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Discourse Analysis of 'Requests' in Chinese and Japanese

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Academic year: 2022

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

Discourse Analysis of 'Requests' in Chinese and Japanese

李, 善子

九州大学大学院比較社会文化学府

https://doi.org/10.15017/4494523

出版情報:比較社会文化研究. 12, pp.101-107, 2002-10-31. Graduate School of Social and Cultural Studies, Kyushu University

バージョン:

権利関係:

(2)

Social and Cultural Studies  No. 12  (2002), pp. 101  1

 

07 

中国語と日本語における談話の構造分析

ー依頼を中心に一

子 籍

リ 李

はじめに

近年「談話分析」が隆盛を極めるなかで、従来は発話行 為としての研究が主であった「依頼」に関する研究も、談 話行為として視点変換が注目されている。「現実の言語使 用の中で『依頼jを説明するには伝統的な発話行為理論だ けではなく、 「依頼」を談話行動として捉える必要性があ る」(熊取谷1995)のである。依頼表現は、ある用件のも とで「依頼スル者」と「依頼サレル者」との間で行われる が、その場合話し手としての「スル者」は聞き手としての

「サレル者」の反応を前提として発話する。両者の関係は 話し手が中心となっているが相互的性格をもつ。したがっ て、これらの依頼表現では文法、語彙などの言語体系によ る表現形式のほかに、話し手と聞き手の間のコミュニケー ションを遂行するための言葉の機能、つまり談話の構造が 重要な役割を果たす。本稿では、中国語と日本語の依頼表 現の談話構造の比較分析を通じて、その談話の展開と構造

と係わりの解明を試みる。

1 .  

先行研究

1. 1 依頼の定義とその形式について

益岡 ・田窪 (1993)は、「依頼は人に動作をするよう頼 む場合のムードであり、相手の意志を尊重する点で命令よ り丁寧な表現であり」、依頼には直接的に相手に動作を依 頼する「直接依頼形式」と自分の実情を述べて相手に間接 的に動作の依頼をする「間接的依頼形式」があると述べて いる。

それに加えて馬場・胆 (1992)は依頼表現の形式につい て次のようにまとめている。

日本語の直接依頼表現には「〜て、〜てくれ、 〜てくだ さい」のように「動詞のテ形+「くれる」の命令形」を使 うもの、「〜てくれるか、〜てくれないか、〜てくれませ んか、〜てもらえるか、〜てもらえますか、 〜てもらえま せんか」のように相手に自分の頼みに応じる意志があるか

どうかを尋ねるものがある。

間接依頼形式には、「〜てもらいたい、〜てほしいんだ

が」のように、相手の動作を自分が望んでいることを知ら せるもの、「〜てくれると助かる、〜てくれるとありがた いんだけど」のように、それが自分にとって有益であるこ とを相手に知らせることで、相手がその動作をしてくれる ように仕向けるものがある。

1.  2 中日対照における依頼表現の先行研究

林 (1982)は「日本語は助詞、助動詞を駆使して依頼表 現の丁寧度の手段を構成し得ているが、中国語は孤立語で 動詞の活用もなく、敬語に専用の助動詞もないので、言語 形式として丁寧度を表す手段は少なく、逆にいえばもっと 微妙なことばの全体的つながりやイントネーションによっ て丁寧度を示さざるを得ない。」と指摘している。

李罪 (1998)によると、依頼する口調を和らげるために 日本語は「〜てください」より「〜ていただけますか/ま せんか」を用いているが、中国語は副詞や動詞の重ね型形 式で、要求する口調を和らげているとしている。

一方、劉敏 (1990)は依頼表現において日本人はよく間 接的な表現をとり、中国人は直接的な表現をとる特色があ ることを仮定し、アンケート調査を通して仮説が成立する ことを示している。

