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ブルーベリーの品種の変遷と最近の研究動向

伴 琢也

東京農工大学農学部 183-8509 東京都府中市幸町

Historical Changes in Cultivars and Recent study Trends of Blueberries

Takuya Ban

Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology, Fuchu, Tokyo 183-8509

はじめに

ブルーベリーは北米大陸原産の落葉性または常緑性の果 樹であり,ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium L.) に分類される.近年,世界的規模でブルーベリーの栽培面 積および果実の需要が急増しており,我が国においても過 去10 年間で栽培面積および収穫量は 2.5 倍に増加した. ブルーベリーが自生しない我が国において本果樹の経済栽 培を成功させるためには樹体と果実の成長生理および品種 特性を理解する必要がある.特にブルーベリーの樹体は複 数の主軸枝から構成され,根系は健全な成長に酸性土壌を 要求するなど,他の一般的な温帯性果樹とは異なる成長特 性を有する.また,果実についても同一結果枝に着生した 果実の成熟開始期が異なることや液果であるために貯蔵性 に著しく劣るなどの特徴がある.そこで本稿では,ブルー ベリーの来歴と品種育成の歴史,国内外における栽培の現 状,さらに根系および果実に関する最近の研究トピックス について概説する.

ブルーベリーの来歴

(1)スノキ属 ブルーベリーの祖先は白亜紀(今からおおよそ1 億 4,550 万年前から6,550 万年前を示す地質区分)より前の時代に おいて高度に進化した.さらにその後においても,温帯域 に適合するための進化は継続し,更新世(今からおおよそ 260 万年前から 1 万 2,000 年前を示す地質区分)以降にお いて,いわゆるブルーベリーとして北米大陸東部に定着し たものと考えられている(Gough, 1991a).現在,世界に は約400 種のスノキ属植物が存在することが報告されてい るが,その分類については未だ研究者により見解が異なる. 一例として,米国農務省の調査によると,北米大陸には39 種のスノキ属植物が自生することが明らかにされているが (USDA, 2014,第 1 表),Vander Kloet(1988)は 26 種であ

るとしている.我が国においてもクロマメノキ(V. uligi-nosum L.),ナツハゼ(V. oldhamii Miq.),シャシャンボ(V. bracteatum Thunb.),コケモモ(V. vitis-idea L.)をはじめと

するスノキ属植物が自生しており,果実は生食や加工用途 として利用されてきた.我が国に自生するスノキ属植物の 分類に関しても諸説があるが,玉田(1996a)は 18 種とし ている. (2)ブルーベリーとは? 米国農務省がスノキ属に分類した39 種の植物のうちの 20 種の通称に「ブルーベリー」という単語が含まれてい る(第1 表).そのなかでも経済栽培上重要な種類として ハイブッシュブルーベリー(V. corymbosum L. などに由来, 以下ハイブッシュ.),ラビットアイブルーベリー(V. vir-gatum Ait. に由来,以下ラビットアイ),ローブッシュブルー

ベリー(V. angustifolium Ait. および V. myrtilloides Michx. に

由来,以下ローブッシュ),以上の三つが挙げられる(USDA, 2014,第 1 図).学名からみても明らかなように,ブルー ベリーは複数の種を含む果樹の総称である.

品種育成の歴史

ブルーベリーの原産地である北米大陸において,古来よ り先住民はスノキ属の果実を食用に供してきた.1620 年 よりピューリタンの北米移民が始まるが,後に出版された 一般市民の日記やスウェーデン出身の科学者であるKalm (1716 ~ 1779)の手記にはスノキ属植物に関する詳細な記 述がある(Kalm, 2003; Russell, 1980).北米大陸への初期 の入植者は食糧不足に悩まされるが,スノキ属の果実は貴 重な食料の一つであったと考えられる.当時ブルーベリー は経済栽培されておらず,果実は自生個体から採集されて いた.ブルーベリーの育種は1900 年代から米国を中心に 始まり,現在においても毎年のように新品種が発表されて いる.米国におけるブルーベリーの育種の歴史については, Moore(1966)が本果樹に関する代表的な専門書の一つで ある「Blueberry Culture」において解説しており,比較的最 近 発 行 さ れ た 専 門 書「Blueberries for Growers, Gardeners, Promoters」の一節においてもほぼ全文が紹介されている 2014 年 1 月 16 日 受付.2014 年 4 月 6 日 受理.

