神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第8号 2004年3月 13
グローバル化による多様性促進メカニズムの考察
一 縮減 プロセスを援用 して ‑
AStudyofDiversityPromotingMechanismasaResultofGlobalization
‑UsingLuhmannlsReductionProcess一
神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士後期課程
湯 川 恵 子
KeikoYukawa
■キーワー ド
グローバル化、縮減、一様性、多様性、パ ーソナ リテ ィ
1.はじめに
グローバ リゼーシ ョンやグローバルスタンダー トと呼ばれ る流れが、世界的に減速傾向にあるよ うに思われ る。グローバル化 は、新 たな市場の開 拓や世界規模の標準化 を可能に し、文字通 り1つ のglobe(球 体) と して世界 を相対 的に縮小化す ることに成功 した。反面、経営学者の ミンツバ ー グ (2003)をは じめ、経済学者で ノーベル賞 を受 賞 したステ イグ リッツ (2002)などが警鐘 を鳴 ら しているよ うに、彼 らの批判に共通 して見 られ る のは、グローバル化が伝統的な固有の価値観 を揺 るが してい るよ うに思われている点である1)。グ ローバル化による経済成長 は、都市化 を招 き、伝 統的な社会 を揺 るが し、その独 自性 に対する脅威 となってい ると考 える識者 は少 な くないようであ る。
このよ うにグ ローバル化 を懐疑的に捉 える見方 が拡がっている。 しか しグローバル化 を、 もし放 置 してお くと世界 を一様化す るとともに、独 自性
を抹消 して しまう過程 と考 えることが、はた して それでいいのか とい う疑問がある。従来の 日本的 経営が行 き詰 ま りをみせ、グ ローバル化の名の も とにアメ リカ型の制度 を新 しく導入 したにも関わ らず、いまだに閉塞状態が続 き、将来の ビジ ョン が描 けない企業 にグローバル化は何 も示唆 を与 え ないのだろうか。否、本稿では、グローバル化が 本質的に独 自性 を推進す る見方 、すなわちグロー バル化は多様性 を促進す るとい う立場 か ら着想す ることに したい。 この立場 は、グ ローバル化に対 す る理解の再構築 によって補強 され ることになる と考 えられ るか らである。
そこで本稿では、は じめにグローバル化に対す るこれ までの理解 を整理 し、そこか ら脱却す るべ く理論的根拠 をル ーマンの縮減2)に求め ることに す る。ル ーマ ンがシステム論 において基本的命題 としたのは、システムの複合性 を高度化す ること によって環境の複合性 を縮減す ることである。換 言す るとこれはある主体が生 きつづ けよ うとす る とき、その生 きている世界が大 きければ自分 自身
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も生 きる能力 を養 って大 きくなることが必要であ るとい うことである。自分が大 きくなるとい うの は、物理的に大 きくなるとい うことを意味 しない。
システムが環境 に対 して相対的に有利 な立場や能 力 をもち、それだけシステムの自由度 を大 きくし て自律性 を増す とい うことを意味 してい る。
縮減 メカニズムは、‑の論理 が多を支配す ると い うのではな く、あくまで も環境 との相互作用の 中で自システムの 自由度 や 自律性 を増 しなが ら、
今 日現在の自分 を乗 り越 え、明 日の自分 を高め る プロセスを重視す る。 この自己進化のプロセスが、
グローバル化に も何 らかの示唆 を与 えるだろうと い うのが縮減 を援用す る根拠 となっている。
これ をもとに、グローバル化の下で 日本の企業 が取 り入れた制度 を一つの例 と して、縮減 プロセ スを組織 に定着 させ るためのキーファクターであ る個人および個人の協働 に言及 しなが ら、グ ロー バル化による多様性促進 メカニズムの積極的な意 味 を探 ってい きたい。
2.
グローバル化の基本特性 とその限界 1)グローバル化の基本特性グローバル化の概念 は、国 を超 えるとともに諸 国間で相互依存関係の程度 をます ます増大 させ る 過程 における世界の縮小 と、 1つの全体 としての 世界 とい う意識の増大 の双方 を合意 している (ロ バ ー トソン、1997)3)。 この考 え方 が、世界 を一 様化 し、独 自性 を抹消す るプロセスとしてグロー バル化 を否定的に考 える傾向か ら、独 自性 を保持 しなが ら多様性 を促進す る肯定的かつ好意的立場 にグローバル化の視点 を転換す るのに役立つ と考 える根拠 となっている。本来企業経営にチャンス をもた らす可能性 を内包 していたはずのグローバ ル化が、なぜ疑問視 され るようになって しまった のだろうか。 ここではグローバル化 を大 きく3つ の基本特性でやや批判的に傭降 してみたい 4)。
第一に、ローカルスタンダー ドのグ ローバルス タンダー ド化 である.地球 が縮小 す るのに伴 い、
あるロ‑カルの規準が国際標準 として機能す るよ うになる過程 をわれわれはこれ までに幾度 とな く
経験 して きたOステ イグ リッツも認 めているよう に、民主主義や市民社会の理念のグローバル化 は 人々の考 え方 を地球規模 か ら発想す る方向に転換 するのに成功 した。 またグローバル化のおかげで 数億人が等 しく一定以上の生活水準 を手 にいれ る ことが可能 とな り、経済のグローバル化は、新 た な市場 も開拓 した。
反面 、強者の立場 にたつ企業 や国の約束 ごとが 国際標準 と して機能す るようになると、その結果 、 ローカルの独 自性 が排除 され、次第に、押 し付 け られた強者の論理 がグローバルス タンダー ドとし て定着 していったと考 えられ る。 この現象 によっ て、 ローカル に存在 している多様 な文化 を駆逐 し、
