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Waters Brian J 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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(1)

氏 名 うぉーたーず ぶらいあん じぇい

Waters Brian J

学 位 の 種 類

博士(医学)

報 告 番 号

乙第 1737 号

学位授与の日付

平成 30 年 10 月 4 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 2 項該当(論文博士)

学 位 論 文 題 目

Tissue Distribution of Suvorexant in Three Forensic Autopsy Cases

(法医剖検例 3 例におけるスボレキサントの臓器分布)

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

岩本 隆宏

(副 査) 福岡大学 教授

川嵜 弘詔

福岡大学 准教授

二村 聡

内 容 の 要 旨

【目 的】

法医剖検診断において、剖検試料からの薬毒物分析は、極めて重要である。検出される 薬物や化学物質が、死因や死に至る経過の解明に情報を提供することがある。特に、新薬 や新しい化学物質の検出は、法医学、中毒学の領域において、必須のもので貴重な情報を もたらすことになる。

スボレキサント(商品名ベルソムラ)は、2014 年から、米国と日本で使用が可能となっ た比較的新しい不眠症治療薬である。スボレキサントは、二元的なオレキシン受容体拮抗 剤で、OX

1

R と OX

2

R 受容体に結合し、神経細胞を抑制することによって睡眠を誘発する。

しかし、スボレキサントの法医剖検例の体内分布に関する研究は、行われていない。

申請者は、スボレキサントの分析法を確立するとともに、法医解剖例 3 例の臓器からス ボレキサントの検出と定量を行い、体内分布を明らかにすることを目的として本研究を行 った。

【対象と方法】

1.化学物質と試薬

(2)

標準品スボレキサントと内部標準としてジアゼパム-d

5

を使用した。対照ヒト全血は購 入した。尿はボランティアより提供を受けた。

2.試料処理

法医剖検例から、右心房血、左心房血、左大腿静脈血、尿、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、

肺、筋肉、脂肪を採取した。臓器組織は、ビーズ破砕機で均一化した。アセトニトリルで 蛋白質を除去し、さらに脂質除去とイオン交換は、固相抽出カートリッジを使用して処理 した。スボレキサントの定性検査、定量検査には、試料に標準品を添加する標準添加法を 採用した。

3.機器分析

スボレキサントは、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS/(MS))法で確認し、液 体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)法で定量した。ガスクロマトグラ フィー・質量分析装置(島津製作所 TQ8030)には、分離カラム(BPX5)とプレカラム(ZB- SemiVolatiles)を用いたタンデムカラムを使用した。

液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析装置(島津製作所 Prominence LC および Thermo Quantum Access MAX MS/MS)には、Thermo Hypersil GOLD PFP カラムを使用した。

【結 果】

1.スボレキサントの定性、定量検査法の確立

GC-MS/(MS)法による定性検査では、保持時間は 5.25 分に、基準ピークイオン m/z 186、

分子イオン m/z 450 をもつマススペクトルならびに多重反応モニタリングで m/z 186 から そのプロダクトイオン m/z 104 ならびに m/z 77 へのトランジションをモニターして分析 した。

LC-MS/MS 法による定量検査は、選択反応モニタリングで、分子にプロトン付加したペア レントイオンから基準ピークイオン m/z 186 へのトランジションをモニターして分析し た。

2.法医剖検試料による臓器分布

死後の薬物濃度の解釈は、しばしば死後変化による反応、死後再分配、ファーマコゲノ ミクス、その他の要素を受けることが考えられる。従って、死体のスボレキサントの摂取 量、および死亡前の薬物の影響を推測するためには、剖検試料からのスボレキサントに関 する多くの研究が必要である。

法医剖検試料からのスボレキサントの定量検査を、法医剖検例 3 例について実施した。

(3)