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(Lyrene・Moore, 2006).本稿では Moore(1966)が記した 総説を概説し,さらに最近の品種育成の動向を紹介する. (1)ハイブッシュブルーベリー ハイブッシュの品種育成は,1908 年にニューハンプ シャー州において米国農務省のCoville が‘Brooks’を自 生個体群から選抜したことに始まる.ブルーベリーの品種 改良の重要性を認識したWhite は,1911 年より Coville の推 進する育種プロジェクトを支援し,その結果,両者の協力 により‘Adams’を始めとする多数の品種が選抜された. 1937 年に Coville は死去するが,彼が残した 68,000 もの実 生から‘Bluecrop’を始めとする多数の品種が選抜された. 1990 年代の米国において,ブルーベリーの栽培面積の 75%に Coville が交雑して作出した品種が栽植されており, さらに導入品種トップ10 のうちの 7 品種が彼の功績である ことが報告されている(Hancock, 2006).Coville の死後,米 国農務省のブルーベリー育種プロジェクトはDarrow が引き 継ぐ.Darrow は州立農業試験場や一般のブルーベリー生 産者を加えた新品種作出のための協力プログラムを確立し, 本プログラムにより新品種の地域適応性の解明が進んだ. (2)サザンハイブッシュブルーベリー 1950 年代初頭から米国農務省とフロリダ大学は,夏季 が高温かつ湿潤であり,さらに冬季が温暖なフロリダ州の 気象条件に適応するブルーベリーの共同育種プロジェクト を開始し,その結果誕生したのがサザンハイブッシュブ ルーベリー(以下,サザンハイブッシュ)である.V. cor-ymbosum L. がノーザンハイブッシュと称され,その休眠 打破に必要な低温要求量がおおよそ1,100 時間であるのに 対し,サザンハイブッシュのそれは400 時間以下とされて いる(Gough, 1991b).本プロジェクトでは,ノーザンハ イブッシュにフロリダ州に自生する常緑性のV. darrowi Camp. の優れた形質(低温要求量が少ないこと,果皮が青色であ ること,耐乾性を有すること)を付与することを目的とし て両種が交配された.サザンハイブッシュの作出の過程で, 1952 年に V. darrowi Camp. と同様に低温要求量の少ない V. myrsinites Lam. とノーザンハイブッシュを交配した雑種個 体が獲得された.しかし,これら雑種の萌芽は遅く,着生 した果実が黒色になることが確認されたため,これ以降は V. darrowi Camp. が育種母材として利用されている.1 図 北米大陸におけるブルーベリーの自生状況(USDA, 2014 を一部改編) (A),(B) : V. corymbosum L. (C) : V. virgatum Ait.D),(E) : V. angustifolium Ait.F),(G) : V. myrtilloides Michx.1 表 北米大陸に自生するスノキ属植物の学名と通称(USDA,

2014)

学名 通称

Vaccinium alaskaense Howell Alaska blueberry

Vaccinium angustifolium Aiton Lowbush blueberry

Vaccinium arboreum Marsh. Farkleberry

Vaccinium × atlanticum E.P. Bicknell (pro sp.)

Vaccinium boreale I.V. Hall & Aalders Northern blueberry

Vaccinium caesariense Mack. New Jersey blueberry

Vaccinium × carolinianum Ashe (pro sp.)

