ソウル市内に建つ大規模複合施設のための検討
本稿は、ソウル市内に建設予定の大規模複合施設 のために新しく開発中の装置の縮小試験体を用いた 性能確認試験結果の概要の紹介である。この施設は 建物の地下部に鉄道施設を有しており、地上部は高 さ 100m を超える超高層建物として計画中である。
計画を担当する韓国の DONGYANG そして(株)日 建設計およびオイレス工業(株)が技術的な協力を 行っており、その協同の成果の一部である。その他 の装置開発も含めて現在継続して検討作業中である。
はじめに
近年、都市部の大規模複合建築では、利便性向上 のために鉄道施設と一体化した大規模複合施設が増 加している。このような鉄道施設を有する大規模複 合施設では、鉄道による交通振動が固体振動として 悪影響を及ぼさないように、鉄道軌道と建物躯体の 縁をきり、躯体への鉄道振動の伝達を抑制するなど の対策を行っている。事例として、鉄道軌道をコイ ルばねと一体化した粘性体で支承した事例 1) など がある。建物を免震構造とすることで、交通振動対 策として機能させようとする事例については、小規 模な建物に対する事例 2),3) があるが大規模複合建 築に対してはあまり事例がない。本報告は、地下躯 体に鉄道施設を有する大規模複合施設に対し、地上 部に免震層を設けた中間層免震建物とすることで、
耐震性および交通振動の除振性能の双方を向上され ることを目標としており、この免震システムに付加 する微振動用ダンパー開発のための縮小実験の報告 である。
対象とする鉄道振動は、実測の結果から振動障害 となりやすい 30HZ 程度以下の振動数成分では水平 方向よりも上下方向が大きく、特に上下の振動を除 振する必要があると判断した。建物を免震とすれば、
− 57 −
生 産 と 技 術 第64巻 第4号(2012)
Reduction examination for development of viscous damper for isolated buildings for the purpose of reduction of traffic vibration
Key Words:viscous damper, isolated building, reduction of vibration, traffic vibration,urban complex building
****
Woon taek WOO
西澤 崇雄
*,岩崎 雄一
**,佐々木 和彦
***,禹 雲澤
*******
Kazuhiko SASAKI
**
Yuichi IWASAKI 1978年8月生
日本大学大学院理工学研究科機械工学専 攻卒業(2003年)
現在、オイレス工業株式会社 免制震事 業部 技術開発部 開発課 修士 TEL:0284-70-1820
FAX:0284-70-1821
E-mail:[email protected]
1974年4月生
東北大学大学院工学研究科都市建築学専 攻博士前期課程修了(2000年)
現在、オイレス工業株式会社 免制震事 業部 技術開発部 建築設計課 修士 TEL:03-5781-0316
FAX:03-5781-0319 E-mail:[email protected]
*
Takao NISHIZAWA 1966年10月生
名古屋大学大学院 工学研究科建築学専 攻 修士課程修了(1992年)
現在、株式会社日建設計 構造設計部門 主管 博士(工学) 建築構造、構造設計 TEL:06-6203-2361
FAX:06-6232-3998
E-mail:[email protected]
交通振動を除振する免震建物用粘性ダンパー開発のための縮小試験
1960年3月生
大阪大学 工学部 建築工学科(1995年)
現在、(株)東洋構造安全技術 技術研究
所 所長 博士(工学) 建築構造
TEL:+81-2-549-3744(501)
FAX:+81-2-549-3745
E-mail:[email protected]
企業リポート図 1 実験状況図
振動源の卓越周期よりも長周期化することができ、
ある程度の除振効果が期待できる。しかし免震とす るだけでは、建物内で発生する振動に対しては、建 物内にこもりやすく、建物内に免震層の上下 1 次周 期と一致する上下動周期の梁部材がある場合には、
共振によって振動障害が生じることも考えられる。
そこで、計画する微振動除振用のダンパーは、上下 方向のダンパーとして計画している。
