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リスクコミュニケーションと武谷光男

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リスクコミュニケーションと武谷光男

著者 藤田 貢崇, 三部 雄太, 後藤 潤乃介, 渡邉 貴徳,  山中 由美子, 藤田 良治

出版者 法政大学多摩研究報告編集委員会

雑誌名 法政大学多摩研究報告

巻 34

ページ 33‑39

発行年 2019‑10‑30

URL http://doi.org/10.15002/00022524

(2)

1. はじめに

科学コミュニケーションの担い手である研究者や 科学コミュニケーターが行う活動の内容は、その時 代の社会的な要請を受けて変化する。日本における 科学技術基本計画の中で、そのような活動はどのよ うに変わってきたかを概観し、物理学者 武谷三男が 行っていた、市民に向けた科学啓発活動とリスクコ ミュニケーションについて述べる。また、現代のリ スクコミュニケーションを含む科学コミュニケーシ ョンの担い手として、科学を専門としない人々を登 用することの意義についても検討する。

2. 科学コミュニケーション活動について

(1)科学コミュニケーションの意義

かつての科学コミュニケーションは、経済的成長 のためには有能な専門家を育てることが必要である 一方で、人々の科学に対する理解不足が危惧された ため、研究者が行う啓発活動とされていた。経済的 に急成長する時代が過ぎると、多くの技術革新が受 容され、技術のもたらすリスクが客観的に評価され る上で、人々の理解が必須であると考えられたため に行われる活動へと質的に変化した。現代では、市 民は、研究者および行政府のパートナーであり、人

間社会が科学と技術をどう利用するかを議論し決め て い く 過 程 に 関 わ る 活 動 と し て 認 識 さ れ て い る

(Norton 2011)。

具体的に示すと、現代の科学研究によって得られ た成果については、科学コミュニケーションによっ て広く社会との対話が求められている。たとえば、公 的な研究資金によって行われた大型科学研究に対し ては、科学コミュニケーションが必須とされている ほか、近年さかんになったクラウドファンディング による資金調達においても、なぜその資金が必要な のか、また研究成果がどのように社会に還元され、今 後の研究方針はどのようなことを目指すのか、など の出資者に理解されるための説明が求められる。ま た、その科学技術はどのような恩恵を市民にもたら すのか、あるいはどのようなリスクが生じるのかを 理解する「リスクコミュニケーション」の考え方も、

科学コミュニケーションには必要な要素である。

科学研究の成果を広く社会に還元し、ステークホ ルダーである出資者や納税者と知識を共有すること は、税金等を原資とする公的資金で実施される研究 活動には必要である。また、科学の進む方向を市民 との対話によって探ることも必要ではあるが、いく つか問題も抱えている。科学者が市民を前に研究内 容を話しても、専門的な用語を用いて解説したため に、参加者の理解が進まなかったり、科学者の話を

リスクコミュニケーションと武谷光男

藤田貢崇

1)

・三部雄太

1)

・後藤潤乃介

1)

・渡邉貴徳

1)

・山中由美子

2)

・藤田良治

3)

Risk Communication for Nuclear Power by Mitsuo Taketani

Mitsutaka FUJITA, Yuta SAMBE, Junnosuke GOTO, Takanori WATANABE, Yumiko YAMANAKA and Yoshiharu FUJITA

1)法政大学経済学部 2)法政大学

3)愛知淑徳大学 創造表現学部

(3)

藤田貢崇・三部雄太・後藤潤乃介・渡邉貴徳・山中由美子・藤田良治 34

聞き、質疑応答は行っても市民の研究に対する意見 を集約できなかったりすることがある。このような 点を改善するため、「科学コミュニケーター」と呼ば れる人材を活用し、科学者と市民の間を取り持ちな がら、双方向の対話を有効に進めることが行われて いる。

日本での科学コミュニケーターの育成は 2005 年前 後から本格的に行われるようになり、現在は大学な どの高等教育機関以外にも国立科学博物館や日本科 学未来館などの規模の大きな博物館や科学館のみで なく、福島県や静岡県などの地方公共団体が設置す る科学館、あるいは日本科学技術ジャーナリスト会 議など、さまざまな機関がそのような人材を育成し ている。これらの取り組みが盛んに行われるように なってきてはいるが、より多くの市民が参加する科 学コミュニケーション活動が行われている状態では なく、科学者と市民の間の距離は遠いというのが実 態である(文部科学省 2015)。

