博 士 ( 医 学 ) 小 笠 原 克 彦
学位論文題名
Socio‑economical analyses of PACS and teleradiology 医用画像管理システムおよび遠隔放射線画像転送システムの社会経済的分析
学位論文内容の要旨
近年の コンピュータの高速化と大容 量化、ネットワーク特にインターネット技術の進歩、情報通信機 器 の低 価格 化 は医 療に おけ る情 報 技術 の利 用を 普 遍的 なも のと した 。 これ らの 技術 が積極的に 医 学・医療 に導入され、医用画像管理シ ステム(PACS: Picture Archiving and Conumuucation System)や 遠隔放射 線画像転送システム(Teleradiology)が実用可能となって いる。更に、ここ数年間で医療情報 の 電子 保存 に 関連 する 通知 が厚 生 省から 出されたように、法制面で の整備も少しずつであるが開 始 された。PACSやTeleradiologyについ ては経済性が保証されること により、今後、ますます普及するも のと考え られる。本論文は、今後普及 されるであろうと予想され るPACS及びTeleradiologyについて、
そ れら の技 術 が医 療に 導入 され た 際の効 果・影響を情報学的および 社会経済的な側面から探るこ と を目的と した。
まずPACSの 導入 に関 する 費用 分 析とし て、中規模病院と健診施設 を対象に、現状のフアルム保 管 とPACS導入 に よる 電子 保管 とを 対 比させ ながら電子保管の実現可能 性を予測するとともに、費用 の 分岐点を 推計し導入に関する問題点を 提示した(第2章・第3章) 。Teleradiologyに関しては、実際に 医療機関 で発生した医用画像のデー夕 量を推計するとともに、放射線診療(スタッフ・機器)の偏在を 明らかに し、Teleradiologyの導入が地域医療に貢献するかどうかの予測を行った(第4章・第5章)。ま た、診療 放射線技師を対象としたアン ケート調査を行い、Teleradiologyが導入されたと仮定した際の 問題点な どについて調査を行った(第6章)。
1日 に175人(540画像 )が 撮影 す る病 院にPACSを 導入 した 場合の費用分析を行った(第2章)。方 法は、1日 あたりの撮影フイルム枚数 を変数として、画像観察装置の種類と数、現像機などの機器数、
地 価、 新た に 撮影 する 患者 比率 を 変化させた感度分析を行っ た。その結果、@画像観察 装置にパー ソナルコ ンピュータを用いた電子媒体 保管を行うことにより、患 者1人に1枚の光磁気ディスクを割り 当てても 、新たに撮影する患者比率が23%以下であれぱ、費用の 面でフイルム保管と差がなかった。
◎フイル ムによる保管は地価の影響を 受け安いが、電子保管は地 価による影響がほとんどなかった。
一 般的 な病 院では、1日に新たに 撮影する患者比率が5〜 20% と推測されるため、画像観 察装置・画 像 管 理 装 置 な ど を 考 慮 す る こ と に よ り 、 電 子 保 管 は 可 能 で あ る と 結 論 さ れ た 。 診療 報酬 制 度の 適用 を受 けな ぃ 健診 施設 にPACS導入 を想 定した費用分析を試みた(第3章)。方 法 は実 際の 検 診施 設よ り得 られ た データをもとに、従来のフ ィルム保管モデルとCD‑Rに よる電子媒
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体 保 管モ デルを作成し、画像記 録媒体の費用、設備費の差、 保管容積を計算・比較した 。その結果、