世界に一様性 をもた らしたのである。
第二 に、経営諸資源の国際間移動が容易になっ た点であるC経営諸資源が国の壁 を超 えて行 き来 するよ うになると同時に、世界 がよ り大 きな 1つ の市場 として存在 を認 め られ るよ うになっている。
グローバル化 によって人びとは欲求やニーズを満 たす商品 を即時に、簡単 に手 に入れ ることがで き るようにな り、また世界 中どこにいて も一様性 の 高い商品 とサービスを広 い範囲か ら選択 し、利用 することがで きるよ うになったのである。n'社会 がグローバル化 を牽引 して きた ことは言 うまで も ないo
Lか しその負の結果 として、国 とい う概念が希 薄化 してい るの も看過で きない。例 えばマク ドナ ル ド化現象 にみ られ るように、世界 中どこへ行 っ て も同 じファース トフー ドを見つ けることがで き るようになってお り、つ まりこれ は本来 もってい たはずの国や企業の独 自性 を排除 していることと 同義の結果 を招いている。 リッツア (1999)が明 確 に定義 して著書の タイ トルに もしているマク ド ナル ド化(McDonalization)とは、「ファース トフー
ド・レス トランの諸原理 がアメ リカ社会のみな ら ず世界の国々の、ます ます多 くの部門で優勢 を占 めるようになる過程」 を意味 している。アメ リカ を代表す るレス トランが世界 中を席巻す るプロセ スは、 まさしくグ ローバル化その ものであるとい えよう。 リッツア以降、マク ドナル ド化批判 を端
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緒 に、その根底 にあるグローバル化に対する批判 を行 なう文献が今 日なお枚挙に暇がない 5)0
最後 に、地球規模の環境問題の深刻化である。
20世紀、経済価値追求に遇進 してきた企業は、当 該市場の唯一の勝者 を目指 し、峨烈な市場競争 を 展開 して きた。そのため、陳腐化を事前に組み込 みつつ消費者 をつねに欲求不満状態 にす る使い捨 て社会 を作 り出 し、またコス トの外部化で社会に ツケを回す ことに何 ら疑問 も抱 いて こなかった。
根底 にあるのは、消費 を刺激 し、需要 を拡大 し ていけば、経済は無限定的に拡大す るという構図 であると言 える。 しか も使用 しうる自然資源の総 量 を消費に応 じて拡大 していくことを、科学技術 が後押 ししたために、あたかも自然資源の制約か ら解放 されたかのような錯覚にとらわれた時代で あったとも言 える。
このような消費指向的な社会の実現 を地球規模 で 目指 した結果、量的な拡大追求がもた らす物的 に一様化 したグローバル化社会の創出に囚われ、
質の変化や多様 な豊か さの追求に至 らなかったこ とが、地球規模で問題 を深刻化 させた原因の一因 とも考 えることがで きるだろう。たとえば地球温 暖化問題は、グローバル化社会が作 り出 した人間 のエゴが顕著にみ られ る。本格的対策 を講 じない 限 り、地球環境 に重大 かつ破壊的な変化 を生 じ、
い くつかの島峡 を居住不可能に し、海抜の低い地 域 を脅か し、農業や自然生態系への重大 な影響が 懸念 されるなかで、地球温暖化問題に対する考慮 すべ き2つの側面 を識者の指摘にみてみよう。(柳 下、1992)6)
第一は、地球温暖化問題には大 きな科学的不確 実性があることである。第二は地球温暖化が不可 逆的な現象であることである。通常の政策選択 は、
誤 った行動 をとることを避けるため確実 な知見が 得 られるのを待つ。 しか しこのようなアプローチ は不可逆的な変化に対 しては有効ではな く、む し ろ致命的な結果 をもた らしかねない。その際に、
科学的不確実性 を対策の遅延の理由 としてはなら ないだろう。
地球温暖化問題 における二酸化炭素排出の大半
は先進国の活動に起因す るものである。 このため 開発途上国か らすれば、先進国が地球の資源エネ ルギーを思 う存分使 って経済発展 をして きて、い ざ途上国がこれか ら経済発展 を行なお うとい う時 に、二酸化炭素の排出を増や さないように しよう と主張するのは、開発途上国の経済発展の途 を閉 ざそ うとす るものだ と感 じられて も仕方がない。
しか し、仮 に途上国が対応策 に参加 しなければ、
近い将来、途上国か らの排出が温暖化の寄与の半 分以上になるとみ られているとい う。
この間題の根底 には、地球上のあらゆる国が大 量の資源利用 を前提 とした経済価値指向型社会の 実現に遇進 してきたことがあると考 えられる。グ ローバルに拡がった経済価値指向型社会の実現 と い う目標 は、一つ覚 えのように世界 を一様化に向 わせ る結果になったのである。
生物 多様性の危機 を訴 えたシヴァ (1997)は、
西洋的知識体系 とロ‑カルな知識体系 とを対比 さ せなが ら、前者が普遍的な支配体系 として提示す
る商業価値 中心の論理展開を批判 している。西洋 的知識体系の下では、自然環境 をも流れ作業的な 一様性 にはめ込み、持続不可能なモノカルチャー
を生み出す市場至上主義の立場 をとるとしている。
このように生命 を無視 した市 場至上主義の蔓延に よって、ローカルな知識体系はその存在 自体 を否 定す ることで消滅 させ られた。反対に本来 ローカ ルか ら発生 したはずの西洋的知識体系 を普遍化す るために、暴力 と誤 った情報が必要 とされたとい う。 7)
今 日、グローバル化に異議 を唱 える声が多 くあ がっているのは、グローバル化が もたらすプラス の面 もありながら、それよりも多 くのマイナス面 が大 きく取 り沙汰 されているか らであろう。特に そのマイナス面 は、ローカルに存在 している独 自 の文化に対する脅威 を与 えている点で顕著である ことが、上述の基本特性か ら伺 うことがで きる。
そもそもグローバル化 とい う言葉が用い られ る 以前には国際や多国籍 とい う言葉が使用 されてい た。 これ らの言葉 には一社、あるいは一国の論理 をもって世界に乗 り出 してい く結果、地球全体に