(2)科学技術政策における科学コミュニケーション活動 日本政府による近年の科学技術に関する推進計画 は、1995 年に制定された「科学技術基本法」をもとに、

5 年ごとに策定される「科学技術基本計画」に基づい て重点領域が定められ、研究費配分などに影響して いる。

第 1 期となった 1996 年から 2000 年の科学技術基 本計画には、科学者が「科学技術の振興に関する国 民的合意がより広く、また深く醸成されるよう、国 民に対する情報の提供、社会における論議の促進等 に一層努めるなど、国民の理解の増進と関心の喚起 のための施策を講ずる」ことが示されている。また、

研究者の望ましい活動として、「社会に対して分かり やすい情報発信を行うことが重要である」と述べて いる。この段階では、社会との対話というよりは、市 民に対する科学研究に関する啓発活動を推進すると いう方針である。第 1 期を含む、科学技術基本計画 の科学コミュニケーションの関係する項目を表 1 に 示す(内閣府資料「科学技術基本計画の概要」より)。

表1 科学技術基本計画に示された科学コミュニケーションへの取り組み

期(期間) 具体的な施策

1(1996 ~ 2000)

科学技術に関する学習を振興、幅広い国民的合意を形成

・探求活動・実践活動を重視した理科教育・技術教育の充実、青少年を対象とした各種体験 事業など普及啓発活動の強化

・科学技術の振興に関する国民的合意の形成

2(2001 ~ 2005)

科学技術政策の総合性と戦略性

・科学技術の両面性を踏まえて、「社会のための、社会の中の科学技術」という認識の下、

科学技術と社会とのコミュニケーションを確立 科学技術と社会の新しい関係の構築

・科学技術と社会との双方向のコミュニケーションを図るための条件を整備

・研究者、技術者、ジャーナリストに加えて、人文・社会科学の専門家も、双方向のコミュ ニケーションを図るため、重要な役割を担う

3(2006 ~ 2010)

社会・国民に支持される科学技術

・科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組

・科学技術に関する説明責任と情報発信の強化

・科学技術に関する国民意識の醸成

・国民の科学技術への主体的参加の促進 4(2011 ~ 2015)

「社会及び公共のための政策」の実現に向け、国民の理解と支持と信頼を得るための取組を 展開

・国民の視点に基づく科学技術イノベーション政策の推進

・科学技術コミュニケーション活動の推進 5(2016 ~ 2020)

科学技術イノベーションの推進に当たり、社会の多様なステークホルダーとの対話と協働へ の取り組み

・様々なステークホルダーの「共創」を推進

・政策形成への科学的助言、倫理的・法制度的・社会的取組への対応などを実施

(4)

特に第 2 期からは、科学技術と社会との関わりに ついての取り組みが「コミュニケーション」の語を 用いて具体的に示されていくほか、計画が進行する とともに、科学技術が国民に支持されるための取り 組みを推進していくことが明文化されている。

(3)日本における科学コミュニケーション活動 科学技術政策における科学コミュニケーションへ の取り組みは、1995 年の科学技術基本法に「国は、

青少年をはじめ広く国民があらゆる機会を通じて科 学技術に対する理解と関心を深めることができるよ う、学校教育及び社会教育における科学技術に関す る学習の振興並びに科学技術に関する啓発及び知識 の普及に必要な施策を講ずるものとする。」(法第 19 条)に示されたことから、積極的に推進されてきた ものと考えられるが、それ以前にも個々の研究者や 学術団体等がさまざまな取り組みによって科学コミ ュニケーション活動を行っていた。ただし研究者と 社会との対話、あるいは市民の科学技術に対する意 見の醸成を目指した活動という、現在でいう科学コ ミュニケーションの概念は新しいものであり、2000 年以前は「啓発活動」と呼ばれるものがほとんどで あったと考えるのが適切である。もちろん現在も研 究者など専門家による科学関連書籍の出版や、新聞 での解説記事など、啓発活動はさまざまな方法で行 われている。

このような状況の中で、日本でリスクコミュニケ ーション1)について多様なメディアが真剣に取り上 げるようになったのは、2011 年の東日本大震災によ る東京電力福島第一原子力発電所の事故が契機であ るという研究があり(標葉ら 2018)、近年の科学コミ ュニケーションにはリスクコミュニケーションの観 点からの市民との議論が重視されている。