@ 画 像 記 録 媒 体 の 費 用 は 、 フ イ ル ム 保 管 モ デ ル の 方 が 非 圧 縮 で30 ‑80倍 、1/10圧 縮で300〜800 倍 フ ィル ム保 管モ デ ルの 方が 高価 であ っ た。 ◎フ イル ム保 管モデルと電子媒体保管モ デルの費用に 関 す る分 岐点を年間受診者数5000人とした場合、フイルム保 管モデル(一人当たり2000円のフイルム 費 用 )と 電子 媒体 保 管モ デル (非 圧縮)の設備費の差は982万円と推計された。◎画像 記録媒体の保 管 容 積 は 、 フ ィ ル ム 保 管 モ デ ル の 方 が45倍 ( 非 圧 縮 時)〜400倍(1/10圧 縮 時 ) 必 要 で あ った 。 PACS及 びTeleradiologyの導 入 効果 を予 測す る ため の基 礎資 料と し て、 北海 道の医 療機関を対象 と し た画 像発 生量 調 査を 行っ た( 第4章)。方法は、北海道 全域の医療施設に対して、 画像発生量に 関 す るア ンケート調査を行い、 医療機関の形態・規模毎に医 用画像の発生現状を把握す るととも画像 発 生 の傾 向を 考察 し た。 その 結果 、@医師一人あたり一日 に発生する画像情報量は、202MBであり、
病 床 数が 減少 する に っれ て増 加す る傾 向 にあ った 。◎ 技師 一人あたり一日に発生する 画像データ量 は422.5MBで あ っ た 。 ◎20床 以 上 の 病 院1病 床 数 あ た り の 画 像 デー タ 量は10.2MBで あっ た 。精 神 病 院 ・療 養型 病院 で はこ れら の1/5〜1110であった。@回帰 分析と重回帰分析の結果、 病床数・医師 数 .MRJ[数・ 放射 線 技師 数・ 病床 数な ど から 各施 設の1日 に発 生す る 画像 デー タ量の 推定が可能で あ った。
北 海 道 の 放 射 線 診 療 の 地 域 分 布 と そ の 特 徴 を 分 析 す る こ と を 目 的 に 、 社 会 経 済 的 指 標 で あ る Lorenz曲 線およびGini係数によ る解析を行った(第5章)。 対象地域は北海道全域とし、2次医療圏を 集 計 単位 とし た。 調 査対 象は 放射 線機 器(CT、MRI、放 射線 治療機器)と医療従事者( 臨床医、放射 線 科医、診療放射線技師)と した。その結果、@人口を基 準とした医師と診療放射線技師の解析では、
人 口 層 別 の 分 布 に よ ら ず 北 海 道 に ほ ぼ 均 一 に 分 布 し て い た(Gini係 数 : 医 師0.090、 放 射線 技 師 :0.107)。しかし、放射線 科医のGini係数は0.344であり、不均一であることが明らかになった。◎人 口 を基準とした(汀.MRIの解 析では、人口層別の分布に よらず北海道にほば均一に分 布していたが、
放 射線治療機器の人口層別の 分布は不均一であった。
診 療 放 射 線 技 師 に 対 し てTeleradiologyに 関 す る 意 識 調 査 を 行 い 、 医 療 施 設 へ 導 入 す る 際の 問 題 点 など を検 討し た (第6章) 。 調査地域は北海道全域とし 、診療放射線技師1951名を 対象とした。
質 問内容は、勤務地、Teleradiologyの認識度・興味、導 入された際に予想される問題 点などとした。
そ の結果、◎ほとんどの放射 線技師は Teleradiology を耳にしたことがあり、興味を持っている技 師 は60% であ った 。 ◎Teleradiologyが導 入さ れ た際 、難 しい症例の読影依頼(60%) や救急時の診 断(30%) に 利用 され るで あろ う と予測していた。また、半 数の技師が機器の管理を放 射線技師が行 う であろうと考えていた。◎ 導入した際に予想される問題 点は、院内での運用体制(37%)、導入コス ト(34%)を挙げていた。これ らの結果からも、Teleradiologyを普及させるためには、必要性の認知、
院 内 ・施 設問 の運 用 体制 、機 器の 導入 費 用な どの 問題 を解 決していかなくてはならな いであろう。
今 後 、本研究を基本としてPACSおよびTeleradiologyの詳細 な費用効果分析を行うととも に、運用・
管 理 面を 含め た分 析を 加 える こと によ り 、通 信情 報技術を 医療ヘ応用した際の医療技 術評価(MTA:
Medical Technology Assessment)が期 待 され る。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 櫻井恒太郎 副査 教授 宮 坂和男 副査 教授 前 沢政次
学 位 論 文 題 名
Socio‑economical analyses of PACS and teleradiology 医 用 画 像 管 理 シ ス テ ム お よ び 遠 隔 放 射 線 画 像 転 送 シ ス テ ム の 社 会 経 済 的 分 析
