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1 密集市街地における外部不経済と施策の方向性

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密集市街地における外部不経済と施策の方向性

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU17704 貝原 聡

1 はじめに

1-1 研究の背景・目的

平成 23 年 3 月 15 日に閣議決定した住生活基本 計画(全国計画)においては、地震防災対策上多 くの課題を抱える密集市街地の改善は都市の安全 確保のため喫緊の課題であるとして、全国にある 約 6,000ha の地震時等に著しく危険な密集市街地 を平成 32 年度までに解消するという目標を定め たが、平成 28 年 3 月 18 日に閣議決定した同計画 において、約 4,450ha が未解消であることが公表 され、一層の取組強化が求められている。

密集市街地での政府の介入は、延焼危険性、避 難困難性、密集度など防災上の危険要因が重なる 地域に対し、様々な取組が行われている。一方、

平成 29 年 12 月 22 日に起きた新潟県糸魚川市の 大規模火災のように危険要因が重ならず、重点的 な取組が行われていない地域での火災延焼被害も 度々起きている。

経済学において、政府の介入が必要とされるた めには、市場の失敗の存在が求められる。密集市 街地の解消に関する政府の介入は、密集市街地に おける防災性能の低い老朽木造家屋の高密度さ、

道路等の社会資本整備の著しい低さが、地震時等 の防災上の危険性、平常時の住環境の悪化といっ た、外部性に対する政策として正当化できる。

住宅市場における外部不経済に関する研究とし ては、山鹿ほか(2002)では、地震危険度が高い 地域は低い地域より地価が下落すること、宅間ほ か(2007)では、木密地域では非木密地域より、

地価が下落することを示している。このように、

住宅市場における外部不経済の研究は、密集市街 地に着目をしたものも含め様々な研究が行われて きているが、密集市街地の危険性を分類した上で どの危険要因がどの程度外部不経済を生じさせて いるのかといった点に着目した経済分析はない。

本稿では、密集市街地において外部不経済をも たらすだろう危険要因である、老朽木造率、平均 敷地面積、細街路率が地価にどのような影響を与 えるかを分析し、密集市街地における現施策の取 組範囲、内容等に関する課題を明らかにし、密集 市街地施策について有用な政策提言をすることを 目的とする。

2 密集市街地の現状分析

2-1 密集市街地の形成経緯と課題 東京都の密集市街地は山手線外周部に広範に分 布している。これらの市街地は概ね1910年頃から 1925年頃までに急速に市街化した区域と重なる。

市街地建築法(1919年公布・施行)が適用された 前後で、1938年に法改正されるまでは、道路の最 低幅員は2.7mが要求されていた。こうした状況下

で、宅地化が進んだ地域の一部が、現在になって も幅員が4m未満の細街路を多く有する状況となっ ている。また、東京都以外に目を向けても、この 頃、宅地化が進んだ地域では、同様に細街路を多 く有する街並みが残っている。例えば、川崎駅周 辺では、1912年の工場誘致政策の成果として、大 規模工場の立地が進み、この頃、宅地化が進んで おり、細街路が多い街並みが残っている。こうし て形成された市街地が、その後、大規模な面整備 等が行われず、都市基盤や街区の形成が市街地建 築法制化のまま、高度経済成長期の急激な人口増 加を向かえ、無秩序かつ高密度に宅地化が進み、

現在の密集市街地を形成したと考えられる。その ため、密集市街地においては、建築基準法の接道 要件を満たすことが困難な敷地が多いこと、借地 借家など複雑な権利関係が多いこと、高齢者が多 く、経済的余裕がない住民が多いこと等により、

建替えが進みづらく、延焼危険性等防災上の課題 を多く有するまま解消がなかなか進まない状況に ある。

2-2 密集市街地の取組

国は、平成15年12月26日に「地震時等において 大規模な火災の可能性があり重点的に改善すべき 密集市街地」(以下「重点密集市街地」という。) を把握し、取りまとめ結果を公表した。

各自治体は密集市街地対策として取組を行う範 囲について、国の把握方法等を踏まえ、「地域の 実情を踏まえた精査」を行い、それぞれ異なる考 え方で定めている。また、平成23年に起きた東日 本大震災以降、取組範囲を見直している自治体も 確認できる。このように、各自治体が密集市街地 対策として取組を行っている範囲は、各自治体が それぞれ妥当と判断した何らかの客観的な指標に 基づき、各自治体で優先順位が高い地域から選定 されていることがわかる。