これらの一連の先行研究では、依頼表現を単なる文法、

文構造レベルで扱っており、例として出された表現がそれ ぞれの談話文脈から切りはなされて提示されているため、

「われわれはことばのやりとり(依頼表現)を使ってなに ができるか」が明確ではない。したがって、その考察過程 の分類の当否についても検証することができない。

1 .   3 

日本語教育の観点から談話分析を取り上げた研究 最近の研究では、依頼表現を談話の構造から分析しよう とする傾向が見られるようになった。

日本語教育の観点から、依頼表現の談話分析を取り上げ た研究として、鮫島 (1998)が挙げられる。鮫島は、「コ ミュニケーションタスクにおける日本語学習者の定型表 現、文末表現の習得過程ー中国語話者の『依頼』「断り」

『謝罪』の場合ー」で、依頼、依頼に対する断り、謝罪の 3項目のコミュニケーションタスクを設定し、予め設定し

(3)

た発話文に対応させて反応文を記述してもらったものを資 料に、中国語話者の初級後期、中級前期、中級後期の学習 者のとる方略を定型表現と文末表現に焦点をあて、各学習 レベルにおける特徴と傾向を調査し、日本語学習の習得過 程を観察した。

また、柏崎秀子

( 1 9 9 3 )

も日本語教育における談話分析 の 必 要 性 を 積 極 的 に 認 め 、 話 し か け 行 動 の 談 話 分 析 を 依 頼・要求表現の実際を中心に行っている。

以上の先行研究では、日本語学習者が日本語の談話のな か で 依 頼 表 現 を ど の よ う に 使 う か は 調 査 し 分 析 し て い る が 、 そ の 母 語 で あ る 中 国 語 の 談 話 に つ い て は 触 れ て い な い。そのため、日本語学習者が不適切な表現をする理由に ついては明らかにしていない。

その理由を明らかにするためにはまず、日本語と中国語 の「依頼」の談話の展開と構造には、いったいどのような 特徴があるかを解明する必要があると思う。

本稿では、日本語と中国語の依頼表現の談話構造の比較 分析を通じて、その談話の展開と構造を解明することを目 的とする。なお、依頼の談話に伴う言語以外の行動、たと え ば う な ず き 、 身 振 り 、 沈 黙 な ど は 取 り 扱 わ な い こ と に し、音声で表せる談話構造だけを研究対象とする。

2 .

調 査

本稿では、日本人母語話者(以下、日本人とする)同士 と中国人母語話者(以下、中国人とする)同士が実際に依 頼をする際の、談話の展開と構造を分析した。

調査対象は、

2 0 0 0

年度に福岡教育大学に在学していた日 本人学生と中国人留学生であり、教官

2

名の協力を得て、

ロールプレイを用いて行われた。全部で

6

場面を設定し、

被調査者は渡された役割カード(添付資料参照)の内容に 基づき会話を進める。そのロールプレイ中の全行動を音声 テープに記録し、文字化して会話資料とし、それについて 分析を行った。中国語の会話資料も日本語と同じ要領で作 成した。そして、この調査の記録から、「依頼」場面にお ける日本人と中国人の行動を考察し分析を行った。被 調 査 者の構成は日本語母語話者

4 5

名と中国語母語話者

3 1

名で、

いずれも大学生ないし大学院生である。なお、今回の調査 では設定された6場面に全員がそれぞれ全部参加するとは 限らず、場面によって参加人数が異なる。

3.両言語における「依頼」の談話の比較分析 水 谷 他

( 1 9 9 0 )

では、日本人が何かを依頼するとき、自

善 子

己紹介やお互いの関係の確認後、「ちょ っとしたお願い」

といった「相手にかける迷惑の程度を示して、相手の不安 を軽くすると同時に、構えを作らせたり、相手が察して要 求表現を口に出さなくてもすむようにしてくれる状況をつ くりだす」というようなストラテジーにかなり共通性が見 られるとし、談話の流れを支える「心的態度」を記述する 図lのようなフローチャートを作成している。

こ の フ ロ ー チ ャ ー ト を 踏 ま え 、 本 稿 で は こ の フ ロ ー チャートによるモデルを採用し、「依頼」の談話の展開パ ターンを①「依頼行動前の談話」、 ② 「依頼の予告」、 ③

「先行発話」、「先行発話応答」、 ④ 「依頼」、「依頼応答」

などの「話段」1)に分けて「依頼」の談話を考察する。な お、今回の調査では親疎の度合い、目上・目下関係を考慮 し、それに基づいた各場面での「依頼の談話」を対象とし た。

