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本市の生物多様性を語る上で外すことができないのが, 深泥池 です 深泥池は京都盆地の北端( 京都市営地下鉄北山駅の北 ), 丘陵地の谷合いにある周囲約 1 km, 面積わずか 9ha の池ですが, 水生の浮島湿原は池の中央に広がり, 全体の 3 分の 1 の面積を占めています 下図のように, 植物の

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2 章

京都市の生物多様性の現状と課題

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 京都市は,大阪平野に連なる南部の盆地に広がり,市街地を取り囲む三山(東山,北山,西山) や三川(鴨川,桂川,宇治川)が織りなす豊かな自然に恵まれており,こうした自然環境が,生物 多様性を支える礎となっています。  

1 京都市の生態系(自然環境)の特徴

 京都市には森林や河川,農耕地や市街地,社寺,庭園などさまざまな環境があります。それぞれ の環境には多種多様な植物をはじめ,ほ乳類,魚類,鳥類,両生類,は虫類,昆虫類,菌類などさ まざまな生きものがいます。  「京都府レッドデータブック」(2002 年)によると,府内には約 10,000 種の動植物(動物(ほ乳類,鳥類・ 昆虫類など ) 約 7,000 種 , 植物約 3,000 種)が生息・生育しており,昆虫類や菌類のようにまだ種 数そのものがわかっていない分類群もあるので,実際にはさらに多くの生きものが生息・生育して いると考えられています。  京都市域においては,生息・生育する動物のうち約 170 種が,また,植物のうち約 180 種が絶滅の おそれがある絶滅危惧種に分類されています(詳細については資料編を参照)。 ※甲殻類及びそのほかの淡水産無脊椎動物

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2 章

 本市の生物多様性を語る上で外すことができないのが,「深泥池」です。深泥池は京都盆地の北端(京 都市営地下鉄北山駅の北),丘陵地の谷合いにある周囲約 1 ㎞,面積わずか 9ha の池ですが,水生の 動植物が豊富で,学術的にも価値が高く,全国で唯一,生物群集が天然記念物に指定されているほか, 世界的にも珍しいハリミズゴケとオオミズゴケが形成する浮島湿原(ミズゴケ高層湿原)があります。  浮島湿原は池の中央に広がり,全体の 3 分の 1 の面積を占めています。下図のように,植物の遺 体の層が水に浮いていて,その上にミズゴケや種々の植物が生育しています。通常,枯死した植物 は分解されてしまうのですが,深泥池では水質と水温の関係から分解があまり進まずに堆積して, このような環境をつくりだしています。    また,浮島が夏に浮かび上がり,冬は沈んで冠水する(季節変動)こと で,冬場に冠水する平坦な場所には湿生植物が生育し,年中冠水を受けな いやや高い部分には,周辺の二次林から侵入したアカマツやネジキ等の 樹木が生育しています。  この池には,10 万年以上昔からの泥炭が厚さ 10 m以上も堆積してお り,この間同じ環境が維持されてきたことで,ホロムイソウ,ミツガシワ, アカヤバネゴケ,ミズグモ,ハナダカマガリモンヒメハナアブなどの氷河期から生き続けてきた 貴重な動植物が残存しています。特に 4 月末に白い花を咲かせるミツガシワは , 最終氷期の頃か らの生き残りと考えられており,西日本では深泥池以外では高山の湿地などでしか見ることがで きないため,住宅地にあるこの小さな池で見ることができるのは,非常に珍しいといわれています。  また,深泥池には,日本に分布するトンボ(約 200 種)のうち約 3 分の 1 が生息しており,中には京都府レッ ドデータブックで準絶滅危惧種に指定されているハッチョウトンボなど,希少なトンボも多く含まれます。      池の中にはフナ,ヨシノボリ,スジエビ,クサガメ,ニホンイシガメなどの生きものが見られ るほか,鳥類ではヒドリガモやルリビタキをはじめ,晩冬期に飛来する種を中心に 170 種以上の 種が確認されています。     ①ホロムイソウ , ②ミツガシワ③ハッチョウトンボ(雌) , ④ハナダカマガリモンヒメハナアブ 浮島(ミズゴケ湿原)  ▲深泥池の南北断面図(出典:深泥池団体研究グループ(1987)深泥池の自然) ① ② ③ ④ ⑤ ①フナ , ②スジエビ , ③ルリビタキ , ④ヒドリガモ , ⑤クサガメ ① ② ③ ④

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2 章

 このように,今なお貴重な生きものを多く育む深泥池は,京都市のみならず日本の財産というこ とができますが,市街地に隣接することから,道路によって池に流入する雨水が遮断されたり,生 活排水などが流れ込むことで富栄養化が進むなど , 近隣の環境からの影響を大きく受け,ミズゴケ の減少,ジュンサイなどの水生植物の減少などが進んでいます。  さらに,動物ではオオクチバス,ブルーギル,植物ではオオバナノイトタヌキモ,アメリカミズ ユキノシタなどの外来種による在来種への影響も大きく,継続した保全対策が必要です。  このほか,市域で,原生林,もしくはそれに近い自然林として環境省の特定植物群落(詳細は資料 編を参照)に選定されているものに,芦生の原生林,八丁平のクリ‐ミズナラ林,松尾大社のシイ 林などがあります。このうち,芦生の原生林は,「学術上重要な植物群落」(特定植物群落)にも選 定されています。松尾大社のシイ林は,郷土景観を代表する植物群落で,「特にその群落の特徴が 典型的なもの」(特定植物群落)にも含まれています。これらは全て,特に生物多様性の保全を進め るべき重要な地域といえます。  また,吉田山のアラカシ林と松尾大社のシイ林は,上述の特定植物群落に選定されているだけで なく,「生物多様性保全のための国土区分」(詳細は資料編を参照)の中でも,照葉樹林を代表する 群集として選ばれています。   このほか,八丁平湿原と深泥池湿地も特定植物群落に指定されており,選定理由は「特殊な立地 に特有な植物群落または個体群で,その群落の特徴が典型的である」及び「学術上重要である」と されています。これらの湿地はいずれも「日本の重要湿地 500」(詳細は資料編を参照)にも選ば れています。特に,深泥池湿地の生物群集については先に述べたとおり,国の天然記念物にも指定 されており,全国的にも貴重な湿地環境の 1 つです。  「天然記念物」周辺の環境は,長い間,同じ状態が維持されてきているため,多くの生きものを育 む場所になっており,生物多様性を保全すべき重要な地域といえます。市域には,国の指定を受け た天然記念物が 7(動物:2,植物:4,地質鉱物:1)あり(詳細は資料編を参照),この中には既 に取り上げた「深泥池生物群集」や,特定植物群落である「大田ノ沢のカキツバタ群落」のほか,「清 滝川のゲンジボタル及びその生息地」や「比叡山鳥類繁殖地」といった生物の生息地が含まれてい ます。これら国指定のほかにも,京都府指定の天然記念物が 2 箇所,本市指定の天然記念物が 35 箇所存在しており,多くの生きものにとって良好な環境が長い間維持されてきたことがわかります。 ①芦生の原生林 , ②保津峡のアラカシ林 , ③深泥池湿地 , ④大田ノ沢(カキツバタ群落), ⑤清滝川 ① ② ③ ④ ⑤

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2 章

約 50 ㎞ 環境省自然環境保全基礎調査 植生調査結果「1/25,000 植 生図」のデータをもとに作成 奥山・里山:植林や森林が優占する地域 農耕地:水田や畑などの農地が優占する地域 市街地:住宅地などが優占する地域 河川・池沼:水辺が優占する地域 北山 鴨川 桂川 東山 西山 宇治川