次に、各自治体の主な密集市街地対策を整理す る。ここでは、「修復型」と「クリアランス型」

に分け、整理したい。

「修復型」は、土地利用規制と補助金等による 誘導的手法を合わせて実施することで、従前の土 地利用を大きく変化させず、建物の建替えに合わ せて防災性の向上を図る取組であり、条例による 防火規制の強化や老朽建築物の解体費、準耐火建 築物等の耐火性能の高い建物への建替え等に対す る補助金等が挙げられる。

「クリアランス型」は、既存の小規模な老朽建 築物等を全面的に除却し、道路等の公共施設の整 備を行い、大幅な土地利用転換を伴いつつ、防災 性の向上を図る取組であり、市街地再開発事業等 がその典型であり、都市再開発法等に基づき、防

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2

災上の危険性等を根拠に土地の買収や権利変換に 関与する等の公的機関等がある一定の強制力を行 使することが可能となっている。

3 密集市街地の危険要因の実証分析方法等 3-1 理論分析の整理と実証分析の目的 密集市街地の政府の介入は、経済学的には、外 部性に対する政策として正当化される。例えば、

密集市街地の老朽木造家屋の多さは、延焼の恐れ をもたらし、外部不経済を及ぼしていると考えら れる。図1は、密集市街地の宅地市場を示したも のであり、宅地の需要曲線をD1、供給曲線をS1と する。ここで、密集市街地は都市部であるため、

短期的には宅地の供給量は限定的で、供給曲線S1 は垂直となる。老朽木造家屋が延焼の恐れを人々 に感じさせ、宅地の需要は下がり、需要曲線がD2 となる。周辺地域の地価がP1→P2と下落し、老朽 木造家屋は周辺地域に外部不経済を生じさせるこ ととなる。また、重点密集市街地等の特定の地域 のみへの政府の介入は、そうした地域のみ、外部 不経済が著しく大きいと考えることで正当化され る。これは、工学的には、図2のとおり不燃領域 率が40%未満の場合、焼失率が著しく高いことが 知られており、これにより、取組範囲として妥当 であると説明できる。しかし、実際は、重点密集 市街地等の特定の地域のみで著しく外部不経済が 生じているのであろうか。これまでの重点密集市 街地等の選定過程において、防災上の危険要因に 関して外部不経済の分析はされていない。また、

重点密集市街地等に選定されていない密集市街地 においても、風速などの条件次第では、大規模な 火災が起きている。

よって、防災上の危険要因それぞれが、どうい う範囲でどの程度、外部不経済を発生させている のか明らかにし、これまでの政府の介入が最適で あったのか、施策の方向性としてどうするべきな のか検討を進めるため、キャピタルゼーション仮 説(金本(1997))が成立するとして、具体的な 地域を対象にヘドニック・アプローチによる実証 分析を行う。

3-2 分析対象

本稿においては、分析対象を神奈川県川崎市と した。この理由としては、2点。第1に、川崎市が 東京駅から概ね15km~30km圏内であり、高度経済 成長期に多くの住宅が供給されていることで、市

内の多くの地域に老朽木造家屋が点在しており、

第2に、市街地の形成経過が、戦前から発展して いた南部、また、鉄道の開通とともに発展してき た、中北部と、様々な年代に開発された住宅市街 地があり、研究対象として妥当と考えた。

3-3 分析に使用する変数の定義

危険要因と地価の関係を推計するため、危険要 因は、川崎市都市計画基礎調査(2010年)から作 成した町丁目単位のデータ、地価は東日本不動産 流通機構から入手した戸建住宅取引価格(2010年

~2014年における土地と建物の価格)を用いた。

個々の危険要因については、平成15年7月11日に 国が公表した重点密集市街地の把握方法である「

延焼危険性」「住宅の密集度」「避難、消火等の困 難性」の3指標を採用し、これらの危険要因を最 も妥当に示していると考えられるデータを次のと おり定義した。

「延焼危険性」は、「老朽木造率」という指標 で定義した。「老朽木造率」は、「物件の存在する 町丁目における築30年以上(1980年以前建築)の 木造建物の建築面積を全建築面積で除した値」で ある。代理した主な理由は、2つ。第1に、基礎調 査データには構造データが木造か非木造しかない ため、詳細な構造別の棟数を把握できないため、