このなかで「予告」は、「実はお願いしたいことがあり まして」、「ちょっと頼みたいことがある」、などにより、

それ以降に続く発話で依頼がなされることを予め伝えてお く表現である。「先行発話」は、依頼に入る前に依頼に関 する情報を伝えたり、依頼に必要な情報を尋ねたりする表 現である。

3.  1 依頼行動前の談話

先生の研究室に入って「本を借りる」という依頼場面を 例に説明すれば、「入室のあいさつ」、「入室後のあいさ っ」、「名乗り」、「相手の都合を聞く」などが、「依頼行動 前の談話」にあたっている。ここでは、日本人学生8名と 中国人学生8名がそれぞれ「親しい先生」、「あまり親しく ない先生」と会話しそれについて分析を行った。

3.  1.  1 入室および入室後のあいさつ

下記の例文のように、日本人学生は「親しい先生」に対 し全員が入室後の挨拶(「こんにちは」など)を行なって いるし、「あまり親しくない先生」に対しては、入室の挨 拶(「失礼します」)をしていることがわかった。

以下に出てくる<会話

l

>からく会話

8

>は、前述の日 中両語の会話資料からとったものである。

く会話l

日本人学生の依頼行動前の談話

・親しい先生の場合

学生:失礼します。こんにちは、先生。

先生:どうもこんにちは。

•あまり親しくない先生の場合

学 生 : 失 礼 し ま す。自分は

0 0

学 部 の

0 0

といいま

1)ザ ト ラ ウ ス キ ー (1993)は、談話分析の際に、「談話」の下位単位として、「話段」という単位を新たに設定している。「話段」とは、 一般 に、談話内部の発話の集合体が内容上のまとまりをもったもので、それぞれの参加者の目的によって相対的に他と区別されるものである

(4)

①依頼行動 く相手はこちらに注目しているか>

前の談話

↓ 

YES 

②予告

③先行発話

・応答

く話しかけてもいいか>

く相手は自]を知::つ:ている力[>

Y

っていることを.:自ら己せ紹る介]

YES 

くお互いの関係を確認することは必要か>一—> [関係の確認:挨拶など]

YES 

<目標との関連で、立場を規定する必要はあるか> ~ [どんな立場で話すか述べる]

く要件は相手に大変迷惑をかけるか>

NO 

YES  YES 

く状況を理

j □

N

ロ ロ ニ ロ 況 説 明 ] YES 

く目的を理解してもらうことは効果的か> ≫ [要件が依頼であることを示す]

↓ 夕 ` o │ 

YES  く相手は被ると予想される迷惑について不安をもつか> ↓ 

↓ NO ◄

澤惑をかける限度や条件について述べる]

く相手に構えができたか>

YES 

く要求してもよいか>

YES 

NO 

④依頼・依頼応答 く要求を言語化してもよいか> )t  澳団環そ現を使わない]

YES 

NO 

く直接要求表現を使ってよいか> ) [間接的要求表現]

[直接こ要YE求:動]

く相手は申し出を理解したか>

● 

① 、 ② 、 ③ 、 ④ は 筆 者 が 付 け た も の で あ る 。

図1.依頼行動のフローチャート 水谷他 (1990)

(5)

す。

先生:はい。

それに対し、中国人学生の場合は下記のく会話

2

>のよ うに「親しい先生」、「あまり親しくない先生」ともに、た とえば日本語の「失礼します」のような入室の挨拶が行わ れていない。そのかわり

8

名中

1

名を除き、

7

名が日本語 の「先生、こんにちは」にあたる、「老師,イ屈好(または 偲好)」で入室後の挨拶をしている。(「老価,{囮好」は、

学生が研究室に入ってからの会話なので、入室後のあいさ っとした)。ここから中国語では、入室と、入室後の挨拶 は日本語ほど明確に分けられていないといえよう。

く会話

2>

中国人学生の依頼行動前の談話

・親しい先生の場合

学生:老

l)

而,迩妊! (先生、こんにちは)

先生: {ホ好。 (こんにちは)

•あまり親しくない先生の場合

学生:老匝妊! (先生、こんにちは)

