不純物制御による金属材料の高性能化に関する研究
高純度鉄の組織制御
1 1 2 2 2
小川俊文* 小野幸徳* 播磨宣幸* 高木清一* 安彦兼次*
Performance Enhancement ofMetallic Material by Impurity Control
ControlingofMicrostructureonHigh-PurityIron
Toshifumi Ogawa, YukinoriOno,NobuyukiHarima,SeiichiTakaki,KenjiAbiko
純度 99.981mass%と 99.993mass%の2種類の純鉄を用いて,オーステナイト域熱間鍛造によってえられる加工組
織に及ぼす純度と冷却速度の影響について調査した。低純度鉄においては,いずれの冷却速度の場合でも等軸晶組 織が形成されておりその結晶粒サイズは冷却速度が小さいほど大きくなっていた。また,形成された等軸晶組織の 面方位はランダムであった。一方,高純度鉄においては,いずれの冷却速度の場合でも鍛造方向と平行に成長した 柱状晶組織となっており冷却速度の減少とともに柱状晶の幅は広くなっていた。また,形成された柱状晶組織の鍛
{ } , ,{ } { }
造面における面方位は水冷の場合 110 が優勢となっており その他の冷却速度では 110 〜 111 にわたって優勢であった。
1 はじめに
金属材料の特性に及ぼす組織の影響は,非常に大き い。そのため使用目的に応じた特性を得るために,精 製,合金元素の添加,熱処理などによって組織をコン トロールすることは非常に重要である。そこで様々な 方法により再結晶集合組織を制御するために,鉄や鋼 の再結晶挙動などについて,多くの研究が行われてい る。変態挙動,再結晶挙動,集合組織などに影響を及 ぼす合金元素や不純物元素に関する研究も行われてい
, 。
るが まだ明らかになっていないことも残されている それゆえ,超高純度化された鉄における強加工後の回 復,再結晶,集合組織といった微視的構造の挙動に関 する研究は,次世代鉄鋼材料を創出するための基礎と なるもので大変重要なことである。
近年,安彦らは,超高真空下,コールドクルーシブ ル高周波溶解により重量 10kg の超高純度鉄インゴッ トを溶製することに成功した 1)。彼らの画期的な成功 によって,純鉄に関する様々な研究が可能になった。
高純度鉄をオーステナイト相域で熱間圧延後,空冷 すると板厚方向に板表面から中心へ巨大柱状晶が成長 する 2)という報告や高純度鉄をα−γ変態点温度以上
*1機械電子研究所
*2 東北大学金属材料研究所
で鍛造後室温まで灰冷すると鍛造方向と平行に巨大柱
。 ,
状晶が成長する といった報告がある しかしながら3) 高純度鉄における巨大柱状晶の形成機構は,まだ完全 に明らかになってはいない。そこで本研究では,純鉄 における柱状晶の形成機構を理解するため,純度の異 なる2種類の純鉄を用いて,α−γ変態点温度以上で 鍛造した純鉄の加工組織に及ぼす純度と冷却速度の影 響を明らかにすることを目的とした。
2 実験方法
2−1 試験片の作製
( , ) 。
純度の異なる2種類の純鉄 K鉄 M鉄 を用いた K鉄においては,市販の電解鉄をアルゴン雰囲気,
ルツボ中で高周波誘導溶解してインゴットを溶 MgO
製した。M鉄においては,高純度電解鉄を超高真空雰 囲気,水冷銅ルツボ中で高周波誘導溶解してインゴッ トを溶製した。それぞれのインゴットを熱間鍛造,熱 間ロール,冷間スエージング,センターレスグライン ダー研磨して直径12mmの丸棒に加工した後,その丸 棒から旋盤で直径10mm,長さ 20mm の試験片を作製 した。試験片の加工歪みなどを取り除き出発組織を揃 えるために真空度2.7 × 10 Pa-2 以下,1163Kにて真空 焼鈍を行った。焼鈍後の組織は,K鉄,M鉄ともに結 晶サイズが約150μmであった。