近年のコンピュータの高速化と大容量 化、ネットワーク特にインターネット技術の進歩、
情報 通信 機器 の低 価格化 は医療における情報技術の利用を普遍的なものとした。 これらの技 術が 積極 的に 医学 ・医療 に導入され、医用画像管理システム(PACS: Picture Archiving and Communication System)や遠 隔放 射線 画像 転送 シス テム(teleradiology)が実用 可能となっ てい る。 更に 、こ こ数年 間で医療情報の電子保存に関連する通知が厚生省から出 されたよう に 、 法 制 面 での 整備 も少 しず っで ある が開 始さ れた 。PACSやteleradiologyにつ いて は経 済性 が保 証さ れる ことに より、今後、ますます普及するものと考えられる。本論 文は、今後 普 及 さ れ る であ ろう と予 想さ れるPACS及びteleradiologyにっ いて 、そ れら の技 術が 医療 に導入された際の効果・影響を情報学的お よび社会経済的な側面から探ることを目的とした。
ま ずPACSの 導入 に関 する 費 用分 析と して 、中 規模 病院 と健 診施 設を 対象に、 現状のフイ ル ム 保 管 とPACS導 入 に よ る 電 子 保 管 と を対 比さ せな がら 電子 保管 の実 現可 能性 を予 測す る と と も に 、 費 用 の 分 岐 点 を 推 計 し 導 入に 関す る問 題点 を提 示し た( 第2章 ・第3章 )。
teleradiologyに関 して は、 実際 に医 療機 関で 発生した医用画像のデータ量を推 計するとと もに、放射線診療(スタッフ・機器)の偏在を明らかにし、teleradiologyの導入が地域医療に 貢献 する かど うか の予測 を行った(第4章・第5章)。また、診療放射線技師を対 象としたア ンケ ート 調査 を行 い、teleradiologyが導 入さ れたと仮定した際の問題点などに ついて調査 を行った(第6章)。
1日 に175人(540画 像) が撮 影す る病 院にPACSを導 入し た場 合の 費 用分 析を 行っ た( 第2 章)。方法は、1日あたりの撮影フアルム枚数を変数として、画像観察 装置の種類と数、現像 機などの機器数、地価、新たに撮影する患 者比率を変化させた感度分析を行った。その結果、
@画 像観 察装 置に パー ソナ ル コン ピュ ータ を用いた 電子媒体保管を行うことにより、患者1 人に1枚の 光磁 気デ ィス クを 割り 当て ても 、新 たに撮影する患者比率が23%以下 であれば、
費用の面でフアルム保管と差がなかった。 ◎フアルムによる保管は地価の影響を受け安いが、
電子 保管 は地 価に よる 影響 が ほと んど なか った。一 般的な病院では、1日に新た に撮影する
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患 者比 率が5〜 20%と推測され るため、画像観察装置・画像管理装置などを考慮するこ とに より、電 子保管は可能であると結諭された。
診 療 報 酬制 度の 適用 を 受け ない 健診 施設 にPACS導 入を 想定 した 費用 分析 を試 み た( 第3 章 )。 方法 は実 際 の検 診施 設よ り得 られ たデ ータ をも とに 、従 来の フイルム保管モデ ルと CD‑Rに よる 電子 媒 体保 管モ デル を作 成し 、画 像記 録媒 体の 費用 、設 備費の差、保管容 積を 計 算・ 比較 した 。その結果、@ 画像記録媒体の費用は、フィルム保管モデルの方が非圧 縮で 30〜80倍 、1/10圧 縮 で300〜800倍 フ アル ム保 管モ デ ルの 方が 高価 であ った 。◎ フイ ルム 保 管モ デル と電 子媒体保管モデ ルの費用に関する分岐点を年間受診者数5000人とした場 合、
フイルム 保管モデル(一人当たり2000円のフイルム費用)と電子媒体保管モデル(非圧縮)の 設 備費 の差 は982万円 と推 計さ れた 。◎ 画像 記録媒体の保管容積は、フアルム保管モデ ルの 方が45倍 (非圧縮時)〜400倍(1/10圧縮時)必要であった。