1987年建築基準法改正以降に木造による準耐火建 築物の設計が可能となったため、1980年以前の木 造建物は確実に裸木造又は防火木造であること。

第2に、危険要因と地価の関係を推計することで 進める本稿においては、外観上で延焼危険性を人 々が感じることができることが必要であり、1981 年建築基準法改正では、壁量規定の見直しが行わ れ、構造用合板や石膏ボード等を張った面材が追 加され、それまではベニヤやモルタルが主流だっ た外壁材に、構造用合板、サイディングの仕上げ が普及してきたことから、1980年以前の木造建物 が、外観上も、それ以降とは異なること。

「住宅の密集度」は、「平均敷地面積」という 指標で定義した。「平均敷地面積」は、「物件の存 在する町丁目における住宅、店舗併用住宅の敷地 面積の合計を物件の存在する町丁目における住 宅、店舗併用住宅の全棟数で除した値」である。

「避難困難性」は、「細街路率」という指標で定義 した。「細街路率」は、「物件の存在する町丁目にお ける4m未満の道路延長の合計を物件の存在する町丁 目における全道路延長で除した値」である。

コントロール変数は、既往の研究を参考に、築 年数、主要駅までの時間、最寄り駅までの時間、

土地・建物面積、log 接道幅員、用途地域ダミ ー、高齢化率、工業系建物比率、人口増加率、木 造ダミー、沿線ダミー、年度ダミーを設定した。

4 密集市街地の危険要因の実証分析 4-1 危険要因別の外部不経済

仮説 1~3 を検証するために、OLS(最小二乗 法)により推計した。

図 2 不燃領域率と焼失率の関係 出典 建設省(1983)

図 1 密集市街地の宅地市場

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(推計1)

被説明変数 地価 係数 標準誤差

築0~9年木造率 205,871** 81,115

築10~19年木造率 33,007 81,084

築20~29年木造率 -35,143 80,874

老 朽 木 造 率 ( 築 3 0 年 ~ ) -169,145 * * 78,637

築0~9年非木造率 64, 972 74,995

築10~19年非木造率 26,112 75,697 築20~29年非木造率 -20,743 75,361 築30~39年非木造率 41,579 76,830 築40~49年非木造率 -42,885 85,520

築50年~非木造率 56,748 201,276

定数項 28,100,000*** 7970448

観測数 1904

*** 1%有意 ** 5%有意 * 10%有意

(推計4)

被説明変数 地価 係数 標準誤差

老朽木造率 - 2 1 1 ,9 9 0

* *

* 3 2 ,6 0 0

平均敷地面積100㎡未満ダミー - 4 , 8 1 2 ,7 7 3

* *

* 2 , 0 2 9 ,7 0 3 平均敷地面積100~150㎡未満ダミー - 2 , 7 6 5 ,2 6 3* ** 7 7 6 ,7 4 3 老朽木造率*平均敷地面積100㎡未満ダミー 2 0 9 ,5 0 4* * 1 0 6 ,2 0 8 老 朽木 造率 * 平均 敷地 面 積100 ~150 ㎡未 満ダミ ー 1 5 8 ,0 6 9

* *

* 5 1 ,5 7 0

定数項 34,200,000*** 2,575,714

観測数 1904

*** 1%有意 ** 5%有意 * 10%有意

(推計5)

被説明変数 地価 係数 標準誤差

老朽 木造率 - 1 9 7 ,4 4 8

* *

* 3 2 ,3 3 1 細街 路率3 0 % 以上ダミー - 6 , 5 9 7 ,0 5 3

* *

* 1 , 0 0 9 ,3 3 0 細街 路率2 0 ~3 0 % ダミー - 4 , 4 5 0 ,7 4 2

* *

* 9 7 9 ,3 1 7 老朽 木造率* 細 街路率3 0 % 以上ダミー 2 6 3 ,8 8 0

* *

* 6 3 ,3 0 6 老朽 木造率* 細 街路率2 0 ~3 0 %ダミー 1 7 7 ,0 5 1

* *

* 6 4 ,0 0 8

定数項 35,100,000*** 2,456,346

観測数 1904

*** 1%有意 ** 5%有意 * 10%有意

仮説1~3

売買のあった戸建住宅の周囲の①老朽化した木 造の建物が多いこと(老朽木造率が大きいこと)

②住宅が密集していること(平均敷地面積が小さ いこと)③狭い道路が多いこと(細街路率が高い こと)という個々の危険要因によって、防災上の 危険性等を感じ、地価を下落させるのではないだ ろうか。