先生: P文,イ桐好! (はい、こんにちは)

これが熊井

( 1 9 9 2

a) の分析のなかで、日本人学生が先 生の研究室に入る場合に、「失礼します」のような「入室 のあいさつ」をしているのに対し、留学生の場合には日本 人の教師にこのあいさつをしたものが50%にすぎなかった

とされた原因であろう。

3.  1.  2 名乗り・都合聞き

「名乗り」および「都合聞き」行動においては両言語で あまり差はみられなかった。入室の早い時期に「名乗り」

が必要かどうかは状況によって異なるが、日本人学生、中 国人学生を問わず、「あまり親しくない先生」に対して

「名乗り」を行っている。これは、先生が自分の名前を 知っていることを前提で話しを進めているため、「親しい 先生」には、名前という情報を伝える必要性を感じていな かったと思われる。しかし、「あまり親しくない先生」の 場合、特に先生にものを「借りる」という依頼をする場合 には、自分の所属や名前をはっきり伝えてから依頼行動を 行うのが心得であることは、日本人も中国人も考えは変わ

らないようである。

「都合聞き」は、今回の調査ではあまり現れず、わずか に日本人学生も中国人学生も 1名ずつであった。今回の調 査では、限った場所で、限った人物に依頼をするという場 面だったので、談話の場面を観察してみると、被調査者は どのように依頼をするかに気を取られ、「都合聞き」のほ うまで気が回らなかったような気がした。いずれにして

善 子

も、先生に「依頼をする」ような場面では、いきなり用件 を切り出すより、「ちょっと、お時間よろしいですか」と か、中国語の「老師,ィホ有時間唱?」などの表現で相手の 都合を聞くことによって、自分より相手のことにまず配慮 するのは、恐らくどの国でも好まれることであろう。

3 .   2 

依頼の予告の話段

猪崎

( 2 0 0 0

a) の分析によれば、日本語では、依頼の前 に必ず王岩が置かれるという。猪崎は日仏語の依頼につい て比較した結果、日本語では依頼の前に必ず予告を置く が、フランス語では日本語と比べてきわめて少ないと述べ ている。

それでは、中国語ではどのようなパターンで展開される かを、まず、中国人学生の予告の話段で考察することにす る。

く会話

3>

目上の人に依頼する場面

学生:老柿,作好! (先生、こんにちは)

先生:明,小芦呪。 (あ、芦さんですか)

学生:現在偲有吋同嗚?我想限偲商量点事)

L

(ちょっとお時間よろしいですか、相談したいこ とがあるんですが)

目上の先生に対して中国人学生は、先生に依頼を行った 8名全員が例えば「老怖,有件事想求悠」 (先生、ちょっ とお願いがございます。) とか、「我想限偲商量点事)

L

(ちょっと相談したいことがあります。)のような丁寧な 依頼の予告で始まっている。これは、日本人学生の場合と

同じであった。

く会話

4

>先輩が後輩に依頼する

先輩:作忙什公I尼? (何か忙しいの。)

後輩:最近忙着写詑文,有几篇詑文需要写嗚。

(最近論文で忙しいです。何篇か発表しなければ いけないんで)

先輩:正好扶作有点事)し。(ちょうど君を捜している ところだった)。

く会話

5>

後輩が先翡に依頼する

一予告が置かれない場合

後輩:呵崖大研,イホ好! (お兄さん、こんにちは) 先輩: {囮好!作好! (あ、こんにちは)

後輩:最近挺忙的? (最近忙しいですか)

一近況の挨拶

先輩:明、忙咀,忙着 写詑文。(あ、忙しいよ、論文 を書いているので)

後輩:是叫?我也忙着写恰文,我写詑文必術要有一本

(6)

朽、明。

ー先行発話

( そ う で す か 、 私 も 今 論 文 を 書 い て い る の で す。)

く会話

4

>のような「親しい友人」とか、 「後輩」、「同級 生」に対する場面では、 10名のうち5名が「正好技作有点 事)し」(ちょうど用事があって捜しているところだった。)