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本社 あるいは本国の論理 を押 し付 けるような傾向 がみ られた。1つの ローカルな論理 が影響力を強 め、地球全体 を凌駕す る状態のなかで、国際や多 国籍の延長線上でグ ローバル化 とい う言葉が一人 歩 きを して しまったとい うのが実態ではないだろ
うか。
3つの基本特性 を整理す ると、従来型 グローバ ル化の問題の源泉 は、過度 に一極集 中 しす ぎた権 限 が不均衡 を起 こ していることにあるよ うに思わ れ る。本来 、規模や影響力の大小 によって優劣が 決定 されないはずの国や組織 が、規模 あるいは影 響力の大 きさに比例 して支配的な強者の論理 を押 し付 けは じめているのが、今 日のグローバル化の 正体ではないだろうか。 さらにこのパ ワーバ ラン スを意図的に崩す ことで、ローカルの普遍化、す なわちグローバルス タンダー ドが形成 され、既成 事実 として定着す るに至 っているのが実情 と考 え られ る。以下では今 日のような、強者 はます ます 強 く、弱者 はます ます弱いままとい う権限の不均 衡 を引 き起 こす源泉 となっているグローバル化に 対す る批判 を、権限の視点か ら探 ることに したい。
2)従来型 グローバル化の限界要因 としての権限 権限に関す る議論 はグローバル化の議論 に先行 して、すでに経営学 において一定の見解 が示 され ていることは周知の通 りである。影響力の強 さの 根拠 となる権限のル ーツの視点か ら、代表的な分 類 と して権限法定説、権限委譲説、権限受容説、
権限職能説で比較検討 を試みてみたい。
権限法定説や権限委譲説では、権限はあらか じ め決 まってお り、一方的に上か ら下へお りて くる もの と考 えられている。あらか じめ設計 された法 律 や仕組み、制度 によって、自己決定の機会 を得 ないまま誰かが決めたことをや るだけで、他者に 対 して自分の意見 を表明 し、自らの個性 を際立た せ ることを怠 り、次第 に外的影響か ら自由な思考 を働 かせ ることが困難 になる。その結果 、大 いな る全体へ と同化す る全体主義の異 に陥 る。いった ん全体 と同化 して しま うと、本来 もちえたはずの 自由な思考で他者の存在 を意識す ることを判断停
止 し、無意識的に全体 とい う名の一様性 に支配 さ れ る結果になるだろう。
グローバル化に照 らして考 えてみ ると、 この種 の権限 は、 ローカルな強者の論理 が既成事実 とし て世界 を支配 し、グローバルス タンダー ドとして 幅 をきかせ ることを後押 ししている。同時に、そ の他大勢組 の それ ぞれ が もつ ローカル な独 自性 に対す る判断停止 を、無意識圏の増大 によって達 成す るものである。無意識圏の創出によって自己 決定 を放棄 させ るグローバル化 した世界では、責 任の所在がどこにあるのかを不明確 にす る危険性 もあるだろう.たとえばグローバル化の基本特性 で列挙 した地球環境問題 は、どこに責任の所在が あるのかがよく分か らない。京都議定書 にまつわ る攻防 をあげて も、資本主義経済大国 としてアメ リカの ローカルス タンダー ドがグローバル スタン ダー ド化す る一方で、世界的に進行 した資本主義 経済の負の遺産である地球温暖化の問題 に対 して 批准回避す る姿勢 は、責任 を明 らかに しようとし ていないと世界か ら非難 されて もおか しくないだ ろう。
一方、バ ーナー ドが主張す る権限受容説や、フォ レッ トの権限職能説 などにみ られ る権限説 は、上 述の権限法定説や権限委譲説 とは異 なる扱いがな されている。バ ーナー ドの権限受容説 は、権限は 上か ら一方的に下 りて くるものではな く、受 け取 り手側 によって受容 され たときには じめて効力 を 発揮す るとい う説である。権限の主観的、人格的 側面 を強調 し、受け取 り手側 の意思や価値 を尊重
した受容 ない し同意 に もとづいているのであって、
権限 をもつかどうかの決定は受 け取 り手側 にあ り、
発信者の側 にあるのではないとしている。 8)
また、 フォレッ ト(1963)の権限職能説 では、
権限は仕事 を遂行す るときに発生す るものである と考 えれば、仕事 その ものに権限が帰属す るとい う見方が可能である。その際の責任の所在 は、特 定の人ではな く職能遂行 に参画す る関係者全員が 共同責任 を取 ることになる。 このように権限 は職 能に帰属す るとい うのが フォレッ トの主張 である。
グ ローバル化における権限の議論で問題 となっ
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ていたのは、過度 に権限法定説や権限委譲説の側 に傾 いた権限の不均衡 にあったと考 えられ る。 こ の不均衡 を是正 し、権限受容説や権限職能説が支 える対等 な関係性の構築や共同責任の概念 を意識 して、多様性 を許容す ることで、無意識圏か ら脱 出 しより主体性のあるグローバル化 を指向す るこ とが可能になるだろう。
グローバル化が今後 もこれ まで と同 じように権 限法定説や権限委譲説主導で進め られれば、より 多 くの不平等や不安 を無意識の うちに生み出 しつ づけるだろう。グ ローバル化が、世界 を一様化 し 独 自性 を排除す るとい う立場か ら、多様性 を促進 するとい う立場 に転換す ることがこれ まで以上に 求め られていると考 えられ る。グローバル化の本 来的な意味 を権限か ら再考す ると、問題 はグロー バル化にあるのではなく、それをどのように進め るのかにあると考 えられ る。以下では、論理的な 意味でグローバル化の再構築 を試みてみたい。
3.縮減 メカニズムによ るグローバル化 の再構築
ボス トンコ ンサル テ ィンググル ープcEOのス ターンは、グ ローバル企業 にとって一番危険 なの は、巷で流行 っているか らとその経営 コンセプ ト を単純化 して受 け取 って しまうことにあると指摘 している。 この ことか らも、ローカルに存在 して いる固有の文化 を駆逐 し、強者唯一の統一 した論 理に押 し込め るや り方の恩 を認 めることがで きる。
