MJ,3:21‑38(2010) Received8thFebruary,2011
経営戦略論のフロンティア
‑ その現状と課題 ‑
Re s e a r c hFr ont i e r si nSt r a t e g i cMa na ge me ntFi e l d:
State‑of‑the‑ArtReview
要 旨
本稿 では、経営学のサフ分野 である 「経営戦略論 (StrateglC Management)」 に議論 を限定 し、経営戦略論 の新 しい研 究 領域 (フロンテ ィア) を展望 してい く。従来の経営戦略論 は 分析意図、分析条件、分析サイ ド、分析方法論、に偏 りがあっ た とい うのが、 まず本稿 で主張 したいことである。つ まり、
従来の経営戦略論 は、内容研究、安定的な環境条件 ・組織条 件、収益 と しての価値の獲得 (専有 ・配分)、方法論的個 人 主義、 とい う4つの側面 を (明示的 ・暗黙的に)重視 してき た。次に、以上の4つの研究上の偏 りを是正 するための経営 戦略論のあ り方 とはどのようなものであるかを示唆するため に、経営戦略論 を分析意図、分析条件、分析サイ ド、分析方 法論、 とい う4つの側面 か ら再考 してい く。本稿 では、次の ような4つの研究上の シフ トを意識 している。
1)戦略の内容研 究 か ら戦略のプロセス研究へ (分析意図の シフ ト)
2)限定的 な環境 ・組織条件 か ら包括的一般的 な環境 ・組織 条件 へ (分析条件の シフ ト)
3)価値の獲得 (供給サイ ド)か ら価値の創造 (需要サイ ド) へ (分析サイ ドの シフ ト)
4)方法論的個 人主義 か ら方法論的関係主義へ (分析方法論 の シフ ト)
以上 の4つの研 究上 の シフ トの必要性 を踏 まえて、経 営戦 略論 の領域 に見 られる新 しい研 究 プログラムの見本例 を幾 つ か紹介 する。 それは、 ダイナ ミック ・ケイパ ビ リテ ィの 戦略論 (DynamlCCapabIIlty)、 マーケテ イング論 を中,い こ 展開 されているサー ビス ・ドミナ ン ト・ロジック (Sen‖ce‑
DomlnantLoglC)、 そ して、実践 と しての戦略論 (S廿ategy aspract】ce)の3つである。
キーワー ド●戦略のプロセス研究、ダイナミック ・ケ イパビリティ
、S ‑
D ロジック、実践とし ての戦略、方法論的関係主義明治大学 小 林 ‑
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川Abstract
ThlSPaperalmstOSeektheresearchf「ontlerSlnSt「ateglC managementfleld T「adlt】OnalstrateglC management researchhasfouranalyticalpremlSeS FlrStOfall,Strategy contentresearch lSdomJnant.Second,envlrOnmental andorganlZatl0nalconditionsarelnaStablestate.Thlrd, va山ecapturefrom supplysldelSmorelmPOrtant.Flnally, methodologICaIEndlVlduallSm lSadopted. Asaresult, suchfouranalytlCalpremlSeSmasktheresearchfrontlerS Extantresearchprogram ofstrateglCmanagementmust be reconsldered lntermsOfi)analytlCalIntent,2) anaEytlCaEcondltIOnS,3)analytlCalslde,and4)analytlCal methodology.AproposefouranalytICalshlfts lnthe research.namely,shlfttostrategyprocess,shlfttogeneral condltl0nS,Shlfttova山ec「eatl0nfrom demandslde,and shlfttomethodologlCalrelatl0nallSm ToexpllCatenew researchareas,thlSPaperfocusesonthreeresearch programs (dynamlCCaPablllty,SerVICe‑dominantloglC andstrategyaspractlCe) Tosum up,Iproposea dynamlCP「OCeSSresearchthatlSbasedonmelhodologlCal relatlOna=smfrom supply‑demandsldes
KeyWords●strategyprocessresearch,dynamic capability,service‑dominantloglC, strategyaspractECe,methodologECal reEat10nalism
22 マネジメント ジャーナル(第3号)
経営戦略論に見られる
4つの分析上の 偏 り
分析意 図の偏 り ( 内容研究)
経営戦略論 とい う時、私たちが普通、念頭に 浮かべ るものは、戦略の内容研究 と呼ばれる分 野である。戦略の内容研究 とい うのは、「どの ような戦略が よい戦略であるのか ?
」
「よい戦 略 とは どの ような内容 の戦略の ことなのか ?」
とい う問いに答 えようとするものである。経営 戦略論 を活用 しようとしている実務家 は自社の 戦略策定にあたって、良い戦略 を立案 ・策定す るためのガイ ドライ ンを求めているのであるか ら、戦略の内容研究が経営戦略論で主流になっ たの も自然である。そのため、多 くの内容研究 は、 よい戦略 をスナ ップショッ トとい う静止画 として描 き出そ うとする。
現在、経営戦略論 の内容研 究 を代 表す るの は、ポジシ ョニ ングの見方 (活動 システムの見 方) と資源ベ ースの見方 の 2つ であ る。前者 は、Porterに代表 され る見方 であ り、 よい業 界の選び方、業界内での競争ポジシ ョンの選び 方、競争ポジションを実現する活動 システム(バ リューチェー ン、バ リューシステム、 ビジネス モデル)の設計の仕方等々を明示 し、競争優位 構築のために役 に立つ戦略の内容 を示 して見せ て きた。
後者 は、Barneyらに代表 される見方であ り、
競争優位の構築に役立つのは、外部か らは模倣 しに くい経営資源 にあると主張 し、企業が保有 ない しアクセス可能 な経営資源の特性 (属性) か ら、競争優位の実現 に役立つか どうか を判断
し、経営資源の束 (組合せ) としての ビジネス の仕組み (ビジネスモデル、事業 システム) を 設計する際の指針 を提示 しようとしている。資 源 を入手する要素市場の不完全性の判断、資源 の特性判断、様々な資源の束 (組合せ) として のビジネス ・モデル (事業 システム)の設計 ・ 運用 とい う、良い戦略の内容が資源ベースの見 方において示唆 されたのである。
ポジシ ョニ ングと資源ベースの2つの見方は しば しば、対立的な もの と捉 え られているが、
SWOT(企業 の強み と弱 み、 な らびに、環境 の機会 と脅威)の うち、ポジシ ョニ ングが OT の部分 を、 資源ベ ースが SWの部分 を担 うと い うことを考 えれば、どち らも内容研究であ り、
相互補完的な見方なのである。両者 にあえて違 いを兄いだす とすれば、ポジショニ ングを重視 す る とOT‑ SW とい う流 れの中で、主 に独 占的な利益の確保が 目指 されるのに対 して、資 源ベースを重視す ると、SW ‑ OTとい う流れ の中で、主にリカー ド的な超過利潤 (リカー ド 的 レン ト、準 レン ト)の獲得が 目指 されるとい