とか、「剛好在送)し遇到作」(ちょうどここで会えてよかっ た。)などの王生をし、残り

5

名は予告を置かず、あいさ つから直接先行発話に移った場面が多い。

特にく会話

5

>のように、「後輩が先輩に本を借りる」

場面では、全場面において予告が全然現れなかった。この 調査で中国人学生たちの「先輩」という設定に対する反応 はまず、敬意より親しみを表現しようとする傾向が強かっ た。例えば、最初会った時のあいさつに「崖大野」(お兄 さん)とか、「最近挺忙的?」(最近忙しいですか。)など の表現が多く、お互いに近況のあいさつをしたあとそのま ま先行発話に移り、次第に依頼へと移ったのである。

このように、日本人学生は依頼の前に必ず王~の に対し、中国人学生の場合には、必ずしも王告:が置かれる とは限らずばらつきが見えた。

3 .   3 

依頼の先行発話・先行発話応答の話段 ー間接的依頼表現について

く会話

6>

低歴での間接的依頼表現

学生:それで図書館に行ったんですけれども、図書館 に行ったらその本は先生の研究室にあるという ふうに伺ったので

先生:はい

学生:あの一貸していただけたらと思うんですけれど ふ、よろしいでしょうか。→依頼

日本人は艇登

i

の 話 段 で 「 〜 ん だ け ど ( ん で す け れ ど も)」により間接的に依頼を表明するということは、猪崎

(2000 b)の研究で分析されたとおりであった。

中国人学生の調査資料を観察すると、く会話

7>

のよう に先行発話で間接的に依頼を表明する傾向が多かった。

く会話

7>

先行発話での間接的依頼表現 後輩:是叫?我也忙着写詑文、

→ 近 況 報 告 情 報 提 供

(そうですか、私も今論文を書いているのです。) 後輩:我写詑文必須要有一本ぉ明、 ② 

→情報提供

① 

(この論文を書くのに必ず一冊の本が必要です。)

後輩:迷本朽在固朽館技不到。

→情報提供

(しかし、この本は図書館で見つからないんで す。)

③ 

後輩:所悦辻イホ借去了?

→情報要求

(その本先輩が借りていると聞いたけど)

依頼者は、「本を借りる」という依頼内容を念頭に置 き、①のような発話をしていると考えここでは先行発話と した。ここで依頼者は既にく依頼>を目的に被依頼者に慟 きかけていると考えられる。また、先行発話②と③では、

必要な「情報提供」を通じて相手に、自分にはこれ以降

「本を借りる」依頼があることを推測してもらうことを期 待しているのである。

つまり、日本人学生はく依頼>の話段で「〜んだけど

(〜んですけれども)」により、間接的に依頼を表明する のに対し、中国人学生はく先行発話>で間接的に依頼を表 明しているといえる。

3 .  4 

「依頼」、「依頼応答」の話段

‑「要求表現」に現れる丁寧さ

ここでは、熊井

( 1 9 9 2

a)に 基 づ き 、 相 手 に 「 本 を 貸 す」という行為を要求し、

Yes/No

を直接引き出すきっ かけとなっている部分を便宜上「要求表現」と考えること にした。

日本人学生は、目上の相手に対して「〜ていただく」を 依頼の丁寧度を高める手段として使っていると言えよう。 また「いただく」はさらに、依頼する口調を和らげるため に、「〜ていただけませんか」、「〜ていただけないでしょ うか」などの否定疑問文にして使うもの、 「〜ていただき たいんですけど」、「〜ていただきたいと思って」のように 希望.願望を表明することによって、依頼の意志を伝える

ものなどがある。

中国人学生の場合、今回の調査では要求表現として、

「能不能〜/可不可以〜」、「能/一下」、「〜行国?/好 叫?」、「〜行不行? /〜好不好?」などが現れた。またこ れらの表現は相手が目上の場合は常に、「眼老柿商量ー下」

(先生とちょっと相談したいですけど)とか、「イホ看什公 吋同方便」(いつか都合のいいときに)、「如果作方便的話」

(もし差支えなければ)などと一緒に用いられ、自分を前 に立てるのではなく、相手を優先させ、相手の事情を配慮 することで話し手の遠慮の姿勢を示すものと考えられ、依 頼の場面で目上の相手によく使われる表現と言えよう。