推計結果1~3

個々の危険要因は単独であっても、地価を下落 させること、第3章で定義した主な説明変数が、

危険要因の代理変数として、妥当性があることが わかった。ここでは推計 1 の結果を表 1 に示す。

表 1 推計 1 の結果

4-2 危険要因の重複に伴う外部不経済 仮説4、5を検証するために OLS(最小二乗 法)により推計した。

仮説4、5

平均敷地面積が小さい程、細街路率が大きい程、

市街地が密集しているため、老朽木造家屋が増え ることにより、地震時等に延焼しやすいと感じ、地 価を下落させているのではないか。

なお、市街地が密集している状況として、金子ほ か(2017)を参考に平均敷地面積 100 ㎡未満、細街 路率 30%以上と設定し、市街地が一般的な状態であ るとして川崎市の全市街地の平均値を参考に平均 敷地面積 150 ㎡以上、細街路率 20%未満を設定し た。

推計結果4、5

推計4、5は仮説と反する結果となり、市街地が 密集している程、老朽木造家屋が増えることによ る地価減少幅は少なくなった。(表2、3、図3、4

)この結果については、平均敷地面積が150㎡以 上等の地域は比較的良好な住環境であり、老朽木 造家屋という住環境の悪化をもたらす要因が強く 影響し、平均敷地面積が100㎡未満等の地域は比 較的劣悪な住環境であり、老朽木造家屋という住 環境の悪化をもたらす要因が増えようが、既に劣 悪な住環境であることから影響は少ないと考える ことで解釈できる。

平均敷地面積が150㎡以上等の地域では、敷地の

狭小さ、接道状況による建替え困難敷地が少ない 可能性が高いことが考えられ、現時点では老朽木 造家屋が少ない状況にあるが、仮に老朽木造率が 上昇していくと平均敷地面積が150㎡未満の地域 よりも地価を著しく下落させる恐れがあることが わかった。

平均敷地面積が100㎡以上150㎡未満の地域では、

老朽木造率を解消することで、地価を上昇させる ことができるが、建物の更新等に際して、相続等に より従前の敷地を切り売りし、細分化が進み、平均 敷地面積が100㎡未満となり、防災性が悪化するこ とで、地価を下落させることがわかった。

平均敷地面積が 100 ㎡未満の地域では、老朽木 造率の解消だけでは、地価が上昇しないことがわ かった。敷地の細分化を抑制することや敷地の共 同化を促進すること、道路の整備等を合わせて行 うことで地価を上昇させることができると考えら れる。

なお、すべての推計において、「築年数」「主要 駅までの時間」「徒歩分」の係数については、1%

水準で有意にマイナス、「土地面積」「建物面積」

「log 接道幅員」「低層住宅地ダミー」は、1%水準 でプラスに推定されている等、期待される符号、

既往の研究結果と概ね一致している。

表 2 推計 4 の結果

表 3 推計 5 の結果

老朽木造率(%)

老朽木造率(%) 地価(円)

地価(円)

図 3 平均敷地面積の分類による老朽木造率が地価に与える影響

図4 細街路率の分類による老朽木造率が地価に与える影響

(4)

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5 政策提言

従来は密集度、避難困難性が低く、取組があまり 行われていなかった地域は、 基本的には危険要因 が重なっている地域に比べ、狭小敷地や接道状況 の悪い敷地が少なく、建替えがしやすく、老朽木造 家屋は少ない。しかし、推計結果から、こうした市 街地環境でも老朽木造率の上昇により外部不経済 が生じ、更にこうした市街地環境の方が老朽木造 率の上昇による外部不経済が大きいことがわかっ た。

密集市街地で老朽木造家屋が増える原因は、前 述のとおり、敷地の狭小さ、接道状況の悪さといっ た市街地環境の特殊性以外に、高齢化による資金 不足、複雑な権利関係といった理由が挙げられる。

こうした理由により建替えができない状況は、危 険要因が重なる密集市街地だけでなく、危険要因 が重ならない地域においても、高齢化の進展によ って、今後より多く生じると考えられる。

これらの理由から、危険要因の重ならない地域 に対しても、老朽木造家屋の増加に対する予防的 対策をする必要があることから、住宅等に対する 税制の歪みの是正等が必要であると考える。地方 税法第 381 条及び総務省令(昭和 38 年 12 月 25 日 自治省告示第 158 号)では、家屋にかかる固定資産 税は、経過年数が大きくなるに従い、経過減点補正 率が上昇し、税額が小さくなる。これにより、建替 えないインセンティブが生じる。