う点である. しか し、 どち らか一方だけを考慮 す るのでは、十分 な利益 (超過利潤)の実現は おぼつかないことは明 らかである。製品市場 (莱 罪)の競争ポジシ ョンか、資源 を入手する要素 市場の競争ポジシ ョンかの違いはあれ、 どち ら も、ポジシ ョンによる競争優位の実現 とその成 果 としての超過利潤の獲得 を問題 にしているわ
けである。
分析 条件 の偏 り ( 安 定 的環境 条件 ・組織 条件)
ポジシ ョニ ングの見方 も、資源ベースの見方 も、超過利潤の確保可能性 を判断す るための分 析手順 を定式化 してい る。前者で有名 なのは、
いわゆる5つの競争要因 (ファイブ ・フォーシ ズ)のモデルである。既存の競合企業間の競争 の激 しさとい う要因に加 えて、供給業者の交渉 力、買い手の交渉力、新規参入の脅威、代替品 の脅威 という4つの要因を加 えて分析すること で、ある業界か ら潜在 的に収益 (独 占的利益) が得 られるか どうかを判断 しようとする。 しか
し、 この手法は基本的に製品ライフサイクルの 進化 において成熟段階に位置 している業界の分 析 に有用 なものである。業界の境界がある程度、
安定 していない段階 (つ ま り、業界の構造が不 確定な段階)では業界の構造 をそ もそ も分析す るには不向 きである。 これはポジシ ョニ ングの 見方が有用性 を発揮す る環境条件 は安定的な も
の (均衡状態)に限定 されるということである。
資源ベ ースの見方で有名 な分析 手順 は超過 利潤 を生 み出す経営 資源特性 を判 断す るため の VRIN基準である。 これは、資源の価値性 (value)、 資源 の希 少性 (Rareness)、 資源 の 模倣困難性 (Inimitability)、資源の代替困難性 (Non‑substitutability)とい う4つ の基準 を充 たす経営資源を、企業 にとってコアな資源だと 判断す るものである。 この分析の出発点は、経 営資源に価値性があるか どうかを判断するとい うことである。当該資源が外部の機会 を捕捉 し、
脅威 を回避 させ るのに貢献するとすれば、その 資源は、超過利潤 を生み出す第1基準 (価値性) を充た していることになる。つ まり、資源ベー スの見方であっても、資源特性の分析 を行お う とす ると
、S
W の分析 の前 に、外部の環境分析 を必要 とするのである。 もしも、環境条件や組 織条件が常に流動 しているとすれば、資源特性 の価値性 をす ることは困難であるO環境条件が 安定 ・均衡 していることが、資源ベースの戦略 論で も必要な分析条件 になる。ポジショニ ングの見方 も、資源ベースの見方 も、その有効性 を発揮するためには、環境条件 や組織条件が安定 ・均衡 しているとい う分析上 の条件が不可欠である。静止画 としてのスナ ッ プシ ョッ トをとることを目的 とする内容研究に とって、環境条件や組織条件の安定性 ・定常性 とい う想定は好 ましい。被写体である企業の内 外が絶 えず変動 していjtば、スナ ップシ ョッ ト
はぼやけた ものにな りやすいか らである。
分析サイドの偏 り ( 供給サイドの価値獲得)
経営戦略論の基本 目的は競争優位の構築 を通 じて、超 過利潤 をで きるだけ長期 に獲得 す る ためのロジックを提示す ることにある。超過利 潤 とい う経済的価値 を生みだ し、その価値の分 け前 を可能な限 り多 く確保すること、 これが企 業 の成果 と して理解 され る。 これ は価値獲得 (valuecapture)の側面 を重視 していることに なる。価値の獲得は、論者によって、価値の専有、価値の配分、価値の実現、価値の分配などとも
いわれるが、創造 された超過利潤の うち、 自社 が どjtだけ取 り分 として確保 で きるかを意味 し て使 われていることには変わ りはない。それは 最終消費者にとっての顧客価値 (使用価値、効 用)の創造のことではない。経営戦略論で も価 値創 造 (valuecreation)とい う用語 を見 かけ ることもあるが、その多 くは経済的利益 を生み だす とい う脈絡で語 られてお り、次の段階であ る価値獲得 とのつなが りを意識 して使 われてい る。
資源ベースの見方で言 う経営資源の価値性 と い う表現 も、企業が獲得 しうる価値 (経済 レン ト) に照 らして判断されている。資源ベースの 見方は最終消費者の効用関数 (使用価値) を説 明 していないので、使用価値 (顧客便益) とい う意味での価値創造 (Valuecreation)の理論 を欠いているのである。 これはポジショニ ング の見方にも、同様 に当てはまる。ポジショニ ン グの見方では、顧客 に とっての価値 の問題 は、
製品の便益 を高めるのか、それ とも便益 を一定 としてで きる限 り低価格 で提供す るのか、 とい う競争 ポ ジシ ョンの選択 問題 (Porter的に言 えば、差別化 ない しコス トリーダー シップ) と して、部分的に語 られているが、顧客価値の創 造の説明までには立ち入 っていない。供給サイ ドである企業の競争ポジシ ョンの選択問題 とし て把握 されるだけである。
経営戦略論 はあ くまで も、製品 ・サービスを 供給す る側 の視点 (供給 サ イ ドの価値獲得 の 論理) を軸 に展 開されて きた。本来、価値創造 の議論は (経済的利益 としての)価値獲得の議 論 とつ ながってお り、2つ を切 り離す ことはで きないはず であ るが、残念 なが ら切 断 されて 語 られてい るのが現状 であ る (Makadokand Coif,2002:Priem ,2007)
.
分析方法論の偏 り ( 方法論的個人主義)
ポジショニ ングの見方 も、資源ベースの見方 も、伝統的経済学の思考 (ハーバー ド流の産業 組織論や シカゴ流の産業組織論等) を援用 して いる。ポジショニ ングの見方は、ハーバー ド流24 マネジメント ジャーナル(第3号)
の産業組織論の知見 を利用 して、「儲かる業界
」
の特性 を判断するものであ り、資源ベースの見 方は、企業 を生産関数 として捉 え、生産関数 を 効率化 させ、超過利潤 を生み出す資源 こそ、価 値性のある資源であると考 えている。 こうした 伝統的な経済学的思考に影響 を受けた戦略論は 必然的に経済学 と共通 した方法論的立場、すな わち、「方法論的個 人主義」の立場 を採用す る ことになる。
経営戦略論の多 くは、暗黙の うちに、企業 (辛 業体) 自体 を個人 と同様の合理的な意思決定主 体 (実体) として想定 している。良い内容の戦 略策定のためには、経済学的な合理的分析 手順 を通 じて競争優位 (そ して、その結果 としての 超過利潤 としての価値獲得) を実現す ることが 大切であると主張 されている。 このような方法 論的個人主義の立場では、企業 と個人は分析的 に同一視 され、企業 はあたか も個 人 と同様 に、
実体 として存在 していると考 えられている。方 法論的個人主義は 「実体主義
」
「要素還元主義」
であ り、研究 される要素 は固定的で安定的な性 質を有 してお り、その性質が説明の原理 として 用い られるのである。
これに対 して、マクロの全体構造によって ミ クロの行動の進化が規定 され、逆に ミクロの行 動 によってマクロの全体構造が変容するような マクロ ・ミクロ ・ループを説明 してい く場合 に は、方法論的個人主義ではな く (またその道の 方法論的全体主義で もだめで)、方法論的関係 主義が説明図式の基本 として ヨリ有用である。
相互作用が個人 と全体の構造の両方 を作 るので ある。
方法論的関係主義 に基づ くミクロ ・マ クロ ・ ループ とは どの ような ものであろうか。1つの ヒ ン トは、Giddens(1986)の考 え方 で あ る。
彼 は「構造化(structuration)」とい う用語 を使 っ て、構造 (全体) と行為 (個人)の間の相互作 用 を理論化 しようとしている。行為者 は、 自分 が全体 との関係で存在することをつねに意識 し なが ら、その意味で全体 を自分の中に取 り込ん