く会話

8>

依頼の談話ー要求表現での丁寧さ

(7)

学生:老jl雨,現在偲有吋同嗚?我想限悠商量点事)

L

(先生に相談したいことがありますが、お時間よ ろしいでしょうか。)

先生:

t

兌咆。

(はい、どうぞ)

学生:我現在正在写一篇詑文,需要「世界人文」迷本 朽。如果偲方便的活,可不可以借我二王:。

(今論文を書いているのですが、「世界の人々」

という本が必要です。先生、もし差支えなけれ ば、貸していただけませんか。)

相手に対する遠慮の姿勢を表わす「如果慾方便的活」

(もし差支えなければ)と、負荷の軽減を示す「一下」が 一緒に組み合わされて、全体が先生に対する丁寧な気持を 表 わ す も の と 考 え ら れ る。こ の よ う な 文 脈 を 省 い て 「 老 呵 借 我 朽 行嗚?」(先生、本を貸してくれませんか)の ような表現は、相手の都合に頓着せず、自己の希望のみを 述べ立てるようで、丁寧度はあまり高くない。

4  結論

以上、日中両言語の依頼の談話を「話段」に注目して、

その展開と構造を観察してきたが、おおむね以下のことが 指摘できる。

①まず、依頼行動前の談話において、日本人学生は目上 の人に対して、入室のあいさつと入室後のあいさつがなさ れているが、中国人学生の場合は、入室のあいさつと入室 後のあいさつが日本語はど明確に分けられておらず、入室 後のあいさつだけがなされるのが普通である。

②次に、「名乗り」では中国人学生も日本人学生も名前 を伝える必要性を前提にして、「名乗り」をし、さらに先 生にものを借りるような場面では、自分の名前、所属を伝 え て か ら 「 依 頼 行 動 」 を 行 う も の と 心 得 て い る。また、

「都合聞き」は今回の調査ではあまり現れなかったが、先 生に本を借りるという実際の場面ではどの国でも好まれる 表現であろう。

③ 「王生」の話段では、目上の人に対しては日本人学生 も中国人学生も丁寧な依頼の予告を置くのが普通である。

また、日本人学生の場合は、依頼の前に必ず予告を置くの に対して、中国人学生では予告が置かれる場合(<会話

4

>)  と、置かれない場合(<会話5>)があってばらつきが見 られた。

さらに、日本人学生では「躯題」の話段で「〜んだけど

(んですけれども)」により相手の反応を期待し、間接的 に相手にはたらきかける表現が使われるのに対して、中国 人 学 生 の 間 で は 、 「 先 行 発 話

I

の な か で 「 依 頼 」 を 目 的

善 子

に、それを念頭におきつつ会話を進めることによって間接 的に「依頼」を表わしていた。

④相手に依頼を要求する「要求表現」では、日本人学生 では「〜ていただきたいんですが」、「〜ていただけません か」のように、助詞や助動詞を用いて依頼の丁寧度を表わ すのに対し、中国人の学生の場合では、「如果方便的話」

(もし差支えなければ)などを依頼の前につけるなど、話 しの全体的つながりをもって相手に丁寧さを示している。 本稿では、今まであまり考察されていなかった中国語の 談話そのものの構造面、特に「依頼の談話」を日本語と比 較 す る 視 点 か ら 観 察 し 、 そ の 結 果 を 述 べ る に と ど ま っ た が、依頼談話の展開と構造の問題は、これだけにつきるも のではない。これらについては稿を改めて述べることにし たい。