3. 武谷三男と科学コミュニケーション活動

現在、著者らが進めている武谷三男の各種資料の データベース化で、武谷が多くの物理学分野、特に 原子力に関する啓発記事を執筆していたことはかつ て筆者らの報告(藤田ら 2018)で触れた。武谷がど のような市民向け雑誌に記事を執筆していたかの詳

細な記録はこれまで取りまとめられておらず、また 著者らが行っているデータベース収録のための電子 化もすべてを終えているためではないため、現時点 ですべてをリスト化できるわけではない。武谷の時 代のメディアは主として新聞や雑誌であり、多くの 雑誌が刊行されていた時代であったが、現在電子化 されたもののうち、明らかに市民向けの執筆記事や 座談会企画となった記事を、雑誌・新聞名と発行年 月日とともに表 2 に示す。

物理学者としてだけでなく、思想家あるいはジャ ーナリストとしての活動の場をもっていたため、非 常に幅広い掲載雑誌が示されているが、核物理学に 関する記事の執筆を精力的に行っていたことがわか る。また、この時代は雑誌編集の方法として、対談 あるいは鼎談による記録記事が多く発行されていた ことから、必然的に武谷の記事が多くなるという事 実はあるものの、科学を専門としない人々へ向けた 著作が多い。

武谷は反原子力を訴えた活動家であることは知ら れており、掲載されている記事のうち原子力に関す る内容は「原子力発電所の潜在的危険性」やリスク コミュニケーション論そのものである「被曝放射線 量に関する『がまん量』の考え方(ある科学技術を 利用することによって、社会的な利益があるならば、

マイナスとプラスを天びんにかけて、“ある量までの マイナス分は我慢してもいいのじゃないか” という 量)」などを述べたもので、感情的に反対という記述 ではなく、それらを説明する手段は武谷が唱えた「三 段階論」が基本になっており、理路整然と記述され ている。

4. 考察と今後の展望

(1)リスクコミュニケーションの必要性の高まり 武谷が科学と市民の関わりについて、どのように 考えていたのかは、『科学入門』(武谷 1964)にその 一部を見ることができ、「進んだ科学の利用は、反作 用として他方において危険をもたらします。その危 険そのものまで科学的に検討してはじめて真の科学 の利用といえ」ると述べている。これは一例をあげ れば、放射線被曝に関する「がまん量」として説明

(5)

藤田貢崇・三部雄太・後藤潤乃介・渡邉貴徳・山中由美子・藤田良治 36

表 2 武谷三男の著作等のうち、現時点でデータベースに収録した科学コミュニーション活動

資料名 雑誌名・新聞名 発行(年 / 月 / 日)

