九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
光学的バイオセンシングによる糖鎖高分子の分子認 識能解析
寺田, 侑平
https://doi.org/10.15017/1931885
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 :寺田 侑平
論 文 名 : Molecular Recognition Analyses of Glycopolymer by Optical Biosensing
(光学的バイオセンシングによる糖鎖高分子の分子認識能解析) 区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
我々生体は多数の細胞から構成されており、その細胞の表面には糖鎖が存在する。糖鎖は生体内 においてウイルス・毒素の感染、ガンの転移、および炎症といった数々の重要な生命現象に深く関 わっており、DNA およびタンパク質に次ぐ第三の生命鎖として注目されている。糖鎖が持つ機能 の一つとして、タンパク質を特異的に認識することが知られている。通常、糖鎖一つのタンパク質 に対する相互作用は弱いが、細胞表面において糖鎖は糖タンパク質および糖脂質などの糖鎖の集合 体もしくはそれらが密集したドメインで存在することで、糖鎖—タンパク質間の結合を増強させて いる。この現象を糖鎖クラスター効果と呼ぶが、これは生体内の糖鎖集合体を模倣して糖鎖を高分 子の側鎖として組み込んだ糖鎖高分子でも達成することができる。タンパク質を特異的かつ強く認 識する糖鎖高分子の合成およびそれら糖鎖高分子の分子認識能について解析を進めることは、糖鎖 工学および有用なバイオマテリアルの開発に貢献すると期待される。
糖鎖およびタンパク質といった生体分子間の相互作用を理解するには、バイオセンサーを利用す ることが必要不可欠である。バイオセンサーは糖鎖—タンパク質相互作用、DNA-DNA ハイブリダ イゼーション、または抗原−抗体反応といった生体分子同士が相互作用する分子認識部位、および それら結合の際に生じる熱、電位、および光の変化を信号に変換して取り出す検出部位の二つで主 に構成されている。バイオセンサーには様々な検出手法が存在するが、中でも光学的手法は色の変 化、光の強度変化、光の反射および屈折・散乱の変化など検出信号が多様であり、簡便な検出から 詳細な解析まで可能なため汎用性が高い。また、光学的手法を用いたバイオセンサーは多くの場合 において屈折率の変化を測定する。そのため検出対象のサンプル溶液を大量に必要とせず、少量の サンプル溶液でバイオセンシングが可能である。本研究では、材料の界面に糖鎖高分子を固定化し た分子認識界面を調製し、検出感度の高い光学的なバイオセンシング手法で解析を行うことで、糖 鎖工学を中心としたバイオインターフェースの機能解析と応用を検討した。
まず、糖鎖高分子固定化二次元フォトニック結晶を用いた構造色バイオセンシングについて述 べた。色素を用いずに色を発現するものとして構造色がある。構造色は物質のナノオーダーの微細 構造によって光の干渉が制御され、その結果観測される可視光を指す。構造色を利用したバイオセ ンサーは蛍光などの色素のように消光の恐れがなく、また構造体におけるナノオーダーの微細構造 の変化を、構造色の変化で簡便に検出することができる。ここでは、数百ナノメートルの穴が規則 的に並んだ表面を持つ二次元フォトニック結晶フィルム上における糖鎖高分子界面およびタンパク 質の相互作用を、二次元フォトニック結晶が発現する構造色の強度変化によって検出した。糖鎖を 側鎖に持つ直鎖型の糖鎖高分子および糖鎖高分子を導入した高分子ナノゲル粒子を合成し、二次元
フォトニック結晶フィルム上に固定した。その糖鎖高分子固定化二次元フォトニック結晶フィルム にタンパク質溶液を加えた前後における構造色の反射強度変化を測定した。糖鎖高分子ナノゲル粒 子を固定した場合、直鎖型糖鎖高分子を用いた場合に比べてタンパク質の吸着によって3倍ほど大 きなシグナル変化が検出された。得られた結果より、糖鎖高分子ナノゲル粒子は三次元的網目状構 造によって、より多くのタンパク質を吸着させることが可能であり、バイオセンサーの分子認識部 位としての有用性も示唆された。
次に、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance: SPR)手法による金基板上の糖鎖高分子 ブラシの解析および分子認識能との相関を検討した。SPR手法は、金および銀などの金属基板表面 における物質の吸着を屈折率の変化で検出することができ、金属基板表面における分子膜の膜厚測 定、分子吸着のモニタリングおよび結合解析に用いることができる。糖鎖含有率の異なる(10%およ び100%)二種類の糖鎖高分子を、分子量を制御できる可逆的付加開裂連鎖移動重合によって合成し、
金基板に固定した。形成された糖鎖高分子ブラシの空気中および水中における膜状態について解析 を行い、さらにタンパク質との結合を解析した。合成した糖鎖高分子は金表面において、空気中で はパンケーキ状に薄く広がった構造を有し、水中ではマッシュルーム型に膨潤しているという結果 が得られた。また糖鎖含有率100%の糖鎖高分子は糖鎖含有率10%の糖鎖高分子に比べてタンパク質 に対して強い結合を示した。これは糖鎖が局所的に密集していることにより結合の解離が抑制され ているためであると示唆された。
次に、SPRイメージング(SPRI)手法によって様々な種類の糖鎖高分子に対するコレラ毒素の結合 サブユニット(Cholera Toxin B subunit: CTB)について網羅的に解析した結果について述べた。
SPRI手法は複数の金属表面における分子の吸着を一度に測定可能である。ここで用いた糖鎖高分子 は、複数の糖鎖で構成されるオリゴ糖を細かい糖鎖に分割し、それぞれを「糖鎖モジュール」とみ なし、高分子に組み込んで再構築するように合成された。具体的には、アルキン側鎖を持った高分 子にアジド基を有する糖鎖を導入するポスト−クリックケミストリーを用いて合成した。まず、一種 類の糖鎖ユニットを持つ糖鎖高分子のアレイに対するCTBの吸着をSPRI手法で測定した結果、ガラ クトースを持つ糖鎖高分子のみが相互作用を示した。次にCTBと特異的に結合するGM1オリゴ糖に 含まれる糖鎖から再構築した糖鎖高分子のアレイに対してCTBの吸着測定を行なったところ、ガラ クトースおよびノイラミン酸の両方を含む糖鎖高分子がより強い相互作用を示すことが明らかにな った。得られた結果より、糖鎖モジュール法に基づいた糖鎖高分子およびSPRIを用いた網羅解析シ ステムは糖鎖工学の発展に向けて有用であることが示唆された。
本研究により糖鎖高分子界面を用いた、界面の開発を行い、光学的センシング手法と組み合わせ ることで、バイオインターフェース、バイオマテリアルの有用性について示した。また、光学的手 法を駆使することで、新たな分子認識性材料の開発手法を示した。
〔作成要領〕
1.用紙はA4判上質紙を使用すること。
2.原則として,文字サイズ10.5ポイントとする。
3.左右2センチ,上下2.5センチ程度をあけ,ページ数は記入しないこと。
4.要旨は2,000字程度にまとめること。
(英文の場合は,2ページ以内にまとめること。)
5.図表・図式等は随意に使用のこと。
6.ワープロ浄書すること(手書きする場合は楷書体)。
この様式で提出された書類は,「九州大学博士学位論文内容の要旨及び審査結果の要旨」
の原稿として写真印刷するので,鮮明な原稿をクリップ止めで提出すること。