Vaccinium cespitosum Michx. Dwarf bilberry

Vaccinium corymbosum L. Highbush blueberry

Vaccinium crassifolium Andrews Creeping blueberry

Vaccinium darrowii Camp Darrow’s blueberry

Vaccinium deliciosum Piper Cascade bilberry

Vaccinium × dobbinii Burnham (pro sp.) Elliott’s blueberry

Vaccinium elliottii Chapm. Southern mountain cranberry

Vaccinium erythrocarpum Michx. Southern blueberry

Vaccinium formosum Andrews Black highbush blueberry

Vaccinium fuscatum Aiton Black highbush blueberry

Vaccinium geminiflorum Kunth Mexican blueberry

Vaccinium hirsutum Buckley Hairy blueberry

Vaccinium macrocarpon Aiton Cranberry

Vaccinium × margarettiae Ashe (pro sp.) Vaccinium × marianum S. Watson (pro sp.)

Vaccinium membranaceum Douglas ex Torr. Thinleaf huckleberry

Vaccinium myrsinites Lam. Shiny blueberry

Vaccinium myrtilloides Michx. Velvetleaf huckleberry

Vaccinium myrtillus L. Whortleberry

Vaccinium × nubigenum Fernald (pro sp.)

Vaccinium ovalifolium Sm. Oval-leaf blueberry

Vaccinium ovatum Pursh California huckleberry

Vaccinium oxycoccos L. Small cranberry

Vaccinium pallidum Aiton Blue Ridge blueberry

Vaccinium parvifolium Sm. Red huckleberry

Vaccinium scoparium Leiberg ex Coville Grouse whortleberry

Vaccinium simulatum Small Upland highbush blueberry

Vaccinium stamineum L. Deerberry

Vaccinium tenellum Aiton Small black blueberry

Vaccinium uliginosum L. Bog blueberry

Vaccinium virgatum Aiton Smallflower blueberry

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3)ハーフハイブッシュブルーベリー ハイブッシュの耐寒性を強化し,さらに果実の早熟性を 獲得する目的でハイブッシュとローブッシュを交配して作 出された品種群がハーフハイブッシュブルーベリーである (以下,ハーフハイブッシュ).1909 年,Coville はローブッ シュ‘Russell’を自生個体群から選抜し,1911 年にはハ イブッシュ‘Brooks’と‘Russell’を交配した結果,‘Greenfield’, ‘Redskin’,‘Catawba’が作出された.ブルーベリーの経 済栽培において非常に重要な役割を果たした品種として ‘June’,‘Rancocas’,‘Weymouth’,‘Earliblue’,‘Collins’ が知られているが,これら品種は‘Greenfield’,‘Redskin’, ‘Catawba’を交配した後代である. (4)ラビットアイブルーベリー ラビットアイは耐暑性に優れ,ハイブッシュと比較して 土壌適応性が広く,低温要求量も少ない.ラビットアイは 米国南部におけるブルーベリーの経済栽培に不可欠な種で あり,さらにDarrow(1947)はラビットアイが有するこ れら形質の育種における活用を示唆している.ラビットア イの経済栽培は,1893 年にフロリダ州西部において自生 個体をほ場に定植することにより始まったが,果実品質や 樹体成長の均質化を目的に品種改良の機運が高まった.1925 年からジョージア大学のCoastal Plain Experiment Station に おいて自生個体の収集が始まり,1940 年には農務省との 共同育種プロジェクトへと拡大する.1950 ~ 60 年代にか けて,本プロジェクトより‘Homebell’,‘Tifblue’,‘Woodard’ が誕生した. 以上がMoore(1966)の記した総説である.ここに紹介 した育種プログラムは,米国内の各産地におけるブルーベ リーの生産性の向上や栽培南北限の拡大を目標にしており, その成果として1980 年代までに新品種が作出されている. (5)最近の品種育成の動向 1990 年代にブルーベリーの育種は転換期を迎えるが,そ の背景には世界的規模での果実需要の増加がある.1990 年代から2000 年代初頭において,世界のブルーベリーの 生産量が増加するが,多くの場合,果実は過去においてブ ルーベリーが栽培されてこなかった地域において生産され たものである.これは品種改良による環境適合性の拡大と 各地域における独自の栽培技術が発展した結果であるとい える.現在のブルーベリーの育種目標は1900 年当時のも とのほとんど変化しておらず,最も重要な形質として①高 い生産性②優れた風味③優れた果実品質④果柄痕の乾燥程 度(収穫後果実の果柄痕が湿潤状態の場合,貯蔵性に劣る) が挙げられる(Finn ら,2014).これら以外にも,果実の 成熟に関する早晩性,硬度,果皮の色,貯蔵性や高pH 土 壌における成長適性など,非常に多岐にわたる形質が改良 の対象となっている(Prodorutti, 2007).Finn ら(2014)が 調査した2012 年の冬季の段階で,少なくとも 34 のブルー ベリーの育種プログラムが実施されている.実施国の内訳 としては,米国が最も多く,次いでチリとなっている.以 上のプログラムのうち,75%がノーザンハイブッシュ, 61%がサザンハイブッシュ,36%がラビットアイを対象と しており,ローブッシュの品種改良を行っているプログラ ムはない.