右心房血中スボレキサント濃度は、症例 1 で最も高く、次いで症例 3、症例 2 の順であっ た。最高血中濃度を示した症例 1 では、スボレキサント濃度は、左心房血で最も高く、次 いで左大腿静脈血、脂肪、腎臓、および肝臓の順であった。症例 3 では、スボレキサント は、脂肪で最も高く、次いで腎臓、肝臓、左大腿静脈血および右心房血であった。全ての 試料でスボレキサントが最も低い濃度であった症例 2 では、肺で最も高く、次いで左心房 血、右心房血および左大腿静脈血であった。

臓器分布パターンに明らかな特徴は見いだせなかったが、スボレキサントが脂肪、腎臓、

および肝臓に容易に蓄積することが明らかとなった。

血液/血漿比(b/p)は、ヒトでは未だ実験的に調べられていないが、高い血漿蛋白結合 性(99%)から、b/p は約 0.5 と仮定するのが妥当である。

また、スボレキサントは、中枢/末梢比(C/P)がほほ 1.0 であったため、著明な死後再 分配を示すとは考えられなかった。

【結 論】

法医剖検試料からの比較的新しい不眠症治療薬スボレキサントの分析法の検討と体内 分布を検討した。

GC-MS/(MS)装置による定性検査法、LC-MS/MS 装置による定量検査法が確立できた。法医 剖検例の各臓器から、スボレキサントを検出、定量できた。

スボレキサントは、ゾルピデムなどの他の睡眠導入剤と同様に、近い将来、日本で普及 するものと考えられる。さらに、スボレキサントは薬物を使用した性的暴行に使用される 可能性がある。従って、法医学や薬毒物分析の領域では、スボレキサントの剖検試料にお ける監視が必要である。

審査の結果の要旨

法医剖検診断において、剖検試料からの薬毒物分析は、極めて重要である。本研究 は、2014 年から使用が可能となった不眠症治療薬スボレキサントの分析法を確立し、法 医剖検例の体内分布を明らかにすることを目的とした研究である。

定性・定量検査:標準品スボレキサントと内部標準としてジアゼパム-d5 を使用し、ガ

(4)

スクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS/(MS))法で確認し、液体クロマトグラフィ ー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)法で定量した。GC-MS には、分離カラムとプレカラム を用いたタンデムカラムを使用した。GC-MS/(MS)法による定性検査では、保持時間は 5.25 分に、基準ピークイオン m/z 186、分子イオン m/z 450 をもつマススペクトルなら びに多重反応モニタリングで m/z 186 からそのプロダクトイオン m/z 104 ならびに m/z 77 へのトランジションをモニターして分析することで検出が可能であった。LC-MS/MS 法 による定量検査は、選択反応モニタリングで、分子にプロトン付加したペアレントイオ ンから基準ピークイオン m/z 186 へのトランジションをモニターしたところ定量でき た。

体内分布: 法医剖検例から、右心房血、左心房血、左大腿静脈血、尿、肝臓、腎臓、

脾臓、膵臓、肺、筋肉、脂肪を採取した。臓器組織は、ビーズ破砕機で均一化した。ア セトニトリルで蛋白質を除去し、さらに脂質除去とイオン交換は、固相抽出カートリッ ジを使用して処理した。血液よりスボレキサントが検出された法医剖検例(3 例)につい て体内分布を比較したところ、臓器分布パターンに明らかな特徴は見いだせなかった が、スボレキサントが脂肪、腎臓、および肝臓に容易に蓄積することが明らかとなっ た。

以上のように、スボレキサントの分析法を確立し、法医剖検例の体内分布を明らかに した。

1.斬新さ

睡眠導入剤は、デートレイプドラッグとして、性犯罪等の犯罪によく使用される。従 って、これらの薬物の分析は、極めて重要である。スボレキサントは、2014 年から使用 が可能となった比較的新しい不眠症治療薬である。本研究は、いち早くスボレキサント の分析法を確立したこと、さらには未だ報告がないスボレキサントの剖検試料の臓器分 布を明らかにしたもので、極めて斬新である。

2.重要性

本研究は、新規不眠症治療薬スボレキサントの分析法を確立したもので、極めて重要 な研究である。また、その剖検試料の臓器分布を明らかにしたもので、今後の研究の発 展において重要である。