付記:本稿は福岡教育大学における修士論文に加筆し、修 正を加えたものである。

参考文献

(1)猪 崎 保 子 (2000a)「依頼

J

会話にみられる 優先体系」の文化 的相違と期待のずれ 一日本人とフランス人日本語学習者の接触 場面の研究」 日本語教育

J

104号、日本語教育学会

(2000 b)「接触場面における 依頼」のストラテジー 一日本人 とフランス人日本人学習者の場合ー」「世界の日本語教育10、国 際交流基金

(2)柏崎秀子 (1993)「話しかけ行動の談話分析ー依頼・要求表現の実 際を中心に一」 日本語教育

J

79号、日本語教育学会

(3)熊井浩子 (1992a)「外国人の待遇行動の分析(1)一依頼行動を中心 に一」 静岡大学教養部研究報告 人文社会科学編」28 1 号

(1992 b)「外国人の待遇行動の分析(2)一断り行動を中心に一」

静岡大学教養部研究報告 人文社会科学編」第28 2 (4)熊取谷哲夫 (1995)「発話行為理論から見た依頼表現一発話行為か

ら談話行動ヘー」 日本語学」199510

(5)鮫島重喜 (1998) 「コミュニケーションタスクにおける日本語学 習 者 の 定 型 表 現 ・ 末 表 現 の 習 得 過 程 中国語話者の「依頼」「断

り」「謝罪」の場合」「日本語教育」98号、日本語教育学会 (6)益岡隆志•田窪行則 (1993) 「基礎日本語文法一改訂版」くろしお

出版

(7)馬場俊臣・胆 春蓮 (1992)「日中依頼表現の比較対照」「北海道 教育大学紀要」第1部第43巻第1

(8)ポリー・ザトラウスキー (1993)「日本語の談話の構造分析一勧誘 のストラテジーの考察」「日本語研究叢書5」くろしお出版 (9)水谷 修、他 (1990)「外国人の日本語談話行動における誤用の研

昭和61年〜平成元年度科学研究費補助金研究報告」

(10) 淑珠 (1982)「日中の命令・依頼表現の比較一丁寧度の観点か 国語学研究」 22号、東北大学文学部国語研究室

(11)李 (1998)「日本語の ていただけますか/ませんか」とそ れに対応する中国語の意味と構文の特徴」 広島大学教育学部紀 要」第二部第46

⑫ 劉 敏 (1991)「依頼表現 請十Vと「〜

v

て く だ さ い」をめ ぐってーアンケート調査の分析」「東海大学留学生教育センター紀 要」10号

(8)

添付資料

役割カード

実際には、中国人留学生には中国語で作成された役割カードで 調査を行ったが、中国語は内容が日本語と同じであるため、ここ では掲載を省いた

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は

00

先生の研究室にあると言われました。

OO

先生は あなたを教えている先生であなたと親しくしている先生です。そ の本がないと、レポートを書くことができません。

00

先生の研 究室に行って本を借りてください。

(研究室入室前のドアのノックから退室までの談話)

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために、「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は

00

先生の研究室にあると言われました。

00

先生と は 授 業 の と さ 何 回 か 会って い ま す が 、 あ ま り 親 し く は あ り ま せ ム←その本がないと、レポートを書くことができません

00

生の研究室に行って本を借りてください。

(研究室入室前のドアのノックから退室までの談話)

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために、「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は山田さんという学生が借りていると言われました。主 の人はあなたととさどさ話す同じ野球部の先輩ですQその本がな いと、レポートを書くことができませんから、あなたは山田さん から借りなければなりません。図書館の前で山田さんに会ったの で、本を借りてください。

(山田さんと会ったときから別れるまでの談話)

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために、「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は林さんという学生が借りていると言われました。±!!)̲̲

人はあなたととさどさ話す同じ野球部のサークルの後輩ですq の本がないと、レポートを書くことができませんから、あなたは 林さんから借りなければなりません。図書館の前で林さんに会っ たので、本を借りてください。

(林さんと会ったときから別れるまでの談話)

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために、「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は鈴木さんが借りていると言われました。鈴木さんはあ なたととても親しい友人です,その本がないと、レポートを書く ことができません。図書館の前で鈴木さんに会ったので、本を借 りてください。

(鈴木さんと会ったときから別れるまでの談話)

あなたは12月30日までにレポートを書かなければなりません。

そのために、「世界の人々」という本が必要です。図書館に行った らその本は渡辺さんが借りていると言われました。渡辺さんはあ なたと同じ学年ですがあまり親しい間ではありません。その本が ないと、レポートを書くことができません。図書館の前で渡辺さ んに会ったので、本を借りてください。

(渡辺さんと会ったときから別れるまでの談話)

参照

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