日本民主主義革命と技術者 技術 1946/03

ガリレイの動力学に就いて(II) 科学 1946/04

技術的局面に関する第一報告 潮流 1946/05/07

現代物理学と認識論 自然科学 1946/07/01

原子力のABC 農業技術 1948/01/01

自然科学と近代精神 大学 1948/04/01

熱核反応利用の基礎 科学 1948/11/24

教育民主化をはばむもの 教育 1949/03/01

言論の暴力 思索 1949/07/01

新聞の欺瞞性について 思索 1949/10/01

二十世紀科学の現在と将来 世界評論 1950/01/01

戦争と平和 新女苑 1950/07/01

原子力時代 女性改造 1951/02/01

原爆のおしえ 婦人画報 1951/08

復活の時代 改造 1951/11/01

原爆の被害(1) 汎交通 1951/12/25

チンパンジー的精神 小説朝日 1952/08/15

原子力の工業的利用を語る 週刊東洋経済新報 1952/10

日本原子力研究の方向 改造 1952/11/15

喜劇と映画音楽 映画評論 1953/02/25

素粒子論の進む道 科学 1953/10/01

国際理論物理学会議のこと 図書 1953/10/05

水爆下の日本 週刊朝日 1954/03/28

原子力の平和的利用と世界 改造 1954/04/01

日本本土も “死の灰” に埋れる 水爆攻撃と日本の防衛策 1954/04/25

「死の灰」の編集を終って 図書 1954/08/05

外国要塞の番人・自衛隊 改造 1954/09/01

非科学の科学 改造 1955/01/01

アインシュタイン博士と原子力学の形成 科学 1955/06/01 ヒモつき原子力に警告する エコノミスト別冊 1955/06/10

原子力とはどういうものか 婦人朝日 1955/08

濃縮ウランの受入をめぐって 法律時報 1955/08/01

日本における原子力問題 中央公論 1955/12/01

物理学の理論と方法 法律時報 1956/05/01

“阿呆らしい” ではすまされぬ 週刊東京 1956/05/26

原水爆時代と原子力時代 開拓者 1956/08/01

ストロンチウム 90 子どものしあわせ 1957/06/01

原子力物語 日本歯科医師会雑誌 1957/09

小国としてのほこりを 地上 1957/12

本人紹介記事 週刊新潮 1957/12/09

立身・出世 子どものしあわせ 1958/01/01

サイエンスと古典 図書 1958/03/10

原子力と科学者 サンデー毎日 1958/03/30

産業災害をどうとらえるか 金属 1959/12/01

原子核研究将来計画 原子核特別委員会 1961/07

(6)

資料名 雑誌名・新聞名 発行(年 / 月 / 日)

科学予算は科学者にまかせ エコノミスト 1963/07/30 科学の自主的発展のために 科学 34 巻 1 号 1964/01

実践的迫力をもつ エコノミスト 1964/03/31

産業災害をどうとらえるか 金属 1964/04/15

専門家根性と職能意識 金属 1964/07/01

日本の科学技術者 金属 Metals 1964/08/15

“安全” というものの考え方 金属 1964/10/01

スケジュールと科学 金属 1964/11/01

近代化のしわよせ 日本 1965/02

素粒子の内部構造を求めて 科学朝日 1965/03/01

科学とヒューマニズム 展望 1965/05/01

社会主義世界像の成立 現代の眼 1966/03/01

組織と方法論こそ中心である metals 金属 1966/04/01

安全性の哲学 科学 1966/10/01

続・映像文化と知識階級 映像文化 1967/07/31

原子力平和利用が殻を破る時 現代政治 1968/12/01

〈日本人は‥‥‥〉論への批判 月刊百科 1970/03/20 科学技術と人間社会 マネジメントガイド 1970/08/01

原水爆こそ公害の原点 大自然 1971/08/01

科学と文章 国語の教育 1971/10/01

不安の現代 マネジメントガイド 1972/01

素粒子論と哲学 科学と思想 1972/07

不可解なアセスメントの流行 青と緑 1972/12/22

原発・安全性・平和利用 流動 1974/01

「むつ」で曝け出された無知とズサンさ 国際経済 1974/11/15

「人間のための科学技術の可能性」 月刊チャペル・アワー 1975/07/01 事故調査の徹底こそ安全性の要 労働安全衛生広報 1976/03/15

人権と特権 現代 1977/01/01

原発推進論の落とし穴 公明 1977/07/01

社会主義の論理 技術と人間 1978/02/01

科学・技術・人間-今後の 10 年(上) えんじにあ 1978/04/01 科学・技術・人間-今後の 10 年(下) えんじにあ 1978/05/01

「安楽死法制化」は人権の危機 群馬保険医新聞 1979/02/15

原子力発電所問題について 日曜クラブ 1979/06

エネルギー危機について ハッピーエンド通信 1979/09

エネルギー革命論の虚妄 日本自身 1979/12/05

戦争とジャーナリズム 現代の眼 1981/09/01

反核問答 現代と展望 1982/09

原発Q&A 蒼 1982/11/25

批判の視点について 技術と人間 1983/08/10

技術発展の現段階 技術と人間 1983/09/10

武谷三男氏にきく・原発事故と現状の巨大技術 社会主義 1986/12/01

原子力概論 原子力に関する諸問題 1995/11/14

あなたの生命はあと 10 年 週刊東京 調査中

原発事故と現代の巨大技術 社会主義 調査中

※ 発行年月日は、発行物に記載されたものを記した。日が特定できないものは年月を示し、調査中のものを含めている。

(7)

藤田貢崇・三部雄太・後藤潤乃介・渡邉貴徳・山中由美子・藤田良治 38

したリスクコミュニケーションの基本的な考え方で あり、すべてにおいて利点となる科学技術は存在せ ず、リスクを検討して社会に導入すべきであるとい う考え方を示している。リスクコミュニケーション の重要性を説いたものと考えられるが、科学技術基 本計画にリスクコミュニケーションについて明記さ れたのは第 4 期からのことであり、「科学技術コミュ ニケーション活動の推進」の項に以下のように示さ れている。

・  国は、大学や公的研究機関等と連携して、科学 技術の現状、可能性とその条件、潜在的リスク とコスト等について、正確な情報を迅速かつ十 分に、国民に提供していくよう努める。また、国 は、海外の事例を参考にしつつ、国民との間で、