国内外における栽培の現状

FAO が発表した最新の統計情報によると,2011 年にお ける世界のブルーベリーの収穫面積は8 万 3,529 ha であり, 収穫量は36 万 8,804 t である(FAOSTAT, 2014,第 2 表). 2000 年のデータと比較した場合,収穫量と収穫面積はお よそ1.5 倍に増加している.国別データでは,収穫面積は カナダで最も多く,次いで米国,スウェーデンの順となっ ている.これに対して収穫量は米国が最も多く,次いでカ ナダ,フランスとなっており,収穫面積と収穫量の上位2 国の順位が入れ替わっている.その理由として,カナダに おけるブルーベリーの栽培が,ハイブッシュやラビットア イと比較すると収量の劣るローブッシュを主に利用してい るためだと考えられる.2013 年 11 月 20 日に農林水産省 が発表した平成23 年産特産果樹生産動態等調査によると, 我が国における栽培面積は1,041 ha,収穫量は 2,452 t であ り,沖縄県を除く46 都道府県で経済栽培が実施されてい る.主要な産地は長野県,群馬県,茨城県となっている(農 林水産省,2013).

ブルーベリーの根系に関する研究トピックス

(1)画像解析による根系調査 ブルーベリーの根系は養分を貯蔵し,植物体を固定する 部分と養水分の吸収を担うhair root から成り立つ(hair root に対応する日本語は存在しない).ハイブッシュの若齢の hair root の直径は 50 ~ 75 µm と非常に細く繊細なものであ 第2 表 世界におけるブルーベリーの栽培状況(2011 年, FAOSTAT,2014) 国名 収穫量 (t) 国名 収穫面積 (ha) United States of America 188,150 Canada 34,277 Canada 83,507 United States of America 27,684 Poland 9,946 Sweden 4,800 Germany 8,305 Poland 2,521 Netherlands 4,700 Germany 1,429 Sweden 2,800 Lithuania 1,000 New Zealand 2,600 Netherlands 960 Romania 2,200 New Zealand 520 Russian Federation 1,900 Russian Federation 500 Lithuania 1,800 Romania 280 Italy 1,400 Italy 200 Spain 1,000 Ukraine 190 Ukraine 1,000 Uzbekistan 130 Uzbekistan 800 Latvia 110 Latvia 770 Norway 23 France 670 Mexico 15 Portugal 290 Morocco 10 Mexico 106 Spain ― Morocco 70 France ― Norway 33 Portugal ―