外部不経済に対する根本的な解決を行うのであ れば、延焼危険性の増加等に伴う外部不経済の大 きさに応じて課税するピグー税を賦課するべきで ある。

重点密集市街地等、危険要因が重なっている地 域は、狭小敷地や接道状況の悪い敷地が多いこと 等により建替えしづらく、老朽木造家屋が増えや すい。今後も取組は必要であるが、推計結果から、

老朽木造率の上昇だけでは、外部不経済の解消は 見込めず、平均敷地面積を上昇させる共同化事業 や細街路率を下落させる道路整備等を行うことで、

外部不経済が解消できることがわかった。

密集市街地対策としては、老朽建築物の解体費 や準耐火建築物等の耐火性能の高い建物への建替 え等に対する補助金による取組が多く、「敷地の共 同化については、低層住宅密集市街地ではきわめ て困難といわれており、また成功事例もこれまで は少ない」(岩田ほか 1992)。こうした現状の取組 では、老朽木造率は下落し、防災性は向上するもの の、一向に外部不経済は解消できない。むしろ、小 規模住宅地の建替えが進むにつれて、その敷地周 辺での共同化事業に要する機会費用を払っている ことを考えると、個別建替え中心の施策は、安易に 正当化できない。一方で、繰り返しになるが、共同 化事業等は、容易には実現できないので、共同化事 業等について「実現するために何が必要か」、「実現 しなかった場合も考慮にいれてどのように取組を

進めるべきか」、という分類をした上で提言したい。

第1に、「実現するためには何が必要か」という 点について考えるために、まず、共同化事業が進ま ない原因を簡単に整理する。共同化事業等は、その 実施にあたり、事業スケジュールの不確実性や設 定方法、反対権利者への合意形成、都市計画等の行 政手続き、各権利者の移転先等の確保など、権利調 整にかかる費用等が非常に大きい。その費用と比 較して、各関係者が進めようとするほどの大きな インセンティブが存在しない、ということが共同 化事業等が進まない原因と考えられている。よっ て、権利調整にかかる費用等を可能な限り抑える こと、共同化事業等を進めるインセンティブを存 在させることが必要である。

第 2 に、「実現しなかった場合も考慮にいれてど のように取組を進めるべきか」という点について は、無計画に個別建替え等を進めるのではなく、密 集市街地のまちの将来像、その将来像を達成する ための整備の方針、計画を作成した上で、個別建替 え等の取組を進めるべきである。整備予定箇所な ど具体的な内容を記載することで個別建替えが進 んだことが要因となり、共同化事業等が進みづら くなるといった状況は改善されることが考えられ る。

6 今後の課題

提言の実現化には、外部不経済の大きさの分析 について、確度を高めた研究を進めることが求め られる。本稿の具体的な課題としては、「延焼危 険性」を築 30 年以上の木造建物の割合で代理し たこと、「周辺」を「町丁目」としたこと等が挙 げられる。現状では、整備されていない各建物に 関する外壁材、屋根材の種類、築年数、改修・増 築の履歴、腐朽度等のデータが GIS 上の各建物単 位で整備できれば、現実の市街地環境を高い確度 で表現でき、防災上の危険要因による外部不経済 の大きさをより追究することが可能であると考え られる。

参考文献等

・石田頼房(2004)『日本近現代都市計画の展開 1868-2003』自治体研究社

・岩田規久男・小林重敬・福井秀夫(1992)『都市と土地の理論:経済学・都市工 学・法制論による学際分析』ぎょうせい

・岩田規久男・八田達夫編(1997)『住宅の経済学』日本経済新聞社

・金子弘・勝又済・岩見達也・西澤繁毅(2017)国総研研究報告第 928 号「密集市街 地における協調的建て替えルールの策定支援技術の開発」

・金本良嗣(1997)『都市経済学』東洋経済新報社

・建設省(1983)『総合技術開発プロジェクト「都市防火対策手法の開発」』

・宅間文夫(2007)「密集市街地の外部不経済に関する定量化の基礎研究」『季刊住 宅土地経済』No.64,p30-37

・中川雅之(2003)『都市住宅政策の経済分析』日本評論社

・福井秀夫(2001)『都市再生の法と経済学』信山社出版社

・福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』日本評論社

・防災都市づくり研究会編(2003)『都市再生のための防災まちづくり 密集市街地 再生戦略』ぎょうせい

・山鹿久木・中川雅之・齊藤誠(2002)「地震危険度と地価形成:東京都の事例」

『応用地域学研究』No.7,p51-62

参照

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