で、他者 との関係の中で 自己の行動 を決めてい こうとする。それは 「全体 の衣 を着た個人」な のである。構造化モデルに代表 される方法論的 関係主義の立場では、個人 も全体の構造 も説明 のための固定的な実在 としては認めず、行為者 間の関係や行為の相互連関に焦点 を合わせ るこ とになる。
戦略のプロセス研究へ
戦 略 の プ ロ セ ス 研 究 は 戦 略 の 内 容 研 究 と は 少 な く と も3つ の 点 で 異 な っ て い る (ChakravarthyandDoz,1992;Chakravarthy andWhite,2002)。 まず、戦略の内容研 究 は環 境 に対する企業の有効 な競争 ポジシ ョンや資源 ポジションに関心 を抱 き、望 ましい競争 と資源 のポジションが何か という内容 を示唆す るもの である。 しか し、戦略の内容研究は熟慮 した行 為 や試行錯誤 を通 じて、企業 がそ うしたポ ジ シ ョニ ングを実現 ・維持す るプロセス 自体 を記 述 してはい ない。戦略 の内容研 究 は白黒 のス トップモー シ ョンの写真 (スナ ップシ ョッ ト) である。 これに対 して、戦略のプロセス研究は 総天然色の映画 (モーシ ョンピクチ ャ)なので ある。
第2に、戦略の内容研究 とは違 って、戦略の プロセス研究は企業 とい うブラックボ ックスの 中身を説 き明か さなければな らない。そのため に、質問調査、 フィール ド調査、 アクシ ョン ・ リサーチなど、 よ り多様 な方法 を利用 しなけれ ばな らない。 さらに、戦略のプロセス研究 を駆 動す る疑問はクロス ・セ クシ ョン研 究 よ りも、
経時的な研究 (総天然色の映画) を通 じて解明 され うる。 クロス ・セクシ ョン研究が適切 にな るのは、対象 とする組織が環境 との間の定常的 な適応状態 に位置 している時だけである。
第3に、企業 と環境 との間のインターフェー スだけを扱 う戦略の内容研究 とは違 って、戦略 のプロセス研究は個人、集団、組織単位、企業 内、企業間の行動/行為 に見 られる相互作用 (行
為の相互連関) を扱 う。
VandeYen (1992)に よれば、戦略のプ ロ セス研究で言われるところの、プロセス とい う 用語が何 を意味するのかについては大別すると 3つの概念化がある。
(∋ 独立変数 と従属変数の間の因果関係 を説 明す るためのロジックとしてのプロセス 概念
(参 個人や組織が遂行する行為 ・行動 を意味 する概念や変数の範晴 としてのプロセス 概念
③ 事象 (イベ ン ト)が時間の経過 と共にど のように変化す るのかを記述 した一連の 事象の流れ (相互連関) としてのプロセ ス概念
これ ら3つの概念化の うち、最 も頻繁 に使わ れるプロセスの意味は、②であ り、プロセスは 個人や組織の行為 (行動) を意味す るもの とし て概念化 される。たとえば、 コミュニケーシ ョ ン頻度、作業 フロー、意思決定技法、戦略策定、
戟略実行、などの行為 ・行動概念がそれである。
これ らのプロセス としての行為概念は、組織の 環境、組織 の構造、組織の成果 など他 の諸概念 と結 びつけ られ、変数間の連関が分析 されてい く。 しか し、異 なる時点で測定 された変数に変 化が生 じたのか どうかを測定で きるだけであっ て、 どの ように変化が生 じたのかを測定するも のではない。 さらに、プロセスは、組織 メンバー の行動 もしくは組織の行動 として概念化 される のであ り、方法論的個人主義の立場が採用 され ている。
より限定 された③の意味でのプロセス概念で は、時間の経過 と共にどの ように事象や活動が 変化す るかを記述 しようとし、一連のイベ ン ト の流れが問題になる.(事に該当するプロセス概 念 を採用 した理論はイベ ン トが時間と共 にどの ように進展す るのか (how)、 また、 なぜその ように進展す るのか (why)を説明す るための ロジックを必要 とする。(彰の意味でのプロセス 研究では戦略の策定 と実行の区別は しば しば暖
昧化 し、分析単位 として行為の相互連関が中心 に位置す るようになる。
包括的一般 的な環境条件 ・ 組織条件へ
経営戦略論では、ダイナ ミクス とい う用語 は プロセス研究 を意味す るだけではな く、 もう1 つのダイナ ミクスが合意 されている。それは環 境や組織の不確実性 ・複雑性 ・暖昧性が高水準 であるという意味でのダイナ ミクスである。ハ イパー コンペ テ ィシ ョン (超競争)、 タ‑ ビュ ラン ト (撹乱的)環境、メガコンペティション、
高速度 (highvelocity)変化市場等々、 これ ら の用語が示 しているのは、企業 を取 り巻 く外部 環境が高水準で変動す るという意味でのダイナ ミクスであ り、そ うした環境 に直面 した組織が どのような内容の経営戦略 を、 どのようなプロ セスを経て、発展 してい くかを問題 とする経営 戦略研究があ りうる。
1つ注意すべ き点は、 この分析条件のダイナ ミクスを前提 とした経営戦略論 はプロセス研究 に該 当す るだけで はな く、 内容研 究で も必要 とされ、両研究にまたがった形で議論 されてい るということである。つ まり、 この意味でのダ イナ ミクスは、 プロセス研究だけではな く、内 容研究にも該当 しうるのである。 ダイナ ミック な環境条件 (撹乱的 ・変移的 ・超競争的 ・高速 度変化的)の中で、良い経営戦略の内容 とは何 か を議論す る ことも可 能であ り、 ダイナ ミッ クな戦略の内容研 究 も模索 されている (河合 , 2004)。環境 (OT)と組織 (SW)をフ レーム
にお さめて、鮮明なスナ ップシ ョッ ト (良い戟 略の内容) を撮 ろうとした時に、被写体の動 き が激 しく、また、撮影者の視力が近視で (認知 的な制約 をおびていて)遠 くがぼやけて見 える とすれば、ピンボケの写真 になる可能性が高い。
環境条件や組織条件が大 きく変動 し、予測困 難である とい う意味での ダイナ ミクスが経営 戦略の内容研究やプロセス研究で問題 になるの は、意思決定主体である企業や管理者が認知限
26 マネジメント・ジャーナル(第3号)
界 にさらされ、組織ルーティンに依拠 して行動 す る傾向が存在 しているか らである。環境条件 ・ 組織条件 を一般化 し、環境や組織の動態性 (撹 乱的、超競争的、高速度変化的、変移的) を加 味 した戦略論 の内容 に変容 させ ようとす ると、
意思決定主体の認知限界 を念頭に置 く必要が出 て くる。そ もそも意思決定主体に認知限界が無 ければ、環境条件や組織条件が どうであろうと 問題視 されることはない。意思決定主体 に認知 限界 を認めるということは、 カーネギー学派の 意思決定論 (制約 された実質合理性の前提)の 視点 を採用することにつながる。
カーネギー学派 の意思決定論の前提 は当然、
プロセス研究にも持ち込 まれて くる。特 に、前 述 した(参の意味での戦略のプロセス概念 を採用 す る場合には、環境の意味の解釈枠組みや組織 ルーティンの存在が企業内外の戟略策定者の行 動 を説明す るために有益 な含意をもた らして く れる。特 に、前述 した③ の意味での戦略のプロ セス概念 を採用する場合 には、環境の意味の解 釈枠組みや組織ルーティンの存在が企業内外の 戦略策定者の行動 を説明するために有益 な含意 をもた らして くれる。
もう1つ注 意すべ き点 は、外 部環境 の ダイ ナ ミクスだけを考慮するだけではな く、企業 自 体の組織条件のダイナ ミクス も同時に考慮 に入 れる必要があるとい うことである。 ここでい う 組織条件 とい うのは、組織の境界 を意味 してい るが、それは単純 に法的所有権 によって確定 さ れるものではな く、効率性、パ ワー、能力、 ア イデンティティ等の基準 によって確定 されると ころの組織の境界条件のことである。取引 コス トや生産 コス トの問題 は効率性基準 に、産業組 織論などの依存度はパ ワー基準 に、経営資源の 優位性 は能力基準 に、そ して、組織 (管理者)