地理的、文化的に広が りと異 な りをもつ企業 が、
世界 を大 きな 1つの市場 と して、違い を排除 し、
一様化す るのではなく、む しろ違 いを強調 しその 多様性 を尊重 しあいなが ら、統合的な方向性 を打 ち出 してい くことが望 ましい。企業 や国の多様性 を尊重 しあいなが ら、地球全体の調和 を図ること は、個 と全体の統合 とい う経営学が追い続 けて き たテーマの 1つ に帰着するように も思われ る9)0
では、多様性 を促進 しつつ全体の方向性 を見出 してい くために、理論 はどのよ うなメカニズムを 提示で きるのだ ろうか。本稿 ではル ーマ ンの縮減 メカニズムによって説明を試みてみたい。
世界の さまざまな現象のなかにただ‑種類の事 象や関係だけが可能であると信 じて、それ を徹底 的に追求 し、それが必然的な事象 や関係であると 自他 ともに信 じられ るところまで確定 してい くと い う伝統的な科学観 に対 して、ル ーマ ンは現象学 に立脚 し、世界 を多様 な可能性の うちのひ とつの 現われ とみてい る。 この視点が昨今のグローバル 化に対す る誤認 と酷似 していると考 えられ る。
従来型のグ ローバル化では、主体 が理解可能な 範囲で世界 を一様化す る一方で、理解不可能な範 囲 を捨象 し続 けて きた。世界 を1つの市場 と考 え、
世界共通の枠組みや制度 に収赦 していこうとす る 姿勢 に問題 はない。 しか しだれがその枠組みや制 度 を設計す るかが問題 なのである。地球の標準 は あくまで も地球 とい う視点で考 えられなければな らない。 しか し実際には優勝劣敗 の論理 が適用 さ れ、世界 をいち早 く支配 した国や企業のローカル スタンダー ドがグローバルスタンダー ドとして機 能 しているのが現状であろう。 このようなプロセ スで進行 したグ ローバル化の下 では、強者 にとっ て相互理解す る必要のないその他大勢の国や企業 の ローカル性 には着 目されず、 またローカル性 を 顧み ることす ら許 され ることのないままに、強者 の権限によって無意識圏に入れ させ られ ることを 余儀な くされたその他大勢組の論理 は、理解不必 要 として捨象 された と考 えるのは難 くない。
このよ うな状況の中で、人間の認識能力には限 界があ り、また認識 していない ところに も現象が 存在 しているとす る現象学 に立脚 し、唯一絶対の 解ではな く複数の解が存在す る余地、すなわち社 会現象のあいまい性や矛盾 を許容す る立場か ら考 察 を加 えるル ーマ ンの示唆は少 な くない。複合性 の縮減 (reductionofcomplexity)と呼ばれ るル ー マ ンの主張 は以下の通 りである。
われわれ は意味 的 な対応付 けを しなが ら、
可能 な種 々の体験 を統合 し、可能性 の混沌 たる状態 に秩序 を与 えることがで きる。選ば れた可能性 を推 し進めると同時に、選ばれな かったほかの可能性 を無視 し、保留す る。 こ のように複合性 に秩序 を与 える働 きを複合性
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の縮減 と呼ぶ。 (ル ーマ ン、1990)10)ll)
換言す ると、選択 されなかった さまざまの可能 性 を単 に否定 し、ゼロに帰 して しまうのではな く、
世界の諸形式の うちに潜在的な形で維持 し、接近 可能な状態で次の準備 に備 えて複合性 を保持す る とい う働 きこそ縮減の主要 な機能であるoグロー バル化 に置 きか えて考 えてみ ると、未来の可能性 を一様性 によって削減 して しまうのではな く、多 様性 を許容 して個別主体 が もつ独 自性 を捨てずに 脇 においてお く指向性 を保持す ることといえよう。
このよ うな機能 を果たすために、システムは自己 の複合性 を高度化す ることによって環境の複合性 を縮減す る。すなわち自己の複合性の高度化 こそ が縮減能力の増大 となる、 とい うのがル ーマ ンの システム論 における最 も基本的な命題であるとい われ る所以である (新 ・中野、1984)0
組織 が環境の複合性 を吸収す る際、環境の側 に ある複合性 を組織 が吸収で きる範囲内に限定 して 適応す る対応 と、環境の複合性 にあわせて組織 が 吸収で きる複合性の範囲 を拡大 してい く対応 では、
まった く性質 を異 にす る。経営環境が複雑 な動 き をす ることが自明 となった今 日、なすべ きことは 複合性 を否定 して現実 を単純化す ることではない。
む しろ組織 内の複合性 を高めてい くことで、環境 の複合性状態 をその ままに して相対的に組織の複 合性縮減能力 を高めてい くことが求め られている のである。
このル ーマ ンの縮減 メカニズムは、グローバル 化に本質回帰 を促す可能性 をもっていると考 えら れ る。反対 に複合性 を否定す ることは世界 を一様 化 し、独 自性 を抹消 して しま うだろう。マク ドナ ル ド化やグローバルスタンダー ドとい う名の ロー カルスタンダー ドの横行 は、まさに強者の論理 に よって世界 を一様化 した悪 しきグローバル化の結 果 に他 な らない。
反対 に、複合性縮減のメカニズムは、多様性 を 促進す るもの となる可能性 を秘めている。相互の 違 いを明確 に意識、認識 し、違 いがどこか らきて いるのか、その本質 を理解 した うえで、多様 な国 籍 をもち、多様 な文化 を保持す る企業同士が、 コ
ンプ リク トを進 化 の兆候 と しなが ら統 合 に よっ て違いを調整 してい くプロセスをとってい くこと が ます ます必要 になって くるだ ろ う (グ ラハ ム、
1999)0
以上 をもとに次代 のグ ローバル化、いわばポス トグローバル化 とで も呼ぶ ような潮流 を、多様性 を担 う個別企業 とい う側面か ら考察 を加 えてみた い。
4.