こうした問題に関する多層的かつ双方向のリス クコミュニケーション活動を促進する。

科学コミュニケーター育成の取り組みが示されたの は第 3 期からであり、当初はリスクコミュニケーシ ョンについて科学コミュニケーターの取り組みとし て重視されていたわけではない。文部科学省の審議 会である科学技術社会連携委員会の取りまとめた「今 後の科学コミュニケーションのあり方について」

(2019 年 2 月 8 日)では、「科学技術が社会実装され、

科学技術により新たに価値が創造され、社会が変容し ていく過程においては、その科学技術を社会がどう 受け入れるかが重要」であり、さらに「科学技術に よるものに限らず、社会の変容そのものが社会の構 成員にとって明暗両面を持っている以上、各構成員 がその明暗について理解を共有し、どのような社会 が望ましいかを対話し、協働すること がますます重 要になる」と述べ、今後の科学コミュニケーターに はリスクコミュニケーションへの理解が期待されて いる。

現代の科学コミュニケーションの育成課程では、科 学をわかりやすく解説することのほか、市民が科学 について何を考えているかを研究者に伝えることが 科学コミュニケーターに求められていることから、

・ コミュニケーション能力を高めること

・ コーディネーション能力を高めること

などに主眼が置かれており、実践的で工夫を凝らさ れた養成プログラムが各機関で実施されているが、リ

スクコミュニケーションを特別に重視したプログラ ムではない。現時点では、文部科学省の「リスクコ ミュニケーションのモデル形成事業」で人材育成な どの取り組みが行われているところである。

(2)リスクコミュニケーションの担い手

これらのリスクコミュニケーションの考え方は、科 学コミュニケーションの面では新規的な取り組みで あっても、すでに行動経済学や金融理論の分野では ごく一般的で(関沢 2012)、経済学部の学生にとって は比較的慣れ親しんだ概念である。武谷三男に関す る資料のデータベース化を進め、内容をしっかり理 解した上で、関連する科学技術を広く市民と議論す る際の担い手として、本学経済学部に所属する学生 を登用できないかを検討し、次年度からゼミナール の教育課程で、リスクコミュニケーションの方法論 を実践する予定である。

この実践的な教育課程においては、教材として映 像の活用が不可欠であると考える。的確な議論を引 き出すことができるように、科学技術の進展に伴っ て市民が抱く感情をインタビュー形式で映像によっ て取りまとめ、ゼミナール構成員以外の多くの価値 観を理解し、またどのような議論を引き出すことが できるかを検討する素材として活用したいと考えて いる。特にリスクコミュニケーションに関しては、前 出の「今後の科学コミュニケーションのあり方」に も示されているように、「社会課題の解決過程や社会 が科学技術をどう受け入れるかの合意においては、

『痛み』を伴う(中略)意思決定のプロセスも存在」

するため、市民がどの程度の認識で科学技術を受け 入れようとしているかは、アンケートなどの文章で は分かりにくく、表情などを読み解くことからその 程度を認識することが重要であると考える。

また、科学コミュニケーションの担い手として、必 ずしも科学を専門としない人々が担うことにも、一 定の成果があると考える。具体的な事例を示せば、新 聞記者のうち科学記事を担当する人々は、必ずしも 科学の専門教育を受けた人材ではなく、情報を文章 で的確に伝えることができる能力によって業務に当 たっている。経済学部所属の学生が行う科学コミュ ニケーションの場合、「どのような点が市民にとって

(8)

理解しにくいか」などを的確に把握できる可能性が あり、有用な人材を育成できる可能性があるのでは ないかと考える。

1)「災害や環境問題、原子力施設などから人類や生 態系が受ける影響・リスクをめぐり、企業、専門家、

行政、消費者、地域住民などの間で行われる情報 伝達。正確な情報を共有し、安全対策や許容でき るリスクについて相互の意思疎通、共通認識の構

築、合意形成を図ることが期待される。」(大辞林 第 3 版 三省堂)

参考文献

Michel Norton, 専門日本語教育研究, 13, 3, 2011

標葉 隆馬・田中 幹人, 保健医療科学, 67, 103, 2018 関沢 洋一・桑原 進, 行動経済学, 5, 118, 2012

藤田貢崇・三部 雄太・藤田 良治, 法政大学多摩研究 報告 2018

文部科学省,『科学技術白書』 2015 

参照

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