の解釈 モー ドや認知枠組 み (パ ラダイム) の 問題 はアイデ ンテ ィテ ィ基準 に関連 してい る (SantosandEisenhardt,2005)
0
価値の獲得から価値の創造へ
経営戦略論が追い求めるのは (持続可能な) 競争優位の源泉であ り、それが実現す る優 れた 業界平均以上の収益 (経済的利益)である。当 然 の こ となが ら、経営戦略論 では製 品 ・サー ビスを提供する側 (サプライサイ ド、売 り手サ イ ド)の視点、経済的収益 の価値獲得 (value capture)の側面が基本 になっている。ポジショ ニ ングの見方 (産業組織論、参入障壁 ・移動障 壁 .基本戦略 による独 占的 レン ト)、資源ベー スの見方 (企業理論、VRIN基準 によるリカー ド型 レン ト)の特徴か らわかるように、経営戦 略論の基本 目的は収益 としての価値の獲得であ る。 しか し、当然のことであるが、価値獲得 は 消費者が商 品 に使用価値 を認めて、代価 を支 払って くれる場合 にのみ可能 となる。 この価値 創造 (valuecreation)のため には消費者が使 用 を通 じて得 られる便益 (使用価値、効用)に 対す る評価 を確立ない し増大 させ るような供給 側のイノベーシ ョンが必要 になる。商品の便益 (機能的価値や感性 的価値 な ど) を高めて、顧 客 に認め られる使用価値 を創造す ることが、商 品開発 上 の もっ とも基本 的 な課題 に他 な らな い。経営戟略論の分析サイ ドを需要サイ ドにシ フ トさせ るということは、 この価値創造のメカ ニズムについて、一層掘 り下げて考 えるという ことである。
一般 に、供給サイ ドの企業 は、商品の機能 ・ 性能を向上 させて差別化 を実現 し、顧客の 「支 払 い意志 額 (WillingnessToPay;WTP)」 を 高め よ うとす る。消費者 は商品の 中に組 み込 まれた価値 を購買時点で支払い意志額 (WTP) として主観的に評価 し、実際に支払 う価格 (P) との差 (いわば、顧客 に とっての正 味の価値 顔) を考慮 して購買の判断を行 うと考 えるので ある。顧客が支払 う価格 (P)は売 り手の収益
としての価値獲得 とつながって くる。
売 り手である企業は特定の機能 ・性能におい て、 よ り良い商品作 りを目指す。 このようなイ
ノベ‑シ ョンは性能イノベーションなどと呼ば れている (楠木 ・阿久津,2006)。性能イノベー シ ョンは、顧客 にとって も分か りやす く、性能 の高 さ (顧客価値の向上) を供給サイ ドが明確 に確定で きる。デジカメの画素数の増大 は誰が 見て も、性能の向上である。 しか し、性能イノ ベーションは大 きな限界 に突 き当たる。性能の 向上 を競い合 うと、やがて提供する商品の性能 が顧客の要求水準 を超 えて しまい、過剰性能が 発生する。 これがChistensen(1997)のい う「イ ノベーシ ョンのジレンマ」 と呼ばれる現象であ る。
いわゆる商品のコモディティ化 (商品の差別 性 が失 われ、価格 を基準 として顧客 が商品選 択 を行 う状況)は、過剰性能の発生 を契機 とし て始 まる。 このようなコモディテ ィ化 を回避す るためには、性能イノベーシ ョンだけでは力不 足 である。結果 として、可視的な性能や機能的 価値だけに依存 しないで、経験的価値や感性的 価値 を重視 したイノベーション (感性 イノベー シ ョン)、商品の特性 や属性 に依存 しないで、
使用上の文脈やライフスタイルを重視 したイノ ベーション (文脈イノベーション)、ブルーオー シャン戦略 (バ リューイノベーション)などに 注 目が集 まることになった (楠木,2006)。
ところが、感性や使用文脈のイノベーシ ョン となると、そ もそ も社会的に共有 された評価基 準が極めて唆味であ り、顧客の窓意的判断に左 右 される度合いが極めて高 くなる。 しか も、感 性 ・経験や文脈のイノベーションの成否 は顧客 自身が 「実際に消費 ・使用 してみないと判断で きないもの」にな りやすい。 こう考えると、企 業側が購買時点で正味の価値額 の提案 (WTP マイナスP) を行い、顧客側がそれをいったん 納得 して (とりあえず)購入 した として も、正 味の価値額の最終判 断はまだなされてお らず、
あ くまで暫定的なもので しかない。 この当た り 前 とも言 える事実に経営戦略論 は改めて対時 し なければならな くなったのである。
しか も、購買時点における支払い意志額や正
味の価値額の不確定性 は顧客 を能動的存在 (坐 活ス タイルの生産者) として理解す ると、 さら に複雑化す ることになる。購買時点で支払い意 志額 (WTP) に換算 された使用価値 は顧客 が 有す る生活のための資源 (所得 ・自由時間 ・知 識等)の適用方法によって、その後上下す る可 能性が出て くる。た とえば、パ ソコンを購入 し た として も、パ ソコンの使用価値 はそれを利用 する顧客の情報 リテラシーに大 きく左右 される だろう。顧客 は自分のパ ソコンに対す る知識 を 活用 して、パ ソコンとい う商品の使用価値 を自
ら作 り出 しているのである。
以上の点 を考慮す ると、多 くの経営戦略論で 扱われて きた価値創造の議論はあ くまで供給サ イ ドで生みだされた使用価値が消費者に (購買 時点で)提案 され、 (暫定的 に)受容 されると い うものであ り、ある意味で不徹底 であった。
新 しいイノベーシ ョンの必要性、生産活動に参 画す る能動的消費者の存在等 を念頭 に置 けば、
これは是正 される必要性がある。供給サイ ドを 軸 とした経営戦略論 に需要サイ ドの生身の消費 者の主体的活動 を取 り込むことが必要になって いるのである。
方法論 的関係主義へ
戦略 のプ ロセス研 究で は、企業 をブ ラ ック ボ ックス として扱 うのではな く、企業の中身を 明 らかにしようとす るが、それは企業の ミクロ 基礎 を探究 しているとも言 える。企業で展 開さ れる行為 ・行動 を概念化 し、それ らと外部環境、
組織構造 や成果 との連 関 を明 らかにす るのが プロセス研 究である。特 に、前述 したVande Ven (1992)の、 よ り限定 された意味での③ の
プロセス概念 に依拠す るな らば、企業で展 開さ れるイベ ン ト (事象)の動的な流れを記述す る 必要性が出て くる。
また、包括的で一般的な環境 ・組織条件 を想 定す るならば、組織 メ ンバーは、認知限界 ・合 理性の制約等 をおぴた 「生 きた人間 ・認知限界
28 マネジメント ジャーナル(第3号)
を抱 える存在 としての管理者」である。 しか も、
企業は種 々の経営資源 (人間を含 む)の集合体 であるか ら、企業では、様 々な相互作用 (必ず しも組織 内メンバー間のや り取 りにのみ限定 さ れず に組織 の境界 を越 えることもあ りうる し、
場合 によっては、人間としての行為者 に限定 さ れず物的対象 も含 まれる)が見 られる。イベ ン トの動的流れ としてプロセスを理解す るという
③のプロセス概念に依拠すれば、認知限界 を有 す る行為者の間の相互作用 (相互の行為連 関)
を分析単位 として考 えなければな らな くなる。
包括 的 な組織 /環境条件 (カーネギー学派 の意思決定論)を想定 した、③のプロセス概念 に依拠 して、動的なイベ ン トの流れ として経営 戟略論 を展 開 しようとす ると、2つの説明図式 が採用 されることが多い。2つ とは進化論的プ ロセス理論 と弁証法的プロセス理論である。 こ れ ら2つの説明図式に共通 しているのは、分析 単位 として相互作用 (interaction)を中心 に置 いていることである。(勤のプロセス概念、環境 /組織条件の包括的一般化、そ して、需要サイ ドの価値創造の視点の重視 とい う、3つのシフ トを取 り込んだ経営戦略論では、従来 とは異な る分析単位 (個人ではな く、相互作用の場)が 採用 されることがある。 この立場は方法論的関 係主義 (methodologicalre】ationalism)と呼 ば れている。