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るため(Eck, 1966),ブルーベリーの根系に関する解析項目 は重量やhair root の直径などに限定されていた.近年,画 像解析技術の進歩は著しく,植物の根系解析においても本 手法は積極的に活用されている(Kimura・Yamasaki, 2003). 画像解析では根系画像をデジタル化し,専用のソフトを用 いて解析するが,測定できる項目は根径階級別の根長や根 端 数 な ど 多 岐 に わ た る.Valenzuela-Estrada ら(2008)は Fitter(1982)が提唱した植物の根系解析手法を用いてハ イブッシュの根系を精査している(根の先端を一次根とし, 基部に向かってさかのぼり,分枝ごとに根の次数が増加す る,第2 図).ハイブッシュの一および二次根の直径は 50 µm 前後であり,次数の増加とともにその直径も増加し, 六次根では200 µm 前後に達することを報告している.さ らに,根中の窒素および炭素含量を測定し,三次以降の高 次根と比較して,一および二次根のN/C 比が高いことから, ブルーベリーは一および二次根を介して土壌から養分を獲 得しているものと推測している. ブルーベリーの経済栽培において,hair root の健全な成 長は収量の安定と果実の高品質化に直結するため,種々の 栽培管理技術を駆使して根系発達を促進する必要がある. ブルーベリーが自生しない我が国において本果樹を栽培す る場合,土壌の酸性化やピートモスを始めとする有機物の 投入など積極的な土壌改良が必要になるが,その程度は生 産者の経験に基づいたものである.著者らはピートモスと 鹿沼土を混合して調製した挿し木繁殖用の培養土における 鹿沼土の混合割合がhair root の成長に及ぼす影響を画像解 析により調査し,鹿沼土の混合比率が25%の時に根系発 達が最大になることを明らかにしている(伴ら,2009).さ らに近年我が国において枯渇が危惧されている鹿沼土の代 替資材としての籾殻の有効性を検討し,培養土における籾 殻の比率が約40%の時に根系発達が最大になり,その値 は鹿沼土を利用した場合と比較して同等もしくはそれ以上 であることを明らかにしている(伴ら,2013). (2)根系の環境耐性とエリコイド菌根菌の共生 ブルーベリーは排水が良好であり,有機物に富む酸性土 壌に自生している.このような土壌ではアルミニウムイオ ンや重金属類が溶脱するが,酸性土壌中の植物の生育阻害 となる最も大きな要因はアルミニウムである.アルミニウ ム感受性の植物の根において,アルミニウムは根冠から伸 長域に至る部分に蓄積し,これら部位を構成する細胞の分 裂 お よ び 伸 長 を 抑 制 す る こ と が 知 ら れ て い る( 松 本, 2003).Reyes-Díaz(2010)はアルミニウム暴露がハイブッ シュ根系へ及ぼす影響を調査しており,その結果,ブルー ベリーのアルミニウム耐性には品種間差が存在することを 明らかにした.さらに,強いアルミニウム耐性を有する品 種の根系におけるアルミニウム含量は,耐性の低い品種の それと比較して低かったことから,ブルーベリーの中でも 特に強いアルミニウム耐性を有する品種には,他の植物で も確認されているアルミニウム排除機構が備わっているも のとしている.植物が有する根系のアルミニウム排除機構 として,リンゴ酸を始めとする有機酸を分泌して根圏で Al3+とキレート結合を形成し,根内へアルミニウムの取り 込みを抑制することなどが知られているが(松本,2003), 特にブルーベリーに関しては,最近根系に共生しているエ リコイド菌根菌の役割が注目されている.エリコイド菌根 菌の多くは子嚢菌門に属し,ツツジ科やイワウメ科植物の hair root に菌根を形成する(Wang・Qui, 2006).本菌根は 宿主であるツツジ科植物から栄養素の供給を受けるが,宿 主の重金属吸収を抑制する作用を有し(Cairney・Meharg, 2003),さらに菌根よりプロテアーゼやホスファターゼを 分泌して土壌中の有機物の分解とリンの無機化を促進し, もともと土中に存在する無機栄養分とともに宿主に供給し ている(Smith・Read, 2008).ツツジ科植物は他の植物が 成長困難な劣悪な環境下においても健全に成長している場 合が多く,その環境耐性の獲得にはエリコイド菌根菌の共 生が非常に重要な役割を果たしているものと考えられてい る.著者らは同一母樹から繁殖して我が国の複数地点で経 済栽培されているラビットアイ‘Tifblue’の根系を調査し, 共生するエリコイド菌根菌相の多様性はほ場の環境条件の 影響を受けることを示唆している(伴ら,2012).