京 都 市 の 自 然 環 境 の 地 域 区 分

奥山・里山 市街地 河川・池沼 農耕地  京都市を,丹波高地から山城盆地にかけての地域特性を踏まえ,生物の生息・生育環境や社会環 境の特徴とそれらがもたらす生態系サービスをもとに,「奥山・里山」,「農耕地」,「市街地」,「河川・ 池沼」の 4 類型に区分しました。  

2 京都市の自然環境の地域区分

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2 章

生物多様性の 4 つの危機

○宅地化,道路建設などの開発に  よる生息・生育地の悪化・減少 ○鑑賞や商業利用のための乱獲に  よる種の減少・絶滅 ○観光やハイキング等のレクリ   エーション利用による生息・  生育地の悪化・減少 ○人が手を入れることで維持され  てきた環境の変化 ⇒里地里山等の手入れ不足による  自然の質の低下 ⇒二次林等の利用減少による生態  系のバランスの変化(ニホンジ カ・イノシシの個体数増加など) ○外来種による在来種の捕食 ○外来種による在来種の生息・生  育場所・餌の利用⇒在来種の減  少・絶滅 ○交雑による遺伝的なかく乱 ○化学物質の拡散による動植物へ  の影響(毒性など) ○気温,降水量などの気象条件の  変化 ⇒渡り鳥や回遊魚の生活サイクル  への影響など ○平均気温が上昇(1.5 ~ 2.5 度)  し,高山帯の縮小や海面温度の  上昇が起きる⇒動植物の 20 ~  30%の絶滅リスクが高まる  次に,前ページで紹介した京都市の自然環境の地域区分ごとに,その特徴と現在分かっている生 物多様性の課題を示します。第 1 章 3 生物多様性の危機で示した 4 つの危機に沿って示します。

生物多様性の危機

農耕地

市街地 河川・池沼

第1の危機

第2の危機

第3の危機

第4の危機

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2 章

①北山杉 , ②フタバアオイ ( 葵祭 ), ③粽ちまき(祇園祭), ④借景(無鄰菴・東山)

 

奥山・里山は,三山やその北部に広がる森林であり,市域の約 74%(約 4 分の 3)を占めています。 森林は多くの生きもの(動物・植物)のすみかとして重要であり,大都市でありながら,ツキノワ グマ,ニホンジカ,イノシシ,ニホンザルなどが生息しています。また,奥山・里山は,古くから 住居の素材の供給源として,また日本庭園の背景に取り入れる「借景」として利用されてきました。  特に,東山や嵐山は,景勝地として知られており,多くの観光客が訪れます。  森林は,京都の銘木である北山杉や,マツタケなどを供給してくれています(供給サービス)。また, 森林の木々は雨水を一時的に蓄え,継続的に川や池に水を供給しているほか,地表面の侵食と,土 砂崩れなどの災害発生を防いでいます。森林の土壌は雨水をろ過し,きれいな水として,私たちの 安全で衛生的な暮らしを支えています。さらに,里山の林は,野生生物と人の住む地域とをうまく 住み分ける緩衝帯7としての機能もあります(調整サービス)  古くから続く伝統的な祭りの祭祀品(例えば祇園祭のチマキザサなど)には奥山・里山の林床に 生える植物が利用されており,生物多様性の特徴を見ることができます。また,森林そのものが庭 園の借景を形づくる貴重な要素となっているほか,市民のレクリエーションの場にもなっています (文化サービス)。こういった生物多様性の恵みの基盤となる,森林そのものを育む土壌の形成,森 林による二酸化炭素の吸収と酸素の供給,生きものの生息環境の提供は,奥山・里山の基盤サービ スといえます。 7  里山は,隠れる場所が少なく,また日常的に人が出入りするため,野生生物が生息しにくい。この   ため,里山は,野生生物が簡単に森林から市街地に下りてくることを防ぐ緩衝帯の役割を果たす。 ① ② ③ ④

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奥山・里山

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2 章

良好な森林 荒廃した森林 ニホンジカ等による食害

 

奥山・里山の森林は,近年,建築材や燃料材としての利用が減ったことや担い手(後継者)不 足に伴って間伐などの管理が行き届かなくなったことにより,森林の荒廃が進み,林床の植生が減 少しています。また,山裾での過疎の進行や狩猟者の減少により,草食の大型哺乳類(ニホンジカ など)が増加し,チマキザサなど林床の植物が被害を受けています。こういった森林の変化により, 生態系サービスを十分に発揮することが難しくなってきています(生物多様性第 2 の危機)。さら にこうした森林の荒廃は,三山の景観(借景)や生態系サービス(防災,水源涵養機能等)を低下 させ,土砂災害を生じやすくさせています。今後は,京都市域の奥山・里山の現状を広域的に把握し, 地域による違いを評価した上で,効果的な取組を実施していくことが必要です。  山麓に位置する社寺では,2000 年代以降にニホンジカやイノシシの出現が目立つようになって きたことが明らかになっています。これに伴い境内への侵入を防ぐために,柵を設置するなどの対 策が行われています。しかし,ニホンジカによる庭園内の植栽の食害や,イノシシによる苔の掘り 返しなど,景観に影響を及ぼすような被害を受けている社寺もあり,対策は十分とはいえません。 一方で,アライグマなどが柱につめあとを残したり,屋根裏に棲みつくなど,文化財として貴重な建 造物に外来性小型動物の被害が及んでいる社寺も現れています。各社寺はこれらの被害への対応を迫 られる状況となっています。  これに加えて,特に林縁部では竹林の繁茂が進んでいるほか,林道沿いに繁茂したイタチハギ(外 来種)が草木の成長を阻害するという問題が起きています。里山においては道路法面8の緑化に使 われる外来の植物が逸出するなどの被害が出ています。特に花を観賞するような外来種については 緑化のためだけでなく,植栽などでも導入されたため,現在市内の里山のほぼ全域でこれらの外来 種が優占し,在来種の生育を脅かしています(生物多様性第 3 の危機)。

課 題

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2 章

桂川の右岸一帯

左京区北部山間地域の森林

比叡山

東山

 京都盆地に入るまでの,嵐山を含む西京区の桂川右岸沿いの 山地には,まとまった面積の森林が広がり,山地が桂川流域ま で迫っています。広く,豊かな自然環境が残されているために, そこをすみかとするニホンジカ,イノシシ,ニホンザル,ホン ドギツネをはじめとした野生生物が多く見られます。  京都市の北部地域にある花脊の一帯は,京都市の中でも雪が多く,森林に囲まれています。 この地域では,厳しい自然環境によってつくりだされた,「花脊の天然伏条台杉」や,適度に潤っ た土壌の上で長い年月をかけて育った巨木「花脊の三本スギ」などが見られ ます。花脊の近くにある自然林にはウラジロガシが多く生育し,この木を食 樹とする珍しいヒサマツミドリシジミを見ることができます。ヒサマツミド リシジミは京都では北部地域一帯だけで見られ,森林を好み,長い距離を移 動することができるチョウです。  比叡山は京都市の北東部と大津市西部にまたがり,古くより信仰対象とされ,その全域が天 台宗総本山の延暦寺の境内となっています。かつては伐採が定期的に行われ,草地が広く見ら れましたが,今はうっそうとした樹林が中心となっています。  一部,ブナやモミの自然林が残されており,そこではさまざまな昆虫類や鳥類を見ることが できます。特に鳥類に関しては種類,数ともに関西を代表する生息地といわれ,国の天然記念 物(比叡山鳥類繁殖地)に指定されています。  東山三十六峰の 1 つ,善気山には法然院の森が広がっています。麓では照葉樹が優占し,尾 根にかけてさまざまな木々が繁茂しています。住宅地のすぐそばにありながら,大文字山をは じめとする山並みと連続しているため,野鳥の種類が多く,ニホンジカ,ホンドギツネ,イノ シシといったほ乳類の生息地にもなっています。大木が残っていることで樹洞をねぐらとする ムササビも多く棲んでいます。また,麓周辺の水辺ではモ リアオガエルやゲンジボタルなど貴重な生きものも見られ ます。 ヒサマツミドリシジミ ①モリアオガエル , ②ムササビ ①ホンドギツネ , ②ニホンザル