方法論的関係主義に基づ く動的な行為の相互 連 関 を どの ように分析 した らよいのであろ う か。方法論的関係主義に立脚 した戦略論の多 く は、相互連関を理解す る枠組み としての 「場な い しコミュニティ」の生成 に注 目している。伊 丹 (2005)によれば、場 とは 「人々がそこに参 加 し、意識 ・無意識の うちに相互 に観察 し、 コ
ミュニケーシ ョンを行い、相互に理解 し、相互 に働 きかけ合い、相互に心理的刺激 をす る、そ の状況の枠組みのことである (p.42)」。他 の論 者は、この枠組みを意味す るもの として、コミュ ニティ(Community)とい う用語 を当てている。
場や コミュニティというと静的な容れ物である
かのような印象 を与 えやすいが、そこに参加す るメ ンバー間の行為の相互連関によって、場 ・ コミュニティは絶 えず、構成 ・再構成 され続け てい く。
経営戦略論のフロンティア
経営戦略論 における4つの研究上のシフ トの 含意 をより具体的に理解す るために、3つの戦 略研究のプログラムを、 フロンティアの見本例 としてここで と りあげることに しようOその3 つ とは、 ダイナ ミック ・ケイパ ビリティの戦略 論 (DynamicCapability:DC)、マーケテイング 論 を中心 に展 開されているサービス ・ドミナ ン ト ロジック (Service‑DominantLogic:S‑Dロ ジック)、そ して、実践 としての戦略論(Strategy aspractice:SAP)である。
ダイナミック ・ケイパビリティの戦略論 戦略のダイナ ミック ・ケイパ ビリティ論 (以 下、DCと略) はTeeceetal.(1997)に よっ て最初 に提唱 された。彼 らによれば、DCにお けるダイナ ミックとい う用語 は、 ビジネス環境 の変化 との間で整合性 を実現するために、能力 を更新す るとい うことを意味 してお り、ケイパ ビリティとい う用語 は、変化する環境の要請に 応 えるべ く、組織の内外 に存在す るスキル、資 源、機能別能力 を適切 に適応、統合、再編す る 際の戦略管理者の中心的役割 を強調す るもので ある。DC研 究 を行 うに当たって重視すべ き点 として、彼 らはポジシ ョン(Position)のP(種 々 の資源 ・資産の保有状態)、パス (Path)のP(過 去の歴史的経緯であるパス依存 と将来の技術機 会 の方向性 を規定す るパ ス創造)、そ してプロ セス (Process)のP(組織 プロセス と管理 プ ロセス)、 とい う3つのPの存在 を指摘 してい る。
ポジションとパス依存 の2つ を考慮す ると言 うことは、いわば、 ビジネス環境の要因 (内部 環境 と外部環境) を考慮 し、企業 にとっての強 み と弱み、機会 と脅威 などを把握すべ きことを
含意 しているのであ り、伝統的な資源ベースの 見方 (戦略の内容研究) と大 きく異 なるもので はない。DC論の独 自性 は最後 の組織 と管理者 のプロセスに求め られる。プロセスの次元 こそ、
彼 らのDC概念の中心に位置 している。
彼 らが指摘する組織 プロセス とは、活動や技 術 を組 織 の 内外 で調整 ・統 合 (coordination/ integration)す ることであ り、管理プロセス と
はスキルの学習 (learning)と資産構造の再編 成 (recon丘guration/transformation)を実行す ることである。 より静的 ・安定的な次元 (パス 依存 と資産ポジション)に、パス創造や資源再 編 などの動的次元 (組織 プロセス、管理プロセ ス) を付 け加 え、戦略論 をよりダイナ ミックな ものに変 える。 これがTeeceetal.(1997)の 意図 したDCの戦略論であった。
これに対 して、 もう1つのDCの戦略論の流 れが存在 している。それは環境条件が不安定化 ・ 複雑化 ・暖昧化す るなかで、 どの ように、競 争優位 を構築 してい くのか とい う問題意識か ら 生 まれたものである。 この代表は、Eisenhardt andMartin(2000)に よる ものであ る。彼 ら に よれ ば、前述 のTeeceetal.の主張 は、DC をパス依存的過程か ら生 まれる複雑 なルーテ ィ ンとして特徴づけているが、 このルーティンが 妥当するのは、中程度にダイナ ミックな市場 に 限定 される。中程度にダイナ ミックな市場 とは 変化が頻繁 に発生するが、 ラフな形で予測可能 であ り、線形のパスをた どるような市場のこと である。
ところが、非常にダイナ ミックで、高速度に 変化する市場 を前提 とす るとき、変化 は非線形 であ り、かな り予測困難になる。中程度に動的 な市場 に比べて、高速度に変化す る市場では市 場の境界がぼやけ、成功するビジネスモデルが 不明確で、市場のプレイヤーが暖味で変動 して い る。EisenhardtandMartin(2000)は こ う した状況では、詳細 な分析的ルーテ ィンの有効 性 は低下 し、単純な経験的ルーティンが必要に
なると主張す る。
オ リジナルのTeeceeta
l
.(1997)のDC論 と対比 してみ る と、戦略 のプ ロセス研 究 とい う分析 意 図の シフ トとい うよ りも、管理者 の 認知 限界 を前提 とした環境条件 ・組織 条件 の 包括 的一般化 とい う分析 条件 の シフ トの方が Eisenhardtetal.の DC論で強 く主張 されてい る。 そのため、彼 らのDC論 は、事実上、戟 略のプロセス研究 とい うよりも、戦略の内容研 究に近い ものになっている。撹乱的で高速度に 変化するような環境条件の下では、詳細 な分析 的ルーテ ィンに依拠す るよ りも、単純 なルー ティン (シンプル ・ルール)に依拠す ることが、良い戦略の論理であると主張 しているか らであ る。
以上、2つの代表的なDCの戦略論 を取 り上 げたのは、ダイナ ミクス とい う表現 に対 して、
2つの意味が混在 していることを示すためであ る
。
1つ は、戦略の内容研 究 を補完す るプロセ ス研究の必要性 を意識 して、 ダイナ ミックとい う表現が使 われてい る。 もう1つ は、環境 条 件 ・組織条件の包括的一般化 (管理者の認知限 界の存在) を意識 して、 ダイナ ミックとい う表 現が使 われてい るのであ る (Schreyoeggand Kliesch‑Eberl,2007)0より本格的なプロセス研究 としてのDC論 は ZolloandWinter(2002)によって展 開されて いる。そ こでは、 日常の業務 を遂行す るための 組織ルーティン (オペ レーシ ョンのためのルー ティン) と組織行為 に大 きな変更 を生みだす よ うな高次の組織ルーテ ィン (イノベーシ ョンの ためのルーティン) とが区別 され、熟慮的学習 (deliberatelearning)を通 じた高次の探索ルー ティン (イノベーション ・ルーティン)の作動 をDCとして捉 えてい る。 また、分析 方法 と しては組織の中の個人 (特 に管理者)の熟慮的 な らびに非熟慮的な学習メカニズムに注 目し、
組織 内の知識進化 サ イクル を描 こ うと してい る。
この延長線上で、AdnerandHelfat(2003)は、
DCをダイナ ミックな管理者のケイパ ビリテ ィ
30 マネジメント ジャーナルく第3号)
(DynamicManagerialCapabihties:DMC) と して概念化 している。彼 らによれば、DMCと は 「管理者が組織の資源ベース (組織が選別的 に、所有、統制、アクセスで きるところの、可 視的な、不可視的な、人的な資産ならびにケイ パ ビリティの集合) を創造、拡張、修正す る力 量」のことを指 しているのである。