3.研究方法の正確性

本研究は、GC-MS/(MS)装置による定性検査法、LC-MS/MS 装置による定量検査法を検討

したもので、バリデーション(validation)も行われており、正確性は確保されてい

る。研究方法の正確性に対して疑う余地はない。

(5)

4.表現の明瞭性

論文は、研究結果を表や図を用い分かり易く表現されている。また発表においては、

さらに分かり易く図解して説明した。表現の明瞭性は、十分確保されている。

5.質疑応答

Q1:ラットに [

14

C]スボレキサントを 20mg/kg の用量で経口投与したときの組織中放射濃 度分布のデータがあるが、それと比較して死後の体内分布の解釈について有用な考 察はできないか。

A1:ラットの実験結果の Vd は人の結果よりやや高く、脂肪の組織/血液比は類似してい ます。しかし、ラットのスボレキサントの投与量は 20mg/kg で、ヒトの服用量 20mg/

1 回に比し、多量なので、直接比較することは難しいと思います。

Q2:スボレキサントの主要なヒト代謝産物として M9 が同定されており、未変化体と M9 の薬物動態の解析結果が報告されていますが、M9 の定量はできないか。

A2:質問の M9 の測定方法は、[

14

C]を使用した方法です。私たちは LC-MS/MS で測定して いますが、M9 の標準品が入手できないため、今のところ M9 は測定できません。

Q3:未変化体と M9 の薬物動態パラメータは異なることが報告されている。未変化体と M9 の定量が可能な場合、その量比から薬物摂取時間や死亡時間が推定できないか。

A3:現時点で、M9 の測定ができません。しかし、もし M9 が測定できると、未変化体と M9 の比から、薬物摂取後の時間は推定可能になるかもしれません。

Q4:死後の薬物濃度の解釈について、”postmortem artifacts” 、 ”postmortem

redistribution” 、 ”pharmacogenomics and other factors”の各具体例もしくは各 機序について説明して下さい。

A4:検査試料の分解、汚染、不適切な保管によって postmortem artifacts は起こりま す。また、postmortem redistribution によって臓器の濃度が変化することも考えら れます。個人によって薬物代謝酵素の活性が異なることが pharmacogenomics として 知られています。遺伝的な違いが、死後も薬物濃度に関係しているかも知れませ ん。その他の因子としては、分析者のミスや装置の不具合が考えられます。

Q5:死後のスボレキサントの体内分布と死因の関係、また年齢との関係について、考察 して下さい。

A5:死因や年齢は、スボレキサントの代謝・排泄に、直接的に影響を与えるものとは考

えられません。薬物代謝・排泄に関係する肝臓や腎臓に障害があれば、体内分布に

影響があるかも知れません。

(6)

Q6:スボレキサントの作用を考えると、脳内の濃度が重要と考えるが、何故、測定しな かったのですか。

A6:法医学教室のシステムとして、脳はそのまま病理検査のためにホルマリン固定して います。従って、薬物検査の試料として脳は採取していません。現在、髄液は採取 するようにしています。

Q7:タンパク質への効果、バイオアベイラビリティの評価に、脳中濃度が最も重要では ないかと思う。タンパク質・タンパク質相互作用、薬物・薬物相互作用はどうです か。

A7:バイオアベイラビリティは 82%で、高いタンパク質結合があります。脳は、病理検査 に影響がない部分を、今後採取することを検討しています。

Q8:剖検試料のうち、スボレキサントの定量検査に最も適した組織は脂肪組織ですか。

A8:薬物の代謝に関わっていることから、最適な臓器は肝臓です。血中濃度に対する肝 臓中の濃度を求めることも良いかと思います。血液や尿が採取できない場合は、脂 肪も重要な分析対象の臓器となります。

不眠症治療薬スボレキサントは、近い将来、日本で普及するものと考えられる薬物で

あり、犯罪や乱用に使用される可能性がある。本論文は、法医剖検試料からのスボレキ

サントの分析法の確立とその体内分布を明らかにしたものであり、学位論文に値すると

評価された。

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