特徴的な場所

① ② ① ②

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2 章

 本市の奥山・里山がもたらす生態系サービス(生物多様性の恵み)は次のよう になります。私たちが快適に生活できる環境は,調整サービスが働いていること で維持され,文化として慣れ親しんでいるお祭りや着物,襖絵のモチーフなどは, 昔から山に生息・生育する動植物と接し,親しんできたことで育まれたものです。  一方,奥山・里山の森林では,近年,次のような課題が見られるようになり, 上記のような生態系サービスを十分に発揮することが難しくなってきています。 供給サービス ・北山杉に代表される木材 ・マツタケなど ・雨水を一時的に蓄え,洪水を予防 ・土砂崩れなどの防止 ・豊かな土壌や酸素の供給など ・伝統的な祭りの祭祀品 ・着物や襖絵のモチーフ ・庭園の借景 ・ハイキングや森林浴などのレクリエーション 調整サービス 文化サービス 基盤サービス 第2の危機のうちの 「自然の質の低下」 ・森と人との関係の希薄化や森林病害虫被害の蔓延などに 伴う森林の荒廃 ・過疎など人の影響の低下に伴う大型草食獣の増加 (大型草食獣の増加に伴う植生への被害) ・ニホンジカ,イノシシなどの個体数の急増(農業被害)

奥山・里山のまとめ

奥山・里山の生態系サービス

奥山・里山の生物多様性の危機

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2 章

京都大学景観生態保全論・環境デザイン学研究室  京都市街地から見える三山山麓の森林 36 ヶ所を対象に,ニホンジカの生息痕跡を調べたとこ ろ,27 ヶ所でなんらかの痕跡(「枝折れなどの採食跡」,「移動跡」,「糞」)が見つかりました(図 1)。 京都市では,中山間地域でのニホンジカの出現や農業被害など多数報告されていますが,今回 の調査(2013 年秋季実施)※で市街地に近く眺望景観として重要な森林に対してもニホンジカ の影響が現れていることを確認しました。  複数の生息痕跡が確認されている岩倉の南側山麓の地域では,林床に生えていたササ類や草 花,ツツジ類などの背の低い樹木がニホンジカによる食害に遭い,雨水により林内の土壌が流 れ出しやすい状況が生まれています(写真 1)。また,アセビのようにニホンジカが好まない 植物が残り,これまで京都らしい森林を育んできた樹木や草花が育ちにくい状況に変化してき ています。ニホンジカの食害で在来植物が消失したあとに,外来植物であるナンキンハゼやダ ンドボロギクなどが侵入している場所もみられます。一方で,交通量の多い三条通でさえぎら れた東山南部ではニホンジカの生息痕跡は確認されず,他の地点と比べ林内の植物が多く残っ ている状況がみられます(写真 2)。ニホンジカは行政の境界に関係なく移動しますが,地形 や道路によって行動が制限される場合もあるようです。  同じ三山山麓の森林であっても地域によって状況が異なることから,被害が著しい地域では, 植物の生育を助けるようにニホンジカの侵入を防ぎ,被害のない地域ではニホンジカの行動を モニタリングしながら京都自生の植物種を次世代の京都市民に引き継いでいけるように,地域 の実情に合わせた取組が求められます。京都市として,森林の生物多様性の回復に向けて,市 民を含めた多くの主体が参加しやすくなるように,生物多様性保全地域連携促進法に基づく地 域連携保全活動計画9などを策定推進したり,区レベルの対策に加え周辺の自治体との連携も視 野に入れたニホンジカの個体数調整を実施した りするなど,早急な対応が必要となっています。  三山山麓に位置する社寺などでは,これま で長期間にわたって動植物の動きをモニタリ ングし,野生生物対策や森林保全についての 対策を,行政からの支援を受けずに独自に蓄 積してきたところもあります。京都市内の貴 重な自然を保全してきた社寺などの役割は大 きく,今後も生物多様性保全に向けた重要な 拠点となる可能性を秘めています。 図 1 生息痕跡確認地点の分布 「枝折れなどの採食跡」,「移動跡」, 「糞」それぞれを 1 点とし,●は 3 点,●は 2 点,●は 1 点,●は 0 点。 (写真 1)岩倉の南側山麓  (宝が池公園内)の様子 (写真2)東山南部の林内の様子 ※京都大学景観生態保全論・環境デザイン学研究室「市民生活における自然環境共生の知見  と身近な生物相の実態評価」大学コンソーシアム京都 2013 年度未来の京都創造研究事業

コラム:山麓は「三山の映し鏡」-身近な森林に迫るニホンジカの危機

9  地域連携保全活動計画とは,生物多様性地域連携促進法に基づき策定された基本方針に従い市町村   が作成する計画で,様々な立場の人々が互いに連携して生物多様性の保全のための活動(地域連携   保全活動)を促進するため,区域,目標,活動内容,国または都道府県との連携事項,計画期間が   記載されている。

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2 章

①水田(八瀬), ②京野菜

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農耕地

   平安京の時代から長く栄えてきた京都は,海から遠く離れた立地のため海産物の運搬が難しく, 大都市の食生活を支えていくためには野菜づくりが重要でした。特に京都には,全国各地や中国大 陸から,朝廷への献上品として,優れた生産技術や野菜の品種が集まり,また,多くの社寺におい て精進料理が発達したことも影響し,野菜が伝統的に栽培されてきました。  農耕地(水田・畑)は,耕作や野菜づくりが行なわれてきただけでなく,多くの生きものにすみ かを提供してきました。水田にはメダカやカエルなどが,畑にはさまざまなチョウなどが生息しま す。また,それらを餌とする生態系の頂点に立つオオタカなどの猛禽類も飛来します。  本市の農耕地は,京野菜などの近郷野菜や米等を生産,供給しており,特に九条ねぎや賀茂なす, すぐき等の栽培地として知られています(供給サービス)。また,京野菜や野花などは京料理や華道, 茶道の素材として用いられ,こうした文化を支える働きをしてきました(文化サービス)。  さらに,農耕地(特に水田)は,雨水を一時的に貯め,一度に下流に流れるのを防いでいます(調 整サービス)。 ① ②