ポス トグローバル化 を指向する企業1)ポス トグローバル化 に向けた企業の取組み 企業 において安易なグローバル化が うまくいか ずにいる半面で、不況下で も元気の良い企業が多 く存在 してい る。そこにはどのような違いがある のだろうか。 この違いを日本企業のなかで研究 し た新原 (2003a)は、 アメ リカ的 な方式 を導入 し た 日本企業 の業績 は必ず しも高 くない一方で、高 い業績 をあげて い る企業 は経営者 の現場感覚 と いった従来か ら日本企業 が強み として きた属性 を もっていることを明 らかに し、アメ リカ経済主導 型のグ ローバル化 に対す る反証 を行 なっている。
そ もそ も新原 (2003b)は、90年代 以降好調 な アメ リカ経済 を見て、 日本的システムには限界 が あり、アメ リカ的な ものに収赦 してい くとい う見 方の中で、 日本の企業 はアメ リカで成功 している 制度 を表面的に輸入 しよ うと したために、本質の 部分が骨抜 きになった型 だけを取 って きたことに 言及 している。元来、 日本的経営 が学習 によって 培 って きた型 に自信が もてな くなったときに、表 面的な型 をアメ リカか ら輸入す るのではな く、 日 本の経営の型の どこに問題 があ り、どのように改 善すべ きかの議論 がなされ るべ きだったことをふ り返 り、原点 に戻 りもう一度問題 を見定めること を主張 している。
アメ リカか ら輸入 した型の1つ として、成果主 義 を具体例 にあげて問題 を掘 り下 げてみ よう。組 織や集団に帰属 して、その組織 や集団の価値 に身 を染めて生 きることで幸せが保証 され る時代 が終 りを告 げつつ ある代 わ りに、個 が尊重 され る時代 がやって きた と一般的にいわれているO皮肉な言
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い方 をすれば、好 むと好 まざるとに関わ らず、自 己選択的に生 きざるを得 ない時代 がは じまったと い うことと同義の ように も受 け取れ る。
これ らを背景 に して 日本企業 にも成果主義の導 入がかな り進んだ と言われている。 しか し、一方 で さまざまな弊害 も顕在化 しているとともに、従 来の終身雇用 を前提 とした年功序列型の人事制度 が統計的にはそれほど減少 していない とす る調査
もある (永田、2003)0
成果主義の利点 は、 日本企業の馴れ合 い体質 を 改善 し、会社 に属 す る以上個 々人が役割 を担 い、
成果 を出 さなければな らないとい う意識 を浸透 し たことにある。一方、悪 い面 として、 日本企業の 強 さの源泉だった人 と人 とのつなが りを分断 した ことがあげ られ る。過度の競争意識 をもつ ように な り、評価 に対す る不満 が充満す る一方 で、「成 果 を出 さないと会社 にい られな
い
」 とい う追 い込 まれた心理状態がス トレスを生むこととなる。成 果主義 を導入 して成功 している企業 は、人事制度 に着手す る前に、会社の価値 や存在意義 をきちん と設定、再認識 してそれ を社員に浸透 させている。反対 に、こうしたプロセスを経ずに 「ライバル企 業 が導入 したか ら」 と横並び意識で成果主義 に飛 びついた企業では うまくいっていない現状 を指摘 す る識者 もいる (日経 ビジネス、2003年11月24日)0 成果主義 を浸透 させているキャノンを例 にあげて みたい。
キャノンは、年功制 をな くし、役割給 に切 り替 えた新賃金 ・人事制度 を2001年4月か ら導入 し、
年功序列型 の体系 を抜本的に見直 した。 しか し、
賃下 げイコール総人件費抑制、の経営サイ ドに主 導権があることが見 え見 えの成果主義導入 とは一 線 を画 している。その証拠 に、いまだに雇用確保 の旗 じる Lを降 ろしていない。キャノンが行 って いることは、経営理念や行動指針 を教育 によって 徹底 しているとい うただ一言 に尽 きる。 しか も、
成果主義型の賃金 ・人事制度 を運用す るために研 修 を準備 したのではな く、社員の意識調査の結果、
風土改革や意識改革 などについての理解度が思 っ た以上 に低かったことに起 因 しているとい う (日
経 ビジネス、2003年11月24日)0
どんなに良い といわれ る制度で も、あるいはグ ローバルスタンダー ドであったとして も、企業風 土 に馴染 まない制度の導入 は難 しい。 また、は じ めは企業風土 に馴染 まない ものであったとして も、
事後の教育 によって社員一人ひ とりに徐 々に受 け 入れ られ る場合 もあるだ ろう。独 自性 を保持 しな が ら、多様性 を許容す るポス トグローバル化 を一 企業 レベルで実現す るカギは、企業の担 い手であ る社員、すなわち個人にかかっていると考 えられ る。
2)ポス トグローバル化 を可能にする個人の確立 資本主義 とい うイデオ ロギーが培 って きた市場 原理 が多 くの人々に利益 をもた らす ことは自明の ことであるOしか もここで言 う市場原理 は、グロー バル化の潮流のなかで世界 中に拡散 しているの も 事実である。 しか し一つ覚 えのように市場原理 を 賞賛す ることが、いわゆ る社会の公器 としての企 業 にふ さわ しくない行動原理 にな りつつ あること が認識 されは じめて もいる。そのよ うな中で、世 界の一様化 を助長 したグ ローバル化が企業 に及ぼ
した影響 は少 な くない。
ゴ シ ャール‑バ ー トレ ッ ト(1999)に よると、
短期的な効率 を最大化す るために、人材 を含 む全 ての経営資源か ら最大限の価値 を搾 り取 ることが で きるよ うに設計 された企業 は、その過程 におい て、個人 が継続的に能力 を向上 させ、新 しい価値 を生み出す ことか ら生 まれ る、長期的で動態的な 有効性 を犠牲に して しまったことを指摘 している。
さらに彼 らは、個 を活かす企業 は、価値 を搾取す るのではな く、継続的な個人の学習 によって価値 を生み出す ことを考 え、そ して個人の学習 を単 な る企業 目的達成の手段 ではな く、企業 目的その も の とす るのである。
世界 を一様化す ることへの警鐘は、グローバル 化 とい うキーワー ドがこれほど盛 んに議論 され る 以前か ら、すでに社会学者 たちによって行 なわれ ていた。人間社会 を単一の要素で説明す ることへ の批判 は、社会の多次元性 をその批判の根拠 とし