ブルーベリーの果実に関する研究トピックス

(1)開花制御と栽培への応用 我が国において,ブルーベリーは短日条件に反応して葉 腋に花芽を形成し,花芽は休眠を経て翌年春に開花する(玉 田,1998).しかし,一部の品種において着生した花芽が 休眠に至る前に開花する場合があり,2013 年 11 月,東京 都府中市ではノーザンハイブッシュ‘Spartan’,サザンハ 第2 図 Fitter(1982)の手法に従い,Valenzuela-Estrada ら(2008) が提唱したV. corymbosum L. の根系モデル Hair root の先端を一次根とし,基部に向かってさかの ぼり,分枝ごとに次数が増加している

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イブッシュ‘Emerald’および‘Southmoon’の開花を確認 することができた(第3 図).いずれの果実もその後の気 温の低下に伴い枯死したが,以上の現象は栽培環境の制御 によりブルーベリーの二期作栽培の可能性を示唆するもの である.堀内ら(2013)は休眠前のブルーベリー 3 種 9 品 種を高温・長日条件下で栽培し,樹体の成長や果実の成熟 を精査している.その結果,休眠の深いノーザンハイブッ シュは露地と比較して開花が2 か月遅れ,収穫期は 8 ~ 9 月であったのに対し,休眠が浅いサザンハイブッシュでは, 品種により異なるが当年12 月から翌年 2 月にかけて果実 が成熟し,同時に新梢の先端から基部に向かって連続的に 開花・結実し,その収穫が翌年の7 月まで継続したことを 報告している. (2)成熟特性 ブルーベリーは同一樹の結果枝内,さらには果房内にお いて個々の果実の成熟開始期が異なる.開花は着果枝の先 端から基部の果花房に向かって,さらに花房内では基部か ら先端へ向かって進行するが,その早晩は果実の成熟に影 響しないことが知られている(玉田,1996b).早期に成熟 した果実は晩期のそれと比較して大きく,かつ含有種子数 が多いことが報告されており,受精の可否が結果として果 実の成熟開始期を決定するようである.果実は二重S 字 型成長曲線を示しながら肥大するが,その成長制御は植物 ホルモンによる.後藤ら(2013)はハイブッシュ果実の成 長に伴う内生植物ホルモンの変化を調査しており,IAA 含 量は花冠がほとんど落果する時期から増加して第II 期の 中頃に最大に達し,その後漸減することを明らかにした. これに対し,ABA 含量とエチレン生成量はほぼ同一の傾 向を示して変化し,萼がピンク色を呈し,果実の他の部分 がライトグリーンとなる時期以降に増加を開始して最大に 達し,その後漸減することを報告している.さらに,ABA 含量の増加とともに果肉硬度の低下と可溶性固形物含量の 増加が観察されたが,一部の品種では,ABA 含量が低い にもかかわらず,果皮の着色が進行することを明らかにし ている.Zifkin ら(2012)はハイブッシュ果実中のアント シアニン含量とABA 含量の間には強い相互関係があること を示唆しているが,ラビットアイ果実への外生ABA 処理 は果皮中のアントシアニン含量に影響せず(伴,未発表), エテホン処理は果実の着色を促進する(Ban ら,2007).以 上のように,ABA およびエチレンがブルーベリー果実の 成熟要素,特に果皮におけるアントシアニンの生合成に及 ぼす影響は未だ解明されていない. (3)貯蔵特性 農林水産省はブルーベリーを貯蔵性に劣る果実に分類し ており,一般消費者に対して購入後の早期の消費を推奨し ている.本果樹の貯蔵性が劣る理由としては,①果肉が軟 らかく,果皮の強度が低いこと,②主な収穫期が6 月下旬 から9 月上旬と高温であること,③収穫時に果実に直接触 れる必要があり,果粉の剥離や過剰な物理的ストレスを与 えてしまうこと,などが挙げられる.また,機械収穫した 場合の果実へのダメージは著しく,ラビットアイの場合手 摘み収穫と比較して,果肉硬度が20 ~ 30%減少すること が報告されている(NeSmith ら,2002).ハイブッシュを 機械収穫した際にも同程度の果実品質の劣化が発生してい るものと考えられており,その後の貯蔵期間における重量 損失や腐敗の発生頻度が増加することが報告されている (Sargent ら,2006).ブルーベリーの収穫および選果作業 における果実の損失を低減するためには,適熟な果実を適 切な方法で収穫しなければならない.さらに,果実を長期 間にわたり貯蔵するためには,健全な果実を供するのはも ちろんであるが,CA や MA 貯蔵も有効である.一般的に, ハイブッシュをCA 貯蔵する際の好適な環境条件は酸素濃 度:1.5 ~ 2.5 kPa,二酸化炭素濃度:5 ~ 12 kPa,温度:0°C とされており(Cameron ら,1994),ラビットアイについ てもその条件はほぼ同じであると考えられる.Schotsmans ら(2007)はラビットアイ果実を CA 貯蔵し,42 日間の 品質維持が可能であることを報告している.リンゴやモモ などの果樹と同様,ブルーベリーにおいてもエチレン作用 阻害剤の一つである1-methylcyclopropene(以下,1-MCP) を利用して果実の貯蔵性を向上させる試みがなされている が,現段階において,1-MCP 処理が果実の貯蔵性に及ぼ す影響には不明な点が多い.果実に対する1-MCP 処理に より,貯蔵期間における重量損失は減少するが,可溶性固 形物含量や滴定酸度をはじめとする他の品質要素に及ぼす 第3 図 ハイブッシュブルーベリー‘Spartan’の開花   (東京都府中市,2013 年 11 月 13 日撮影)