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2 章

 農耕地は,高度経済成長期(1974(昭和 49)年ごろ)の後から,住宅地等への転用が進み,その面 積は減少し続けています(生物多様性の第 1 の危機)。この結果として生きものの生息地・生育地の 分断化・小面積化が進み,多くの生きものにとって生息・生育が難しい環境へと変わりつつあります。  農耕地には,奥山・里山で増加したニホンジカ等の野生生物が餌をもとめて耕作地まで進出して きており,農作物を食べる被害(食害等)が見られます。  農耕地のため池は,かつては農業用水の供給源として,継続的に管理がなされてきました。ため 池は手入れ(泥抜きや植栽管理)をしないと堆積した泥と繁茂した植物によって,いずれは陸地化 します。利用されなくなり放置されたため池は,まず池畔の樹林が大きく育つことで池への日照を 阻害し水草などの水生植物が育つことができなくなります。さらに泥が堆積することで,ため池に 生息するタガメ,ゲンゴロウ,フナ,メダカ,ドジョウ,ナマズなどの生きものが激減することに なります(生物多様性第 2 の危機)。  加えて,外来種の増加により,生物多様性の恵みが低下してきています(生物多様性第 3 の危機)。 ため池の減少によって生息環境が減少しているメダカは,外来種のカダヤシとの競合により個体数 が減ってきているともいわれています。また,農耕地に,食用として持ち込まれたスクミリンゴガ イ(要注意外来生物10 )が市内でも分布を広げており,イネ科への食害など農作物への被害が出て います。同じく食用として持ち込まれたウシガエル(被害危惧種11)は,水田に生息するトノサマ ガエル(要注目種12)やダルマガエル(絶滅寸前種13)を捕食しています。さらに,このウシガエル の餌として持ち込まれたアメリカザリガニ(被害甚大種14)も市内に広く分布しており,しばしば イネの根を食べ,畦に穴をあけるなどの農業被害をもたらします。この畦の被害に対応するために, 畦がコンクリート張りになるなど,いわゆる人間活動による危機(生物多様性第 1 の危機)を引き 起こす原因ともなっています。また,休耕田ではセイタカアワダチソウ(被害甚大種14)が一面に 広がるなど,市内の農耕地への外来種の侵入は進んでいます。 ①タガメ , ②スクミリンゴガイ , ③ウシガエル , ④ダルマガエル , ⑤ドジョウ , ⑥メダカ 10 要注意外来生物とは,「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」で「特定外来生物」     に指定されていないが,適否について検討中あるいは調査不足から未選定とされている種のこと。   現在 148 種が選定されている。 11 被害危惧種とは,京都府内における被害があり,又は被害が生じる可能性が強く対策が必要な外来種をい     う(京都府外来生物リスト)。 12 要注目種とは,京都府内の生息・生育状況について,今後の動向を注目すべき種及び情報が不足してい   る種のことをいう(京都府改訂版レッドリスト 2013)。 13 絶滅寸前種とは,京都府内において絶滅の危機に瀕している種のことをいう(京都府改訂版レッドリスト 2013)。 14 被害甚大種とは,京都府内における被害が大きく,又は大きくなる可能性が強く緊急に策が必要な   外来種をいう(京都府外来生物リスト)。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥

課 題

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2 章

 太秦から小倉山までの一帯は嵯峨野と呼ばれ,寺院や山荘が数多く残ることから京 都観光の名所となっています。寺院の境内や周辺に残る田園が連なることで,植物や 昆虫などに多くの生息・生育環境を提供しています。  昔から嵯峨野といえば「秋の草花と虫の音」といわ れるほど,ヒガンバナやハギ類といった草花があちこ ちで見られるほか,コオロギ類やスズムシの鳴き声を 聞くことができます。また,春の七草もすずな(かぶ), すずしろ(だいこん)といった野菜を除いた全ての種 を見ることができます。  大原は山に囲まれた盆地に広がる農耕地で,盆地の中 心を高野川が流れています。古くから本市に野菜等を供給 する産地として有名です。草地や農耕地周辺に生息・生育 する動植物だけでなく,周りを樹林に囲まれていることか ら樹林を利用するイノシシやニホンジカ等のほ乳類が見 られます。また,放棄水田もあることからセリやイ,ガマ     等湿性の植物や河川環境を利用するダイサギ等の鳥類も 見られます。この地域では,ほ場整備が行われましたが,水路の一部(約50メートル) 区間の構造を石積護岸とし,底に土を残して整備することで環境保全区域としています。 現在では,この区間でのみミヤマアカネ(京都府準絶滅危惧種)が生息していることが 確認されており,この地域において,残された最後の生息環境として機能しています。 北嵯峨の田園風景 ミヤマアカネ

嵯峨野

大原

 かつては広大な農耕地が広がっていた岩倉,山科等の地域では,過去 30 年間で,宅地化が 進み,現在では農耕地がパッチ状に残るのみとなっています。農耕地としての面積は小さい ものの,宅地の中に残された,草地や湿地を好む生きものの貴重な生息環境となっています。

住宅地に残る農耕地(岩倉,山科等)

特徴的な場所

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2 章

 巨椋池は,かつては伏見区,宇治市,久御山町にまたがり,1933(昭和 8)年に干拓が 始まる以前は東西 4 ㎞,南北 3 ㎞,水域面積は約 800ha にも及ぶ広大な池でした。多様な 動植物の生息・生育地として,豊かな生態系を誇っていましたが,現在は干拓され,農 地として利用されています。干拓前の巨椋池の氾濫原の名残である宇治川の河川敷や横 大路沼で見つかったフラスコモやシャジクモなどの貴重な植物は,かつての生きもの豊 かな巨椋池の環境を今に伝えています。  水田が多いものの,乾田化されたため,冬季は乾燥した状態となることから,湿性の種 の生息・生育は,湿田ほど多くはありません。この広大な農地は草地性の鳥類の生息環 境となっており,全国的にも珍しくなってきているコミミズクやチュウヒ(猛禽類)と いった鳥が見られます。都市域に近いため外来種の侵入が多く,特にスクミリンゴガイ (被害甚大種)の被害が多い地域です。2011(平成 23)年度から,京都市農村環境計画に 基づき,京都府は承水路(排水路)の整備において水田との連続性回復への配慮を行い, 成果としてナマズ,ドジョウ,フナの繁殖が回復していることや,絶滅危惧種のゼゼラ が発見されるなどの効果が見られています(京都府山城土地改良事務所,201315

巨椋池干拓地

①コミミズク , ②チュウヒ , ③フナ属の一種 , ④ナマズ , ⑤ゼゼラ 15 京都府山城土地改良事務所(2013)『平成 25 年度府営農地防災事業巨椋池 3 期地区生きもの調査業   務報告書』 ① ② ③ ④ ⑤

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2 章

 本市の農耕地がもたらす生態系サービスは次のようになります。私たちが普段 口にする食材(野菜 , 米など)の一部は農耕地の供給サービスです。またこれら の食材のうち,京都市でのみ収穫される「京野菜」は京都市の食文化を支えてい ます。 一方で,耕作地では耕作放棄に伴う土地利用の改変や,外来種の増加といった 課題が見られ,上記のような生態系サービスを十分に発揮することが難しくなっ てきています。 供給サービス 調整サービス 文化サービス 基盤サービス 第 1 の危機のうちの 「生息地の破壊・消失」 第 2 の危機のうちの 「自然の質の低下」 第 3 の危機のうちの 「外来種などによるかく乱」

農耕地の生物多様性の危機

農耕地の生態系サービス

農耕地のまとめ

・農地の住宅地などへの転用(農地の分断化,小面積化) ・畦,水路などのコンクリート化 ・管理不足に伴う,ため池の荒廃 ・ウシガエルによる在来両生類の捕食 ・スクミリンゴガイ,セイタカアワダチソウの急増 ・野菜や米などの食材 ・雨水を一時的に蓄え,洪水を予防 ・京の文化(京料理,茶道,華道など)を支える ・水域と陸域の連続性を維持