20 神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』第8号 2004年3月
てなされていた12)0
ポス トグ ローバル化時代 を生 きる うえで大切 な ことは、企業 の経済活動 や経営行動 を通 して 文化の違 いや考 え方 の違 いをな くして、垣根 を 取 り払 って何で も自由に行 き来や売買、生産可能 で あるとい う幻想 を描 くことではない (海老滞、
2000)。グローバル な枠組みの 中で、個人が独 自 性 をもって行動 してい くことである。 これが、本 稿で強調すべ きグローバル化が本質的に独自性 を 推進する見方、すなわちグローバル化は多様性 を 促進す るとい う立場の根拠 となっている。
21世紀 に成功する組織は、問題解決や意思決定 に組織 内外の境界 を超越 して世界的な規模で取 り 組み、学ぶ ことになる。世界的に追求す るには、
組織のあらゆるレベルの人たちが、地球の果ての 地か らで も、また民間、公共、社会のどの部門に おいて も、アイデ ィアや知識や革新 を世界のあら ゆる場所から求めることが最 も重要 になる。この ように世界 に探求する精神 を組織構造に織 り込む には、独 自の価値 を少 しずつ浸透 させていき、世 界的視野に立 って考 え、追求 し、行動する人に報 い ることが必要 だろ う。(ソマーヴイル‑ムロズ、
1998)
このような考 え方は、個人が行動 しながらそれ ぞれ異 なった可能性の観点か ら世界 を解釈 し、そ の中か ら選ばれた可能性 を推 し進めると同時に、
選ばれなかったほかの可能性 を保留 し、潜在的な 形 で維持 しながら接近可能な状態で次の準備に備 えてお くとい うことと同義である。すなわち複合 性の縮減 プロセスを追 っていると思われ る。
複合性の縮減プロセスで重要 なのは個人である。
しか し、個人がいかに優れた能力や意欲 をもって いて も、個人ひ とりの力のみで成功することは難 しい0‑人の人間には時間的、空間的に制約があ ることを視野に入れれば、ある種共通の理念に基 づ く人間関係が築かれ るのは自然な流れ といえよ う (阿部、2002)。 この関係が国境 を超 え、理念 で結ばれた組織や行動が新たなグローバル化を構 築 していくことは想像に難 くない。現にこのよう な協働型の新 しい組織の萌芽がみ られ る。
例 えば、 あるテーマに関す る関心や、熱意 な どを共有 し、その分野の知識や技能 を、持続的な 相互交流 を通 じて深めてい く人々の集団 と定義 さ れ る実践 コ ミュニテ ィ (コ ミュニテ ィ ・オブ ・プ ラクテ ィス)がある。実践 コ ミュニティは、個 々 の ビジネスユニ ッ トだけではな く、異 なる組織の 人々をも結びつ け、そ してシステム全体 を求め ら れ る中核的な知識の周 りに結びつけてい く。職場 や学校、家庭や趣味などを通 して、どこにで も存 在 し、かつ複数に所属す ることが可能である、と してい る (ウェンガ‑ ‑マクダーモ ッ トニスナイ ダ ー、2003)0
企業の行動主体 は個人である。一方で、企業が 組織 たる所以は個人 と個人の協働 にあることは言 うまで もない。個人が協働 によって組織 を形成す るとき、個人の域 を超 え、自己 と周囲を同時に考 えるという発想で個 々の多様 な目的を許容す るマ ネジメン トが求め られ る。
ワイク (1997)は、組織内の人々は時間、空間、
エネルギーを共有す る必要 はあって も、 目的を共 有 している必要 はないとしている。共通の組織 目 的は個 々の多様 な目的達成のための手段の共有後 に出現 し、あらか じめ与 えられているというより は、メンバーによって創造 されると考 えられてい る。つ まり個別組織 はあらか じめ定めた唯一の 目 的に向か う必要 はない とい うことと理解 で きる。
つ ま りワイクの主張す る組織化のプロセスでは、
協働 の 目的は個 々人によって事後的に創造 される のである。ゆえに組織化のプロセスの主体である 個人対個人の相互協働 を組織間に敷宿 し、その組 織間で連携 をとりなが ら経営資源 を共有する余地 を拡大 してい くことで、グローバル化プロセスを 構築 してい くことが期待 され る。
ひ とつの相互影響関係が、他のひ とつ ない し複 数の相互影響関係の契機 とな り、この関係が際限 なく持続、発展す る入れ子構造のプロセスは、生 命有機体の本質 を追求 した哲学者モランのバ ック ル概念 に同一プロセスを見 ることがで きる。モラ ンは一方が他方の欲求 を満足 させ る相互依存関係 をバ ックル (締め企) とい う言葉で表現 し、その
「グローバル化による多様性促進メカニズムの考察」 21
関係性 を相補 と敵対で整理 しなが ら、相補関係 と 敵対関係 とは互いに排除 しあうのではな く、絶 え 間ない循環回路 を形成 していると捉 えている。た とえば捕食す る側 とされ る側 との関係 は、敵対関 係だけではな くて、自動的調整装置 を発生 させて、
種の多様性の保存要 因であると同時に組織 を作 り 出す独特の敵対関係の保存要 因の双方 をもつ関係 を育 む とい う。生存 は本質的に他者 を必要 と し、
相互隷属 か ら相互提携へ、相互疎外か ら相互依存 へ、相互搾取か ら相互交換への道す じをつけると い うモランの主張 には、本稿 で求めるべ きポス ト グローバル化の ヒン トが多 く隠 されていると考 え られ る。 (モ ラン、1991)
しか し、 ここでい う組織 がイコール企業 とはな らない. ドラッカー (2002)が述べているように、
企業 とい う場 は生計の資を得 る場所ではあって も、
生活 と人生 を築 く場所ではあ りえず、あ くまで も 機能 を基盤 とす る1つの社会であるに過 ぎないか らである。その うえで ドラッカーは、今 日われわ れに課 された課題 をコ ミュニテ ィの創造 に置 く。
これはかつての コ ミュニテ ィとは異 な り、自由で 任意の もの、一人ひ とりの人間に対 して、自己実 現 し、貢献 し意味 ある存在 とな りうる機会 を与 え るものでなければな らない と述べている。
グローバル化の本質が、本稿で主張す るように 独 自性 と多様性のダイナ ミックな相互交織の もと に成 し得 るとした ら、これ を実現す る主体は個人 しかいないだろう。 しか もこの個人は、従来か ら 指向 されて きた経済性 を追求す る一元的な価値基 準か ら脱却す ると同時に、企業 とい う唯一の機能 的組織体 にのみ属 す る個人 は想定 されていない。