試験片作製に用いたインゴットの成分分析を 31 元 素について行った。
2−2 熱間鍛造
試験片を直径 50mm 厚さ 10mm の土台(炭素鋼の
)に載せアルゴン雰囲気中約 ℃で 分間
S45C 1000 15
加熱した。その後取り出して,試験片温度がα−γ変 態点温度以下にならないうちに試験片を土台に載せた まま素早く熱間鍛造を行った。圧下率は約 80 %とし た。鍛造後すぐに水冷,油冷,空冷,灰冷,炉冷の各 方法で室温まで試験片を冷却した。
2−3 冷却速度の測定
組織制御を行うにおいて冷却速度を把握しておくこ
。 ,
とは大変重要なことである 熱間鍛造により試験片は 土台にめり込むため,試験片の表面とめり込んだ面で は冷却速度が違ってくる。試験片そのものに熱電対を 取り付けて温度測定を行うことが困難なため,模擬試 験片に土台を用いて行った。土台の表面と内部に熱電 対を取り付けて加熱炉に入れ所定時間保持した後,熱 間鍛造を行わずにそのまま各冷却方法で冷却し温度測 定を行った。
2−4 結晶粒の面方位測定
Electron 鍛 造 面 に お け る 結 晶 粒 の 面 方 位 を
法( 法)で測定し Backscatter Diffraction Patterns EBSP
た。測定面は土台と接触していた側で,表面から2mm 研磨して面出しを行った。結晶粒サイズの影響が出な いように各結晶粒毎に電子線をあてて測定を行った。
3 結果と考察
3−1 純鉄の純度の決定
2種類の純鉄の純度は,インゴットの中心部から分 析用試験片を切り出し,31 元素の成分分析を行った 結果から算出した。その結果を表−1に示す。K鉄に 比べM鉄は,分析検出限界以下の元素が多かった。こ れは現在の分析技術で正確な純度を求めることが困難 なレベルの純鉄が溶製できるようになったということ で あ る 。 純 度 は , K 鉄 が 99.981mass%, M 鉄 が
であった。
99.993mass%
3−2 熱間鍛造・冷却後の断面組織
熱間鍛造はいずれもほぼ1鍛打で目標圧下率 80 % になった。円盤状に潰された試験片を直径方向に半分 に切断し,鏡面研磨して3%ナイタール溶液でエッチ ング後,断面の組織観察を行った。
K鉄,M鉄のそれぞれの断面組織を図−1,図−2 に示す。鍛造前の加熱により試験片を載せた土台も軟 化しているので,試験片は,土台にめり込みながら潰 され下側が凸型になっていた。このように場所によっ て圧下率が異なるので,圧下率がほぼ 80 %である中 心部分において断面組織の比較を行った。図−1から わかるように,M鉄の場合,いずれの冷却方法でも等 軸晶組織が形成されていた。結晶粒サイズは冷却速度 が小さくなるに連れて大きくなっていた。一方,M鉄 の場合は図−2からわかるように,いずれの冷却方法 でも鍛造方向と平行に成長した柱状晶組織が形成され ていた。また冷却速度が小さくなるにつれ柱状晶の横 幅が広くなっていた。冷却速度が最も大きい水冷の場
, ,
合に注目すると K鉄の等軸晶は約150μmであるが 表−1 成分分析結果
(mass ppm)
元素 K鉄 M鉄
Al 13.4 0.2
As 7.8 1.1
B 6.64 0.03
Bi <0.1 <0.1
C 4.63 1.10
Cd 0.001 <0.001
Co 2.0 0.7
Cr 4.9 0.2
Cu 5.6 0.5
Ga 0.6 0.2
H 0.6 0.7
Hf 0.20 <0.06
Mg <0.01 <0.01
Mn 13.92 <0.01
Mo 3.5 0.1
N 14.0 2.1
Nb 3.13 <0.05
Ni 2.0 0.1
O 77.0 60.0
P 3.1 0.1
Pb 0.04 0.04
S 7.23 0.73
Se <0.02 <0.04