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2 章

 一見,生きものの生息・生育環境には適していないと思われがちな都市緑地にも,生きものにとっ て重要なすみかとなっている場所があります。古くから残る社寺林や庭園など,人が管理すること で昔から変わらない姿を留めている場所には,都市公園等ではほとんど見ることができなくなった コケ・シダ類が生育しています。市街地の中に散りばめられたように存在している社寺林や庭園は, こうした生きもののすみかとして欠かせない場所となっており,本市ならではの自然環境を形づく る重要な要素となっています。  また,広い緑地を有する京都御苑や梅小路公園のような大きな公園も都市において生きものの格 好のすみかとなっており,市内に点在する緑地(小さな公園や街路樹,個人の庭など)も生きもの の生活域として重要な場所として機能しています。  市街地の緑地は,雨水が一気に河川や水路に流れ込むことで起きる増水を抑える働き(洪水調節 機能)を持っています。太陽の光を受けたときにコンクリートやアスファルトは熱を蓄えることで, ヒートアイランドと呼ばれる都市特有の気温の上昇を招きますが,植物や土壌は水分を多く含んで いるため,その気化熱によって気温の上昇を抑える気候調節機能を発揮し,都市の気温上昇を抑え てくれます(調整サービス)。また,町家や社寺の庭は,市民が文化的な価値に接する機会を提供 しているほか,伝統行事を行う場としての利用,散策や子供の遊び場の提供,緑が存在することで 人が受ける癒しの効果を与えています(文化サービス)。  社寺の庭などは,単調な空間となりがちな市街地に,その場所ごとに日当たりや湿度などが異な る多様な環境や水辺空間を創り出し,さまざまな生きものに生息・生育場所を提供しています。ま た,庭園の意匠の一部として欠かすことができないコケ・シダ類が生育できる環境は,継続的に管 理の手を入れることによって維持されています(基盤サービス)。  市街地では,老朽化により町家が取り壊され,京都らしい景観が失われるとともに,町家に残さ れた坪庭・路地庭が失われたり,コインパーキングの転用により,舗装面が増加し,気候調節の機 能等が損なわれています。また,昔から変わらない環境が維持されてきたおかげで生き残ってきた 生きもののすみかが失われてしまうといった問題なども懸念されています(生物多様性第 1 の危 機)。 ①町家の庭 ( 大橋家庭園 ), ②コケ・シダ類 ( 王寺 ), ③市街地 ① ② ③

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市街地

課 題

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2 章

コラム:町家の庭は「都市の森」

 京都では町家の庭が多様な動植物を育む都市の中の貴重な緑地として機能しています。一軒一 軒の庭は,都市公園や社寺林と比べて面積は小さいものですが,街区単位で見ると多様な植物に恵 まれ,「都市の森」として生きものの生息場所を提供しています。上京区旧桃薗学区では,学区総面 積の約 7.6% を緑地が占めています(2008(平成 20)年)が,その緑地面積の約 4 割が町家や一 般住宅の庭で構成されており,集合住宅・ビル,社寺,学校,都市公園,街路樹などの緑地に比べ ても多いことから,総量として重要です  職住一体である伝統的な町家では,客人のもてなしの場として庭を活用し,住人の日々の維持管 理によって庭の生きものや景観が継承されてきました。屋根の高さを超えるほどにまで生育して いるアイグロマツ,アカマツ,イロハモミジ,ノムラモミジなどの樹木は庭の中でもひときわ大きな存在 です。その下にはユズリハ,モチノキ,アラカシ,アオキ,ヤブツバキ,ツガ,イヌマキなどの常緑性 の樹木が見られます。さらに足元には,冬に赤い果実をつけるセンリョウ,マンリョウなどの常緑低 木が見られます。ハランなどの多年草類,シダの仲間のクリハラン,イワヒバ,ヒトツバ,カニクサな ども植栽されています。このほかにも地面や石などにコケ類が生育しています。  屋根の高さから足元にいたるまで在来植物がいくつもの層に生育していることは,市街地の緑地 のなかでも多様性を高めていることを示しており,市街地の生物多様性の維持に貢献しているとい えます。旧桃薗学区で約 120 年以上の歴史をもつ町家に居住する方によると,「40 年ほど前には 周囲に町家が多く存在し,奥庭で各家がつながっているような環境が存在していたため,周囲の庭 が集合して 1 つの大きな緑地として機能し,現在よりも多くの小動物や昆虫類が確認されていた」 という話があり,かつての「都市の森」の様子が浮かび上がってきます。  庭にはヒヨドリ,ムクドリ,メジロなどの鳥類も訪れます。ある庭では庭木にメジロが営巣し,ヒナが 巣立っていくまでの過程が見られたという話もありました。手水鉢や水盆で羽を洗ったり,水遊びを したりする姿も多くの庭で観察されています。市街地での町家の庭の消失は,京都らしい「都市の 森」を失うことを意味します。すでにある「都市の森」がもたらす生物多様性への貢献をよりよく知るた め,さまざまな動植物を指標とし,町家の敷地を評価する取組が必要です。町家が急速に減少する 今,家屋と一体である庭の保全についても,京都市として優先的に取り組んでいく時期にあります。 町家の庭(野口家) メジロの営巣 クマゼミ 京都大学景観生態保全論・環境デザイン学研究室

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2 章

 平安遷都 1200 年を記念して造られた梅小路公園には, 市街地の中心にありながら,池を中心とした日本庭園や 芝生広場があります。日本庭園の隣には市民からの植樹 基金を元に樹木が植えられ,都市の中の緑地が形成され ています。今では野鳥や昆虫が運んだ種子から新しい命 が育まれ,森として成長が進んでいます。市街地にあっ て,水域と広がりを持った緑を提供することで,生きも のの貴重な生息・生育場所になっています。  吉田山は京都大学の東にあるなだらかな丘ですが,周り は市街地となっており,まちなかに残る貴重な緑地として, 小学生の自然観察をはじめ,市民の憩いの場となっていま す。江戸時代より里山として薪拾いなど人々に利用されて きましたが,近年ではこうした里山利用が減少し,またナ ラ枯れなども進行し,林の荒廃が進んでいます。  現在は,周辺住民を中心に,吉田神社,京都大学などが 参画し,林の再生を目指す活動が始まっています。  宝が池公園は,京都三山の一角をなす小高い山に囲まれ,五山の送り火の 1 つ「妙法」 が南面にあります。古くから,薪や炭をつくる里山として,人々の暮らしと深く関わっ てきた自然と,カラコギカエデやミヤコツツジ(モチツツジ とヤマツツジの自然雑種)などの植物を見ることができます。 現在は,ナラ枯れやニホンジカの食害のほか,外来種である ナンキンハゼの増加などさまざまな課題にボランティアや地 域住民,京都市等が一緒になって取り組んでいます。

梅小路公園 いのちの森

宝が池公園

吉田山(神楽岡)

特徴的な場所

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2 章

 京都御苑は,南北は丸太町通から今出川通まで,東西は寺町通から烏丸通まで広がる, 市街地における大規模な緑地です。苑内には約 5 万本の樹木があり,ムクノキやエノキな ど,古代山城原野の面影をとどめています。  また,自然観察や学術研究も盛んで,植物が 719 種,キノコ類が 418 種,カワセミやア オバズクといった鳥類が 121 種,チョウ・トンボ・セミの仲間 が 110 種確認されています16。市民を対象にした自然観察会「自 然教室」は 1984(昭和 59)年から 30 年間続けられています。 これらの自然を楽しむための観察場所が苑内には整備されてい ます(トンボ池,バッタヶ原,コオロギの里,母と子の森など)。  本市の市街地における生態系サービスは次のようになります。一見,生物多様性とは 関係がないように思われる市街地ですが,公園や社寺の林や庭園,町家の坪庭や路地庭 など,人によって管理された緑地や水域には,独自の生物多様性をみることができます。  このようなサービスをもたらす市街地の町家が老朽化などで取り壊され,これに伴い, 市街地における貴重な緑地,水域を有する坪庭や路地庭が失われています(生物多様性 第 1 の危機のうち生息地の破壊・消失)。 調整サービス 文化サービス 基盤サービス ・雨水を一時的に蓄え,洪水を予防 ・緑陰によるヒートアイランド現象の緩和 ・伝統的な祭り,文化を支える ・癒し効果 ・散策場所や子供の遊び場の提供 ・日当たりや湿度が異なる多様な環境の提供 ・水辺空間の提供 市街地の生態系サービス 市街地の生物多様性の危機