む しろ企業人であると同時に、地域人であった り、
家庭人であった り、 また社会人で もあ りえる。 こ のように多元的な価値 に裏付 け られた多様 な人格 をもつ個 人 は、individualすなわち不可分の全体、
in (ニnot)+divideと して社会 に関わ ることで、独 自性 と多様性 を組織 に もた らす存在 となるだろう。
さらにシュッツ (1991)によると、個人は独 自 の生活状況や、歴史的あるいは社会的性格 を帯び た知識 ス トックをもってお り、それ ぞれの関心、
動機、 目的に従 って行為 を しつつ あるO彼 らは自 分 が生活 しつつ ある世界 について一定の概念や解 釈 をもって頬型化 してお り、 しか も他者 との 日々 の相互作用 を通 じて、他者 とともにこの世界 をた えず意味づ け、解釈 し、新 たに構成 しつつ ある。
個人の主観 を絶 えず他者 との相互作用 によって再 構成す る主観性 、すなわち間主観性 によって世界
を解 き明かす ことの有効性 を主張 している。
間主観性 を本稿 に即 して考 えると、一度形成 さ れた ら変化 しない硬直的な個人ではな く、他者 と の相互作用の中で自分 を変 え、また相手 に も影響 を与 えるダイナ ミックな独 自性 を発揮す る個人が 想定 され る。同時に、 こうした相互作用体系の中 で自分 を高めなが ら多様性吸収能力 を向上 させ る 個人の協働 が、組織の選択肢 を多様 なまま保持 し、
未来への可能性 を高めることに貢献す ると考 えら れ る。
バ ーナー ドがいみ じくも述べているように、全 体 に影響 を与 える唯‑の方法は、部分 に努力 を加 える以外 にない。個人 を通 じて組織 に影響 を与 え ることで、個人 と組織の動的均衡 が実現す ると考 えられ る。
4.おわりに
以上の考察か ら、グローバル化が もた らす変化 の1つに、個人の確立があるといえるだろう。グ ローバル化によって世界がより 1つの大 きな地球 になるにつれ、従来 は個人の存在 が相対的に小 さ くなると考 えられて きた。 しか しグ ローバル化の 本質 は、地球 がよ り1つ になるにつれ、あ らゆる レベルで独 自性 が発揮 され るとともに多様性 が強 調 され、なおかつ そのエネルギーが共通の理念 を 生み出 し、相互影響 しは じめるプロセスにあるの である。
このプロセスを予見す るかのよ うにパ ーソンズ (1992)は、文化がパ ーソナ リテ ィに内面化 され、
集団に制度化 され るプロセスの重要性 を指摘 して い る )。相互 の違 い を認 め、尊重 しあいなが ら、
違いを個人のパ ーソナ リテ ィに内面化 しつつ、組 織 に定着 させ るべ く制度化す るプロセスを構築す
22 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第8号 2004年3月
る ことが よ り一層求 め られて い くと考 え られ る。
ここでい うパ ーソナ リテ ィす なわち個性 とは、単 一 で あるとともに唯一 で あ り、 しか も1つひ とつ 異 なってお り、相互 に関係 を保 ちなが ら創造 す る
もので あ る (揮潟、1972)0
グ ローバル化 が排他 の論理 で はな く、環境 の側 にある複雑性 や予測 不可能性 を前提 に しつつ理解 可能 な範 囲 に問題 を限定せず 、包摂 の論理 に依拠 す ることが求 め られてい る。 これ によって文化 的 独 自性 と多様 な価値 観 に対 す る脅威 を取 り除 き、
真 に望 ま しいグ ローバル化 が実現 す ると考 え られ る。 また、行動 を通 して 目的の事後発見や、 目的 創 造 を可 能 にす る組織別 発行動 や増分行 動 に は、
社 会 の 多様 価値 14)を漸 次 的 に受容 し、ひ い て は 経営主体 が発展 し続 けるための潜在可能性 を増 幅 す ることが期待 され よ う。個 別主体 が新 しい関係 性 を創 り出す ことに貢献 し、地域資源 の共有 が有 効的 に行 なわれ る可 能性 も高 まると考 え られ る。
今 日、地球上 を支配 してい る経済 の論理 を過度 に求 め ることを、少 し脇 にお く時代 が到来 しつつ あ る。個 別 に私 的財産 を世界 で一番 多 くもつ人 が、
もっともパ ーソナ リテ ィに溢 れ豊 かな人生 を送 っ てい るとは限 らないか らであ る。一企業組織 、一 国 レベル の 自己都合 に とらわれず、多様 な現実 を 縮 減す るプ ロセスを個 人 が、いや地球 の持続可 能 性 に 目覚 めた複数 の個 人 が確立 す るとき、其 の意 味 で 多様 性 を促 進 す るグ ローバ ル 化 が促 進 され 、 われわれ に とってグ ローバル化 を有用 な もの にす ることがで きるだ ろ う。
註
1) ステ イグ リッツ,J.E.(2002)『世界 を不幸 に した グ ローバ リズ ムの正 体 』 鈴 木 主 税 訳 、徳間書店 。 ミンツバ ーグ,班.(2003)
「ア ングロサ クソン経営 を超 えて
」
『ハ ー バ ー ドビジネス レビュー』2003年1月号 、 42‑53ペ ージ。2) 社会 シス テ ム理 論 を打 ち た て たル ーマ ンは
縮 減 を以 下 の よ うに展 開 す る。 「他 方 の 複 合 性 に よ る一 方 の複 合 性 の縮 減」 (Luhmann,N.(1995)Socl'aISystems, StanfordUniversiyPrt ess,p.27.[ル ーマ ン, N.(1993)『社 会 シス テ ム理 論 』佐 藤 勉監訳 、恒星社厚生 閣、42ページ。])ル ー マ ンは主体 に 自 らの システ ムを置 き、 ま た客体 に環境 を置 いて それぞれ を対略 し た うえで、 システ ムの複合性 に よる環境 の複合性 の縮 減 を説 いた。
3) ロバ ー トソ ン,R (1997)『グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン一地 域 文 化 の社 会 理 論 』 阿部美 哉 訳 、東京大学 出版会、19ペ ージ。 ジ ャー ナ リズ ムで は一様 化 を促進す るグ ローバ ル化 を煽動 す るよ うな記述 が多いの に対 して、本稿 で取 り扱 うグ ローバ ル 化 は、
本 文 で も強調 す る よ うに、「世 界 を一様 化 し、独 自性 を抹消 す るプロセス と して グ ローバル化 を否定 的 に考 える傾 向か ら、
