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児童虐待に関する一考察 一世代間伝達から見た虐待の実態一

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Academic year: 2021

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児童虐待に関する一考察 一世代間伝達から見た虐待の実態一

学校教育専攻

幼児教育コース 新居宗東

1 .問題の所在と研究の目的

今、児童虐待がマスコミによってこれほど 報道され、事態が深刻化していくのはなぜだ ろうか。子どもへの虐待は今始まったことで はない。子どもの売春や間引きなどを考えれ ば、その歴史は古いD こうした社会の実情や 貧困を背景とした出来事とは異なり、近年の 虐待は、家族全体がもっ病理や子育ての負担 感がもたらす虐待の増加が指摘されている口

母親の育児不安に関する研究は牧野の研究 以来相次いでなされ、夫婦関係、母親自身の 社会的ネットワーク及び子どもへの心理的距 離が母親の育児不安に影響を及ぼす社会的要 因と考えられている。母殺の気苦労や心労に お構いなく勝手気ままに行動する乳幼児への 不快感情、子どもの成長・発達への不安によ る母親自身の育児能力に対する不安、母親の 育児負担感や束縛感が、育児負担を募らせる。

のみならず、母親にのみ過重にかかる育児の 負担、子育てと就労・社会参画の両立困難、

子連れに対する冷たさ、子育てへの社会的応 援のなさが複合して、子育てへの負担感を増 幅させているという指摘もあるD

また、児童虐待の発生要因は、①親の生育 歴を含めた親自身の問題、②夫婦関係や家族 の病気、単身赴任などのストレスフルな家庭 の状況、③近隣や親族を含めた社会からの孤 立状況、④よく泣く、なだめにくい等子ども

指導教官橋)1/喜美代

悪さなど親と子どもをめぐる状況などの複合 要因がもとになって発生すると考えられてい る。本研究では特に、①の親の生育歴との関 係から虐待の世代間伝達の実態を明らかにす

ることを目的とする。

2.虐待の定義と世代間伝達について 2000年5月に成立し、同年11月に施行さ れた「児童虐待の防止等に関する法律J2 は、児童虐待について、保護者がその監護す

る18歳に満たない児童に対して行う行為で あるとし、①身体的虐待、②性的虐待、③ネ グレクト、④心理的虐待、の4類型を規定し ている。厚生労働省によれば、 2000年度の虐 待の実数は、 1990年度の 10倍にも及んでい るD 身体的虐待、ネグレクトの件数が多く、

6000件を超えるc 一方、心理的虐待、特に性 的虐待の件数は、 1000件

i

こ満たないD

また、 Brethertonは「子ども時代に被虐待 経験を持つ親は自分の子どもを虐待する危険 性」があると指摘し、虐待の世代間伝達を明 らかにした。もちろん全ての被虐待児が親に なって自分の子どもを虐待するわけではないc 適切な対処がこれら世代間の連鎖を断ち切る

ためには、虐待する親の心理的メカニズムの 解明が不可欠である。ここでは、森謡子著『叫 ぶ私』と某児童相談所のケースを例に示す。

自身の要因、いわゆる母子分離体験、相性の 3.子どもに虐待を加える親の生育歴

(2)

『叫ぶ私』は森自身のセラピーを基に書か れた小説である。セラピーを受ける理由の「ひ とつは小説の作品を書くためであった Jが、 主人公を作家に決めた時、森と主人公は「等 身大になったJo主人公で、ある私は「大人の女 になって、自分の娘を三人生んでも J母親離 れ が 出 来 な い 私 の 前 に 鉄 骨 の よ う に そ そ

り立つことを止め」ない母は、主人公を守り 支える実感を与えてくれる存在で、はなかった。

海岸を散歩中、「途中でぐずぐずしていると、

岩陰に隠れていなくなったりする」母の厳し い態度は、 4、5歳の子どもに「疎まれてい て、捨てられてしまう」のではないかという 恐怖感を植え付けた。こうした体験が心的外 傷となって、夫や子どもに心を閉ざし、冷た くしか接することができない自分。しかし、

母が自分との口論の直後に倒れたことをきっ かけに自立した私は、セラピーを通して加害 者で、あった自己を発見してし、くD

4.児童相談所のケース事例から

本事例の特徴は曾祖父・祖父がヤクザ文化 に準拠し、家庭においても威圧と支配に頼っ た養育を行ってきた点にある。本児(5歳)は、

高校生の父と同級生の母との間に生まれ、父 方が引き取ることで話がついたが、実際には、

養育困難なために、乳児院に入院した。 3歳の 時から、祖父の元に引き取られて以降、身体 的虐待が続いたD 保育所からの相談で児童相 談所(以下、児相と略す)が親族問の調整に 乗り出したケースであるD

虐待者である祖父は、曾祖父の支配的な親 子関係から自らも力を拠り所にして我が身を 処してきたため、拳を振りかざし、桐喝する ような養育スキルしか学べなかったD 本児に

対する「風呂(足を持って逆さずりに湯船に つけること)かバットだぞJ という脅しは、

本児を萎縮させ、金縛りにあったかのように 動きを阻止する。こうした状態が、祖父の怒 りをかえって誘い 暴力に拍車がかかるD 祖 父に萎縮して甘える事ができず顔色ばかりみ ている本児は、自己嫌悪と罪悪感から支配者 としての地位・自負を脅かし、苛立つた怒り がさらに本児に向けられるといった悪循環を 繰り返させたc ケースワークによる祖父への 援助は、祖父が曾祖父の力による支配から抜 け出し、本児の万引きや金銭の持ち出しとい った問題行動にも叩く寸前で持ちこたえるま でに感情のコントロールを強化させた。

このケースは、本児の養育が祖父の実力行 使によって実親にバトンタッチされたことで、

一応の終結をみせたc

おわりに

このように、虐待が発見され、児相が虐待 であると判断しでも約 820/0は在宅のまま地域 での生活が続くo ケースの実効性を上げるた めには、長期的で日常的な援助が不可欠であ る口しかし、児相は通告受理後の調査や虐待 を受けた子どもの保護など緊急の対応に追わ れ、すべての事例に対してこうした援助を行

うにはおのずと限界があるc

虐待件数の年々の増加や、緊急を要するケ ースの増加は、他機関との連携や弁護士とタ イアップした司法的手段による事例介入と問 題の解決を図る必要性を生み出しているc 迅 速性、解決の明確性、解決する法的拘束力な どにおいて、これまでにない成果を発揮し、

事例積み上げの中でも児童虐待に対応できる 新たな手法が求められている口

参照

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