また、対象とする振動の振幅が数μm 〜数十μm と小さく、取付け部にガタのある接合では不十分な ため、端部の上下方向にガタがなく、粘性体を介し て接続するダンパーとした。
制振部材として用いられる粘性体は、地震時など 大振幅時の挙動に対する性能確認がなされているの みであり、微振動域の性能が十分確認されていない。
このため、想定される建物に適した微振動用粘性ダ ンパーとするための縮小試験体を用いた実験を行っ た。
微振動ダンパーの概要
想定計画建物は地上 20 階、地下 4 階で高さが約 100m の超高層建物である。地上 1 階の柱頭位置が 免震層となる中間層免震建物として計画している。
想定される柱軸力から、柱 1 本のアイソレータ径は
直径 1600mm 程度となる。地下躯体のみは概ね完 成しており、既に地下 4 階では鉄道の乗り入れが開 始されている。鉄道による振動は、現地の計測結果 から振動数が 30HZ 〜 250HZ 程度であることから、
卓越する振動数のうち振動障害を起こしやすい低振 動数に着目する。知覚限界が、振動数 30HZ に対し て 70dB 程度と仮定すると、これに対応する知覚振 動は、(1) 式より加速度振幅で 12.6gal、変位振幅で 片振幅 3.5μm と計算される。
La=20 log(a/a
0) …(1)
a: 加速度 a
0: 基準加速度 a
0=10
-3cm/s
2想定されるアイソレータへの軸力は 2600tf、使用 するアイソレータの鉛直剛性のカタログ値は 6620
× 10
3kN/m であるが、微振動に対するアイソレー タの鉛直剛性は文献 2) より 2 倍程度となることが 知られている。以上より概算すると、免震化された 想定建物の積層ゴムの上下方向 1 次モードによる固 有振動数は 16HZ 程度と概算される。想定される交 通振動は 30HZ 〜 250HZ 成分が卓越すると考えられ、
免震とするだけでもある程度の除振効果が期待でき る。一方で 16HZ 付近に対しては、入力が増幅され、
また建物内で発生した 16HZ 付近の振動が増幅され る可能性があり、粘性ダンパーで抑制することを計 画した。
粘性ダンパーの性能確認は実験によるが、実大で は試験装置が大がかりなものとなるため、縮小試験 とした。実験は、積層ゴムに面圧が作用した状態で、
起振機を用いて制振対象おもりに 10 〜 50HZ でほ ぼフラットな振動数特性をもつ微振動を作用させ、
制振対象おもりの応答値を計測し、その増幅特性を 評価してダンパーの効果を確認する。図 1 に実験の 概念図を示す。実験のバネ質量減衰系は振動数と減 衰比が実大の場合と等しくなるように縮小寸法を採 用した。採用した寸法と実大寸法を比較して表 1 に 示す。
試験体に用いたダンパーは、1 個のせん断面が、
せん断隙間 d=5mm, せん断断面積 S=0.4m
2であり、
ダンパー 1 個が 8 枚のせん断面で構成されている。
ダンパー個数を 1 〜 3 に変化させてダンパーの効果 を確認した。
− 58 − 生 産 と 技 術 第64巻 第4号(2012)
表 3 1 次周期ピーク低減効果 図 3 制振対象おもりの微振動増幅特性
図 2 入力の時刻歴波形及びフーリエスペクトル 表 2 加振条件
表 1 採用した縮小試験体の特性値
実験結果の概要
起振機による加振は、微振動振幅の違いによる効 果の違いがわかるように、最大加速度が10gal・20gal・
30gal となるような 3 つの入力レベルで実施した。
表 2 に加振条件を示し図 2 に入力微動の時刻歴及び フーリエスペクトルを示す。
図 3 に応答結果を示し、表 3 に 1 次モードのピー ク低減状況をまとめて示す。図表中非制振とあるの は、ダンパーを設けないケースを示す。以上より特 に 1 次モードとなる 15HZ 付近でダンパーは効果を 発揮しており、ダンパー個数 1 個でも効果を発揮す ることが分かった。ダンパー 1 個は実機では幅 3m、
高さ 2m、厚さ 0.6m 程度となり実現可能な寸法で あると判断する。
まとめ
大規模免震複合建物を対象とした、交通振動抑制 を目的としたダンパー開発のための縮小試験体を用 いた実験を行い、その結果を示した。実験の結果、
比較的小規模なダンパーでも十分な微振動抑制の効 果を有しており、実用的である可能性が高いことが 分かった。
謝辞:鉄道振動の現地計測においては名古屋大学 福和研究室の協力を得ました。ここに記して感謝の 意を表します。
参考文献
1) 太田俊也 , 塚谷秀範ほか 6 名:都市空間的制約
− 59 −
生 産 と 技 術 第64巻 第4号(2012)