独 自性 を保持 しなが ら多様性 を促進 す る 肯定 的かつ好意 的立場」 にグ ローバル化 の視点 を転換 したい とい う積極 的意味 を 見 出す とい う意 図 が ある。ゆ えに この意 図 を後押 しす るロバ ー トソンの定義 を援 用 した もので ある。
4)海老滞 栄一 (2000)『地球村 時代 の経営管理』
文 異堂 、 お よび海 老 滞 栄 一 (2002)「グ ローバル化時代 の企業経営 (1)
」
『マネジメ ン トコ ンサル タン ト』 日本経営士会 編、2002年10月号 、 を参照 して整理 した
もので あ る。
5)上掲 の ステ イグ リッツ をは じめ と して、「マ ク ドナル ド化」批判 の契機 となった リッ ツ アの文 献 、世 界 銀 行 の副総裁 で あ る、
リシ ャール,J.F.(2003)『問題 はグ ロー バ ル 化 で は ない の だ よ、愚 か者 一人 類 が直面 す る20の問題 』吉 田利子訳 、草思 社 。 その他 い くつ か あげてみ たい。ヘル ド,D.・マ ッグル ー ,A.(2003)『グ ロー バル化 と反 グ ローバル化』 中谷義和 ・柳
「グローバル化による多様性促進メカニズムの考察」 23
原 克 行訳 、 日本 経済 評論 社。EUジ ャパ ンフェス ト日本 委員会編 (2003)『グロー バ ル 化 で文 化 は ど うな る7‑日本 と ヨー
ロ ッパ の対話 』 根本長兵衛訳 、藤原書店 。 6) この整 理 は、柳 下 正 治 (1992)「地 球 温 畷 化
問題 とエ ネル ギ ーへ の影 響
」
『土 木 学会 誌』1992年2月卜号別冊増刊、13‑17ペ ージ、の指摘 を参 照 してい る。 ただ しデ ー タは 古 いので、 『環 境 白書 』等 で最 新 の もの
を確認 した。
7) シ ヴ ァ ,Ⅴ.(1997)『生 物 多様 性 の 危機 一精 神 のモ ノカル チ ャー』高橋 由紀 ・戸 田滴 訳 、三一書房 。 比較 的伝統 的 な社会 を保 持 してい るイ ン ド出身の著者 な らで はの 世界 の一様 化 に対す る痛烈 な批判 の記述 が興味深 い。
8)バ ーナー ド,C.Ⅰ.(196・8)『新訳 経営者 の役割』
山本安次郎 ・田l杉競 ・飯野春樹訳 、 ダイ ヤモ ン ド社、170‑180ページ(Bamard,C.Ⅰ. (1938)TheFunctJ'onsoftheExecutive, HarvardUniversityPress)。このバ ーナー
ドを、森 本 三 男 (2001)『現代 経 営 組 織 論 <第2版>』学 文 社、154‑156ペ ー ジ、
を参照 し理解 に役立 てた もの で ある。
9)統合 に関す る理論 的 功績 はフ ォレッ トにあ る。
グ ラハ ム,P.編 (1999)『メア リー ・パ ー カー ・フ ォレ ッ ト :管理 の予言者 』三戸 公 ・坂井正虞監 訳 、文具堂 、 には ドラ ッ カーをは じめ と して経営学者 たちが注解 を加 えてお り、 フォレッ トの影響 が今 日 の経営学 におい て も支持 され てい ること が分 か る。監訳 者 の三戸 や海老博 の文献 に もフォレッ トの記述 が頻 出 してい る。
10)ル ーマ ン,N.『信頼 一社会 的 な複雑性 の縮 減 メカニズ ム』大庭 健 ・正村俊之訳 、勤 草書 房、9‑10ペ ー ジ。 「縮減 」 とい う言 葉 に執筆者 自身 もそ うで あったよ うに誤 解 が起 きやす い.。綿 とい う響 きには 自分 あるいは相手 を縮 め ることを連想 Lやす いがそ うで はない 。主体 の能力 を学習 に
よって高 め、認 識 可 能 な範 囲 を拡 大 し、
ひいては自己 を高 め るプ ロセス を「縮 減」
と呼 んだ。 自己 を高 め ることは相対 的 に 他者 を縮 め減 ず ることにな り、 こ う して さま ざまな他者 との相互作用 に よって認 識範 囲 を拡大 してい くプ ロセスの持 続 を 説 いた。 さらに 「縮減」 の カギ を握 る要 因に信頼 を提示 し、他 者存在 の多様性 を 許容 す る重要 な概念 と したので あ る。
ll)多様 性 と複 合性 の使 わ れ 方 につ いて整 理 し て お くO本稿 で は多様 性 (diversity) と 一 様 性 (un血m ity) を 比 較 対 照 の 概 念 に 用 い て い る。 ル ー マ ン の 「複 合 性 の縮 減 」 に よ って こ こで新 し く複 合 性 (Complexib,) とい う概念 が提示 され て お り、 そ の複 合 性 の 対概 念 は単 純 性 (simplicity) で示 され る.語 源 か らす る と厳 密 に は これ らは異 な る概 念 で あ る。
しか し、uni‑(1つ)やsimplus‑(1つ の ・ 単純 な) を示 す一様性 や単純性 に対 して の多様性 や複合性 は、いずれ も多 を意識 した もの と して理解 す ることが可能 と考 え られ る。 ゆ えに ここで は、ル ーマ ンの 記述 に負 う部分 では複合性 を用 い、本文 の主 旨に関連 す る部分 には多様 性 を用 い てい くこととす る。
12)ル ーマ ンは じめ ア レグザ ンダー、ギデ ンズ な ど今 日の社会 学 に影響 力の ある研 究者 た ちの著作 に見 られ る議論 であ る。
13)パ ー ソ ンズ,T.(1992)『社 会 体 系 と行 為 理 論 に展 開 』 田野崎 昭夫監 訳 、誠信 書 房 、 226ペ ー ジ.文 化決定論 の部分 がル ーマ
ンやギデ ンズ な どの ちの研究者 の批判対 象 にな って い ることは周知 の通 りで あ る。
しか し、パ ー ソンズの主張 にあ る示 唆 を 部分 的で はあ るが積極 的 に解釈 したい意 図 が本稿 に ある0
14)多様価値 につ いての基本 的 な考 え方 や枠組 み は、バ リュー研究 プ ロジェク ト (日本経 営診断学会 共 同研究 プ ロジェク ト、 メ ン
24 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報j第8号 2004年3月
バ ー :‑瀬益夫 ・海老滞栄一 ・中村正継 ・ 森弘子 ・湯川恵子)の研究成果 の一部で
あ り、湯川恵子 (2003)「社会 性 を意識 した経 営診 断学 の可能性一歴 史研 究 の視 点 か ら
」
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