市街地のまとめ

京都御苑

第 1 の危機のうちの 「生息地の破壊・消失」 ・市街地における貴重な緑地,水域を有する坪庭や路地庭の消失

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2 章

 市内には三川(鴨川,桂川,宇治川)のほか,発電や水道水として利用される琵琶湖疏水など, 身近に流れる水が豊富にあります。これらの河川・池沼は,魚や水生昆虫など水の中で生息する生 きものや,それを食べる鳥たちなどにすみかを提供しています。京都盆地は,約 130 万年前の古大 阪湾にたまった海成粘土層を基底にして,第四紀の氷河性海面変動を通じて,多くの砂礫層が堆積 しました。その後,大きな湖ができたのちに,長い年月をかけて盆地が形づくられてきたものです。  昔は湖であった名残は深泥池,神泉苑といった湿地や池に見ることができます。巨椋池もその 1 つでしたが,いまでは干拓され農地として利用されています。ここでは,水辺をすみかとする生き ものを多く見ることができますが,特に深泥池は天然記念物に指定されるなど,本市における重要 な自然環境の 1 つといえます。生態系サービスの観点から河川・池沼は,全てのサービス(供給サー ビス,調整サービス,文化サービス,基盤サービス)を提供してくれています。  市内に豊富に存在する地下水,湧水は,名水として市民や事業者に利用されてきました(供給サー ビス)。  市街地の小さな水路や点在する小さな池は,雨水を一時的に貯めて洪水を防止する機能(調整サー ビス)を果たしています。また,「山紫水明」の重要な要素である河川や,癒し空間としての河川 沿いなどは,人の心に豊かさを与える存在(文化サービス)となっています。さらに,河川には京 料理に欠かせないアユ,ウナギなどの淡水魚が生息しており,疏水を利用した庭園の池は生息場所 が少ない市街地にあって,貴重な生息環境となっています(基盤サービス)。 ①白川 , ②川床 , ③鴨川 , ④川魚料理(アユ), ⑤平安神宮の池 ① ② ④ ③ ⑤

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河川 ・ 池沼

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2 章

 河川では,河川改修や暗渠化の進行,魚道のない堰堤による動物の移動阻害,外来種の侵入と定 着による在来種の減少,あるいは水を一時的に吸水して貯留する未舗装面の減少などにより,生き ものの多様性が低下しています。  洪水,浸水,氾濫の防止を最優先とした河川改修工事や池沼の護岸工事が,本来変動があるはず の川の流れを均質化・固定化し,生きものが棲みにくい環境をつくっています。  また,工事の影響は,川の中にとどまらず,河川敷の草地を利用する生きものにも及ぶことに留 意する必要があります。例えばカヤネズミは,河川敷のヨシやオギなどの背丈の高い植物を利用し た巣をねぐらとする非常に小さなネズミで,桂川や宇治川の河川敷での生息が確認されています。  本来は草地環境である河川敷が,桂川や宇治川では人のレクリエーションのためにグラウンドと して整備されているため,こうした草地性の生きものが生息することが難しくなっています。  このほか,都市化に伴う舗装面の増加,水路の暗渠化により , ヒートアイランド現象が助長され るなど,気候の調節機能が低下しています。さらに過剰な地下水の汲み上げによって地下水位の低 下や湧水の減少が起きており,この結果として湧水域の生きものであるミナミトミヨが絶滅したと いわれています。また,もともと地下水位が高いために九条や十条ではセリ田が多くつくられてい ましたが,湧水の減少により,現在はその数がかなり減少しました(生物多様性第 1 の危機)。  鴨川水系には,在来種の特別天然記念物であるオオサンショウウオが生息しています。しかし, 食用として持ち込まれたチュウゴクサンショウウオ(外来種)が分布を広げて個体数を増やしてい る影響で,在来種であるオオサンショウウオの個体数が減少しているほか,外来種との交雑により 遺伝子のかく乱が懸念されています。また,外来種であるほ乳類のヌートリアは毛皮をとるために 輸入されたものが野生化しており,市内の河川でも個体数が増えているとされています。ヌートリ アは侵略的外来種に指定されており,生態系への影響も懸念されています(生物多様性第 3 の危機)。  このように,生息地の減少や外来種の増加によって個体数が減少することで,生きものの遺伝的 な多様性が失われてしまうこと(遺伝的劣化)が知られており,本市においてはアユなどでその傾 向が確認されています。 ①オオサンショウウオ(在来種), ②チュウゴクオオサンショウウオ(外来種), ③交雑種※   ① ② ③

課 題

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2 章

 鴨川は本市の市街地を南北に貫流し,京都を代表す る風景の 1 つといえます。上流部には,豊かな自然が 残されており,一部中国産との混在が問題となってい ますが,オオサンショウウオが生息しています。中下 流部についても,大都市の中にあっては豊かな自然環 境であり,特に河原や中洲では,たくさんの野鳥を目 にすることができます。コサギ,アオサギ,カワセミ, イカルチドリなどは一年中見ることができ,春から夏 にかけてはツバメやコシアカツバメが,秋から翌年の 春まではユリカモメやカモ類などを見ることができま す。一時は,数千羽いたというユリカモメの数が,今 は数百羽にまで減少しているといわれています。減少 の原因はわかっていませんが,河川環境の変化にはこ れからも注意が必要です。 イカルチドリ カワセミ

鴨川

 桂川は左京区広河原と,南丹市美山町佐々里を源とし, 京都盆地南西部を貫流し淀川に注ぎます。京都盆地に入る までは,山地の迫る区間が多く,嵐山から下流では市街地 が広がります。上流には豊かな自然が残されており,オオ サンショウウオをはじめとする貴重な生きものが見られま す。また,桂川で採掘された土砂からは,かつて巨椋池で 生育していたオグラコウホネの埋土種子が見つかっていま す。オオサンショウウオなどの生息やオオタカの飛来も確 認されており,貴重な場所であることが分かっています。 このほか,河川敷ではタコノアシ等の湿地性の植物が見ら れたり,草原性の環境を必要とするカヤネズミなどの生き ものも見られる,生物多様性のホットスポット17といえます。 オグラコウホネ 桂川

桂川

特徴的な場所

17 生物多様性ホットスポットとは,生息・生育する生物(外来種を除く)の種数が多く,その地域の 生物多様性を保全する上で重要な地域のこと。

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2 章

 琵琶湖疏水沿いに植えられた桜の並木では,キマダ ラルリツバメという珍しいチョウ(準絶滅危惧種)が 見られます。このチョウは,幼虫から蛹化までの間, 古木の樹皮下に生息するハリブトシリアゲアリに育て てもらうという生活史をもっています。そのような古 木があり,かつハリブトシリアゲアリが生息している 場所でしか見られないこのチョウがまちなかで飛翔す るのは非常に珍しい光景です。また,銀閣寺地域の疏 水分線沿いの並木は,都市域でミドリシジミの飛翔が 見られる極めて貴重な場所といえます。このほか,疏 キマダラルリツバメ

琵琶湖疏水(疏水沿いの並木)

 平安神宮の神苑の池は,琵琶湖疏水を取り入れた池 です。この疏水を伝って琵琶湖からタナゴ類がこの池 に入り,水質対策として取水口に取り付けたフィル ターが外来種の侵入を防いだため,平安神宮神苑の池 では,現在もタナゴ類を含め多くの魚が生息していま す。  宇治川は,淀川の京都府域での呼び名です。宇治川 は,京都盆地へ流入する世界遺産平等院付近から木津 川,桂川との合流点の上流側にかけて広大な遊水地を 形成しています(旧巨椋池)。  この旧巨椋池にある向島の河川敷にはヨシ,オギの 大群落が存在し,関西で最大規模のツバメの集団ねぐ らとなっているほか,オオヨシキリの繁殖地としても 知られています。

