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映画におけるアトリエ空間と自画像

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Academic year: 2021

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映画におけるアトリエ空間と自画像

ジャン=リュック・ゴダール『JLG/自画像』を通して Atelier Space and Self-Portrait in Films

An Analysis Based on “JLG/JLG” of Jean-Luc Godard

1W163051-1 コウ イク 指導教員:是枝 裕和、土田 環 

HUANG YU KORE-EDA Hirokazu , TSUCHIDA Tamaki

概要:本研究では、映画に描かれる、芸術家のアトリエにおける自画像の分析を行い、とりわけジャン=リュック・ゴ ダールの『JLG/自画像』の独自性と普遍性を考察する。自画像を一般的に定義すれば、「一人の人間が<自己>の顔を 描いた作品」といえるが、その魅力は他者として自分を認識することにある。自画像の研究は今日まで、絵画作品がそ の中心だった。しかし、自画像は絵画だけに限定されるものだろうか。ジル・ドゥルーズが彼の著作『シネマ1』に述 べたように、従来の絵画よりも映画は、ある空間内の事物同士の関係を表すと同時に、性質変換をなす一つ全体の変化 を表現することができるため、より精確な自画像を描くことができる。本論ではまず、従来の絵画における自画像の中 にアトリエを背景にした代表的な作品をとりあげ、画家のアトリエの特徴を分析し、アトリエの意味及び自画像の果た す役割を明らかにした。そして映画において、作者のアトリエを描写する作品として、『あなたの微笑みはどこに隠れ たの?』(ペドロ・コスタ)、『JLG/自画像』(ジャン=リュック・ゴダール)を分析し、映画監督のアトリエと画家 のアトリエとの比較を行い、作者としての「自己」が映画空間との関係を考察した。そのうえで、『JLG/自画像』にお ける特異点を抽出し、自画像としての作品分析を具体的に行い、その反省的作用について論じた。結果として、ゴダール のアトリエは、外部環境と作者の空間とを密切に結び付けると同時に切り離す際に、「自己」を前景化せずに背景のオ ブジェに着目する点で突出していることを述べた。

キーワード:アトリエ、自画像、ジャン=リュック・ゴダール、鏡、相互依存性 Keyword: Atelier, Self-portrait, Jean-Luc Godard, Mirror, Interdependence

0.序論

 自画像は決して絵画にとどまらず、映画にあっても数 多く描かれてきた。ジル・ドゥルーズは、彼の著作『シ ネマ1*運動イメージ』の中で、映画の特性とはある空 間内の事物間の関係を表しながら、性質変換をなす一つ の全体の変化を表現することができると述べた。自画像 を表現するために映画という表現を用いる必要性と重要 性に焦点を合わせ、映画は絵画よりはるかに精確な自画 像を描けるだけではなく、空間と自画像との関係を全面 的にさらけ出すのではないか。この仮説の検証が本論の 最初の目的となる。

1.絵画作品に見られるアトリエ

 木下長宏の指摘にしたがって、歴史を振り返ってみれ ば、<自画像>と称する作品のほとんどは絵画のジャン ルに属し、そのなかでも遺されている自画像は大きく二 種類に分けられる。一つは画家自分の顔あるいは身体の みが対象とされる作品であり、もう一つは画家が自分を アトリエという空間に置き、この空間全体を対象として 描かれたものである。後者が前者と比較すれば、明らか

に空間を他者化し、自分と他者との比較を絶え間なく行 なっているため、より精確な自画像を描く。それゆえ、

従来の自画像におけるアトリエを背景にした代表的な画 家と作品を例としてとりあげ、各時代の画家のアトリエ の特徴を分析した。

 具体的には、『ラス・メニーナス』(ディエゴ・ベラ スケス)『絵画芸術』(フェルメール)『画家のアトリ エ』(クールベ)『アトリエにいる風景』(レンブラン ト)の四つの例を本章ではとりあげた。画家にとって、

アトリエは無意識に日常生活を送っている空間であり、

岡野浩二が論じたように「生きられる空間」である。だ が、アトリエの意味は決して空間自体にとどまらず、空 間はそこに置かれたものによっても多様な解釈を生むこ とになるだろう。アトリエに含まれるディテールとし て、画家のアトリエにとっていくつかの不可欠な要素、