Si 12 1
Sn 2.5 <0.4
Te <0.01 <0.03
Ti 2.3 <0.1
V 1.47 0.05
W <1 <1
Zn 0.1 0.6
Zr <0.7 0.2
純度(mass%) >99.981
>99.993
M鉄の柱状晶は大きいもので幅1mm高さ3.5mm もあ った。
普通,鉄や鋼をオーステナイト相域において強加工 を施すと微細な等軸晶組織となる。しかしながら今回
水 冷
油 冷
空 冷
灰 冷
炉 冷
図−1 K鉄の断面組織
5 m m
水 冷
油 冷
空 冷
灰 冷
炉 冷
図−2 M鉄の断面組織
5 m m
の実験結果では,高純度鉄において,微細等軸晶では なく巨大柱状晶が形成されていた。K鉄,M鉄は全く 同じ条件で実験を行っており,唯一違うことは,試験 片の純度である。このことから,M鉄で柱状晶が形成 された要因として,高純度化によって不純物の減少し 粒界移動度が大きくなったことと再結晶温度の低下が 考えられる。粒界が不純物を横切るためにはエネルギ ーが必要で,不純物が多く存在するほど粒界移動には 大きなエネルギーを必要とする。言い換えると,不純 物が少ないほど粒界は移動しやすくなる,すなわち結 晶粒が成長しやすくなるということである。また,再 結晶温度が低下することは,α→γ変態後,α粒が成 長できる温度範囲が広くなることになるのである。
3−3 M鉄の柱状晶に及ぼす冷却速度の影響
各冷却方法による冷却速度を測定し,900 〜400 ℃ までの平均冷却速度を計算した結果を表−2に示す。
この結果より水冷における表面と内部との温度勾配 は,他の冷却方法のものより明らかに大きいことがわ かる。このことから,水冷の場合のように温度勾配が 大きな場合,表面側から内部に向かってα柱状晶が鍛 造方向に瞬時に成長したものと考えられる。水冷より も温度勾配が小さい場合は,鍛造方向と幅方向の両方 向に成長すると考えられる。
3−4 結晶粒面方位の測定結果
図−1,2での凸側において,α粒の面方位を測定 した結果を図−3の標準ステレオ三角形図に示す。図
−1,2に示した断面組織を考慮すると表−3のよう にまとめることができる。K鉄の場合,いずれの冷却 方法でも標準ステレオ三角形に強いピークがなかっ た。すなわち,K鉄の鍛造面におけるα粒の結晶方位 は,冷却速度に関係なくランダムであったといえる。
一方,M鉄においては,水冷の場合{101}が,そ の他の場合は{111}か{221}が優勢的に成長 していた。
表−2 平均冷却速度
(K/s)
表面 内部 水冷800 64
油冷
97 22
空冷
2.4 2.3
灰冷
0.25 0.19
炉冷
0.015 0.015
図−3 標準ステレオ三角形
4 まとめ
純度の異なる2種類の純鉄を用いて,オーステナイ ト域で鍛造した場合の純鉄の加工組織に及ぼす純度と 冷却速度の影響を調査した。低純度K鉄では,いずれ の冷却速度でもランダム面方位の等軸晶組織が形成さ
。 , , ,
れた 一方 高純度M鉄では 柱状晶組織が形成され その面方位は水冷の場合{101}が,その他の場合
{111}か{221}が優勢であった。
5 参考文献
K.Abiko, phys.stat.sol. a , Vol.167, No.2, 1) 他3名: ( )
( ) p.347 1998
K.Abiko, Mater.Trans. Vol.41, No1, p102 2) 他3名:
(2000)
表−3 面方位測定の結果 K鉄 M鉄 水冷 ランダム {101}
油冷 ランダム {111}
空冷 ランダム {221}
灰冷 ランダム {111}
炉冷 ランダム {221}
K 鉄 M 鉄
水 冷油 冷空 冷灰 冷炉 冷 強 度
T.Ogawa, Mater.Trans. Vol.41, No1, p95 3) 他3名:
(2000)