PACS及 びteleradiologyの 導入 効果 を予 測す るた め の基 礎資 料と して 、北 海道 の医 療機 関 を対 象と した 画像発生量調査 を行った(第4章)。方法は 、北海道全域の医療施設661に対 し て、 画像 発生 量に関するアン ケート調査を行い、医療機関の形態・規模毎に医用画像 の発 生現状を 把握するととも画像発生の傾向を考察した。その結果、 くD医師一人あたり一日に発 生 す る 画 像情 報量 は、202MBであ り、 病床 数が 減少 す るに っれ て増 加す る傾 向に あっ た。
◎ 技 師 一 人 あ た り 一 日 に 発 生 す る 画 像デ ータ 量は422.5MBで あっ た。 ◎20床以 上 の病 院1 病 床 数 あ たり の画 像デ ー タ量 は10.2MBであ った 。精 神病 院・ 療養 型病 院で はこ れ らの1/5
〜1/10で あっ た。 @回 帰 分析 と重 回帰 分析 の結 果、 病床 数・ 医師 数.MRI数 ・放 射線 技師 数 ・ 病 床 数 な ど か ら 各 施 設 の1日 に 発 生 す る 画 像 デ ー タ 量 の 推 定 が 可 能 で あ っ た 。 北 海道 の放 射線 診 療の 地域 分布 とそ の特 徴を 分析 する こと を目 的に 、社会経済的指標 であ るLorenz曲 線お よ びGini係 数に よる 解析 を行った(第5章)。対象地域は北海道全域と し、
2次 医 療 圏 を集 計単 位と した 。調 査対 象は 放射 線機 器(CT、MRI、放 射線 治療 機器 )と 医療 従事者( 臨床医、放射線科医、診療放射線技師)とした。その結果、@人口を基準とした医師 と 診療 放射 線技 師 の解 析で は、 人口 層別 の分 布に よら ず北 海道 にほ ぼ均一に分布して いた (Gini係 数: 医師0.090、放 射線 技師 :0.107)。しかし、放 射線科医のGini係数は0.344であ り 、不 均一 であ る こと が明 らか にな った 。◎ 人口 を基 準と したCT. MRIの解析では、 人口 層 別の 分布 によ らず北海道にほ ば均一に分布していたが、放射線治療機器の人口層別の 分布 は不均一 であった。
診療 放射 線技 師 に対 してteleradiologyに 関する意識調査を行い、医療施設ヘ導入す る際 の 問題 点な どを 検 討し た( 第6章) 。調 査地 域は北海道全域とし、診療放射線技師1951名を 対 象と した 。質 問 内容 は、 勤務 地、teleradiologyの認識度・興味、導入された際に予 想さ れる問題 点などとした。
その結果 、くDほとんどの放射線技師は teleradiology を耳にしたことがあり、興味を持って い る技 師は60% であった。◎teleradiologyが導入された際 、難しい症例の読影依頼(60%)
や救急時 の診断(30%)に利用される であろうと予測していた。また、半数の技師が機器の管 理 を放 射線 技師 が行うであろう と考えていた。◎導入した際に予想される問題点は、院 内で の運用体 制(37%)、導入コスト(34%)を挙げていた。これらの 結果からも、teleradiology
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を普及させるためには、必要性の認知、院内・施設間の運用体制、機器の導入費用などの問 題を解決していかなくてはならないであろう。
今後、本研究を基本としてPACS および
teleradiologyの詳細な費用効果分析を行うとと もに、運用・管理面を含めた分析を加えることにより、通信情報技術を医療ヘ応用した際の 医 療 技 術 評 価
(MTA: Medical Technology Assessment)が 期 待 さ れ る 。
この論文はteleradiology を対象として医療における情報技術導入と、その社会的影響を 総合的に分析したものとして高く評価される。審査員一同は、これらの成果を高く評価し、
大学院過程における研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。
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