以上の要約的なDC論の レビューか らわかる ように、DCの戦略論の多 くは、方法論的個人 主義の色彩 を強 く帯びてお り、方法論的関係主 義に必ず しも立脚 しているわけではない。 しか し、少な くとも、戦略のプロセス研究‑のシフ ト、包括的で一般的な環境条件 ・組織条件への シフ トを志向 した戦略論の代表であるといえる だろう。特 に、ZolloandWinterによるDCの 戦略論は、 この論文で考 える経営戦略論のフロ ンテ ィア領域 に合致するものである (表‑1を 参照)0
表
1
経 営 戦 略 論 の フ ロ ン テ ィア:DC論、S‑ D
ロジック、SAP
の位置づけ分 析 意 図
分 析
条件
戦略の内容研究スナッ静的プショ/whットat 戦略のプロセス研究絵天然色の映画動的/how環境条件 ポジショニングの見方 TeeceらのDC論 粗放条件の 従来の資源ベースの見方 組織.管理プロセス 限定性と安定性 伝統的な4Pマーケテイング とパス創造
環境条件 組織条件の
包括的一般化 Eisenhal.dtらのDC論 ZolloらのDC論 組織ルーティンと 吸収能力論 管理者の認知限界 S‑Dロジック、文脈価値創造
サービス ・ドミナント・ロジック
供給サイ ドよりも需要サイ ドを重視 した新 し い戦略発想 は狭義の経営戦略論か らではな く、
マーケテイング論の領域か ら生 まれてきた。そ れが サービス ・ドミナ ン ト・ロジック (以下、
S‑Dロジック)である。 このS‑Dロジ ックは、
当初、VargoandLusch (2004)によって提案 された ものである。S‑Dロジックにおける分析 単位 は売 り手 と買い手 との間の相互作用 であ り、そのために (単数形の)サービス という独
特 な概念 を提示す る。 ここでい う (単数形の) サービス とは、我々が 日常的に耳にす るサー ビ ス業であるとかサービス商品であるといった用 語 とは明確 に意味の異 なる ものである。 (単数 形の)サー ビス とは、売 り手や買い手が 自分の スキルや知識 な どの能力 (S‑Dロジ ックでは、
これ らをオペ ラン ト資源 と呼んでいる) を他者 や 自分 自身の使用価値 (後述す るように、S‑D ロジックでは、それを特 に文脈価値 と名付 けて いる)のために適用す ることである。つ ま り、
使用価値 (文脈価値)の創造のために自己の能 力 (ケイパ ビリティ) を適用す る行為 を指 して (単数形の)サー ビス とい う固有 の概念 を使 っ ている。
S‑Dロジ ックの主張 の根 幹 をなす の は、10 個の基本前提 (foundationalpremises)である。
補足 的説明を加 えなが ら、以下に示 してみ よう。
( ヨ
サー ビスが交換の基本的基盤である。専 門的なスキルと知識の適用 (=これを単数 形のサー ビス と呼んでいる)が交換 される基本 対象であ り、社会 においてはサービスとサー ビ スが交換 されて いるのである。
②
有形の財貨 を通 じた間接的な交換 は交換 の基本的基盤 (サー ビス とサー ビスが交換 され ているとい う事実) を見 えな くす る。社会的分業、組織内の専 門化が進展すること で、顧客が本当に求めているのは、供給サイ ド が適用するスキルや知識であるとい う事実が覆 い隠されて しまっている。
(参 有形の財貨 はサー ビスを供給するための 伝達手段である。
知識や スキル を具現化 してい る有形 の財貨 は、サービス (知識 とスキルの適用)のパ フォー マ ンスをもた らすための道具に過 ぎないのであ る。
④
オペ ラン ト資源 (スキルや知識などの能 力) は競争優位 を実現す るための基本源泉であ る。S‑Dロジ ックでは、資源 を2種類 (オペ ラン ト資源 とオペ ラン ド資源) に分ける。オペ ラン
ド資源 とは、操作が施 される資源 (有形の商品、
機械設備、原材料、お金)のことであ り、オペ ラン ト資源 とはオペラン ド資源 に操作 を施すケ イパ ビリティ ・能力 (不可視の知識)のことで ある。
⑤
すべての経済は (単数形の)サー ビス経 済である。サー ビス経済 という表現はサー ビス経済化や 第3次産業な どを意味す るものではない。あ ら ゆる経済的交換がサービスの交換 なのである。
⑥
顧 客 は常 に価 値 の共創 者 (co‑creator) である。価値共創 は狭義の価値の共創 と共同生産の2 つに区分で きる。狭義の価値の共創 とは購買後 の消費 ・使用文脈のなかで、買い手である消費 者 もまた価値 を共創するということを意味 して いる。他方、共同生産 とは逆に供給サイ ドに顧 客 (消費者や流通業者)が参画 して、生産者 と 共に価値 を共創するとい うことである。
⑦ 企業 は文脈価値 を提供す るこ とはで き ず、文脈価値の提案 しかで きない。
企業の価値提案 とは交換価値 (設定 された支 払い価格)が使用価値 につながっているとい う ことを売 り手側が (事前 に)約束 した ものであ る。しか し、それはあ くまで も事前の約束であっ て、企業側が消費者の使用前 に、使用価値 (文 脆価値) を確定することはで きない。価値の最 終 的 な確 定 は消費者 ・顧客 の手 にゆだね られ
る。
⑧
サービス中心の考 え方は元来、顧客志向 であ り、関係的である。S‑Dロジックでは、顧客 と企業が常 に相互作 用的な価値創造 プロセスに関わっているのであ るか ら、あえて、顧客志向などとい う必要 はな い。当然、企業 と顧客 との密接 な関係 を前提 に
しなければな らない。
( 9
すべての社会的行為者 と経済的行為者は 資源の統合者である。社会的行為者 ・経済的行為者 とは供給サイ ド と需要サイ ドに存在する行為者全て (企業、パー
トナー企業、顧 客等) を意味 してお り、 それ ら行為者は複数の資源を組み合わせ る能力 を有 し、行為者同士が互いにネ ッ トワーク化 してい る。
⑲
価値 は受益者 (消費者) によって常に独 自に現象学的に判断される。使用価値 (文脈価値)の判断は、消費者が消 費 ・使用する文脈 (コンテクス ト)の中での知 覚 によって可能 となるものであ り、経験 として 解釈 されるものである。言い換 えれば、商品の 購 買時点で行 われ る使用価値 (WTP)の判 断 は一般に暫定的なものであ り、実際の消費文脈 に置かれて、その使用価値が判断 ・確定 される ことになる(VargoandLusch,2008)0
このS‑Dロジ ックは、理論 として提示 され た ものではな く、い まだモ ノの見方 (世界観) という萌芽段階にあ り、かな りラデ ィカルな主 張 だ と言 える。10個 の基本前提 も、決 して仮 説などというものではない。そのため、経営戟 略の理論 として扱 うことには異論があるか もし れない。 しか し、S‑Dロジックの見方 (世界観) は、需要サ イ ドの消費者の視点 を取 り込んだ戟 略研究 を考 える上で幾つかの示唆 を提供 して く れる。
基本前提の(彰は購買時点 を意味 してお り、 こ こで価格が支払われ、売 り手の価値獲得 (経済 的収益の実現)‑ とつなが る。 しか し、供給サ イ ドの企業が行 う価値提案は需要サイ ドの消費 者の立場か ら見れば、暫定的な (仮の)価値判 断にとどまることになる。使用価値 (文脈価値) の最終判断は消費者の実際の使用文脈 に照 らさ れなければ確定 されない。S‑Dロジックが重視 す る使用文脈 とは、消費者が使用す る際の 「そ の場のコンテクス ト」 を意味す ることになる。
また、基本前提の(釘が示唆す るように、消費 者が価値共創 に参画す るのは、購買時点以後だ けではな く、購買時点以前 ・購買途中にもあ り うる。 これが S‑Dロジ ックの考 えてい る共 同 生産である。 この共 同生産の事例 として、S‑D
ロジックでは、消費者がイケアの家具 を組み立
てること、ヘア ・スタイ リングをする時に消費 者が 自分のヘア ・ス タイルについてヘア ・アー テ ィス トに要望す るこ とな どをあげ てい る。