平安神宮神苑の池

宇治川

宇治川

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2 章

 桂川の支流で,嵐山の北西を水源とする西芳寺川は, 地元では「谷川」と呼ばれ,サワガニや豊富な魚類, 水生昆虫が生息する清流です。特に京都府レッドデー タブックに記載されたオオトゲエラカゲロウなどの水 生昆虫が多く見られます。また,6 月ごろには,上流 部でゲンジボタルを見ることができます。 ゲンジボタル

西芳寺川

 本市内には,三川や中小河川や琵琶湖疏水などの流水環境があるほか,深泥池 のような湿地や社寺の庭の池など止水環境も数多くあります。これらは動植物の 重要な生息・生育空間を提供するだけでなく,私たちの生活に近い場所に長く存 在し続け,私たちの暮らしや文化にも影響を与えてきました。  河川・池沼がもたらす生態系サービスをまとめると次のようになります。  一方で,河川・池沼は近年,次のような課題が見られるようになり,上記の ような生態系サービスを十分に発揮することが難しくなってきています。

河川・池沼の生態系サービス

河川・池沼の生物多様性の危機

供給サービス ・水の供給 ・雨水を一時的に蓄え,洪水を予防 ・水生動植物の生息・生育空間(流水,止水環境) ・山紫水明の要素のひとつ ・癒し空間 ・河川改修,暗渠化による生息環境の破壊 ・魚道の無い堰堤の設置による生息環境の分断化 ・河川敷のレクリエーション利用のための改変 ・過剰な地下水の汲み上げによる地下水位の低下・湧水の減少 ・オオサンショウウオ等の遺伝子かく乱(チュウゴクオオサン ショウウオと在来のオオサンショウウオとの交雑) 調整サービス 文化サービス 基盤サービス 第 1 の危機のうちの 「生息地の破壊・消失」 第 3 の危機のうちの 「外来種などによるかく乱」

河川・池沼のまとめ

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2 章

コラム:水系の活動は「地域と川の結び目」-白川子供まつり

 毎年 8 月第 1 日曜日に開催される「白川子供まつり」は,多くの子どもたちが手 に網をもち,川と触れ合う一日となっています。白川子供まつりは,身近な川の水 質汚染を改善しようとする動きの中で地元の河川美化団体によって 1973(昭和 48) 年に始められました。2003(平成 15)年に活動は休止となりましたが,2010(平 成 22)年に再び復活し,地域を巻き込んだ活動として賑わっています。白川の三条 通り以南には,ヤリタナゴ,トウヨシノボリ,ヌマムツ,オイカワなどの在来魚が 現在みられますが,特定外来生物に指定されているオオクチバスの稚魚も確認され ています。また,ネジレモ(琵琶湖固有種),ホザキノフサモ(京都府準絶滅危惧種), ササバモ,センニンモなどの水生植物が生育する様子もみられます。白川子供まつ りは,次代を担う子どもたちが楽しみながら川の生きものや現状について学ぶ場と なっています。  白川に関するアンケート調査(旧粟田学区 305 世帯回答)※では,地域の住民が ホタルの飛ぶ場所に関心を寄せ,好きな水辺空間として受けとめていることがわか りました。白川にはホタルの幼虫の餌となるカワニナが豊富にみられ,ホタルの生 活を支えています。生きもののつながりが川に対する人の愛着を育んでいるともい えます。また,かつて白川でみかけた魚類として,砂底に棲んで水生昆虫や藻類を 食べるヒガイやカマツカ,ナマズの仲間であるギギやアカザなどが挙げられており, これまでに白川に暮らす生きものの社会に変化があったことが推測されます。その 移り変わりを覚えている地域住民が,かつての様子を子どもたちに伝えていくこと も水辺の生物多様性を理解する人づくりにとって重要です。水辺の生物多様性保全 に向けた河川美化団体への期待は大きく,アンケート調査でもゴミ拾い,草刈り・ 藻刈りに並んで,回答者の約 8 割が生きもの・環境調査や環境学習を「ぜひやって ほしい」「やってほしい」活動として選択しています。しかし,河川美化団体の高齢 化は深刻であり,これまでの活動を継続していく担い手に加え,新たな役割を担う 人材の確保や育成の仕組みづくりが課題となっています。  市内には多くの河川や水路が流れています。それぞれの場所で,身近な水辺の恵 みを地域共有の財産として世代を超えて 住民が理解できるように,京 都市として水辺の歴史や生きも ののつながりを教材化する取組 を推進し,学校教育や生涯学習 京都大学景観生態保全論・環境デザイン学研究室

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2 章

コラム:生物多様性を脅かす外来種  京都市の生物多様性を脅かす要因のひとつに,人によって持ち込まれた外来種の増 加が挙げられます。ペットや資材として持ち込まれ飼育されていた生きものは,野外 に放たれたり,逃げ出したあと,多くは環境に適応できずに死んでしまいますが,一 部は環境に適応して爆発的にその数を増やし,もともとそこに棲んでいた生きものの すみかを奪ったり,直接食べることで絶滅させたりしてしまいます。  また,ペットのほかにも河川改修で持ち込まれる土砂に混じって持ち込まれたり, 河川の堤防の法面を緑化する際にネズミムギやシナダレスズメガヤなどの外来種の種 が使われたりしていることでも,外来種の分布を広げてしまっています。  外来生物のうち,特に生態系やもともと棲んでいた生きものへの影響が大きいもの については「特定外来生物」あるいは「要注意外来生物」として指定されています。  本市にもオオクチバスやブルーギル,ミシシッピアカミミガメといった特定外来生 物等が侵入していますが,中でも北米産の哺乳類であるアライグマは農作物被害を及 ぼすほか,社寺などに侵入して繁殖等を行い糞などで文化財を汚すなどの被害を出し ます。

河川で見られる主な外来種(詳細は資料編を参照)

キショウブ ボタンウキクサ スクミリンゴガイ オオクチバス ブルーギル ミシシッピアカミミガメ アメリカザリガニ アライグマ アレチウリ セイタカアワダチソウ

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2 章

 京都市域に生息・生育する動物の約 170 種が,また,植物の約 180 種が絶滅のおそれがある絶滅 危惧種に分類されています。一方で,京都市内には,重要な植物群落や湿地のような生態系の保全 の必要性が高い地域(ホットスポット18)が存続してきました。  京都盆地に隣接する山麓や三山の生態系は,市街地に多様な生きものをもたらす生きものの供給 源となっています。京都らしい生物多様性を継承していくためには,基盤となる地域の自然を保全 することが極めて重要です。そのために,生物的,生態的,社会的な情報を収集し,生きものが健 全に生息できるような方策や計画を地域住民とともにつくりあげていくことが必要です。  本市の各地域で見られる生きものの生息・生育地は,孤立して存在しているわけではなく,お互 いに関係し合いながら本市の生物多様性を支えています。奥山・里山地域や農耕地,あるいは河川・ 池沼では生きものが比較的容易に行き交うことができますが,市街地に残された生息・生育地は点 在しており,生きものが行き来することが難しいといわれています。生物多様性の観点を高めるに は,こういった孤立した生息・生育地を河川や緑地(公園,街路樹,庭木の緑)などでつなぐこと で,生きものが移動できるようにする必要があります。  京都らしい生きものや文化との関わり,結びつきを強化するには,エコロジカル・ネットワーク(生 息・生育環境のつながり)の形成を意識したプランニングが重要です。例えば,市街地を縫うよう に流れる疏水や水路,小河川などの水系,町家や住宅の庭のように市街地に広く散在する緑地を保 全することはエコロジカル・ネットワークの形成にとって不可欠といえます。水系や小規模緑地が 少ない地域については,地域の生物多様性に貢献する生きものの生息空間を創出することや,都市 公園や街路樹といった限られた生息地や生育地を,生きものが暮らしやすいように配慮・工夫する ことが求められます。  京都市緑の基本計画においては,市街地における水と緑のネットワークが構想され,拠点をつな いでいくための緑の配置方針などが定められています。  こういった緑や水域のつながりは,自然が少ない市街地や都市部において重要な意味を持つこと が知られており,国土交通省が定めた「都市の生物多様性指標(詳しくは参考資料を参照)」におけ る指標項目の 1 つとしても取り上げられています。今後は,こういった指標なども検討しつつ,この  エコロジカル・ネットワークとは,人と自然の共生を確保していくため,原生的な自然 地域等の重要地域を核として,生態的なまとまりを考慮した上で,有機的に繋いだ生態系 のネットワークのことをいいます。ネットワークの形成により,野生生物の生息・生育空 間の確保,人と自然とのふれあいの場の提供,地球温暖化防止等,多面的な機能が発揮さ れることが期待されます。(生物多様性センターホームページより)

