九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
魚類からみた河川のセグメントエコリージョンに関 する研究
嚴島, 怜
https://doi.org/10.15017/1398452
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(別紙様式2)
論 文 要 旨
区 分 乙 氏 名 嚴 島 怜
論文題名 魚類からみた河川のセグメントエコリージョンに関する研究
論 文 内 容 の 要 旨
近年,河川の自然再生事業は世界各地で実施されており,日本では1997年に河川法改正が実施に伴 い,「河川環境の整備と保全」を目的に追加され,数多くの河川環境の保全・復元事業が実施されて いる.しかし,河川生物相やその生息場の物理環境を測定する指標が確立されていないことなどから,
効果的な自然再生事業の実施や事業の事後評価が充分に行えない状況にある.
河川環境の健全度を評価する指標は欧米を中心に開発されており,北米では1980年代初頭に魚類を 対象に北米で開発されたIBI(Index of Biotic Integrity)が多く使用されている.IBIは計算された複数 の指数の合計値で表される指標の値をリファレンスとなる条件下で比較することで調査地の生態学 的健全性を評価するものである.
こうした生態学的健全度の評価指標による環境の良否の判断は,生物群集が歴史的に相同と考えら れる地理的領域で行われなければならない.この地理的領域はエコリージョン(ecoregion)と呼ばれ,
北米を中心に研究が進められている.北米では地形,地質の単位が大きく,かなり広い地域で河川の 形態や流量レジームが変化しないためエコリージョンを設定した指標設定の研究が進み実用化され ている.しかし,日本を始めとするモンスーンアジア諸国においては,島嶼や半島が多いなど国土の 形状が複雑であり,地域により地理的・気候的に生物群集が大きく異なることなどからそのような研 究はほとんどみられない.また,河川は流呈区分ごとに生物相が大きく異なるため,流呈区分と生物 相の関係を把握し,流呈区分を考慮したエコリージョン区分(セグメントエコリージョン)を設定する 必要性がある.
本研究では河川の自然再生事業の選定及び事後評価のための簡便でわかり易く効果的な河川生態 系の健全度の評価指標の開発を魚類の観点から九州北西部中流域を対象に行い,物理環境項目との検 討を行った.また,その前段階として九州におけるエコリージョン区分の設定,魚類相の縦断方向変 化に関する研究,九州北西部におけるセグメントエコリージョンに関する研究を行い,指標設定が可 能な領域を定義した.
第1章では,本研究の背景および目的について論じている.
第2章では,九州地方を対象に環境指標が適用可能な生物相が相同と判断できるエコリージョン区 分を設定した.九州21河川の魚類の出現有無データを二元指標種分析によって魚類相の類似度から河 川を分類した.分類結果に加え,日本列島への純淡水魚の浸潤過程,九州地方の河川の成立過程を考 慮しエコリージョンを決定した.その結果,九州地方は九州北西部,九州北東部,九州南部および奄 美大島の4つのエコリージョンに分類されることが明らかとなった.各エコリージョンの魚類相の特
徴として,北西部はコイ科が多く,北東部および南部はハゼ科が多いことが挙げられる.また奄美大 島では,リュウキュウアユなど九州本島で生息しない魚種が確認された.各エコリージョンに出現す る河川の流域面積と魚種数の関係は,コイ科が多く生息する九州北西部で流域面積が大きくなるほど 魚種数は増え,対数曲線で比較的よく説明された.また,流域面積に代わり氾濫想定面積とコイ科種 数の関係を見ると流域面積を用いた場合よりも相関は強くなり,コイ科魚類と氾濫原面積との関係が 見られた.
第3章では,魚類相の縦断方向変化とセグメント区分の関係性について調べた.九州15河川を対象 に魚類相の分類とセグメント区分の関係を調べ,魚類の観点から河道の縦断区分を決定した.その結 果,魚類相の縦断方向の変化は15河川中12河川で確認され,人為的なインパクトをある程度受けた九 州の河川についても魚類相が縦断方向に複数のグループに分類されることが分かった.また,魚類の 観点からの河道区分として下流から,河口域,感潮区間,1/2000~1/1000,1/1000~1/100,1/100の5 つの区分が妥当であることが示された.
第4章では,九州北西部および九州北東部のエコリージョンを対象に,セグメントエコリージョン を区分した.九州北西部に属する10河川136地点の魚類相を分類した結果,河口域,下流域,中下流 域,中上流域,最上流域の5つに区分された.また,九州北東部に属する4河川35地点は海水域,河口 域,下流域および中・上流域の4つに区分された.同一エコリージョン内において魚類相を比較する ことで流域間の相違に優先してセグメント間の相違により魚類相を類型化することが可能であるこ とが明らかになった.また,エコリージョンを考慮したセグメントエコリージョンの概念を用いるこ とで,従来困難であった流域間あるいは同一河川内地点間のある環境に依存する魚種数の比較が可能 となることが示唆された.
第5章では,九州北西部中下流域エコリージョンの57地点において生態学的健全性を比較可能な指 標開発を行った.魚種を生活史や生息場から分類し15の指標項目を作成した.また,指標値と物理環 境の関係を調べるため,各指標値を目的変数に物理環境項目を説明変数として重回帰分析を行った.
物理環境データは河川水辺の国勢調査結果の河川調査結果に加え,航空写真から計測を行った49項目 について検討を行った.その結果,指標値と物理環境との相関は魚類相を生息場ごとに分類して指標 化することで強くなることから,生態学的健全性の評価の為には魚類相を階層的に分類する事が重要 であることが示唆された.
第6章では,本研究を取りまとめ以下の結論を示した.生物相が類似した領域である同一エコ リージョン内において,流程に沿う生物相の変化を反映したセグメントエコリージョンを設定するこ とで,従来困難であった流域間あるいは同一河川内地点間の河川環境健全度の比較が可能となること を示すことができた.