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影響に一定の傾向が認められず,特にCA 貯蔵と併用した 際には処理の効果がほとんどないことが報告されている (Chiabrando・Giacalone, 2011; DeLong ら,2003). ブ ル ー ベリー果実の流通において,菌類の繁殖に起因する腐敗の発 生も大きな問題となっており,Alternaria spp. や Colletotrichum spp. の繁殖が収穫前後における果実の腐敗発生要因の一つ とされている(Cline・Schilder, 2006).ブルーベリーの育 種において,種々の菌類に対する抵抗性を付与することは 重要な目標の一つである.ハイブッシュ‘Draper’と‘Brigitta’ は Alternaria spp. と Colletotrichum gloeosporioides(Pen.)

Penz. & Sacc. に対して,ハイブッシュ‘Aurora’は Alternaria spp. に対して高い抵抗性を有し,以上の 3 品種は現在まで に世界各地で導入されている‘Duke’,‘Bluecrop’,‘Jersey’, ‘Elliott’よりも貯蔵性が優れることが報告されている(Hancock ら,2008)

さいごに

我が国における主要果樹の栽培が衰退傾向にあるのに対 し,ブルーベリーの生産や果実需要は増加している.安心 で安全な国産のブルーベリー果実を安定的に生産するため には,環境負荷が小さく,かつ樹体や果実の成長生理に基 づいた栽培体系を確立することが必須である.特に我が国 における本果樹の栽培環境は原産地である北米大陸のそれ と大きく異なるため,栽培体系は独自のものを構築しなけ ればならない.樹体および果実の良好な成長を制限する 様々な環境要因を栽培技術の革新で解決することは非常に 有効な手段であると言えるが,栽培する地域の微気象に適 合した新品種の作出も有効であろう.現在我が国で栽培さ れているブルーベリー品種のほとんどすべてが海外で作出 されたものである.これら品種を作出した地域における樹 体や果実の成長状況と我が国におけるそれを比較した場 合,見劣りする例が多数みられ,我が国の栽培環境条件下 では,各品種のもつパフォーマンスが最大限に発揮されて いないように感じる.1980 年代において,オーストラリ アやニュージーランドでは本果樹の栽培地域の拡大を目標 に新品種が作出されたが,我が国の栽培環境に適合する新 品種の育成も今後重要になるものと考えられる.

引用文献

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