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4つの区域のつながり(エコロジカル ・ ネットワーク)

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2 章

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2 章

 1200 年余の歴史を持つ本市には,下鴨神社等の世界文化遺産をはじめ,数多くの文化財,社寺 などの歴史的・文化的資産があります。これらの社寺などに見られる長い年月が育んだ林や庭園な どの緑地は,生物多様性の保全上,非常に重要だということが分かっています。  これまで市民が支え,伝えてきた祭りや伝統行事,あるいは華道,茶道や京友禅などの京都を代 表する文化や工芸も本市の生物多様性の恵みを利用し,発展してきました。さらに,聖護院かぶ, 九条ねぎ,桂うり,賀茂なす,すぐきなどの京野菜,日本酒や豆腐なども,市民生活に関わりの深 い生物多様性の恵みの代表的な例といえます。また,着物の花鳥風月の文様や社寺の襖絵などに見 られる絵画にも,本市の生物多様性の豊かさが反映されているといえます。  「庭園・社寺林」,「祭り」などの京都の文化や芸術・暮らしが,どのように生物多様性と関わりを持っ ているかを紹介します。  

3 京都の伝統・文化・暮らしと生物多様性の関わり

〈庭園・社寺林〉

天龍寺庭園

〈祭り〉

祇園祭

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2 章

ア 管理された自然環境としての庭園  豊富な地下水に恵まれ,多くの湧き水が湧出する立地条件であったことや,多様な石材や木材を 入手できる自然環境に取り囲まれていたことなどから,京都は日本の庭園文化を育む上で重要な役 割を果たしてきました。京都の自然を取り込む庭園様式は,自然風景をまねた庭石や植栽の配置だ けでなく,三山を背景とし,庭園に周辺の自然風景そのものを組み入れる借景という技法をも生み 出しました。また,京都特有の自然条件に適応したコケ類,シダ類,魚類,鳥類などの生育環境と して貴重な場所になっています。  日本庭園の適切な維持管理は,庭園そのものの長年にわたる継承はもとより,都市における生き ものの生息・生育環境の保全にも重要な役割を果たし,観光拠点の形成にも大きく貢献しています。 イ 都市の希少な生息・生育地としての庭園  1952(昭和 27)年に桂離宮で行われた調査では,40 種を超えるコケ類,シダ類が確認され,平 安神宮苑内での 2005(平成 17)年の調査では,100 種以上のコケ類,シダ類が確認されています。  また,2003(平成 15)年に行われたシダ植物についての調査によれば,市内日本庭園 24 箇所に おいて 20 科 77 種が確認されています。  庭園内の築山,池泉,植栽によりさまざまな光環境や水環境,温度環境が生み出され,こうした 多様な環境がコケ類,シダ類などの植物について,豊富な種数を保っている要因となっています。 乾燥した都市部における「日本庭園」は,適湿を好む植物にとって避難地としての機能を果たして います。 ①清風荘庭園 , ②無鄰菴庭園 , ③二条城二之丸庭園 ①平安神宮神苑,②平安神宮西神苑白虎池 ① ② ③ ① ②

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庭園 ・ 社寺林と生物多様性

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2 章

ウ 社寺林の変遷と生物多様性に果たした役割  社寺の背後の森林 ( いわゆる鎮守の森 ) は,現在ではシイやカシを中心とした鬱蒼とした常緑広 葉樹林が増えてきています。しかし,その歴史をたどると,この傾向が見られるのは,明治時代以 降のおよそ 140 年間に過ぎず ( 八坂神社写真比較 ),平安時代から江戸時代の 1,000 年以上にも及 ぶ長い間,マツやスギなどの(針葉樹)の高木を中心に,ウメやサクラなど(落葉広葉樹)を交え た,現在よりもはるかに明るい林床をもつ林であったことが分かってきています 。  例えば,アカマツは土壌が薄く痩せた土地で主に生育し,乾燥にも強い樹種です。マツの落葉落 枝は重要な燃料であったほか,維持管理されたマツ林で採取されるマツタケは,貴族たちの贈答用 としても用いられ,京都の生物多様性を象徴する秋の味覚でした。かつて京都三山をはじめ広い地 域で見られた多くのアカマツ林は,人間によって何度も繰り返された森林伐採とその後の二次林の 再生の結果として生まれ,維持されてきた森林と考えることができます。  今では荘厳な深山の趣を感じる比叡山ですが,昭和初期の写真を見ると山頂付近は草丈の低い草 原であり,文献資料をたどると少なくとも 12 世紀後半以降,このような景観が持続されてきたこ とが分かってきました。すなわち,かつての比叡山では,ススキやエイザンスミレなど草原性の植 物が今よりもはるかに多く見られ,その生物多様性に富んだ自然が詩文などに表現されてきたので す。 明治初期の八坂神社

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2 章

 平安神宮神苑は, 平安建都 1100 年を記念し造られた庭園で, 七代目小川治兵衛(植治) が作庭しました。園池や流路 が流水や淀みといった水の動きの多様性を生み出 し,このこ とが魚類の生息状況と密接に関係しています。  現在,琵琶湖でほとんど見られない絶滅危惧種のイチモンジタナゴが生息し, 2000(平 成 12)年の京都府レッドデータ調査では 11 種の琵 琶湖産魚類が確認されています。タ ナゴ類に加え,タナゴ類の産 卵床となる二枚貝のドブガ イ,貝の幼生が寄生する底生魚で あるトウヨシノボリとゼゼラも確認され,複雑な生態系が形成されています。  園池における在来の生態系の存在は,平安神宮だけでな く南禅寺周辺の庭園群でも確認 されていますが,ブルーギル やオオクチバスといった外 来種の侵入により,これまで庭園 内で保たれていた在来の生態系は衰退の一途をたどっています。魚の通り道となる琵琶湖 からの水系ネットワークを保ち,園池の生態系を維持する には従来からの邸宅単位での庭 園管理では不十分であり,新たに庭園群の保全策を検討することが必要です。  修学院離宮は,山の麓にあり ,後水尾上皇が 14 年の歳月をかけて探し求めた地とされ ています。庭園は上・中・下の3 つの離宮に設けられており ,それぞれの離宮はマツ並木 で結ばれています 。上離宮は東山の森とつながり ,はるか上方の音羽川から水が引かれた 広大な園池があります 。上離宮では 48 種のシダ植物が確認されており ,これは市内のほ かの日本庭園と比較しても多い種数です 。また,中離宮と下離宮に隣接して棚田が広がっ ており,農の風景を取り込んだ,わが国でも非常に珍しい庭園といえます。  東山で発生している問題と同様に ,ナラ枯れ,マツ枯れ,ニホンジカの食害などに直面 しており,ニホンジカへの対策として庭園全体がニホンジカ柵で囲まれています。

コラム:琵琶湖の魚を育み伝える平安神宮神苑

コラム:農の風景を取り込んだ修学院離宮庭園

参照

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