT 管理寄りに見ているということは、コンサルタントや一般社 員の中にも相当数 IT 管理的な見方をする回答者がいるということである。同時に、IT 管理寄り か経営寄りかの差が実はあまりないということかもしれない。実際に、この標識で意味のある差 は今回の範囲内では観測できなかった。

なお、モニターB はもともと情報システムの導入に関与していない層としてアンケートをお願 いしているので、同種の質問は行っていない。

(35)

●IT 環境

図3−9 調査票 A‑質問 008 パソコン歴 n=69 グラフの数値は実数(人)

あなたのパソコン歴

0

0

1

3

65

0 10 20 30 40 50 60 70

1年未満

3年未満

5年未満

10年未満

10年以上

モニターA の職務上のパソコン歴を問うと、69 人中 65 人(94.2%)が 10 年以上の経験を持っ ているという結果が出た。

図3−10 調査票 B‑質問 005 パソコン歴 n=47 グラフの数値は実数 あなたのパソコン歴

0

0

1

9

37

0 5 10 15 20 25 30 35 40

1年未満

3年未満

5年未満

10年未満

10年以上

一方、モニターB においては、47 人中 37 人(78.7%)が 10 年以上の経験を持つ。モニターA ほどではないが、こちらもパソコン経験の長い層が多い。また、ここではグラフ化していないが、

参考として、前出のオープンアンケート調査では、回収数 95 人中の 73 人(76.8%)が 10 年以上 の経験者であり、モニターと一般ユーザーに大きな差はない。

(36)

図3−11 調査票 A‑質問 009 PC 使用形態 n=69 グラフの数値は%

図3−12 調査票 B‑質問 006 PC 使用形態 n=47 グラフの数値は%

図3−11、図3−12はそれぞれモニターA とモニターB が事業所内で自分専用の PC を確保 して仕事しているかどうかの結果である。どちらもほぼ 100%という結果が出た。各人専用 PC の 存在は、現在の PC の価格と IT 化、特に SaaS を活用した業務を考えれば当然に目指すべき環境で ある。少なくともモニターにおいては、その理想的条件をクリアした層であるといえる。また、

参考データとして、同じサイトで一般ユーザーを対象に行った3.1 c)のオープンアンケート 調査では、専用 PC を持つユーザーは回収数 95 人中 95 人(100%)であった(図3−44)。

(37)

図3−13 調査票 A‑質問 010 接続回線 n=6 グラフの数値は%

図3−14 調査票 B‑質問 007 接続回線 n=47 グラフの数値は%

図3−13、図3−14は、モニターA、モニターC の接続回線について質問した結果である。

いずれも 80%を超えてブロードバンドであると答えているが、回線種類は不明ながらも LAN 環境 であると答えている層が 10%以上いるので、実態としては 90%以上がブロードバンドであると見 られる。一方で、はっきりとナローバンド(ISDN、通常電話回線)と答えたモニターは0であっ た。また、参考データとして、前出のオープンアンケート調査においても、「ブロードバンド」

が 84.2%、「不明だが LAN 回線」が 14.7%(図3−45)で、やはりブロードバンド環境は 90%

を超える。

(38)

●所属する企業の状況

図3−15 調査票 A‑質問 011 所属する企業の資本金 n=69 グラフの数値は実数(人)

資本金

25

10

12

5

17

0 5 10 15 20 25 30

〜1000万円

〜5000万円

〜1億円

〜3億円

3億円超

図3−16 調査票 B‑質問 008 所属する企業の資本金 n=47 グラフの数値は実数(人)

資本金

9

2

3

4

29

0 5 10 15 20 25 30 35

〜1000万円

〜5000万円

〜1億円

〜3億円

3億円超

(39)

図3−17 調査票 A‑質問 012 所属する企業の従業員数 n=69 グラフの数値は実数(人)

従業員数

12 13 7

8

13 2

1

13

0 2 4 6 8 10 12 14

1〜5人 6〜20人 21〜50人 51〜100人 101〜300人 301〜500人 501〜1000人 1001人以上

図3−18 調査票 B‑質問 009 所属する企業の従業員数 n=47 グラフの数値は実数(人)

従業員数 4

6 1

5 4 2

12 13

0 2 4 6 8 10 12 14

1〜5人 6〜20人 21〜50人 51〜100人 101〜300人 301〜500人 501〜1000人 1001人以上

図3−15、図3−16はモニターA、モニターB が所属する企業の資本金状況、図3−17、

図3−18はモニターA、モニターB が所属する企業の従業員数である。このデータから判定する と、中小企業庁の分類によれば(本アンケートでは業種において卸売・小売を1つにして分類し ているため、便宜上小売を卸売と同等にみなして判定した。誤差が出ている可能性はあるが非常 に小さい)本アンケートのモニターA においては、全体の 78.3%、モニターB においては、全体 の 51.0%が中小企業ということになる。前出のオープンアンケート調査では、全体の 74.7%が中 小企業であった。本アンケートの目的は SaaS の中小企業における普及状況を調べるのではなく、

中小企業における SaaS 利活用のための本質的な方策を探る目的であるため、大企業ユーザーの回 答も有効な意見として特別な区別なく算入した。

(40)

図3−19 調査票 A‑質問 013 所属する企業の業種 n=69 グラフの数値は実数(人)

業種

0

3

15 0

20 1

8 1

0 0 0

2

14 5

0 5 10 15 20 25

農業・林業・水産業 建設業 製造業 電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業 運輸業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 飲食店、宿泊業 医療、福祉 教育、学習支援 その他サービス業 その他

図3−20 調査票 B‑質問 010 所属する企業の業種 n=47 グラフの数値は実数(人)

業種

0 0

2 0

27 0

5 0

0 0 0 0

12 1

0 5 10 15 20 25 30

農業・林業・水産業 建設業 製造業 電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業 運輸業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 飲食店、宿泊業 医療、福祉 教育、学習支援 その他サービス業 その他

図3−19、図3−20はモニターが所属する企業の業種状況である。モニターを募集した経 緯から情報通信業、その他サービス業が多く、業種上の偏りがある。特に業務内容とからめての 質問においては、業種を広げて、同種の問いを重ねていく必要があるだろう。

参照

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