例えばイーゼル、カンヴァス、鏡、人間(裸体)や光な どを挙げることができる。先の絵画作品では、こうした 要素により、人間と空間とがタブローのなかで、直接的 な意味のレヴェルにおいて強く結び付いていると言える が、外部空間と「自己」との関係を思考や意識のレヴェ

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ルでとらえなおすという点においては不十分と言わざる をえない。

2.画家のアトリエと映画監督のアトリエ

 アトリエが、芸術家が仕事を行うための専用の作業場 であるとするならば、映画監督にとっては編集室がそれ に対応するものとなる。本章ではペトロ・コスタの『あ なたの微笑みはどこに隠れたの?』およびジャン=

リュック・ゴダールの『JLG/自画像』を例としてとりあ げ、比較することを通して、画家のアトリエとの共通点 および相違点について論じた。

 画家のアトリエにおいて、イーゼル、カンヴァス、

鏡、人間(裸体)と光が不可欠なものとして存在するの と同様に、ペトロ・コスタによって撮られたストローブ

=ユイレのアトリエ=編集室においては、存在する事物 のすべてが映画作家にとって切り離すことのできない物 質として描かれている。この場合のアトリエは、職人と しての映画監督にとって創作行為の場そのものであり、

作品の完成へ至るプロセスが映画監督に事物を通じて血 肉化される空間である。その一方、ゴダールのアトリエ は彼の自宅であり、彼が撮ったのは本棚や鏡など、一見 すると編集室と思わないものによって構成されている。

だが、それこそがゴダールという人間の内的世界の現れ であり、思想の集合体として空間が存在している。画家 のアトリエの不変性とは違って、彼のアトリエは無限の 可能性を持つ、絶え間なく進化する生命体である。

3.ジャン=リュック・ゴダールのアトリエと自画像  ゴダールが1995年に制作した『JLG/自画像』は、 作 り手自身がアトリエに登場するという意味で、映画にお ける自画像の代表的な作品である。本論では、ゴダール がアトリエの内部と外部環境を二つに分ける点に着目し て分析を行った。

 作品内では、アトリエの内部において、とりわけ<机

>、<本棚>、<鏡>三つのもの提示される。<机>は 単に机そのものだけでなく、机と見立てられるような形 象をもって描かれている。それは、肘をつくことによっ て身体的にゴダールを支え、精神的に勇気を与えるもの として表象される。<本棚>に置かれた書籍は、映画内 のゴダールの言葉に現れるその思考自体と等価であり、

他者との直接的な関係の多くはないであろうこの映画作 家が、外部へと自己を開くための対話の装置として機能 している。<鏡>もまた、単なる物質としての役割を果 たすというよりは、自己への言及が鏡を用いた場面にお いてなされる意味では、反省的な作用を生み出すもので ある。それは、白い紙や水面のように鏡と見立てられる

オブジェが帯びるものでもある。ゴダールの自画像は、

内部空間において、こうしたオブジェを通して自分の形 成過程を示すものだと言えるだろう。

 また、ゴダールのアトリエの外部環境については、ギ ブソンの生態学的心理学の概念「相互依存性の原理」を 用いて、分析を行った。外部環境はゴダールの内部と相 互に影響を与えし、循環している。内部を表現するため にゴダールはフレームから去り、キャメラだけを通して 外部環境を見つめる。その一方、彼はフレームに入り、

環境と一体化することで外部からの感化を表す。ゴダー ルは外部環境と自分の空間とをこのように密切に結び付 けると同時に切り離す際に、輪郭をフレームによって示 すことで自画像的空間としての「内部」が際立ってい る。

4.結論

 本論文は、絵画における自画像への考察から出発し、

画家のアトリエと映像作家のアトリエとの比較を行い、

具体的にはジャン=リュック・ゴダールの『JLG/自画 像』を分析することによって映画の自画像の持つ固有の 魅力、機能について論述してきた。ゴダールは、絵画に おける自画像を発展させ、作品の主体を<自己>から<

背景>へ移行したと言える。その独自性は、空間を作品 の切り口として、自己を解体することで空間にある各オ ブジェを前景化し、客観的存在から主観的思考を読み取 ることにある。それは、映画の自己反省的な作用と言い 換えることができるだろう。

5.参考文献

・トマス・J・ロンバード 2001年『ギブソンの生態学的  心理学』古崎敬・境敦史・河野哲也訳、勁草書房

・ジャン=リュック・ゴダール 1982年『映画史』奥村  昭夫訳、筑摩書房

・木下長宏 2016年『自画像の思想史』五柳書院

参照

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