S‑Dロジックによる戦略の内容研 究への含意 と して しば しば指摘 されているのは、実は、供給 サイ ドの価値創造に消費者 (需要サイ ド)の行 為 をどのように取 り込むか という共同生産の事 例 なのである。
S‑Dロジ ックに依拠 した戦略研究では、供給 サイ ド、需要サイ ドを包含 した多様 な (時空間 の)相互作用 を対象に してい くことが大切 にな る。Luschetal.(2007)は、顧客 との価値共創 の優 れた仕組み として、ポルシェ社 によるポル シュクラブの運営事例 を取 り上げている。 自動 車 メーカーのポルシェ社 はマーケテイング部門 の一部 としてクラブ運営の専 門部署 を有 してお り、積極的に行為の相互連関を支援 ・育成 して いる。ポルシェクラブは各種の相互連関のプロ セスを可視化するための仕組み (場)である。
しか し、単純 に企業側が コミュニティ (行為 の相互連 関の場) を直接管理 ・統制 してい く
というようなことはで きない。 コミュニティは マーケテ ィング戦略の 4つの P の ような企業 によって統制可能な手段 にはな りえない。企業 側 はコミュニティの共同創設者 として参加 し、
コミュニティをにぎわせ る条件 を考 え出す こと で、 コ ミュニテ ィを育 て ようとす る支援者 と しての立場 にある (久保 田,2003;フォルニエ リー,2010)。以上の限界 を考 えると、筆者 は、
戦略の内容研 究 としてのS‑Dロジ ックの展 開 可能性 には懐疑的である。それよ りも文脈価値 (使用価値)が生み出 され るプロセスを統合 し た、ダイナ ミックな戟略のプロセス研究 として 深化 させ るべ きであると考 えている。
実践としての戦略論 (strategyaspractice;
SAP)
最後 に取 り上げ る新 しい経営戦略研 究の見 本 例 は、 実 践 と して の 戦 略 論 (Strategyas Practice:SAP)と呼 ばれ る もので あ る。SAP と は、 戦 略 の 問 題 を社 会 的 な 実 践 (social
practice)の1つ として、す なわち、戦略家 と 呼 ばれ る実践家 (practitioner)が どの ように 戦略の創作 (shaping)とい う仕事 に関わって いるのかを記述 しようとするものである。SAP では戦略が創作 されてい くプロセスの中で人々 (実践家達)が どの ような仕事 を しているのか を示す ため に、戦略化 (strategizing)とい う 用語 を使 う。SAPか ら見れば、従来の経営戟 略論の多 くは総 じて企業 とい うブラックボ ック スの内部に深 く立ち入 ってお らず、いずれ も不 十分 なのである。
分析対象であるプロセス としての戦略化 (戟 略 の創作 過程 ) を明 らか にす るため に、SAP では3つのPに注 目する (Jarzabkowski,2005; Whittington,2007)0
1)実践家 (practitioners)
SAPの第1の特徴 は広範 にわた る実践家 の 存在である。実践家の範囲は広 く、 トップマネ ジメ ン ト、 ミドルマネジメン ト、従業貞、 コン サルタン ト、会計士、投資家、規制当局、消費 者 など、多様 な主体が含 まれる。 この実践家 同 士のや り取 り (相互作用)が基本的な分析単位
となる。
2)実践慣習 (practices)
実践慣 習 とは戦略 の仕事 を遂行す るため に 人々が利用す るところのツール、人工物、組織 ルーティンなどのことである。実践慣習は広義 には3つの カテゴ リーに分 け られ る。第 1に、
戦略 を組織化、調整す るのに役立つ 「合理的な 管理手続 き」が存在す る。第2に、戦略につい て相互にや りとりするための、言語、認知、 シ ンボルを提供 している 「議論のための慣習」が 存在する。最後 に、戦略化の際に実践家間に相 互作用の機会 を生みだ し、相互作用 を組織化す るための慣習 (会合、 ワー クシ ョップ、旅行) が存在す る。要するに、実践慣習は実践 を創作 するための種 々の装置の ようなものである。
3)現場の 日常的実践行為 としてのプラクシ
ス
(praxis)SAPで最 も特徴 的 なの は、個 々の実践家が
事実上、遂行 している相互の実践行為 としての プ ラクシスの存在 に 目を向 けてい る こ とであ る。 プラクシス とは、現場で 日常的に、事実上 遂行 され る実践 (practices‑in‑use)の ことであ り、実践慣習 に基づいて、実践家が実際に携 わ る行為様式の ことである。
実 践 慣 習 とプ ラ ク シス の 区別 は Feldman andPentland (2003)に よ る 組 織 ル ー テ ィ
ン の 議 論 に 反 映 さ れ て い る。Feldmanand Pentland (2003)は、 ル ー テ ィ ンに は指 示 的
(ostensive)側 面 と遂 行 的 (performative)側 面の2つの側面が存在 している とす る。彼 らが 言 うルーテ ィンの指示的側面 とは、管理者が決 定 を下 した り、行為 に着手 した りす る際の実践 慣習 とで も言 うべ きものである。他方、実践慣 習 に駆動 されて、行為者が事実上ルーテ ィンを 現場で遂行す る中で、その指示的ルーティン(実 践慣習)の意味は適宜修正 されてい く。 これが ルーテ ィンの遂行的側面であ り、 こjtがプラク シスである。音楽の比倫 を使 えば、指示的側面 は楽譜であ り、遂行的側面 は実際の演奏である。
FeldmanandPentland (2003)に よれ ば、 組 織 ルーテ ィンの遂行的側面 は本来 「即興」 とし て理解す るのが適当である。
遂行的ルーテ ィン (プラクシス) はあ くまで も現場での他者 との相互作用 の中で遂行 されて い ることに注意が必要である。 プラクシスの範 噂 には非熟慮 的な安定的行動 (反復反応行動、
自動操縦) もあれば、熟慮的学習モー ドの作動 した非安定的な戦略行動 も含 まれている。通常 の経営戦略論では、一般 に熟慮 した上での戦略 策定、つ ま り、十分 な認知労力の投入 を当然視 している。 ところが、企業の管理者の 日常 は忙 しい。すべての事項 に対 して、認知労力 を投入 す ることはで きない。管理者 の仕事 の多 くは、
自動化 された反復反応 として遂行 されている。
FeldmanandPentland (2003)の 議 論 で は 指示 的ルーティン (実践慣習) と個 々の行為者 (実践家) による現場 の 日常 的実践行為 (遂行 的ルーテ ィン、 プラクシス) とを結 びつ けて、
その戦略化 のプロセス (指示 的ルーテ ィンと遂 行 的ルーテ ィンの間のズ レ‑ の対処 プロセス)
を記述 してい る。戦略イヒを分析 す るため には、
実践慣 習、実践家、そ してプラクシス とい う3 つの間の相互 関係 を明 らか にす る必要 がある。
結果 として、方法論的には、関係主義 とい うよ りも、特定の個人 としての実践家 に注 目す る傾 向が強い (図 1を参照)。
図
1
社会的実践 と しての戦略化を研究するた めの枠組みプラクシス PraxIS 社会的に実現 された 活動の フローであ り、
集団、組織、業界の方
・才と生存 に影響 を与 え る戦略バ ター ン
Pract】ces
ルーティン化 された行動のこ とであ り、認知、行動、手続 き、論証、動機づけ、身体活 動のための各種 資源が、実践 活動 を構成す るために組合わ され、調整、順応 される
実践家 PractltlOnerS
実践家のアイデ ンテ ィテ ィ、
社会的実践行為の遂行方法、
依拠す る実践慣習 を通 じて、
実践 を構築す る行為者
出典 :P,JarzabkoWSkl,∫.Balogun,D.Seidl(2007),
Strategizing:TheChellengesofaPractice
PerspectlVe,HumanRelat1‑ons,Vol.60(i),p.ll.
これに対 して、マ クロの制度的構造 (指示的 ルーテ ィン)とミクロの行為者の具体 的行為 (実 践家 によるプラクシス)の双方 をつ な ぐ中間 (メ ソ) レベルに別 の構成概念 (状況、場、 コンテ クス ト、 コミュニテ ィな ど) を設定 し、そj/いこ よって、マクロの構造 とミクロの行為 を連接 さ せ ようとす る試みが学習論の中か ら生 まれて き た。 そ 讃1が状 況 的学 習 観 (situatedlearning) であ り、その知見 を応用 した
S AP
の一領域が 実践 コ ミュニ テ ィ論 (communityofpractice; COP)と呼 ばれるものである。状況的学習観 は、学習 を 「社会的実践」の観 点か ら根本的に捉 えなおそ うとしている。 ここ での学習 とは、具体 的な現実の実践 (直接 ・間
34 マネジメント ジャーナル(第3号)
接の相互のや り取 り)‑の参加 を通 して、 さま ざまな社会的交渉を行いつつ、実践 を共有する プロセスのことであ り、ある 1つの実践に関与 す る人々のまとま りをCOPと呼んでいる。
COPで は、2つ の分析枠組 みが重要視 され て い る。1つ は正 統 的 周 辺 参 加 (legitimate peripheralparticipation;LPP)の モ デ ル で あ り、 も う1つ は 文 化 的 透 明 性 (cultural transparency)の モ デ ル で あ る。LPPとは、
参加者が どのようなプロセスで、COPに関わっ てい くのかを示すための分析 枠組みである。 こ のLPPの具体例 として、 しば しば取 り上げ ら れるのは徒弟制である。新参者が親方の正式の 承認の もとに、弟子入 りし、親方の一挙手一投 足 を周辺か ら観察 (正統的周辺参加) し、その 実践行為 を徐 々に身 につ け (参加 としての学 習)、やがて、一人前 (コミュニテ ィ内のポジ シ ョン) として認 め られてい く。 こうした状 況的学習のプロセスが LPPである。 コミュニ ティ‑の正統的周辺参加か ら出発 し、徐 々に参 加 の度合 い を高め、つ い には、一人前 として フルにコ ミュニテ ィに参加 (十全 的参加 ;full participation)するに至 る。ただ し、LPPの よ
うなパ ター ンが常に現出す るとい うわけではな く、個 々人の参加 の軌道 (trajectory) は参加 者によって様 々に異 なって くる。
一方、文化 的透 明性 とは、COPの具体 的 な 活動の意味や、 コミュニティとしてその活動 を 目指す ことの意味が、実感 として理解 されて く ることを指 している。商品やマニュアルなどの 人工物の意味は、それが存在 して、文化的コン テクス トの中においてのみ明 らかになる。 この 主張の要点 を例示す るために、Wenger(1991) は、次のような事例 (アフリカのブッシュマ ン 達 にとってのコカコーラの瓶) を取 り上げてい る。
我々にとってコカ ・コーラの瓶はコーラ飲料 の容器であ り、 コカ .コーラ社のイメージ、 こ の飲 み物の属性 と結 びついている。 ところが、
飛行機か らたまたま落ちてきたコカ ・コーラの
瓶 は、 アフリカのブッシュマ ン達 にとって崇拝 の対象 とされて しまった。なぜ な ら、彼 らブッ シュマ ンにとって人工物 (瓶)の意味が文化的 に不透明だったか らである。 コカ ・コーラの瓶 が、別の文化の下に置かれると、 この瓶 とい う 人工物はその文化的意味を失って しまう。 もち ろん、 この事例 は極端 なものである。ただ、 こ の種の事態は 日常的にもよく見 られる。新 しい マニュアル文書の求める手続 きの意味を理解で きず に訳 もわか らず (文化 的に不透明なまま) 従 う組織 メ ンバーの例 などがそれである。
以上 のCOPは特段、 戦 略論 と して構 想 さ れた もので はない。で は、COPの議論 は経営 戦 略論 に どう応 用 され て い るので あ ろ うか。
Wengeretal.(2002)ではそれを知識戦略 (ナ レッジ ・マネジメン ト)の領域の議論 に拡張 し てい る。COPはこの知識戦略の有効性 を左右 す るもの として捉 えられている。知識 とい う不 可視的な資源はコミュニティに組み込 まれてお り、COPに参加 (関与)す るこ とで、知識 は 組織 メンバーに体化 されてい く。
状況的学習観 に依拠 したCOPの もつ戦略的 価値 につ いて は、硬直化 した組織文化 に対す
る解毒剤 として役立つ とい う点が Brownand Duguid (1991)で指摘 されている。す なわち、
組織 内部のCOPが組織 の支配的な世界観 (組 織全体 の文化) か らの適度 な 自律性 と独 立性 (cop独 自の対抗的な下位文化) をもっている とすれば、大規模組織で もイノベーシ ョンが加 速化 される可能性があると主張 される。彼 らに よれば、COPの中心 的 なベ ネフ ィッ トの1つ はそれが大規模組織の硬直化現象 を回避 させ る とい うことである。そこか ら、組織変革のため にCOPを積極 的かつ体系 的に育成 しなければ な らない という規範的ア ドバイスが引 き出され て くる。
しか し、上野 ・ソーヤー (2009)に指摘 され ているように、 オ リジナルの議論か らすれば、
COPは、良い戦略の内容 を規範 的に示す もの で はない。本 来、知識戦略 に関す るソ リュ‑